特許第5661950号(P5661950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661950
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】磁気ディスク用ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20150108BHJP
【FI】
   G11B5/84 A
【請求項の数】3
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-551871(P2013-551871)
(86)(22)【出願日】2012年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2012084234
(87)【国際公開番号】WO2013100154
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2014年5月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-290431(P2011-290431)
(32)【優先日】2011年12月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-290432(P2011-290432)
(32)【優先日】2011年12月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 京介
(72)【発明者】
【氏名】岩間 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉丸 剛太郎
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−053965(JP,A)
【文献】 特開平10−121034(JP,A)
【文献】 特開2011−207626(JP,A)
【文献】 特開2008−176843(JP,A)
【文献】 特開2001−162510(JP,A)
【文献】 特開2009−173538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84−5/858
G11B 5/62−5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主表面と当該一対の主表面に直交する側壁面とを備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
ディスク形状のガラス素板をキャリアに保持させて、当該ガラス素板の主表面を研磨パッドで挟み、ガラス素板と研磨パッドとの間に、ジルコニア粒子を研磨砥粒として有する研磨液を供給して、研磨パッドとガラス素板を相対的に移動させることで、ガラス素板の主表面を研磨する研磨工程と、
前記研磨工程の後で、前記ガラス素板の側壁面又は主表面が研磨される際に、当該ガラス素板の側壁面と、ガラス基板の側壁面に対向するキャリアの端面とが擦れることによってガラス素板の側壁面に固着したジルコニア粒子を、物理的に除去する除去工程と、
を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
一対の主表面と当該一対の主表面に直交する側壁面とを備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
ディスク形状のガラス素板をキャリアに保持させて、当該ガラス素板の主表面を研磨パッドで挟み、ガラス素板と研磨パッドとの間に、ジルコニア粒子を研磨砥粒として有する研磨液を供給して、研磨パッドとガラス素板を相対的に移動させることで、ガラス素板の主表面を研磨する第1の研磨工程と、
前記ガラス素板を前記キャリアに保持させて、当該ガラス素板の主表面を前記研磨パッドで挟み、ガラス素板と研磨パッドとの間、および、ガラス素板の側壁面とキャリアの端面との間に、ジルコニア粒子以外の砥粒を研磨砥粒として有する研磨液を供給して、研磨パッドとガラス素板を相対的に移動させることで、当該ガラス素板の主表面を研磨する第2の研磨工程と、
を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2の研磨工程では、前記ガラス素板と前記キャリアの間の最大隙間は、0.5mm以上であることを特徴とする、請求項に記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッドで磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板として、金属基板(アルミニウム基板)等に比べて塑性変形し難い性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられる。
【0003】
また、ハードディスク装置における記憶容量の増大の要請を受けて、磁気記録の高密度化が図られている。例えば、磁性層における磁化方向を基板の面に対して垂直方向にする垂直磁気記録方式を用いて、磁気記録情報エリア(記録ビット)の微細化が行われている。これにより、1枚のディスク基板における記憶容量を増大させることができる。さらに、記憶容量の一層の増大化のために、磁気ヘッドの記録再生素子部をさらに突き出すことによって磁気記録層との距離を極めて短くして、情報の記録再生の精度をより高める(S/N比を向上させる)ことも行われている。なお、このような磁気ヘッドの記録再生素子部の制御はDFH(Dynamic Flying Height)制御機構と呼ばれ、この制御機構を搭載した磁気ヘッドはDFHヘッドと呼ばれている。このようなDFHヘッドと組み合わされてHDDに用いられる磁気ディスク用の基板においては、磁気ヘッドやそこからさらに突き出された記録再生素子部との衝突や接触を避けるために、基板の表面凹凸は極めて小さくなるように作製されている。
【0004】
磁気ディスク用ガラス基板を作製する工程には、プレス成形後に平板状となったガラス素板の主表面に対して固定砥粒による研削を行う研削工程と、この研削工程によって主表面に残留したキズ、歪みの除去を目的として主表面の研磨工程が含まれる。
従来、上記主表面の研磨工程においては、研磨材として酸化セリウム(二酸化セリウム)砥粒を用いる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法が知られている(特許文献1)。
当該方法では、研削工程後、ガラス素板の端面研磨後、酸化セリウムを遊離砥粒として用いた主表面の研磨(第1研磨)が行われ、この後、ガラス素板に化学強化が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−254166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、希少金属で比較的入手困難な酸化セリウムの研磨材の代替として、比較的入手が容易で、ガラス製品において研磨材として従来から知られているジルコニア(二酸化ジルコニウム)を用いることが考えられる。
