特許第5661997号(P5661997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661997
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸系樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20150108BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20150108BHJP
   C08K 13/04 20060101ALI20150108BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20150108BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20150108BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20150108BHJP
【FI】
   C08L67/04
   C08K5/00
   C08K13/04
   C08G63/91
   B29C45/00
   !C08L101/16ZBP
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2008-500577(P2008-500577)
(86)(22)【出願日】2007年2月13日
(86)【国際出願番号】JP2007052897
(87)【国際公開番号】WO2007094477
(87)【国際公開日】20070823
【審査請求日】2010年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2006-35892(P2006-35892)
(32)【優先日】2006年2月14日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100082924
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 慎
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】井上 和彦
(72)【発明者】
【氏名】位地 正年
(72)【発明者】
【氏名】椛島 洋平
(72)【発明者】
【氏名】上田 一恵
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
(72)【発明者】
【氏名】府川 徳男
【審査官】 鈴木 亨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−128901(JP,A)
【文献】 特開2005−281331(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/046060(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/075564(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/132187(WO,A1)
【文献】 特開2008−508231(JP,A)
【文献】 特開2005−105245(JP,A)
【文献】 特開2003−226801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜20質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させた(メタ)アクリル酸エステル含有ポリ乳酸系樹脂と、
主骨格として、カルボン酸アミド及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の1000以下の分子量を有するとともに前記ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜5質量部の低分子化合物よりなる有機結晶核剤と、
エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有するとともに前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部含有する反応性化合物とを含み、
前記低分子化合物は、分子中に水酸基を有するヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミドであることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物において、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、繊維を100質量部以下含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のポリ乳酸系樹脂組成物において、前記繊維が植物由来繊維、合成有機繊維および無機繊維から選択される少なくとも1種の繊維であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2に記載のポリ乳酸系樹脂組成物において、前記繊維の平均繊維長が、ポリ乳酸系樹脂との混合後に80μm〜3mmであることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリ乳酸系樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、
前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜20質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させた(メタ)アクリル酸エステル含有ポリ乳酸系樹脂と、
主骨格として、カルボン酸アミド及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の1000以下の分子量を有するとともに前記ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜5質量部の低分子化合物と、
エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有するとともに前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部含有する反応性化合物とを含み、
前記低分子化合物は、分子中に水酸基を有するヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミドであることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体。
【請求項6】
請求項5に記載のポリ乳酸系樹脂成形体において、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、繊維を100質量部以下含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体。
【請求項7】
請求項6に記載のポリ乳酸系樹脂成形体において、前記繊維が植物由来繊維、合成有機繊維および無機繊維から選択される少なくとも1種の繊維であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体。
【請求項8】
請求項6に記載のポリ乳酸系樹脂成形体において、前記繊維の平均繊維長が、ポリ乳酸系樹脂との混合後に80μm〜3mmであることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体。
【請求項9】
ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜20質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させた(メタ)アクリル酸エステル含有ポリ乳酸系樹脂と、
