特許第5661896号(P5661896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5661896氷・水スラリーの供給方法及び氷蓄熱装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661896
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】氷・水スラリーの供給方法及び氷蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 5/00 20060101AFI20150108BHJP
   F25C 5/18 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   F24F5/00 102M
   F25C5/18
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-223240(P2013-223240)
(22)【出願日】2013年10月28日
(62)【分割の表示】特願2008-137416(P2008-137416)の分割
【原出願日】2008年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-16155(P2014-16155A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2013年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100076130
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】松平 章宏
(72)【発明者】
【氏名】小松 則雄
(72)【発明者】
【氏名】本郷 大
(72)【発明者】
【氏名】三戸 大介
(72)【発明者】
【氏名】中川 清二
(72)【発明者】
【氏名】大塚 友雅
(72)【発明者】
【氏名】若佐 和夫
(72)【発明者】
【氏名】谷野 正幸
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−248168(JP,A)
【文献】 特開平07−055209(JP,A)
【文献】 特開平10−122606(JP,A)
【文献】 特開平05−288373(JP,A)
【文献】 特開2004−084963(JP,A)
【文献】 特開平09−280612(JP,A)
【文献】 特開2004−093000(JP,A)
【文献】 特開2004−361053(JP,A)
【文献】 特開平05−340562(JP,A)
【文献】 特開平10−122610(JP,A)
【文献】 特開平03−291480(JP,A)
【文献】 特開平09−318103(JP,A)
【文献】 特開平10−038347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過冷却器で製造される氷・水スラリーを、供給管を通じて氷蓄熱槽に供給する方法であって、
前記氷蓄熱槽内における供給管の供給口は氷蓄熱槽内の水面上に位置させて、当該供給口から氷・水スラリーを下方から上方に向けて吐出させるようにし、
さらに前記供給管には前記氷蓄熱槽から取水した水を導入して、供給口から吐出される氷・水スラリーの流量を増加させ、氷蓄熱槽内に堆積する氷層に浸透する浸透水の流量以上の流量の水を、前記氷・水スラリーに確保して吐出させることを特徴とする、氷・水スラリーの供給方法。
【請求項2】
前記氷蓄熱槽から取水した水を導入することによる氷・水スラリーの流量の増加は、
氷蓄熱槽内の氷の盛り上がり高さを監視し、当該氷の盛り上がり高さが所定高さ以上になった際に行なうことを特徴とする、請求項1に記載の氷・水スラリーの供給方法。
【請求項3】
