(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
薄い平板形状の弾性材料と剛性材料を交互に上下方向に積層した積層ゴム体の内部に、少なくとも一つ以上の塑性変形に伴うエネルギー吸収機能を担うダンパー機構としての塑性金属コアを内蔵したダンパー内蔵型の積層ゴム免震装置であって、
前記塑性金属コアが、降伏強度および弾性係数の異なる2種類の塑性変形能力をそれぞれ備えた内側金属と外側金属とを水平断面において同心状に複合配置して構成されており、かつ、前記内側金属の外側に降伏強度および弾性係数が前記内側金属よりも高い外側金属を配置して両者を密着させ一体化した複合金属コアとしており、
同一平断面寸法の金属コアの全断面を前記内側金属単独で構成した金属コアに対して、複合金属コアのせん断剛性上昇率よりも曲げ剛性上昇率を大きく高めることにより、せん断変形が卓越する変形モードとして、塑性変形によるエネルギー吸収性能をより安定化させると共に、
前記塑性金属コアの水平せん断抵抗力を同一断面積で比較した場合、前記外側金属単独で全断面を構成した金属コアAの水平せん断抵抗力QAと前記内側金属単独で全断面を構成した金属コアBの水平せん断抵抗力QB(QB<QA)に対して、前記複合金属コアCの水平せん断抵抗力QCを、前記金属コアAの水平せん断抵抗力QAと前記金属コアBの水平せん断抵抗力QBの間の任意の強さの水平せん断抵抗力とし、QB≦QC<QAと設定している免震装置において、
前記複合金属コアを構成する前記外側金属および前記内側金属の材料の組み合わせとして、組合せ1(前記外側金属を錫、前記内側金属を鉛)、組合せ2(前記外側金属をアルミニウム、前記内側金属を鉛もしくは錫)、組合せ3(前記外側金属を亜鉛、前記内側金属を鉛、錫、アルミニウムのいずれか)、組合せ4(前記外側金属を銅、前記内側金属を鉛、錫、アルミニウム、亜鉛のいずれか)のいずれか(但し、各材料はそれぞれの合金を含む)としていることを特徴とする免震装置。
【背景技術】
【0002】
免震構造は、大地震時の強い地震動に対して構造物の揺れそのものを低減できるので、建物の構造体骨組と共に、家具や設備備品などの内部収容物を含めた建物全体の耐震安全性を高めることができる。
【0003】
免震構造物を実現するための免震装置には、構造物の重量を支えながら大きな水平変形ができるアイソレータ機能と、地震により構造物に投入された振動エネルギーを吸収するダンパー機能の両機能を有していることが必要である。これまでに実用化されている免震システムとしては、1)天然ゴム系積層ゴム+別置きダンパ−、2)高減衰積層ゴム、3)鉛コア入り積層ゴムなどの積層ゴム系免震システムがあり、その他に4)すべり支承系の免震装置、5)転がり系支承系の免震装置等も実用化されている。
【0004】
これらの免震装置の中で、世界的に高い評価を受け、且つ多くの実績を有するものにニュージーランドで発明・開発された「鉛コア入り積層ゴム免震装置」がある(特許文献1および特許文献2参照)。この装置は、アイソレータとしての積層ゴム支承の平面中央部1カ所もしくは平面内複数箇所に、ダンパー(エネルギー吸収機構)として機能する鉛コアを封入したもので、日本および海外(ニュージーランド・米国・イタリア・台湾・トルコ・中国、南米等)も含めて世界的に評価の高い代表的な免震装置である。
【0005】
この免震装置は、免震構造に必要とされるアイソレータ機能とダンパー機能の両者を一装置で兼備していること、ダンパー機能を担う鉛コアとアイソレータ機能を担う積層ゴムの組み合わせにより免震構造としての性能、即ち免震装置の復元力特性をかなり自由に調整できるという特長を有している。
【0006】
一方、近年では環境問題に対する社会的認識が高まってきたことから、材料としての鉛の有する毒性を嫌う社会的風潮の高まりを受けて、鉛と同様に塑性変形性能に優れた超塑性金属を内蔵コア材料として利用する提案が行われている。具体的な材料としては、鉛と同じ結晶構造である面心立方格子を有する錫および錫−ビスマス合金等を用いる「錫プラグ入り積層ゴム」(特許文献3)、亜鉛−アルミニウム系合金を利用するもの(特許文献4)等も開発あるいは提案されている。
【0007】
その他にもエネルギー吸収用のコア材料として、減衰性能の高い高減衰ゴム等の高分子材料を利用するもの、硬度の異なる2種類のプラスチック樹脂材料を混合成形するもの(特許文献5、6)、ゴム等の高分子材料と鉄粉やガラスビーズ等の粒状物を混合・成型した人造的なダンパー材料を用いるもの(特許文献7)等も提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図1に、本発明が対象とする従来のダンパー(金属コア)内蔵型の免震装置の基本構成を示しており、(1)は縦断面図、(2)は水平断面図である。積層ゴム体1の中心部に金属コア3を内蔵しており、その上下端部付近に厚さの厚い端部鋼板25を有し、その外側にフランジ鋼板4を有している。本例では、円形平面の積層ゴム体1の平面中央に内蔵金属コア3を有しており、その金属コア3の平面形状は円形である。
通称「LRB」と呼ばれる鉛プラグ入り積層ゴムや「SnRB」と呼ばれる錫プラグ入り積層ゴム等の金属コア内蔵型免震装置あるいはゴムと鉄粉の混合による人造材料コア等を内蔵する免震装置は、
図1に示すように、薄い平板形状の弾性材料11(通常はゴム層)と剛性材料2(通常は鋼板)を交互に上下方向に積層した積層ゴム体1の内部に、少なくとも一つ以上の塑性変形に伴うエネルギー吸収機能を担うコア材料3を内蔵した構造とされている。エネルギー吸収用のコア材料3(内蔵コア)は、複数個に分散配置されることもあるが、それは積層ゴム体の平面が非常に大きい大型装置の場合で、通常は積層ゴム体1の平面中央部に一個配置されるのが基本である。
