特許第5661976号(P5661976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5661976
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】車両予防保守システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20150108BHJP
   B60S 5/00 20060101ALI20150108BHJP
   G01M 17/007 20060101ALN20150108BHJP
【FI】
   G06Q50/10 130
   B60S5/00
   !G01M17/00 H
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-530989(P2014-530989)
(86)(22)【出願日】2014年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2014055900
【審査請求日】2014年6月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233491
【氏名又は名称】株式会社日立システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100080001
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100113642
【弁理士】
【氏名又は名称】菅田 篤志
(74)【代理人】
【識別番号】100117008
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100147430
【弁理士】
【氏名又は名称】坂次 哲也
(72)【発明者】
【氏名】池田 秀樹
【審査官】 山内 裕史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/057519(WO,A1)
【文献】 特開2012−048717(JP,A)
【文献】 特開2000−132608(JP,A)
【文献】 特開2006−293444(JP,A)
【文献】 特表2004−530233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00−50/34
B60S 5/00
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の消耗品を交換するメンテナンスの実施に係る保守計画の管理を支援する車両予防保守システムであって、
各車両において収集した車両情報、および当該車両におけるメンテナンスの結果に係る情報をネットワークを介して収集して、車両情報蓄積記憶部に記録する車両情報収集部と、
前記車両情報蓄積記憶部に記録された前記車両情報に基づいて、各車両における消耗品の劣化度を算出して車両状況記憶部に記録する分析部と、
前記車両状況記憶部に記録された各消耗品の前記劣化度もしくは前記劣化度の予測に基づいて、メンテナンスの時期と交換対象の消耗品の情報を含む前記保守計画を作成もしくは更新して、保守計画記憶部に記録する計画管理部と、
各車両のメンテナンス時における消耗品の交換結果を含む情報に基づいて、当該メンテナンスに係る前記保守計画の妥当性を評価する計画評価部と、
を有する、車両予防保守システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両予防保守システムにおいて、
さらに、前記劣化度に影響を与え得る変動要因に係る情報を取得する関連情報取得部を有し、
前記分析部は、前記変動要因に基づいて劣化係数を算出し、前記劣化係数によって各車両における消耗品の前記劣化度を補正する、車両予防保守システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両予防保守システムにおいて、
前記変動要因には、車両の走行位置における地域特性、道路条件および気象条件、車両の積載量、ドライバーの属性、および消耗品の品質のうち1つ以上の要因を含む、車両予防保守システム。
【請求項4】
請求項3に記載の車両予防保守システムにおいて、
前記計画評価部は、各車両における消耗品の前記劣化度をドライバー毎に集計し、前記劣化度が高いドライバーに対してその旨を通知する、車両予防保守システム。
【請求項5】
請求項1に記載の車両予防保守システムにおいて、
