特許第5661956号(P5661956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5661956
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】原子炉施設周囲の遮水システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 19/14 20060101AFI20150108BHJP
   E02D 3/115 20060101ALI20150108BHJP
   F17C 9/02 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   E02D19/14
   E02D3/115
   F17C9/02
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-7664(P2014-7664)
(22)【出願日】2014年1月20日
【審査請求日】2014年6月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】望月 正孝
(72)【発明者】
【氏名】松田 将宗
【審査官】 ▲高▼橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−041356(JP,A)
【文献】 特開昭63−075217(JP,A)
【文献】 特開昭61−098898(JP,A)
【文献】 実開昭63−186908(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/11 − 3/12
E02D 19/06 − 19/20
F17C 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉施設に向けた地下水の流通を止める原子炉施設周囲の遮水システムにおいて、
前記原子炉施設の周囲の地盤に上端部を地表側に突出させて埋設されたヒートパイプと、
ガスタービン発電機と、
前記ガスタービン発電機に燃料として供給される液化ガスを貯留するタンクと、
前記液化ガスの気化熱によって前記ヒートパイプを冷却するように前記ヒートパイプの上端部に前記液化ガスが有する冷却熱を伝送する冷却熱伝送機構と、
前記ヒートパイプを介して前記液化ガスの冷却熱によって前記地盤を凍結させた凍土によって形成される遮水壁と
前記液化ガスが気化して生じた燃料ガスを貯留するガスタンクを更に備え、
前記冷却熱伝送機構は、前記ヒートパイプの上端部に前記液化ガスを保持する冷却ジャケットと、前記冷却ジャケットに前記液化ガスを供給する給液管路と、前記冷却ジャケットで生じた気相の前記燃料ガスを前記ガスタンクに送るガス管路と
を備えていることを特徴とする原子炉施設周囲の遮水システム。
【請求項2】
原子炉施設に向けた地下水の流通を止める原子炉施設周囲の遮水システムにおいて、
前記原子炉施設の周囲の地盤に上端部を地表側に突出させて埋設されたヒートパイプと、
ガスタービン発電機と、
前記ガスタービン発電機に燃料として供給される液化ガスを貯留するタンクと、
前記液化ガスの気化熱によって前記ヒートパイプを冷却するように前記ヒートパイプの上端部に前記液化ガスが有する冷却熱を伝送する冷却熱伝送機構と、
前記ヒートパイプを介して前記液化ガスの冷却熱によって前記地盤を凍結させた凍土によって形成される遮水壁と
前記冷却熱伝送機構は、前記液化ガスの冷却熱を冷媒に伝達する熱交換器と、前記ヒートパイプの上端部に前記熱交換器によって温度が低下させられた前記冷媒を保持する冷却ジャケットと、前記熱交換器と前記冷却ジャケットとの間で前記冷媒を循環させる循環管路と
を備えていることを特徴とする原子炉施設周囲の遮水システム。
【請求項3】
前記遮水壁は、前記地盤中の不透水層に到る深さに形成されていることを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の原子炉施設周囲の遮水システム。
【請求項4】
前記地盤の含水率を調整するための水を供給する給水管が前記ヒートパイプの周囲に埋設されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の原子炉施設周囲の遮水システム。
