(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フィラメントワインディング法によるFRP円筒は、所定量以上の樹脂を必要とし、且つ炭素繊維の体積含有率に上限があるので、軽量化と高強度化の要望に充分に応えることができないという問題がある。
【0005】
一方、プリプレグ法によるFRP円筒は、一般的に、必要最小限の樹脂量でも炭素繊維の体積含有率を高くできるという特徴があり、軽量化と高強度化を同時に図る上では有利である。しかしプリプレグ法によるFRP円筒は、自動車(二輪車)のプロペラシャフトやドライブシャフトとして用いる場合には、FRP円筒に斜交する方向に加わる力(捩り)とFRP円筒に直交する方向に加わる力(座屈)の双方に対する強度(捩り剛性、潰れ剛性、疲労強度等)が高いレベルで求められるため、改良の余地があった。
【0006】
本発明は、上記の問題意識に基づいてなされたものであり、高強度を実現できる軽量化されたFRP円筒の製造方法及びFRP円筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来のFRP円筒について解析した結果、従来のFRP円筒は、繊維方向の異なるプリプレグを複数回巻回しているが、一般的に、隣り合うプリプレグ中の内外に隣接する繊維(層)は孤立しているため、FRP円筒に力が加わったとき、内外に隣り合う繊維間でその変形を抑止しようとする力が働きにくい。また、同一のプリプレグを複数回連続して巻回することも行われているが、この複数巻回プリプレグを加熱硬化させたとき、内外に隣接する繊維方向は同一であるから、同様に、変形抑止効果が働きにくい。これらが十分な強度を発揮できない理由であるとの結論に達して本発明をするに至った。
【0008】
即ち、本発明は、繊維方向の異なるプリプレグを複数回巻回して構成するFRP円筒においては、長手方向に対して斜交する強化繊維(斜交繊維)が含まれる捩り剛性保持プリプレグと、長手方向に対して直交する強化繊維(直交繊維)が含まれる座屈(潰れ)防止プリプレグとが必ず含まれていることから、これらの斜交繊維と直交繊維を互いに隣り合う形で複数回連続して巻回すれば、一つの方向の繊維(層)と、別の方向の繊維(層)を2周以上に渡って内外に隣接させることができ、その結果、内外の繊維層が互いに変形を抑止しあって強度を向上させることができるという着眼に基づいてなされたものである。つまり、筒状の斜交繊維(直交繊維)の間に直交繊維(斜交繊維)を包み込んだ状態で2周以上配置すれば(同時多層巻回層、ぐるぐる巻き層、セット巻き層)、FRP円筒に外力が加わったとき、隣り合う繊維が互いに協働して変形に抵抗すると考えられ、強度を高めることができる。
【0009】
本発明のFRP円筒の製造方法は、
その一態様では、強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる複数のプリプレグを筒状に巻回して熱硬化させてなるFRP円筒の製造方法において、熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する捩り剛性保持プリプレグと、熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグを重ねたセットプリプレグを複数回連続して巻回する同時多層巻回工程と、上記同時多層巻回工程において複数回連続して巻回したセットプリプレグを熱硬化させて同時多層巻回層とし、この同時多層巻回層を含み且つ長手方向に亘って一定径をなすFRP円筒を形成する熱硬化工程と、
を有し、上記同時多層巻回工程は、少なくとも2回行われること、及び上記同時多層巻回工程は、互いに対向する巻回方向から交互に行われること、を特徴としている。これにより、捩り方向と座屈方向に対する強度が高い、車両のプロペラシャフト、ドライブシャフトに用いるのに好適なFRP円筒が得られる。
【0010】
上記同時多層巻回工程は、重ねられた状態で隣接するプリプレグの間に離型シート(例えばPTFEフィルムやPFAフィルム等)を挟んだ状態で行われ、上記同時多層巻回工程の実施中に、挟まれた離型シートを除去する離型シート除去工程を有することが好ましい。
【0011】