前記計画管理部は、車両の消耗品のうち、将来における前記劣化度が最も早く第1の所定の値以上となるものが生じる時点において、前記劣化度が前記第1の所定の値よりも低い第2の所定の値以上となる消耗品をまとめて、前記保守計画における次回のメンテナンスでの交換対象とする車両予防保守システム。
【請求項6】
請求項1に記載の車両予防保守システムにおいて、
前記計画評価部は、前記保守計画の妥当性を評価する際に、車両の耐用年数の期間にわたっての消耗品の交換によるライフサイクルコストによって評価する、車両予防保守システム。
【請求項7】
請求項1に記載の車両予防保守システムにおいて、
各車両がメンテナンスを行う際に、対象の車両の現在位置における近隣の整備工場の情報を地図情報に基づいて取得し、当該車両に通知して誘導する、車両予防保守システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の点検保守を管理する技術に関し、特に、テレマティクスにより適切な保守計画の立案、管理を支援する車両予防保守システムに適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車や輸送車両などとの間で無線通信を行って情報を授受することで各種サービスを提供するテレマティクスの利用が検討されてきている。これまでは主に、車両の運行状況の把握や、車両に対する交通情報等の配信などのサービスが検討されているが、車両情報を収集して分析することで、例えば、車両の故障診断や、部品の劣化状況の判断などの車両の保守・メンテナンスの領域に適用することも検討されている。
【0003】
例えば、特許第4583594号公報(特許文献1)には、ユーザの携帯電話からのアクセスによる車両情報の受信、ユーザのパソコンからのアクセスによる自己車両のデータ要求、あるいは車両管理システムに関連する他部署のコンピュータからのアクセスによるデータ要求を受信中か否かを調べ、データ受信の場合、データを処理してデータベースに時系列的に蓄積するとともに、学習値の経時変化から予測診断を行い、さらに、車両の初期情報から部品やシステムの劣化状態を把握し、アクセス先にデータを送信する車両管理システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4583594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたような技術を用いることで、車両の部品やシステムの現在の劣化状態の把握や異常の予測などを行い、保守案内などを行うことが可能となる。
【0006】
一方で、例えば、多数の運送用車両を保有する運送業者などでは、各車両の点検、整備などの保守をいかに効率的・効果的に行って、保守に要する全体のコストを低減させるかが重要であり、そのためには事前の保守計画をいかに適切に立案するかが重要となる。
【0007】
例えば、車両には、メンテナンス作業の際に交換対象となり得る多数の消耗品があり、これらは、それぞれ固有の交換時期・タイミングを有する。これらの消耗品は、可能な限り一回のメンテナンスのタイミングでまとめて交換できるのが望ましい。しかしながら、メンテナンスの際に交換時期が到来している消耗品については交換できても、近いうちに交換時期が到来するであろう消耗品についてもまとめて点検・交換するというのは困難であり、結果として、メンテナンス回数が増えたり、交換時期を過ぎても交換できずに使用を継続する、というような事態が生じ得る。
【0008】
このような車両の予防保守の仕組みを情報処理システムにより支援するためには、例えば、消耗品の交換時期の把握を、現状の一部の消耗品のように、「ヘタってきたら」や「音がうるさくなってきたら」などの定性評価により行うのではなく、定量評価することが必要となる。一方で、消耗品については、各車両についての特性、例えば、高速走行の頻度や積載量、走行地域、ドライバーなどの条件が、消耗品の劣化状態に影響を与えることも考えられ、劣化状態を適切に把握して、適切な交換時期を予測するのが困難な場合もある。また、同じ消耗品でも価格や品質、等級などによって耐用年数が異なる場合もあり、長期的に見てどの消耗品を使うのが最もコストパフォーマンスが良いかの判断が難しい場合がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、テレマティクスを活用して車両の消耗品の劣化状態を適切に把握し、適切な保守計画の立案と、計画に基づくメンテナンス結果による保守計画の評価、および次回保守計画へのフィードバックを行い、車両の予防保守に係る業務を支援する車両予防保守システムを提供することにある。
【0010】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0012】