主骨格として、カルボン酸アミド及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の1000以下の分子量を有するとともに前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の低分子化合物よりなる有機結晶核剤と、
エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有するとともに前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部含有する反応性化合物とを含み、前記低分子化合物が、分子中に水酸基を有するヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミドである、ポリ乳酸系樹脂組成物を射出成形する際、金型温度をポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度+20℃以上、融点−20℃以下とすることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法において、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、繊維を100質量部以下含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法において、前記繊維が植物由来繊維、合成有機繊維および無機繊維から選択される少なくとも1種の繊維であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法において、前記繊維の平均繊維長が、ポリ乳酸系樹脂との混合後に80μm〜3mmであることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂組成物及びそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の見地から植物原料の樹脂が注目されている。植物原料の樹脂のうちでポリ乳酸は最も耐熱性が高い樹脂の1つであり、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。最近の用途としては、容器包装や農業用フィルム等のように使用期間が短く、廃棄を前提とした用途や、家電製品やOA機器のハウジング及び自動車用部品などのように、初期の特性を長期間保持できるような高機能用途まで、多岐にわたっている。
【0003】
ポリ乳酸は結晶性樹脂であり、耐熱性など、その本来の材料特性を発揮させるためには、樹脂を結晶化させることが重要である。しかし、ポリ乳酸は、結晶化速度が遅いために、短時間で成形しようとすると充分に結晶化が進行せず、耐熱性や弾性率等が低下してしまう傾向があった。
【0004】
そこで、ポリ乳酸の成形性を改善する方法として、ポリ乳酸の結晶化速度を向上させるための方法が提案されている。例えば、特許第3411168号公報(特許文献1)には、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルに脂肪族アミド等の透明核剤を添加することによって、透明性及び結晶性を保有する成形体が得られることが記載されている。
【0005】
また、特開2003−226801号公報(特許文献2)には、アミド基を有する低分子化合物と、有機オニウム塩で有機化された層状粘土鉱物を添加することによって、ポリ乳酸の結晶化速度が飛躍的に向上することが開示されている。
【0006】
また、結晶化速度を向上させるため、ポリ乳酸に(メタ)アクリル酸エステル化合物を添加する方法も開示されている(例えば、特開2003−128901号公報(特許文献3)参照)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に例示されている脂肪族アミド等の透明核剤を添加した場合、無添加のポリ乳酸の場合に比べ結晶化速度の向上は認められるものの、その効果は十分ではなく、このため十分な結晶化を有する成形体を得るためには成形後に熱処理する必要がある。また、結晶化度が低いため、例えば、射出成形の際に金型内での結晶固化が不十分となりやすく、その結果、離型時に成形体が変形しやすくなるなどの欠点がある。
【0008】
また、上記特許文献2に例示されているアミド基を有する低分子化合物と有機オニウム塩で有機化された層状粘土鉱物を添加した場合、無添加のポリ乳酸や脂肪族アミド等の核剤を添加した場合に比べ結晶化速度の向上や成形性の向上は認められるものの、その効果は不十分である。また、上記特許文献3に記載の樹脂組成物においては、結晶化速度は向上するものの、その効果は必ずしも十分ではない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3411168号公報
【特許文献2】特開2003−226801号公報
【特許文献3】特開2003−128901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ポリ乳酸系樹脂の結晶化温度において、成形性に優れたポリ乳酸系樹脂複合材料及びそれを用いた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させたポリ乳酸系樹脂にカルボン酸アミドやカルボン酸エステルのうち、分子中に極性基を有するものを添加することにより、ポリ乳酸系樹脂の結晶化する温度で成形する際において、従来よりも成形性が著しく改善された本発明のポリ乳酸系複合材料を完成するに至った。さらに、繊維を添加した場合に、ポリ乳酸系樹脂の成形性が一層向上することを見出した。
【0012】
即ち、本発明の一態様によれば、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.01〜20質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させた(メタ)アクリル酸エステル含有ポリ乳酸系樹脂と、主骨格として、カルボン酸アミド及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の1000以下の分子量を有するとともに前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の低分子化合物よりなる有機結晶核剤と、エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有するとともに前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部含有する反応性化合物と、を含み、前記低分子化合物は、分子中に水酸基を有するヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミドであることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物が得られる。ここで、本発明において、アクリル酸エステル化合物及びメタクリル酸エステル化合物を総称して、(メタ)アクリル酸エステル化合物と呼ぶ。
【0013】
また、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂組成物において、前記極性基が、含酸素置換基、含窒素置換基およびハロゲン基からなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂組成物において、前記低分子化合物が、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂組成物において、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、繊維を100質量部以下含有することが好ましく、前記繊維が植物由来繊維、合成有機繊維および無機繊維から選択される少なくとも1種の繊維であること、または、前記繊維の平均繊維長が、ポリ乳酸系樹脂との混合後に80μm〜3mmであることがより好ましい。