しかし、上記ジルコニアをガラス素板の遊離砥粒の研磨材として作製したガラス基板に磁気層を成膜して磁気ディスクを作製した場合、酸化セリウムを研磨材として用いて作製したガラス基板に比べて、磁気ヘッドを用いた長時間のLUL試験において、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合を起こすことが相対的に多くなることがわかった。
【0007】
そこで、本発明は、ジルコニア砥粒を遊離砥粒の研磨材として用いて研磨を行って磁気ディスク用ガラス基板を製造するとき、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合を起こし難い磁気ディスク用ガラス基板を製造することができる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、ジルコニア砥粒を遊離砥粒の研磨材として用いて研磨を行って製造された磁気ディスク用ガラス基板が、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合を起こす原因を究明するために鋭意検討した。その結果、ガラス基板の主表面には、鏡面仕上げの研磨後、主表面が十分に洗浄されて粒子等が取り除かれても、磁性層の成膜時、主表面にジルコニア粒子が付着している場合があることがわかった。この場合、ジルコニア粒子の上方に磁性層が積層されて磁性層の表面に微小凹凸が形成される。そして、この微小凹凸がヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合の原因となる。さらに、ガラス基板の主表面に付着したジルコニア粒子は、研磨に用いたジルコニア砥粒の一部分であって、ガラス基板の外周面及び内周面の側壁面に付着したものである可能性が高いこともわかった。このような問題は、研磨材として酸化セリウム、シリカ等の他の砥粒を用いた場合は起こらなかったが、ジルコニア砥粒を用いることで起こるようになった。なお、ガラス基板に付着したジルコニア粒子を効果的に除去する洗浄方法は確立されていない。なお、本明細書において、「固着する」とは、例えば、ジルコニア粒子がガラス素板の側壁面に突き刺さって固定されることをいう。なお、本明細書において、「付着する」という場合は、例えば、ジルコニア粒子が単純にガラス素板の主表面に残留することの意味のほか、ジルコニウム粒子がガラス素板の側壁面に固着することの意味に解してもよい。
【0009】
本願発明者らは、主表面が十分に洗浄されて粒子等が取り除かれても、磁性層の成膜時、主表面にジルコニア粒子が付着している場合がある理由を、以下のとおり考えている。つまり、ジルコニア砥粒による主表面研磨によってガラス素板にジルコニア粒子が残留した場合でも、その後の主表面に対する最終研磨によって主表面に残留したジルコニア粒子は除去されるが、ガラス素板の側壁面に残留あるいは付着したジルコニア粒子は、その後のガラス素板の洗浄によっては除去されない。特に、ジルコニア砥粒による主表面研磨において、ガラス素板をキャリアに保持させて行う場合には、研磨中にガラス素板がキャリアに当接することによってジルコニア粒子がガラス素板の側壁面に固着すると考えられる。
このようにガラス素板をキャリアに保持させて主表面研磨を行う場合に、ジルコニア粒子がガラス素板に固着する原因として、研磨材としてジルコニア砥粒を用いた場合は、酸化セリウム砥粒を用いる場合と比べ、ガラス素板に対して遥かに強い力で研磨パッドを押さえ付けていることや、定盤やキャリアを、酸化セリウムを用いる場合よりも速い回転速度で研磨パッドに対して回転(相対的に移動)させていることが考えられる。ジルコニア砥粒を用いた場合に、このような厳しい条件で主表面研磨を行う理由は、酸化セリウム砥粒を用いる場合と同じ条件で行っていたのでは、酸化セリウム砥粒を用いた場合と比べ加工レートが著しく低下するためである。
【0010】
そして、ジルコニア砥粒による主表面研磨の後の工程において、側壁面に付着していたジルコニア粒子が離脱してガラス素板あるいは磁気ディスク用ガラス基板の主表面に付着すると推察される。例えば、ガラス素板の主表面研磨の後には、主表面の表面性状を悪化させることがないように、工程上ガラス素板あるいは磁気ディスク用ガラス基板の側壁面が把持されるが、それによってジルコニア粒子が離脱することが考えられる。複数のガラス素板や磁気ディスク用ガラス基板をホルダに装着して洗浄槽あるいは化学強化液槽に浸漬させる工程が存在する場合には、カセットに側壁面が当接することでジルコニア粒子が離脱し、それよってジルコニア粒子が主表面に付着することも考えられる。
上述した点を鑑み、本願発明者らは、下記記載の態様の発明を想到するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一態様は、一対の主表面と当該一対の主表面に直交する側壁面とを備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、ディスク形状のガラス素板をキャリアに保持させて、当該ガラス素板の主表面を研磨パッドで挟み、ガラス素板と研磨パッドとの間に、ジルコニア粒子を研磨砥粒として有する研磨液を供給して、研磨パッドとガラス素板を相対的に移動させることで、ガラス素板の主表面を研磨する研磨工程と、前記研磨工程の後で、前記ガラス素板の側壁面又は主表面が研磨される際に、当該ガラス素板の側壁面と、ガラス基板の側壁面と対向するキャリアの端面とが擦れることでガラス素板の側壁面に付着したジルコニア粒子を、物理的に除去する除去工程と、を含む。
【0012】
本発明の別の一態様は、一対の主表面と当該一対の主表面に直交する側壁面とを備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、ディスク形状のガラス素板をキャリアに保持させて、当該ガラス素板の主表面を研磨パッドで挟み、ガラス素板と研磨パッドとの間に、ジルコニア粒子を研磨砥粒として有する研磨液を供給して、研磨パッドとガラス素板を相対的に移動させることで、ガラス素板の主表面を研磨する主表面研磨工程と、前記主表面研磨工程の後で、前記主表面研磨工程において前記キャリアの端面と接触していたガラス素板の側壁面を研磨する端面研磨工程と、を含む。
【0013】
本発明のさらに別の一態様は、一対の主表面と当該一対の主表面に直交する側壁面とを備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、ディスク形状のガラス素板をキャリアに保持させて、当該ガラス素板の主表面を研磨パッドで挟み、ガラス素板と研磨パッドとの間に、ジルコニア粒子を研磨砥粒として有する研磨液を供給して、研磨パッドとガラス素板を相対的に移動させることで、ガラス素板の主表面を研磨する第1の研磨工程と、前記ガラス素板を前記キャリアに保持させて、当該ガラス素板の主表面を前記研磨パッドで挟み、ガラス素板と研磨パッドとの間、および、ガラス素板の側壁面とキャリアの端面との間に、ジルコニア粒子以外の砥粒を研磨砥粒として有する研磨液を供給して、研磨パッドとガラス素板を相対的に移動させることで、当該ガラス素板の主表面を研磨する第2の研磨工程と、を含む。
【0014】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の第2の研磨工程において、前記ガラス素板と前記キャリアの間の最大隙間は、0.5mm以上であることが好ましい。
【0015】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、前記ガラス素板の側壁面と接触する前記キャリアの端面の表面粗さが5μm以下であることが好ましい。