本発明の代表的な実施の形態による車両予防保守システムは、車両の消耗品を交換するメンテナンスの実施に係る保守計画の管理を支援する車両予防保守システムであって、各車両において収集した車両情報、および当該車両におけるメンテナンスの結果に係る情報をネットワークを介して収集して、車両情報蓄積記憶部に記録する車両情報収集部と、前記車両情報蓄積記憶部に記録された前記車両情報に基づいて、各車両における消耗品の劣化度を算出して車両状況記憶部に記録する分析部と、前記車両状況記憶部に記録された各消耗品の前記劣化度もしくは前記劣化度の予測に基づいて、メンテナンスの時期と交換対象の消耗品の情報を含む前記保守計画を作成もしくは更新して、保守計画記憶部に記録する計画管理部と、各車両のメンテナンス時における消耗品の交換結果を含む情報に基づいて、当該メンテナンスに係る前記保守計画の妥当性を評価する計画評価部と、を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0014】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、テレマティクスを活用して車両の消耗品の劣化状態を適切に把握し、適切な保守計画の立案と、計画に基づくメンテナンス結果による保守計画の評価、および次回保守計画へのフィードバックを行い、車両の予防保守に係る業務を支援することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態である車両予防保守システムの構成例について概要を示した図である。
図2】本発明の一実施の形態における予防保守サービスを利用して実現できるPDCAサイクルの例について概要を示した図である。
図3】本発明の一実施の形態における車両情報蓄積DBのデータ構成の例について概要を示した図である。
図4】(a)、(b)は、本発明の一実施の形態における車両状況DBのデータ構成の例について概要を示した図である。
図5】本発明の一実施の形態における保守計画DBのデータ構成の例について概要を示した図である。
図6】本発明の一実施の形態における消耗品マスタDBのデータ構成の例について概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
本発明の一実施の形態である車両予防保守システムは、例えば、多数の車両を保有し管理する運送業者等において、テレマティクスにより、これらの車両の情報を収集して一元的に管理し、当該情報に基づいて消耗品の劣化状態を定量的に推測するとともに、推測結果に基づいて、効率的な保守計画の立案、管理を支援するシステムである。保守計画には、予防保守の観点で、各車両の次回(もしくは次回以降)のメンテンナスをいつ行い、どの消耗品をまとめて交換するか、といった内容に加えて、交換後の消耗品としてどの部品を用いるかの情報が含まれる。同じ消耗品であっても、価格と品質(耐用年数など)の点から、ライフサイクルコスト(LCC)を最も低減させることができる部品を選択することができる。
【0018】
また、本実施の形態の車両予防保守システムでは、保守計画の立案だけではなく、これに基づいて行われたメンテナンスの結果に基づいて保守計画の妥当性を評価し、その結果を保守計画にフィードバックして次回保守計画の最適化を行う、というPDCAサイクルを実現し、保守計画の継続的な改善を図ることを可能とする。
【0019】
<システム構成>
図1は、本発明の一実施の形態である車両予防保守システムの構成例について概要を示した図である。車両予防保守システム1は、例えば、運送業者が保有もしくは管理する1台以上の車両20から、無線通信およびインターネット等のネットワーク50を介して車両予防保守サーバ10が車両情報を取得、収集し、これを分析することで、運送業者に対して各車両20についての保守計画の立案、管理を支援するテレマティクスのサービスを提供する。車両20がメンテナンスを行った整備工場等からも、PC(Personal Computer)等の情報処理端末からなる整備工場端末30を介して、車両情報や整備情報などを取得するようにしてもよい。
【0020】
運送業者では、ユーザが、例えば、PC等の情報処理端末からなる運送業者端末40上の図示しないWebブラウザ等を利用して、ネットワーク50を介して車両予防保守サーバ10にアクセスして、保守計画の立案支援などのサービスを利用する。
【0021】
