特許第5662024号(P5662024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5662024マルトール及びフラネオール高含有のビールテイスト飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662024
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】マルトール及びフラネオール高含有のビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/02 20060101AFI20150108BHJP
   C12G 3/04 20060101ALI20150108BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20150108BHJP
   C12C 7/04 20060101ALI20150108BHJP
   C12C 5/00 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   C12G3/02
   C12G3/04
   A23L2/00 T
   C12C7/02
   C12C5/00
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2009-546244(P2009-546244)
(86)(22)【出願日】2008年12月12日
(86)【国際出願番号】JP2008072670
(87)【国際公開番号】WO2009078360
(87)【国際公開日】20090625
【審査請求日】2011年11月11日
(31)【優先権主張番号】特願2007-323918(P2007-323918)
(32)【優先日】2007年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100089705
【弁理士】
【氏名又は名称】社本 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100080137
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】高木 大介
(72)【発明者】
【氏名】乾 隆子
(72)【発明者】
【氏名】岡 賀根雄
(72)【発明者】
【氏名】影山 紀彦
【審査官】 小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/136254(WO,A1)
【文献】 特開2005−348677(JP,A)
【文献】 特開2005−013166(JP,A)
【文献】 J.Am.Soc.Brew.Chemists,1996年,Vol.54, No.1,p.37-40
【文献】 Brauwelt,2001年,Vol.18, No.1,p.670-673
【文献】 宮地秀夫,ビール醸造技術,1999年12月28日,p.190-196, p.242-290
【文献】 J.Agric.Food Chem.,1994年,Vol.42,p.2880-2884
【文献】 Nahrung,1998年,Vol.42,p.371-375
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G3/
C12C5/
C12C7/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原液の少なくとも一部を加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させ、得られた発酵原液に少なくとも酵母を加えて発酵させることを含む方法により得られたビールテイスト飲料であって、
前記加熱処理される発酵原液は、粉砕した大麦麦芽を水に懸濁したものであり、
得られたビールテイスト飲料中のマルトール濃度が1.3〜17ppmであり、かつ飲料中のフラネオール濃度が0.5〜2.8ppmであるビールテイスト飲料。
【請求項2】
飲料の色度が5〜20EBCである請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
前記発酵原液の加熱処理が、122℃〜141℃で、5〜90分の処理である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
飲料が、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール酒、スピリッツ又は低アルコール飲料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
発酵原液の少なくとも一部を122℃〜141℃で5〜90分間加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させる工程1、及び
工程1により得られた発酵原液に少なくとも酵母を加えて発酵を行なう工程2
を含み、
工程1で加熱処理される発酵原液は、粉砕した大麦麦芽を水に懸濁したものであり、
工程1により得られた発酵原液中のマルトール濃度が1.2〜17ppm及び/又は工程1により得られた発酵原液中のフラネオール濃度が0.7〜3.5ppmである、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理工程1の前に、発酵原液を30℃以上80℃以下の温度で5分以上加温処理することを含む、請求項5に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
発酵原液の少なくとも一部を122℃〜141℃で5〜90分間加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させる工程1、
工程1により得られた発酵原液を、加熱処理されていない発酵原液と混合する工程2、及び
工程2により得られた発酵原液の混合物に少なくとも酵母を加えて発酵を行なう工程3、
を含み、
