特許第5661915号(P5661915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5661915乗員の保護及び保持のための方法及び装置、並びに保護及び保持装置のための評価及び制御ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661915
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】乗員の保護及び保持のための方法及び装置、並びに保護及び保持装置のための評価及び制御ユニット
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/0134 20060101AFI20150108BHJP
   B60R 21/0136 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   B60R21/0134
   B60R21/0136
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-501725(P2013-501725)
(86)(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公表番号】特表2013-523511(P2013-523511A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2011053874
(87)【国際公開番号】WO2011117110
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2012年10月26日
(31)【優先権主張番号】102010003315.4
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ フライエンシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】アルミン ケーラー
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−088798(JP,A)
【文献】 特開2003−312341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00−017
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
事故時に保護及び保持装置(30)の少なくとも1つの保持手段(34)の支援のもとで車両の乗員シート上の乗員を保護及び保持するための方法において、
所定のプリクラッシュ状況が識別された場合に、算出された現下の走行状況に依存して、乗員(5)を車両側方構造部(3)から隔離させて車両中央方向に加速させるためのポジショニングパルス(Iy)を生成するようにし
前記ポジショニングパルス(Iy)は、当該ポジショニングパルス(Iy)に対抗的な作用力が所定の閾値を下回っている場合に、適正位相で、算出された横方向加速度(ay)に依存して生成される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記所定のプリクラッシュ状況は、間近に迫った側面衝突までの算出された残存期間が所定の閾値を下回っている場合に識別される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポジショニングパルスは(Iy)は、乗員(5)と車両側方構造部(3)との間に配置された保持手段(34)を介して乗員(5)に転換され、その際車両(1)における少なくとも1つの保持手段(34)が、算出された現下の走行状況に依存して、当該乗員(5)に車両横軸方向(y)の加速度(ay)に依存した側方支援が受けられるように動作し、さらに前記ポジショニングパルス(Iy)の転換前に、少なくとも1つの前記保持手段(34)によって機械的な保持力(F0)が、当該少なくとも1つの保持手段(34)を押し返す乗員(5)に作用する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
事故時の車両(1)の乗員シート(60)上の乗員(5)を保護するための保護及び支持装置のための評価及び制御ユニットであって、
少なくとも1つのセンサユニット(42,44)によって検出可能な物理量に依存して、現下の走行状況と、現下で作用している加速度(ay)とを求め、対応する制御信号を送出するために、前記評価及び制御ユニット(20)が、少なくとも1つのインターフェース(22)を介して、保護及び支持装置(30)の少なくとも1つの調整可能な保持手段(34)と、少なくとも1つのセンサユニット(42,44)とに接続されている、評価及び制御ユニットにおいて、
