(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5661957
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】カルボン酸ガス濃度の推定方法及び半田付け装置
(51)【国際特許分類】
B23K 1/008 20060101AFI20150108BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20150108BHJP
B23K 31/02 20060101ALI20150108BHJP
G01J 5/00 20060101ALI20150108BHJP
B23K 101/40 20060101ALN20150108BHJP
【FI】
B23K1/008 Z
B23K1/00 A
B23K31/02 310B
G01J5/00 101A
B23K101:40
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-9261(P2014-9261)
(22)【出願日】2014年1月22日
【審査請求日】2014年8月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】小澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】松田 純
【審査官】
岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】
特表平5−500112(JP,A)
【文献】
特開平3−186722(JP,A)
【文献】
特開2009−174990(JP,A)
【文献】
特開2011−121102(JP,A)
【文献】
特開平5−60685(JP,A)
【文献】
特開2008−45985(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0261458(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0017681(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/008
B23K 1/00
B23K 31/02
G01J 5/00
B23K 101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応用のカルボン酸ガスを導入したチャンバー内におけるカルボン酸ガス濃度を推定する方法であって、
カルボン酸による赤外線吸収の影響を受けることなく温度を測定できる温度計(第一の温度計)と、カルボン酸が吸収する波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計(第二の温度計)を用いて、前記チャンバー内に配置された同一物体の表面温度を同一時点で測定し、前記第一の温度計と前記第二の温度計の温度差(ΔTx)から、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定することを特徴とする、カルボン酸ガス濃度の推定方法。
【請求項2】
反応用のカルボン酸ガスを導入したチャンバー内におけるカルボン酸ガス濃度を推定する方法であって、
反応用のカルボン酸ガス濃度を変えて、カルボン酸による赤外線吸収の影響を受けることなく温度を測定できる温度計(第一の温度計)と、カルボン酸が吸収する波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計(第二の温度計)を用いて、前記チャンバー内に配置された同一物体の表面温度を同一時点で測定し、前記第一の温度計と前記第二の温度計の温度差(ΔT)を求めることで、カルボン酸ガス濃度と温度差(ΔT)との関係を示す検量線を予め作成しておき、作成した検量線と、前記チャンバー内に配置された同一物体の表面温度についての前記第一の温度計と前記第二の温度計の温度差(ΔTx)から、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定することを特徴とする、カルボン酸ガス濃度の推定方法。
【請求項3】
カルボン酸ガス濃度と温度差(ΔT)との関係を示す検量線を、酸処理温度が異なる複数の条件下で作成し、前記検量線の傾きと酸処理温度との関係を示す関係式を求め、前記関係式から所定の酸処理温度における検量線の傾きを求め、前記検量線の傾きと前記温度差(ΔTx)とから、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定する、請求項2記載のカルボン酸ガス濃度の推定方法。