【0016】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、前記ジルコニア粒子を有する研磨液を用いて研磨される前のガラス素板の側壁面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.1μm以下であることが好ましい。
【0017】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、前記磁気ディスク用ガラス基板は、直径が2.5インチサイズよりも大きく、かつ、板厚が0.6mm以下である場合に好適に行われる。
【0018】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記ガラス素板の側壁面を研磨するときに固定砥粒を用いて研磨することが好ましい。
【0019】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記ガラス素板の側壁面を研磨するときに遊離砥粒を用いて研磨してもよく、その場合、当該遊離砥粒のサイズがジルコニアの前記研磨砥粒のサイズよりも小さいことが好ましい。
【0020】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記ガラス素板の側壁面を研磨した後に、ガラス素板に対して化学強化を施すことが好ましい。
【0021】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の第1の研磨工程の前に、前記ガラス素板の側壁面を研磨することが好ましい。
【0022】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の第2の研磨工程の後に、前記ガラス素板に化学強化を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上述の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、ジルコニア砥粒を遊離砥粒の研磨材として用いて研磨を行って磁気ディスク用ガラス基板を製造するとき、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合を起こし難い磁気ディスク用ガラス基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態のガラス基板の製造方法のフローの一例を示す図。
図2】第1研磨工程で使用される研磨装置(両面研磨装置)の分解斜視図。
図3】第1研磨工程で使用される研磨装置(両面研磨装置)の断面図。
図4】第2実施形態のガラス基板の製造方法のフローの一例を示す図。
図5】キャリアと研磨中のガラス基板の間の隙間を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
(1)第1実施形態
まず、第1実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。
【0026】
[磁気ディスク用ガラス基板]
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
【0027】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の組成を限定するものではないが、本実施形態のガラス基板は好ましくは、酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、有する組成からなるアルミノシリケートガラスである。
【0028】
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板は、円環状の薄板のガラス基板である。磁気ディスク用ガラス基板のサイズは問わないが、例えば、公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板として好適である。
【0029】
[磁気ディスク用ガラス基板の製造方法]
以下、第1実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について、図1に示す工程毎に説明する。ただし、各工程の順番は適宜入れ替えてもよい。
【0030】
(1)ガラス素板の成形(S10)およびラッピング工程(S12)
例えばフロート法によるガラス素板の成形工程では先ず、錫などの溶融金属の満たされた浴槽内に、例えば上述した組成の溶融ガラスを連続的に流し入れることで板状ガラスを得る。溶融ガラスは厳密な温度操作が施された浴槽内で進行方向に沿って流れ、最終的に所望の厚さ、幅に調整された板状ガラスが形成される。この板状ガラスから、磁気ディスク用ガラス基板の元となる所定形状のガラス素板が切り出される。浴槽内の溶融錫の表面は水平であるために、フロート法により得られるガラス素板は、その表面の平坦度が十分に高いものとなる。
また、例えばプレス成形法よるガラス素板の成形工程では、受けゴブ形成型である下型上に、溶融ガラスからなるガラスゴブが供給され、下型と対向ゴブ形成型である上型を使用してガラスゴブがプレス成形される。より具体的には、下型上に溶融ガラスからなるガラスゴブを供給した後に上型用胴型の下面と下型用胴型の上面を当接させ、上型と上型用胴型との摺動面および下型と下型用胴型との摺動面を超えて外側に肉薄ガラス素板の成形空間を形成し、さらに上型を下降してプレス成形を行い、プレス成形直後に上型を上昇する。これにより、磁気ディスク用ガラス基板の元となるガラス素板が成形される。
なお、ガラス素板は、上述した方法に限らず、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。
【0031】
次に、所定形状に切り出されたガラス素板の両主表面に対して、必要に応じて、アルミナ系遊離砥粒を用いたラッピング加工を行う。具体的には、ガラス素板の両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液(スラリー)をガラス素板の主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行う。なお、フロート法でガラス素板を成形した場合には、成形後の主表面の粗さの精度が高いため、このラッピング加工を省略してもよい。
【0032】
(2)コアリング工程(S14)
円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、ガラス素板の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス素板とする。
【0033】
(3)チャンファリング工程(S16)
コアリング工程の後、端部(外周端部及び内周端部)に面取り部を形成するチャンファリング工程が行われる。チャンファリング工程では、円環状のガラス素板の外周端部及び内周端部に対して、例えば、ダイヤモンド砥粒を用いたメタルボンド砥石等によって面取りが施され、面取り部が形成される。
【0034】
(4)固定砥粒による研削工程(S18)