前記評価及び制御ユニット(20)が、所定のプリクラッシュ状況を識別した場合に、当該評価及び制御ユニット(20)は、乗員(5)が車両側方構造部(3)から隔離して車両中央方向に加速するように、現下の走行状況に依存してポジショニングパルス(Iy)を生成し、それを少なくとも1つのインターフェース(22)を介して保護及び支持装置(30)に送出するように構成されており、
前記評価及び制御ユニット(20)は、ポジショニングパルス(Iy)を、当該ポジショニングパルス(Iy)に対抗的な作用力が所定の閾値を下回っている場合に、適正位相で、算出された横方向加速度(ay)に依存して生成しており、その際前記評価及び制御ユニット(20)は、前記作用力を、検出された物理量の評価によって求めている、
ことを特徴とする評価及び制御ユニット。
【請求項5】
前記所定のプリクラッシュ状況は、間近に迫った側面衝突までの算出された残存期間が所定の閾値を下回っている場合に識別される、請求項記載の評価及び制御ユニット。
【請求項6】
前記評価及び制御ユニット(20)は、車両横軸方向(y)の算出された加速度(ay)に依存して、少なくとも1つの保護及び保持装置(30)への相応の制御信号を介して乗員(5)への側方支援を行う、請求項4または5記載の評価及び制御ユニット。
【請求項7】
車両横軸方向(y)の加速度(ay)に依存して乗員(5)への側方支援に作用する少なくとも1つの調整可能な保持手段(34)を備え、請求項4から6いずれか1項記載の評価及び制御ユニット(20)を有する、事故時の車両の乗員シート上の乗員を保護するための保護及び支持装置であって、
前記少なくとも1つの保持手段(34)は、乗員シート(60)内に統合され、必要があったときの要求に応じて乗員シート(60)から出し入れ可能である、保護及び支持装置において、
ポジショニングパルス(Iy)が、乗員(5)と車両側方構造部(3)との間に配置される調整可能な保持手段(34)を介して乗員(5)に作用することを特徴とする、保護及び支持装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの保持手段(34)は、少なくとも1つの駆動装置(32)の駆動制御によって調整可能であり、前記少なくとも1つの駆動装置(32)は、電気的、及び/又は、機械的、及び/又は、点火式、及び/又は、空気圧式、及び/又は、油圧式、のユニットとして構成されている、請求項記載の保護及び支持装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの保持手段(34)は、ポジショニングパルス(Iy)が乗員(5)の上体領域(5.1)において転換されるように構成されている、請求項7または8記載の保護及び支持装置。
【請求項10】
請求項1からいずれか1項記載の方法を実施するためのプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラムであって、評価及び制御ユニット(20)によって実行及び/又は制御されることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項1からいずれか1項記載の方法を実施するためのプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラムが記憶された、コンピュータ読出し可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムは、評価及び制御ユニット(20)によって実行及び/又は制御されることを特徴とする、コンピュータ読出し可能記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1による車両乗員シート上の乗員の(保護及び)保持のための方法、請求項5による保護及び保持装置のための評価及び制御ユニット、及び請求項8による車両乗員シート上の乗員の保護のための保護及び保持装置、並びにコンピュータプログラム及びコンピュータプログラム製品に関している。
【背景技術】
【0002】
今日の車両の側面構造においては、側面衝突の際に、側面構造部の一部が車両内部へ深く侵入することが甘んじられている。その際車両の乗員は、サイドエアバックによって保護することが可能である。また従来の車両では、客室区画自体が側面衝突に対してできるだけ安定するように設計されてきていた。しかしながらこのようなことは、側面衝突のエネルギーを減衰するために得られる空間が非常に限られたものになってしまうという結果にもつながる。
【0003】