【請求項4】
第一の温度計が、カルボン酸が吸収しない波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計である、請求項1〜3いずれか記載のカルボン酸ガス濃度の推定方法。
【請求項5】
表面温度が常温〜350℃の物体に適用される、請求項1〜4いずれか記載のカルボン酸ガス濃度の推定方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載のカルボン酸ガス濃度の推定方法を用いて、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定し、カルボン酸ガス濃度の推定値、チャンバー容積及びチャンバー内圧力から、チャンバー内のカルボン酸量を算出することを特徴とする、カルボン酸量の推定方法。
【請求項7】
加熱ステージ、不活性ガスとカルボン酸ガスとの混合ガス導入手段、及びガス排出手段を有するチャンバーを含む半田付け装置であって、
前記チャンバーが、カルボン酸による赤外線吸収の影響を受けることなく温度を測定できる温度計(第一の温度計)と、カルボン酸が吸収する波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計(第二の温度計)と、を備えていることを特徴とするチャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定可能な半田付け装置。
【請求項8】
第一の温度計が、カルボン酸が吸収しない波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計であり、前記チャンバーが、第一の温度計及び第二の温度計に対応する2つの透過窓を備えている、請求項7記載の半田付け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の半田付け工程等で好適に用いることができる、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度の推定方法、及びチャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定可能な半田付け装置に関する。より詳細には、カルボン酸が特定波長の赤外線を吸収することを利用したカルボン酸ガス濃度の推定方法、及びそれに適合する半田付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップ上に半田バンプを形成する際には、パッド上に半田を付着させ、次いで、マッシュルーム形状から半球体形状へ半田バンプの形状を変化させ、次いで、リフローさせて半田接合する。従来の半田付け方法では、均一な半田バンプを形成するために、フラックスを用いて半田の表面酸化膜を除去し、半田バンプ表面を清浄化していた。
【0003】
しかしながら、フラックスを用いた半田付けでは、フラックスの分解によって、小さな空隙(ボイド)が半田バンプ中に形成されることがある。これらの空隙は、形成された半田接合の電気的及び機械的性質を低下させるだけでなく、半田バンプ付き半導体の平坦性を破壊し、かつ以降の半導体接合工程に影響を及ぼすこともある。分解したフラックスの揮発性物質がリフロー処理装置内を汚染する場合もあり、それによってメンテナンスコストが増大することもある。加えて、フラックス残留物がしばしば半導体基板上に残り、金属の腐食を引き起こし、アセンブリの性能を低下させることがある。さらに、リフロー後にフラックス残留物を洗浄除去する方法では、後洗浄という新たな処理工程が加わることで、半田付けに要する時間が増加する。
【0004】
このため、フラックスを用いない半田付け方法として、半田及び被接合部材である基板や電極等を、ギ酸を用いて還元する方法が知られている(特許文献1〜2等参照)。かかる還元方法では、半田が搭載された被接合部材が所定温度に達したとき、半田を、ギ酸を含む還元性ガスに晒して表面の酸化膜を除去する酸処理を行い、その後溶融処理する。
【0005】
ギ酸の還元開始温度は約150℃であり、ギ酸の沸点は約100℃であることから、ギ酸による酸処理は、通常、蒸発したガス状のギ酸を用いて行われる。その際、チャンバー内のギ酸ガスの濃度を把握する方法として、チャンバー内のガスを捕集してガスクロマトグラフやFTIRなどにより分析する方法が挙げられる。しかし、これらの場合には、ガスクロマトグラフやFTIR等の分析装置の別途付設や、刺激性の強いギ酸が高温のガス状になっている状態で捕集するための安全対策が必要になるといった課題がある。また、分析に時間を要するため、リアルタイムでギ酸濃度を測定できないという課題もある。
