(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気支承のためのセンサレス姿勢測定に関する。このような磁気支承は、一般に少なくとも1つの電磁石によって発生させられた磁界によって物体を支承、例えばロータを支承するために使用される。
【0002】
例えばボールベアリングによる従来式の支承に対する磁気支承の大きな利点は、可能な限り摩擦がないことにある。これは特に磨耗の観点から有利である。その一方で、これによってはじめて、非常に高速で回転するロータの支承が可能となる。磁気支承の難点は、支承される物体の位置の電子制御が不可欠なことにある。原則的に、電磁石に対する物体の位置を求めることが必要である。さらに、姿勢変化の行われる速度を直接求めてもよい。従来の方法では、位置の測定は直接、位置センサを用いて行われる。ただし、位置センサの使用はある特定の欠点を伴っている。ここでは特に、位置センサは付加的なコストとセンサ取付けのために或る程度のスペースとを必要とすること、またセンサが故障した場合、センサが磁気ベアリングシステム全体の故障の責任がある場合もあることが挙げられる。
【0003】
こうした理由から、最近、いわゆるセンサレスで、すなわち位置センサレスで磁気ベアリングを制御する方法が多数提案された。これらの方法は位置センサを使用せず、その代わりに、電磁石の電流と電圧の測定に基づいて、支承される物体の位置を、場合によっては速度をも推測しようとする。この場合、位置センサは評価電子ユニットに置き換えられるか、または、推定もしくは観測アルゴリズムに置き換えられる。後者は現在の位置の推定を行い、また場合によっては、支承される物体に対する現在の速度の推定も行う。
【0004】
従来の磁気ベアリングを観察すると、引き付ける力が電磁石を介して振動体に対して作用する。この引力は摂動力に、例えば振動体の重さに逆らう。所定の距離で力の釣り合いが生じる。電流が固定されていれば、振動体が電磁石に近づいたときに引力が増大する。この引力は振動体が電磁石から離れると低下する。磁気ベアリングはその物理的特性のゆえに不安定であるから、制御されなければならない。例えば位置センサの制御器は振動体の運動特性に関する情報を参照する。センサレス磁気ベアリングが存在していれば、外部センサ系はなくてよい。センサレス磁気ベアリングでも制御は必要であるから、このために必要な位置情報は電磁石の空隙に依存する特性によって得られる。
【0005】
電圧と電流の測定による磁気ベアリングのセンサレス位置測定の原理は、
図1に基づいて考察することができる。
図1には、磁気ベアリング10の基本スケッチが示されている。電磁石200を有する一方向性のベアリングが考察される。電磁石200の極210は支承される物体100と共に空隙20を形成している。空隙20の長さlは物体100の位置rの関数として変化する。空隙20の磁気抵抗R
mを計算するためには、式
が使用される。ここで、長さl=l
0−rであり、l
0は空隙の定格長さ、Aは空隙の有効面積、μ
0は空気の透磁率である。
【0006】
以降において、電磁石200の鉄心と物体100の磁気抵抗を無視すれば、磁気ベアリング10のインダクタンスLは式
の形で計算される。ここで、Mは電磁石200の巻き数である。システムのインダクタンスが電磁石200の極から物体100までの距離に間接的に比例していることは明らかである。この重要な特性は、物体100の位置を求める多くの推定および観測アルゴリズムの基礎を成している。これに関しては、先行技術として文献[2,3,4]が挙げられる。
【0007】
磁気振動システムのセンサレス動作のための補助手段は多数存在しているが、これら補助手段の基本的なアプローチ、長所及び短所等はDE 10 2008 064 380 A1において列挙及び分析されている。前掲文献では、観測者をベースにした方法、パラメータ推定方法及び様々なグループのインダクタンス算出方法が論じられている。最後に挙げた方法では、磁気ベアリングのインダクタンスが物体の位置に依存することが利用される。
【0008】
本願発明の基礎を成すDE 10 2008 064 380 A1自体は結局、電流と電圧の評価によって位置を求める、磁気振動システムのセンサレス状態推定のための方法を提案している。しかし前掲文献に記載されている方法では、インダクタンスの算出に含められるべき磁気ベアリングの磁気抵抗が十分に考慮されないため、不正確さが生じる可能性がある。