固定砥粒による研削工程では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて円環状のガラス素板の主表面に対して研削加工を行う。研削による取り代は、例えば数μm〜100μm程度である。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間に円環状のガラス素板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作することにより、ガラス素板と各定盤とを相対的に移動させることで、ガラス素板の両主表面を研削することができる。
【0035】
(5)第1研磨(主表面研磨)工程(S20)
次に、研削されたガラス素板の主表面に第1研磨が施される。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。第1研磨は、固定砥粒による研削により主表面に残留したキズ、歪みの除去、うねり、微小うねりの調整を目的とする。なお、第1研磨を行う前のガラス素板の側壁面の表面粗さ(Ra)は、0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。ここでいう表面粗さ(Ra)は、触針式粗さ計で測定できる。ガラス素板の側壁面の表面粗さがこのように小さいことによって、キャリアとの接触面積を大きくすることができるので、間に入り込む砥粒が増加して、よりたくさんの砥粒に力が分散することになるので、ZrO粒子が突き刺さりにくくなる。また、粗さが小さいと、キャリアと接触したときにキャリアによるキズも入りにくくなるので、そのキズに捕捉されるZrO砥粒が減ることで、ガラス素板の側壁面に突き刺さる確率を間接的にも小さくすることができる。そのため、第1研磨が行われる間に、ガラス素板の側壁面にジルコニア砥粒が刺さる等して固着することが起こりにくくなる。
[研磨装置]
第1研磨工程で使用される研磨装置について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、第1研磨工程で使用される研磨装置(両面研磨装置)の分解斜視図である。図3は、第1研磨工程で使用される研磨装置(両面研磨装置)の断面図である。なお、この研磨装置と同様の構成は、上述した研削工程に使用される研削装置においても適用できる。
【0036】
図2に示すように、研磨装置は、上下一対の定盤、すなわち上定盤40および下定盤50を有している。上定盤40および下定盤50の間に円環状のガラス素板Gが狭持され、上定盤40または下定盤50のいずれか一方、または、双方を移動操作することにより、ガラス素板Gと各定盤とを相対的に移動させることで、このガラス素板Gの両主表面を研磨することができる。
【0037】
図2及び図3を参照して研磨装置の構成をさらに具体的に説明する。
研磨装置において、下定盤50の上面および上定盤40の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド10が取り付けられている。キャリア30(保持部材)は、外周部に設けられて太陽歯車61及び内歯車62に噛合する歯部31と、ガラス素板Gを収容し保持するための1または複数の孔部31とを有する。孔部31のうちガラス素板の側壁面と接触する端面(ガラス素板の側壁面と対向する壁面)、の表面粗さは、5μm以下、好ましくは3μm以下である。ここでいう表面粗さ(Ra) は、触針式粗さ計を用いて、孔部31の端面に対し円周方向に針を動かすことで測定できる。キャリアの孔部31の端面の表面粗さがこのように小さいことによって、ガラス素板との接触面積を大きくすることができるので、間に入り込む砥粒が増加して、よりたくさんの砥粒に力が分散することになるので、ZrO粒子が突き刺さりにくくなる。また、粗さが小さいと、ガラス素板と接触したときにガラス素板にキズも入りにくくなるので、そのキズに捕捉されるZrO砥粒が減ることで、ガラス素板の側壁面に突き刺さる確率を間接的にも小さくすることができる。第1研磨が行われる間に、ガラス素板の側壁面が荒らされすぎることが抑えられ、側壁面にジルコニア砥粒が固着しにくくなる。
太陽歯車61、外縁に設けられた内歯車62および円板状のキャリア30は全体として、中心軸CTRを中心とする遊星歯車機構を構成する。円板状のキャリア30は、内周側で太陽歯車61に噛合し、かつ外周側で内歯車62に噛合するともに、ガラス素板G(ワーク)を1または複数を収容し保持する。下定盤50上では、キャリア30が遊星歯車として自転しながら公転し、ガラス素板Gと下定盤50とが相対的に移動させられる。例えば、太陽歯車61がCCW(反時計回り)の方向に回転すれば、キャリア30はCW(時計回り)の方向に回転し、内歯車62はCCWの方向に回転する。その結果、研磨パッド10とガラス素板Gの間に相対運動が生じる。同様にして、ガラス素板Gと上定盤40とを相対的に移動させてよい。
【0038】
上記相対運動の動作中には、上定盤40がガラス素板Gに対して(つまり、鉛直方向に)所定の荷重で押圧され、ガラス素板Gに対して研磨パッド10が押圧される。また、図示しないポンプによって研磨液(スラリー)が、研磨液供給タンク71から1または複数の配管72を経由してガラス素板Gと研磨パッド10の間に供給される。この研磨液に含まれる研磨材によってガラス素板Gの主表面が研磨される。ここで、ガラス素板Gの研磨に使用された研磨液は上下定盤から排出され、図示しないフィルタ及びリターン配管によって研磨液供給タンク71へ戻されて再使用されるのが好ましい。
【0039】
なお、この研磨装置では、ガラス素板Gに対する所望の研磨負荷を設定する目的で、ガラス素板Gに与えられる上定盤40の荷重が調整されることが好ましい。荷重は、高研磨速度達成、および、ガラス素板に対するスクラッチの抑制の観点から50g/cm以上が好ましく、70g/cm以上がより好ましく、90g/cm以上がさらに好ましい。またスクラッチ低減及び品質安定化の観点から、研磨荷重は180g/cm以下が好ましく、160g/cm以下がより好ましく、140g/cm以下がさらに好ましい。すなわち、荷重は、50g/cm〜180g/cmが好ましく、70g/cm〜160g/cmがより好ましく、90g/cm〜140g/cmがさらに好ましい。また、この研磨装置では、酸化セリウム砥粒を用いて研磨を行う場合と同程度以上の加工レートを達成する目的で、ガラス素板Gに与えられる上定盤40の荷重が調整されてもよい。荷重は、高研磨速度達成の観点から120g/cm以上が好ましく、130g/cm以上がより好ましく、150g/cm以上がさらに好ましい。また、高研磨速度達成の観点から、さらに、定盤回転数を35rpm以上とすることが好ましく、50rpm以上とするとより好ましい。また、太陽歯車61の回転速度は、1rpm以上が好ましく、2rpm以上がより好ましい。
【0040】
研磨加工時の研磨液の供給速度は、研磨パッド10、研磨液の組成及び濃度、ガラス素板Gの大きさによって異なるが、研磨速度を向上させつつガラス素板に対するスクラッチを抑制する観点から500〜5000ml/分が好ましく、より好ましくは1000〜4500ml/分であり、さらに好ましくは1500〜4000ml/分である。
【0041】
2および図3の研磨装置に使用する研磨液は、ジルコニア(ZrO2)砥粒を研磨材として含む。
