特許第5661848号(P5661848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661848
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】ウエスタンブロット免疫検出法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20150108BHJP
【FI】
   G01N33/543 525W
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-87580(P2013-87580)
(22)【出願日】2013年4月18日
(62)【分割の表示】特願2009-188054(P2009-188054)の分割
【原出願日】2009年8月14日
(65)【公開番号】特開2013-140183(P2013-140183A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2013年4月18日
(31)【優先権主張番号】61/189302
(32)【優先日】2008年8月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504115013
【氏名又は名称】イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アントニ・ピータース
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ゴダード
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・チャーコウディアン
(72)【発明者】
【氏名】ネイル・ソイス
(72)【発明者】
【氏名】デイブ・ブリュースター
(72)【発明者】
【氏名】アンニャ・デデオ
【審査官】 加々美 一恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表平07−502559(JP,A)
【文献】 米国特許第05336596(US,A)
【文献】 国際公開第93/013405(WO,A1)
【文献】 特開2005−010104(JP,A)
【文献】 特表2004−532724(JP,A)
【文献】 国際公開第02/087734(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0077435(US,A1)
【文献】 特開昭63−190602(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00229019(EP,A1)
【文献】 米国特許第04695592(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質試料から目的タンパク質を電気泳動により分離し、
分離された目的タンパク質を、アクリルアミドとメチレンビスアクリルアミドとの架橋した重合体で変性した親水性被覆を表面に有する変性多孔質重合体基体上に移し、
抗体の前記基体の表面への非特定的結合をブロックし、
前記基体を目的タンパク質へ結合できるプライマリ抗体とともにインキュベートし、
前記基体を前記プライマリ抗体の酵素と複合できるラベルされたセカンダリ抗体とともにインキュベートして測定可能な信号を取得し、次いで
前記信号を検出することよりなる、
タンパク質中の目的タンパク質を検出するためのウエスタンブロット免疫検出法。
【請求項2】
前記測定可能な信号は目視、化学蛍光、または蛍光により検出される請求項1に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
【請求項3】
前記変性表面を有する多孔質重合体基体はIgG結合試験で250−325μg/cm2のタンパク質結合容量を有する請求項1に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
【請求項4】
前記多孔質重合体基体の平均全有機炭素の量は1.5μg/cm2未満であり、抽出可能な単量体の量はHPLC法で測定してアクリルアミドに対して0.02μg/cm2未満、メチレンビスアクリルアミドに対して0.15μg/cm2未満である、請求項1に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
【請求項5】