【0009】
それゆえ本発明の課題は、磁気ベアリングの電磁石の抵抗を調整する方法が提供される。さらに、磁気ベアリングに支承された物体を調整された抵抗値を考慮してセンサレスに位置測定する改善された方法を示すことも、本発明の課題である。
【0010】
これらの課題は独立請求項に示した発明によって解決される。有利な実施形態は従属請求項から得られる。
【0011】
磁気ベアリングの電気抵抗の値を調整する本発明による方法は、下記のステップを有している。
−磁気ベアリングの少なくとも1つの電磁石をパルス幅変調(PWM)された電圧によって駆動制御するステップ。その際、パルス幅変調された電圧の時間的経過は、少なくとも1つの第1段階(j=1)、特に充電段階と、少なくとも1つの第2段階(j=2)、特に放電段階とを有する。
−前記第1段階(j=1)と前記第2段階(j=2)における第1及び第2インダクタンス値
を求めるために電磁石の電流iと電圧uを測定及び評価するステップ。
−前記第1段階(j=1)の第1インダクタンス値
と前記第2段階(j=2)の第2インダクタンス値
を推定する、特に最小二乗推定するステップ。インダクタンス値
を推定する際、磁気ベアリングの、特に磁気ベアリングの電磁石の、電気抵抗R
nが考慮される。
−インダクタンス誤差
を求めるステップ。
−インダクタンス誤差
が零へと制御されるように電気抵抗を調整するステップ。
【0012】
抵抗の調整はローパスフィルタとI制御器とから成る。
【0013】
インダクタンス誤差
はI制御器
によって零へと制御され、場合によっては予めローパスフィルタリング
によってフィルタリングされる。
【0014】
磁気ベアリングに支承された物体の、磁気ベアリングに対する位置、特に磁気ベアリングの電磁石に対する位置をセンサレスで求める本発明による方法は、下記のステップを有する。
−磁気ベアリングの少なくとも1つの電磁石をパルス幅変調(PWM)された電圧によって駆動制御するステップ。その際、パルス幅変調された電圧の時間的経過は、少なくとも1つの第1段階(j=1)、特に充電段階と、少なくとも1つの第2段階(j=2)、特に放電段階とを有する。
−前記第1段階(j=1)と前記第2段階(j=2)における第1及び第2インダクタンス値
を求めるために電磁石の電流iと電圧uを測定及び評価するステップ。
−前記第1段階(j=1)の第1インダクタンス値
と前記第2段階(j=2)の第2インダクタンス値
を推定する、特に最小二乗推定するステップ。インダクタンス値
を推定する際、磁気ベアリングの、特に磁気ベアリングの電磁石の、電気抵抗R
nが考慮される。
−磁気ベアリングに対する物体の位置を推定されたインダクタンス値
に基づいて計算するステップ。
なおこの場合、電気抵抗R
nは上で述べた本発明による抵抗調整の方法によって求められる。
【0015】
物体の位置を計算するために、推定されたインダクタンス値
を平均したインダクタンス値
が使用される。
【0016】
場合によっては、物体の速度も推定されたインダクタンス値
から計算される。
【0017】
第1段階(j=1)においてはN
1個の測定点で、第2段階(j=2)においてはN
2個の測定点で、電流
(k
j=0,..,N
j−1)が測定される。
【0018】
第1段階(j=1)と第2段階(j=2)とに対してそれぞれ、N
j個の測定点において測定された電流値
(k
j=0,..,N
j−1)から電流平均値
が求められる。
【0019】
第1段階(j=1)と第2段階(j=2)とに対して、とりわけ最小二乗法によって、それぞれ電流初期状態
と電流終端状態
が求められる。これらの状態から、第1段階(j=1)と第2段階(j=2)の電流レベル差
が求められる。ここで、電流レベル差Δi
jはインダクタンス値
の推定に含められる。
【0020】
インダクタンスの平均値
を求めるために、
− 電流初期状態と電流終端状態tから求められた電流レベル差
− 測定点N
1、N
2の個数、
− 第1段階(j=1)及び第2段階(j=2)の電流平均値
− 第1段階(j=1)と第2段階(j=2)の推定されたインダクタンス値
の差
が使用される。最終的には、インダクタンス値の平均値から、物体の位置及び/又は速度が計算される。
【0021】