【0006】
さらに、酸処理が終了した後のギ酸ガスは、強制排気によりチャンバー内から取り除かれるが、その際、チャンバー内のギ酸ガスが十分排出されたか否か確認する場合にも、チャンバー内のガスを捕集してガスクロマトグラフやFTIR等により分析する方法では、同様の課題がある。
【0007】
そのため、ギ酸等のカルボン酸ガスを用いる酸処理では、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を簡便で安全に、かつリアルタイムで測定できる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−244618号公報
【特許文献2】特開2007−125578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、半田付け装置のチャンバー内のギ酸ガス等のカルボン酸ガス濃度を、リアルタイムで安全に測定できるカルボン酸ガス濃度の推定方法、及びチャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定可能な半田付け装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するため、次の方法と装置を提供するものである。
【0011】
(1)反応用のカルボン酸ガスを導入したチャンバー内におけるカルボン酸ガス濃度を推定する方法であって、
カルボン酸による赤外線吸収の影響を受けることなく温度を測定できる温度計(第一の温度計)と、カルボン酸が吸収する波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計(第二の温度計)を用いて、前記チャンバー内に配置された同一物体の表面温度を同一時点で測定し、前記第一の温度計と前記第二の温度計の温度差(ΔTx)から、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定することを特徴とする、カルボン酸ガス濃度の推定方法。
(2)反応用のカルボン酸ガスを導入したチャンバー内におけるカルボン酸ガス濃度を推定する方法であって、
反応用のカルボン酸ガス濃度を変えて、カルボン酸による赤外線吸収の影響を受けることなく温度を測定できる温度計(第一の温度計)と、カルボン酸が吸収する波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計(第二の温度計)を用いて、前記チャンバー内に配置された同一物体の表面温度を同一時点で測定し、前記第一の温度計と前記第二の温度計の温度差(ΔT)を求めることで、カルボン酸ガス濃度と温度差(ΔT)との関係を示す検量線を予め作成しておき、作成した検量線と、前記チャンバー内に配置された同一物体の表面温度についての前記第一の温度計と前記第二の温度計の温度差(ΔTx)から、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定することを特徴とする、カルボン酸ガス濃度の推定方法。
(3)カルボン酸ガス濃度と温度差(ΔT)との関係を示す検量線を、酸処理温度が異なる複数の条件下で作成し、前記検量線の傾きと酸処理温度との関係を示す関係式を求め、前記関係式から所定の酸処理温度における検量線の傾きを求め、前記検量線の傾きと前記温度差(ΔTx)とから、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定する、前記(2)記載のカルボン酸ガス濃度の推定方法。
(4)第一の温度計が、カルボン酸が吸収しない波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計である、前記(1)〜(3)いずれか記載のカルボン酸ガス濃度の推定方法。
(5)表面温度が常温〜350℃の物体に適用される、前記(1)〜(4)いずれか記載のカルボン酸ガス濃度の推定方法。
(6)前記(1)〜(5)いずれか記載のカルボン酸ガス濃度の推定方法を用いて、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定し、カルボン酸ガス濃度の推定値、チャンバー容積及びチャンバー内圧力から、チャンバー内のカルボン酸量を算出することを特徴とする、カルボン酸量の推定方法。
(7)加熱ステージ、不活性ガスとカルボン酸ガスとの混合ガス導入手段、及びガス排出手段を有するチャンバーを含む半田付け装置であって、