【請求項5】
前記地盤中に打ち込まれた鋼板を更に備え、
前記ヒートパイプは前記鋼板に接触した状態で埋設されている
ことを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の原子炉施設周囲の遮水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子炉や核燃料貯蔵庫などの原子炉施設に対する地下水の流通を止める遮水システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の原子炉施設で事故が起きて放射漏れが生じると、その原子炉施設の周囲を流れる地下水が汚染され、その汚染水が放射能を拡散させたり、あるいは海に流れて海水を汚染する危険がある。このような事故は福島県の東京電力福島第一原子力発電所で発生し、その周囲を流れる地下水が問題となっている。そこで、地下水が原子炉施設に向けて流れないように、発電所の周囲に地盤を凍結させて遮水壁を構築することが検討されている。しかしながら、凍土によって遮水壁を構築した例は過去になく、そのためのシステムや方法は知られていない。
【0003】
一方、凍土によって貯蔵庫を形成することが従来知られており、その例が特許文献1や特許文献2に記載されている。これらの文献に記載された貯蔵庫は、地面を掘り下げ、あるいは盛り土することにより貯蔵室を作り、その周囲の地盤中もしくは盛り土中にヒートパイプの下端部を埋設し、かつそのヒートパイプの上端部を外気中に露出させ、冷気によって地盤を凍結させて低温貯蔵庫とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01−300176号公報(第2頁、図1
【特許文献2】特開平03−274363号公報(第2頁、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1および2に記載されている凍土壁は、貯蔵庫の内部の低温状態を維持するためのいわゆる蓄冷部であり、したがって「壁」としての機能はなく、ましてや遮水機能はない。このことは、各特許文献1,2に記載された貯蔵庫が、独自の壁や屋根を有していることから明らかである。
【0006】
一方、原子炉施設に対する遮水を行う凍土壁は、原子炉施設の冷却の機能は必要ではなく、上述した貯蔵庫の凍土とは全く異なる特性が要求され、例えば蓄冷の機能は必要がない半面、外気の寒暖に関係することなく常時、強固に凍結して隙間のない遮水機能を果たすことが要求される。すなわち、上記の特許文献1や特許文献2に記載されているように外気の冷熱を地盤に運んで蓄冷することでは、到底、遮水機能のあるものとはなり得ない。このように従来では、蓄冷のための凍土が知られているとしても、遮水のために凍土を使用することに関する技術は全く新しい技術であって、新たに開発しなければならないものであった。
【0007】
この発明は上記の技術的背景の下になされたものであって、十分実用に供し得る原子炉施設周囲の遮水システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明のシステムは、原子炉施設に向けた地下水の流通を止める原子炉施設周囲の遮水システムにおいて、前記原子炉施設の周囲の地盤に上端部を地表側に突出させて埋設されたヒートパイプと、ガスタービン発電機と、前記ガスタービン発電機に燃料として供給される液化ガスを貯留するタンクと、前記液化ガスの気化熱によって前記ヒートパイプを冷却するように前記ヒートパイプの上端部に前記液化ガスが有する冷却熱を伝送する冷却熱伝送機構と、前記ヒートパイプを介して前記液化ガスの冷却熱によって地盤を凍結させた凍土によって形成される遮水壁とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
このような構成とすることにより、ガスタービン発電で発生するいわゆる冷熱によって原子炉施設の周囲の地盤を凍結させて凍土からなる遮水壁を形成し、これによって地下水を遮断することができる。
【0010】