クラッシュの際の最大限の乗員保護を保証するために、従来技法では、フロントエアバック、サイドエアバックまたは頭部エアバック等のエアバック装置が頻繁に用いられてきた。但しこれらのエアバック装置は、車両の乗員が予め定められた定位置にあって、かつ事故直前から事故のときに現われる作用力によって(乗員が)当該定位置から動かされないという前提条件が整った場合にのみ最適に機能するものである。前記定位置に乗員を保持する手段としては、主にシートベルトが多用されている。このシートベルトは、車両シートの予め定められた相応の定位置に車両乗員を保持するものである。しかしながらここで注目すべきことは、主に3点式シートベルトとして設計されているシートベルトが乗員の上体(主に胸部)の広い領域をカバーし当該領域を固定しているために、いずれにしても側面衝突の場合や乗員が想定外の着座位置にあった場合には、ベルトの効果が半減されてしまうことである。そのため車両乗員は事故の際には、例えば側方又は前方に向かってシートベルトをすり抜けて車両シートから抜け落ちる危険性があり、そのときには車両乗員が事故直後ではもはや単独若しくは複数のエアバックの最適な効果領域に存在しなくなることが起きてしまう。
【0004】
そのような側方への滑り抜けを防止するために、国際公開第2004103779号パンフレットからは、例えば車両周辺領域を監視しているセンサー系に依存して駆動制御されるアクティブシートが提案されている。ここでは例えば接近中の車両、ないしは特定の車両と対象物との衝突を検知すると、シートに組み込まれた側面部位が可逆的に、電気式、空気圧式又はバネ駆動方式によって引き起こされるかまたは前方にせり出し、それによって乗員を相応に位置調整することがなされる。
【0005】
発明の概要
請求項1の特徴部分に記載されている、事故時の車両の乗員シート上の乗員を保護及び保持するための本発明による方法が有している利点は、所定のプリクラッシュ状況が識別された場合に、算出された現下の走行状況に依存して、乗員を車両側面構造部から車両中央方向へ加速させるためのポジショニングパルスが生成されることである。そのような危険なプリクラッシュ状況は、例えば次のような場合に識別される。すなわち、間近に迫った側面衝突までの算出された期間が短すぎるか、あるいは走行物理学的に見てもはや介入の余地がドライバーに残されていないような場合である。この短い期間は、例えば車両及び乗員保護システムに合わせて調整された閾値によって設定されてもよい。このことは、間近に迫った側面衝突までの算出される残存期間が所定の閾値を下回った場合に、所定のプリクラッシュ状況が識別されることを意味する。
【0006】
それにたいして、請求項1の特徴部分に記載された事故時の車両の乗員シート上の乗員を保護するための保護及び保持装置のための、本発明による評価及び制御ユニットは、次のような利点を有している。すなわち前記評価及び制御ユニットが所定のプリクラッシュ状況を識別した場合に、当該評価及び制御ユニットが、現下の走行状況に依存して、乗員を車両側方構造部から隔離させて車両中央方向に加速するためのポジショニングパルスを生成し、それが少なくとも1つのインターフェースを介して保護及び保持装置へ送出されることである。さらにこの評価及び制御ユニットは、少なくとも1つのセンサーユニットによって検出される物理量に依存して現下の走行状況と現下で作用している加速度とを求めるために、少なくとも1つのインターフェースを介して少なくとも1つのセンサーユニットに接続されている。
【0007】
本発明による評価及び制御ユニットは、前述したような方法のステップを実施することができるように構成されており、さらにこの評価及び制御ユニットによってコンピュータプログラムが実行される場合には、前述したような方法のステップを制御するコンピュータプログラムを実行することができるように構成されている。本願発明において評価及び制御ユニットとは、センサー信号を処理してこのセンサー信号に依存して制御信号を出力する制御機器のような電子装置のことであると理解することができる。この制御装置は、ハードウエアおよび/またはソフトウエアで構成することが可能な少なくとも1つのインターフェースを有することができる。ハードウエアで構成される場合には、このインターフェースは、例えば制御装置のさまざまな機能を含むいわゆるシステムASICの一部とすることができる。しかし、インターフェースは独立した集積回路であることも、少なくとも部分的にディスクリート部品から形成されていることも可能である。ソフトウエアで実現する場合、上記インターフェースは、例えばマイクロコントローラ上で他のソフトウエアモジュールと並んで存在するソフトウエアモジュールであってもよい。
【0008】
