特許第5662056号(P5662056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662056
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】パワースライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/07 20060101AFI20150108BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   B60N2/07
   F16H25/24 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-118416(P2010-118416)
(22)【出願日】2010年5月24日
(65)【公開番号】特開2011-245902(P2011-245902A)
(43)【公開日】2011年12月8日
【審査請求日】2013年5月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590001164
【氏名又は名称】シロキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083286
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135493
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】木村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】榎島 友宏
【審査官】 佐々木 一浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−006098(JP,A)
【文献】 特開平06−336130(JP,A)
【文献】 実開昭61−051235(JP,U)
【文献】 実開平02−106930(JP,U)
【文献】 実開平05−046543(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/07
B60N 2/06
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに摺動自在に係合したロアレールとアッパレールとのいずれか一方に、スクリューロッドを回転自在に支持し、他方に上記スクリューロッドに螺合される送りナットを支持し、上記スクリューロッド支持レールに、保持部を介して、上記スクリューロッドを回転駆動するギヤボックスを支持したパワースライド装置において、
上記ギヤボックスは、固定ボルト挿通孔を有し、この固定ボルト挿通孔に挿通した固定ボルトを介して上記保持部に支持されていること、
上記保持部は、一対の対向壁とこの一対の対向壁を接続する接続壁を有するコ字状断面を有していて、上記接続壁には、弾性部材挿入溝が形成されていること、及び
上記ギヤボックスと上記保持部との間には、上記ギヤボックスを上記保持部と上記固定ボルトに接触させることなく上記保持部に支持する弾性部材が介在しており、上記弾性部材は、その一部が、上記ギヤボックスの固定ボルト挿通孔と上記固定ボルトとの間の空間に位置しており、かつ上記弾性部材は、上記保持部の弾性部材挿入溝に挿入されるネック部と、このネック部に連なり上記保持部の上記接続壁の外側に位置する脱落防止壁とを有すること、
を特徴とするパワースライド装置。
【請求項2】
請求項1記載のパワースライド装置において、上記弾性部材は、上記保持部と上記ギヤボックスが対向する面に位置する対向壁部を有しているパワースライド装置。
【請求項3】
請求項2記載のパワースライド装置において、上記ギヤボックスの固定ボルト挿通孔は、上記スクリューロッドの軸線と平行な方向に延びており、上記弾性部材の対向壁部は、上記スクリューロッドの軸線と平行な方向に離間して上記ギヤボックスを挟むように上記保持部と上記ギヤボックスが対向する面に位置しているパワースライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワースライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワースライド装置は、一般的に、互いに摺動自在に係合したロアレールとアッパレールとのいずれか一方に、スクリューロッド(スピンドル)を回転自在に支持し、他方にスクリューロッドに螺合される送りナットを支持し、スクリューロッドを支持した方のレール(スクリューロッド支持レール)に、保持ブラケット(保持部)を介して、スクリューロッドを回転駆動するギヤボックスを支持してなる。