ジルコニア砥粒の平均粒径(D50)は、研磨速度を向上させる観点から0.10〜0.60μmが好ましく、0.2〜0.4μmがより好ましい。ここで平均粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さいほうから計算して50%となる粒径を意味している。また、同様に砥粒全数を有効活用して研磨速度を向上させる観点から砥粒の粒径を揃えることがよく、研磨液内のジルコニア砥粒の標準偏差(SD)は1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下である。
【0042】
第1研磨工程では、ガラス素板の主表面の表面凹凸について、粗さ(Ra)を0.5nm以下とし、かつマイクロウェービネス(MW-Rq)を0.5nm以下とするように研磨を行う。ここで、マイクロウェービネスは、主表面全面の半径14.0〜31.5mmの領域における波長帯域100〜500μmの粗さとして算出されるRMS(Rq)値で表すことができ、例えば、ポリテック社製のModel−4224を用いて計測できる。
主表面の粗さは、JIS B0601:2001により規定される算術平均粗さRaで表され、0.006μm以上200μm以下の場合は、例えば、ミツトヨ社製粗さ測定機SV−3100で測定し、JIS B0633:2001で規定される方法で算出できる。その結果、粗さが0.03μm以下であった場合は、例えば、日本Veeco社製走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡;AFM)ナノスコープで計測しJIS R1683:2007で規定される方法で算出できる。本願においては、1μm×1μm角の測定エリアにおいて、512×512ピクセルの解像度で測定したときの算術平均粗さRaを用いることができる。
【0043】
(6)端面研磨工程(S22)
次に、円環状のガラス素板の端面研磨(エッジポリッシング)が行われる。
端面研磨では、ガラス素板の内周側の側壁面(端面)及び外周側の側壁面(端面)に対して端面研磨を行う。端面研磨を行うことにより、ガラス素板の側壁面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、サーマルアスペリティの発生の防止や、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。さらに、端面研磨を行うことによって、上述した第1研磨工程においてガラス素板Gの側壁面に付着しうるジルコニア粒子を物理的に除去することができる(除去工程)。なお、本明細書にいう、ジルコニア粒子を物理的に除去することには、エッチング処理、スクラブ洗浄等によってジルコニア粒子をガラス素板から除去する態様は含まれない。
端面研磨によるガラス素板の側壁面の取り代は、30μm以上、好ましくは50μm以上である。これにより、ガラス素板の側壁面に付着したジルコニア粒子を確実に除去できる。
【0044】
ガラス素板Gの側壁面に付着したジルコニア粒子を研磨によって除去するためには、固定砥粒を用いた研磨、及び遊離砥粒を用いた研磨のいずれでもよいが、固定砥粒の方が好ましい。これは、以下の理由による。例えば、スペーサを挟んでガラス素板を積層させた積層体に対して端面研磨を行う場合、ガラス素板の主表面と平行な方向の個々のガラス基板の積層時のずれを考慮して、スペーサは、ガラス素板の側壁面よりも内側(ガラス素板の中心側)に位置するように寸法決めされている。そのため、ガラス素板の積層時には、個々のガラス素板の主表面の外周縁部が僅かではあるが露出した状態となっている。この状態で、積層体に対して遊離砥粒を用いた端面研磨を行うと、露出したガラス素板の主表面の外周縁部に遊離砥粒が入り込んで表面を荒らす(傷つける)虞がある。従って、端面研磨では、遊離砥粒を用いた研磨よりも、主表面の外周縁部を砥粒により荒らすことがない固定砥粒を用いた研磨が好ましい。
【0045】
固定砥粒を用いた研磨では、固定砥粒として、例えば、硬質ウレタンパッド(JIS-A硬度:60〜95)に対してセリウム等のジルコニア以外の研磨材を含有させたものが用いられることが好ましい。前工程の第1研磨工程においてジルコニア粒子が付着するのはガラス素板の側壁面であるため、ガラス素板の積層体に対して研磨を行う場合には、個々のガラス素板の側壁面によって構成される積層体の側面に平行な面を備えたウレタンパッド等で研磨すればよい。
【0046】
一方、遊離砥粒を用いて端面研磨を行う場合には、例えば、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリー(研磨液)を用いたブラシ研磨であってよい。このとき、端面研磨で用いられる遊離砥粒のサイズは、第1研磨で用いられるジルコニア砥粒のサイズよりも小さいことが好ましい。これは、端面研磨中に遊離砥粒がガラス素板の主表面に入り込んだ場合であっても、その遊離砥粒がジルコニア粒子よりも小さいために、第1研磨工程で得られた表面性状を悪化させることがないためである。例えば、遊離砥粒の粒径の平均値(D50)は0.3〜1.0μmである。
【0047】
(7)化学強化工程(S24)
次に、第1研磨後のガラス素板は化学強化される。
化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60重量%)と硫酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用いることができる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄したガラス素板が、例えば200℃〜300℃に予熱された後、ガラス素板が化学強化液中に、例えば1時間〜5時間浸漬される。この浸漬の際には、ガラス素板の両主表面全体が化学強化されるように、複数のガラス素板が側壁面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
このように、ガラス素板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス素板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス素板が強化される。なお、化学強化処理されたガラス素板は洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水等で洗浄される。
【0048】
(8)第2研磨(最終研磨)工程(S26)
次に、化学強化されて十分に洗浄されたガラス素板に最終研磨が施される。最終研磨による取り代は、5μm以下である。第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。最終研磨では例えば、第1研磨で用いた研磨装置を用いる。このとき、第1研磨と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径10〜50nm程度)が用いられる。
研磨されたガラス素板を中性洗剤、純水、IPA等を用いて洗浄することで、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【0049】
以上、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を工程毎に説明したが、工程の順序は、上述した順序に限られない。ジルコニア砥粒を用いた第1研磨工程よりも後に端面研磨工程を行えばよく、その他の順序は適宜変更されうる。例えば、化学強化工程は、第1研磨工程よりも先に行ってもよい。