請求項1に記載の氷・水スラリーの供給方法を実施するための氷蓄熱装置であって、
前記供給管は氷蓄熱槽内へと配管され、
前記供給管の供給口は、氷蓄熱槽内の水面上に位置してかつ上方に向けられており、
前記氷蓄熱槽から取水した水を、前記供給管内に導入するための取水管とポンプを有することを特徴とする、氷蓄熱装置。
【請求項4】
請求項2に記載の氷・水スラリーの供給方法を実施するための氷蓄熱装置であって、
前記供給管は氷蓄熱槽内へと配管され、
前記供給管の供給口は、氷蓄熱槽内の水面上に位置してかつ上方に向けられており、
前記氷蓄熱槽から取水した水を、前記供給管内に導入するための取水管とポンプと、
氷蓄熱槽内の氷の盛り上がり高さを測定する測定装置と、
前記測定装置からの測定結果に基づいて前記ポンプの発停を制御する制御装置を有することを特徴とする、氷蓄熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば食品工場等でのいわゆるシャーベット状の氷を蓄えるいわゆるダイナミック型氷蓄熱システムにおいて、氷蓄熱槽内に均一に蓄氷して、多量の氷を貯蔵するための、氷・水スラリーの供給方法および当該供給方法を実施するための氷蓄熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品工場や乳製品関連工場等では、いわゆるチルド冷水と呼ばれるたとえば0℃〜1.5℃の低温の冷水を使用しているが、このような低温の冷水を製造、供給するためのいわゆるアイスバンクシステムとして、解氷特性の良いダイナミック型氷蓄熱システムの中でも、水の過冷却現象を利用したものは、食品工場等での、チルド冷水を製造・供給するためのアイスバンクシステムとして有望である。このアイスバンクシステムでは、0℃〜1.5℃のいわゆるチルド冷水の温度を維持するために、残氷量(最小蓄氷量)を設定した運転が必要になる。したがって、とくに氷蓄熱槽をコンパクトにするために、氷蓄熱槽内に均一に蓄氷して、多量の氷を高密度に貯蔵することが求められる。
【0003】
水の過冷却現象を利用した氷蓄熱システムにおいて、単一槽において過冷却水からの相変化を完了させて製造された氷・水スラリーによる、均一な蓄氷に資する先行公知技術としては、氷蓄熱装置での水中ポンプ等による水域攪拌によって蓄氷分布の均一化を図るもの(特許文献1)、氷蓄熱装置での水噴射による堆積氷の崩壊によって蓄氷状態を分散化するもの(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−288373号公報
【特許文献2】特開平6−129676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した従来技術は、いずれも対処的なものであり、蓄氷のメカニズムをも考慮したものではなく、そのため特に槽内の広がり方向に均一に蓄氷することができず、高密度で多量の氷を確実に貯蔵する事が難しかった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、ダイナミック型のアイスバンクシステムにおける氷蓄熱槽内において、特に広がり方向に均一に蓄氷にするようにして、多量の氷を高密度に貯蔵することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、過冷却器で製造される氷・水スラリーを、供給管を通じて氷蓄熱槽に供給する方法であって、前記氷蓄熱槽内における供給管の供給口は氷蓄熱槽内の水面上に位置させて、当該供給口から氷・水スラリーを下方から上方に向けて吐出させるようにし、さらに前記供給管には前記氷蓄熱槽から取水した水を導入して、供給口から吐出される氷・水スラリーの流量を増加させ、氷蓄熱槽内に堆積する氷層に浸透する浸透水の流量以上の流量の水を、前記氷・水スラリーに確保して吐出させることを特徴としている。
【0008】