本発明において考察される位置推定は現在のインダクタンス値L(r)を同定することに依拠している。支承される物体の現在の位置rはこの現在のインダクタンス値L(r)を用いて逆算することができる。文献から公知のインダクタンス推定方法とは異なり、本発明では、例えば正弦波状の測定信号のような付加的な測定信号がコイルの駆動制御に供給されるのではなく、直接、パルス幅変調された電圧で駆動制御が行われる。
【0022】
利点は、付加的な測定信号を生成及び検出するための付加的なハードウェアが不要である点にある。パルス幅変調された電圧の評価に依拠する文献[2,3]から公知の方法は、パルス幅の変化によって、同定されたインダクタンス値の、ひいては同定された位置の重大な改竄がもたらされるという欠点を有している。本発明では、この問題は測定信号の相応の評価によって回避される。
【0023】
インダクタンスを求める殆どの推定方法は高価なアナログ前処理電子デバイスを使用している[1]。本発明によれば、有利なことに、測定信号の処理全体がデジタルで行われる。処理において必要となる短いサンプリング時間又は高いサンプリングレートを可能にするには、本発明の説明で示されるように、適切なアルゴリズムを開発することが好ましい。
【0024】
本発明において開発された推定アルゴリズムは基本的に、個々のPWM期間、すなわち充電段階及び放電段階におけるインダクタンスを求めるための最小二乗推定量から成る。以下に示すように、この最小二乗推定量はまた2つの部分タスクに分割することができる。これにより、極めて効率的なインプリメンテーションがもたらされる。
【0025】
さらに、支承される物体の位置及び/又は速度のモデルに基づいた計算を適用することもできる。
【0026】
以下では、添付された概略図に基づいて本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】磁気振動システムの等価電気回路図と、コイルの充放電プロセスの関連するグラフを示す。
【
図3】パルス幅変調された電圧を供給したときのコイル電流の充放電プロセスを示す。
【0028】
図1に図示されている物体100の磁力を計算するために、磁気共エネルギーを定義する。
【0029】
ここで、電流iは同じく
図1に図示されている電磁石を流れる電流である。これにより直ちに磁力f
mに関する下記の表現が得られる。
【0030】
本発明において解決される課題をさらに手短に表現するために、
図2には、簡単な磁気ベアリングの等価電気回路図が示されている。
【0031】
図2において、Rはコイルと給電線の有効電気抵抗を表しており、u
PWMは印加されるパルス幅変調された電圧を表している。
【0032】
このシステムに対してファラデーの法則を書き表せば、
ここで、
は支承される物体の速度である。
【0033】
パルス幅変調された電圧の印加により、電流iは、PWMの第1段階、いわゆる充電段階においては期間0≦t≦χ
TPWMの間上昇し、それに続くPWMの第2段階、いわゆる放電段階においては期間χ
TPWM≦t≦T
PWMの間低下する。なおここで、T
PWMは2つの段階を包含するパルス幅変調された電圧の周期を表しており、0≦χ≦1はディーティ比を表している。したがってχは第1段階の持続時間と第2段階の持続時間との比を示す。以上のことから、
図2の右側に示されているような電流波形が生じる。
【0034】
今一度、ファラデーの法則(5)を見てみると、電流波形の振幅又は勾配は、一方では一次的な測定現象であるインダクタンスL(r)によって、他方ではしかし電気抵抗R、物体100の速度w、供給電圧uの振幅とデューティ比によっても影響される。
【0035】
位置推定の課題は、第1ステップにおいて、電流と電圧の測定からインダクタンスの値を推定し、推定されたインダクタンス値から位置rを求めることである。特に困難なのは、これをできるだけ他の影響係数に依存せずに実現することにある。
【0036】
最小二乗推定器/最小二乗法の原理に従った推定器
インダクタンス推定は電気力学のファラデーの法則に依拠している。インダクタンスの再帰的計算に線形最小二乗法を適用できるように、ファラデーの法則は
図3に示されているような等間隔の時間離散化によって処理される。
【0037】
図3には、第1段階及び第2段階における電流iの時間的経過が示されている。電流測定は充電段階すなわち第1段階(j=1)の間にN
1個の離散的な測定時点k
1において行われる。つまり、電流のN
1個の測定値
(k
1=0,..,N
1−1)が得られる。同様に、放電段階すなわち第2段階(j=2)の間にN