工程1で加熱処理される発酵原液は、粉砕した大麦麦芽を水に懸濁したものであり、
工程1により得られた発酵原液中のマルトール濃度が1.2〜17ppm及び/又は工程1により得られた発酵原液中のフラネオール濃度が0.7〜3.5ppmである、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項8】
発酵原液の少なくとも一部を加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させることを含む方法により得られた加熱処理済みの発酵原液であって、
前記加熱処理される発酵原液は、粉砕した大麦麦芽を水に懸濁したものであり、
該加熱処理済みの発酵原液中のマルトール濃度が1.2〜17ppm及び/又は該加熱処理済みの発酵原液中のフラネオール濃度が0.7〜3.5ppmである加熱処理済み発酵原液。
【請求項9】
加熱処理済み発酵原液中のマルトールの濃度が1.2〜17ppmであり、かつフラネオールの濃度が0.7〜3.5ppmとである請求項8記載の加熱処理済み発酵原液。
【請求項10】
前記発酵原液の加熱処理が、122℃〜141℃で、5〜90分の処理である請求項8又は9に記載の加熱処理済み発酵原液。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の加熱処理済み発酵原液を水又は炭酸水で希釈してなるビールテイスト飲料。
【請求項12】
発酵原液の少なくとも一部を122℃〜141℃で5〜90分間加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを、それぞれ、1.2〜17ppm及び0.7〜3.5ppm生成させることを含
前記加熱処理される発酵原液は、粉砕した大麦麦芽を水に懸濁したものである、加熱処理済み発酵原液の製造方法。
【請求項13】
前記発酵原液の加熱処理の前に、発酵原液を、30〜80℃で10〜30分間加温処理することを含み、次いで、前記加熱処理を20〜40分間行うことを特徴とする、請求項12に記載の加熱処理済み発酵原液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料の製造において、高温での反応によって糖及びタンパク分解物を高温反応させ、反応生成物であるマルトールやフラネオールを従来より多く含有させることにより、ビールテイスト飲料の味の厚みや香ばしさを増強させることを特徴とする、ビールテイスト飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好の多様化にともなって、様々な香味特徴をもつ飲料の開発が望まれている。飲料の香味を本質的に向上させるためには、飲料の製造に用いられる原料の特徴を把握して、その良さをうまく引き出すことによって飲料の香味を大幅に向上させることが必要である。
【0003】
ビールテイスト飲料の一種であるビールや発泡酒は、主原料として麦芽を、副原料として麦・米・コーン・こうりゃん・馬鈴薯・スターチ・糖類等の澱粉質原料、及びホップ、ホップエキス、水を原料として製造される。
【0004】
非特許文献1には、ビールや発泡酒の製造において、味の厚みや香ばしさを付与するために、麦汁を100℃で煮沸することが記載されている。
【0005】
特許文献1には、種々のタンパクを酵素により加水分解して製造される遊離のアミノ酸及びペプチドを含むタンパク加水分解物が記載されている。このタンパク加水分解物は食品の風味の改善に有効であることが記載されている。さらに、タンパク加水分解物中の遊離アミノ酸の風味を強化するために、グルタミン酸と5’−リボヌクレオチドとを組み合わせることが記載されている。また、他の風味の強化としては、遊離アミノ酸と糖とをメイラード反応させてその反応生成物を食品等に使用することが開示されている。このようなメイラード反応は、食品の調理や製造に際して、高温が加えられた場合、食品中の糖と遊離アミノ酸との間に起ることが知られている。メイラード反応生成物は強い味及び香りの特徴を示すと記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1は、ビールテイスト飲料の製造に際して、飲料の風味を改善するために、どのような材料を具体的にどのような条件で加熱すれば良いのかについては言及していない。
【0007】
特許文献2には、タンパク分解物と糖とのメイラード反応物、又はその調製物を用いて発酵飲料の液色及び風味を調整することにより、ビール様の自然な色度や風味を付与することが開示されている。特許文献2には、メイラード反応は、105〜121℃の温度で行なわれると記載されている。また、特許文献2には、発酵飲料の製造に際して、メイラード反応物または調製物のフルフラール成分、メチオナール成分、又はフェニルアセトアルデヒド成分のうちのいずれか1以上を指標とすることができると記載されている。
【0008】
特許文献3には、水に懸濁させた粉砕大麦を90℃〜125℃に加熱処理して糊状の粉砕大麦に加工する醸造原料用加工大麦の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特表2004−511241号公報。
【特許文献2】特許第3836117号
【特許文献3】特開2005−348677号公報