【0003】
ギヤボックスは、固定ボルト挿通孔を有し、この固定ボルト挿通孔に挿通した固定ボルトを介して保持ブラケット(保持部)に支持されている。またギヤボックスは、スクリューロッドを回転させる回転機構(モータにより回転駆動されるウォーム及びこのウォームと噛み合いスクリューロッドを回転自在に支持するウォームホイル)を支持している。
【0004】
本出願人は、ギヤボックス(の回転機構)からの振動が保持ブラケット(保持部)及びスクリューロッド支持レールに伝わりにくくするために、ギヤボックスに吸振用のゴムシートを設けることを提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−6098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らによれば、ギヤボックスの固定ボルト挿通孔と固定ボルトの間には若干の空間が設けられているため(設けざるを得ないため)、ギヤボックスがスクリューロッドの回転に起因するうねり(スクリューロッドの理想回転軸線からの偏芯回転)に追従しきれず、ギヤボックスとスクリューロッド支持レールの間の振動伝達を十分に抑制できないことが指摘されている。また、固定ボルトがギヤボックスの固定ボルト挿通孔の壁面に接触したときに異音が発生するおそれもある。
【0007】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、ギヤボックスがスクリューロッドの回転に起因するうねりに良好に追従し、ギヤボックスとスクリューロッド支持レールの間の振動伝達を十分に抑制するとともに、異音が発生することのないパワースライド装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ギヤボックスの固定ボルト挿通孔と固定ボルトの間の空間に位置させて弾性部材を設ければ、固定ボルト挿通孔の内部における固定ボルトの動きを許容しつつ、この弾性部材がスクリューロッドの回転に起因するうねりを吸収するため、ギヤボックスがスクリューロッドの回転に起因するうねりに良好に追従し、ギヤボックスとスクリューロッド支持レールの間の振動伝達を十分に抑制でき、また、固定ボルトがギヤボックスの固定ボルト挿通孔の壁面に接触することがないため、異音の発生を防止できるとの着眼に基づいてなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明のパワースライド装置は、互いに摺動自在に係合したロアレールとアッパレールとのいずれか一方に、スクリューロッドを回転自在に支持し、他方に上記スクリューロッドに螺合される送りナットを支持し、上記スクリューロッド支持レールに、保持部を介して、上記スクリューロッドを回転駆動するギヤボックスを支持したパワースライド装置において、上記ギヤボックスは、固定ボルト挿通孔を有し、この固定ボルト挿通孔に挿通した固定ボルトを介して上記保持部に支持されていること、上記保持部は、一対の対向壁とこの一対の対向壁を接続する接続壁を有するコ字状断面を有していて、上記接続壁には、弾性部材挿入溝が形成されていること、及び上記ギヤボックスと上記保持部との間には、上記ギヤボックスを上記保持部と上記固定ボルトに接触させることなく上記保持部に支持する弾性部材が介在しており、上記弾性部材は、その一部が、上記ギヤボックスの固定ボルト挿通孔と上記固定ボルトとの間の空間に位置しており、かつ上記弾性部材は、上記保持部の弾性部材挿入溝に挿入されるネック部と、このネック部に連なり上記保持部の上記接続壁の外側に位置する脱落防止壁とを有すること、を特徴としている。
【0010】
上記弾性部材は、上記保持部と上記ギヤボックスが対向する面に位置する対向壁部を有していることが好ましい。このように構成すれば、保持部とギヤボックスが対向する面に位置する弾性部材の対向壁部によりギヤボックスがフローティング状態で保持される(保持部及びスクリューロッド支持レールから非接触で浮いた状態となる)ため、スクリューロッドの回転に起因するうねりを吸収しやすくできるとともに、異音の発生を効果的に防止できる。
【0011】
上記ギヤボックスの固定ボルト挿通孔は、上記スクリューロッドの軸線と平行な方向に延びており、上記弾性部材の対向壁部は、上記スクリューロッドの軸線と平行な方向に離間して上記ギヤボックスを挟むように上記保持部と上記ギヤボックスが対向する面に位置していることが好ましい。このように構成すれば、スクリューロッドの軸線と平行な方向に離間してギヤボックスを挟むように弾性部材の対向壁部が位置しているため、スクリューロッドの回転に起因するうねりをより一層吸収しやすくできる。
【0012】