車両予防保守サーバ10は、例えば、データセンターにおけるサーバ機器やクラウドコンピューティングサービス上に構築された仮想サーバなどにより実装されるサーバシステムであり、図示しないOS(Operating System)やDBMS(DataBase Management System)、Webサーバプログラムなどのミドルウェア上で稼働するソフトウェアプログラムとして実装される、車両情報収集部11、関連情報取得部12、分析部13、計画管理部14、および計画評価部15などの各部を有する。また、車両情報蓄積データベース(DB)16、車両状況DB17、保守計画DB18、および消耗品マスタDB19などの各データベースやテーブルを有する。
【0022】
車両情報収集部11は、各車両20や整備工場端末30等から、ネットワーク50を介して、車両20についての車両情報やメンテナンスの処理結果に係る情報を定期的、もしくは随時に取得、収集し、車両情報蓄積DB16に記録する機能を有する。車両情報としては、後述するように、例えば、GPS(Global Positioning System)による位置情報や、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)等により収集される速度やタコメータ等の情報、各種センサーにより収集される情報などが含まれ得る。各種センサーにより収集する情報としては、消耗品もしくはその近辺の温度の他に、例えば、エンジンルーム内の音量や、ベルト等の弾性体の張力、硬度など、従来は人の感覚による定性的評価を行っていたものを定量的に評価可能とするものが望ましい。
【0023】
関連情報取得部12は、車両情報蓄積DB16に記録される車両情報に対応する車両20について、運行や状態に影響を与え得る外部の関連情報を、図示しない外部サービス等から取得して、個別に、もしくは車両情報と併せて車両情報蓄積DB16に記録する機能を有する。関連情報としては、例えば、車両情報を取得した時点および位置における気象情報や、地形情報、道路情報などが含まれ得る。
【0024】
分析部13は、車両情報蓄積DB16に蓄積された車両情報を、一定期間毎などの所定のタイミングで分析して、車両20毎にその時点での状況や各種消耗品の劣化状態などを推測したり、将来の劣化状態を予測したりして、結果を車両状況DB17に記録する機能を有する。
【0025】
消耗品の劣化状態の推測・予測は、例えば、当該消耗品の現状もしくは将来の所定の時点(時期、走行距離数などにより特定する)での劣化率を算出することで行う。劣化率は、例えば、消耗品の属性に応じて静的に設定される基本計算式により得られる結果に、走行条件や外部条件などの変動要因に基づいて設定される劣化係数を乗算することで求める。基本計算式については、例えば、弾性体の張力や、液体の残量、物体の厚さや溝の深さなど、センサーによって得られた数値により直接劣化の程度を判断することが可能な消耗品については、センサーの取得値をそのまま用いることができ、例えば、即時交換が必要な劣化率100%の状態となる値との割合(%)として算出することができる。
【0026】
一方、センサーにより直接劣化の程度を測定できないものについては、他の車両情報に基づいて劣化率を推測することになる。例えば、エンジンオイルの場合は、「エンジン回転数×走行キロ数」として設定され、即時交換が必要な劣化率100%の状態となるベースの値(「A回転でBキロ走行」としてA×B)に対する、実際の走行結果(「a回転でbキロ走行」、次に「a回転でbキロ走行」、次に「a回転でbキロ走行」、の場合には、a×b+a×b+a×b)の割合(%)として算出する。なお、本実施の形態では、劣化率を%により算出しているが、これに限られず、劣化を把握することができる指標であれば、劣化度として適宜使用することができる。
【0027】
この値に、さらに劣化係数を乗算して、補正された劣化率を算出することができる。劣化係数は、例えば、走行地域や道路条件、気象、積載量、ドライバー属性、消耗品の品質などの変動要因と劣化率との相関について分析した結果に基づいて設定される。例えば、走行速度が高速、もしくは積載量が多いほど劣化が進むとされる消耗品については、車両20の走行速度や積載量とその継続時間の積算が多いほど劣化係数を大きくするよう調整することができる。また、図示しない地図サービスと連携することによって、例えば、走行地の高度や海岸部、山間部などの地域特性、気温、雨・雪などの気象条件、坂道やカーブの程度、渋滞、高速道路などの道路条件などの要因と劣化率との相関を分析し、劣化係数を調整することができる。また、特定の車両20やドライバー、使用する消耗品の品質や価格などの要因と劣化率との相関を分析し、劣化係数を調整することもできる。
【0028】