この発明では、前記液化ガスが気化して生じた燃料ガスを貯留するガスタンクを更に備え、前記冷却熱伝送機構は、前記ヒートパイプの上端部に前記液化ガスを保持する冷却ジャケットと、前記冷却ジャケットに前記液化ガスを供給する給液管路と、前記冷却ジャケットで生じた気相の前記燃料ガスを前記ガスタンクに送るガス管路とを備えた構成とすることができる。
【0011】
このような構成であれば、液化ガスの有する冷却熱によってヒートパイプを直接冷却することができる。
【0012】
またこの発明では、前記冷却熱伝送機構は、前記液化ガスの冷却熱を冷媒に伝達する熱交換器と、前記ヒートパイプの上端部に前記熱交換器によって温度が低下させられた前記冷媒を保持する冷却ジャケットと、前記熱交換器と前記冷却ジャケットとの間で前記冷媒を循環させる循環管路とを備えた構成とすることができる。
【0013】
このような構成であれば、可燃性の液化ガスもしくは気化して生じた燃料ガスを原子炉施設から遠ざけることができる。
【0014】
この発明では、前記遮水壁は、前記地盤中の不透水層に到る深さに形成されていてよい。
【0015】
このような構成であれば、地下水が遮水壁の下側に回り込むことを防止でき、原子炉施設に対する地下水の流入を確実に防止できる。
【0016】
さらに、この発明は、前記地盤の含水率を調整するための水を供給する給水管が前記ヒートパイプの周囲に埋設された構成することができる。
【0017】
このような構成であれば、凍結させる地盤の含水率を凍結させる箇所の全体に亘って調整でき、したがって過不足なく地盤を凍結させて強固かつ隙間のない遮水壁を形成することができる。
【0018】
また、この発明は、前記地盤中に打ち込まれた鋼板を更に備え、前記ヒートパイプは前記鋼板に接触した状態で埋設された構成であってもよい。
【0019】
このような構成であれば、鋼板が遮水壁の一部となって遮水壁の強度が向上し、かつヒートパイプの補強を鋼板によって行うことができ、併せて鋼板が熱伝導部材として機能するので、1本のヒートパイプで凍結させることのできる範囲を拡大することができ、それに伴いヒートパイプの必要本数を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、ガスタービン発電の際に生じるいわゆる排熱もしくは余剰冷熱を有効利用することになるので、ランニングコストが殆ど掛からず、実用に供し得る遮水システムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】原子炉施設と遮水壁との位置関係を説明するための模式図である。
図2】この発明に係る遮水システムの構成を模式的に示す系統図である。
図3】給水管を設けた例を説明するための部分的な模式図である。
図4】ヒートパイプを鋼板に沿わせて配置した状態を模式的に示す部分的な平面図である。
図5】冷却ジャケットにガス抜き管を接続した例を説明するための部分的な模式図である。
図6】この発明に係る遮水システムの他の例を示す模式図である。
図7】各ヒートパイプもしくは各郡のヒートパイプに個別にLNGもしくは冷媒を供給できるように構成した配管例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明に係る遮水システムの実施の形態を以下に説明する。この発明に係る遮水システムの基本的な構成を図1および図2に模式的に示してある。図1には、原子炉施設として核反応容器1を収容してある原子炉建屋2および蒸気タービン発電機3を収容してある発電建屋4を記載してあり、これらは海岸5の近くに設置されている。凍土からなる遮水壁6はこれらの施設を囲うようにその周囲の地盤中に形成される。この遮水壁6は、土壌をその内部に含有している水分と共に凍結したものであって、地表7から適当な深さの不透水層(もしくは岩盤)8に到る範囲に垂直に形成されている。したがって、遮水壁6は地下水9の流通層を上下に横切って形成され、地下水層を遮断している。そのため、遮水壁6の外側の地下水9は、原子炉施設に向けて流れないように遮断される。
【0023】