【非特許文献1】宮地秀夫著「ビール醸造技術」食品産業新聞社出版、1999年12月発行、第242頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの技術により得られるビールテイスト飲料は、香ばしさなどが多少改善されてはいるものの、十分といえるものではなかった。本発明は、味の厚みと香ばしさとを有し香味に優れたビールテイスト飲料とその製造方法、ならびにその飲料を製造するために用いることのできる発酵原液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ビールテイスト飲料の製造において、味の厚みや香ばしさを増強させる方法を様々な条件を用いて検討した結果、ビールや発泡酒の原料となる麦芽や麦、米、コーン、こうりゃん、馬鈴薯、スターチ、糖類等の澱粉質原料を麦芽中の酵素や酵素剤による糖化を行った後に、122℃以上141℃以下の反応温度によって糖及び/又はタンパク分解物を高温度によって反応させ、高温反応生成物であるマルトールやフラネオールを従来より多く含有させることで飲料の香味を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には、本発明では、発酵原液を加熱処理し、糖とタンパク分解物とを高温で、好ましくは122℃から141℃で反応させることによって、発酵原液中にマルトールとフラネオールを生成させる。この加熱処理済み発酵原液は、好ましくはマルトールを1.2〜17ppm及び/又はフラネオールを0.7〜3.5ppm含有する。この加熱処理済み発酵原液を用いることにより、マルトール1.3ppm以上及び/又はフラネオール0.5ppm以上を含有する、味の厚みとや香ばしさが増強されたビールテイスト飲料を得ることができる。本発明のビールテイスト飲料は、色麦芽を用いずに製造できるため、色度が好ましくは5〜20EBCの範囲となる。
【0012】
本発明は、糖とタンパク分解物の高温による反応生成物、具体的にはマルトール及びフラネオールを利用してビールテイスト飲料の味の厚みや香ばしさを増強することからなる。マルトール及びフラネオールは独特の香りを有し、マルトールはキャラメル、フラネオールは綿菓子を想像させるような香りである。これらの成分が多く含まれる飲料は、味の厚みや香ばしさにおいて好ましい。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1. 発酵原液の少なくとも一部を加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させ、得られた発酵原液に少なくとも酵母を加えて発酵させることを含む方法により得られたビールテイスト飲料であって、飲料中のマルトール濃度が1.3ppm以上及び/又は飲料中のフラネオール濃度が0.5ppm以上であるビールテイスト飲料。
2. 飲料中のマルトールの濃度が1.3ppm以上であり、かつフラネオールの濃度が0.5ppm以上である上記1に記載のビールテイスト飲料。
3. 飲料の色度が5〜20EBCである上記1又は2に記載のビールテイスト飲料。
4. 前記発酵原液の加熱処理が、122℃〜141℃で、5〜90分の処理である、上記1〜3のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
5. 飲料が、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール酒、スピリッツ又は低アルコール飲料である、上記1〜4のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
6. 発酵原液の少なくとも一部を加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させる工程1、及び
工程1により得られた発酵原液に少なくとも酵母を加えて発酵を行なう工程2
を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
7. 前記発酵原液の加熱処理が、122℃〜141℃で、5〜90分の処理である、上記6に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
8. 前記加熱処理工程1の前に、発酵原液を30℃以上80℃以下の温度で5分以上加温処理することを含む、上記6又は7に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
9. 発酵原液の少なくとも一部を加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させる工程1、
工程1により得られた発酵原液を、加熱処理されていない発酵原液と混合する工程2、及び
工程2により得られた発酵原液の混合物に少なくとも酵母を加えて発酵を行なう工程3、
を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
10. 発酵原液の少なくとも一部を加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させることを含む方法により得られた加熱処理済みの発酵原液であって、該加熱処理済みの発酵原液中のマルトール濃度が1.2〜17ppm及び/又は該加熱処理済みの発酵原液中のフラネオール濃度が0.7〜3.5ppmである加熱処理済み発酵原液。
11. 加熱処理済み発酵原液中のマルトールの濃度が1.2〜17ppmであり、かつフラネオールの濃度が0.7〜3.5ppmとである上記10記載の加熱処理済み発酵原液。
12. 前記発酵原液の加熱処理が、122℃〜141℃で、5〜90分の処理である上記10又は11に記載の加熱処理済み発酵原液。
13. 上記10〜12のいずれかに記載の加熱処理済み発酵原液を水又は炭酸水で希釈してなるビールテイスト飲料。
14. 発酵原液の少なくとも一部を122℃〜141℃で5〜90分間加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを、それぞれ、1.2〜17ppm及び0.7〜3.5ppm生成させることを含む、加熱処理済み発酵原液の製造方法。
15. 前記発酵原液の加熱処理の前に、発酵原液を、30〜80℃で10〜30分間加温処理することを含み、次いで、前記加熱処理を20〜40分間行うことを特徴とする、上記14に記載の加熱処理済み発酵原液の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法では、発酵原液を加熱してマルトール及びフラネオールを発酵原液中に生成させることにより、優れた味の厚みと香ばしさとを有する飲料を簡便に製造することができる。また、本発明のビールテイスト飲料の製造方法では、原料麦芽として色麦芽を使用することなく、飲料の色度を調整することができる。色麦芽には独特の香味があるため色麦芽を比較的多く使用したビール(例えば、濃色ビールや黒ビール)を好んで飲用しない消費者も存在するから、色麦芽を使用せずに製造された本発明の飲料は、黒ビール等に比べて、より多くの消費者の好みに合致するという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】発酵原液を各温度で30分間加熱処理した際の発酵原液中のマルトール濃度(上のグラフ)とフラネオール濃度(下のグラフ)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を詳しく説明する。