前記チャンバーが、カルボン酸による赤外線吸収の影響を受けることなく温度を測定できる温度計(第一の温度計)と、カルボン酸が吸収する波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計(第二の温度計)と、を備えていることを特徴とするチャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定可能な半田付け装置。
(8)第一の温度計が、カルボン酸が吸収しない波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計であり、前記チャンバーが、第一の温度計及び第二の温度計に対応する2つの透過窓を備えている、前記(7)記載の半田付け装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を、非接触で、かつリアルタイムに推定することが可能になる。また、カルボン酸ガスを捕集する必要がないので、特に刺激性の強いギ酸ガスとの接触や吸入の危険を避けることができ、極めて安全にカルボン酸ガス濃度を推定できる。さらに、カルボン酸ガス濃度からチャンバー内のカルボン酸量を求めることが可能になる。
それらにより、カルボン酸ガスによる酸処理において、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を、還元反応を進行させる最低限の濃度で管理できる;チャンバー内への過剰のカルボン酸ガスの導入を抑制できコストを削減できる;チャンバー内のカルボン酸ガス濃度の変化を把握することで酸処理の終了判定ができる;等の利点を有する。
また、酸処理後は、チャンバー内のカルボン酸ガスを排出する際に、排出が完了したことを判定することができ、カルボン酸ガスと長時間接触することによるチャンバー材の腐蝕を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の半田付け装置の実施形態を示す概略図である。
【
図2】ギ酸の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】第一の温度計及び第二の温度計による測定温度をギ酸濃度別に示した図である。
【
図4】第一の温度計及び第二の温度計による測定温度を測定温度別に示した図である。
【
図5】カルボン酸ガス濃度(%)と温度差(ΔT)との関係を示す検量線である。
【
図6】酸処理温度と検量線の傾きとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係るカルボン酸ガス濃度の推定方法が好ましく適用される半田付け装置について、好ましい一実施形態を示す構成図である。本発明におけるカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、カプロン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、カプリル酸、カプロン酸等が挙げられる。
【0015】
本発明に係るカルボン酸ガス濃度の推定方法は、反応用のカルボン酸ガスを導入したチャンバー内におけるカルボン酸ガス濃度を推定する方法である。具体的には、チャンバー10内の加熱ステージ30の上に載置されることで所定温度に加熱される、基板、半導体チップ、電極等の被接合部材の表面の酸化物を、不活性ガスとカルボン酸ガスとの混合ガスにより除去する方法において、チャンバー10内の反応用のカルボン酸ガス濃度を推定する方法である。不活性ガスとしては、窒素やヘリウム、アルゴンなどが用いられるが、入手容易な窒素が好ましく用いられる。
【0016】
チャンバー10は、被接合部材31,32の表面の酸化膜の除去、及び接合を行うための真空チャンバーである。加熱ステージ30は、その上に半田35を挟持した被接合部材31,32を載置し、カルボン酸の還元温度以上かつ半田が融点しない温度に前記被接合部材を加熱して酸化膜を除去し、酸化膜の除去が終了した後に、半田が溶融する温度まで加熱できる装置である。
【0017】
図1に示す半田付け装置は、不活性ガスとカルボン酸ガスの混合ガスを導入するガス導入手段25、半田35を挟持した被接合部材31,32を載置し所定の温度に加熱する加熱ステージ30、ガス排出手段26、第一の温度計37及び透過窓37w、第二の温度計である放射温度計38及び透過窓38wを備えるチャンバー10を含む構成例である。
【0018】
ガス導入手段25としては、