前記多孔質重合体基体は背景蛍光を有し、前記重合体被覆で変性した前記基体は、同一の測定条件下で前記背景蛍光の約2倍の背景蛍光を有する請求項1に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
【請求項6】
前記基体はフッ化ポリビニルを含む請求項1に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
【請求項7】
メチレンビスアクリルアミドに対するアクリルアミドの質量比は1:1である請求項1に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
【請求項8】
前記表面を被覆に使用されるアクリルアミドとメチレンビスアクリルアミドの全単量体の濃度は0.5−1.5質量%である請求項1に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブロット用膜を用いたウエスタンブロット免疫検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
「ブロット法」や「電気ブロット法」は生物学的試料を電界の影響下にゲルから膜(membrane)に移行させる方法である。この方法はバイオ分子試料を固定でき次いで検出にかけることができる膜を必要とする。これは膜に対して表面積、有孔率、タンパク質結合性等に関する特定の必要条件を課す。
ウエスタンブロット法はこの方法の改良の一種であり、モノクローナルまたはポリクローナル抗体を使用して検出を行う前にタンパク質を膜へ固定する工程を含む。膜にタンパク質を固定する前に、自然のまたは変成したタンパク質を分離するために、試料タンパク質は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を用いて分離される。タンパク質は次に膜上に移行され、または電気ブロットにかけられ、そこでプローブ付けされ、最終的に標的タンパク質に特異的な抗体を使用して検出が行われる。ウエスタンブロット用膜は代表的にはニトロセルローズ(NC)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)より製作される。抗体−抗原相互作用の特異性により複合タンパク質混合物から単一のタンパク質を検出できる。
【0003】
まとめるに、ウエスタンブロット法は、タンパク質試料(溶解液)をポリアクリルアミドゲル上へ塗布し、次いで電気泳動により複合タンパク質混合物を分離し、分離したタンパク質を第2のマトリックス(一般にはニトロセルローズ(NC)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜)上へ移行または「電気ブロット」する方法である。この移行に続いて、膜は抗体の膜表面への非特異性結合を防ぐために「ブロック」される。多くの抗体標識法またはタグ付け法が知られている。最も単純な方法では、移行されたタンパク質はプローブとして役立つプライマリー酵素標識抗体とともにインキュベートされ、または複合体化される。非特異性結合部位をブロックしたのち、適当な基質がこの酵素との複合体に添加され、そして、これらは一緒に反応させることで発色性、化学発光性、または蛍光性の検出可能な生成物となり、それぞれ視覚、化学発光または蛍光現象による検出を可能にする。最も感度の高い検出方法は化学発光または蛍光現象を利用する。化学発光による検出では、酵素−基質複合体は検出可能な光放射(化学発光)を生じる。これらの放射は、たとえばフィルムや光学装置などを使用して記録され、測定される。信号の有無は溶解物中に特異的タンパク質が存在、不存在を示し、信号の強度は目的タンパク質の存在量を示し、場合により定量できる。
【0004】
ニトロセルローズ膜は免疫検出法、特にウエスタンブロット法において広く使用されている。これは歴史的な考慮や、部分的には使用しやすさによる。ニトロセルローズブロット用膜は疎水性膜での作業の要件として有機溶液による事前の湿しが不要である。疎水性膜は、アルコールによる保護湿し工程、それに続く水交換工程(アルコールの除去のため)をおこなって初めてブロット移行組み立て体に組み込まれる。本来的に疎水性の膜はこの組み立て体に対しては時間枠が限定されており、膜の乾燥の可能性が重大である。いったん乾燥すると、予備湿しを繰り返さない限り膜は再湿しができない。膜が一旦ゲルに接触されると、移行前の除去はゲルとそれに含有されている分離されたタンパク質試料を大きく損なう。