【0010】
免震装置の減衰性能を高めるためには、エネルギー吸収性能を担う内蔵コアを大きくすればよいが、内蔵コアの直径(平面寸法)が積層ゴム直径に対してある一定比率以上に大きくなりすぎると、積層ゴム体の水平変形モードが崩れたり、水平変形をした場合の積層ゴム体の安定性や鉛直荷重支持能力に問題を生じるようになるので、一般的には積層ゴム直径の20%程度乃至それ以下にコア直径を抑えることが必要になる。
【0011】
そこでコア材料の選択により減衰性能を調整するという観点から、積層ゴムに内蔵するダンパー材料としてこれまでにも上記のように種々の材料が提案されてきたが、上記特許文献5〜7に例示した樹脂材料や粒状物を利用するものは、その抵抗力が小さい(単位断面積当たりのせん断抵抗力(応力度レベル)が低い)ために、大重量の大型構造物用の免震装置を前提とすると、コア直径を非常に大きくしなければならず、現実的寸法としては成立しないことになる。使用可能な対象物としては、戸建て住宅等の軽量で小規模の構造物に限定せざるをえない。
【0012】
従って、大重量の大型構造物用の免震装置を対象とすると、内蔵コア用のダンパー材料としては、抵抗力の応力度レベルの観点からはやはり金属材料が相応しいことになる。
金属材料の内、特許文献3には錫−ビスマス、錫−インジウム等の低融点合金材料が提案されているが、その融点は表1のとおり117〜138℃と極めて低温で融解する。
表1 低融点合金材料の組成と機械的性質(特許文献3による)
【0013】
免震装置のダンパー機能を担う内蔵コアは、構造物への地震入力エネルギーを免震層の層間変位に伴う自らの塑性変形によって吸収することを目的にしているので、地震時にはその吸収エネルギーによって発熱する。その上昇温度は、これまでの多くの実験により厳しい地震動に対しては容易に100℃を超えることが知られている。
【0014】
従って、これらの低融点合金材料は、過酷な地震動が作用する場合には融点に到達して融解する可能性が高く、その融解前の高温時には抵抗力が低下して、エネルギー吸収性能が著しく低下することになる。そのため、これらの低融点合金材料は、塑性金属材料ではあるものの、大地震時の塑性変形に伴うエネルギー吸収を目的とした免震装置の内蔵コア用材料としては不適であると言わざるを得ない。
【0015】
これまでに注目・検討されている塑性変形性能に優れていると考えられる金属材料としては、鉛、錫、アルミニウム、亜鉛、銅およびそれらの合金材料の利用が考えられる。
これらの代表的超塑性金属の縦弾性係数E、せん断弾性係数G、体積弾性係数K、ポアソン比ν、融点、室温および融点での密度等の物質としての基本特性(機械的性質)を表2に示す。
表2 代表的超塑性金属の機械的性質
【0016】
周知のとおり、これらの材料の内これまでに最も採用実績の多い免震装置用内蔵コアの金属材料は、純度99.99%以上の純鉛である。鉛は、超塑性金属として非常に大きな塑性変形能力を有するという優れた機械的性質を有しているものの、人体に対する毒性を有するために、環境衛生問題に厳しい昨今の情勢からはその使用が敬遠される傾向にある。また、その抵抗力もダンパー用としては若干低めである点も改良の余地がある。
【0017】
一方、鉛の毒性を避ける観点から、毒性のない超塑性金属として注目されているのが錫である。内蔵金属コア材料として錫を採用した錫プラグ入り積層ゴムが実用化されており、その採用実績も着実に進展しつつあるが、錫プラグは鉛に比較するとその抵抗力が約2倍程度と高いために、個々の積層ゴムに採用するには抵抗力がやや強すぎる傾向がある。また、その強さは金属としての硬さと連動しており、その硬さの故に塑性域における抵抗力が一定で変形できる鉛のような均一性には欠け、変形と共に抵抗力が増大する蝶型の履歴形状を示す。即ち、塑性変形特性としては鉛の方が優れている。
【0018】
また錫プラグは、熱的特性の観点において以下に示す致命的欠点を有している。
表3に、主として鉛と錫の熱的特性と機械的性質の比較を示す。即ち、錫はその抵抗力(せん断降伏応力度)が鉛の2倍程度強い一方で、融点が鉛よりも100℃近くも低いという際だった特性を有している。
【0019】
表3 鉛と錫の熱的性質と強度特性の比較
【0020】
今、最も一般的(標準的)な建築物用積層ゴムとして、直径1000mmφの積層ゴム(コア寸法:直径200mmφx高さH400mm)を想定し、これに大地震時の水平変形として±300mmの強制変形が作用する場合を想定し、地震前の想定温度20℃からこの金属プラグが融点に達するまでの加振サイクル数を算定すると、表3(下半部)に示すとおり、鉛プラグでは約18サイクルであるのに対して、錫プラグではその1/3程度の7.6サイクルで融点に達することになる。
この違いは、錫プラグの特徴として、その抵抗力が鉛の約2倍近く高いために1サイクル当りの吸収エネルギー量、即ち発熱量が2倍近く高い反面、融点が鉛よりも100℃も低いという特性に起因している。エネルギー吸収に伴う温度上昇によって抵抗力が低下するため、融点に達する実際の加振サイクル数はもう少し多くなると予想されるが、いずれにしても抵抗力の低下によりエネルギー吸収性能が著しく早期に低下していくことは明らかである。
【0021】
特に、2011年の東北地方太平洋沖地震よりも近くで発生する可能性が高いマグニチュードM9レベルの超巨大地震が南海トラフ沿いで発生した場合には、この想定以上に大きな振幅で長時間に渡り多数回の繰り返し加振を受ける可能性が高いので、強い長周期・長時間継続地震動に対しては、錫プラグ入り積層ゴムは深刻な問題を抱えていると言わざるを得ない。
【0022】