【0017】
また、本発明のもう一つの態様によれば、ポリ乳酸系樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜20質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させた(メタ)アクリル酸エステル含有ポリ乳酸系樹脂と、主骨格として、カルボン酸アミド及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の1000以下の分子量を有するとともに前記メタアクリル酸エステル含有ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の低分子化合物と、エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有するとともに前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部含有する反応性化合物とを含み、前記低分子化合物は、分子中に水酸基を有するヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミドであるポリ乳酸系樹脂成形体が得られる。
【0018】
ここで、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂成形体組成物において、前記極性基が、含酸素置換基、含窒素置換基およびハロゲン基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂成形体において、前記低分子化合物が、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドであることが好ましい。
【0021】
また、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂成形体において、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、繊維を100質量部以下含有することが好ましく、前記繊維が植物由来繊維、合成有機繊維および無機繊維から選択される少なくとも1種の繊維であること、または、前記繊維の平均繊維長が、ポリ乳酸系樹脂との混合後に80μm〜3mmであることがより好ましい。
【0022】
また、本発明のさらに、もう一つの態様によれば、ポリ乳酸系樹脂100量部に対して0.01〜20質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させた(メタ)アクリル酸エステル含有ポリ乳酸系樹脂と、主骨格として、カルボン酸アミド及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の1000以下の分子量を有するとともに前記ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜5質量部の低分子化合物よりなる有機結晶核剤と、エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有するとともに前記ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.01〜5質量部含有する反応性化合物とを含み、前記低分子化合物が、分子中に水酸基を有するヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミドである、ポリ乳酸系樹脂組成物を射出成形する際、金型温度をポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度+20℃以上、融点−20℃以下とすることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法が得られる。
【0023】
ここで、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法において、前記極性基が、含酸素置換基、含窒素置換基およびハロゲン基からなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法において、前記低分子化合物が、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドであることが好ましい。
【0026】
また、本発明の前記ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法において、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、繊維を100質量部以下含有することが好ましく、前記繊維が植物由来繊維、合成有機繊維および無機繊維から選択される少なくとも1種の繊維であること、または、前記繊維の平均繊維長が、ポリ乳酸系樹脂との混合後に80μm〜3mmであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の効果は、短い成形時間でも、成形体の変形が起こりにくい成形体が得られるポリ乳酸系樹脂組成物、並びにポリ乳酸系樹脂の成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させたポリ乳酸系樹脂と、分子中に極性基を含有するカルボン酸アミド及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の低分子化合物を含む構成である。
【0030】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂成形体は、前記ポリ乳酸系樹脂組成物を成形して得られる成形体である。
【0031】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法は、前記ポリ乳酸系樹脂組成物を射出成形する際、金型温度をポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度+20℃以上、融点−20℃以下とする構成である。
【0032】
具体的に、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させたポリ乳酸系樹脂にカルボン酸アミドやカルボン酸エステルのうち、分子中に極性基を有するものを添加したものである。
【0033】
さらに、ケナフ繊維をはじめとする繊維を含有するポリ乳酸系組成物である。
【0034】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂としては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることができる。
【0035】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート(例えば、JIS規格K−7210(附属書A表1の条件D)による値)は0.1〜50g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.2〜30g/10分である。メルトフローレートが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて、成形物の機械的強度や耐熱性が劣る。メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は成形加工時の負荷が高くなりすぎ操業性が低下する場合がある。
【0036】