遮水壁6は常時凍結状態を維持する必要があり、その冷却のためのいわゆる冷熱源として液化ガス(LNG)が使用されている。その冷熱によって地盤を冷却するために、遮水壁6には多数のヒートパイプ(もしくはサーモサイフォン)10が埋設されている。これらのヒートパイプ10同士の間隔は、それぞれのヒートパイプ10で土壌を凍結させることのできる範囲に基づいて設定されている。そのヒートパイプ10は従来知られているとおりの伝熱素子であり、脱気したパイプ(コンテナ)の内部に所定濃度のアンモニア水などの作動流体を封入し、外部からの入熱部(加熱部)で蒸発した作動流体が外部に熱を放散する放熱部(冷却部)で凝縮することにより、潜熱の形で熱を輸送するように構成されている。なお、蒸発部に対する作動流体の還流は、パイプの内部に設けたウイックの毛管力で行ってもよく、あるいは重力で行ってもよい。
【0024】
これらのヒートパイプ10は、原子炉施設の周囲の地盤に直接埋設してもよいが、凍結して凍土となりやすくするために改質した土壌に埋設してもよい。その改質した土壌の一例は、砂を主体とした土壌であり、例えば遮水壁6を形成する箇所に、前述した不透水層8に到る穴もしくは溝を掘削し、その穴もしくは溝に砂を投入し、さらに必要に応じて所定の含水率になるように水を注入して改質した土壌とし、ここにヒートパイプ10を埋設する。その場合、砂を投入する穴あるいは溝の内面に、不織布やフェルトなどの水の浸透を抑制する膜を形成することが好ましい。
【0025】
なお、その砂地に対する水の供給は、例えば図3に示すように、ヒートパイプ10と共に給水管11を地盤中に挿入して行ってもよい。その給水管11は、所定間隔に多数の貫通孔をあけた鋼管であってよく、凍結の進行に応じてその内部に水を供給することにより、地盤中に水が浸透する。
【0026】
また、ヒートパイプ10は、図4に示すように、鋼矢板などの鋼板12に沿わせた状態で埋設してもよい。鋼板12は、遮水壁6をその周囲の地盤から区画するために地盤に打ち込み、あるいは掘削された溝の内壁に沿って配置される。このようにして設置された鋼板12にヒートパイプ10が沿わせて配置される。このような構成であれば、ヒートパイプ10が鋼板12によって補強されるので、土圧などによるヒートパイプ10の破損もしくは変形などを抑制することができる。これに加えて、鋼板12が熱伝導部材として機能するので、1本のヒートパイプ10で土壌を凍結させることのできる範囲を広くすることができ、ひいてはヒートパイプ10の必要本数を削減することが可能になる。
【0027】
さらに、遮水壁6は凍結する際に凍上する。したがって、遮水壁6を形成する箇所の地表高さは、凍上による上昇を考慮して、予め低くしておくことが好ましい。また、凍上に伴ってヒートパイプ10に引っ張り力が作用することがあるので、ヒートパイプ10は凍上に伴う延びが可能な構成のものであることが好ましい。その例は、パイプ(コンテナ)をコルゲート管によって構成したヒートパイプである。また他の例は、螺旋状に曲がっているヒートパイプである。これらいずれの構成であっても、埋設状態で地盤の凍上と共に上下方向に延びるので、引っ張りによる破断や亀裂を回避することができる。
【0028】
LNGの有する冷却熱をヒートパイプ10に送る冷却熱伝送機構について説明すると、ヒートパイプ10の上端部は、地表側に延び出ており、それぞれのヒートパイプ10の上端部に冷却ジャケット13が設けられている。この冷却ジャケット13は、冷熱源であるLNGを各ヒートパイプ10の上端部に対して接触させるためのものであって、各ヒートパイプ10の上端部を気密状態に覆う密閉容器として構成されている。なお、冷却ジャケット13は、複数本のヒートパイプ10の上端部を一括して覆うように構成されていてもよい。隣接する冷却ジャケット13同士は、この発明における給液管路に相当する連通管14によって接続されていて、多数の冷却ジャケット13は所定数の一群が直列に接続され、また各群が互いに並列の関係になるように連通されている。
【0029】
なお、LNGは冷却ジャケット13の内部でヒートパイプ10から熱を奪って一部が気化する。そのガスがLNGに混入して圧力を増大させることを抑制するために、気化して生じたガスを、冷却ジャケット13を流れるLNGから分離するように構成することが好ましい。図5はその一例を示しており、各冷却ジャケット13の上端部にガス抜き管15が接続され、そのガス抜き管15がこの発明におけるガス管路に相当する集合管16に連通されている。この集合管16は後述するガスタンクに連通されている。
【0030】