【0017】
(発酵原液)
本発明において「発酵原液」とは、酵母を加えて発酵に供することにより発酵飲料となることができる、発酵前で酵母未添加の液をいう。発酵原液の種類としては、ビールテイスト飲料製造におけるビール用麦汁、発泡酒用麦汁、非麦芽発酵原液、果実醸造酒製造における果実汁、穀物醸造酒製造における穀物抽出液などを挙げることができる。
【0018】
発酵原液中には糖類が含まれている。糖類は、糖液など市販の糖類であってよい。あるいは、麦芽、麦、米、コーン、こうりゃん、馬鈴薯、スターチ、糖類等の澱粉質原料を、麦芽中の酵素や、酵素剤によって十分に糖化することにより得られた糖でもよい。
【0019】
発酵原液中にはタンパク分解物が含まれている。タンパク分解物とは、タンパク質が酵素などにより加水分解された物質であるペプチドやアミノ酸である。発酵原液中に含まれるタンパク分解物は、麦芽、麦、米などの穀物原料中に含まれるタンパク分解物であってよい。また、市販のタンパク分解物でもよい。さらに、穀物原料中に含まれるタンパク質を、タンパク分解酵素や酵素剤によって分解したものでもよい。
【0020】
(加熱処理)
本発明の発酵ビールテイスト飲料の製造方法においては、発酵原液の少なくとも一部を加熱処理して、発酵原液中に加熱反応生成物であるマルトールとフラネオールを生成させる。加熱処理時の温度は、加熱反応物の生成が促進される温度であれば特に限定されないが、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは122℃以上である。その中でも、マルトール及びフラネオールの生成が極端に増加する130℃以上が最も好ましい。加熱処理時の温度の上限は特にないが、150℃を超えると、麦芽成分の濃度や反応時間によっては、コゲによる香味の低下が認められ、好ましくない香味が付与される場合もあることから、150℃以下が好ましく、141℃以下が特に好ましい。したがって、加熱処理時の温度は、110℃〜150℃が好ましく、120℃〜150℃がより好ましく、122℃〜150℃がさらに好ましく、122℃〜141℃がさらに好ましく、130℃〜141℃が最も好ましい。特に122℃〜141℃、及び130℃〜141℃の温度範囲は麦芽成分が非常に効率よく抽出されるので、好ましい。加熱処理時の圧力は、0.1〜0.3MPaであると、コゲ臭が少なく、適度なメイラード反応およびカラメル反応による芳ばしい香味を得ることができるから、望ましい。
【0021】
加熱処理は、加圧可能な耐圧性の加熱装置を用いて行なうことができる。例えば、加圧式の密閉加熱装置を用いることができる。
【0022】
加熱処理の処理時間は、温度や圧力などの条件によって適宜設定すればよいが、5〜90分間程度が好ましく、10〜60分間程度がより好ましく、20〜40分間程度が最も好ましい。
【0023】
加熱処理は、発酵に供される発酵原液全体に対して、あるいは一部に対して行なうことができる。例えば、発酵に供される発酵原液全体のうちの1〜100重量%、好ましくは5〜75重量%、より好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは12.5〜25重量%、最も好ましくは18.8〜25重量%を加熱処理に付すことができる。発酵原液の一部を加熱処理する際には、予め製造しておいた発酵原液から一部を取り出し、取り出した一部のみを加熱処理して、元の発酵原液に戻し入れてもよいし、あるいは加熱処理した発酵原液を、別に製造しておいた加熱処理していない発酵原液と混合してもよい。
【0024】
(マルトール、フラネオール)
発酵原液を加熱処理することにより、味の厚みや香ばしさに寄与するマルトールおよびフラネオールが発酵原液中に生成される。マルトール(3−ヒドロキシ−2−メチル−4H−ピラン−4−オン、分子量126.1)は以下の構造
【0025】
【化1】
【0026】
を有する化合物であり、キャラメル様の香りを有する。フラネオール(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、分子量128.1)は以下の構造
【0027】
【化2】
【0028】
を有する化合物であり、綿菓子を連想させるような香りを有する。これらマルトール及びフラネオールには香味改善効果がある。本発明者らは、通常のビールにマルトールまたはフラネオールを添加することで、ビールの香味が改善されることを確認している。
【0029】
本発明における加熱処理済みの発酵原液中には、マルトールが1.1ppm以上及び/又はフラネオールが0.3ppm以上含まれることが好ましい。より好ましくは、マルトールが1.2〜17ppm及び/又はフラネオールが0.7〜3.5ppmである。さらに好ましくは、マルトールが3.0ppm〜17ppm及び/又はフラネオールが1.2〜3.5ppmである。さらに好ましくは、マルトールが5.0ppm〜17ppm及び/又はフラネオールが1.7ppm〜3.5ppmである。香味のバランスを考慮すれば、本発明の加熱処理済み発酵原液には、マルトールとフラネオールの両者が一定値以上、具体的にはマルトールが1.2ppm以上でかつフラネオールが0.7ppm以上含まれることが好ましい。最も好ましくは、加熱処理済み発酵原液において、マルトールが1.2〜17ppmでありかつフラネオールが0.7〜3.5ppm含まれるのがよい。さらに好ましくは、マルトールが3.0ppm〜17ppmでありかつフラネオールが1.2〜3.5ppm、最も好ましくは、マルトールが5.0ppm〜17ppmでありかつフラネオールが1.7ppm〜3.5ppm含まれるのがよい。
【0030】
(前処理)