図1に示すように、予め混合した不活性ガスとカルボン酸ガスの混合ガスを1本のラインでチャンバー10に導入する手段を採用しても良く、不活性ガスとカルボン酸ガスをそれぞれ別ラインでチャンバー10に導入する手段、あるいはカルボン酸を不活性ガス中に噴霧する手段等を採用しても良い。また、不活性ガスとカルボン酸ガスの混合ガスの調整方法は特に限定されず、例えば、ガス導入手段25と接続した別の容器中で所定量のカルボン酸を不活性ガス中で蒸発させること等により調整できる。混合ガス中のカルボン酸ガス濃度は、導入ガス量の比率から求めても良いし、ガスクロマトグラフやFTIRなどで測定して求めても良い。
【0019】
チャンバー10内に導入する混合ガス中のカルボン酸ガスの濃度は、特に限定されないが、反応性の点より、1.5vol%以上とするのが好ましい。これにより、半田や被接合部材の表面の酸化膜の除去が容易に行われ、半田の濡れ広がり性が良好となり、半田付け部分のボイドの発生を低減することできる。カルボン酸ガス濃度は、1.5vol%以上、3vol%以下とするのがより好ましい。1.5vol%以上とするのは、カルボン酸による酸処理に支障をきたすことがないからであり、3vol%以下とするのは、カルボン酸によるチャンバー材の腐蝕の虞が減少するからである。
【0020】
ガス排出手段26は、図示しない真空ポンプに接続されており、不活性ガスとカルボン酸ガスを導入して酸処理を開始する前に、チャンバー10内を強制排気し真空状態にするために用いられる。チャンバー10内を強制排気することで、酸処理を妨げる酸素ガス等を取り除き、また真空状態にすることで、該チャンバー10内に導入されたカルボン酸ガスが気化・分散され易くなる。ガス排出手段26は、酸処理終了後には、チャンバー10内に残留するガスを排出するために用いられる。
【0021】
本発明では、カルボン酸による赤外線吸収の影響を受けることなく温度を測定できる温度計(第一の温度計)と、カルボン酸が吸収する波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計(第二の温度計)を用い、チャンバー内の同一物体の表面温度を同一時点で測定する。そして、同一時点で所定の同一物体について測定した際に、前記第一の温度計と前記第二の温度計の間に温度差(ΔTx)が生じるので、この温度差(ΔTx)の程度から、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定する。
【0022】
即ち、第一の温度計及び第二の温度計である放射温度計の2つの温度計は、ともにチャンバー内に配置された同一物体の表面温度を測定する。「同一物体の表面温度」を「同一時点で測定する」とは、表面温度が等しい物体の温度を、2つの温度計で同時に測定することを意味する。また、「チャンバー内に配置された物体」とは、カルボン酸処理を行う室(チャンバー)に配置された物体を意味する。したがって、チャンバー内に配置された物体は、加熱ステージ30等の加熱プレートに限られず、被接合体であってもよく、あるいは、チャンバー内に配置された任意の物体や、温度測定用として配置した物体でもよい。
【0023】
上記の第一の温度計37としては、カルボン酸ガスが赤外線を吸収することによる影響を受けない温度計を用いる必要がある。このような温度計としては、水銀温度計や抵抗温度計、熱電対温度計等の接触型温度計、あるいは、カルボン酸ガスが吸収しない波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計等の非接触型温度計が挙げられる。第一の温度計は、加熱ステージ30の温度を所定温度に制御する役割も有している。
【0024】
第一の温度計として放射温度計を用いる場合は、カルボン酸による影響を受けずに温度を測定できる放射温度計であれば、特に限定されず、一般的に半田付け装置で用いられている放射温度計を用いることができる。ギ酸の場合、
図2に赤外線スペクトルを示すように、ギ酸が吸収する赤外線の波長は、2.5〜4.0μm、5.5〜6.0μm及び7.0〜14.0μmの領域にある。したがって、例えば、InSbを検出素子とし、さらにバンドパスフィルターを取り付け、ギ酸による吸収がない4.5〜5μmの波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計を用いることができる。
【0025】
一方、第二の温度計である放射温度計(以下、「第二の放射温度計」と言う。)38としては、カルボン酸ガスが吸収する波長領域の赤外線で温度を測定することができる放射温度計を用いる。したがって、第二の放射温度計38で測定する加熱ステージ30の温度は、チャンバー10内のカルボン酸ガス濃度の影響を受ける。第二の放射温度計としては、カルボン酸が吸収する前記の領域の赤外線を検出する検出素子を備えた放射温度計を用いるので、例えば、波長8〜13μmの赤外線で温度を測定できるサーモパイルを検出素子とする放射温度計を用いることができる。