LNGは液体タンク17に収容されており、例えば−160℃程度になっている。この液体タンク17にポンプ18が接続され、このポンプ18によって所定の流量でLNGが取り出されるようになっている。このポンプ18の吐出側には三方切替弁19が接続され、この三方切替弁19によって前記冷却ジャケット13側とバイパス管20側とに切り替えてLNGを供給するようになっている。このバイパス管20は、冷却ジャケット13を経由せずに気化装置21にLNGを供給するためのものである。したがって、冷却ジャケット13にはガス化されるLNGの一部が供給されるようになっており、その意味ではLNGの気化熱の一部を利用して地盤を凍結させて遮水壁6を形成するように構成されている。
【0031】
冷却ジャケット13を通過したLNGはバイパス管20を流れるLNGに合流させられて気化装置21に供給される。気化装置21はLNGに熱を与えて気化させるための熱交換器であり、ポンプ22で汲み上げた海水によってLNGを加熱するように構成されている。気化して生じた天然ガス(燃料ガス)はガスタンク23に送られて貯留される。この天然ガスはガスタービン発電機のエネルギー源となっている。すなわち、ガスタービン発電機は、ガスタービンエンジン24によって発電機25を回転させて発電するように構成され、そのガスタービンエンジンは従来知られているように、燃焼室26で天然ガスを燃焼させて高温・高圧のガスを生成し、その高温・高圧のガスをタービン27に送ってタービン27を回転させ、そのタービン27で発生した動力で発電機25およびコンプレッサ28を回転させるように構成されている。そのコンプレッサ28は外気を吸入して圧縮し、その圧縮空気を燃焼室26に供給するように構成されている。したがってこの発明に係る上述した遮水システムは、ガス発電の際に生じるLNGの気化熱(蒸発熱)を利用して遮水壁を形成するように構成されている。
【0032】
この発明に係る原子炉施設周囲の遮水は、上述した遮水壁6を構築することにより行われる。その方法は、先ず、原子炉施設の周囲で地下水に流入を止めるべき箇所に多数本のヒートパイプ10を埋設する。その場合、砂によって地盤を改質し、もしくはその含水率を調整し、あるいは鋼板12を併用するなど、ヒートパイプ10の埋設箇所の土質にあった埋設方法を採用する。そのヒートパイプ10の上端部は地表側に突出させておき、その上端部に前述した冷却ジャケット13を取り付け、その冷却ジャケット13に発電用のエネルギー源であるLNGを供給する。LNGは−160℃程度の低温であるから、ヒートパイプ10の上端部が冷却され、かつ埋設されている下端部が外気温度もしくはそれより高い地中温度になっているから、ヒートパイプ10は下端部を加熱部、上端部を冷却部として動作する。すなわち、下端部で蒸発した作動流体が上端部に流動した後、放熱して凝縮することにより、地中の熱が上端部に運ばれて冷却される。その結果、地盤が凍結して凍土となり、遮水壁6が形成される。
【0033】
なお、その場合、ヒートパイプ10を埋設してある土壌を砂を主体とする改質土壌とし、前述した図3に示す給水管11を使用して、凍結の進行に応じて水を供給すれば、ヒートパイプ10の周囲を斑なく均一に凍結させることが容易になる。また、ヒートパイプ10を鋼板12に沿わせてあれば、鋼板12が伝熱部材として機能するために、1本のヒートパイプ10で広い範囲の地盤を凍結させることができる。さらに、コルゲート管をコンテナとしたヒートパイプ10あるいは螺旋状に湾曲させたヒートパイプ10であれば、地盤が凍上した場合に凍上に伴って上下方向に延びるので、ヒートパイプ10が損傷することを回避もしくは抑制することができる。
【0034】
こうして形成された遮水壁6は、土壌粒子を氷で固めたものであるから、地下水の流通を完全に止めることができる。また、その遮水壁6は不透水層8に達する深さにまで形成されているので、地下水が遮水壁6の下側に回り込んで遮水壁6の内側に到ることがない。その結果、原子炉施設に対して地下水が到ることがなく、また放射能で汚染された地下水が原子炉施設の周囲に漏れ出ることが防止される。
【0035】