上記保持部は、一対の対向壁とこの一対の対向壁を接続する接続壁を有するコ字状断面を有していて、上記接続壁には、弾性部材挿入溝が形成されており、上記弾性部材は、上記弾性部材挿入溝に挿入されるネック部と、このネック部を介して上記接続壁に連なる脱落防止壁とを有していることが好ましい。このように構成すれば、保持部に、弾性部材に覆われたギヤボックスを係合させて両者を位置決めできるため、固定ボルトによる締結を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ギヤボックスがスクリューロッドの回転に起因するうねりに良好に追従し、ギヤボックスとスクリューロッド支持レールの間の振動伝達を十分に抑制するとともに、異音が発生することのないパワースライド装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るパワースライド装置を前方から見た分解斜視図である。
図2】組立状態の右側のロアレール、アッパレール及びこれらの周辺部材を示す断面図である。
図3】ナットユニットを示す分解斜視図である。
図4】組立状態のナットユニットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし図4を用いて、本発明を適用したパワースライド装置の一実施形態を説明する。以下の説明中の前後方向及び左右方向は、図中に示した矢印方向を意味する。
【0016】
車両内の床面(図示せず)上には、対をなす前側ブラケット11と後側ブラケット12が左右に並べて固定してあり、この左右の前側ブラケット11と後側ブラケット12の上面にはそれぞれ、ロアレール(送りナット支持レール)20の下面の前端部と後端部がリベットR1、R2で固定してある。ロアレール20は、前後方向に直線的に延びる金属製のチャンネル材であり、その左右両側壁の上端からは水平な上片21が内向きに突出しており、この左右の上片21の対向縁部からはそれぞれ垂下片22が下向きに突出している。左右のロアレール20には、前後方向に延びる金属製のチャンネル材でありシート側に配設される左右一対のアッパレール(スクリューロッド支持レール)30がそれぞれ摺動(スライド)可能に嵌合している。アッパレール30は、断面下向きU字形をなす本体部31と、この本体部31の左右両側部から一旦外側に延びた後に上方に延びる上向き嵌合片32とを有している。アッパレール30は、その左右の上向き嵌合片32がロアレール20の側壁と垂下片22の間の空間内に位置し、かつ本体部31がロアレール20の左右の垂下片22の間に位置する状態で、対応するロアレール20に摺動自在に嵌合している。左右のアッパレール30の上面にはそれぞれ、左側シート用ブラケット13と右側シート用ブラケット14が複数のボルトB1とナットN1により固定してあり、左側シート用ブラケット13と右側シート用ブラケット14には、車両用シート(図示せず)の下面の左側部と右側部を固定してある。左右のアッパレール30の前端部にはそれぞれ、本体部31から上向きに突出する切り起こし部33が形成されている。この切り起こし部33には貫通孔33aが形成されている。
【0017】
左右のロアレール20の底面には、前後一対のボルトB2によりナットユニット40が支持してある。このナットユニット40は、金属製ケース(キャリアブラケット)41内に、樹脂製ナット(キャリアナット、送りナット)44と一対の弾性部材45、46を収容してなる。金属製ケース41は、一対の軸方向離間壁42と一対の軸方向平行壁43を有しており、下方の軸方向平行壁43には前後一対の雌ねじ孔43aが形成されていて、この一対の雌ねじ孔43aにロアレール20の底部を貫通する前後一対のボルトB2がそれぞれ螺合することにより、ロアレール20にナットユニット40が支持される。
【0018】
図3図4に示すように、樹脂製ナット44は、中央基部44bと、この中央基部44bから前後方向にそれぞれ延びる嵌込部44cとを有しており、この嵌込部44cにキャップ状の弾性部材45、46が嵌め込まれる。弾性部材45、46の上面(上方の軸方向平行壁43に対向する面)には、それぞれ傾斜面部45b、46bが突出形成されており、樹脂製ナット44の嵌込部44cに一対の弾性部材45、46を嵌め込んだ状態では、この傾斜面部45b、46bが上方に突出する。弾性部材45、46の下面(下方の軸方向平行壁43に対向する面)は平坦面となっている。そして図4に示すように、樹脂製ナット44と弾性部材45、46の結合体を金属製ケース41内に収容(圧入)すると、弾性部材45の前端部と弾性部材46の後端部がそれぞれ前方の軸方向離間壁42と後方の軸方向離間壁42に強く当て付いて、樹脂製ナット44と弾性部材45、46の結合体の軸線方向位置(前後方向位置)が規制された状態で、これらの部材がナットユニット40としてサブアッシ化される。