本発明において、前記加熱処理の前に、発酵原液を30℃以上80℃以下、好ましくは50℃以上75℃以下の温度で前処理(加温処理)することができる。当該前処理は必須ではないが、加熱処理時の反応を促進する効果がある。前処理の処理時間は特に限定されないが、1分〜240分、好ましくは5分〜240分、さらに好ましくは5分〜60分、さらに好ましくは5分〜30分、最も好ましくは10〜30分程度である。
【0031】
前処理の効果としては、デンプンを糖類へ分解する糖化反応、およびタンパク質をタンパク分解物にする加水分解反応をより進めることにあると考えられる。前処理は、後続の加熱処理時の反応において基質となる還元糖の生成を促進するので、デンプンを含む原料を糖化して用いる場合に特に有効である。
【0032】
前処理の際に、麦芽抽出液に塩類を添加したり、麦芽抽出液のpHを調整したり、糖化酵素及びプロテアーゼなどの酵素類を添加したりすることにより、デンプンやタンパク質の加水分解反応をより確実に行わせることができる。また、前処理において、固形分の重量と水の重量との比率を調整することにより、加水分解反応をより効果的に行なわせることができる。
【0033】
ここでいう塩類には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウムなどが含まれるが、食品の製造に適したものであればよく、これらに特に制限されるものではない。また、pHの調整には、乳酸、リン酸、コハク酸、酢酸、リンゴ酸、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどを用いることができるが、特にこれらに制限されるものではない。
【0034】
また、酵素類としては、アミラーゼ、グルコシダーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、セルーゼ、アミログルコシダーゼ、グリコシダーゼなどの糖化酵素や、各種プロテアーゼなどを用いることができるが、とくにこれらに制限されるものではない。
【0035】
前処理は、温度を調整することができる装置、例えば、糖化槽を用いて行なうことができる。
【0036】
(ビールテイスト飲料)
上記のマルトール及びフラネオールを含有する加熱処理済み発酵原液を用いて本発明のビールテイスト飲料を製造することができる。例えば、加熱処理済み発酵原液を、当業者に慣用される方法でろ過し、ホップやホップエキスを添加したり、必要により煮沸、ろ過し、水又は炭酸水で希釈して、ビールテイスト飲料とすることができる。また、加熱処理済み発酵原液を、発酵工程、貯酒工程、濾過工程、容器詰め、殺菌工程などの通常の工程に付すことにより、ビールテイスト発酵飲料とすることができる。
【0037】
加熱処理済みの発酵原液中には、ホップを添加してもよい。ホップはビール等の製造に使用される通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを、所望の香味に応じて適宜選択して使用することができる。イソ化ホップ、ヘキサホップ、テトラホップなどのホップ加工品を用いてもよい。
【0038】
発酵を行なう際には、ビール酵母やワイン酵母などの醸造用酵母を用いることができる。中でも、ビール酵母が好ましい。ビール酵母は、製造すべき発酵飲料の種類、目的とする香味や発酵条件などを考慮して自由に選択することができる。例えばWeihenstephan−34株など、市販のビール酵母を用いることができる。
【0039】
酵母は、酵母懸濁液のまま発酵原液に添加しても良いし、遠心分離あるいは沈降により酵母が濃縮されたスラリーを発酵原液に添加しても良い。また、遠心分離の後、完全に上澄みを取り除いたものを添加しても良い。酵母の発酵原液への添加量は適宜設定できるが、例えば、5×106cells/ml 〜1×108 cells/ml程度である。
【0040】
本発明は発酵方法を選ばない。例えばビールテイスト発酵飲料の場合、通常のビールや発泡酒の発酵温度である、8〜25℃で1週間から10日発酵させてもよい。発酵中の昇温、降温、加圧などについても、特に制限はない。
【0041】
本発明においては、必要であれば、色素や泡形成剤、香料、などを発酵原液または発酵直後の液に添加することができる。色素としては、例えば、カラメル色素などを適量使用することができ、飲料にビール様の色を与えることができる。泡形成剤としては、例えば、大豆サポニン、キラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質や、牛血清アルブミン等のタンパク質系物質などを適量使用することができ、飲料ビール様の泡を形成させることができる。また、ビール風味を有する香料を適量使用して、飲料にビール様の風味を付与することができる。
【0042】
本発明のビールテイスト飲料は、マルトール及びフラネオールを含有する加熱処理済み発酵原液を用いて製造され、加熱処理済み発酵原液からのマルトール及びフラネオールを含有する。本発明のビールテイスト飲料中のマルトールの含量は、加熱処理済み発酵原液の使用量及び割合に依存するが、香味の観点から1.3ppm以上であり、好ましくは1.7ppm以上、より好ましくは1.7〜17ppm、さらに好ましくは1.7〜2.5ppmである。また、飲料中のフラネオールの含量は、加熱処理済み発酵原液の使用量及び割合に依存するが、香味の観点から0.4ppm以上であり、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは0.5〜2.8ppm、さらに好ましくは0.5〜0.8ppmである。香味のバランスを考慮すれば、本発明のビールテイスト飲料は、マルトールとフラネオールの両者を一定値以上含むことが好ましい。より好ましくは、本発明の飲料は、マルトールを1.3ppm以上含み、かつフラネオールを0.5ppm以上含む。
【0043】
本発明のビールテイスト飲料は、好ましくは5〜20EBC、より好ましくは5〜15EBCの色度を有する。色度は、ANALYCA−EBC 9.6に基づいて測定することができる。なお、色麦芽を用いて製造される濃色ビールの色度は通常40〜60EBC程度であり、いわゆる黒ビールの色度は150〜400EBC程度である。