地盤を凍結させて遮水壁6が一旦形成された後は、遮水壁6に外部から伝達される熱量と同程度の熱量で遮水壁6を冷却することにより凍結状態を維持することができるから、冷却ジャケット13に供給するべきLNGの量は、遮水壁6を形成する際の量より少なくてよい。したがってその場合は、前述した三方切替弁19によってLNGをバイパス管20側に流す。冷却ジャケット13を経由したLNGあるいはバイパス管20を経由したLNGは気化装置21によって海水により加熱され、気化する。その天然ガスは一旦ガスタンク23に貯留され、その後にガスタービン発電機に送られて発電の用に供される。したがって、この発明によれば、常用されるガスタービン発電で生じかつ多くが廃棄されているLNGの蒸発熱を冷熱源として遮水壁6を形成するから、遮水のための冷却エネルギーにコストが殆ど掛からず、むしろエネルギーの有効利用を図ることができる。
【0036】
上述したヒートパイプ10は地盤から熱を奪って地盤を凍結させるためのものであるから、ヒートパイプ10は周囲の土壌に可及的に直接接触していることが好ましい。そのため、腐食や土圧などによるヒートパイプ10の劣化が避けられない。しかしながら、上述した遮水システムでは、冷却ジャケット13や連通管14などのLNGを流す管路は地表側に配置されているから、地中のヒートパイプ10に損傷が生じても可燃性のガスが周囲の環境に漏洩する危険がない。また、ヒートパイプ10が損傷した場合には、そのヒートパイプ10を交換すればよく、ガス配管の再構築などの工事を必要としないので、メインテナンスが容易になって低コスト化することができる。
【0037】
つぎにこの発明の他の具体例を説明する。原子炉施設の敷地あるいは所定の範囲の領域(エリア)に可燃性の多量の燃料を配置することを避ける場合の例である。図6において、符号30は可燃性ガスの配置を忌避するように予め定められた領域を示し、前述した原子炉建屋2や遮水壁6などはこの領域30の内側に設けられる。これに対して前述した液体タンク17やポンプ18、気化装置21、ガスタービンエンジン24などのガスタービン発電設備、ガスタンク23などの燃料ガスを使用する設備は、上記の領域30の外側に配置される。ポンプ18によってLNGを気化装置21に供給する管路31には、三方弁32を介して熱交換器33が接続されている。この熱交換器33は、LNGと冷媒との間で熱交換して冷媒を冷却するためのものであり、従来知られている熱交換器を採用することができる。
【0038】
この熱交換器33は、この発明における冷却熱伝送機構の一部を構成しており、この熱交換器33とヒートパイプ10との間で塩化カルシウム水溶液やエチレングリコール水溶液、プロピレングリコール、アルコールなどの冷媒を循環させる循環管路34が設けられている。冷媒は、前述した凍土である遮水壁6を形成するのに十分な低温に冷却されても流動状態を維持できる物質が採用されており、この冷媒をヒートパイプ10の上端部に設けられている冷却ジャケット13に供給する供給管35が、熱交換器33と冷却ジャケット13
との間に設けられている。前述したようにLNGを使用する設備である熱交換器33は、原子炉施設の領域30の外側に配置され、その熱交換器33とヒートパイプ10との距離は数百mないし数kmになり、供給管35はその距離に亘って冷媒を輸送する。したがって、断熱のための十分な被覆が施される。
【0039】
各冷却ジャケット13は前述したように連通管14によって相互に連通されていて、冷媒を上流側の冷却ジャケット13から下流側の冷却ジャケット13に順に流すように構成されている。そして、所定の一群における最下流もしくは全体としての最下流の冷却ジャケット13と熱交換器33とが戻り管36によって連通されている。その戻り管36の途中に冷媒タンク37および冷媒ポンプ38が設けられている。なお、図6における他の構成は、前述した図2に示す構成と同様であるから、図6図2と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図6に示す構成においては、LNGの有する冷却熱が熱交換器33によって冷媒に伝達され、冷媒の温度が低下させられる。その冷媒は、前記供給管35を経由して各ヒートパイプ10の冷却ジャケット13に送られる。この冷媒は、前述した図2に示す具体例におけるLNGに替わるものであるから、ヒートパイプ10の周囲の土壌から熱が奪われて凍結し、凍土となり、遮水壁6が形成される。そして、図6に示す構成では、原子炉施設の領域30の外側で、LNGと冷媒との熱交換が行われ、原子炉施設の領域30の内側にLNGが入り、あるいは配置されることが回避される。