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、ジルコニアを研磨砥粒として含む研磨液を用いてガラス素板の主表面を研磨する第1研磨工程の後に、端面研磨工程において当該ガラス素板の側壁面を研磨するため、第1研磨工程でガラス素板の側壁面に付着したジルコニア粒子がその後の端面研磨工程で除去される。
【0050】
従来、キャリアにガラス素板を保持させて、研磨材として酸化セリウム砥粒を用いて主表面研磨を行う方法では、比較的緩やかな加工条件でも高い加工レートで研磨を行うことができた。例えば、加工圧が100g/cm2程度、定盤の回転数が10rpm程度の加工条件で研磨を行えた。ところが、ジルコニア砥粒を用いて研磨を行う方法では、酸化セリウム砥粒を用いる場合と同一の加工条件を適用したのでは加工レートが極端に悪くなることから、酸化セリウムを用いる場合よりも厳しい加工条件を適用する必要がある。例えば、ガラス素板Gに与えられる上定盤40の荷重が120g/cm以上、定盤回転数が35rpm以上の加工条件で研磨を行う必用がある。このように、ジルコニア砥粒を用いる場合の加工条件は、酸化セリウムを用いる場合の一般的な加工条件とは異なるため、主表面研磨を行う間に、ガラス素板の側壁面にジルコニア砥粒が刺さる等して固着しやすいという問題がある。しかし、本実施形態の製造方法によれば、第1研磨工程でガラス素板の側壁面に付着したジルコニア粒子がその後の端面研磨工程で除去されるため、その後の工程でジルコニア粒子がガラス素板の主表面に付着することがない。
【0051】
本実施形態の製造方法は、直径が2.5インチサイズよりも大きく、かつ、板厚が0.6mm以下である磁気ディスク用ガラス基板を製造する場合に好適である。このような磁気ディスク用ガラス基板は、従来に比べ、アスペクト比(直径/板厚)が高い。このため、ガラス素板の板厚が薄く、キャリアの端面との接触面積が小さいため、ガラス素板はより強い力でキャリアの端面に接触しやすい。また、ガラス素板の主表面の面積が大きく、研磨パッドから摩擦力を受けやすいため、このことによっても、ガラス素板はより強い力でキャリアの端面に接触しやすい。このような理由から、ガラス素板の側壁面にジルコニア粒子が付着しやすく、ガラス素板の側壁面にジルコニア粒子が付着している割合が高くなる。しかし、本実施形態の製造方法によれば、上述のように、ガラス素板の側壁面に付着したジルコニア粒子は端面研磨工程において除去されるため、そのような問題の発生を抑制できる。
【0052】
なお、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、化学強化工程は、端面研磨の後に行うことが好ましい。これは以下の理由による。つまり、化学強化工程では、前述したように、複数のガラス素板をホルダに装着して化学強化液槽に浸漬させるが、その時点でガラス素板の側壁面にジルコニア粒子が残留していると、ガラス素板を把持したり、ガラス素板の側壁面がホルダに接触したりするときにジルコニア粒子が脱落し、その脱落したジルコニア粒子がガラス素板の主表面に付着する虞があるためである。
【0053】
[磁気ディスク]
磁気ディスクは、磁気ディスク用ガラス基板を用いて以下のようにして得られる。
磁気ディスクは、例えば磁気ディスク用ガラス基板(以下、単に「基板」という。)の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばCrRuを用いることができる。磁性層としては、例えばCoPt系合金を用いることができる。また、L10規則構造のCoPt系合金やFePt系合金を形成して熱アシスト磁気記録用の磁性層とすることもできる。上記成膜後、例えばCVD法によりCを用いて保護層を成膜し、続いて表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(パーフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
作製された磁気ディスクは、好ましくは、DFH(Dynamic Flying Height)コントロール機構を搭載した磁気ヘッドとともに、磁気記録再生装置としてのHDD(Hard Disk Drive)に組み込まれる。
【0054】
(2)第2実施形態
次に、第2実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。
ここでは、第1実施形態との相違に注目して説明する。
図4に、第2実施形態のガラス基板の製造方法のフローの一例を示す。以下、図4に示す工程毎に説明する。図4に示す工程の順番は適宜入れ替えてもよい。
【0055】
第2実施形態のガラス基板の製造方法は、ガラス素板の成形(S30)、ラッピング工程(S32)、コアリング工程(S34)、チャンファリング工程(S36)、端面研磨工程(S38)、固定砥粒による研削工程(S40)、第1研磨(主表面研磨)工程(S42)、第2研磨工程(S44)、化学強化工程(S46)および最終研磨工程(S48)の各工程を備える。
【0056】
(1)ガラス素板の成形(S30)およびラッピング工程(S32)
第1実施形態のガラス素板の成形(S10)およびラッピング工程(S12)と同様にして行われる。
(2)コアリング工程(S34)
第1実施形態のコアリング工程(S14)と同様にして行われる。
(3)チャンファリング工程(S36)
第1実施形態のチャンファリング工程(S16)と同様にして行われる。
【0057】
(4)端面研磨工程(S38)
次の点を除いて、第1実施形態の端面研磨工程(S22)と同様にして行われる。
本実施形態では、端面研磨では、ガラス素板の内周側の側壁面(端面)及び外周側の側壁面(端面)をブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。
ガラス素板の端面を平滑にし、それによって後工程の第1研磨工程においてジルコニア砥粒がガラス素板の側壁面に付着し難くするために、端面研磨工程は、第1研磨工程の前に行うことが好ましい。例えば、端面研磨工程後のガラス素板の端面の算術平均粗さRaを0.1μm以下とするように、端面研磨を行うことが好ましい。
なお、本実施形態では、ガラス素板Gの側壁面に付着したジルコニア粒子を研磨によって除去するためには、固定砥粒を用いた研磨、及び遊離砥粒を用いた研磨のいずれでもよい。
【0058】
(5)固定砥粒による研削工程(S40)
第1実施形態の固定砥粒による研削工程(S16)と同様にして行われる。
(6)第1研磨(主表面研磨)工程(S42)
第1実施形態の第1研磨(主表面研磨)工程(S24)と同様にして行われる。
【0059】
(7)第2研磨工程(S44)
第2研磨工程(S44)では、第1研磨工程を経たガラス素板の主表面に対して、第2研磨が施される。第2研磨による取り代は、例えば数μm〜20μm程度であり、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上である。これにより、ガラス素板の側壁面に付着したジルコニア粒子を確実に除去できる。第2研磨は、主表面について高い研磨加工レートにて研磨を行うとともに、第1研磨工程においてガラス素板の側壁面に付着しうるジルコニア粒子を物理的に除去する(除去工程を行う)ことを目的とする。第2研磨工程では、研磨材として酸化セリウム(二酸化セリウム)砥粒を用いるのが好ましい。