ポリ乳酸系樹脂は通常公知の溶融重合法で、あるいはさらに固相重合法を併用して製造される。また、ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートを所定の範囲に調節する方法として、メルトフローレートが大きすぎる場合は、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いてポリ乳酸系樹脂の分子量を増大させる方法が挙げられる。逆に、メルトフローレートが小さすぎる場合はメルトフローレートの大きなポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が挙げられる。
【0037】
ポリ乳酸系樹脂の構成成分であるL−乳酸単位とD−乳酸単位の含有割合は、一方が85mol%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがより好ましく、95mol%以上であることがさらに好ましく、98mol%以上であることが特に好ましい。D−乳酸単位、または、L−乳酸単位が85mol%未満であると、立体規則性の低下により得られる効果が十分に発現しない傾向にある。
【0038】
ポリ乳酸系樹脂中の乳酸やラクチド等の残留モノマーの量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.6質量部以下が好ましい。残留モノマーが0.6質量部を超えると、ポリ乳酸系樹脂の耐加水分解性が低下する恐れがある。
【0039】
L−乳酸単位とD−乳酸単位の比率が異なる複数のポリ乳酸系樹脂同士を任意の割合でブレンドされたものを用いても良い。
【0040】
ポリ乳酸系樹脂には、主たる成分である乳酸以外のモノマーが共重合されていてもよいが、30質量%以下が好ましい。例えば、酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、2,2′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸およびこれらの無水物、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。また、ジオール成分として、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールAやビスフェノールS等のビスフェノール類又はそれらのエチレンオキサイド付加体、ハイドロキノン、レゾルシノール等の芳香族ジオール等が共重合されていても構わない。
【0041】
さらには、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、6−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、等のヒドロキシカルボン酸や、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン化合物が共重合されていても構わない。また、難燃性を付与するために有機リン化合物が共重合されていてもよい。
【0042】
ポリ乳酸系樹脂成分には、他のポリエステル樹脂、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリ(p−ヒドロキシ安息香酸/エチレンテレフタレート)、ポリテトラメチレンテレフタレート等が混合されていても構わない。これらの成分は、ポリ乳酸系樹脂100質量%に対して30質量%以下が好ましい。
【0043】
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステル化合物は、ポリ乳酸系樹脂と反応を起こし、枝分かれ構造、橋かけ構造、鎖長伸長などを樹脂に付与する。この結果、樹脂の溶融張力が高まり、成形性が一層高くなる。(メタ)アクリル酸エステル化合物を反応させたポリ乳酸系樹脂にカルボン酸アミドやカルボン酸エステルのうち、分子中に極性基を有するものを添加した場合、それぞれ単独の場合に比べて、溶融張力が高まることによる成形性の改良に加え、結晶化促進という異なる機構が並行して進行する結果、成形サイクルが短縮できたり、同じ成形サイクルでも成形物の取り出しに問題がなくなるなどの成形性の向上、耐熱性のアップにつながったと考えられる。
【0044】
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、ポリ乳酸系樹脂との反応性が高くモノマーが残りにくく、樹脂への着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、又は1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましく、具体的にはグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、(これらのアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体でも構わない)、ブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられ、中でも安全性や反応性の理由から、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等が好ましい。
【0045】
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステル化合物は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜20質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.01〜3質量部である。0.01質量部未満では本発明の目的とする結晶化速度向上が十分でないため、耐熱性、成形性が得られず、また、20質量部を超える場合には反応の度合いが強すぎて、操業性に支障が出ることがある。
【0046】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル化合物と反応したポリ乳酸系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル化合物と未反応のポリ乳酸系樹脂が混合されていても構わないが、(メタ)アクリル酸エステル化合物と反応したポリ乳酸系樹脂100質量部に対して100質量部以下が好ましい。特に好ましくは、50質量部以下である。未反応のポリ乳酸系樹脂が50質量部以下の場合は、該組成部の成形性を一層良好に保持できる。
【0047】
本発明においては、(メタ)アクリル酸エステル化合物と同時に反応助剤として過酸化物を添加すると好ましい。過酸化物としては、樹脂への分散性が良好である有機過酸化物が好ましく、具体的にはベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)メチルシクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。上記過酸化物の配合量はポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.02〜20質量部が好ましく、さらに好ましくは0.1〜10質量部である。0.1質量部未満では反応性を高める効果が低く、20質量部を超える場合には、コスト面で好ましくない。
【0048】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、ポリ乳酸系樹脂成分の末端基を封鎖して耐湿熱性、耐衝撃性等を向上させる目的で、カルボジイミド化合物から選ばれる1種類以上の化合物を配合してもよい。カルボジイミド化合物の配合範囲は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部であり、1〜10質量部がより好ましく、1〜3質量部が特に好ましい。配合量が0.5質量部未満であると、本発明の樹脂組成物の耐湿熱性や耐衝撃性などの機械物性に効果はみられず、一方20質量部を超えてもそれ以上の効果は得られない。
【0049】
カルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物であれば特に限定されず、その例としては、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N′−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド,N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、ジイソピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドなどが挙げられる。さらにこれらの化合物の重合体を挙げることができる。これらカルボジイミド化合物は単独で使用してもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明では芳香族カルボジイミド、特にN,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、およびこれら化合物の重合体(重合度は2〜20程度が望ましい)が望ましく用いられるほか、シクロヘキサン環を有したカルボジイミド化合物、特に4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、およびこれらの化合物の重合体(重合度は2〜20程度が望ましい)が特に好ましく用いられる。カルボジイミド化合物は、従来から知られている方法で製造でき、例えばジイソシアネート化合物を原料とする脱二酸化炭素反応を伴うカルボジイミド反応により製造することができ、このとき、モノイソシアネート等で末端封鎖処理を行わなければ、末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物が得られる。イソシアネート基の濃度は特に限定されない。このような化合物の具体例としては、日清紡社製LA−1(イソシアネート基を1〜3%含む脂肪族カルボジイミド化合物)等が市販されている。
【0050】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、他の石油由来の樹脂も混合しても構わない。石油由来の樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ABS、ナイロンなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0051】
本発明における有機結晶核剤となる分子中に極性基を有するカルボン酸アミド及びカルボン酸エステルとは、その分子量が1,000以下の化合物であり、より好ましくは分子量100〜900の化合物である。当該分子の分子量が1,000を超えると、ポリ乳酸系樹脂との相溶性が低下して、分散性が低下したり成形体からブリードアウトしたりする場合がある。当該有機結晶核剤は、1種の化合物でも複数の化合物を混合して使用してもよい。
【0052】
カルボン酸アミドの主骨格としては、脂肪族モノカルボン酸アミド、脂肪族ビスカルボン酸アミド、および芳香族カルボン酸アミドが挙げられ、カルボン酸エステルとしては、脂肪族モノカルボン酸エステル、脂肪族ビスカルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステルが挙げられる。これらの化合物が有するアミド基またはエステル基は1個でも2個以上でもよい。これらの中でも、アミド基を含む化合物は、エステル基を含む場合に比べて融点が高く、本発明におけるポリ乳酸系樹脂組成物の成形時に、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を起こさせる原因となる結晶核を速やかに生成することができるため好ましい。さらに、ビスアミドは結晶化速度をより向上させることができる点で特に好ましい。
【0053】
脂肪族モノカルボン酸アミド、脂肪族ビスカルボン酸アミドおよび芳香族カルボン酸アミド系化合物の具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミドなどを例示することができる。
【0054】
脂肪族モノカルボン酸エステル、脂肪族ビスカルボン酸エステルおよび芳香族カルボン酸エステルの具体例としては、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、オレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、エルカ酸エステル、N−オレイルパルミチン酸エステル、N−オレイルオレイン酸エステル、N−オレイルステアリン酸エステル、N−ステアリルオレイン酸エステル、N−ステアリルステアリン酸エステル、N−ステアリルエルカ酸エステル、メチレンビスステアリン酸エステル、エチレンビスラウリン酸エステル、エチレンビスカプリン酸エステル、エチレンビスオレイン酸エステル、エチレンビスステアリン酸エステル、エチレンビスエルカ酸エステル、エチレンビスイソステアリン酸エステル、ブチレンビスステアリン酸エステル、p−キシリレンビスステアリン酸エステルなどを例示することができる。
【0055】
本発明におけるカルボン酸アミド及びカルボン酸エステルが有する極性基としては、含酸素置換基および含窒素置換基、ハロゲン基の中であれば何れでもよい。本発明における低分子化合物は、これらの極性基を少なくとも2個有し、その中のいずれか2つの極性基間の間隔が、34±4オングストローム(即ち、3.4±0.4nm)であることが好ましい。2つの極性基間の間隔とは、分子全体を構成する各原子がそれぞれの結合において既知の結合角を満たしながら、分子全体が最も伸展した状態において、極性基が結合している炭素原子間の直線的距離である。これらの化合物が有する極性基の数は3つ以上でもよい。また、極性基の種類は、より具体的には、含酸素置換基には、水酸基および、グリシジル基、カルボキシル基等が含まれ、含窒素置換基には、アミノ基および、ニトロ基、シアノ基、イソシアネート基等が含まれる。また、ひとつの分子中に異なる種類の極性基が含まれていてもよい。ただし、分子構造中に含まれる極性基の種類が複数に及ぶ場合、および極性基の数が3つ以上に及ぶ場合は、極性基間の化学的な相互作用による影響から、上記の極性基のうち、二つの極性基間の間隔は、分子全体を構成する各原子がそれぞれの結合において既知の結合角を満たしながら、分子全体が最も伸展した状態において34±10オングストローム(即ち、3.4±1.0nm)の範囲にある場合も好ましく機能することがある。
【0056】
なお、本発明における「置換」とは、極性基を有さない場合の分子中の炭素原子に結合する水素原子を置換することを意味する。
【0057】
上記の好ましい条件を備えた、分子の一部を極性基で置換したカルボン酸アミドおよびカルボン酸エステルとしては、例えば、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−10−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−11,12−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス−12−アミノステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−10−アミノステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−9,10−ジアミノステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジアミノステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−11,12−ジアミノステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジアミノステアリン酸アミド、エチレンビス−12−シアノステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−10−シアノステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−