また、半導体メモリ、ハードディスクメモリ又は光学式メモリのような機械によって読取り可能な担体に記憶され、制御装置上で実行したときに上記実施形態に従って上記方法を実行するプログラムコードを含んだ、コンピュータプログラム製品も有利である。
【0009】
本発明による評価及び制御ユニットは、例えば少なくとも1つの調整可能な保持手段を有し、該保持手段が車両横軸方向の加速度に依存して乗員の側方支援を行う事故時の車両の乗員シート上の乗員を保護するための保護及び保持装置において活用することが可能である。この場合少なくとも1つの保持手段が乗員シートに統合され、必要とされる場合に要求に応じて、乗員シートから引き出され、又は再び乗員シートに引き戻される。評価及び制御ユニットによって生成されるポジショニングパルスは、乗員と車両側方構造部の間に配置される調整可能な保持手段を介して乗員に働く。
【0010】
本発明の実施形態は、目前に迫った側面衝突を識別した場合に、側方の生存空間を有利に広げ、侵入してくる側方構造部分から乗員を守るために、乗員が車両中央方向に動かされることを特徴としている。また上述の側方の生存空間の拡大によれば、既存のサイドエアバックの膨張過程も最適化されるようになる。さらに衝突の際の乗員の側方構造部に対する相対速度も減衰させることができる。このことは、側方構造部から離すためのポジショニングパルスと、側方構造部に対するクラッシュパルスとの加算的な重畳にある。
【0011】
従属請求項に記載された手段及びさらなる構成によって、請求項1に記載された方法、請求項5に記載された評価及び制御ユニット、および請求項8に記載された乗員保護のための保護及び保持装置の有利な改善例が可能となる。
【0012】
特に有利には、ポジショニングパルスは、当該ポジショニングパルスに対抗的な作用力が所定の閾値を下回っている場合に、適正位相で、算出された横方向加速度に依存して生成される。前述の適正位相とは、車両中央方向への加速を妨げるような応力には支配されていない状況、あるいは、車両中央方向への加速をたいして妨げない応力に支配されている状況のもとでの、車両中央方向への乗員の加速を意味する。それによって有利には、生成されたポジショニングパルスの効果が改善し、エネルギーの浪費も回避される。なぜなら当該ポジショニングパルスが、乗員の運転操作の結果として現われた横方向加速度への対抗手段を何も講じる必要がなくなるからである。このことは有利には、生成されたポジショニングパルスが相殺されることを阻止する。
【0013】
本発明による方法の別の有利な構成によれば、ポジショニングパルスが、乗員と車両側方構造部との間に配置された保持手段を介して乗員に転換され、その際車両における少なくとも1つの保持手段が、算出された現下の走行状況に依存して、乗員に車両横軸方向の加速度に依存した側方支援が受けられるように動き、さらに当該ポジショニングパルスの転換前に、少なくとも1つの保持手段によって機械的な保持力が、当該少なくとも1つの保持手段を押し返す乗員に作用する。
【0014】
本発明の別の有利な実施形態によれば、前記評価及び制御ユニットは、ポジショニングパルスを、当該ポジショニングパルスに対抗的に作用する応力が所定の閾値を下回っている場合に、適正位相で、算出された横方向加速度に依存して生成する。その際、前記評価及び制御ユニットは、その作用力を、検出された物理量の評価によって求める。
【0015】
本発明の別の有利な実施形態によれば、前記評価及び制御ユニットは、算出された車両横軸方向の加速度に依存して、少なくとも1つの保護及び保持装置への相応の制御信号を介して乗員の側方支援を実行する。
【0016】
本発明による保護及び保持装置の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの保持手段が、少なくとも1つの駆動装置の駆動制御によって調整可能である。前記少なくとも1つの駆動装置は、例えば電気的、及び/又は、機械的、及び/又は、点火式、及び/又は、空気圧式、及び/又は、油圧式のユニットとして実施されてもよい。
【0017】
前記駆動ユニットは、例えば保持要素が、湾曲した軌道を伴う動き、例えば鎌状の動きの中で目標位置にもたらされるように構成されていてもよい。この種の本発明の実施形態から得られる利点は、車両乗員に起こり得る動きがソフトに受止められ、さらに車両乗員がその運動経路中に突然出現する対象と衝突することがなくなることである。さらに前記駆動ユニットは、保持要素が第1の稼働中に乗員シートから離れるように動き、さらに第2の稼働中に再び乗員シートの方へ動くように構成されていてもよい。この場合支持要素の少なくとも一部は、第2の稼働後に目標位置にある。それにより乗員を予め定められた位置に保持する。そのような本発明の実施形態も乗員のソフトな受け入れを可能にする。この場合例えば、最初に支持要素が車両シートのバックレスト側方から斜め前方の車両ドア方向に引き出され、引き続き車両乗員の上体、特に胸部の方向に引き戻される。駆動ユニットは、支持要素が適時に目標位置にもたらされるように構成されおり、これは生成されたポジショニングパルスが乗員に転送され、それによって最適な保護機能が得られるようにするためである。このことは例えば適切なセンサー系、例えば慣性センサー系、予測センサー系を用いて達成され、それらのセンサー系を介して既に衝突対象との接触前に駆動ユニットが駆動制御され活性化される。