発明者らの知見によれば、氷蓄熱槽内の氷層(シャーベット状の氷の層)の上面に供給された、流動性に富む氷・水スラリーは、多孔質体と見なせる氷層に、氷・水スラリー中の水が浸透しながら氷層上面を流れ、氷・水スラリー中の氷の割合が高まって、その流動性がなくなった時点で堆積して氷層となる(なお実際には、氷層上面に流れる氷・水スラリー中の水が氷層に浸透する際にも若干の氷は堆積するが、氷・水スラリーが流動性を無くした時点で殆どの氷が堆積することを実験観察によって確認している)。したがって、氷層へ浸透する水の圧力(浸透ポテンシャル)を極力少なくして、水平方向に広がる方向へと分散させることで、槽内の広がり方向に均一に蓄氷することが可能になる。
【0009】
また氷蓄熱槽の水面上近傍にて氷・水スラリーを供給して蓄氷する方法と、氷蓄熱槽の上方から下方に氷・水スラリーを供給して蓄氷する方法とを比較すれば、発明者らが調べたところによれば、後者の方法では氷層が水平方向に広がり難く、氷層が盛り上って不均一な蓄氷状態になっていることがわかった。
【0010】
一方氷蓄熱槽の水面近傍において氷・水スラリーを供給する場合、氷・水スラリーを上向きに供給することが、供給流速に相当する浸透ポテンシャルをなくすことになり好ましい。しかしながら氷蓄熱槽の水面近傍に氷・水スラリーを上向きに供給した場合、氷蓄熱槽で堆積する氷層(盛り上る氷層)は、水面近傍に設置される氷・水スラリーの供給口からの氷・水スラリーの吹き出し抵抗を増大させる。その結果、氷蓄熱槽に供給される供給管の圧力が上昇して、過冷却水を製造する熱交換器にプレート型熱交換器を使用した場合、プレート間差圧が少なくなり、過冷却水の安定製造が阻害される可能性がある。また水面下に供給口を設定すると、時間の経過に伴って供給口が氷で閉塞されるおそれもある。
【0011】
そこで、氷・水スラリーの吹き出し抵抗を増大させないように、氷・水スラリーの供給口は水面よりも上方に設置することが望ましい。
【0012】
一方発明者らの知見では、広範囲に氷・水スラリーが流れて広がり、均一に蓄氷できるか否かは、浸透水の流量によって定まる。また浸透水の流量は、氷蓄熱槽に堆積する氷層(盛り上る氷層)で定まる。すなわち、氷蓄熱槽の水平断面に対して、浸透水の流量以上の流量の水を確保した氷・水スラリーを供給することが、均一に蓄氷できるかどうかにとって重要である。
【0013】
システム設計の上では、予定した設計IPF(設計段階で氷蓄熱槽に貯蔵しよう定めた氷の蓄氷率)を高く設定するほど、また水深が深い氷蓄熱槽ほど、均一な蓄氷が可能になる。すなわち、氷蓄熱槽に供給する氷・水スラリーの流量を氷蓄熱槽の水平断面積で除した空塔速度が、均一蓄氷の判断基準になる。しかしながら、スラブ下などの空間を氷蓄熱槽に活用する場合など、槽形状は与条件である場合が考えられる。また、この判断基準である空塔速度の観点からは、単に、氷・水スラリーの供給口の数を増やしても、不均一な蓄氷は改善されない。
【0014】
そこで、本発明においては、前記供給管内の氷・水スラリーに対して、氷蓄熱槽から取水した水を加えて、供給口から吐出される氷・水スラリーの流量を増加させ、氷蓄熱槽内に堆積する氷層に浸透する浸透水の流量以上の流量の水を、前記氷・水スラリーに確保して吐出させるようにした。これによって水平方向に氷層が広がり、水平方向により均一な蓄氷状態を実現することができる。しかも、氷蓄熱槽から取水した低温の水を導入して流量を増加させているので、氷・水スラリー中の氷の量の減少を抑えることが可能である。
【0015】
本発明を実施する際、前記氷蓄熱槽から取水した水を導入することによる氷・水スラリーの流量の増加は、氷蓄熱槽内の氷の盛り上がり高さを監視し、当該氷の盛り上がり高さが所定高さ以上になった際に行なうようにしてもよい。
【0016】
盛り上がり高さの計測は、たとえば氷蓄熱槽の上部に設けた超音波高さ計,レーザー測距計、あるいは静電容量計測器によって、水面から盛り上がる氷の頂上部の高さを検出することでこれを行なうことができる。
【0017】