以上の免震装置(積層ゴム)用内蔵コアに関する議論、問題点を要約すると以下にようになる。先ず、コア材料として高分子材料を利用することは、抵抗力レベルが低いためにダンパー機能としての性能が低く、コア寸法を非常に大きくすると装置自体の不安定化に繋がることになり、コア材料としての性能上劣っている。また金属コアの内、低融点合金材料(表1)は融点が低すぎて、吸収エネルギーにより容易に融点に到達し得るので、これまたコア材料としては不適である。
【0023】
内蔵コア材料として現実的な金属材料は、やはりこれまでの実績の多い鉛と錫が有望となるが、表2に示すとおり、最も柔らかい鉛とその次の錫は、弾性係数で3倍以上、せん断降伏強度で約2倍近くの差があり、その他の材料は更に大きな相違がある。即ち、金属コアとしての鉛は、変形性能には優れているものの、強度的には少し柔らかめであり、逆に錫は硬すぎて変形特性も鉛に比較すると難がある。その他のアルミニウム、亜鉛、銅等の金属は、錫以上に剛性が高いために、錫プラグ以上に強すぎる傾向を有することになる。また鉛には、毒性を有するという問題点もある。
以上のとおり、免震装置の内蔵コア材料としては強度レベルの観点から金属コアを利用せざるをえないものの、最適の強度、変形特性や機械的性質、環境衛生上・取り扱い上の安全性(毒性のなさ)等の諸観点において、「すべての要求条件を完備した理想的な金属コア材料は存在しない」ということになる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は以上の問題点を解決するため次の構成を採用する。
〈構成1〉
薄い平板形状の弾性材料と剛性材料を交互に上下方向に積層した積層ゴム体の内部に、少なくとも一つ以上の塑性変形に伴うエネルギー吸収機能を担うダンパー機構としての塑性金属コアを内蔵したダンパー内蔵型の積層ゴム免震装置において、
前記塑性金属コアが、降伏強度および弾性係数の異なる2種類の塑性変形能力をそれぞれ備えた内側金属と外側金属とを水平断面において同心状に複合配置して構成されており、かつ、前記内側金属の外側に降伏強度および弾性係数が前記内側金属よりも高い外側金属を配置して両者を密着させ一体化した複合金属コアとしており、
同一平断面寸法の金属コアの全断面を前記内側金属単独で構成した金属コアに対して、複合金属コアのせん断剛性上昇率よりも曲げ剛性上昇率を大きく高めることにより、せん断変形が卓越する変形モードとして、塑性変形によるエネルギー吸収性能をより安定化させると共に、
前記塑性金属コアの水平せん断抵抗力を同一断面積で比較した場合、前記外側金属単独で全断面を構成した金属コアAの水平せん断抵抗力QAと前記内側金属単独で全断面を構成した金属コアBの水平せん断抵抗力QB(QB<QA)に対して、前記複合金属コアCの水平せん断抵抗力QCを、前記金属コアAの水平せん断抵抗力QAと前記金属コアBの水平せん断抵抗力QBの間の任意の強さの水平せん断抵抗力とし、QB≦QC<QAと設定していることを特徴とする免震装置。
【0025】
〈構成2〉
構成1に記載した免震装置において、前記複合金属コアを構成する前記外側金属および前記内側金属の材料の組み合わせとして、組合せ1(前記外側金属を錫、前記内側金属を鉛)、組合せ2(前記外側金属をアルミニウム、前記内側金属を鉛もしくは錫)、組合せ3(前記外側金属を亜鉛、前記内側金属を鉛、錫、アルミニウムのいずれか)、組合せ4(前記外側金属を銅、前記内側金属を鉛、錫、アルミニウム、亜鉛のいずれか)のいずれか(但し、各材料はそれぞれの合金を含む)としていることを特徴とする免震装置。
【0026】
〈構成3〉
構成1または構成2に記載した免震装置において、前記複合金属コアの縦断面形状が、上端部から下端部にかけての平面寸法がほぼ同一か、僅かに異なるテーパー付き柱状体であり、前記外側金属および前記内側金属の平断面形状を、円形、概正方形もしくは八角形以下の概正多角形のいずれかとしており、且つ、平面形状が円形の場合には、前記外側金属の外側面および内外両金属の境界面に凹形状もしくは凸形状の2以上の縦リブを設けていることを特徴とする免震装置。
【0027】
〈構成4〉
構成1乃至構成3のいずれかに記載した免震装置において、
前記複合金属コアを構成する前記外側金属の材質を錫もしくはその合金とし、前記内側金属の材質を鉛もしくはその合金としており、
前記外側金属および前記内側金属の平断面形状を、円形、概正方形もしくは八角形以下の概正多角形のいずれかとしており、
前記外側金属の厚さt1を前記複合金属コアの外形寸法dpに対して0.35以下(t1/dp≦0.35)としていることを特徴とする免震装置。
【0028】
〈構成5〉
構成1乃至構成4のいずれかに記載した免震装置において、前記複合金属コアの上端部、もしくは下端部、あるいは上下両端部に、平面中央部にねじきりを行ったコア定着用蓋部材を埋設しており、前記コア定着用蓋部材の材質を銅もしくは銅合金としていることを特徴とする免震装置。
【0029】
〈構成6〉
構成1乃至構成5のいずれかに記載した複合金属コアを内蔵する免震装置の製造方法であって、
前記外側金属および前記内側金属に使用されている金属材料の融点の相違を利用して、
前記外側金属の融点が前記内側金属の融点より高い場合は、予め所定の寸法・形状に整形された前記外側金属の内部空洞に、前記外側金属の融点以下の温度で溶融状態にした内側金属を注入することにより前記複合金属コアを製造し、もしくは、
前記外側金属の融点が前記内側金属の融点より低い場合は、前記外側金属の外面形状に等しい内面形状を有する金型を作成し、その内部に予め整形した前記内側金属を配置して、両者の隙間に前記内側金属の融点以下の温度で溶融状態にした前記外側金属を注入することによって前記複合金属コアを製造することを特徴とする免震装置の製造方法。