2個の離散的な測定時点k
2において行われる。つまり、電流のN
2個の測定値
(k
2=0,..,N
2−1)が得られる。電圧測定についても同じことが当てはまる。
【0038】
インダクタンス推定のために、充電段階と放電段階のそれぞれに対して最小二乗推定が行われ、それによりPWM期間ごとに2つのインダクタンス
と2つの電流初期状態
が得られる。ここでも以下でもj∈{1,2}であり、j=1は第1段階(充電段階)を、j=2は第2段階(放電段階)を表している。
【0039】
さらに、別の最小二乗推定によって同様に一部分の電流波形の電流状態
が求められる。この電流状態は後のモデルに基づいた位置及び速度の算出で使用される。
【0040】
「電流初期状態」又は「電流終端状態」なる概念はそれゆえ、各段階(j=1又はj=2)の開始時又は終了時における電流値、つまりk
j=0又はk
j=N
j−1のときの電流値を表している。
【0041】
最小二乗法はマルチレート方法の形態で構成することができるので、短いサンプリング時間T
sで、いわゆるリグレッサーの求められるべきエントリを計算し、続いて本来の回帰を、すなわち部分インダクタンスと電流の初期状態及び終端状態の算出を、格段に長いサンプリング時間T
rで行うことができる。サンプリング時間T
rは一般にPWMの周期の整倍数である。
【0042】
インダクタンスと電流初期状態の推定
電気抵抗Rが一定の場合についてファラデーの法則を
と表し、時間Δt=t−t
0にわたって積分すれば、
となる。さらに、鎖交磁束ψ(t)と電流i(t)との関係において、物体の位置rに対するインダクタンスL(r)の依存性を考慮するならば、
式(7)は
の形に書け、電流i(t)について解けば、
となる。差し当たり、PWM期間中のインダクタンスL(r)の変化は無視できる、つまり、L(r(t))=L(r(t
0))であると仮定し、積分
を例えば等間隔の積分ステップ幅T
sでの不足和として離散化すれば(他の離散化法も同様に可能である)、第1及び第2段階(j=1,2)の電圧
及び電流
のN
j個の測定に対して、離散化された積分
が得られる(
図3参照)。
【0043】
PWM周期の立上りエッジ(第1段階)と立下りエッジ(第2段階)の時間の間インダクタンスが一定に留まると仮定すれば、電流初期状態i
0j=L
0j-1ψ
0jと、コイル電流と鎖交磁束との間の式(10)とから、関係式
が得られる。
【0044】
さらに、不足和をステップ幅T
sで正規化し、
とすれば、正規化されたインダクタンス
が形式的パラメータとして得られ、式(10)はベクトル記法で次のように表される。
【0045】
したがってN
j個の測定に関して
が得られる。ここで、y
jは(N
j×1)次元の測定ベクトルであり、S
jは(N
j×2)次元の回帰行列である。最小二乗法の意味で可能な最良の近似
は
によって与えられる。なお、S
jTS
jは(2×2)対称行列
であり、S
jTy
jは(2×1)ベクトル
である。今やここで、電流初期状態とインダクタンス(の逆数)とに関する最小二乗同定アルゴリズムの、2つの異なるサンプリングレートへの分割を表現することができる。電流
のN
j個の測定値は速いサンプリング時間T
sで取得される。これらの速いサンプリングステップの各々において、対称行列S
jTS
jと行列S
jTy
jのエントリは最新の状態にされなければならない。しかし、明らかなように、これには単純な演算すなわち加算と乗算しか必要ない。とりわけ、エントリ
に関しては、測定値の数を指定するだけでよい。また、
の計算には、さらに1つの乗算と加算が必要とされる。最後に、エントリ
の計算には1つの加算が、
に関しては1つの乗算と1つの加算が必要である。
【0046】
1つのサンプリングステップT
s内では、非常に少数の比較的単純な演算しか必要ないことが分かる。電流及び電圧の測定値はADC(アナログデジタル変換器)によって求められ、それらの分解能に応じて整数値をもたらす。それゆえ、上記演算は例えば固定小数点プロセッサにおいて精度を大きく損なうことなく求めることができる。
【0047】
インダクタンスと電流初期状態を計算するために、最後のステップにおいて、行列S
jTS
jの逆行列を計算し、S
jTy
jを乗じなければならない。これらの演算は数値的に格段に敏感であるから、例えば浮動小数点プロセッサで行うべきである。しかし、これらの演算はPWM期間中に1回だけ行えばよいので(T