上記の変動要因と劣化率との相関についての分析や、これに基づく劣化率の調整方法の決定については、例えば、管理者等が固有の知見に基づいて行ってもよいし、車両情報蓄積DB16等のデータをシステム的に分析して傾向を自動的に抽出するような公知の技術を用いてもよいし、これらの手法を適宜組み合わせてもよい。
【0029】
計画管理部14は、1台以上の車両20単位に保守計画を立案し、その更新等を管理する機能を有する。車両状況DB17に記録された消耗品の現時点での劣化状態の情報や、後述の計画評価部15による保守計画に対する評価結果の情報などに基づいて、自動的に保守計画を立案、更新するようにしてもよい。例えば、各消耗品の交換時期を、劣化率の予測値が所定の値(例えば80%)を超えたときと設定した場合、以降で最も早く交換時期が到来する消耗品に対して、その時点での劣化率の予測値が交換時期には至らないものの所定の値(例えば70%)を超える消耗品についてはまとめて交換対象とする、などの効率化を行うことができる。
【0030】
なお、運送業者端末40を介して運送業者から入力、指示された保守計画の基本的な内容等をベースとし、これに基づいて保守計画を設定したり、修正や調整を行ったりしてもよい。また、保守計画に基づくメンテナンスの実施時期に関わりなく、劣化率が交換時期に至っている消耗品が生じている場合には、緊急メンテナンスの指示を随時行うようにしてもよい。保守計画に基づくメンテナンスおよび緊急メンテナンスのいずれにおいても、例えば、図示しない地図サービスと連携することによって、例えば、車両20の現在位置の近隣の整備工場を車両20に通知して誘導したりすることが可能である。
【0031】
計画評価部15は、保守計画DB18に登録されている保守計画に従って整備工場においてメンテナンスが行われた場合に、その結果の情報や、更新後の車両状況DB17の情報等と、保守計画DB18における保守計画の内容とを比較し、保守計画の妥当性を評価する。例えば、交換した消耗品、しなかった消耗品について、予測した劣化状態と、整備工場にて把握された実際の劣化状態とを比較して、劣化率算出時の劣化係数の妥当性を評価する。複数の車両20を含む複数回のメンテナンスの結果に基づいて、統計的に分析を行い、劣化率に影響を与え得る要因を抽出して、劣化係数の調整方法を変更するようにしてもよい。
【0032】
また、計画評価部15は、同種の消耗品についての複数の評価結果に基づいて、消耗品の価格と、交換までの期間との相関に基づいてコストパフォーマンスに係る情報を算出して、比較、評価する。ここでは、車両20の想定耐用年数全体でのライフサイクルコスト(LCC)の観点で評価するのが望ましい。例えば、価格は高い(品質、性能は高い)が交換までの期間が短い消耗品と、価格は安いが交換までの期間が長い消耗品とで、ライフサイクルコストとしては前者のほうが安くなることもあり得る。また、より価格が安い消耗品でも十分使用可能な場合もあり得る。また、消耗品の交換、取付に要する工賃によっても影響を受け得る。
【0033】
また、計画評価部15は、評価結果に基づいて、次回の保守計画に対して、例えば、メンテナンス時期の調整や、交換対象の消耗品の追加・削除、消耗品マスタDB19に登録されているコストパフォーマンスの高い他の消耗品への変更などの修正や、劣化率算出時の劣化係数の調整などを行い、保守計画DB18を更新する機能を有する。メンテナンスが行われた結果に基づく保守計画の事後の評価に加えて、車両状況DB17に記録されている現時点での消耗品の劣化状態等の情報に基づいて、次回の保守計画を事前に見直す処理を行ってもよい。また、保守計画の見直しのみに限らず、例えば、特定のドライバーについて劣化率が高くなるというような傾向がある場合には、その旨をメッセージ等により通知することで、当該ドライバーに対して運転内容についての指導等を行えるようにすることも可能である。
【0034】
車両予防保守サーバ10は、上述したように、例えば、図示しないWebサーバプログラムを有し、ネットワーク50を介したWebサービスとして、上記のような保守計画の立案の支援を行うサービスを提供する。
【0035】
一方、車両20には、各種の車両情報を取得、収集するための車両情報取得部21と、取得した車両情報に基づいて車両の挙動等を制御するとともに、車両情報を無線通信によりネットワーク50を介して車両予防保守サーバ10に送信する通信機能を有する制御部22を有する。車両情報取得部21は、例えば、CAN(Control Area Network)を介してECUから収集する情報や、GPSにより取得した位置情報、車両20の各所に設置されたセンサーからの情報などを収集する。
【0036】