【0060】
第2研磨では、例えば、第1研磨で用いた研磨装置を用いるが、ガラス素板とキャリア30の間に酸化セリウム砥粒を供給した状態で主表面の研磨を行う目的で、ガラス素板Gとキャリア30の間に間隙が設けられている。この点について、図5を参照してさらに説明する。図5は、ガラス素板Gがキャリア30の孔部31に収容された状態を示す図である。
図5に示すように、研磨対象であるガラス素板Gの外径をD1、キャリア30の孔部31の径(ガラス素板が当接する当接面の径)をD2としたときにはD2>D1が成立する。それによって、ガラス素板Gの側壁面Gtと、キャリア30の孔部31を形成する側壁面30tとの間には、研磨液中の酸化セリウム(CeO2)の砥粒が入り込む(つまり、供給される)ことが可能な程度の間隙CLが設けられている。この場合、間隙CLの最大値(最大隙間)は、最大で(D2−D1)である。この間隙CLによって、ガラス素板Gとキャリア30との間の相対変位量の最大値が規定される。
【0061】
図5に示したように、ガラス素板Gとキャリア30の孔部31の間隙CLに対して酸化セリウム砥粒を供給した状態で、ガラス素板Gの主表面に対して主表面の研磨を行うと、第1研磨においてガラス素板Gの側壁面Gtに付着していたジルコニア粒子を除去することが可能になる。これは、以下で説明する作用による。つまり、研磨加工中においてガラス素板Gは、板厚方向に定盤による荷重が掛かりつつ、主表面と平行な方向についてはキャリア30の孔部31内を拘束されない状態で運動する。このとき、ガラス素板Gの側壁面Gtは、孔部31を形成する側壁面30tに当接させられるが、ガラス素板Gとキャリア30の孔部31の間隙CLに供給された酸化セリウム砥粒が、ガラス素板Gの側壁面Gtを研磨し、それによって、側壁面Gtに付着していたジルコニア粒子がガラス素板Gの側壁面Gtから離脱する。側壁面Gtから離脱したジルコニア粒子は、研磨液とともに排出される。なお、ガラス素板Gの側壁面Gtがキャリア30の側壁面30tに当接したときの衝撃によって側壁面Gtの表面性状を悪化させる(つまり、表面を荒らす)ことがないように、キャリア30の側壁面30tに弾性部材を設けてもよい。
【0062】
ガラス素板Gの側壁面Gtと、キャリア30の孔部31を形成する側壁面30tとの間に十分に酸化セリウム(CeO)の砥粒を供給してガラス素板Gの側壁面Gtに対する高い研磨性能を確保する目的から、ガラス素板Gの側壁面Gtとキャリア30の側壁面30tの隙間CLの最大値(最大隙間;D2−D1)は、0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であるとより好ましい。
第2研磨において酸化セリウム砥粒によりガラス素板Gの側壁面Gtを効率良く研磨してジルコニア粒子を除去する観点から、酸化セリウム砥粒の研磨液中の濃度は、5〜30重量%であることが好ましい。
【0063】
この研磨工程において、ガラス素板Gとキャリア30の孔部31の間隙CLに供給する研磨材は、酸化セリウム砥粒に限られずその他の研磨材でもよい。すなわち、主表面の研磨の加工レートを上げる観点では酸化セリウム砥粒が好ましいが、第2研磨を、ガラス素板の側壁面に付着しうるジルコニア粒子を物理的に除去することを主目的とする場合には、研磨材は酸化セリウム砥粒でなくてもよい。他の研磨材として、例えばアルミナ、ダイヤモンド、チタン、シリカの砥粒でもよい。なお、第2研磨における研磨液中の砥粒の平均粒径(D50)は、第1研磨におけるジルコニア砥粒の平均粒径(D50)と同等か、それよりも小さいことが好ましい。
【0064】
なお、第2実施形態では、第1研磨工程(S42)に加え、第2研磨工程(S44)でも同様に、ガラス素板の主表面の表面凹凸について、粗さ(Ra)を0.5nm以下とし、かつマイクロウェービネス(MW-Rq)を0.5nm以下とするように研磨を行う。
【0065】
(8)化学強化工程(S46)
第1実施形態の化学強化工程(S24)と同様にして行われる。
(9)最終研磨工程(S48)
第1実施形態の第2研磨(最終研磨)工程(S26)とほぼ同様にして行われる。
最終研磨工程(S48)においても、第2研磨工程(S44)と同様に、ガラス素板の側壁面とキャリアの側壁面の隙間の最大値(最大隙間)は、0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であるとより好ましい。これにより、第2研磨に加えて最終研磨においてもガラス素板の側壁面が研磨されることになるため、側壁面に付着しうるジルコニア粒子に対する除去性能が向上する。
なお、最終研磨工程において、図5に示した態様と同様にしてガラス素板とキャリアの孔部との間にコロイダルシリカ等の粒子が供給されるようにして、それによってガラス素板の側壁面を研磨して側壁面に付着するジルコニア粒子を除去するようにしてもよい。
磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスクについては、第1実施形態で説明したのと同様である。
【0066】
[第1実施形態に関する実施例、比較例]
第1実施形態のガラス基板の製造方法の効果を確認するために、製造したガラス基板から2.5インチの磁気ディスクを作製し、LUL耐久試験を行って、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合の発生有無を調べた。
製造した磁気ディスク用ガラス基板のガラスの組成は、下記の通りである(%は質量%を意味する)。
[ガラスの組成]
酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、有する組成からなるアルミノシリケートガラス
【0067】
本実施形態のガラス基板の製造方法において、(1)のガラス素板の成形は、特開2011−138589号公報に記載される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で用いられるプレス成形方法を用いた。ラッピングでは、平均粒子径20μmのアルミナ系遊離砥粒を用いた。
(4)の固定砥粒による研削では、ダイヤモンド砥粒(平均粒径:1〜20μm)をレジンボンドで固めたダイヤモンドシートを上定盤、下定盤に貼り付けた研削装置を用いて研削した。
(5)の第1研磨では、図2及び図3の研磨装置を用いて、粒径の平均値(D50)が1.0μmのジルコニア砥粒を用いて60分間研磨した。
(6)の端面研磨では、スペーサをガラス素板間に挟んで積層した複数のガラス素板を、粒径の平均値(D50)が0.5μmの酸化セリウムを遊離砥粒として用いて、研磨ブラシにより60分間研磨した。
(7)の化学強化では、化学強化液として硝酸カリウム(60重量%)と硝酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用い、化学強化液の温度を350℃とし、予め200℃に予熱されたガラス素板を化学強化液内に4時間浸漬させた。
(8)の第2研磨では、図2及び図3の研磨装置と同様の研磨装置を用いて、粒径10〜50μmのコロイダルシリカを用いて、所定の時間研磨をした。これにより、主表面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)を0.15nm以下にした。第2研磨後のガラス素板は、中性洗浄液及びアルカリ性洗浄液を用いて洗浄された。これにより、磁気ディスク用ガラス基板を得た。