本発明のFRP円筒の製造方法は、別の態様では、強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる複数のプリプレグを筒状に巻回して熱硬化させてなるFRP円筒の製造方法において、熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する捩り剛性保持プリプレグと、熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグを重ねたセットプリプレグを複数回連続して巻回する同時多層巻回工程と、上記同時多層巻回工程において複数回連続して巻回したセットプリプレグを熱硬化させて同時多層巻回層とし、この同時多層巻回層を含み且つ長手方向に亘って一定径をなすFRP円筒を形成する熱硬化工程と、を有し、上記同時多層巻回工程は、重ねられた状態で隣接するプリプレグの間に離型シートを挟んだ状態で行われること、及び上記同時多層巻回工程の実施中に、挟まれた離型シートを除去する離型シート除去工程を有すること、を特徴としている。
【0012】
上記同時多層巻回工程では、上記捩り剛性保持プリプレグ及び座屈防止プリプレグに、熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向と平行をなす繊維層を有する曲げ剛性保持プリプレグをさらに重ねたセットプリプレグを複数回連続して巻回することができる。これにより、捩り方向と座屈方向に対する強度とともに曲げ方向に対する強度も併せ持つ、車両のスタビライザーバー、アンチロールバーに用いるのに好適なFRP円筒が得られる。
【0013】
上記同時多層巻回工程で巻回する各プリプレグ(捩り剛性保持プリプレグ及び座屈防止プリプレグ、さらには曲げ剛性保持プリプレグ)は、円筒軸線方向の長さが等しく、円筒軸線方向の全長に亘って重ねることが好ましい。従来構造のFRP円筒では、円筒断面の座屈を抑える座屈防止プリプレグは円筒軸線方向の一部に少量入れるのが一般的であり、このため座屈防止プリプレグが入れにくい、製品が曲がるなどの不具合が生じる虞があった。本発明ではこのような従来の技術常識を見直して、座屈防止プリプレグと捩り剛性保持プリプレグ(曲げ剛性保持プリプレグ)を円筒軸線方向に等長として複数回連続して巻回することにより、座屈防止プリプレグが入れにくい、製品が曲がるなどの不具合を解消することができる。
【0014】
本発明のFRP円筒は、強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる複数のプリプレグを筒状に巻回して熱硬化させてなるFRP円筒において、熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する捩り剛性保持プリプレグと、熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグを重ねたセットプリプレグを複数回連続して巻回して熱硬化させた同時多層巻回層を含み、且つ、長手方向に亘って一定径をなしていること
、上記同時多層巻回層を少なくとも2層含んでいること、及び上記同時多層巻回層をなす少なくとも2つのセットプリプレグは、互いに対向する巻回方向から交互に巻回されること、を特徴としている。
【0015】
上記捩り剛性保持プリプレグは、例えば、長繊維方向が円筒軸線方向に±α°(0<α<90)で斜交する一対のバイアスプリプレグから構成し、上記座屈防止プリプレグは、長繊維方向が円筒軸線方向に直交するフーププリプレグから構成するのが実際的である。この場合、上記一対のバイアスプリプレグは、長繊維方向が円筒軸線方向に±30°、±45°又は±60°で斜交するのが好ましい。
【0016】
上記セットプリプレグは、上記捩り剛性保持プリプレグ及び座屈防止プリプレグに、
熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向と平行をなす繊維層を有する曲げ剛性保持プリプレグをさらに重ねて構成することができる。この場合、上記曲げ剛性保持プリプレグは、長繊維方向が円筒軸線方向と平行をなす0°プリプレグから構成するのが実際的である。
【0017】