【0044】
本発明におけるビールテイスト飲料としては、その原料や製法ならびに日本国酒税法によって、種々の分類がなされ得るが、ビール様の風味をもつ飲料であればどのような飲料でも良く、特に限定されるものではない。つまり、本発明のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、酵母による発酵工程を経る経ないにかかわらず、ビール風味の飲料を全て包含する。例えば、日本の酒税法上の名称における発泡酒、ビール、リキュール類、その他雑酒を含み、また、低アルコール分の発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の発酵飲料)、スピリッツ類、ノンアルコールのビールテイスト飲料、ビールテイストの清涼飲料なども含む。
【0045】
本発明のビールテイスト飲料中のアルコール濃度は特に限定されないが、好ましくは0〜40%(v/v)、より好ましくは1〜15%(v/v)である。特に、ビールや発泡酒といったビールテイスト飲料として消費者に好んで飲用される飲料と同程度のアルコール濃度、すなわち1〜6%(v/v)がより好ましい。
【0046】
(容器)
本発明のビールテイスト飲料は、通常の飲料と同様、ビン、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
【0047】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0048】
なお、本発明において、マルトール及びフラネオールの濃度は、Journal of Chromatography, A 2003, 1010, 95-103 (Quantitative determination of sotolone, maltol and free furaneol in wine by solid-phase extraction and gas chromatography-ion-trap mass spectrometry.)に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)を用いて求めた。
【0049】
発酵原液及び飲料の官能評価は、味の厚みと香ばしさのそれぞれを、訓練されたパネラー5名により次の4段階で評価した。
味の厚み:
4 味に厚みがあり、重厚感を非常に感じる
3 味に厚みがあり、重厚感をやや感じる
2 味に厚みがあまりなく、重厚感があまり感じられない
1 味に厚みがなく、重厚感が感じられない
香ばしさ:
4 非常に香ばしい良好な香りを有する
3 香ばしい香りを有する
2 香ばしい香りはあまり感じられない
1 香ばしさがない
パネラー5名の評価結果を集計し、その平均値が1以上2未満の場合を×、2以上3未満の場合を△、3以上4以下の場合を○と表現し3段階評価にて最終評価とした。
【0050】
色度は、ANALYCA−EBC9.6に定める方法により測定した。
【実施例1】
【0051】
<加熱処理済み発酵原液の調製(加熱処理条件と香味との関連性)>
粉砕した大麦麦芽3.0kgを55℃の温水12Lに懸濁し、15分間保持することによって麦汁(発酵原液)を得た。これを密閉の耐圧容器で加熱し、温度が110℃、120℃、130℃、140℃になった時点からそれぞれ30分間保持した時点で取り出した。得られた加熱処理済み発酵原液について、マルトールおよびフラネオールの含量の測定、色度の測定、ならびに官能評価をおこなった。結果を表1および図1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
120℃〜140℃の加熱処理で官能評価の改善が認められた、特に、130〜140℃の加熱処理で優れた香味を示した。また、図1からわかるように、発酵原液中のマルトール濃度は、120℃くらいから増加し始め、特に130℃を超える温度で急激に増加し、フラネオールの濃度は、110℃くらいから増加し始め、130℃処理時には110℃処理時の10倍以上に増加した。香味の改善とマルトールおよびフラネオールの含量とは相関していた。
【0054】
次に、比較例として、同様の麦汁を密閉の耐圧容器で加熱し、100℃になった時点から30分、45分、60分間保持して取り出して、各サンプルのマルトールおよびフラネオールの含量の測定、色度の測定、ならびに官能評価をおこなった。その結果、いずれの試料でも香味の改善効果がみられず、マルトールおよびフラネオールの含量もほとんど変化しなかった。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
以上により、100℃から140℃にむけて加熱処理温度が高い方がマルトールやフラネオール成分の生成量が多くなることが分った。また、マルトールやフラネオールの生成量は、加熱処理時間よりも加熱温度の影響を大きく受け、130℃以上と比較して100℃や110℃ではこれら成分の生成速度は極めて遅いことが分かった。
【実施例2】
【0057】
<前処理の効果>
粉砕した大麦麦芽3.0kgを90℃の温水12Lに懸濁し15分間保持することによって麦汁を得た(試料9)。また、大麦麦芽3.0kgを55℃の温水12Lに懸濁し15分間保持することによって試験麦汁を得た(上記試料4)。また、大麦麦芽3.0kgを55℃の温水12Lに懸濁し15分間保持したのち、65℃に昇温し25分間保持することによって試験麦汁を得た(試料11)。それぞれの麦汁を密閉の耐圧容器で加熱し、どの水準も130℃で30分間処理を行った。得られた加熱処理済みサンプルについて、実施例1と同様に評価をおこなった。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
前処理の仕方によって、加熱処理済み発酵原液中のマルトールおよびフラネオール含量、ならびに香味に大きな違いが見られた。発酵原液を加熱処理前に55℃で保持することにより、加熱処理後の発酵原液中のマルトール及びフラネオール含量がともに増加した。また、発酵原液を55℃で保持した後さらに65℃で保持することにより、加熱処理後の発酵原液中のマルトール及びフラネオール含量がよりいっそう増加した。