【0041】
なお、地盤を凍結して遮水壁6を形成する場合には顕熱を奪うとともに外部から侵入する熱および放熱によって失われる熱とに見合う冷却を行う必要があり、これに対して遮水壁6を凍結状態に維持する場合に必要する冷却は、外部から侵入する熱および放熱によって失われる熱に見合うものであってよい。したがって、原子炉施設を取り囲む所定範囲の地盤全体を一括して凍結するとすれば、凍結状態を維持する場合に比較して膨大な冷却熱を必要とする。その膨大な冷却熱を得られる設備は、凍結状態を維持する定常時に必要とする設備を遙かに超える大きさのものとなって実用的ではない。そこで、凍結状態を維持する定常時に必要とする容量の冷却設備もしくはそれを幾分上回る大きさの設備を用い、凍結箇所を順次広げて、最終的には必要箇所の全体を凍結させて遮水壁6を形成することが考えられる。
【0042】
その場合、各ヒートパイプ10ごと、もしくは所定本数の一群のヒートパイプ10ごとにLNGもしくは上記の冷媒を供給できるように構成することが好ましい。その例を図7に模式的に示してあり、LNGもしくは冷媒を供給する給液管路40に、各ヒートパイプ10もしくは各群ごとのヒートパイプ10における冷却ジャケット13が開閉弁(流量調整弁)41を介して連通され、またそれらの冷却ジャケット13が、気化装置21もしくはガスタンク23に連通された戻り管42、あるいは冷媒を冷媒タンク37に戻す戻り管42に連通されている。このような構成においては、凍結を行うヒートパイプ10の冷却ジャケット13には開閉弁41を全開にしてLNGもしくは冷媒を多量に供給し、凍結状態を維持するためのヒートパイプ10の冷却ジャケット13には開閉弁41の開度を絞って必要最少量のLNGもしくは冷媒を供給し、さらに冷却を行わないヒートパイプ10の冷却ジャケット13には開閉弁41を閉じてLNGもしくは冷媒を供給しない。したがってこのような凍結方法もしくは遮水壁6の構築方法によれば、一度に必要とするLNGもしくは冷媒の量が少なくてよいから、遮水壁6の構築のための冷却設備を、ガスタービン発電機の通常運転で必要とする程度の大きさのものとすることができる。
【0043】
以上、この発明の実施の形態の例を説明したが、冷熱源は上記のLNGに替えてLPG(液化石油ガス)や適宜の冷媒であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…核反応容器、 2…原子炉建屋、 3…蒸気タービン発電機、 4…発電建屋、 5…海岸、 6…遮水壁、 7…地表、 8…不透水層(もしくは岩盤)、 9…地下水、 10…ヒートパイプ(もしくはサーモサイフォン)、 11…給水管、 12…鋼板、 13…冷却ジャケット、 14…連通管、 15…ガス抜き管、 16…集合管、 17…液体タンク、 18…ポンプ、 19…三方切替弁、 20…パイパス管、 21…気化装置、 22…ポンプ、 23…ガスタンク、 24…ガスタービンエンジン、 25…発電機、 26…燃焼室、 27…タービン、 28…コンプレッサ、 30…領域、 31…管路、 32…三方弁、 33…熱交換器、 34…循環管路、 35…供給管、 36…戻り管、 37…冷媒タンク、 38…冷媒ポンプ、 40…給液管路、 41…開閉弁(流量調整弁)、 42…戻り管。
【要約】
【課題】原子炉施設に向けた地下水の流入を遮断でき、かつ実用に供し得る遮水システムを提供する。
【解決手段】原子炉施設に向けた地下水の流通を止める原子炉施設周囲の遮水システムであって、原子炉施設の周囲の地盤に、上端部を地表側に突出させて埋設されたヒートパイプ10と、ガスタービン発電機24,25と、そのガスタービン発電機24,25に燃料として供給される液化ガスを貯留するタンク17と、その液化ガスの気化熱によってヒートパイプ10を冷却するようにヒートパイプ10の上端部に液化ガスを供給して保持する冷却ジャケット13と、ヒートパイプ10を介して液化ガスによって地盤を凍結させた凍土によって形成される遮水壁6とを備えている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7