【0030】
〈構成7〉
構成1乃至構成5のいずれかに記載した複合金属コアを内蔵する免震装置の製造方法であって、
予め前記内側金属を所定の寸法、形状に整形しておき、前記外側金属を溶融した槽内に浸漬して、前記内側金属の外表面に前記外側金属の表面メッキ層を形成することによって前記複合金属コアを製造し、もしくは、
予め所定の寸法、形状に整形された前記内側金属の少なくとも側面表面上に前記外側金属を溶射により吹き付けて前記外側金属の薄膜を形成することによって前記複合金属コアを製造することを特徴とする複合金属コアを内蔵する免震装置の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明の効果第1点は、金属コアの水平せん断抵抗力を任意に設定できることである。
本発明は、積層ゴムに内蔵される金属コアを2種類の金属材料を複合化したハイブリッドコアとして構成するために、金属コアの水平せん断抵抗力を2種類の金属コア単独で構成した場合の両水平せん断抵抗力の中間の範囲内において、任意の水平せん断抵抗力に自由に設定することができる。
即ち、塑性金属コアの水平せん断抵抗力を同一断面積で比較した場合、外側金属単独で全断面を構成した金属コアAの水平せん断抵抗力QAと内側金属単独で全断面を構成した金属コアBの水平せん断抵抗力QB(QB<QA)に対して、複合金属コアCの水平せん断抵抗力QCを、金属コアAの水平せん断抵抗力QAと金属コアBの水平せん断抵抗力QBの間の任意の強さの水平せん断抵抗力とし、QB≦QC<QAに設定可能となる。
尚、上記においてQC=QBを含めているのは、構成7において外側金属Aをメッキもしくは溶射により薄膜として構成した場合、その抵抗力QCは概ねQBに近くなる(QC≒QB)場合を意味している。
【0032】
本発明の効果第2点は、第1点と同様の効果であるが、金属コアの強度(単位面積当たりの水平せん断抵抗力)を自在に調整できることである。
金属コアの水平せん断抵抗力を単位面積当たりの平均せん断応力度で表現すると、外側金属の降伏せん断応力度をτ1、内側金属の降伏せん断応力度をτ2(τ2<τ1)とし、金属コアの全断面積A0に対する外側金属の断面積A1の割合をRA1(=A1/A0)とすると、複合金属コアの単位面積当たりの平均降伏せん断応力度τ3は、τ3=τ1×RA1+τ2(1−RA1)となり、複合する2種類の金属の面積比により、τ1とτ2の間の任意の強さの平均せん断降伏応力度τ3(τ2≦τ3<τ1 )に設定可能である。
【0033】
次ぎに本発明の効果の第3点として、外側金属に内側金属よりも弾性係数の高い材料を採用した複合金属コアの曲げ剛性EI3およびせん断剛性GA3を、内側金属コア単独の曲げ剛性EI2およびせん断剛性GA2と比較した場合、金属コアの曲げ剛性を決定する断面2次モーメントIはコア断面の外側ほど寄与率が高い(断面内の各部微小面積の断面2次モーメントへの寄与は、コア中心からその存在位置までの距離の2乗に比例する)ので、前者(複合金属コアの断面性能)の後者(内側金属コア単独の断面性能)に対する上昇率CEI=EI3/EI2、CGA=GA3/GA2を比較すると、一般的に CEI>CGA となる。従って、本発明の複合金属コアでは、せん断剛性の上昇率よりも曲げ剛性の上昇率が高くなるので、複合金属コアに水平力を作用させた場合の変形モードとして、曲げ変形が生じにくくなる。即ち、本発明の複合金属コアは、曲げ変形が生じにくくなるため、せん断変形卓越型の変形モードとなり、より安定したせん断変形を生じ、安定したエネルギー吸収特性を示すようになる。
【0034】
本発明の効果の第4点としては、複合金属コアの内側金属に鉛を使用し、外側金属に錫等の鉛以外の材料を複合した場合、人体に対する毒性を有するとされる鉛が毒性のない外側金属で被覆されることになり、製造過程における取り扱い上の安全性、作業者に対する安全・衛生上の課題が改善される。
【0035】
本発明の複合金属コアの組合せ方として、内側金属に鉛を使用し、外側金属の厚さをメッキや溶射により薄膜とした場合には、複合金属コアの機械的性質は内部金属(鉛)の特性に殆ど一致し、且つ取り扱い上表面は毒性を有しない金属コアを実現することができる。
【0036】
本発明の効果の第5点は、錫プラグ入り積層ゴムの弱点解消効果である。
鉛以外の金属コアを内蔵した積層ゴム免震装置として、錫プラグ入り積層ゴムがあり、近年その採用実績が伸長しつつあるが、この装置は段落[0018]〜[0021]で指摘した熱的弱点を有している。これに対して、外側金属に錫、内側金属に鉛を複合した本発明の装置では、錫部分で発生した熱を、熱容量が大きく発熱量の低い鉛部分に伝達することができるので、錫部分の温度上昇を抑制でき、且つコア全体の熱容量を高め、溶融温度の高い鉛が錫の熱的劣化をカバーするので、錫プラグ入り積層ゴムに比較すると、発熱による装置全体の熱的弱点が大きく改善され、錫プラグ入り積層ゴムの抱える熱問題を解消することができる。
【0037】
更に第6の効果として、本発明では複合金属コアの平面形状にも工夫がある。即ち、平面が正方形等の多角形の場合はリブなしでよいが、複合金属コアの平面形状を円形にした場合は、金属コアの外側側面および外部金属と内部金属の境界面に2以上の縦リブを設けることになっている。これにより、免震装置が水平2方向の変形を同時に強制された場合、特に装置底面に対して装置上面が平面的に回転する加振を受けた場合にも、積層ゴム内部において、金属コアが鉛直軸周りの回転を起こすことが不可能であり、如何なる加振モード、特に円形加振に対しても安定した塑性変形によるエネルギー吸収性能を発揮することができる。
【0038】