あるいは、上記捩り剛性保持プリプレグは、平織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなり円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する平織物プリプレグ、三軸織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなり円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する三軸織物プリプレグ、又は四軸織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなり円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する四軸織物プリプレグとすることも可能である。また、上記座屈防止プリプレグは、平織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなり円筒軸線方向に直交する繊維層を有する平織物プリプレグ、又は四軸織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなり円筒軸線方向に直交する繊維層を有する四軸織物プリプレグとすることも可能である。
【0018】
上記セットプリプレグは、筒状に3回以上連続して巻回することが好ましい。
【0020】
本発明のFRP円筒は、最外層に、熱硬化前に長方形をなし且つその長手方向を円筒軸線方向に一致させた状態で該円筒軸線方向に直交する繊維層を有するフーププリプレグを熱硬化させた爆ぜ防止層が設けられていることが好ましい。
【0021】
上記セットプリプレグをなす各プリプレグ(捩り剛性保持プリプレグ及び座屈防止プリプレグ、さらには曲げ剛性保持プリプレグ)は、円筒軸線方向の長さが等しく、円筒軸線方向の全長に亘って重ねることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、複数のプリプレグを筒状に巻回する際に、円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する捩り剛性保持プリプレグと、円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグを重ねた状態で複数回連続して巻回する同時多層巻回工程を有するので、捩り方向と座屈方向に対する強度が高いFRP円筒を得ることができる。また、セットプリプレグをなす捩り剛性保持プリプレグと座屈防止プリプレグに含まれる樹脂量を減らし強化繊維量を増やせるので、FRP円筒の軽量化と高強度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。
【
図2】
図1の同時多層巻回層になるセットプリプレグの構造を示す図である。
【
図4】筒状に巻回したプリプレグを熱硬化させFRP層としたFRP円筒の構成を示す図である。
【
図5】離型シートを挟んで巻回するFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態3に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。
【
図8】
図7の同時多層巻回層になるセットプリプレグの構造を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態4に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。
【
図10】
図9の同時多層巻回層になるセットプリプレグの構造を示す図である。
【
図11】セットプリプレグの巻回数を変えた場合における同時多層巻回層を示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態5に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。
【
図13】
図12の同時多層巻回層になるセットプリプレグの構造を示す図である。
【
図14】本発明の実施の形態6に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。
【
図15】
図14の同時多層巻回層になるセットプリプレグの構造を示す図である。
【
図16】捩り剛性保持プリプレグとしての平織物プリプレグの構成を示す図である。
【
図17】捩り剛性保持プリプレグとしての三軸織物プリプレグの構成を示す第1の図である。
【
図18】捩り剛性保持プリプレグとしての三軸織物プリプレグの構成を示す第2の図である。
【
図19】捩り剛性保持プリプレグ又は座屈防止プリプレグとしての四軸織物プリプレグの構成を示す図である。
【
図20】座屈防止層としての平織物プリプレグの構成を示す図である。
【
図21】本実施例で試作した各FRP円筒におけるプリプレグの積層巻回構造を説明するための第1の図である。
【