制御部22は、車両情報取得部21により取得、収集した車両情報のデータを、定期的もしくは随時に、いわゆる3Gや4Gなどの移動通信システムを利用して、ネットワーク50経由で車両予防保守サーバ10にアップロードする。メンテナンス時期の到来などの保守計画に係る情報や、車両20に対する制御情報などを車両予防保守サーバ10もしくは他のシステムから車両20に対して送信する、もしくは車両20がダウンロードする構成を有していてもよい。
【0037】
図2は、本実施の形態における予防保守サービスを利用して実現できるPDCAサイクルの例について概要を示した図である。例えば、運送業者は、まず、車両予防保守システム1を用いて保守計画を立案して保守計画DB18に登録することができる(S01)。その後、車両20が実際に走行する中で(S02)、車両予防保守サーバ10が車両20から送信される車両情報を収集し、車両情報蓄積DB16に記録する(S03)。
【0038】
車両予防保守サーバ10では、所定のタイミングで、車両情報蓄積DB16の内容を分析し、分析結果に基づいて車両20における消耗品の劣化状態を予測する(S04)。この時点で保守計画の修正・補正を可能としてもよい。その後、保守計画に従って実際に車両20のメンテナンスが行われ、交換対象の消耗品が交換される(S05)。このとき、メンテナンスの結果に基づいて、保守計画および消耗品の劣化状態の予測の妥当性を評価し、保守計画の補正を行うとともに、消耗品について劣化状態を予測する際の劣化係数などを調整することで(S06)、新たな次回の保守計画を立案する(S01)。このようなPDCAサイクルを実現することで、保守計画の精度を漸次向上させることができる。
【0039】
<データ構成>
図3は、本実施の形態における車両情報蓄積DB16のデータ構成の例について概要を示した図である。車両情報蓄積DB16は、各車両20について収集された車両情報やメンテナンスの処理結果に係る情報を記録するテーブルであり、例えば、タイムスタンプ、車両ID、車両情報ID、車両情報内容、および付加情報などの各項目を有する。
【0040】
タイムスタンプの項目は、対象の車両情報が取得された時点のタイムスタンプの情報を保持する。車両20からタイムスタンプの情報を取得できない場合には、当該車両情報蓄積DB16に記録した時点でのタイムスタンプを使用する。車両IDの項目は、対象の車両情報を取得した車両20を一意に識別することができるID等の情報を保持する。車両情報IDの項目は、対象の車両情報の種別を一意に識別することができるIDやコード値などの情報を保持する。車両情報の種別としては、例えば、車両速度、エンジン回転数、走行距離、GPS位置情報、各所の温度情報、オイルやバッテリーの残量、積載量、ETC(Electronic Toll Collection system)(登録商標)関連の情報などが含まれ得る。
【0041】
車両情報内容の項目は、対象の車両情報の内容を保持する。車両情報の種類によって異なるレイアウトやフォーマットとなり得るが、例えば、上記の車両情報IDに基づいて予め定められた手法により情報を把握することが可能である。付加情報の項目は、対象の車両情報を取得した時点での車両20についての変動要因に係る情報を必要に応じて関連情報取得部12等から取得して保持する。付加情報としては、例えば、車両情報がGPS位置情報である場合に、タイムスタンプ時点における対象地域の天候や気温、湿度などの気象情報を付加することができる。また、走行中の道路が高速道路であるか否かなどの道路情報を付加することもできる。なお、これらの情報は、必要に応じて車両情報の記録とは非同期で付加することも可能である。
【0042】
図4は、本実施の形態における車両状況DB17のデータ構成の例について概要を示した図である。本実施の形態では、車両状況DB17は、各車両20について、車両20単位での現時点、すなわち当該情報を記録・更新した時点での情報を保持する車両情報DB17aと、消耗品単位での現時点での情報を保持する消耗品情報DB17bの2つのテーブルからなる。
【0043】
図4(a)は、車両状況DB17を構成するDBのうち、車両情報DB17aについて示した図である。車両情報DB17aは、例えば、車両ID、車両状況、運転者ID、走行距離、現在位置、前回メンテナンス日時、前回メンテナンス距離、次回メンテナンス予定日時、および次回メンテナンス予定距離などの各項目を有する。
【0044】
車両IDの項目は、対象の車両20を一意に識別することができるID等の情報を保持する。なお、この車両IDをキーとして、例えば、図示しない車両マスタテーブルなどにアクセスして、対象の車両20の車種等のマスタ情報を取得することができる。車両状況の項目は、対象の車両20の現時点の状況を示すコード値等の情報を保持する。例えば、正常/異常、走行中/停車中などのステータスを示すコード値により示すことができる。運転者IDの項目は、対象の車両20にドライバーとして割り当てられている者を特定するID情報等を保持する。