また金属コアの平面形状として正方形(辺長D)を採用した場合、従来の円形断面(直径dφ)に較べて同じ平面寸法(D=d)を採用した場合には、コアの断面積が1.27倍(=4/π)となるので、それだけ減衰性能(エネルギー吸収性能)が高い装置となるという効果もある。
【0039】
更に、経済的観点での効果もある。現時点における錫プラグ入り積層ゴムの課題の一つにコストの問題がある。即ち、コアに用いる錫の材料費が極めて高価であるために、錫プラグ入り積層ゴムの価格が極めて高くなることである。本発明の複合金属コアとして、内側金属を鉛、外側金属に錫を採用し、且つ外側金属の錫の厚さを適度に制限することにより、毒性解消、強度改善を図りながら、コストを適切なレベルに抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】従来のダンパー内蔵型の免震装置の基本構成を示す図であり、 (1)積層ゴム体の中心にコアを有することを示す縦断面図、 (2)積層ゴム体の平面中央に円形コアを内蔵していることを示す水平断面図である。
【
図2】本発明の実施例1を示しており、複合金属コアを内蔵する免震装置全体の基本構成を示す説明図であり、 (1)積層ゴム体の中心に複合金属コアを有することを示す縦断面図、 (2)積層ゴム体の平面中央に正方形平面の複合金属コアを内蔵していることを示す水平断面図である。
【
図3】本発明の実施例2(構成3)を示す説明図であり、 (1A)平面形状が円形の複合金属コアで、外周側面および外側金属と内側金属の境界面に縦リブ4個を有している場合を示す水平断面図、 (2A)上記複合金属コアの立面図、 (3A)上記複合金属コアの上下端部に吊下げ用連結部材を内蔵している場合を示す縦断面図、 (1B)平面形状が概正方形の複合金属コアを示す水平断面図、 (2B)上記複合金属コアの立面図、 (3A)上記複合金属コアの、上下端部にコア定着用蓋部材を内蔵している場合の縦断面図である。
【
図4】本発明の実施例3(構成7で製造された金属コア)を示す図であり、 (1A)平面形状が円形の複合金属コアを示す図で、側面および外側金属と内側金属の境界面に縦リブ4個を有している場合で外側金属はメッキもしくは溶射による薄膜のため複合金属コア断面は殆どが内側金属で構成されている状況を示す水平断面図、 (2A)上記複合金属コアの立面図、 (1B)平面形状が概正方形の複合金属コアを示す図で、外側金属がメッキもしくは溶射による薄膜のため複合金属コア断面が殆どが内側金属で構成されている状況を示す水平断面図、 (2B)上記複合金属コアの立面図である。
【
図5】本発明の複合金属コアの実施例4を示す図であり、 複合金属コアの平面形状を円形もしくは正方形とした場合で、且つ外側金属の材質を錫、内側金属の材質を鉛とした場合において、外側金属の厚さの比率による複合金属コアの平均せん断降伏応力度τの変化を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施例5を示す図であり、 複合金属コアの平面形状を円形とし、外側金属の材質を錫、内側金属の材質を鉛とした場合における複合金属コアの平面寸法(直径)と外側金属の厚さによる複合金属コアの水平せん断抵抗力Qdの変化を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施例6を示す図であり、 複合金属コアの平面形状を正方形とし、外側金属の材質を錫、内側金属の材質を鉛とした場合における複合金属コアの平面寸法(直径)と外側金属の厚さによる複合金属コアの水平せん断抵抗力Qdの変化を示す説明図である。
【
図8】本発明の実施例7を示す図であり、 外側金属の材質を錫、内側金属の材質を鉛とした場合において、外側金属と複合金属コア全体の面積比(A1/A0)による複合金属コアの曲げ剛性EIおよびせん断剛性GAの(コア全体を鉛で構成したコアに対する)上昇率を示す説明図である。
【
図9】本発明の実施例8を示す図であり、 外側金属の材質を錫、内側金属の材質を鉛とした場合において、外側金属の厚さの比(2t1/dp)による複合金属コアの曲げ剛性EIおよびせん断剛性GAの(コア全体を鉛で構成したコアに対する)上昇率を示す説明図である。 コアの平面形状が円形でも、正方形でも、この上昇率曲線は共通(外周形状と内側金属が同じ平面形状で外側金属の厚さt1が均一であれば共通)である。
【
図10】本発明の第6の効果を説明するための図であり、 (1)積層ゴム体の中心にコアを有する積層ゴムが水平方向(5の方向)に強制変形を受けた状態を示す縦断面図、 (2)上記5の方向に変形した後、直交方向(6の方向)に変形を受けた場合、即ち基礎側に固定された下端面に対して積層ゴム体の上端面が7のように回転する方向の強制変形を受けた場合に、従来装置では、内蔵された円形平面のコアが8のように鉛直軸周りの回転を起こす可能性を示すアイソメ図、 (3)上記2と同様の強制変形を受けた場合でも、本発明の内蔵された正方形平面(もしくは縦リブつき円形平面)のコアは鉛直軸周りの回転は不可能であることを示すアイソメ図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、各実施例において共通する部分には同一符号を付している。
【実施例1】
【0042】
図2は、本発明の構成1および構成2の実施例1を示している。
図2(1)は縦断面図、
図2(2)は、水平断面図である。
実施例1の免震装置は、薄い平板形状のゴム層11(弾性材料)と内部鋼板2(剛性材料)を交互に上下方向に積層した積層ゴム体1の内部に、少なくとも一つ以上の塑性変形に伴うエネルギー吸収機能を担うダンパー機構としての塑性金属コア30を内蔵したダンパー内蔵型の積層ゴム免震装置である。