このような本発明の氷・水スラリーの供給方法を実施するための氷蓄熱装置として、たとえば過冷却器で製造される氷・水スラリーを、供給管を通じて氷蓄熱槽に供給する氷蓄熱装置において、前記供給管は氷蓄熱槽内へと配管され、前記供給管の供給口は、氷蓄熱槽内の水面上に位置してかつ上方に向けられており、前記氷蓄熱槽から取水した水を、前記供給管内に導入するための取水管とポンプを装備すればよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダイナミック型のアイスバンクシステムにける氷蓄熱槽内にある氷の蓄氷を、特に広がり方向において均一にすることができ、多量の氷を高密度に貯蔵することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態にかかる供給方法を実施するためのアイスバンクシステムの構成を示す説明図である。
図2図1のアイスバンクシステムにおける供給口付近の説明図である。
図3】下方から上方に向けて氷・水スラリーを供給したときの氷層と浸透水の様子を模式的に示した説明図である。
図4】上方から下方に向けて氷・水スラリーを供給したときの氷層と浸透水の様子を模式的に示した説明図である。
図5】氷層に供給される氷・水スラリーの流動と浸透水の関係を模式的に示した説明図である。
図6】氷蓄熱槽内の水を、槽外に配置されたポンプ、取水管で供給管に供給する例を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態にかかる氷・水スラリーの供給方法を実施するアイスバンクシステムの概要を示しており、氷蓄熱槽1内の下部には、パンチングメタル等によって構成された中空状の取水部2が設けられている。取水部2に連通している第1の取水管3を通じて、ポンプ4によって取水された槽内の水は、過冷却器11へと送られ、冷凍機12で生成されてポンプ14で供給される冷凍ブラインとの間で熱交換されて、0℃以下の過冷却水が製造される。本実施の形態における過冷却器11は、プレート型熱交換器を採用しているが、シェルアンドチューブ型の熱交換器を用いてもよい。
【0021】
過冷却器11で製造された過冷却水は、過冷却解除器13へと送られて過冷却状態が解除され、氷・水スラリーとなって、供給管5を通じて氷蓄熱槽1内へと供給され、槽内に蓄氷される。本実施の形態における供給管5は、槽の底部に沿って槽内に対して水平に配管され、槽内の中央にて垂直に立ち上がる構成を有し、その先端部開口部は、水面から所定高さ分高く位置する供給口5aとなる。したがって図2にも示したように、氷・水スラリーSは、供給管5の供給口5aから垂直に噴き上げられ、その周囲にシャーベット状の氷が堆積して氷層Pが形成されていく。
【0022】
取水部2に連通している第2の取水管21を通じて、ポンプ22a〜22cによって取水された槽内の冷水は、チルド冷水として送水管23を通じて冷却負荷24へと送られる。そして冷却負荷24からの昇温した還水は、還水管25を通じて氷蓄熱槽1内に供給される。還水管25の槽内での吹出口25aは、槽内水面下の100〜200mmに位置しており、たとえばジェットノズル構成として、還水を氷層Pに向けて側方から水平に噴流させて、氷層Pを融解して解氷する。
【0023】
送水管23には、チルド冷水の流量を測定する流量計26、チルド冷水の温度を測定する温度センサ27が設けられている。また還水管25にも還水の温度を測定する温度センサ28が設けられている。これらによって、冷却負荷24に供給する供給冷熱量の積算値を測定することができる。
【0024】
そして第2の取水管21と還水管25との間には、バイパス管29が配管され、このバイパス管29には、流量制御弁30が設けられている。
【0025】