【0018】
生じ得る誤ったトリガーによって無駄なコストを引き起こさない、支持装置の早期活性化を可能にするために、駆動ユニットは、支持要素が目標位置から再び初期位置へ戻されるように構成されてもよい。この種の実施形態は、次のような利点をもたらす。すなわち事故時点までの支持要素の早期実行によって既に乗員の良好な保護が得られ、さらに別の安全手段が最適に作用し得る。このケースでは、非可逆的な拘束手段に対するトリガー時間もより長くなるような選択が可能であるので、そのような長い期間によって、実際に出現した事故の識別がより確実となり得る。詳細には非可逆的な拘束手段が早過ぎる時点で不要にトリガーされると、著しく高いコストが車両の修理のために発生する。
【0019】
本発明による保護及び支持装置のさらに別の有利な実施例によれば、少なくとも1つの保持手段が次のように実施される。すなわちポジショニングパルスが乗員の胸部領域ないし上体領域において転換されるように実施される。有利にはこのアプローチポイントは理想的なきっかけを可能にし、ここに位置付けされる介入制御を人間のバイオメカニクスが可能にする。
【0020】
図面には本発明の実施例が示されており、それらは以下の明細書で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による乗員保護システムの保護及び支持装置を備えた自動車の概略的な平面図
図2図1による集積された本発明による保護及び支持装置と共に乗員シート上の乗員を透視図で概略的に表わした図
図3】生成されたポジショニングパルスを概略的に示した図
図4図1から図3による保護及び支持装置の生じ得る応答パターンと共に概略的な加速線図を示した図。
【0022】
発明の実施形態
本発明の実施形態は、事故の際に、乗員に対する保護機能を提供し、さらに別のシステムの保護機能を支援すると同時に向上させるものでもある。特に側面衝突のケースに対して、本発明の実施形態は次のように寄与している。すなわち乗員が側方構造部から離されるように維持されて、構造条件に基づく生存空間が拡大され、それによって全ての拘束及び安全システムがその機能を最適に果たせるように寄与している。
【0023】
図1には、本発明の概要表わすために、さらなる別の構成要素と協調する車両1の乗員保護システム10が示されている。この車両1には、乗員5保護のための保護及び保持装置30の本発明による実施例が含まれている。前記乗員保護システム10は、例えば複数のセンサーユニット42,44を含んでおり、これらのセンサーユニット42,44は、未確認車両の接近を検出するための例えばレーダーセンサー、カメラ、超音波センサーなどを含んだ、周辺状況を検出するための周辺環境センサー系42として実施されるか、及び/又は、未確認車両と自車両1との衝突の際の衝撃を検出するための例えば加速度センサー、容量性センサー、アップフロントセンサー、圧力センサーなどを含んだ、クラッシュセンサー系44として実施される。前記センサーユニット42,44は、対応する物理量を検出し、それらを表わす信号が評価及び制御ユニット20の少なくとも1つのインターフェース22を介して得られる。図示の実施例では、複数の異なるセンサーが1つのクラッシュセンサー系ブロック44に統合されており、この場合の個々のセンサーは車両の様々な箇所に配置されていてもよい。
【0024】
側面衝突を検出するセンサーは、典型的な例ではBピラーの中か、車両重心点の近傍に配置される。前記評価及び制御ユニット20は、受信した信号を評価し、乗員保護システム10の安全手段のための対応する制御信号を生成する。前記安全手段としては、例えば、所要の状況に応じて、車両1のハンドル及び/又はインストルメントコンソールからのフロントエアバック52、車両1のドア及び/又は乗員シート60のサイドエアバック54,及び/又は、車両1のルーフピラーのヘッドエアバック56が、車両乗員5と車両1の対応する構造要素との衝突を避けるために、トリガーされ得る。さらに前記保護及び保持装置30は、車両シート60からの車両乗員5の滑り落ちを防いでいる。そのために前記保護及び保持装置30は、少なくとも1つの保持手段34を含んでおり、この保持手段34は、駆動部32から出発して車両シート60の側方から出ており、車両乗員5をエアバック52,54,56のための最適な位置に保持し、それによって当該車両乗員5をできるだけ中央の最適な位置に配向して、相応に膨張したエアバック52,54,56の中に突入させ、対応するエアバック52,54,56から当該乗員が側方へ滑り出ることを阻止している。前記保持手段34は、例えば図2に示されているように、車両シートのサイドウォールの形態でバックレスト62及び/又は座面64において実現されてもよい。それらは未確認車両と自車両1との実際の衝突前に展開し、それによって乗員5の横方向の側面支持が改善される。