塑性金属コア30は、降伏強度および弾性係数の異なる2種類の塑性変形能力をそれぞれ備えた内側金属32と外側金属31とを水平断面において同心状に複合配置して構成されている。且つ、両者の組合せ条件として、内側金属32の外側に弾性係数および降伏強度が内側金属32よりも高い外側金属31を配置して両者を密着させ一体化した複合金属コア30としている。複合金属コア30は、
図2(2)に示すように平面形状が概正方形に形成されている。
外側金属31に内側金属32よりも縦弾性係数が高く、且つ降伏強度の高い材料を配置することにより、同一平断面寸法の内側金属32単独で構成した金属コアに対して、複合金属コアのせん断剛性上昇率よりも曲げ剛性上昇率を大きく高めることができる。その結果、金属コアの曲げ変形が小さくなり、変形モードとしてせん断変形を卓越させることが可能となり、せん断塑性変を安定させ、塑性変形によるエネルギー吸収性能をより安定化させている。
【0043】
複合金属コア30の上下端部付近に厚さの厚い端部鋼板25を有し、その外側にフランジ鋼板4を有している。
外側金属31および内側金属32の材質の具体的組合せとして、次の4つの組合せがある。すなわち、組合せ1は外側金属31を錫、内側金属32を鉛とする。組合せ2は外側金属31をアルミニウム、内側金属32を鉛もしくは錫とする。組合せ3は外側金属31を亜鉛、内側金属32を鉛、錫、アルミニウムのいずれかとする。組合せ4は外側金属31を銅、内側金属32を鉛、錫、アルミニウム、亜鉛のいずれかとする。
これらの組合せのいずれか(但し、各材料はそれぞれの合金を含む)を採用できるが、代表的な例としては、外側金属31を錫とし、内側金属32を鉛とする(それぞれの合金も含む)組合せである。
以上の構成により、本発明では、塑性金属コア(複合金属コア)30の水平せん断抵抗力を同一断面積で比較した場合、外側金属31単独で全断面を構成した金属コアAの水平せん断抵抗力QAと内側金属32単独で全断面を構成した金属コアBの水平せん断抵抗力QB(QB<QA)に対して、複合金属コアCの水平せん断抵抗力QCは、金属コアAの水平せん断抵抗力QAと金属コアBの水平せん断抵抗力QBの間の任意の強さの水平せん断抵抗力、QB≦QC<QAに設定可能となっている。
【実施例2】
【0044】
図3は、本発明の構成3の実施例を示すもので、内蔵する複合金属コアの具体的形状を示している。
図3(1A)〜(3A)は、複合金属コアの平面形状を円形とする場合で、
図3(1A)は複合金属コア30の水平断面図である。
図3(2A)は複合金属コア0の立面図であり、外周部にある縦リブ33が見えている。
図3(3A)は複合金属コア0の縦断面図の例である。
複合金属コア30の縦断面形状は、上端部から下端部にかけての平面寸法がほぼ同一か、僅かに異なるテーパー付き柱状体である。外側金属31および内側金属32の水平断面形状は、円形、概正方形もしくは八角形以下の概正多角形のいずれかとしている。さらに、平面形状が円形の場合には、外側金属31の外側面に4つ(2以上)の縦リブ33を設けており、外側金属31と内側金属32の境界部には4つの縦溝(縦方向凹凸形状)34が嵌合して一体化されている。
また、
図3(3A)には、コアの上下端部に積層ゴム製造時における吊り下げ作業等に用いるコア定着用蓋部材36が示されている。この蓋部材36は、コア金属の地震時変形に伴うコア金属の上部への流出を封入する「閉じ込め機能」を有すると共に、この蓋部材を銅もしくは銅合金で構成することにより、残留変形が生じた後の通電によりコア金属を加熱・昇温して、残留変形を解除しやすくする「残留変形解除機能」、またその昇温・冷却により塑性変形に伴って生じた金属結晶の再結晶化を促し、それにより塑性歪みを解消して金属コアの組織を回復させる「金属組織再生機能」等を有している。
【0045】
図3(1B)〜(3B)は、複合金属コアの平面形状を概正方形とした場合で、
図3(1B)は複合金属コア30の水平断面図、
図3(2B)は立面図、
図3(3B)は縦断面図である。平面形状が正方形もしくは多角形の場合には、金属コア外形と積層ゴムの内部鋼板2、端部鋼板25、収まり形状によってはフランジ4が互いに噛み合い鉛直軸周りに回転ズレを起こす恐れはないので、外周部の縦リブは不要である。また外側金属31と内側金属32も互いに噛み合い、鉛直軸周りの回転ズレを生じる恐れがないので、両金属境界部の縦方向凹凸形状溝も不要である。
【0046】
図3(3B)のコアの上下端部にあるコア定着用蓋部材の役割は、
図3(3A)の説明に記したとおりである。
また
図3(3A)および
図3(3B)には、外側金属31と内側金属32の境界部に周溝(水平方向の凹凸形状)35が示されている。これは、複合金属コアが水平方向の変形を強制された時に、両金属間で縦方向のすべりが生じるのを防止するための両金属の鉛直方向ズレ止めである。2種類の金属が複合された金属コアが一体として歪みを生じることで、塑性変形が均一になり、安定したエネルギー吸収性能を発揮できるように構成されている。
【0047】
図3に示す複合金属コア30を、外側金属31および内側金属32に使用されている金属材料の融点の相違を利用して製造する方法を規定したものが構成6である。即ち、外側金属31の融点が内側金属32の融点より高い場合は、予め所定の寸法・形状に整形された外側金属31の内部空洞に、外側金属31の融点以下の温度で溶融状態にした内側金属32を注入することにより複合金属コア30を製造することができる。
また逆に、外側金属31の融点が内側金属32の融点より低い場合は、外側金属31の外面形状に等しい内面形状を有する金型を作成し、その内部に予め整形した内側金属32を配置して、両者の隙間に内側金属32の融点以下の温度で溶融状態にした外側金属31を注入することによって複合金属コア30を製造することができる。