図22】本実施例で試作した各FRP円筒におけるプリプレグの積層巻回構造を説明するための第2の図である。
【
図23】本実施例で試作した各FRP円筒におけるプリプレグの積層巻回構造を説明するための第3の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るFRP円筒100(
図4)に含まれる同時多層巻回層10を示す図である。FRP円筒100は、強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる複数のプリプレグを筒状に巻回して熱硬化させ複数のFRP層としたものである。
図1では、本発明を理解し易くするため、これら複数のFRP層中に含まれる同時多層巻回層10のみを図示している。
【0025】
同時多層巻回層10は、FRP円筒100の軸線方向(以下「円筒軸線方向」という)に斜交する方向に加わる力(捩り)に対する強度を受け持つ捩り剛性保持層20と、円筒軸線方向に直交する方向に加わる力(座屈)に対する強度を受け持つ座屈防止層30とを有する。捩り剛性保持層20は、一対のバイアス層20A、20Bからなる。
【0026】
具体的に同時多層巻回層10は、
図2に示すように、下層(内側)から順に、円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する捩り剛性保持プリプレグ2と、円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグ3を重ねたセットプリプレグ1を複数回連続して巻回して熱硬化させたものである。
図2では、セットプリプレグ1を構成する各プリプレグ2、3の繊維方向を示すため、これらを重ね合わせる前の状態を描いている。尚、各プリプレグの上下(内外)関係には自由度があり、下層(内側)から順に、座屈防止プリプレグ3と捩り剛性保持プリプレグ2を重ねてセットプリプレグ1とすることもできる。
【0027】
捩り剛性保持プリプレグ2は加熱硬化すると捩り剛性保持層20となり、本実施の形態では、長繊維方向が円筒軸線方向に±α°(0<α<90)で斜交する一対のバイアスプリプレグ2A、2Bである。この斜交角度αは、例えば±30°、±45°又は±60°である。座屈防止プリプレグ3は、加熱硬化すると座屈防止層30となり、本実施の形態では、長繊維方向が円筒軸線方向に直交するフーププリプレグである。
【0028】
セットプリプレグ1(捩り剛性保持プリプレグ2及び座屈防止プリプレグ3)の幅Wは、これらを筒状に巻回したときの周長の約3倍強に設定されており、セットプリプレグ1を筒状に3回連続して巻回することができる。セットプリプレグ1は一対のバイアスプリプレグ2A、2Bとフーププリプレグ3の3枚のプリプレグからなるので、セットプリプレグ1を3回連続して巻回することにより合計9プライとなる。セットプリプレグ1(捩り剛性保持プリプレグ2及び座屈防止プリプレグ3)は、円筒軸線方向の長さLが等しく(等長と)なっており、円筒軸線方向の全長に亘って重ねられている。尚、長さLはFRP円筒100の長さに対応しており、FRP円筒100の用途に応じて設計される。
【0029】
セットプリプレグ1の内外にはFRP円筒100の用途に応じて各種のプリプレグが巻回され、これら各種のプリプレグが加熱硬化すると同時多層巻回層10以外のFRP層になる。例えば、複数のFRP層の最外層には、長繊維方向が円筒軸線方向に直交する爆ぜ防止プリプレグ7(フーププリプレグ)を加熱硬化させた爆ぜ防止層を設けることが好ましい(
図3)。この爆ぜ防止層は、FRP円筒100が座屈により圧縮して爆ぜるのを防止し、座屈方向に対する強度を高める。爆ぜ防止プリプレグ7の幅W´は巻回数(プライ数)に応じて設計される。また、複数のFRP層のいずれかに位置させて、長繊維方向が円筒軸線方向に平行する0°プリプレグを加熱硬化させた曲げ応力保持層(軸方向圧縮防止層)を設けることも可能である。
【0030】
上述の捩り剛性保持プリプレグ2、座屈防止プリプレグ3及び爆ぜ防止プリプレグ7(0°プリプレグ)を含む各種のプリプレグに含まれる強化繊維としては、炭素繊維のほかに、アルミナ繊維、アラミド繊維、チラノ繊維、アモルファス繊維又はガラス繊維などを用いることができる。即ち、糸の種類は基本的に限定されない。
【0031】