【0025】
図2又は図3からもさらに明らかなように、調節可能な保持手段34は、車両横軸yの方向の加速度ayに依存して乗員5の側方支持を行う。このために前記保持手段34は、必要とされるときに要求に応じて乗員シート60から引き出され、または再び乗員シート60に引き込まれる。
【0026】
本発明によれば、前記評価及び制御ユニット20が所定のプリクラッシュ状況を識別した場合に、当該評価及び制御ユニット20は、乗員5が車両側方構造部3から離れて車両中央方向に加速するように、現下の走行状況に依存してポジショニングパルスIyを生成し、このポジショニングパルスIyを少なくとも1つのインターフェース22を介して保護及び支持装置30に送出する。評価及び制御ユニット20は、例えば、間近に迫った側面衝突までの算出される残存期間が所定の閾値を下回った場合に、所定のプリクラッシュ状況を識別する。保護及び支持装置30に送出されるポジショニングパルスIyは、駆動部32と、乗員5と車両側方構造部3の間に配置された調節可能な保持手段34とを介して、乗員5に転換され、それによって乗員5が車両側方構造部3から離れて車両中央方向に移動する。少なくとも1つの保持手段34は、有利には、次のように構成されてもよい。すなわちポジショニングパルスIyが、乗員5の上体領域5.1に転換されるように構成されていてもよい。このアプローチポイントは、乗員5を車両中央方向に移動させるために、理想的なきっかけとなり得る。ここでは人間のバイオメカニクスが位置決めのための介入制御を可能にしている。
【0027】
評価及び制御ユニット20は、少なくとも1つのセンサーユニット42,44によって検出される物理量に依存して、現下の走行状況と現下の加速度ayとを求める。その場合評価及び制御ユニット20は、車両横軸y方向で算出された加速度ayに依存して、保護及び支持装置30への相応の制御信号を介して乗員5の側方支持を行う。効果の改善のために、前記評価及び制御ユニット20は、ポジショニングパルスIyを、当該ポジショニングパルスIyに対抗的な作用力が所定の閾値を下回っている場合に、適正位相で、算出された横方向加速度ayに依存して生成する。その際、前記評価及び制御ユニット20は、当該作用力を、検出された物理量の評価によって求める。可能な応答パターン例は図4に示されている。
【0028】
図4から見て取れるように、評価及び制御ユニット20は、例えば走行時の操縦操作に基づいて車両1の正の横方向加速度ayが求められた場合には、すなわち乗員5が車両側方構造部3方向へ移動している場合には、ポジショニングパルスIyを何も生成しない。この運動に対抗的に作用するためには、評価及び制御ユニット20は、当該期間中に駆動部32と保持手段34とを介して乗員5を所定のポジションに保持するための所定の保持力F0を得る。図4から読み取れるように、前記評価及び制御ユニット20は、ポジショニングパルスIyに対抗する応力が何も検出されない場合ないしは車両1の正の横方向加速度ayが何も検出されない場合、すなわち、乗員5が車両側方構造部3から離れて車両中央方向に移動している場合には、ポジショニングパルスIyを生成する。
【0029】
ESA(Enveloping Side Adjustment)装置とも称される前記保護及び支持装置30は、特に、既存の乗員拘束システムと協働して、当該拘束システムの効果を倍増させることが可能である。図示の実施例では、乗員保護システム10の拘束手段として、バックレスト62、座面64及びヘッドレスト66を備えた乗員シート60と、安全ベルト68と、フロントエアバック52と、サイドエアバック54と、頭部エアバック56と、保護及び保持装置30とが設けられている。前記保護及び支持装置30の作用は、ベルト68によって支援されており、未確認車両の衝突側に対する横方向の乗員の動きを大幅に抑制している。またベルト68自体も所定の形式で横方向の乗員の動きを抑えているが、前記保護及び支持装置30ほどではない。そのような横方向の乗員移動は、生存領域の著しい縮小となり、それによってサイドエアバック54の効果的な作用、特にその有効なボリュームが制限されてしまう。この場合大きなエアバックこそが生存空間を拡大させるのにである。生存空間の拡大とエアバック容積の拡大は、重度の負傷を低減させる。それにより、保護及び支持装置30への本発明によるポジショニングパルスIyの導入は、車両側方構造部3方向への横方向乗員移動の抑制を介して、ないしは生成された車両中央方向への横方向乗員移動を介して、残りの拘束手段による保護機能の向上につながる。これに伴って乗員の側方構造部への衝突速度の低減が達成される。