予備湿し工程は時間がかかり作業の流れをかなり大きく害する恐れがある。親水性膜は長時間湿し状態に保たれ、組み込み前に乾燥したとしても簡単に再湿しができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニトロセルローズブロット用膜(NC膜)は水で湿潤でき、ほとんどのブロット法に満足に使用できるが、PVDF膜ほどには機械的または化学的に安定でない。PVDF膜は長い時間にわたって機械的に安定であるが、NC膜はもろくなり退色する。PVDF膜は抗体を剥ぎ落して再プローブできるが、NC膜ではこれはできない。NC膜は空気酸化しやすく、場合により危険になる。ニトロセルローズ膜は別個の廃路を必要とし、処分の際には湿し剤(通常は水)で濡らす必要がある。
疎水性のPVDFブロット用膜はNCブロット用膜と同等の蛋白質結合容量を有するが、よりすぐれたブロット性能を有する。PVDFブロット用膜はNCブロット用膜に比して、同じ条件下に遙かに低い試料濃度を検出できる。低い背景蛍光を有する疎水性PVDFブロット膜は、同一の向上した試料検出を示し、また蛍光検出法を可能にする。
従って、ウエスタンブロット法のような免疫検出分析に対して、より低い試料濃度検出限界を有し、しかも疎水性PVDF膜の特徴である低背景蛍光を有する親水性PVDF膜を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
特に、生物系物質に接触されることが意図された表面に関して、基材(基質)の表面エネルギーを変える目的で表面変性がおこなわれる分野の技術者は、親水性表面を変性すると低いタンパク質結合特性を示すことを認めるであろう。本発明は、ある種の単量体アクリルアミド混合物から誘導され、フリーラジカル重合反応により製造された重合体が、親水性であるだけでなく、高い水準のタンパク質結合性を示すという、偶然の予想もしなかった発見に基づいている。
【0007】
従来技術文献の多くは、親水性でタンパク質結合に対して高い抵抗性を有する変性した膜表面を提供するために、ヒドロキシ基含有単量体、通常はカルボニルエステル含有アクリル重合体を使用することを記載している。しかしながら、こうした単量体由来の重合体は、強アルカリ溶液に対して耐性でないことが知られている。例えば、1.0規定の水酸化ナトリウム溶液は、カルボニル含有アクリレート重合体をアクリル酸含有重合体に加水分解するであろう。かかるアクリル酸含有重合体は、あるpH条件下でイオン的に帯電され、逆に帯電したタンパク質又はバイオ分子を吸引して結合し、そうして、吸着及び膜の付着物を増大させるであろう。加えて、アクリル酸含有重合体は、水中で、細孔通路を縮小する程に膨潤し、膜の透過性及び生産性を低下させる。その上、ヒドロキシル含有モノマー由来のポリマー例えば、ヒドロキシアクリレートは、強アルカリ溶液中で更に反応して、可溶性の低分子量の断片に分解し、溶解してしまい、その下にある基材の多孔性媒体又は膜を露出する。
【0008】
薬学やバイオテクノロジー工業の分野で、ろ過用及び非ろ過用に最適の膜を開発している技術者は、重要な問題を解決しなければならない。厳しいコスト、性能および安全性の諸要件に直面して、当業者は、最適化した流れや保持特性を有するにとどまらず、清浄性の基準を満足し、通常経験する各種の化学的環境に対して安定であり、意図した最終用途に依存して、バイオ分子吸着に対して非常に大きい抵抗性を有するか、または非常に強い吸着性を有する膜の製造方法を開発しなければならない。したがって、本発明では、熱に安定な、親水性でバイオ分子吸着性表面を有し、試薬溶液に対して劣化が生じず、そこから抽出される可能性のある物質が非常に低レベルである吸着表面を生成するような膜変性を製造することが非常に望ましい。
【0009】
混合アクリルアミド重合表面の変性に対する初期の研究で、親水性のビス−アクリルアミド交差結合用単量体と単官能性の中性又は荷電したアクリルアミドが、紫外線または電子ビームで開始される遊離ラジカル反応技術を用いて重合されるとき、高いタンパク質結合性の親水性表面変性を生じることが分かった。しかし、各単量体の初期開始レベルは、満足なドットブロット形態とブロッティング移行性能を観測する前にひどく減少せざるを得ない。
これらの従来の問題は、ブロット法好ましくはウエスタンブロット法に特に適した親水性膜を提供する本発明により解決された。具体的に言うと、PVDFより製造された予備湿しした疎水性膜基材は、単量体溶液と接触され、次いで重合条件下に重合され、表面が恒久的に親水性化される。