【0060】
また、試料4と試料11のそれぞれについて、130℃で30分間の加熱処理を行なう前のマルトール及びフラネオール含量を測定したところ、ほとんど差がなかった。よって、65℃での保持の際にはマルトール及びフラネオールはほとんど生成せず、しかしながら、130℃で30分間の加熱処理に先駆けて65℃での保持を行なうことにより、後の加熱処理時にマルトール及びフラネオールを極めて生成しやすい状態とすることができることがわかった。
【実施例3】
【0061】
<ビールの製造>
加熱処理済み発酵原液を一部用いてビールを製造した。発酵原液全体における加熱処理済み発酵原液の使用比率を12.5〜25重量%とした。すなわち、大麦麦芽7.5kgを59℃の温水20Lに懸濁し5分間保持し、65℃に昇温後25分間保持し得られた麦汁を130℃に昇温後30分間保持し、加熱処理済み発酵原液を得た。次に、大麦麦芽22.5kgを59℃の温水100Lに懸濁したものを調製した。これらを表4に記載の割合で混合した後、65℃で40分間保持した。77℃に昇温後、濾過を行い穀皮を取り除いた。糖度を12w/w%に調整し、ホップを加えて1時間程度煮沸した後、10℃程度に冷却し、酵母を添加し発酵を行った。1週間程度の発酵と2週間程度の熟成ののち、濾過を行った。アルコールを5.0v/v%に調整し、ビールを得た。
【0062】
対照品として、色度を合わせる目的で、原料の一部に濃色麦芽を用いてビールを調製した。すなわち、大麦麦芽4.5kgと濃色麦芽3.0kgを59℃の温水20Lに懸濁し5分間保持し、100℃に昇温後30分間保持し反応液を得た。次に、大麦麦芽22.5kgを59℃の温水100Lに懸濁したものに前記反応液を混合し、65℃で40分間保持した。77℃に昇温後、濾過を行い穀皮を取り除いた。以降は前記と同様に操作した。
【0063】
この実施例によって得られた飲料と対照品の分析結果、官能評価結果(社内パネル5名による)を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
この結果、加熱処理済み発酵原液の使用比率が12.5%以上の場合、香味改善効果およびマルトールやフラネオールの生成が確認された。特に、18.8%以上で顕著であった。
【0066】
本発明のマルトールやフラネオールを生成させた加熱処理済み発酵原液を用いることで、従来の製品よりも多くのマルトールやフラネオールをビール中に含有させることが可能となり、従来の製法では実現できない優れた味の厚みと香ばしさとを有するビールを製造することができた。
【実施例4】
【0067】
<発泡酒の製造例1>
加熱処理済み発酵原液を一部用いて発泡酒を製造した。具体的には、当業者に周知の方法にて粉砕した麦芽6kgに水20Lを加え、55℃にて15分攪拌した後、130℃にて30分間加圧下で加熱処理した。解圧後に約15℃の水20Lを加水して、予め別に調製しておいた粉砕した麦芽10kgに水40Lを加え55℃にて30分攪拌した仕込液に混合した。得られた混合液について65℃で60分間の糖化を行ったのち77℃に昇温した。同温度にて麦汁ろ過した後、この麦汁に、資化性糖比率が約80%の糖化スターチ(加藤化学社製)を、原麦汁エキス換算で約75重量%となるように添加して加水・攪拌し、ホップ約100gを添加して90分間煮沸した。15℃に冷却後、ビール醸造用酵母約300gを加え、10日間発酵させたのち、原麦汁エキスを12重量%に調整し、発泡酒を得た。得られた発泡酒のマルトール及びフラネオール含量を測定したところ、それぞれ、5.3ppm及び1.8ppmであった。官能評価の結果、味の厚みと香ばしさは非常に良好であった。
【実施例5】
【0068】
<発泡酒の製造例2>
加熱処理済み発酵原液を用いて発泡酒を製造した。具体的には、当業者に周知の方法にて粉砕した麦芽20kgに水40Lを加え、55℃にて15分攪拌した後、130℃にて30分間加圧下で加熱処理した。解圧後に約15℃の水20Lを加水して大過剰のアミログルコシダーゼ(AMG 300L:ノボザイム社製)およびプルラナーゼ(プロモザイム:ノボザイム社製)を添加し、65℃にて100分間糖化を行った。同温度にて麦汁ろ過した後、この麦汁に、ショ糖の純度約99%の糖液(LA67:三井製糖社製)を、原麦汁エキス換算で約85重量%となるように添加して加水・攪拌し、ホップ約100gを添加して90分間煮沸した。15℃に冷却後、ビール醸造用酵母約300gを加え、10日間発酵させたのち、原麦汁エキスを6.5重量%に調整し、発泡酒を得た。このときの糖質の値は0.4g/100mLであった。得られた発泡酒のマルトール及びフラネオール含量を測定したところ、それぞれ、5.3ppm及び1.8ppmであった。官能評価の結果、味の厚みと香ばしさは非常に良好であった。
【実施例6】
【0069】
<発泡酒の製造例3>
加熱処理済み発酵原液を一部用いて発泡酒を製造した。具体的には、当業者に周知の方法にて粉砕した麦芽10kgに水20Lを加え、65℃にて15分攪拌した後、140℃にて60分間加圧下で加熱処理した。解圧後に15℃の水20Lを加水した仕込液を、予め別に作成しておいた粉砕した麦芽10kgに水40Lを加え55℃にて15分攪拌した仕込液に混合した。混合液に大過剰のアミログルコシダーゼ(AMG 300L:ノボザイム社製)およびプルラナーゼ(プロモザイム:ノボザイム社製)を添加し、65℃にて100分間糖化を行った。同温度にて麦汁ろ過した後、この麦汁に、ショ糖の純度約99%の糖液(LA67:三井製糖社製)を、原麦汁エキス換算で約84重量%となるように添加して加水・攪拌し、ホップ約100gを添加して90分間煮沸した。15℃に冷却後、ビール醸造用酵母約300gを加え、10日間発酵させたのち、原麦汁エキスを6.5重量%に調整し、発泡酒を得た。このときの糖質の値は0.4g/100mLであった。得られた発泡酒のマルトール及びフラネオール含量を測定したところ、それぞれ、51.1ppm及び3.7ppmであった。官能評価の結果、味の厚みと香ばしさは良好であった。
【実施例7】
【0070】
<リキュールの製造例>