PWM>>T
sが成り立つ)、この計算に関しても非常に簡素で、それゆえ比較的安価なプロセッサを使用することができる。
【0048】
つまり、要約すれば、上記の計算は固定小数点プロセッサでの速い計算と浮動小数点プロセッサでの遅い計算とに分けることができる。
【0049】
電流終端状態の推定
位置及び/又は速度のモデルに基づいた計算のためには、電流レベル差
が必要である。電流終端状態
は、先に求めた電流初期状態
を用いて、最後の最小二乗推定において推定することができる。そのために、2つの段階j=1及びj=2にわたり、線形離散近似によって電流波形i(t)が推定される。これにより、ベクトル記法で書けば、勾配η
iとステップ幅T
sを有する以下の式が得られる。
したがって、N
j,j∈{1,2}個の測定に対して、
が得られる。ここで、h
jは(N
j×1)次元の測定ベクトルであり、Q
jは曲線当てはめ問題
の(N
j×2)次元の回帰行列である。すると、電流終端状態
は
に従って計算できる。注目すべきは、付加的に1つの別のエントリを速いサンプリング時間T
sにおいて求めるだけでよいことである。
【0050】
モデルに基づいた平均化
最小二乗法によって、PWM期間ごとに、立上りエッジと立下りエッジに関して、すなわち第1段階と第2段階に関して、インダクタンスの2つの値と、電流初期状態と電流終端状態の2つの値が得られる。2つのインダクタンス
から位置を計算する最も簡単な方法は、値の平均化と式(10)によるモデルに基づいた逆算である。しかし、この非常に簡単な方法は複数の欠点をもたらす。(i)支承される物体の速度の影響が考慮されない、(ii)PWMのデューティ比の変化が考慮されないままである、(iii)物体の速度を近似的に位置の微分によって求めなければならない。
【0051】
これらの問題を回避するために、本発明によれば、適切な計算アルゴリズムが記述される。そのために、電流初期状態と電流終端状態から求められる電流レベル差Δi
j、両段階の測定点N
jと電流平均値
j∈{1,2}の個数、ならびに部分期間の個々のインダクタンス
の差を一緒に用いて、支承される物体の位置と速度がモデルに基づいて計算される。
【0052】
インダクタンスの算出
最小二乗同定によって推定値
を求める際、1つのPWM周期の立上りエッジと立下りエッジの時間の間、インダクタンスは一定であると仮定した。すなわち、最終的に式
を使用した。ここで、Rは電気抵抗である。期間
にわたる積分により、
が得られる。ここで、
はこの期間中の電流レベル差である。
【0053】
物体が動いている場合には、つまり、速度w≠0の場合には、下記の形式の鎖交磁束の全微分
を使用し、期間
にわたって積分しなければならない。
この式を電流レベル差で除して、左辺を推定されたインダクタンス
で置き換えれば、
が得られる。
【0054】
更なる計算のために、以下の仮定が為される。これらの仮定は大抵の場合非常に良く満たされる。
−電流の時間微分が
により推定される。この仮定は、PWM周期が十分に短く、電流波形が近似的に三角形である場合に非常に良く満たされる。
−インダクタンスの時間微分はPWMの周期中一定である、すなわち
であると仮定する。
【0055】
これらのことを式(22)において仮定すれば、直ちに
が得られる。ここで、
は推定されるべき、L(t)の平均値である。
【0056】
さらに、部分期間にわたる電流平均値
を導入するならば、推定すべき平均インダクタンスは
に従って、各部分期間の最小二乗推定から計算される。ここで、T
sはサンプリング時間であり、N
jは測定点の個数である。明らかに、両方の最小二乗推定
の適切な重み付けによって、インダクタンス変化
の不所望な作用、ひいては物体の速度wの影響は補償される。
【0057】
インダクタンスの時間微分の消去による式(26)の簡単な変形によって、インダクタンスの平均値
が導かれる。式(27)に現れるすべての量は最小二乗同定において既に計算されていることに注意されたい。したがって、支承される物体が静止していなくても、すなわちw≠0でも、システムのインダクタンスの有意な推定値を得ることが可能である。
【0058】
電流の平均値が少ししか変化しない特別なケースでは、電流レベル差
はほぼ等しく、したがってまた電流平均値
もほぼ等しい。このため、平均は重み付き交差平均
に縮退する。勿論、この計算は遙かに簡単に実行できるが、例えば制御器が電流の(したがってまたデューティ比の)大きな変化を指定する場合には、時として不正確な結果をもたらす。