【0010】
得られる膜は、低い背景蛍光と、高いタンパク質結合性と、タンパク質試料のスポット形態の優れた保持性と、拡大されたダイナミックレンジ(高いS/N、高い試料検出能力)を示す。化学蛍光が検出に使用される場合には、変性しない親膜に固有の背景蛍光のレベルは重要ではない。この膜はウエスタンブロット法の用途において、とくに低試料濃度における検出に対して、ニトロセルロースブロット用膜と同等以上の性能を示し、また直接的に水ぬれ性があり、使用前のアルコールによる予備湿し工程を不要とする。この膜は、水に接触すると、完全で、即時的で、一様な濡れを示し、また飽和した塩化アルミニウム水溶液と接触させたとき遅延した濡れを示す。すなわち、この膜は飽和した塩化アルミニウム水溶液の表面に置かれた時、最小で1秒以上の時間で濡れる。
【0011】
本発明は特に、変性された親水性被覆を表面に有する変性多孔質重合体基体を利用した下記のウエスタンブロット免疫検出法を提供する。
1)タンパク質試料から目的タンパク質を電気泳動により分離し、
分離された目的タンパク質を、アクリルアミドとメチレンビスアクリルアミドとの架橋した重合体で変性した親水性被覆を表面に有する変性多孔質重合体基体上に移し、
抗体の前記基体の表面への非特定的結合をブロックし、
前記基体を目的タンパク質へ結合できるプライマリ抗体とともにインキュベートし、
前記基体を前記プライマリ抗体の酵素と複合できるラベルされたセカンダリ抗体とともにインキュベートして測定可能な信号を取得し、次いで
前記信号を検出することよりなる、
タンパク質中の目的タンパク質を検出するためのウエスタンブロット免疫検出法。
2)前記測定可能な信号は目視、化学蛍光、または蛍光により検出される1)に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
3)前記変性表面を有する多孔質重合体基体はIgG結合試験で250−325μg/cm2のタンパク質結合容量を有する1)に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
4)前記多孔質重合体基体の平均全有機炭素の量は1.5μg/cm2未満であり、抽出可能な単量体の量はHPLC法で測定してアクリルアミドに対して0.02μg/cm2未満、メチレンビスアクリルアミドに対して0.15μg/cm2未満である、1)に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
5)前記多孔質重合体基体は背景蛍光を有し、前記重合体被覆で変性した前記基体は、同一の測定条件下で前記背景蛍光の約2倍の背景蛍光を有する1)に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
6)前記基体はフッ化ポリビニルを含む1)に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
7)メチレンビスアクリルアミドに対するアクリルアミドの質量比は1:1である1)に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
8)前記表面を被覆に使用されるアクリルアミドとメチレンビスアクリルアミドの全単量体の濃度は0.5−1.5質量%である1)に記載のウエスタンブロット免疫検出法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の1つの実施例による処理した膜を使用したウエスタンブロットの結果を示す図である。
図2】本発明の他の実施例による処理した膜を使用したウエスタンブロットの結果を示す図である。
図3】本発明のさらに他の実施例による処理した膜を使用したウエスタンブロットの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施例に従って親水性に変性された膜は、特に試料検出能力のダイナミックレンジの下端を拡張する点で、ニトロセルロース膜と同等以上のすぐれたブロッティング性能を提供する。たとえば、典型的な開発試行から得たウエスタンブロット法の結果を示す図1は、本発明の親水性PVDFブロット膜と、対照膜(FL:疎水性PVDFブロット膜、NC:Whatman/S&S BA-85膜)の性能の差を示している。
図1の各水平方向の行には5つの別々のウエスタンブロット移行を含み、そのうち3つのブロットは、本発明の開発試料の親水性PVDF試料について、また他の各1つは各対照膜についてのものである。