【0030】
快適な動作のためには、前記保護及び支持装置30の支持手段24の駆動部32が、乗員5によるマニュアル操作か、又は全自動かないしは一部の自動化によって快適走行のための条件にマッチングさせることが可能である。例えば一例として、上位クラスの公知の車両においては、走行動特性に合わせた側面支持やアクティブなバックレスト幅の調整などが行われており、それらの機能も当該保持装置を備えた車両シートにおいて十分に適用可能である。プリクラッシュ検出の際、すなわちさし迫った事故状況を、実際の衝突事故が起きる直前に検出した場合には、乗員シート60の保護及び支持装置30の支持手段34としてサイドウォールが、乗員5がシートからずり落ちないようにではなく、付加的な側方支援が受けられるように引き出される。この方法は1つ若しくは複数の段階で行われる。そのため乗員シート60に統合された保持手段34が統括的に、又は危険状況に応じて、個別に駆動部32によって駆動されるかないしは稼働され、乗員5を側方から支持する。その後のさらなる段階においては、乗員5を車両中央方向に移動させるためのポジショニングパルスIyが適切な時点で生成される。駆動部32は、保持手段34を様々な方向に動かし調整することの可能な電動ユニットであってもよいし、空気圧式ユニットであってもよい。前記駆動部32のアクチュエータとしては、基本的には全ての適切な機械要素が個別に考えられ、あるいは、例えば電動モータとラック/旋回ディスク、空気圧シリンダとの組み合わせ、及び/又は、ふいご、バネ要素と電磁式若しくはその他の方式のトリガー機構との組み合わせなどが考えられる。
【0031】
本発明の実施形態は、回路、装置、方法、プログラムコード手段を備えたデータ処理プログラム、及び/又はコンピュータプログラム製品として実現可能である。相応に、本発明は、完全にハードウエアとして、及び/又は、完全にソフトウエアとして、及び/又は、ハードウエアコンポーネント及び/又はソフトウエアコンポーネントからの組合わせとして実現可能である。さらに本発明はコンピュータで読出し可能なプログラムコードを備えたコンピュータ支援される記憶媒体上のコンピュータプログラムの製品として実現されてもよい。その際には、コンピュータで読出し可能な様々な記憶媒体、例えばハードディスク、CD−ROM、光学的又は磁気的記憶媒体などが利用される。
【0032】
コンピュータで使用可能又はコンピュータで読出し可能な媒体は、例えば電子的、磁気的、光学的、電磁的、赤外線式又は半導体系の装置、機器、又は拡張媒体等を含む。さらに、コンピュータで読出し可能な媒体には、1つ若しくは複数の導体路を伴う電気的な接続線路、携帯型のフロッピーディスク、RAM、ROM、消去とプログラミングの可能なEPROM、又はフラッシュメモリ、光学的線路、携帯型CD−ROMなどを含んでいてもよい。コンピュータで使用可能またはコンピュータで読出し可能な媒体は、次のようなペーパー若しくはその他の適切な媒体であってもよい。すなわちプログラムが書込まれており、それらが例えばペーパー若しくはその他の媒体の光沢的な走査過程によって電気的に検出され、さらにそこからコンパイル、インタープリター若しくは場合によってはその他の方式で処理されて、コンピュータメモリ内に記憶されるようなものであってもよい。
【0033】
本発明の実施形態によれば、乗員の上体に作用するポジショニングパルスを生成し得る有利な形態の効果的な電動式システムが得られる。本発明のこれらの実施形態はESA−システムの拡張部分と見なされてもよい。最も簡単な直接的置換えは、走行状況に依存したポジショニングパルスの活性化である。ドライバーが間近に迫る側面衝突までの短い期間若しくは走行特性に基づいて何等かの介入手段を持つことのできない、危険なプリクラッシュ状況が発生すると、ポジションイングパルスが活動化されて乗員を車両中央方向へ加速させる。この機能性は、有利には、次のことによってさらなる拡張が可能である。すなわち乗員に、側方構造部から離れて車両中央方向に向かわせるできるだけ早い速度を与えるためのポジショニングパルスを作成するために、車両の横方向加速度を検出して評価することである。それ故このポジショニングパルスは、車両中央方向への当該加速度を著しく阻害する作用力が何も発生していない場合には"適切な位相"で生成され、乗員の上体が保持手段によって加速されることとなる。
図1
図2
図3
図4