このサブアッシ状態では、樹脂製ナット44と弾性部材45、46の結合体は、金属製ケース41内で軸線直交方向(上下方向)に移動可能に浮いた状態で収容される。具体的には、弾性部材45、46の傾斜面部45b、46bが金属製ケース41の上方の軸方向平行壁43の内面に弾接し、中央基部44bの上面と上方の軸方向平行壁43の内面の間、及び弾性部材45、46の上面(傾斜面部45b、46bを除く)と上方の軸方向平行壁43の内面の間には隙間ができる。一方、弾性部材45、46の下面が金属製ケース41の下方の軸方向平行壁43の内面に弾接し、中央基部44bの下面と下方の軸方向平行壁43の内面の間には隙間ができる。従って、弾性部材45、46の上面の傾斜面部45b、46b、及び弾性部材45、46の下面を弾性変形させることで、金属製ケース41内で樹脂製ナット44が軸線直交方向に移動可能である。
【0019】
金属製ケース41の一対の軸方向離間壁42にはそれぞれ貫通孔42aが形成され、一対の弾性部材45、46にもそれぞれ貫通孔45a、46aが形成されている。樹脂製ナット44(中央基部44bと嵌込部44c)には、この貫通孔42a、45a、46aの位置に合わせて、雌ねじ孔44aが形成されている。
【0020】
左右のアッパレール30の本体部31の前端部には、荷重伝達ブラケット50が支持されている。この荷重伝達ブラケット50は、図1図2に示すように、軸方向に離間した一対の荷重伝達壁51と、この一対の荷重伝達壁51を接続するアッパレール30に沿う固定壁52とを有するコ字状を有しており、一対の荷重伝達壁51にはそれぞれ貫通孔51aが形成されている。図2に示すように、荷重伝達ブラケット50は、固定壁52からアッパレール30に挿通した固定ボルト53と、この固定ボルト53に螺合した固定ナット54により、アッパレール30に固定されている。一対の荷重伝達壁51の貫通孔51aにはそれぞれ、低摩擦性合成樹脂材料からなるスリーブ55、56が嵌められている。一対の荷重伝達壁51の間には、スリーブ55、56に挟まれるようにして、ナット部材(荷重受け部材)57が位置している。
【0021】
左右のアッパレール30には、左右のロアレール20に固定したナットユニット40の樹脂製ナット44の雌ねじ孔44aに螺合するスクリューロッド(スピンドル)60が回転自在に支持されている。すなわち、アッパレール(スクリューロッド支持レール)30には、その前端部と後端部に、スクリューロッド60の前端部と後端部を回転自在に支持するギヤボックス70と軸受部材15が支持されている。ギヤボックス70はハウジング71を有し、このハウジング71内に、軸線を前後方向に向けたウォームホイル72と、このウォームホイル72と噛み合う軸線を左右方向に向けたウォーム73が支持されている。スクリューロッド60は、その前端部にセレーション部61が形成されており、このセレーション部61がウォームホイル72のセレーション孔72aと相対回転不能に係合している。スクリューロッド60には、セレーション部61に続けて、雄ねじを有しない無ねじ段部62と雄ねじ部63が形成されている。雄ねじ部63は、一対の荷重伝達壁51の間に位置するナット部材57の雌ねじ部57a、及びナットユニット40の樹脂製ナット44の雌ねじ孔44aと螺合している。スクリューロッド60の後端部には、後端軸受部64が形成されており、この後端軸受部64は、軸受部材15に相対回転可能かつ相対スライド可能に支持されている。
【0022】
左右のアッパレール30は、金属製の保持ブラケット(保持部)80によって連結されている。保持ブラケット80の左右両端部は、スクリューロッド60の軸線と平行な方向(前後方向)に離間する一対の対向壁81と、この一対の対向壁81を接続する接続壁82とを有するコ字状断面を有している。一対の対向壁81にはそれぞれ、互いに前後方向に対向する固定ボルト挿通支持孔81aが設けられている。左右の接続壁82には、左端部または右端部が開放され左右方向に延びる弾性部材挿入溝83が設けられている。
【0023】
保持ブラケット80の左右の弾性部材挿入溝83には、左右一対のギヤボックス70が支持されている。ギヤボックス70は、保持ブラケット80の左右両端部のコ字状断面の内部に位置する固定部74を有しており、この固定部74には、スクリューロッド60の軸線と平行な方向(前後方向)に延びる固定ボルト挿通孔74aが設けられている。
【0024】