別々のウエスタンブロット一回の電気泳動と移行実験(各実験において5ゲル次いで5ブロット)の結果を示す。設計により、各実験は電気泳動と移行を行う前に、各ゲル/ブロットに対して同一の条件と同一量のタンパク質試料とを用いた(各ゲルを横切って4レーン)。結果は複合試料混合物(溶解液)からの2種のタンパク質(HSP70と、GAPDH)の検出に対して記録された(化学発光)移行ブロットであり、それぞれ5μg、2.5μg、1.25μg、0.67μgに対応して、各ゲル上を左から右に減少する試料濃度を有するものである。
【0014】
適当な多孔質膜には、芳香族スルホン重合体、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロ化熱可塑性重合体、ポリオレフィン重合体、超高分子量ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、およびポリフッ化ビニリデンなどから形成でき、特にポリフッ化ビニリデンが好ましい。多孔質膜には微細孔膜および超ろ過膜がある。形態は好ましくはシート状である。
一般に平均孔径は0.001〜10μmのものを含む。ブロット用膜は公称0.45μmの平均孔径を有する。好ましい出発原料膜は68〜73%の有孔率(空孔容積)を有する。ブロット膜は伝統的に対称形態を有する。しかし、被覆は非対称膜に被覆されてもよい。
【0015】
重合体被覆としては、少なくとも一種の親水性官能基で変性された少なくとも一種の多官能性単量体(多官能性アクリルアミド、多官能性メタクリルアミド、ジアクロイルピペラジンからなる群から選択される多官能性単量体)、及び少なくとも一種の親水性官能基で変性された少なくとも一種の単官能性単量体(単官能性アクリルアミド、単官能性メタクリルアミド、およびアクロイルピペラジンからなる群から選択される単官能性単量体)から形成された共重合体又は3元共重合体が使用できる。
【0016】
架橋したアクリルアミド−メチレンビスアクリルアミドで被覆したポリフッ化ビニリデン多孔質の疎水性膜は高度に親水性であることが分かった。さらに、本発明の初期の反復実験において多孔質PVDF試料に塗布した共重合体を用いたIgG結合試験の結果は、タンパク質結合容量が約400μg/cm2であることが分かった。このレベルは元の疎水性PVDF膜や通常のニトロセルロース膜に典型的な値である。第一の予期しない結果は、このように調製された膜が親水性であるとともに高度にタンパク質結合性であったことである。しかしながら、これら初期の試料(上記高度にタンパク質結合性を有するもの)のウエスタンブロット性能は小試料のブロット寸法(ブロット形態)を維持する面で、及びブロット移行における試料捕捉の面で満足のいくものではなかった。共重合体の被覆量を変えることで、満足なブロット性能が達成できた。これらの修正レベルでは、タンパク質結合量は約250−325μg/cm2に落ちたが、ウエスタンブロット性能はニトロセルロース膜と元の疎水性PVDF膜の中間レベルの性能まで上昇した。意外なことに、タンパク質結合量は最良ではなく、ウエスタンブロット用膜の性能を予測させる程度のものであった。基材への被覆量を修正することによりある程度タンパク質結合能力を犠牲にすることで、向上したブロット性能が得ることができる。
【0017】
したがって、改良組成の構成成分の量と相対濃度は、問題のない免疫検定(アッセイ)性能を得るために重要である。高度の特異的な成分比における全体的に低い固形物濃度は、ブロット性能に対して水濡れ性能をバランスさせる。
基材膜の非常に低い背景蛍光レベルは保持される。しかし、もしも化学的な表面変性のレベルが低すぎると、許容できる程度に水濡れできない膜となる。もしも化学的な表面変性のレベルが高すぎると、得られる膜は極端に高い表面エネルギーを有する。前に述べたように、高レベルの化学的な表面変性では、測定されるタンパク質結合性能はほぼニトロセルロース及び疎水性PVDF膜とほぼ同等であるが、低い電気ブロット性能しか示さない。
【0018】
本発明のいくつかの実施例によると。変性用反応体溶液中の全固形分の量は約0.90〜1.10%(重量比)に調製される。特定の成分比においてかかる範囲の全固形分濃度は最適のブロット性能を生じる。この組成物にはUV光開始剤成分を含有する。
【実施例】
【0019】