【0026】
なお、第一の温度計37として放射温度計を使用する際及び第二の放射温度計38を使用する際には、カルボン酸ガスが存在しない状態で加熱ステージ30の温度を測定し、熱電対などの接触型温度計で測定した温度と一致するように予め補正しておくことが望ましい。
【0027】
第一の温度計37及び第二の放射温度計38の設置位置は、特に限定されるものではないが、一般的に接触型温度計はチャンバー10内に設置することが多い。一方、第一の温度計として放射温度計を用いた場合、チャンバー10内に、これら2つの放射温度計を設置することもできるが、放射温度計をチャンバー10内に設置した場合には、放射温度計自身が放射する熱やチャンバーの床や壁から放射する熱も感知し、温度の測定誤差が大きくなる虞があるので、
図1に示すように、チャンバー10の外部に2つの放射温度計を設置するのが好ましい。
【0028】
チャンバー10の外部に放射温度計を設置する場合には、放射熱(赤外線)がチャンバー10の外に透過できるよう透過窓を設ける。放射温度計にチャンバー10の床や壁等の加熱ステージ30以外からの赤外線が入射するのを避けるために、透過窓はできるだけ狭面積とし、それぞれの放射温度計に対応する透過窓を設けるのが良い。
図1では、透過窓37wが第一の温度計37に対応し、透過窓38wが第二の放射温度計38に対応する例を示している。
【0029】
透過窓は、赤外線を吸収しない素材で形成する必要があり、こうした素材としては、BaF
2、CaF
2、ZnSeが挙げられる。
【0030】
本発明の半田付け装置を用いて行われる酸処理ならびに接合方法は、特に限定されるものではなく公知の方法等であって良く、例えば、以下の工程で行われる。先ず、チャンバー10内の加熱ステージ30の上に、半田35を挟持した被接合部材31,32を載置する。ガス排出手段26を介して真空ポンプによりチャンバー10内に存在する空気などのガスを強制排気する。同時に加熱ステージ30を加熱する。加熱ステージ30の温度をリアルタイムで測定し、被接合部材31,32が所定の温度に達したことを確認した後、バルブ21を閉めガス排出手段26とチャンバー10との接続を閉じる。次いで、バルブ20を開け、不活性ガスとカルボン酸ガスの混合ガスのガス導入手段25より、不活性ガスとカルボン酸ガスの混合ガスを導入し、チャンバー10内を不活性ガスとカルボン酸ガスの混合ガスで満たし、酸処理を行う。
【0031】
つまり、本願請求項1に係るカルボン酸ガス濃度の推定方法では、酸処理時に、カルボン酸による影響を受けない温度計と影響を受ける温度計の、2つの温度計を用いて加熱ステージ30の表面温度を測定することで、チャンバー10内のカルボン酸ガス濃度を推定することができる。第一の温度計37は、水銀温度計、抵抗温度計あるいは熱電対温度計などの接触型温度計や、前記の通り、カルボン酸ガスが吸収しない波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計であり、その測定温度はカルボン酸ガスの影響を受けないので、加熱ステージ30の実際の温度である。第一の温度計37の測定温度に基づいて、加熱ステージ30の表面温度が制御され、酸処理温度は所定の温度範囲に維持される。第一の温度計37は、酸処理が終了した後は、半田の溶融温度まで加熱する際の表面温度の測定及び維持に用いることができる。
【0032】
第二の放射温度計38は、前記の通り、カルボン酸ガスが吸収する領域の赤外線で温度を測定する放射温度計であり、この第二の放射温度計で測定した加熱ステージ30の表面温度は、カルボン酸ガスの影響を受けるため実際の加熱ステージ30の温度を示さなくなる。つまり、第二の放射温度計38は、カルボン酸ガスが吸収した赤外線の量に応じて、実際の温度よりも低い温度を表示する。また、カルボン酸ガスが吸収する赤外線の量は、カルボン酸ガスの濃度に比例する。例えば、温度が一定の場合、第二の放射温度計38が示す温度は、低いほどカルボン酸ガスの濃度が高く、高いほどカルボン酸ガス濃度が低くなり、また第一の温度計37と同じ温度を示す場合にはカルボン酸ガス濃度は0ということになる。こうして、第一の温度計と第二の放射温度計の温度差から、カルボン酸ガス濃度の大小を推定することができる。
【0033】
酸処理の進行にともない、チャンバー10内のカルボン酸ガス濃度は低下し、酸処理が終了した後はカルボン酸ガス濃度がほぼ一定になるので、第二の放射温度計38が示す温度は、酸処理の開始時は低く、酸処理の進行とともに徐々に上昇し、酸処理が終了した後は、ほぼ一定となる。こうして、第二の放射温度計38がリアルタイムで示す温度から、酸処理の進行状況を把握することができる。