左右のギヤボックス70と保持ブラケット80の間にはそれぞれ、弾性部材90が位置している。弾性部材90は、スクリューロッド60の軸線と平行な方向(前後方向)に離間する一対の対向壁部91と、この一対の対向壁部91を接続する接続壁部92とを有するコ字状断面を有しており、このコ字状断面が、保持ブラケット80のコ字状断面の内側に位置してギヤボックス70の固定部74との間に介在して挟着される。すなわち、弾性部材90の接続壁部92が保持ブラケット80の接続壁82に沿ってギヤボックス70の固定部74との間に介在して位置し、かつ、弾性部材90の一対の対向壁部91がスクリューロッド60の軸線と平行な方向(前後方向)に離間してギヤボックス70の固定部74を挟み込むように保持ブラケット80とギヤボックス70の固定部の対向面に介在して位置している。
【0025】
弾性部材90の一対の対向壁部91にはそれぞれ、同一軸線上に位置させて互いに接近する方向に筒状部91bが一体に成形されている。筒状部91bの中心の貫通孔91aは、ギヤボックス70の固定部74に設けられた固定ボルト挿通孔74aに嵌合する径に設定されており、筒状部91bを固定ボルト挿通孔74aに嵌合すると、貫通孔91aと固定ボルト挿通孔74aの前後方向位置(軸方向位置)が一致した状態でギヤボックス70と弾性部材90が係合される。
【0026】
弾性部材90の接続壁部92上には、保持ブラケット80の弾性部材挿入溝83に挿入されるネック部93を介して平面矩形の脱落防止壁94が連設されている。弾性部材90のネック部93を保持ブラケット80の弾性部材挿入溝83に嵌合させ、かつ脱落防止壁94を接続壁82の外側に位置させることにより、貫通孔91aと固定ボルト挿通支持孔81aの前後方向位置(軸方向位置)が一致した状態で弾性部材90と保持ブラケット80が係合される。
【0027】
図2に示すように、保持ブラケット80の左右両端部において、ギヤボックス70と保持ブラケット80と弾性部材90を係合させて、固定ボルト挿通孔74aと固定ボルト挿通支持孔81aと貫通孔91a、及びアッパレール30の切り起こし部33の貫通孔33aの前後方向位置(軸方向位置)を一致させた状態で固定ボルト100と固定ナット110を締め付けることにより、アッパレール(スクリューロッド支持レール)30上に、保持ブラケット(保持部)80を介してギヤボックス70が支持される。
【0028】
保持ブラケット80には、断面L字状の固定部材120を介して、軸線が左右方向に延びるモータ130が固定されている。すなわち、固定部材120は上下方向に延びる一対の雌ねじ孔121を有しており、この一対の雌ねじ孔121に、一対のワッシャ122とスペーサ123を介して、保持ブラケット80を貫通させて一対の固定ボルト124を締め付けることにより、保持ブラケット80と固定部材120が固定されている。また、固定部材120には、モータ130が固定されている。
【0029】
モータ130に内蔵された左右方向の軸線回りに回転する出力回転軸(図示せず)の左端部には、柔軟な金属材料からなるフレキシブルシャフトFS1の右端部が同軸に支持されており、同出力回転軸(図示せず)の右端部には、フレキシブルシャフトFS1と同じ金属材料からなりフレキシブルシャフトFS1より長いフレキシブルシャフトFS2の左端部が同軸に支持されている。フレキシブルシャフトFS1の左端部は、左側のギヤボックス70に支持したウォーム73に相対回転不能に接続しており、フレキシブルシャフトFS2の右端部は、右側のギヤボックス70に支持したウォーム73に相対回転不能に接続している。フレキシブルシャフトFS2の周囲には、その左端部をモータ130の右端部に固定するとともにその右端部を右側のギヤボックス70の左端部に固定する可撓性材料からなるパイプ状カバー部材131が位置している。
【0030】
以上のように構成されたパワースライド装置は次のようにして組み立てる。まず、車両の床面に固定される床面固定ユニットの組立工程は次の通りである。ロアレール(送りナット支持レール)20にナットユニット40を支持し、アッパレール(スクリューロッド支持レール)30に荷重伝達ブラケット50及び軸受部材15を支持する。次に、スクリューロッド60を、後端軸受部64が軸受部材15に支持され、雄ねじ部63がナットユニット40の樹脂製ナット44の雌ねじ孔44a及び荷重伝達ブラケット50の一対の荷重伝達壁51の間に位置するナット部材57の雌ねじ部57aと螺合するように、アッパレール(スクリューロッド支持レール)30に支持する。これにより、左右一対のロアレール20とアッパレール30が互いに摺動(スライド)可能に車両の床面に支持される。
【0031】