9,10−ジシアノステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジシアノステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−11,12−ジシアノステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジシアノステアリン酸アミド、エチレンビス−12−グリシジルステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−10−グリシジルステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−9,10−ジグリシジルステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジグリシジルステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−11,12−ジグリシジルステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジグリシジルステアリン酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸エステル、ヘキサメチレンビス−10−ヒドロキシステアリン酸エステル、ヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−11,12−ジヒドロキシステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸エステル、エチレンビス−12−アミノステアリン酸エステル、ヘキサメチレンビス−10−アミノステアリン酸エステル、ヘキサメチレンビス−9,10−ジアミノステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−9,10−ジアミノステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−11,12−ジアミノステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−9,10−ジアミノステアリン酸エステル、エチレンビス−12−シアノステアリン酸エステル、ヘキサメチレンビス−10−シアノステアリン酸エステル、ヘキサメチレンビス−9,10−ジシアノステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−9,10−ジシアノステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−11,12−ジシアノステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−9,10−ジシアノステアリン酸エステル、エチレンビス−12−グリシジルステアリン酸エステル、ヘキサメチレンビス−10−グリシジルステアリン酸エステル、ヘキサメチレンビス−9,10−ジグリシジルステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−9,10−ジグリシジルステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−11,12−ジグリシジルステアリン酸エステル、p−キシリレンビス−9,10−ジグリシジルステアリン酸エステル、などがある。この中でも、水酸基で置換したカルボン酸アミド、すなわちエチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−10−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−11,12−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、などは、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度をより向上させることができる点で好ましい。さらに、カルボン酸ビスアミドの2つのアミド結合の間にメチレン基が2個以上8個以内、あるいは、フェニル基が1つ以上4つ以下含まれているビスアミドで、水酸基の置換基が3個以上6個以内のカルボン酸ビスアミド、すなわちヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−11,12−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミドなどは特に好ましい。
【0058】
また、分子中の特定の部位に極性基を有するカルボン酸アミドおよびカルボン酸エステルの融点は、好ましくは20〜300℃である。当該化合物の融点が20℃未満であると成形体からブリードアウトして成形体の外観が損なわれる傾向にあり、他方、300℃を超えると一般的な成形加工条件では溶融させにくいため、成形加工性が低下する傾向にある。
【0059】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、分子中の特定の部位に極性基を有する有機結晶核剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。極性基を有する有機結晶核剤の含有量が0.1質量部未満であると、結晶化速度の向上の程度が不十分となる傾向にあり、他方、5質量部を超える場合には、可塑剤的作用が過剰に強く発現するようになるために、剛性が低下したり、成形体からブリードアウトしたり、成形体の外観が損なわれる傾向が顕著になる恐れがある。より好ましくは0.5〜3質量部である。極性基を有する有機結晶核剤の含有量が上記範囲内の場合、成形性と成形後の外観の状態が一層良好である。
【0060】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂に、カルボン酸アミドやカルボン酸エステルのうち、分子中に極性基を有する低分子化合物と、(メタ)アクリル酸エステル化合物との双方を添加した場合、単独での使用に比べて成形性が極めて向上する。これは、両者それぞれに結晶化を促進する機構が異なるからであると考えられ、双方の想定外の相乗効果によって、トータルの結晶化速度が速くなり、成形サイクルが短縮できたり、同じ成形サイクルでも成形物の取り出しに問題がなくなるなどの成形性の向上につながったものと考えられる。さらにこの結果、耐熱性のアップにもつながった。
【0061】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有する反応性化合物を含有することにより、機械的強度および耐熱性を向上させることができる。ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部含有することが好ましい。
【0062】
上記反応性化合物のうち、エポキシ基を含有する化合物としては、グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、グリシジルメタクリレート−スチレン共重合体、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヤシ脂肪酸グリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等の各種グリシジルエーテル及び各種グリシジルエステル等が挙げられる。
【0063】
またイソシアネート基を含有する化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0064】