【0059】
平均インダクタンスからの位置測定
上記複数のステップにおいて、インダクタンスの平均値
とインダクタンスの時間微分
が求められた。最後のステップでは、これらの値から、支承される物体の現在の位置r及び/又は速度wが求められなければならない。
【0060】
そのために、インダクタンスL(r)を支承される物体の位置rの関数として記述する、式(2)によるリラクタンスモデルに基づいたモデルアプローチを用いる。L
M(r)によってインダクタンスと位置rの関数関係を表すならば、この関係の逆をとることによって位置の推定値
が得られる。支承される物体の安定化のために、速度wも必要とされることが多々ある。従来式には、これは推定された位置
の近似的な微分によって求められる。しかしこの方法は、測定雑音によって雑音の多い速度推定値が生じる可能性があり、また近似的な微分によって相回転が生じ、再び閉ループ制御回路における安定性問題へと導かれ兼ねないという欠点を有している。
【0061】
本発明において開発されるアルゴリズムは、微分なしで直接、推定されたインダクタンス値から速度を計算することができる。インダクタンスの時間微分
に関しては、
が成り立つことを考えれば、支承される物体の現在の速度の推定値として直ちに以下の表現を求めることができる。
【0062】
要するに、本発明では、磁気ベアリングによって支承される物体の位置r及び速度wを推定するアルゴリズムが開発され、このアルゴリズムは以下の特性によって特徴付けられる。
−速いサンプリング時間で計算されなければならない数学的に非常に単純な部分と、格段に少ないサンプリング時間で求められる複雑な部分とに、計算を分割することができる。これは特に低コストのインプリメンテーションという観点で従来の方法に比べて大きな利点である。
−推定されたインダクタンス値の重み付けによって、支承される物体の位置も速度も推定することができる。また、速度及びパルス幅の影響を抑えることができる。
【0063】
抵抗の推定と抵抗の調整
これまで、電気回路の電気抵抗Rは一定であり、かつ既知であると仮定してきた。今度は、この抵抗が動作中に温度変化のせいで変化する。それゆえ、抵抗Rの推定は実際のインプリメンテーションにとって更なる利点を供する。
【0064】
本発明の1つの実施形態では、磁気ベアリングのセンサレス状態推定に必要な電気抵抗が、抵抗に依存する推定されたインダクタンス誤差に基づいて調整される。
【0065】
上で説明したように最小二乗同定によって推定値
を求める際には、PWM周期の立上りエッジ(j=1)と立下りエッジ(j=2)の時間の間、インダクタンスは一定であると仮定した。つまり、式(18)を前提とした。電気抵抗R
nを、
に従って、推定された抵抗
と抵抗誤差δRとの重ね合わせとして考えれば、誤差のあるインダクタンス推定に関して
を得る。下記の形式
の、又は式(33)も考慮して
の形式の鎖交磁束の全微分を期間
にわたって積分すれば、電流レベル差で除した後、
を得る。
【0066】
更なる計算のために、再び以下の仮定が為される。
−電流の時間微分が
によって推定される。この仮定は、PWM周期が十分に短く、電流波形が近似的に三角形である場合に非常に良く満たされる。
−インダクタンスの時間微分はPWMの周期中一定である、すなわち
であると仮定する。
【0067】
これらのことを式(36)において仮定すれば、直ちに
が得られる。ここで、
は推定されるべき、L
n(t)の平均値である。さらに、部分期間にわたる電流平均値
を導入するならば、推定すべき平均インダクタンス
が計算される。ここで、T
sはサンプリング時間であり、N
j,j∈{1,2}は測定点の個数である。上記2つの推定されたインダクタンス値の差は、
となる。式(39)又は(40)に式(41)からのインダクタンスの時間微分を代入すれば、推定された抵抗値に依存しない平均
が得られる。もっとも、測定精度と計算精度が限られている現実のインプリメンテーションにとって、電気抵抗を推定することは有意義である。
【0068】
電気抵抗の調整
上で既に述べたように、システム全体の温度変化のせいで電気抵抗は変化する。
【0069】
これに対して、誤った抵抗値の推定は推定されたインダクタンス誤差
に表れるという事実に基づいた抵抗調整が提案される(式(41)参照)。
【0070】
式(41)によれば、インダクタンス誤差