氷蓄熱槽1内の上方には、氷蓄熱槽1内の氷層Pに向けて超音波を発信して、水面上の氷の盛り上がり高さを検出する超音波高さ計31が設けられている。この超音波高さ計31は、たとえば超音波を対象物に発信して、当該対象物からの反射波や透過波の強度、伝搬時間等を測定して、対象物までの距離を測定するものである。発信先、すなわち高さを測定する地点は、氷層(氷)が最も厚い箇所を設定し、供給管5の供給口5aの近くとすることが好ましい。具体的には、たとえば供給口5aから水平方向に約30cm程度離れたところが適当である。これは測定地点が供給口5aに近すぎて、上方向に吹き上がる氷・水スラリーSの流れの影響を受けないようするためである。
【0026】
なお、前記超音波高さ計31によって、氷層Pの盛り上がり高さを測定することで、氷蓄熱槽1内の氷層PのIPFを計測することができる。蓄氷量と氷の盛上り高さの関係について、発明者らがモデルケースを用いて実際に検証したところ、IPFが20%のときの氷の盛上り高さは260±25mm程度、IPFが30%のときは350±25mm程度、IPFが40%のときは460±25mm程度であったことがわかった。本実施の形態で製造された氷はスラリー状であり、図2のように、槽内の氷層P上面に供給された氷・水スラリーSは、氷層Pの低い部分に流れて堆積していく。したがって、槽内の残氷に関わらず、満蓄時の盛上り高さ、たとえばIPFが40%のときの盛上り高さは、毎回ほぼ同じ値になる。したがって超音波高さ計31を使用して、氷層Pの盛り上がり高さ、すなわち水面Lから最も盛り上がった部分までの高さを測定することで、氷蓄熱槽1内の氷層PのIPFを計測することもできる。
【0027】
なお超音波高さ計31に代えて、レーザー測距計、静電容量によって距離を測定する計測機器も使用することができる。
【0028】
氷蓄熱槽1内には、槽内の水を取水して供給管5に導入するための第3の取水管41が配管され、供給管5に接続されている。この第3の取水管41の取水部は、氷蓄熱槽1内の底部近傍に位置し、槽内に設置したポンプ42で槽内底部近傍の水を取水して、これを供給管5内に供給する構成になっている。より具体的に説明すれば、第3の取水管41は、供給管5の立ち上がり管に、供給口5aよりも立ち上がり曲がり部に近い位置で接続され、槽底部の冷水は、ポンプ41によって当該接続に係る合流部に押し込まれる。これにより、槽上部に吐出される氷水スラリーの流量は増加する。また当該氷水スラリー中の液相の比率は増加する。
【0029】
本実施の形態で採用しているアイスバンクシステムは、制御装置Cによって制御され、たとえばチルド冷水の流量を測定する流量計26、チルド冷水の温度を測定する温度センサ27、28の信号は制御装置Cへと出力され、冷却負荷24に供給する供給冷熱量の積算値が算出される。一方、超音波高さ計31による高さ信号も制御装置Cへと出力され、予め設定していた高さ−満蓄状態の関係によって、IPFfull(設計段階で氷蓄熱槽1に貯蔵しようと定めた氷の蓄氷率)が検出されるようになっている。そしてこれらの信号に基づいて、制御装置Cは、冷凍機12、ポンプ4、14等を制御して、蓄氷運転の発停の制御を行なう。
【0030】
また本実施の形態では、制御装置Cは、槽内に設置したポンプ42の発停の制御も行なうようになっている。すなわち超音波高さ計31によって測定された氷蓄熱槽内の氷の盛り上がり高さが、予め定めた所定高さ以上になった際に、ポンプ42を作動させ、所定高さよりも低くなった際には、ポンプ42の作動を停止させる制御を行なう。
【0031】
なお図1に示したシステム構成例は、主要部分を示しており、実際の現場で施工する場合には、たとえば冷却負荷24と氷蓄熱槽1との間の配管を直接行なわずに、間に放熱器として水−水熱交換器を介在させたり、あるいは製氷系についても、第1の取水管3に水−水熱交換器を介在させて、冷却負荷への循環系との間で熱交換して昇温した後の水を過冷却器11に送るようにしてもよい。
【0032】
次に以上の構成にかかるアイスバンクシステムにおける供給管5の供給口5aの高さ位置の設定について説明する。既述したが、氷蓄熱槽1内に氷・水スラリーを供給する場合、図3に示したように、(a)氷蓄熱槽の水面L近傍に下方から氷・水スラリーSを供給して蓄氷する方法と、図4に示したように、(b)氷蓄熱槽の上部から氷・水スラリーSを供給して蓄氷する方法とが考えられる。