【0034】
ところで、物体から放射される赤外線の強度は、物体の温度に影響され、温度が高いほど増加することが知られている。したがって、第二の放射温度計38を用いて酸処理時のカルボン酸ガス濃度を測定する場合、チャンバー10内の温度が一定であることが重要な要件となる。しかしながら、本発明では、第一の温度計37を用いて、加熱ステージ30の温度をリアルタイムで測定し、所定温度を維持できるよう制御するので、この点での問題はない。
【0035】
さらに、本願請求項2に係るカルボン酸ガス濃度の推定方法では、不活性ガスとカルボン酸ガスとの混合ガス中のカルボン酸ガスの濃度を変えて、第一の温度計37を用いて、加熱ステージ30の表面温度を測定し、該測定温度に基づいて加熱ステージ30の温度を所定温度に制御しつつ、第二の放射温度計38を用いて、加熱ステージ30の表面温度を測定する。そして、第一の温度計37と第二の放射温度計38の温度差(ΔT)を求めることにより、予めカルボン酸ガスの濃度と温度差(ΔT)との関係を示す検量線を作成しておき、前記検量線を用いて、加熱ステージ30の表面温度についての、前記第一の温度計と前記第二の放射温度計による温度差(ΔTx)から、チャンバー10内のカルボン酸ガスの濃度を求めることができる。
【0036】
すなわち、カルボン酸ガス濃度と温度差(ΔT)との関係を示す検量線を予め作成しておくことにより、カルボン酸ガス濃度未知のチャンバー10内の温度差ΔTxを求めるだけで、カルボン酸ガス濃度を定量的に求めることができる。
【0037】
ギ酸の検量線は、例えば、次のようにして作成することができる。チャンバー10内を真空引きした後、該チャンバー内に配置された加熱ステージ30を、所定の温度に加熱し、温度が安定した後、ギ酸ガス濃度既知のギ酸ガスと不活性ガスとの混合ガスを、チャンバー10内に導入し、第一の温度計37が示す温度(T
1)と第二の放射温度計38が示す温度(T
2)を同時に測定し、T
1とT
2の温度差(ΔT)を求める。ギ酸ガス濃度を変えて、同様の操作を繰り返す。さらに、加熱ステージ30の温度を変更して同様の操作を繰り返す。最後に、加熱ステージ30の温度毎に、ギ酸ガス濃度(%)と温度差(ΔT)の関係をプロットし、一次回帰直線で近似することにより、検量線を作成する。
【0038】
検量線の作成に用いるカルボン酸ガス濃度は任意に設定することができる。例えば、ギ酸による酸化膜の除去の場合には、用いるギ酸ガス濃度の好ましい範囲が1.5〜3vol%であり、酸処理によってギ酸ガス濃度が減少することを考慮すると、約3vol%程度までの濃度の検量線を作成しておけばよい。
【0039】
上述した通り、物体の温度により、放射される赤外線の強度は異なるので、加熱ステージ30の温度により放射される赤外線の強度は変化する。そのため、カルボン酸ガスが吸収する赤外線の量が同じでも、酸処理温度が異なれば、第二の放射温度計38が示す温度は異なる。よって、カルボン酸ガス濃度と温度差(ΔT)の関係は、温度によって変化するので、酸処理温度毎に検量線を作成する必要がある。
【0040】
検量線を作成する際は、温度範囲を任意に設定し、各酸処理温度に対応する複数の検量線を予め作成しておくことで、広範囲の温度に対してカルボン酸ガス濃度を求めることが可能となる。このようなカルボン酸ガス濃度と温度差(ΔT)との関係を示す検量線を、酸処理温度が異なる複数の条件下で作成し、前記検量線の傾きと酸処理温度との関係を示す関係式を求め、前記関係式から所定の酸処理温度における検量線の傾きを求めることができる。そして、前記検量線の傾きと前記温度差(ΔTx)とから、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を求めることで、カルボン酸ガス濃度を推定することができる。真空引き下常温のチャンバー内に、予め不活性ガスとカルボン酸ガスとの混合ガスを導入する場合があることや、350℃ではほぼ全ての半田が溶融していること等の観点より、常温〜350℃の範囲で検量線を作成しておくことで、半田付け処理ならびに半田付け装置におけるカルボン酸ガス濃度の推定が可能になる。
【0041】
また、検量線を作成する温度の幅は、特に限定はないが、25〜50℃の範囲で、カルボン酸濃度の測定精度に応じて適宜選択すればよい。例えば、酸処理温度を150℃に設定した場合、100℃から300℃まで50℃間隔で検量線を作成することで、100〜300℃までの範囲でギ酸濃度を高い精度で推定することが可能となる。
【0042】