は抵抗誤差δRとインダクタンスの時間全微分
との和に比例する。さらに、式(30)によれば、インダクタンスの時間全微分に対する微分のチェインルールによって
が成り立つ。しかし、時間全微分
は、速度がゼロのとき、すなわちw=0のときにしかゼロにならない。なぜならば、実際のシステムでは、空隙の後のインダクタンスの偏微分は決してゼロにならないからである。したがって、純粋に理論的には、I制御器だけから成る調整は静止した物体に対してのみインダクタンス誤差に基づいて機能する。ここに挙げる抵抗調整はインダクタンス誤差を予めフィルタリングして、速度の影響を取り除く。
【0071】
それゆえ、静止した物体に対しては、インダクタンス誤差
を制御することによって電気抵抗を推定することができる。というのも、静止した物体に関しては
が成り立つので、インダクタンス誤差
は式(41)に従って抵抗誤差δRに直接比例するからである。電磁石の発熱により生じる抵抗変化は、支承される物体の動特性又は位置変化に比べて格段に遅い。したがって、ローパスフィルタリング
によって、インダクタンス誤差中の、外乱になりうる速度に依存した成分
をフィルタリング又は除去することができる(式(41)参照)。速度に依存しないインダクタンス誤差
はI制御器
によってゼロへと制御される。これにより、正しい抵抗値が推定される。
【0072】
抵抗調整はつまりローパスフィルタとI制御器とから成る。最小二乗法による位置推定のインダクタンス誤差に基づいた式(44)及び(45)から成るこの抵抗調整によれば、抵抗誤差δRがゼロへと制御され、実際の抵抗値が推定されることが保証される。その際、T
LFとT
RAは正の調整パラメータである。
【0073】
デジタルコンピュータ上での実行のために、式(44)及び(45)は時間離散化される。ただし、この離散化は一義的ではない。最も簡単なケースでは、連続的な微分が前進差分商(前進オイラー法)に置き換えられる。それにより、いわゆる差分方程式が得られる。この差分方程式を用いれば、等間隔の時間ステップで、先行する推定値から新しい推定値を計算することができる。推定された抵抗値は位置推定に渡され、位置推定において、インダクタンスの新しい推定値が計算され、インダクタンス誤差の新しい推定値が生じる。各サンプリングステップにおいてこの繰り返しが行われる。
【0074】
高度な状態観測器
上記の導出から分かるように、支承される物体の位置と速度を求めるのに、この物体の動特性又は特性(例えば質量、減衰等)に関する情報は使用されていない。このことは、支承される物体がほぼ未知である場合に、この方法が非常に良い位置情報と速度情報を提供するならば、大きな利点である。
【0075】
他方で、多くの実施形態においては、支承される物体に関する比較的正確な情報が存在している。それゆえ、上記推定アルゴリズムと状態観測器との組合せは有意義である。観測器を使用すれば、位置及び速度の雑音を大幅に低減することができ、さらには支承される物体の個々のパラメータを同定することも、物体に作用する負荷力を推定することもできる。考えられる観測器構造としては、線形観測器(ルーエンバーガー観測器、カルマンフィルタ等)から拡張カルマンフィルタや無香カルマンフィルタ、標準形観測器のような現代の非線形方式までが考察の対象となる。これらの方式は基本的に文献から公知であるから、ここでは詳しい説明はしない。しかし、この観測器は、位置及び速度推定の上記アルゴリズムと組み合わせてでなければ、正確度及び動特性に関する要求を満たすことができないことに注意されたい。
【0076】
本発明の定性的及び定量的な基本的利点
本発明の方法は、パルス幅変調された駆動制御により生じる固有の測定現象を利用するので、状態量を再構成するために付加的なハードウェアコストを要さない。電流測定及び電圧測定が利用できるだけでよい。
【0077】
上記アルゴリズムを観測器と組み合わせれば、システム理論的観点からシステム全体をアルゴリズム的に電気的部分システムと機械的部分システムとに分割することが可能であり、さらにまた、システム全体の完全なモデル情報を状態取得に利用することも可能である。
【0078】
インダクタンスの最小二乗推定のために充電プロセスと放電プロセスを別個に扱うことで、ファラデーの法則の離散化による積分器ドリフトの影響を低減することが可能になる。その一方で、ソフトウェア技術的なインプリメンテーションにより、インバータの理想的でない電気スイッチング素子のスイッチオン又はオフ時における過渡的な外乱特性と渦電流の影響とはシャットアウトされる。