【0045】
走行距離の項目は、対象の車両20の出荷当初からの累積での走行距離(km)の情報を保持する。現在位置の項目は、対象の車両20においてGPSにより取得した現時点の位置を示す緯度・経度等の情報を保持する。前回メンテナンス日時および前回メンテナンス距離の項目は、それぞれ、対象の車両20における前回メンテナンスを行ったときの日時および走行距離の情報を保持する。次回メンテナンス日時および次回メンテナンス距離の項目は、それぞれ、対象の車両20における次回メンテナンスを行う予定の日時および走行距離の情報を保持する。
【0046】
図4(b)は、車両状況DB17を構成するDBのうち、消耗品情報DB17bについて示した図である。消耗品情報DB17bは、例えば、車両ID、消耗品ID、前回交換日時、前回交換距離、および劣化率などの各項目を有する。車両IDの項目は、対象の車両20を特定するID等の情報であり、車両情報DB17aの車両IDの項目と同内容である。消耗品IDの項目は、対象の車両20に取り付けられている消耗品を一意に識別することができるIDや型番等の情報を保持する。この消耗品IDは、例えば、後述する消耗品マスタDB19に定義されている。
【0047】
前回交換日時および前回交換距離の各項目は、それぞれ、対象の消耗品を前回交換した日時および走行距離の情報を保持する。対象の消耗品の交換時期の決定に際して走行距離がパラメータとして寄与しない場合には、前回交換距離の項目に値を設定する必要はない。劣化率の項目は、対象の消耗品について算出、予測された現時点の劣化率の情報を保持する。
【0048】
図5は、本実施の形態における保守計画DB18のデータ構成の例について概要を示した図である。保守計画DB18は、保守計画およびその実施状況についての情報を保持するテーブルであり、例えば、保守計画ID、車両ID、予定日、1つ以上の除去予定消耗品IDおよび取付予定消耗品ID、実施日、実施整備工場、1つ以上の除去消耗品IDおよび取付消耗品IDなどの各項目を有する。
【0049】
保守計画IDの項目は、対象の保守計画を一意に識別することができるIDやシーケンス番号等の情報を保持する。車両IDの項目は、対象の保守計画においてメンテナンスする車両20を特定するID等の情報であり、上述した車両情報DB17aの車両IDの項目と同内容である。予定日の項目は、対象の保守計画に係るメンテナンスを行う予定日の情報を保持する。除去予定消耗品IDおよび取付予定消耗品IDの各項目は、それぞれ、対象の保守計画に係るメンテナンスにおいて交換する対象の消耗品および新たに取り付ける消耗品を特定するID等の情報である。これらのIDは、例えば、後述する消耗品マスタDB19に定義されている。交換対象の消耗品は複数登録できるようにする。また、交換対象の数量の情報を含んでいてもよい。
【0050】
実施日および実施整備工場の各項目は、それぞれ、対象の保守計画に係るメンテナンスを実際に行った日付および整備工場を特定する情報を保持する。除去消耗品IDおよび取付消耗品IDの各項目は、それぞれ、対象の保守計画に係るメンテナンスにおいて実際に交換した消耗品および新たに取り付けた消耗品を特定するID等の情報である。これらのIDについても同様に、例えば、後述する消耗品マスタDB19に定義されている。交換した消耗品は複数登録できるようにする。また、交換した数量の情報を含んでいてもよい。
【0051】
図6は、本実施の形態における消耗品マスタDB19のデータ構成の例について概要を示した図である。消耗品マスタDB19は、車両20に取り付けられている、もしくはメンテナンスの際に交換して取り付けることが可能な消耗品についてのマスタ情報を保持するテーブルであり、例えば、消耗品ID、消耗品名、単価、取付工賃、劣化率基本計算式、および劣化係数調整要因などの各項目を有する。
【0052】
消耗品IDの項目は、対象の消耗品を一意に識別することができるIDや品番、型番などの情報を保持する。なお、消耗品には、固体物に限らず、オイルやクーラントなどの液体や、気体なども含むものとする。消耗品名の項目は、対象の消耗品の商品名や等級、数量などの表示情報を保持する。単価および取付工賃の項目は、それぞれ、対象の消耗品の単価および対象の消耗品を交換、取付する際の工賃の情報を保持する。これらの情報は、消耗品の保守に係るライフサイクルコストを算出する基礎となるものである。なお、取付には、オイルなどの液体を充填、補充するような作業も含むものとする。
【0053】