【実施例3】
【0048】
図4は、本発明の構成7の実施例を示すもので、
図4(1A)〜(2A)は、複合金属コアの平面形状を円形とする場合、
図4(1B)〜(2B)は、複合金属コアの平面形状を概正方形とする場合である。
図4(1A)、(1B)は複合金属コア30の水平断面図であり、
図4(2A)、(2B)は複合金属コア30の立面図である。
本実施例の免震装置においては、予め内側金属32を所定の寸法、形状に整形しておき、外側金属を溶融した槽内に浸漬して、内側金属32の外表面に外側金属31の表面メッキ層を形成することによって複合金属コア30を製造するか、もしくは、予め所定の寸法、形状に整形された内側金属32の少なくとも側面表面上に外側金属31を溶射により吹き付けて外側金属の薄膜を形成することによって複合金属コア30を製造する。
外側金属31をメッキもしくは溶射によって薄膜として構成しているため、図面上は外形線311として表示されているのみで、コアの殆どは内側金属32が占めている。この時、内側金属32を鉛とし、外側金属31(311)を錫、もしくはアルミニウム、その他の毒性のない金属で構成し被覆・コーティングすることにより、金属コアの機械的性能は鉛の特性を発揮させながら、取扱上も衛生・環境等の問題のない免震装置を実現している。本実施例により、鉛プラグ入り積層ゴムの毒性の問題が解消・解決されたことになる。
本実施例においては、外側金属は薄膜として構成されているので、外側金属による抵抗力は極めて小さくなり、複合金属コアCの抵抗力QCは概ね内側金属Bの抵抗力QBに近い値(QC≒QB)になる。
【実施例4】
【0049】
図5は、本発明の構成1および構成2による2種類の金属の複合効果を具体的に示したものである。複合金属コア30の外側金属31を錫、内側金属32を鉛として組み合わせた場合の複合金属コア30の平均せん断応力度τが、複合金属コア30直径dpと外側金属31の厚さt1の比率2t1/dpに応じてどう変化するかを示している。
即ち、横軸2t1/dp=0の場合の水平せん断抵抗力(平均せん断応力度)τは、内側金属32の鉛のせん断降伏応力度τ=8(N/mm2)に一致している。実施例3の外側金属31をメッキもしくは溶射により薄膜として構成した場合は、ほぼこの状態に対応する。
図5が示すとおり、外側金属31の厚さが厚くなるに従って、複合金属コア30の水平せん断抵抗力は上昇し、横軸が2t1/dp=1になると、複合金属コア30の水平せん断抵抗力(平均せん断応力度)τは、外側金属31、即ち全断面を錫で構成した場合のせん断降伏応力度τ≒15(N/mm2)に一致する。本図が示すとおり、本発明では、2種類の金属の組合せ方により、両金属の水平せん断抵抗力の間であれば、任意の強さに平均せん断応力度を調整することができるのである。尚、このグラフは、錫と鉛の組合せにおいて、複合金属コア30の平面形状が円形でも正方形でも同じ曲線であり、更に多角形の場合でも外側金属31と内側金属32が同形状で外側金属31の厚さt1が均一であればこの曲線に一致する。
【実施例5】
【0050】
図6は、
図5で示した外側金属31を錫、内側金属32を鉛とした場合の複合金属コア30の実際の寸法(複合金属コア(プラグ)直径dp)と水平せん断抵抗力Qdの関係を示したものである。金属コアの平面形状は円形の場合である。
プラグ直径dpは、φ100mm〜φ300mmの範囲としており、複数の曲線の内、最下段の線が全断面を鉛で構成した場合、最上段の線が全断面を錫で構成した場合の水平せん断抵抗力である。外側金属31の錫の厚さを僅かt1=10mmから直径300mmφの場合でも50mm程度とすることで、極めて効率的に水平せん断抵抗力Qdを上昇させることができることがわかる。
【実施例6】
【0051】
図7は、
図6と同じく外側金属31を錫、内側金属32を鉛として組み合わせた複合金属コア30の平面形状を正方形にした場合の複合金属コア30(プラグ)の辺長dpと水平せん断抵抗力Qdの関係を示したものである。
正方形プラグの寸法は辺長dpを100mm〜300mmの範囲としており、最下段の線が全断面を鉛で構成した場合、最上段の線が全断面を錫で構成した場合の水平せん断抵抗力である。
図6と同様に、外側金属31の錫の厚さを僅かt1=10mm〜50mmとすることで、極めて効率的に水平せん断抵抗力Qdを上昇させることができ、また同じ外形寸法でも正方形とすることにより、円形平面よりも水平せん断抵抗力Qdがかなり大きくなることが示されている。
【実施例7】
【0052】
図8は、金属コアを複合化することによって金属コアの曲げ剛性EIとせん断剛性GAが上昇する程度を示したものである。複合する金属は、前例と同じく外側金属31を錫、内側金属32を鉛として組み合わせた場合で、全断面を鉛で構成した場合に対する剛性の比率として示している。
複合金属コア30の平面形状は円形とし、複合金属コア30(プラグ)の直径dpをφ100mm〜φ300mmの範囲としているが、このグラフはコア寸法には依存せず、どの寸法でも同じである。
複数の線の内、最下段の線(A1/A0=0)が全断面を鉛で構成した場合で、この剛性を基準値=1としている。最上段の線(A1/A0=1)が全断面を錫で構成した場合の剛性で、曲げ剛性EIの上昇率は錫と鉛の縦弾性係数の比率に、せん断剛性GAの上昇率は錫と鉛のせん断弾性係数の比率に一致している。中間の複数の線は、コアの全断面積A0に対する外側金属31(錫)の面積A1の比率A1/A0の値をパラメータとして示している。