またオキサゾリン化合物の具体例は、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物など、例えばスチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体などが挙げられる。これらのオキサゾリン化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択することができる。耐熱性および反応性や生分解性ポリエステル樹脂との親和性の点で2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)や2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が好ましい。
【0065】
また、カルボジイミド化合物の具体例としては、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、ジイソピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミド、これらの化合物の重合体を挙げることができ、単独で使用してもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明では芳香族カルボジイミド、特にN,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、およびこれら化合物の重合体(重合度は2〜20程度が望ましい)が望ましく用いられるほか、シクロヘキサン環を有したカルボジイミド化合物、特に4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、およびこれらの化合物の重合体(重合度は2〜20程度が望ましい)が特に好ましく用いられる。
【0066】
酸無水物を含有する化合物としては、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、エチレン−無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0067】
アルコキシシランを含有する化合物としては、各種のアルキルトリアルコキシシランが用いられる。アルコキシ基としてはメトキシ基やエトキシ基が好適に用いられ、アルキル基としてはグリシジル基やイソシアネート基で置換されているものが好適に用いられる。具体的には、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、及びこれらが脱水縮合したオリゴマー等が挙げられる。
【0068】
上述の反応性化合物をポリ乳酸系樹脂に含有させる方法としては、予め樹脂と混合して反応させる方法、あるいは後述する他の化合物と同じ工程で、樹脂と同時に混合して反応させる方法のいずれの方法を用いてもよい。またアルコキシシランを溶融混練時に添加する場合には、反応によって生成するアルコールをベント口より減圧下で除去することが好ましい。
【0069】
ポリ乳酸系樹脂におけるこれらの反応性化合物の含有量としては、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3質量部であり、さらに好ましくは0.3〜2質量部である。
【0070】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、さらに繊維を含有することにより、より高い耐熱性を付与することができる。繊維を使用する場合には、本発明のポリ乳酸系樹脂100質量部に対して150〜5質量部になるようにすると、耐衝撃性や成形性が特に優れるので好ましく、100〜5質量部が特に好ましい。
【0071】
本発明における繊維としては、ケナフなどの植物繊維、アラミド繊維や全芳香族ポリエステル繊維といった合成有機繊維、ガラス繊維、金属繊維といった無機繊維を使用することができる。これらは1種でも良く、また2種以上を混合して使用してもよく、また異なる種類の繊維を混合して使用してもよい。
【0072】
本発明における植物繊維とは、植物に由来する繊維をいい、具体例として、木材、ケナフ、竹、麻類などから得られる繊維を挙げることができる。これらの繊維は、平均繊維長が20mm以下のものが好ましい。また、これらの植物繊維を脱リグニンや脱ペクチンして得られるパルプ等は、熱による分解や変色といった劣化が少ないため特に好ましい。ケナフや竹は光合成速度が速く成長が速いので、二酸化炭素を多量に吸収できることから、二酸化炭素による地球温暖化、森林破壊という地球問題を同時に解決する手段の一つとしても優れているので、植物繊維の中でも好ましい。
【0073】
本発明における合成有機繊維としては、アラミド繊維やナイロン繊維などのポリアミド繊維、ポリアリレート繊維やポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維、超高強度ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、などが挙げられる。
【0074】
アラミド繊維やポリアリレート繊維は芳香族化合物であり、他の繊維に比べ耐熱性が高く、かつ高強度であること、淡色であることから樹脂に添加しても意匠性を損なわないこと、比重も低いことから、特に望ましい。
【0075】
本発明における無機繊維としては、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、金属ケイ酸塩、無機酸化物繊維、無機窒化物繊維などが挙げられる。
【0076】
上記の各繊維の形状は、繊維断面を円状ではなく、多角形、不定形あるいは凹凸のある形状のもので、アスペクト比が高いものや、繊維径の小さいものが、樹脂との接合面積が大きくなるため、望ましい。
【0077】
また、上記の各繊維には必要に応じて、基材となる樹脂との親和性または繊維間の絡み合いを高めるために、表面処理を施すことができる。表面処理方法としては、シラン系、チタネート系などのカップリング剤による処理、オゾかンやプラズマ処理、さらには、アルキルリン酸エステル型の界面活性剤による処理などが有効である。しかしながら、これらに特に限定されるものでは無く、充填材の表面改質に通常使用できる処理方法が可能である。
【0078】
上記の各繊維において、ポリ乳酸系樹脂との混合前の平均繊維長は、100μm〜20mmであることが好ましく、100μm〜10mmの範囲であると、特に有効である。また、混練後の平均繊維長は、80μm〜3mmであることが好ましい。
【0079】
繊維を併用すると、溶融張力の低下をさらに抑えることができ、結晶化速度のアップとともに、さらなる成形性向上をもたらすほか、繊維による補強効果で高荷重下における耐熱性が飛躍的に向上する。
【0080】
その他、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、必要に応じて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填剤、結晶核剤、抗菌剤や防かび剤を添加することができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物が挙げられる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が使用できるが、環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミ、水酸化マグネシウム)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)が挙げられる。無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、窒化硼素、グラファイト等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、籾殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。無機結晶核材としては、タルク、カオリン等が挙げられ、有機結晶核材としては、ソルビトール化合物、安息香酸およびその化合物の金属塩、燐酸エステル金属塩、ロジン化合物等が挙げられる。抗菌剤としては、銀イオン、銅イオン、これらを含有するゼオライトなどを使用できる。なお、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物にこれらを配合する方法は特に限定されない。