本発明に係るカルボン酸ガス濃度の推定方法により推定したカルボン酸ガス濃度を用いることで、チャンバー内のカルボン酸量を推定することも可能である。具体的には、チャンバー容積にカルボン酸ガス濃度を乗じて、チャンバー内のカルボン酸ガス量を求めた後、チャンバー内圧力を常圧に換算することで、チャンバー内のカルボン酸ガス量を求めることができる。なお、チャンバー内圧力は、第一の温度計と第二の温度計による温度差(ΔTx)測定時点におけるチャンバー内圧力である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
図1に示す構成で、チャンバー容量が20Lの半田付け装置を用いて試験を行った。チャンバー10内を真空引きした後、該チャンバー内に設置した加熱プレート30を、150℃に加熱し、温度が安定した後、ギ酸ガス濃度2.4%のギ酸ガスと不活性ガスとの混合ガスを、チャンバー内に導入し、第一の温度計37が示す温度(T
1)と第二の放射温度計38が示す温度(T
2)を、同時に測定することで、T
1とT
2の温度差(ΔT)を求めた。ギ酸ガス濃度を1.2%、0.6%に変更して、同様の操作を繰り返した。
図3参照。
加熱プレートの温度を250℃、350℃に変更して、同様の操作を繰り返した。
図4参照。
前記の加熱プレートの温度毎に、ギ酸ガス濃度(%)と温度差(ΔT)の関係をプロットし、一次回帰直線で近似して検量線を作成した。
図5参照。
また、
図5に示した3本の検量線について、横軸に酸処理温度(プレート設定温度)、縦軸に検量線の傾き(%/ΔT)をプロットし、前記検量線の傾きと酸処理温度との関係を示す関係式(一次回帰直線)を作成した。
図6参照。
【0045】
図3及び
図4の結果より、ギ酸ガス濃度が高いほど温度差(ΔT)が大きくなり、ギ酸ガス濃度が同じ場合は、加熱プレートの温度が高いほど温度差(ΔT)が大きくなるので、温度差(ΔT)を測定することで、チャンバー内のギ酸ガス濃度を推定することが可能となる。また、
図5の検量線を用いることで、ギ酸ガス濃度を定量的に求めることが可能となる。
【0046】
(実施例2)
酸処理温度200℃における検量線の傾きは、実施例1にて作成した一次回帰直線(
図6)を用いることで、0.037(%/ΔT)として求めることができる。また、前記検量線の傾きと、酸処理温度200℃における2つの温度計の測定温度差(ΔT)とから、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を算出することが可能となる。
【0047】
(実施例3)
酸処理温度200℃におけるカルボン酸量は、実施例2にて算出したカルボン酸ガス濃度にチャンバー容量(20L)を乗じて、該チャンバー内におけるカルボン酸ガス量を算出した後、温度測定時点におけるチャンバー内圧力を常圧に換算することで、チャンバー内のカルボン酸ガス量を算出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明のカルボン酸ガス濃度の推定方法は、a)酸処理工程終了後のチャンバー内のカルボン酸ガス濃度の把握、b)酸処理工程の途中で温度を変える場合のカルボン酸ガス濃度の変化の把握、c)半田付け装置内におけるカルボン酸ガス濃度の変化の追跡等に有用である。また、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定可能な半田付け装置は、半田付け工程の短縮による生産性の向上のためにも有用である。
【符号の説明】
【0049】
10 チャンバー
20 バルブ
21 バルブ
25 ガス導入手段
26 ガス排出手段
30 加熱ステージ
31 被接合部材
32 被接合部材
35 半田
37 第一の温度計
37w 透過窓
38 第二の放射温度計
38w 透過窓
【要約】
【課題】半田付け装置のチャンバー内のギ酸ガス等のカルボン酸ガス濃度を、リアルタイムで安全に測定することができるカルボン酸ガス濃度の推定方法、及びチャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定可能な半田付け装置を提供する。
【解決手段】反応用のカルボン酸ガスを導入したチャンバー内におけるカルボン酸ガス濃度を推定する方法では、カルボン酸による赤外線吸収の影響を受けることなく温度を測定できる温度計(第一の温度計)と、カルボン酸が吸収する波長域の赤外線で温度を測定する放射温度計(第二の温度計)を用いて、前記チャンバー内に配置された同一物体の表面温度を同一時点で測定し、第一の温度計と第二の温度計の温度差(ΔTx)から、チャンバー内のカルボン酸ガス濃度を推定する。半田付け装置は、加熱ステージ、不活性ガスとカルボン酸ガスとの混合ガス導入手段、ガス排出手段、第一の温度計、第二の温度計とを備えたものである。
【選択図】
図1