捩り剛性保持プリプレグ2(一対のバイアスプリプレグ2A、2B)、座屈防止(フープ)プリプレグ3及び爆ぜ防止(フープ)プリプレグ7等の一方向強化繊維プリプレグ(長繊維方向が一方向に引き揃えられたプリプレグ)の場合、糸の太さは、好ましくは、24K(1Kはフィラメント1000本)以下であるのがよい。24Kを超えると均一な繊維物性を確保できない虞があり、また製造時にマンドレルに巻き付ける作業性が悪くなる虞がある。
【0032】
このような強化繊維に含浸させる樹脂は、基本的にいかなるものでも使用し得る。例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ピーク樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。
【0033】
プリプレグの重さは、300g/m
2以下であるのが好ましく、250g/m
2以下であるのがより好ましい。300g/m
2を超えると、厚くなりすぎ製造時にマンドレルに巻回するのが困難になる。プリプレグの樹脂量は、20から45重量%であるのが好ましく、25から40重量%であるのがより好ましい。20重量%未満であると、樹脂量が少なすぎて十分な強度を有するシャフトを製造できない虞があり、45重量%を超えると、円筒が同重量の場合には捩り剛性が低下する虞がある。
【0034】
以上のように構成されたFRP円筒100は、円筒本体をなす複数のFRP層中に、円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する捩り剛性保持プリプレグ2と、円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグ3を重ねたセットプリプレグ1を複数回連続して巻回して熱硬化させた同時多層巻回層10を含ませたので、捩り方向と座屈方向に対する強度を高めることができる。このようなFRP円筒100は、車両のプロペラシャフト、ドライブシャフトに用いるのに好適である。
【0035】
また、一対のバイアスプリプレグ2A、2Bとフーププリプレグ3の3枚のプリプレグを重ね合わせ、これらをマクロな視点での1枚のプリプレグ(セットプリプレグ1)として捉えて巻回しているので、同量の材料を個別に巻回した場合に比べ、座屈防止の効果の発現により、FRP円筒100の軽量化と高強度化を同時に図ることができる。
【0036】
次に、上述のように構成されたFRP円筒100の製造方法について説明する。ここで説明する製造方法は一例であり、本発明の技術思想の範囲内で種々変更可能である。
【0037】
金属材料からなる棒状(円柱状)マンドレル(以下単に「マンドレル」という)Mの外周に、強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる、セットプリプレグ1を含む複数のプリプレグを筒状に巻回する。つまり、マンドレルMの外周に、FRP円筒100の最内FRP層をなすプリプレグから最外FRP層をなすプリプレグを順に積層巻回していく。この積層巻回は所定の予熱状態で行うことが好ましく、これにより各プリプレグを密着させて巻回することができる。
【0038】
すべてのプリプレグの積層巻回が終了したら、収縮テープなどを張力を与えて巻回し、外圧力が加わるようにして、加熱装置(例えばオーブン)により加熱してプリプレグを硬化させる。この加熱硬化工程は、好ましくは真空雰囲気中で実施すると良い(例えばオートクレーブ)。これにより、マンドレルMに巻回された複数のプリプレグが加熱硬化して一体のFRP円筒になる。つまりセットプリプレグ1が加熱硬化して同時多層巻回層10になる。
【0039】
そしてマンドレルMを引き抜くことにより、マンドレルMの外径に対応する内径φと、この内径φに複数のFRP層の厚みを加えた外径Φと、プリプレグの長さに対応する長さLとを有するFRP円筒100が完成する(
図4)。
【0040】
本実施の形態の製造方法では、複数のプリプレグを筒状に巻回する工程中に、円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する捩り剛性保持プリプレグ2(一対のバイアスプリプレグ2A、2B)と、円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグ(フーププリプレグ)3を重ねたセットプリプレグ1を複数回連続して巻回する同時多層巻回工程を有している。即ち、この同時多層巻回工程は、捩り剛性保持プリプレグ2と座屈防止プリプレグ3の複数(3枚)のプリプレグを、1枚のプリプレグ(セットプリプレグ1)であるかのように複数回連続して巻回する工程である。
【0041】