そして既述のように(a)の方法の方が、水平方向に広がりやすく、その結果(b)の方法よりも氷層が盛り上らず、したがって水平方向に均一な蓄氷状態となりやすい。
【0033】
これをより詳述すると、(a)の方法において、氷層への浸透する水の圧力E(浸透ポテンシャル)は、図3のように氷層上面の位置とほぼ同じである。一方、(b)の方法においては、図4に示したように、図3のときの浸透ポテンシャルEに、氷・水スラリーSの流速uに相当するポテンシャルと、氷・水スラリー供給口Qと氷層上面の距離Kに相当するポテンシャルが加わる。たとえば、氷・水スラリーSの流速uが2m/sで、距離Kが0.3mとすると、(b)の方法のポテンシャルは(a)の方法よりも、(1/2×2)/9.8+0.3=0.5mAq大きいことになる。
【0034】
また、氷層上面の位置を0.5mとすると、(a)の方法の浸透ポテンシャルは0.5mAqであり、(b)の方法の浸透ポテンシャルは0.5mAq+0.5m=1.0mAqあるため、2倍のポテンシャルで水が氷層に浸透するので、氷が広がり難くなり、その結果(b)の方法では不均一な蓄氷状態になる。
【0035】
かかる点に鑑みて本実施の形態では、供給管5の供給口5aは下方から上に向けて氷・水スラリーSを供給する構成を採用している。その際、既述したように、氷蓄熱槽1内で堆積する氷層(盛り上る氷層)は、水面近傍に設置された供給口5aからの氷・水スラリーSの吹き出し抵抗を増大させ、過冷却水の安定製造が阻害される可能性があるので、供給口5aは水面Lよりも上方に設置されている。
【0036】
そして供給口5aの高さ位置については、まず所定の設計IPFfullから盛上り高さHiceを予め定める。ここでIPFfullとは、設計段階で氷蓄熱槽1に貯蔵しようと定めた氷の蓄氷率をいう。次に、図2に示したように、供給口5aでの氷・水スラリーSの流速から、その動圧分の水柱高さH求める。そして、IPFfull時の盛上り高さHiceから動圧分の水柱高さHを引いた値hを、供給口5aの高さ位置とする。これによって設計IPF近くの満蓄状態では氷・水スラリーSの動圧によって、図2に示したように、供給口5aよりも上方の氷層に流路Xが形成され、氷・水スラリーSの吹き出し抵抗は増大せず、かつ、浸透ポテンシャルを極力少なくすることができる。
【0037】
そして本実施の形態ではそのように浸透ポテンシャルを極力少なくしているので、水平方向に氷層が広がりやすく、その結果氷層が盛り上らず、水平方向に均一な蓄氷状態を実現することができる。
【0038】
ところで図5に示したように、槽内の氷層Pの上面に供給された、流動性に富む氷・水スラリーSは、多孔質体と見なせる氷層Pに氷・水スラリーS中の水が浸透しながら氷層Pの上面を流れ、氷・水スラリーS中の氷の割合が高まって、その流動性がなくなった時点で堆積して氷層となる。なお実際には、氷層Pの上面に流れる氷・水スラリーS中の水が氷層Pに浸透する際にも若干の氷は堆積するが、氷・水スラリーSが流動性を無くした時点で殆どの氷が堆積することを実験観察によって確認している。
【0039】
図5は、氷・水スラリーS中の氷の割合IPFS0で流量GS0の氷・水スラリーSが、氷層上面に供給された様子を模式的に示しているが、この氷・水スラリーSは氷層Pの上面を流れながら、氷・水スラリーS中の流量GW1の水が氷層Pに浸透する。そして下流での氷・水スラリーSの流量GS1は、GS0−GW1であり、氷・水スラリーS中の氷の割合IPFS1は、GS0×IPFS0/GS1=GS0×IPFS0/(GS0−GW1)である。
【0040】