【0081】
本発明の樹脂組成物は、結晶化を促進させることにより、その耐熱性を高めることができる。このための方法としては、例えば、射出成形時に金型内での冷却にて結晶化を促進させる方法があり、その場合には、金型温度をポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度(Tg)+20℃以上、融点(Tm)−20℃以下で所定時間保った後、Tg以下に冷却することが好ましい。また、成形後に結晶化を促進させる方法としては、直接Tg以下の金型温度で冷却した後、再度Tg以上、(Tm−20℃)以下で熱処理することが好ましい。これにより、成形体の耐熱性が向上し、低荷重下(0.45MPa)での荷重たわみ温度(DTUL)がTg+30℃以上、となり、さらに繊維が併用された系では高荷重下(1.8MPa)でのDTULがTg+20℃以上となる。
【0082】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂組成物の各種配合成分の混合方法には、特に制限はなく、公知の混合機、たとえばタンブラー、リボンブレンダー、単軸や二軸の混練機等による混合や押出機、ロール等による溶融混合が挙げられる。このとき、スタティックミキサーやダイナミックミキサーを併用することも効果的である。混練状態をよくするためには二軸押出機を使用することが好ましい。
【0083】
本発明の成形体は、上記本発明のポリ乳酸系樹脂複合材料を成形してなるものである。
【0084】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形法、フィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法などの方法により、電化製品の筐体などの電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、農業用途などの成形体に加工できる。
【0085】
本発明の成形体の形状、厚み等は特に制限されず、射出成形品、押出成形品、圧縮成形品、ブロー成形品、シート、フィルム、糸、ファブリック等のいずれでもよい。より具体的には、電気・電子機器のハウジング、製品包装用フィルム、各種容器、自動車部品等が挙げられる。また、本発明の成形体をシートとして使用する場合には、紙または他のポリマーシートと積層し、多層構造の積層体として使用してもよい。
【0086】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を成形する方法としては、特に制限はなく、公知の射出成形、射出・圧縮成形、圧縮成形法等、通常の電気・電子機器製品の製造に必要とされる成形方法を用いることができる。これらの溶融混合や成形時における温度については、基材となる樹脂の溶融温度以上でかつ植物繊維やポリ乳酸系樹脂が熱劣化しない範囲を設定することが可能である。一方、金型温度はポリ乳酸系樹脂組成物の(Tm−20℃)以下が好ましい。ポリ乳酸系樹脂組成物の耐熱性を高める目的で金型内で結晶化を促進する場合は、(Tg+20℃)以上、(Tm−20℃)以下で所定時間保った後、Tg以下に冷却することが好ましく、逆に後結晶化する場合は、直接Tg以下に冷却した後、再度Tg以上(Tm−20℃)以下で熱処理することが好ましい。
【実施例】
【0087】
本発明例及び比較例における、成形性の評価方法を示す。
【0088】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例および比較例の樹脂組成物の評価に用いた測定法は次のとおりである。
【0089】
(1)メルトフローレート(MFR):
JIS規格K−7210(附属書A表1の条件D)に従い、190℃、荷重21.2Nで測定した。
【0090】
(2)成形性:
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のうち射出成形機(東芝機械製IS−80G型)を用いて成形(シリンダー温度設定温度:185℃、金型実測温度:85℃及び105℃)し、試験片を得た。成形性については、反り、ひけがない試験片を取り出すために要する金型内部での保持時間(冷却時間)を測定し、成形性の指標とした。
【0091】
(3)曲げ強さ、曲げ弾性率:
ISO 178に準拠して測定した。
【0092】
(4)シャルピー衝撃強度:
ISO 179に準拠して測定した。
【0093】
(5)耐熱性(℃):
ISO 75に準拠し、荷重0.45MPa、および、1.8MPaで荷重たわみ温度を測定した。
【0094】
(6)混練後の樹脂中の繊維長:
繊維を添加した系では、クロロホルム50mlにポリ乳酸系樹脂組成物の成形体1gを溶解し、1480メッシュのステンレス網を用いてろ過を行い、光学顕微鏡にて視野に映った繊維の長さを測定し、数平均長さを算出した。
【0095】
(7)耐湿熱性:
曲げ強度試験片を温度60℃、湿度90%RHの環境下で200時間処理した後、曲げ強度を測定して、強度保持率を算出し、評価した。強度保持率は、90%を超えることが好ましい。
【0096】
なお、実施例及び比較例に用いた原料、副原料は次の表1のとおりである。
【表1】
【0097】
(実施例1)
<ポリ乳酸系樹脂組成物の調製>
樹脂A100質量部に、3質量部のエチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドの混合物、1質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物を、二軸押出機(東芝機械社製TEM‐37BS)を用い、バレル温度:190℃、スクリュー回転数:200rpm、吐出:15kg/hで溶融混練してポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを得た。
【0098】
(実施例2〜10)
添加剤を下記表2及び表3のように変えた他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を調製し、その成形性を評価した。
【0099】
(比較例1)
樹脂Aに何も混合せず、そのまま実施例1と同じ射出成形機を用いて成形を試みたが、何れの条件でも試験片が大きく変形し、試験片を得ることができなかった。
【0100】
(比較例2〜9)
添加剤を下記表4及び表5のように変えた他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を調製し、その成形性を評価した。
【0101】
各種物性評価をおこなった結果をまとめて下記表2、表3、表4、表5に示す。実施例1〜10で得られた樹脂組成物については、成形性、曲げ特性、耐衝撃性、耐熱性に優れる結果となった。実施例10で得られた樹脂組成物においてのみ、耐湿熱性に優れる結果となった。
【0102】
比較例2、3および、4は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を配合していないため成形性に劣る結果となった。
【0103】
比較例5、6、7、および、9は、EBHSA、および/または、HMBHSAを配合していないため、成形性に劣る結果となった。
【0104】
比較例8は、EBHSA、および/または、HMBHSAを配合せず、また(メタ)アクリル酸エステルを配合していないため、成形性に劣る結果となった。
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上の説明の通り、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形法、フィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法などの方法により、電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、農業用途、玩具・娯楽用途などの成形体に適用可能である。