同時多層巻回工程は、重ねられた状態で隣接するプリプレグの間に離型紙を挟んだ状態で行うことが好ましい(離型シート巻き)。
図5はその実施形態を示しており、捩り剛性保持プリプレグ2(捩り剛性保持層20)と座屈防止プリプレグ3(座屈防止層30)の間に離型シートP1を挟み、一対のバイアスプリプレグ2A、2B(バイアス層20A、20B)の間に離型シートP2を挟んだ状態で行われる。離型シートP1、P2として、例えばPTFEフィルムやPFAフィルム等のフッ素樹脂(コーティング)シートを用いることができる。
【0042】
上記離型シート巻きによれば、セットプリプレグ1を均一に巻回することができ、また、FRP円筒100の成形性が格段に良くなり内部構造、外観ともに優れたものとすることができる。従って、FRP円筒100の表面の外観を良くするために、後加工により削って滑らかにしたり塗装を施したりする必要がない。離型シートP1、P2は、同時多層巻回工程の実施中に、連続的に除去される(離型シート除去工程)。離型シート除去工程がし易いように、離型シートP1、P2の幅はセットプリプレグ10の幅Wよりも大きくかつ長く設定されている。また、巻回開始位置において、離型シートP1、P2は、セットプリプレグ1(同時多層巻回層10)よりも巻回方向に僅かに入り込んでいる。
【0043】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層10を示す図である。本実施の形態では、セットプリプレグ1における捩り剛性保持プリプレグ2と座屈防止プリプレグ3の巻回開始位置を互いに異ならせて、同時多層巻回層10における捩り剛性保持層20と座屈防止層30をオフセットさせている(オフセット巻き)。具体的には、捩り剛性保持プリプレグ2(一対のバイアスプリプレグ2A、2B)を筒状に1回巻回した巻回開始位置から捩り剛性保持プリプレグ2と座屈防止プリプレグ3を重ねて2回連続して巻回している。このオフセット巻きにより、より高いせん断応力を受ける外周側に位置する層での座屈防止効果を高め,より高強度な円筒とすることができる。
【0044】
捩り剛性保持プリプレグ2と座屈防止プリプレグ3の巻回開始位置をどの程度異ならせるか(オフセット量)は、FRP円筒の用途に応じて適宜変更することができる。また、本実施の形態のFRP円筒も実施の形態1のFRP円筒と同様の方法により製造可能である。
【0045】
図6では捩り剛性保持プリプレグ2と座屈防止プリプレグ3をオフセットさせているが、一対のバイアスプリプレグ2A、2Bをオフセットさせてもよい。例えば、一対のバイアスプリプレグ2A、2B及び座屈防止プリプレグ3の3枚のプリプレグの巻回開始位置を互いに異ならせてもよい。また、これら3枚のプリプレグを重ね合わせる順序は
図6に限定されず、例えば内層側から順に座屈防止プリプレグ、一対のバイアスプリプレグを重ね合わせてもよい。
【0046】
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。本実施の形態のFRP円筒は、2つのセットプリプレグ1、4からなる2つの同時多層巻回層10、40を有している。セットプリプレグ4は、実施の形態1のセットプリプレグ1と同様の構成を有し、一対のバイアスプリプレグ5A、5Bからなる捩り剛性保持プリプレグ5と、座屈防止(フープ)プリプレグ6とを重ねてなる(
図8)。セットプリプレグ10、40をそれぞれ3回連続して巻回することにより合計18プライとなる。
【0047】
FRP層中に2つの同時多層巻回層10、40を含ませることにより、FRP円筒の強度を更に高めることができる。FRP層中にいくつの同時多層巻回層を含ませるかはFRP円筒の用途に応じて適宜変更することができ、例えばFRP層中に3つ以上の同時多層巻回層を含ませてもよい。この場合、同時多層巻回層の数に対応するセットプリプレグを用いる。
【0048】
本実施の形態のFRP円筒も実施の形態1のFRP円筒と同様の方法により製造可能であるが、セットプリプレグ1、4に対応するそれぞれの同時多層巻回工程は、互いに対向する巻回方向(逆方向)から交互に行われることが好ましい。
図7の例では、マンドレルMが時計方向に回転する向きにセットプリプレグ1を巻回した後(左から右)、マンドレルMが反時計方向に回転する向きにセットプリプレグ4を巻回する(右から左)。これにより、FRP円筒のFRP層の周方向における均一度が増し、強度が高まるとともに、外観上の見栄えも良くなる。
【0049】
(実施の形態4)