このIPFS1の氷・水スラリーSは、流量GS1で氷層Pの上面を流れながら、氷・水スラリーS中の流量GW2の水が氷層に浸透する。そしてその下流での氷・水スラリーSの流量GS2は、GS1−GW2=GS0−(GW1+GW2)であり、同様に、氷・水スラリーS中の氷の割合IPFS2は、GS1×IPFS1/GS2=(GS0−GW1)×{GS0×IPFS0/(GS0−GW1)}/{GS0−(GW1+GW2)}である。
さらに、その下流での氷・水スラリーの流量GS3は、GS2−GW3=GS0−(GW1+GW2+GW3)であり、氷・水スラリーS中の氷の割合IPFS3はGS2×IPFS2/GS3={GS0−(GW1+GW2)}×[(GS0−GW1)×{GS0×IPFS0/(GS0−GW1)}/{GS0−(GW1+GW2)}]/{GS0−(GW1+GW2+GW3)}である。
【0041】
このようにみれば、ある地点iにおける氷・水スラリー中の氷の割合IPFは、
IPF=(GS0−ΣGWi(1〜i−1))×(GS0−ΣGWi(1〜i−2))×(GS0×IPFS0/(GS0−ΣGWi(1〜i−2)))/(GS0−ΣGWi(1〜i−1))/(GS0−ΣGWi(1〜i))であり、このIPFが流動性を維持するための限界値を超えた場合に、氷・水スラリーSは静止して氷層となる。
【0042】
したがって供給する氷・水スラリーSの流量GS0と、供給する氷・水スラリーS中の氷の割合IPFS0が既知であれば、広範囲に氷・水スラリーが流れて広がって均一に蓄氷できるか否かは、浸透水の流量GWiによって定まることがわかる。なお氷・水スラリーの流量やIPFの決定は、たとえば設備構築後の試運転時に決定することができる。
【0043】
つまり供給口5aから供給される氷・水スラリーの浸透水以上の流量の水を、氷・水スラリー中に確保すれば、氷・水スラリーにおける浸透水分を除いた水と、氷とが供給地点からより遠い方向へと流れ、その結果、水平方向に氷層が広がり水平方向により均一な蓄氷状態を実現することができる。たとえば供給口5aから供給される氷・水スラリーにおいて、氷が3、水が97の割合で存在している場合、浸透水が97の条件であれば、氷・水スラリーが流動せず供給地点で停止してしまい、その場で氷が堆積して盛り上がることになる。一方、当該氷・水スラリーに水を60増加させて、氷が3、水が157の氷・水スラリーを構成した場合、氷・水スラリー中の氷の絶対量を低下させることなく、浸透水分を除いた水60によって氷・水スラリーが遠くへと広がっていくことになる。
【0044】
本実施の形態では、槽内の水を取水して供給管5に導入する第3の取水管41を有しているので、低温の水を供給管5内に導入させて供給口5aから供給される氷・水スラリーの流量を増加させて、供給口5aから供給される氷・水スラリーの浸透水以上の流量の水の増加が容易である。たとえば前記した例の場合、供給口5aから供給される氷・水スラリーに水を60増加させて、氷が3、水が157の氷・水スラリーを創出することが容易に実現できる。
【0045】
また本実施の形態においては、制御装置Cは、第3の取水管42から供給管5に槽内の水を導入するためのポンプ42の発停の制御を、超音波高さ計31によって測定された氷蓄熱槽内の氷の盛り上がり高さに基づいて行なうようになっているので、前記した供給する氷・水スラリーSの流量GS0と、供給する氷・水スラリーS中の氷の割合IPFS0を設備構築後に設定した際、実際に稼動させてそのときの氷の水平方向への広がり度合いと盛り上がり高さとの関係を求めておき、それにしたがって、ポンプ42を作動させる高さを設定しておくことで、自動的に適切な蓄氷運転を実施することが可能である。
【0046】
前記した実施の形態では、第3の取水管41、ポンプ42を氷蓄熱槽1内に設置していたが、これに代えて図6に示したように、保守、メンテナンスの点でより有利となるように、第3の取水管43、ポンプ44を氷蓄熱槽1の外に設置してもよい。いずれの場合にも、槽の底部近傍から取水しているので、氷・水スラリー内の氷の量を減少させることが抑えられている。またここでは、氷・水スラリーと槽内冷水の合流も、管接続部で行なわれる。
【0047】