劣化率基本計算式の項目は、対象の消耗品について劣化率を算出する際の基本となる式、もしくは用いるパラメータなどの情報を保持する。劣化率基本計算式としては、例えば、上述したように、対象の消耗品がエンジンオイルの場合は「エンジン回転数×走行キロ数」などとして表される。このように、各パラメータの乗算により算出される場合には、パラメータのみの指定でもよい。
【0054】
劣化係数調整要因の項目は、上記の劣化率基本計算式により算出された劣化率に対して、各種要因、条件を考慮して補正する際の劣化係数を決定する式、もしくは用いるパラメータなどの情報を保持する。上述したように、例えば、走行地域や道路条件、気象、積載量、ドライバー属性、消耗品の品質などの変動要因と劣化率との相関について分析した結果に基づいて、劣化率に影響を与える要因、パラメータについて、所定の閾値を超えた、もしくは下回った場合に、劣化係数(例えば、初期値=1.0)に対して所定の値(例えば0.1など)を加算、もしくは減算することができる。従って、当該項目には、例えば、劣化係数を変動させ得る1つ以上の要因やパラメータの種類とその閾値、加算か減算の区別、などの情報を保持する。
【0055】
なお、上述の図3図6で示した各テーブルのデータ構成(項目)はあくまで一例であり、同様のデータを保持・管理することが可能な構成であれば、他のテーブル構成やデータ構成であってもよい。
【0056】
以上に説明したように、本発明の一実施の形態である車両予防保守システム1によれば、例えば、運送業者等において、テレマティクスにより車両の情報を収集して一元的に管理し、当該情報に基づいて消耗品の劣化状態を定量的に推測するとともに、推測結果に基づいて、効率的な保守計画の立案、管理を支援することができる。この保守計画には、予防保守の観点で、各車両の次回(もしくは次回以降)のメンテンナスをいつ行い、どの消耗品をまとめて交換するか、といった内容に加えて、交換後の消耗品としてどの部品を用いるかの情報が含まれる。また、同じ消耗品であっても、価格と品質の点から、ライフサイクルコストを最も低減させることができる部品を選択することができる。
【0057】
また、保守計画の立案だけではなく、これに基づいて行われたメンテナンスの結果に基づいて保守計画の妥当性を評価し、その結果を保守計画にフィードバックして次回保守計画の最適化を行う、というPDCAサイクルを実現し、保守計画の継続的な改善を図ることができる。
【0058】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記の実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記の実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0059】
また、上記の各図において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、必ずしも実装上の全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、テレマティクスにより適切な保守計画の立案、管理を支援する車両予防保守システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…車両予防保守システム、
10…車両予防保守サーバ、11…車両情報収集部、12…関連情報取得部、13…分析部、14…計画管理部、15…計画評価部、16…車両情報蓄積データベース(DB)、17…車両状況DB、18…保守計画DB、19…消耗品マスタDB、
20…車両、21…車両情報取得部、22…制御部、
30…整備工場端末、
40…運送業者端末、
50…ネットワーク。
【要約】
テレマティクスを活用して車両の消耗品の劣化状態を適切に把握し、適切な保守計画の立案と計画に基づくメンテナンス結果による保守計画の評価および次回保守計画へのフィードバックを行い、車両の予防保守に係る業務を支援する車両予防保守システムである。代表的な実施の形態によれば、各車両20において収集した車両情報および当該車両20におけるメンテナンスの結果に係る情報を収集して車両情報蓄積DB16に記録する車両情報収集部11と、車両情報に基づいて各車両20における消耗品の劣化度を算出して車両状況DB17に記録する分析部13と、各消耗品の劣化度に基づいてメンテナンスの時期と交換対象の消耗品の情報を含む保守計画を作成して保守計画DB18に記録する計画管理部14と、各車両20のメンテナンス時における消耗品の交換結果を含む情報に基づいて保守計画の妥当性を評価する計画評価部15とを有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6