一方、床面固定ユニットに連結される連結ユニットの組立工程は次の通りである。まず保持ブラケット80に、固定部材120を介してモータ130を固定する。次に、モータ130の出力回転軸(図示せず)に支持されたフレキシブルシャフトFS1、FS2を、左右のギヤボックス70に支持されたウォーム73に相対回転不能に接続する。次に、左右のギヤボックス70の固定ボルト挿通孔74aに弾性部材90の筒状部91bを嵌合させることにより、ギヤボックス70の固定ボルト挿通孔74aと弾性部材90の貫通孔91aの前後方向位置(軸方向位置)を一致させた状態でギヤボックス70と弾性部材90を係合させる。次に、左右の(ギヤボックス70が係合した)弾性部材90のネック部93を保持ブラケット80の弾性部材挿入溝83に挿入して嵌合させて脱落防止壁94を接続壁82の外側に位置させることにより、保持ブラケット80の固定ボルト挿通支持孔81aと弾性部材90の貫通孔91a(ギヤボックス70の固定ボルト挿通孔74a)の前後方向位置(軸方向位置)を一致させた状態で、保持ブラケット80と(ギヤボックス70が係合した)弾性部材90を係合させる。そして、固定ボルト挿通孔74aと固定ボルト挿通支持孔81aと貫通孔91a、及びアッパレール30の切り起こし部33の貫通孔33aの前後方向位置(軸方向位置)を一致させた状態で固定ボルト100と固定ナット110を締め付けることにより、アッパレール(スクリューロッド支持レール)30上に、保持ブラケット(保持部)80を介してギヤボックス70を支持する。同時に、スクリューロッド60のセレーション部61がウォームホイル72のセレーション孔72aと相対回転不能に係合して、床面固定ユニットと連結ユニットが連結され、パワースライド装置の組立が完了する。
【0032】
以上のように構成されたパワースライド装置の動作は次の通りである。車両の室内(例えばスライドさせようとするシートの側面)には、OFF位置(中立位置)から第1ON位置(前方スライド位置)と第2ON位置(後方スライド位置)とに移動可能なスライドスイッチ(図示せず)が設けてあり、例えばこのスライドスイッチをOFF位置から第1ON位置側に移動させると、バッテリ(図示せず)からモータ130に電流が流れてモータ130が正転する。すると、モータ130の出力回転軸と一体化しているフレキシブルシャフトFS1、FS2が図2の時計方向に回転する。すると、左右のギヤボックス70内においてウォーム73も時計方向に回転し、さらにウォーム73と噛み合っているウォームホイル72及びスクリューロッド60が前方から見て反時計方向に回転する。このようにスクリューロッド60が回転すると、スクリューロッド60がナットユニット40(樹脂製ナット44)に対して回転しながら前方に移動するので、左右のアッパレール30及びこれに固定されたシート(図示せず)が左右のロアレール20(及び車両床面)に対して前方に移動する。スライドスイッチを第1ON位置からOFF位置に復帰させると、バッテリからモータ130への電流の供給が遮断されるので、アッパレール30及びこれに固定されたシートのスライド移動は停止する。
【0033】
一方、スライド位置を第2ON位置側に移動させると、バッテリからモータ130に電流が流れてモータ130が逆転するので、ウォームホイル72及びスクリューロッド60が前方から見て時計方向に回転する。すると、スクリューロッド60がナットユニット40(樹脂製ナット44)に対して回転しながら後方に移動するので、左右のアッパレール及びこれに固定されたシートが左右のロアレール20に対して後方に移動する。スライドスイッチを第2ON位置からOFF位置に復帰させると、バッテリからモータ130への電流の供給が遮断されるので、アッパレール及びこれに固定されたシートのスライド移動は停止する。
【0034】
このように、モータ130の回転駆動力によりスクリューロッド60が正逆に回転すると、ギヤボックス70にはスクリューロッド60の回転に起因するうねり(スクリューロッド60の理想回転軸線からの偏芯回転)が伝達され、このうねりがギヤボックス70から保持ブラケット80及びアッパレール30にまで伝達するとパワースライド装置の動作上好ましくなく、また異音が発生する原因ともなる。
【0035】
そこで本実施形態では、図2に示すように、ギヤボックス70の固定ボルト挿通孔74aと固定ボルト100との間の筒状空間に介在して、弾性部材90の筒状部91bが位置している。これにより、固定ボルト挿通孔74aの内部における固定ボルト100の動きを許容しつつ、弾性部材90がスクリューロッド60の回転に起因するうねりを吸収するため、ギヤボックス70がスクリューロッド60の回転に起因するうねりに良好に追従して、ギヤボックス70から保持ブラケット80及びアッパレール30への振動の伝達を十分に抑制することができる。また、固定ボルト100がギヤボックス70の固定ボルト挿通孔74aの壁面に接触することがないため、異音の発生を防止することができる。
【0036】