なお、粒径の平均値(D50)は、粒子径・粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA-EX150)を用いて光散乱法により測定した。
【0068】
得られた磁気ディスク用ガラス基板に磁性層を形成した磁気ディスクを作製し、LUL耐久試験(60万回)を行って評価した。LUL耐久試験とは、磁気ディスクを構成するハードディスクドライブ(HDD)を温度70℃、湿度80%の恒温恒湿に入れた状態で、ヘッドを、ランプとIDストッパーの間を動きを止めずに往復運動(シーク動作)させ、試験後のヘッドの汚れや磨耗等の異常発生を調査する試験のことである。8万回/日×7.5日=60万回のLUL試験の結果、ヘッドABS面を顕微鏡で拡大して目視し、コンタミネーションの付着や磨耗、カケが見られる場合は不合格として評価した。
【0069】
・実施例
実施例では、上述したように、(1)のガラス素板の成形およびラッピング工程、(2)のコアリング工程、(3)のチャンファリング工程、(4)の固定砥粒による研削工程、(5)の第1研磨(主表面研磨)工程、(6)の端面研磨工程、(7)の化学強化工程、(8)の第2研磨(最終研磨)工程を、この順番に行った。つまり、端面研磨工程を第1研磨工程よりも後に行った。
【0070】
・比較例
比較例では、(1)のガラス素板の成形およびラッピング工程、(2)のコアリング工程、(3)のチャンファリング工程、(6)の端面研磨工程、(4)の固定砥粒による研削工程、(5)の第1研磨(主表面研磨)工程、(7)の化学強化工程、(8)の第2研磨(最終研磨)工程を、この順番に行った。つまり、端面研磨工程を第1研磨工程よりも前に行った。
【0071】
上記実施例及び比較例におけるLUL耐久試験では、実施例は合格であり、比較例は不合格であった。LUL耐久試験で不合格であった比較例の原因を調べたところ、ガラス基板と磁性層との間に粒子が付着しており、この粒子の組成分析を行ったところ、粒子はジルコニア粒子であることがわかった。すなわち、第1研磨に用いたジルコニア砥粒の残存物がガラス基板の主表面に付着したことが、上記耐久試験の不合格の原因であることがわかった。これより、第1研磨工程の後に端面研磨を行うことが、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合を起こし難いことがわかる。
[第2実施形態に関する実施例、比較例]
ここでは、上述した第1実施形態に関する実施例、比較例との相違に注目して説明する。
【0072】
第2実施形態のガラス基板の製造方法の各工程を順序通りに行った。
ここで、
(4)の端面研磨では、スペーサをガラス素板間に挟んで積層した複数のガラス素板を、粒径の平均値(D50)が1.0μmの酸化セリウムを遊離砥粒として用いて、研磨ブラシにより研磨した。
(5)の固定砥粒による研削では、ダイヤモンド砥粒(平均粒径:1〜20μm)をレジンボンドで固めたダイヤモンドシートを上定盤、下定盤に貼り付けた研削装置を用いて研削した。
(6)の第1研磨では、図及び図の研磨装置を用いて60分間研磨した。詳しい研磨条件は、下記に示すとおりである。
(7)の第2研磨では、図及び図と同様の別の研磨装置を用いて30分間研磨した。詳しい研磨条件は、下記に示すとおりである。ガラス素板と研磨装置のキャリアとの最大隙間は表2に示したとおりである。
【0073】
<第1研磨の研磨条件>
・研磨パッド:硬質ウレタンパッド(JIS−A硬度:80〜100)
・研磨荷重:120g/cm
・定盤回転数:30rpm
・研磨液供給流量:3000L/min
・研磨液:ジルコニア(ZrO2)を研磨砥粒として15重量%含む。
・粒径の平均値(D50):0.3〜1.5μm
・粒径の標準偏差(SD):0.1〜0.4μm
【0074】
<第2研磨の研磨条件>
・研磨パッド:硬質ウレタンパッド(JIS−A硬度:80〜100)
・研磨荷重:120g/cm
・定盤回転数:30rpm
・研磨液供給流量:3000L/min
・研磨液:表1および表2に記載された研磨砥粒を15重量%含む。
・粒径の平均値(D50):0.8〜1.5μm
・粒径の標準偏差(SD):0.2〜0.8μm
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
なお、表2において、第2研磨時の最大隙間は、図5に示したように、研磨対象であるガラス素板の外径D1と、ガラス素板を収容するキャリアの孔部の径D2との差(=D2−D1)である。
【0078】
得られた磁気ディスク用ガラス基板に磁性層を形成した磁気ディスクを作製し、LUL耐久試験(40万回および60万回の2種)を行って評価した。LUL耐久試験とは、磁気ディスクを構成するハードディスクドライブ(HDD)を温度70℃、湿度80%の恒温恒湿に入れた状態で、ヘッドを、ランプとIDストッパーの間を動きを止めずに往復運動(シーク動作)させ、試験後のヘッドの汚れや磨耗等の異常発生を調査する試験のことである。8万回/日×5日=40万回のLUL試験の結果、ヘッドABS面を顕微鏡で拡大して目視し、コンタミネーションの付着や磨耗、カケが見られる場合は不合格として評価した。また、8万回/日×7.5日=60万回のLUL試験の結果、ヘッドABS面を顕微鏡で拡大して目視し、40万回のLUL試験では合格であったが、コンタミネーションの付着や磨耗、カケが見られる場合は「可」、見られない場合は「良好」として評価した。

【0079】
上記実施例及び比較例におけるLUL耐久試験(40万回)では、実施例1〜6は合格であり、比較例1は不合格であった。LUL耐久試験(40万回)で不合格であった比較例の原因を調べたところ、ガラス基板と磁性層との間に粒子が付着しており、この粒子の組成分析を行ったところ、粒子はジルコニア粒子であることがわかった。すなわち、第1研磨に用いたジルコニア砥粒の残存物がガラス基板の主表面に付着したことが、LUL耐久試験(40万回)の不合格の原因であることがわかった。これより、第1研磨工程の後に端面研磨を行うことが、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合を起こし難いことがわかる。
【0080】
また、LUL耐久試験(40万回)で合格だった実施例1〜6におけるLUL耐久試験(60万回)では、実施例2,3,5,6は「良好」であり、実施例1,4よりも優れていた。実施例1,4の結果から、ガラス素板とキャリアの間の隙間が狭いと第2研磨においてその隙間に研磨砥粒が供給されず、ガラス素板の側壁面の研磨が十分にできず、側壁面に付着したジルコニア粒子を十分に除去できなかったことがわかる。
実施例2,3,5,6から、最大隙間を少なくとも0.5[mm]以上設けていれば、ガラス素板とキャリアの間の隙間に研磨砥粒が供給され、ガラス素板の側壁面の研磨ができ、側壁面に付着したジルコニア粒子を除去できたことがわかる。さらに、最大隙間を1.0[mm]以上設けていれば、キャリアとガラス素板の間の隙間に研磨砥粒が十分に供給され、ジルコニア粒子の除去性能を十分に確保できる。
【0081】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0082】
10 研磨パッド
30 キャリア
40 上定盤
50 下定盤
61 太陽歯車
62 内歯車
71 研磨液供給タンク
72 配管
図1
図2
図3
図4
図5