両図の比較からわかるとおり、外側金属31の面積比が同一の場合、曲げ剛性の上昇率がせん断剛性の上昇率よりも大きくなっていることがよく分かる。この曲げ剛性の上昇率がせん断剛性上昇率よりも高くなることが本発明の重要ポイントの一つである。
【実施例8】
【0053】
図9は、複合金属コア30における曲げ剛性EIとせん断剛性GAの上昇率を、横軸を円形コアの直径dpに対する外側金属31の厚さt1の比率2t1/dpとして示したものである。複合する金属は、前例と同じく外側金属31を錫、内側金属32を鉛として組み合わせた場合で、全断面を鉛で構成した場合の剛性(基準値=1)に対する剛性の上昇率として示している。
このグラフから判るとおり、複合金属コア30の剛性上昇率は2t1/dp=0〜0.7の範囲で曲げ剛性の上昇率がせん断剛性の上昇率を上回っており、2t1/dp≒0.7において逆転する。即ち、複合金属コア30を外側金属31を錫、内側金属32を鉛として構成する場合には、外側金属31(錫)の厚さはt1/dp=0〜0.35の範囲とすべきである。
この条件の範囲内において、本発明の複合金属コア30はせん断変形が卓越しやすい変形モードの金属コアとなり、安定したエネルギー吸収性能を発揮することが期待できる。
尚、このグラフは、錫と鉛の組合せにおいて、複合金属コア30の平面形状が円形でも正方形でも同じ曲線であり、更に多角形の場合でも外側金属31と内側金属32が同形状で外側金属31の厚さt1が均一で、断面中心軸(中立軸)に対して対称形状であればこの曲線に一致する。
【実施例9】
【0054】
以上の
図6、
図7,
図9を同時に考慮すると、本発明は以下の優れた効果を有していることが分かる。即ち、外側金属31を錫、内側金属32を鉛として複合金属コア30を構成した場合で説明すると、外側金属31の錫の厚さを僅か10〜20mm程度としただけで、コアの水平せん断抵抗力をかなり上昇させることができると同時に、コアの曲げ剛性が大きく上昇(平均的なコア寸法dp=200mmに対して2t1/dp≒0.1〜0.2となる)して、せん断変形卓越型の変形モードになり、安定したエネルギー吸収特性を発揮できるようになる。
【0055】
この時、内側金属32の鉛(鉛の面積は全体の90〜81%)の効果によりコア全体としては大きな熱容量が確保されているので、錫部分で上昇した温度は速やかに鉛部分に伝達され、コア全体の温度上昇が抑制される。その結果、コア全体が錫で構成された錫プラグ入り積層ゴムでは、大きな変形が多数回繰り返される過酷な地震入力の場合、錫プラグの温度上昇により水平せん断抵抗力が急激に低下し、最悪の場合には溶融する可能性があるが、本発明の複合金属コア30ではこの温度上昇による水平せん断抵抗力の低下やコア自体の溶融の危険性が大幅に改善・解消されている。
【実施例10】
【0056】
図10は、本発明の複合金属コア30を内蔵する積層ゴム免震装置が有する効果の一つを示す実施例である。
図10(1)は積層ゴム体1が矢印5の方向に水平せん断変形を受けた状態(変形1)を示す縦断面図である。積層ゴム体1の水平変形に応じて内蔵コア3は図のように変形し、コアの下端部37に対して、コアの上端部38は平面位置が積層ゴムの水平変形量と同じだけ水平にずれた位置になる。
この状態の後、積層ゴム上端38の変形が矢印5の方向(変形1)とは90°異なる直交方向6に進むことになると、
図10(2)の矢印6の方向に作用する力(図中央の矢印)はコアの下端部37に対して、コア3を回転させるモーメント(ねじり力)となり、コア3は鉛直軸周りに矢印8のように回転しようとする。積層ゴム体の水平変形に対してコア3が鉛直軸周りの回転変形で追従すると、コア自体には塑性せん断変形が発生しないことになり、その結果コアのエネルギー吸収性能が発揮されないことになる。
【0057】
本発明では、複合金属コア30の平面形状を正方形等の多角形、もしくは平面形状を円形にした場合は金属コアの外側側面および外部金属と内部金属の境界面に2以上の縦リブを設けることにしている。これにより、免震装置が水平2方向の変形を同時に強制された場合、特に装置底面に対して装置上面が平面的に回転する矢印7のような加振を受けた場合にも、積層ゴム内部において、金属コア30は鉛直軸周りの回転を起こすことが不可能であり、如何なる加振、特に円形加振に対しても安定した塑性変形によるエネルギー吸収性能を発揮することができるという優れた効果を備えている。
【0058】
以上のとおり、本発明による複合金属コア30を内蔵する積層ゴムでは、単一金属では達成できないコアの水平せん断抵抗力を適切なレベルに設定できると同時に、安定したエネルギー吸収性能を発揮できるようになり、これまでのダンパー内蔵型の積層ゴムの性能、信頼性を大きく改善することが可能となった。
特に2011年に東北地方太平洋沖地震(M9.0)を経験した現在、M9レベルの超巨大地震が我が国日本でも現実的なものとして認識されるようになり、長周期・長時間継続する過酷な地震動や水平2方向の過酷な入力地震動を想定した場合、本発明の免震装置が貢献する役割が大きいと期待される。
【課題】ダンパー内蔵型の免震装置において、内蔵コアの抵抗力を自在に設定でき、過酷な地震動入力に対しても安定したエネルギー吸収性能を発揮できる信頼性の高い免震装置を提供する。
【解決手段】積層ゴムに内蔵されるダンパー用コアを2種類の金属材料を組み合わせた複合金属コアとして構成し、外側金属に剛性・強度の高い塑性変形性能に富む材料を、内側金属に剛性・強度が低く塑性変形性能に富む金属材料を配置する。複合金属コアのせん断剛性上昇率よりも曲げ剛性上昇率を大きく高めることにより、せん断変形が卓越する変形モードとして、塑性変形によるエネルギー吸収性能をより安定化させ、同時に内蔵金属コアの水平せん断平均降伏力度レベルを2種類の金属の降伏応力度の間の任意の強度レベルに設定可能とした。