なお本発明において、製氷された氷・水スラリーの流量をGs、その氷・水スラリー中の氷の割合をIPFsとし、氷蓄熱槽1から取水して供給管5に導入する水の流量をGwとすると、供給口5aでの氷・水スラリーの流量は、Gs+Gwまで増加するので、空塔速度は速くなる。そしてそのときの氷・水スラリー中の氷の割合IPFsは、IPFs×Gs/(Gs+Gw)まで少なくなる。氷・水スラリー中の氷の割合IPFsが増加すると、不均質な氷層が形成されて氷層へ水が浸透し易くなり、氷が広がらないことを確認しているが、逆に本発明のように氷蓄熱槽1から取水した水を加えて氷・水スラリー中の氷の割合IPFsを低下させても、そのようなIPFsの低下は蓄氷形状に悪影響を与えない。
【0048】
また、氷蓄熱槽1内の水を取水して供給管5に供給するために使用するポンプ42、44は、低揚程で少消費電力のポンプで良く、また既述したように、蓄氷過程の後半において氷層が盛り上って浸透ポテンシャルが増加したとき、たとえば盛り上り高さが所定の高さ以上になった際に起動すれば充分である。
【0049】
なお前記した例では、氷蓄熱槽1内の氷の盛り上がり高さを超音波高さ計31で監視し、所定高さ以上になった際に、制御装置Cがポンプ42、44を起動させるようにしていたが、氷蓄熱槽1内の氷の盛り上がり高さの時間的変化を監視し、当該変化が予め定めた変化率以上になった(大きくなった)際にポンプ42、44を起動させるようにしてもよい。かかる場合、たとえば超音波高さ計31によって監視した氷蓄熱槽1内の氷の盛り上がり高さを、常時、あるいは所定時間ごとに記録して、その時間的変化を逐次演算してその変化率を算出し、当該変化率が所定の変化率以上になった際に、ポンプ42、44を起動させるように制御するようにしてもよい。その場合の演算装置は、制御装置Cに組み込むことができる。たとえば制御装置Cとしてパソコンを使用した場合、演算装置は、プログラムとして具体化される。
【0050】
このように本発明においては、氷蓄熱槽1内の氷の盛り上がり高さの実測値に基づいて、あるいは氷蓄熱槽1内の氷の盛り上がり高さの変化率に基づいて、ポンプ42、44を起動させて槽内の水を取水して、これを供給管5に導入するようにすることができる。氷の盛り上がり高さの実測値に基づいて制御する方式は、氷の盛り上がり高さの測定間隔が比較的長くても採用でき、したがって氷蓄熱槽1内に氷が蓄積していくスピードが遅い場合に適している。これに対して、氷の盛り上がり高さの変化率に基づいて制御する方式は、データの測定間隔を短くする必要はあるが、その分精度が高い制御が行なえ、また氷蓄熱槽1内に氷が蓄積していくスピードが速い場合にも対応できる。
【0051】
その他の実施の形態としては、たとえばポンプ41を押し込み式とせずに、供給管5と第3の取水管41、43との各々合流点の下流側の配管に設け槽内の冷水を強制吸引するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、過冷却器で製造される氷・水スラリーを氷蓄熱槽に供給して蓄氷するいわゆるダイナミック型のアイスバンクシステムに有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 氷蓄熱槽
2 取水部
3 第1の取水管
4、14、22a〜22c、 ポンプ
5 供給管
5a 供給口
11 過冷却器
12 冷凍機
13 過冷却解除器
21 第2の取水管
23 送水管
24 冷却負荷
25 還水管
25a 吹出口
26 流量計
27、28 温度センサ
29 バイパス管
30 流量制御弁
31 超音波高さ計
41、43 第3の取水管
42、44 ポンプ
C 制御装置
E 浸透ポテンシャル
h 供給口の水面上の高さ
H 水柱高さH
Hice 氷の盛り上がり高さ
L 水面
P 氷層
Q 氷・水スラリー供給口
X 流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6