加熱処理済み発酵原液を一部用いてリキュールを製造した。具体的には、当業者に周知の方法にて粉砕した麦芽6kgに水20Lを加え、55℃にて15分攪拌した後、130℃にて30分間加圧下で加熱処理した。解圧後に約15℃の水20Lを加水して、予め別に作成しておいた粉砕した麦芽10kgに水40Lを加え55℃にて30分攪拌した仕込液に混合した。65℃にて60分間糖化を行ったのち77℃に昇温した。同温度にて麦汁ろ過した後、この麦汁に、資化性糖比率が約80%の糖化スターチ(加藤化学社製)を、原麦汁エキス換算で約75重量%となるように添加して加水・攪拌し、ホップ約100gを添加して90分間煮沸した。15℃に冷却後、ビール醸造用酵母約300gを加え、10日間発酵させたのち、原麦汁エキスを11.5重量%に調整し、ここにアルコール度数43%の小麦スピリッツを原麦汁エキスが12.0重量%になるように添加し、リキュールを得た。得られたリキュールのマルトール及びフラネオール含量を測定したところ、それぞれ、5.3ppm及び1.8ppmであった。官能評価の結果、味の厚みと香ばしさは非常に良好であった。
【実施例8】
【0071】
<ビールの製造例>
加熱処理済み発酵原液を一部用いてビールを製造した。発酵原液全体における加熱処理済み発酵原液の使用比率を95重量%とした。すなわち、大麦麦芽22.5kgを30℃の温水60Lに懸濁し240分間保持後、125℃に昇温後30分間保持し、加熱処理済み発酵原液を得た。次に、大麦麦芽22.5kgを59℃の温水100Lに懸濁したものを調製した。これらを上記割合で混合した後、65℃で40分間保持した。77℃に昇温後、ろ過を行ない穀皮を取り除いた。糖度を12w/w%に調製し、ホップを加えて1時間程度煮沸した後、10℃に冷却し、酵母を添加し発酵を行なった。1週間程度の発酵と2週間程度の熟成ののち、ろ過を行なった。アルコールを5.0v/v%に調製し、ビールを得た。得られたビールのマルトール及びフラネオール含量を測定したところ、それぞれ、2.7ppm及び1.3ppmであった。官能評価の結果、味の厚みと香ばしさは非常に良好であった。
【実施例9】
【0072】
<ビールの製造例>
加熱処理済み発酵原液を一部用いてビールを製造した。発酵原液全体における加熱処理済み発酵原液の使用比率を5重量%とした。すなわち、大麦麦芽7.5kgを水に懸濁し、80℃に昇温後5分間保持し、得られた麦汁を122℃に昇温後60分間保持し、加熱処理済み発酵原液を得た。次に、大麦麦芽22.5kgを59℃の温水100Lに懸濁したものを調製した。これらを上記割合で混合した後、65℃で40分間保持した。77℃に昇温後、ろ過を行ない穀皮を取り除いた。糖度を12w/w%に調整し、ホップを加えて1時間程度煮沸した後、10℃程度に冷却し、酵母を添加し発酵を行なった。1週間程度の発酵と2週間程度の熟成ののち、ろ過を行なった。アルコールを5.0v/v%に調整し、ビールを得た。得られたビールのマルトール及びフラネオール含量を測定したところ、それぞれ、3.8ppm及び0.8ppmであった。官能評価の結果、味の厚みと香ばしさは非常に良好であった。
【実施例10】
【0073】
<ビールの製造例>
大麦麦芽7.5kgを水20Lに懸濁し、65℃に昇温後15分間保持し、次いで130℃に昇温して50分間保持して加熱処理済み発酵原液を得た。この加熱処理済み発酵原液を、混合割合が50重量%となるように、大麦麦芽22.5kgを59℃の温水100Lに懸濁したものに混合した。この混合液を65℃で40分間保持して77℃に昇温し、ろ過を行なって穀皮を取り除いた。糖度を12w/w%に調整し、ホップを加えて1時間程度煮沸した後、10℃程度に冷却し、酵母を添加して発酵を行なった。1週間程度の発酵と2週間程度の熟成の後、ろ過を行なった。アルコールを5.0v/v%に調整し、ビールを得た。得られたビールのマルトール及びフラネオール含量を測定したところ、それぞれ、20.2ppm及び3.0ppmであった。官能評価の結果、味の厚みと香ばしさは良好であった。
【実施例11】
【0074】
<ビールテイスト飲料の製造例>
糖シロップおよび酵母エキス、コーンタンパク分解物を原料とし加熱処理された発酵原液を一部用いてビールテイスト飲料を製造した。具体的には、糖シロップ2.5kgおよび酵母エキス50g、コーンタンパク分解物(播州調味料製)50gを仕込水6Lに攪拌溶解した後、130℃にて30分間加圧下で加熱処理した。解圧後に、予め別に作成しておいた糖シロップ7.5kg酵母エキス150g、コーンタンパク分解物(播州調味料製)150gに水84Lを加え溶解した水溶液と混合した。この混合溶液に、ホップエキス約20gを添加して100℃にて60分間煮沸した。12℃に冷却後、ビール醸造用酵母約400gを加え、2週間程度発酵させ、ビールテイスト飲料を得た。
【0075】
対照品として、色度を合わせる目的で、原料の一部にカラメル色素を用いたビールテイスト飲料を製造した。具体的には、糖シロップ10kg、酵母エキス200g、コーンタンパク分解物(播州調味料製)200g、カラメル(池田糖化製)40gに水90Lを加え溶解し、ホップ約50gを添加し、100℃にて60分間煮沸した。以降は前記と同様に操作した。
【0076】
上記本発明のビールテイスト飲料と対照品とを比較したところ、本発明の飲料は、対照品に比べて、ビールらしい十分な味わいと香りとを有していた。
【実施例12】
【0077】
<ビールの製造例>
加熱処理済み発酵原液を一部用いてビールを製造した。発酵原液全体における加熱処理済み発酵原液の使用比率を50重量%とした。すなわち、大麦麦芽7.5kgを水20Lに懸濁後、141℃に昇温して10分間保持し、加熱処理済み発酵原液を得た。次に、大麦麦芽22.5kgを59℃の温水100Lに懸濁したものを調製した。これらを上記割合で混合した後、65℃で40分間保持した。77℃に昇温後、ろ過を行ない穀皮を取り除いた。糖度を12w/w%に調整し、ホップを加えて1時間程度煮沸した後、10℃程度に冷却し、酵母を添加し発酵を行なった。1週間程度の発酵と2週間程度の熟成ののち、ろ過を行なった。アルコールを5.0v/v%に調整し、ビールを得た。官能評価の結果、味の厚みと香ばしさは良好であった。
図1