反応体溶液中のアクリルアミド単官能性単量体とビスアクリルアミド架橋性単量体の適正量は、0.20〜2.00重量%(各)、好ましくは0.30〜0.60重量%(各)、最も好ましくは0.40〜0.50重量%(各)である。単量体反応体溶液の好ましいアクリルアミドとビスアクリルアミドの比は1:1(質量比)である。単量体反応体溶液のアクリルアミド単官能性単量体とビスアクリルアミド架橋性単量体の好ましい全体濃度は0.5〜1.5%(質量)である。適当なUV光開始剤の量は0.01〜0.20重量%、好ましくは0.05〜0.15重量%、最も好ましくは0.09〜0.11重量%である。
適当なUV光開始剤にはIrgacure500、754、2959及び819DW(商品名。IrgacureはBASF社の商標)がある。ある実施例による変性した多孔質膜基材の調製方法では、多孔質膜基材を準備し、その表面をアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド及び適当なUV光開始剤を含有する溶液に接触させ、溶液から膜を取り出し、そしてそれを適当な波長と強度を有する放射線に適正な時間曝してその場において被覆を重合させる。好ましくは、反応溶液に接触される多孔膜は紫外線光源により照射される。多孔膜に有害な作用をする波長を除去するためにフィルターを使用することができる。紫外線の強度と照射時間は当業界には容易に知ることができる。
【0020】
本発明の好ましい実施例において、反応体溶液の研究室規模の調製は、1.00gのアクリルアミド(H2C=CH-C(O)-NH2)単官能性単量体、0.80gのメチレンビスアクリルアミド(H2C(-NH-C(O)CH=CH2)2)架橋性単量体、及び0.20gのIrgacure2959光開始剤を、198.00gのMilli−Q(登録商標)水に溶解することにより行った。架橋剤と光開始剤を完全に溶解するには約2時間の初期混合時間を要した。
【0021】
より具体的には、多孔質で疎水性の原料膜を多孔質膜を膨潤させたり溶解させたりしないが、多孔質膜の全表面を予備湿潤できる有機液体またはその水溶液に浸漬する。
【0022】
この液体は低分子量アルコール、または水と混和性の有機液体でありうる。適当な液体または組成物にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、それらと水の混合物、アセトンと水の混合物、テトラヒドロフランと水の混合物、などの十分に低表面張力を有し、膜全体の濡れを可能にする液体である。
【0023】
この予備湿し工程は膜表面全体が水に濡れ、次いで水性反応体単量体溶液により濡れることを保証する。この予備湿し工程には、有機溶媒が残存しないように水で強烈に交換する工程が続かなければならない。これらの予備湿し溶媒またはそれらの水との混合物は反応体単量体の意図した重合に負の影響を及ぼしうる。
【0024】
続いて、水で濡れた多孔質膜の反応体溶液への浸漬および温和な撹拌は、反応体溶液による多孔質膜の全表面の濡れを可能にする。反応体溶液への浸漬前に過剰の水が除去される限り、反応体溶液の希釈は実質的に起きないであろう。
【0025】
試料は短時間(2分)後に引き出され、過剰の反応体溶液は膜試料から除去される。反応体溶液で濡れた膜は嫌気性条件下にUV放射線に露出されて多孔質膜の全体表面に直接重合される。得られた被覆済の膜は、水表面に接触したとき、即時の、完全な、非常に一様な濡れを示し、高いウエスタンブロット性能を有し、放射線ラベルアッセイにより高レベルのタンパク質結合を示し(250μg/cm2IgG以上)、低い背景蛍光を有する(TECAN GENios FL蛍光リーダ(スイス、チューリッヒ所在のTECANGroupLtdの商品名)をMagellan5.0ソフトウエアパッケージ(TECANGroupLtdの商品名。Magellanは同社の商標)で使用し、検出器利得86において、485nmの励起波長/535nmの放出波長で、約2000rfu(相対蛍光単位)である)。この背景蛍光は、同じ測定条件下で、処理しない(変性しない)元の疎水性膜の背景蛍光の約2倍である。飽和した塩化アルミニウム水溶液の表面に置かれるとき、この膜は1秒以上の最小時間で湿潤し、そして60秒を超える最大時間で湿潤する。
【0026】
実施例1