また本実施形態のナットユニット40は、次の作用効果を奏する。ロアレール20とアッパレール30の間には両者のスライドを滑らかにするための転動ボール(図示せず)が挿入されているが、この転動ボールの径のバラツキによってスクリューロッド60とナットユニット40の軸線直交方向の相対位置が変化し得る。本実施形態では、樹脂製ナット44と弾性部材45、46の結合体を金属製ケース41内に収容(圧入)してサブアッシ化すると、弾性部材45の前端部と弾性部材46の後端部がそれぞれ前方の軸方向離間壁42と後方の軸方向離間壁42に強く当て付いて、樹脂製ナット44と弾性部材45、46の結合体の軸線方向位置(前後方向位置)が規制される。同時に、樹脂製ナット44と弾性部材45、46の結合体は、金属製ケース41内で軸線直交方向(上下方向)に移動可能に浮いた状態となる。すなわち、弾性部材45、46の傾斜面部45b、46bが金属製ケース41の上方の軸方向平行壁43の内面に弾接し、中央基部44bの上面と上方の軸方向平行壁43の内面の間、及び弾性部材45、46の上面(傾斜面部45b、46bを除く)と上方の軸方向平行壁43の内面の間には隙間ができる。一方、弾性部材45、46の下面が金属製ケース41の下方の軸方向平行壁43の内面に弾接し、中央基部44bの下面と下方の軸方向平行壁43の内面の間には隙間ができる。従って、弾性部材45、46の上面の傾斜面部45b、46b、及び弾性部材45、46の下面を弾性変形させることで、金属製ケース41内で樹脂製ナット44が軸線直交方向に移動して、スクリューロッド60とナットユニット40の軸線直交方向の相対位置変化を吸収することができる。
【0037】
以上の実施形態では、左右のアッパレール30に切り起こし部33を形成し、この切り起こし部33の貫通孔33aに固定ボルト100を挿通して固定ナット110と螺合することにより、アッパレール30に保持部ブラケット80を介してギヤボックス70を支持しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、左右のアッパレール30又は荷重伝達ブラケット50に別部材としてのギヤボックス支持ブラケットを固定して、このギヤボックス支持ブラケットの貫通孔に固定ボルト100を挿通して固定ナット110と螺合することにより、アッパレール30に保持部ブラケット80を介してギヤボックス70を支持する態様も可能である。
【0038】
以上の実施形態では、弾性部材90の一対の対向壁部91の筒状部91bの間には隙間があるが、筒状部91bは両者の先端部が接触する長さとしてもよい。また、筒状部91bは両者の長さが均等でなくてもよい。
【0039】
以上の実施形態では、保持ブラケット(保持部)80の左右両端部のコ字状空間にギヤボックス70が係合した弾性部材90を保持しているが、アッパレール30の切り起こし部33をさらに前方に延長して保持部を形成し、この保持部にギヤボックス70が係合した弾性部材90を保持する態様も可能である。
【符号の説明】
【0040】
11 前側ブラケット
12 後側ブラケット
13 左側シート用ブラケット
14 右側シート用ブラケット
15 軸受部材
20 ロアレール(送りナット支持レール)
21 上片
22 垂下片
30 アッパレール(スクリューロッド支持レール)
31 本体部
32 上向き嵌合片
33 切り起こし部
33a 貫通孔
40 ナットユニット
41 金属製ケース(キャリアブラケット)
42 一対の軸方向離間壁
42a 貫通孔
43 一対の軸方向平行壁
43a 貫通孔
44 樹脂製ナット(キャリアナット、送りナット)
44a 雌ねじ孔
44b 中央基部
44c 嵌込部
45 46 弾性部材
45a 46a 貫通孔
45b 46b 傾斜面部
50 荷重伝達ブラケット
51 一対の荷重伝達壁
51a 貫通孔
52 固定壁
53 固定ボルト
54 固定ナット
55 56 スリーブ
57 ナット部材(荷重受け部材)
57a 雌ねじ部
60 スクリューロッド(スピンドル)
61 セレーション部
62 無ねじ段部
63 雄ねじ部
64 後端軸受部
70 ギヤボックス
71 ハウジング
72 ウォームホイル
72a セレーション孔
73 ウォーム
74 固定部
74a 固定ボルト挿通孔
80 保持ブラケット(保持部)
81 一対の対向壁
81a 固定ボルト挿通支持孔
82 接続壁
83 弾性部材挿入溝
90 弾性部材
91 一対の対向壁部
91a 貫通孔
91b 筒状部
92 接続壁部
93 ネック部
94 脱落防止壁
100 固定ボルト
110 固定ナット
120 固定部材
121 一対の雌ねじ孔
122 ワッシャ
123 スペーサ
124 固定ボルト
130 モータ
131 パイプ状カバー部材
R1 R2 リベット
B1 B2 ボルト
N1 ナット
FS1 FS2 フレキシブルシャフト
図1
図2
図3
図4