【0079】
さらに、最小二乗推定器のマルチレートシステムとしての構造によって、計算コストを著しく低減することができる。リグレッサーの計算はプログラマブル集積回路(例えばFPGA)で整数算術によって低コストで実行できるので、非常に短いサンプリング時間と、インダクタンス及び状態量の比較的正確な推定が実現される。さらに、計算集約的な演算はより長いサンプリング時間で行うことができる。
【0080】
位置と速度に依存するインダクタンスモデルとそれに続く回帰の使用は、付加的なパラメータを必要とするから計算集約的である。しかし、ファラデーの法則において速度の影響を無視すれば、充電及び放電プロセスのインダクタンス推定が速度に依存して分割される。理論的な研究によれば、個々のインダクタンスは電流レベル差、測定点の個数及び部分期間の電流平均値を用いた平均化を介して補正することができる。さらに、理論的な研究によれば、個々のインダクタンスの差は速度に比例しており、インダクタンスモデルを援用して解析的に求めることができる。
【0081】
公知の推定方法とは異なり、位置推定だけでなく速度推定も直接推定アルゴリズムから可能である。従来式では、ふつう非線形性の補償と安定化させる比例積分微分制御器とから成る位置制御器には推定された位置だけが供給され、制御器の微分要素において速度に比例する信号が形成される。だが、位置推定の雑音が、達成可能な制御品質と、制御器のモデル不安定性に対するロバストネスを損ない、制限してしまう。上で開発した推定方法の場合のように、さらに速度推定が可能ならば、この速度推定がフィードバックされ、制御品質とロバストネスの向上を達成することができる。
【0082】
さらに、非線形のモデルに基づいた観測器のコンセプトによれば、システム全体のうちの機械的な部分モデルを状態推定に取り込むことができる。それにより、一方では、最小二乗推定器から求められた位置及び速度推定の雑音を抑制するためのフィルタリングが可能であり、他方では、外乱変数の推定値をモデル方程式に入れることによって外部から作用する負荷力を推定することが可能である。従来のフィルタリングとは対照的に、観測器に基づいたフィルタリングには位相シフトが伴わない。
【0083】
本発明によれば、最小二乗推定を用いて充電及び放電段階のインダクタンスを別個に推定することが可能である。その際、高速だが数学的に単純な部分と、緩慢だが数学的に複雑な部分とへの分割を行ってもよい。
【0084】
支承される物体の速度の影響と電圧のパルス幅の変化は適切な補正によって除去することができる。
【0085】
支承される物体の速度は、位置の時間微分なしに、インダクタンスの推定値と他の補助変数とから直接求めることができる。
文献リスト
[1]Noh, Myounggyu D.: "Self-Sensing Magnetic Bearings Driven by Switching Power Amplifier", Diss., University of Virginia, Faculty of the School of Engineering and Applied Science, 1996
[2]Pawelczak, Dieter: "Nutzung inhaerenter Messeffekte von Aktoren und Methode zur sensorlosen Positionsmessung im Betrieb", Diss., Universitaet der Bundeswehr Muenchen, 2005
[3]Skricka, Norbert: "Entwicklung eines sensorlosen aktiven Magnetlagers", Fortschritt-Berichte, Reihe 8, Nr. 1027, VDI-Verlag Duesseldorf, 2004
[4]Yuan QingHui; Li, Perry Y.: "Self-sensing actuators in elektrohydraulic valves", in : Proceeding of the International Mechanical Engineering Congress and Exposition, Anaheim, California USA.