Millipore Corporationから市販されている疎水性PVDF膜(IPFL00000)をメタノール中に浸漬した。膜を引き出してそれを水に浸漬し撹拌することにより1分間でメタノールを抽出した。膜を引き出して新鮮な水に追加の2分間浸漬し、次いで新鮮な水に浸漬した。過剰の水は膜から流去させてから、膜を反応性単量体溶液に浸漬し温和に2分間撹拌した。次いで膜を15〜25フィート/分の送り速度で両面からUV放射線で照射して紫外線硬化をおこなった。膜を回収し、水浴に浸して未反応単量体と付着性のないオリゴマー及び重合体を除去した。試料を回収し、空気中または室温環境で一晩乾燥するか、または静的な強制空気オーブンで60〜80℃、10分で乾燥するか、またはインピンジメント乾燥機において90〜110℃、送り速度15〜25フィート/分で乾燥した。平均の膜の抽出可能物はTOC(全有機炭素)により測定した。表1に示したように、平均が約1.44μg/cm2であることが決定された。
【0027】
【表1】
【0028】
平均の抽出可能な残留単量体の量はHPLC(高速液体クロマトグラフィ)により決定した。3つの試料から決定した値は表2に示されている。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例2
実施例1の方法を使用して表3A−3D、4A−4D及び5A−5Dに示した明細、処理条件及び反応体溶液を有するPVDF膜を処理した。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】
【表9】
【0038】
【表10】
【0039】
【表11】
【0040】
【表12】
【0041】
【表13】
【0042】
【表14】
【0043】
実施例3
ウエスタンブロット法及び化学発光検出に使用された手順は次のとおりである。
・ビス:トリス(4〜12%)ミディグラジエントゲル(Invitrogen,WG1402BOX(商品名))を使用して、タンパク質試料を電気泳動により分離する。
・BioRadタンク移行装置(Criterion Blotter #165-6024(商品名))を使用し、45Vで1時間15分間かけて、試料を実施例1で製作した親水性膜上に電気ブロットする。
・得られたブロットをTBS−T(0.1% Tween)中で2回(各3分)洗浄する。
・ブロットをTBS−T(0.1% Tween)中RTで1時間3%NFM(脱脂ミルク,Carnation)でブロックする。
・ブロットをTBS−T(0.1% Tween)中で2回(各3分)洗浄する。
・ブロットをプライマリ抗体と共にTBS−T中で1時間インキュベートする。
・ブロットをTBS−T(0.1% Tween)中で3回(各5分)洗浄する。
・ブロットをセカンダリ抗体と共にTBS−T中で1時間インキュベートする。
・ブロットをTBS−T(0.1% Tween)中で4回(各5分)洗浄する。
・タンパク質のバンドをECL(Millipore Immobilon-HRP(商品名))とX線フィルムにより映像化する。
【0044】
この手順を実施例2で調製された試料に適用した。得られた結果は図1、2及び3に示す。
【0045】
代表的な開発研究から得たウエスタンブロット法による結果は、本発明の親水性PVDFブロット用膜と、対照(FL:疎水性PVDF膜、NC: Whatman/S&S BA-85膜)との間に性能の差異があることを示している。図の各水平な行には5種のウエスタン移行ブロットが示され、そのうち3つのブロットは本発明の親水性PVDF膜の試料であり、後の各1つは対照膜のブロットを示す。5つのブロットよりなる各行は、一回の電気泳動と移行実験からのものである(各実験において5つのゲルを使用した)。設計上、各実験は、電気泳動と移行の前に、同一量のタンパク質試料を用い、かつ同一条件を使用した(各ゲルを横切って4本のレーンで適用)。示された結果は、左から右へ順に5μg、2.5μg、1.25μg、及び0.67μgと減少する試料の固形分(濃度)で適用された複合試料混合物(溶解液)からの2タンパク質(HSP70とGAPDH)の検出に対する移行ブロットである。
【0046】
図の各行(一回の電気泳動および電気ブロット実験の結果を示す)おいて、本発明の3種の親水性ブロット用膜が2種の対照ブロット用膜に対比されている。対照膜はニトロセルロースブロット用膜(NC)と疎水性PVDFブロット用膜(FL)である。各一回の実験の場合、FL膜は検体タンパク質溶液の4濃度(titer)に対して最高の信号強度を示し、NC膜は最小の信号強度を示している。信号強度をNC膜と本発明の親水性PVDFを比較すると、最高濃度の検体試料(各ブロットの左側のもの)ではNC膜と本発明の親水性PVDFは類似した信号強度を示している。しかし、試料濃度が減じるほど(左から右へ)、NC膜に対する信号強度は急減している。これは、親水性PVDFブロット用膜がNC膜よりも低濃度において試料の検出を可能にすることを示している。
図1
図2
図3