図9は、本発明の実施の形態4に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層70を示す図である。実施の形態1と同じ構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
本実施の形態の同時多層巻回層70は、捩り剛性保持層20及び座屈防止層30に加えて、円筒軸線方向と平行をなす方向に加わる力(曲げ)に対する強度を受け持つ曲げ剛性保持層80を有している。
【0051】
すなわち同時多層巻回層70は、
図10に示すように、下層(内側)から順に、円筒軸線方向と平行をなす繊維層を有する曲げ剛性保持プリプレグ9と、円筒軸線方向に斜交する繊維層を有する捩り剛性保持プリプレグ2と、円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグ3を重ねたセットプリプレグ1’を複数回連続して巻回して熱硬化させたものである。曲げ剛性保持プリプレグ9は加熱硬化すると曲げ剛性保持層80となり、本実施の形態では、長繊維方向が円筒軸線方向と平行をなす0°プリプレグである。
図10では、セットプリプレグ1’を構成する各プリプレグ9、2、3の繊維方向を示すため、これらを重ね合わせる前の状態を描いている。
【0052】
セットプリプレグ1’(曲げ剛性保持プリプレグ9、捩り剛性保持プリプレグ2及び座屈防止プリプレグ3)の幅Wは、これらを筒状に巻回したときの周長の約3倍強に設定されており、セットプリプレグ1’を筒状に3回連続して巻回することができる。セットプリプレグ1’は、曲げ剛性保持プリプレグ9、一対のバイアスプリプレグ2A、2B、及び座屈防止プリプレグ3の4枚からなるので、セットプリプレグ1’を3回連続して巻回することにより合計12プライとなる。
【0053】
セットプリプレグ1’を筒状に連続して巻回する数は3回に限定されず、適宜変更することができる。例えば、
図11に示すように、セットプリプレグ1’を筒状に5回連続して巻回することにより合計20プライとすることができる。
【0054】
以上のように構成された同時多層巻回層70をFRP層中に含むFRP円筒によれば、捩り方向と座屈方向に対する強度とともに、曲げ方向に対する強度を併せ持たせることができる。このようなFRP円筒100は、車両のスタビライザーバー、アンチロールバーに用いるのに好適である。
【0055】
本実施の形態の同時多層巻回層70も実施の形態1と同様の方法により製造可能である。また、同時多層巻回層70を2層以上設けることもでき、この場合、セットプリプレグ1’を互いに対向する巻回方向から交互に巻回することが好ましい。
【0056】
(実施の形態5)
図12は、本発明の実施の形態5に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層90を示す図である。同時多層巻回層90は、円筒軸線方向に斜交する方向に加わる力(捩り)に対する強度を受け持つ第1バイアス層20Aと、円筒軸線方向と平行をなす方向に加わる力(曲げ)に対する強度を受け持つ曲げ剛性保持層80と、円筒軸線方向に斜交する方向に加わる力(捩り)に対する強度を受け持つ第2バイアス層20Bと、円筒軸線方向に直交する方向に加わる力(座屈)に対する強度を受け持つ座屈防止層30とを有する。
【0057】
すなわち、同時多層巻回層90は、
図13に示すように、下層(内側)から順に、長繊維方向が円筒軸線方向に+45°で斜交するバイアスプリプレグ2Aと、円筒軸線方向と平行をなす繊維層を有する曲げ剛性保持プリプレグ9と、長繊維方向が円筒軸線方向に−45°で斜交するバイアスプリプレグ2Bと、円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグ3を重ねたセットプリプレグ1’’を複数回連続して巻回して熱硬化させたものである。
図13では、セットプリプレグ1’’を構成する各プリプレグ2A、9、2B、3の繊維方向を示すため、これらを重ね合わせる前の状態を描いている。
【0058】
セットプリプレグ1’’(バイアスプリプレグ2A、曲げ剛性保持プリプレグ9、バイアスプリプレグ2B、座屈防止プリプレグ3)の幅Wは、これらを筒状に巻回したときの周長の約5倍強に設定されており、セットプリプレグ1’’を筒状に5回連続して巻回することにより合計20プライとなる。
【0059】
以上のように構成された同時多層巻回層90をFRP層中に含むFRP円筒によれば、セットプリプレグ1’’のうち重ねられた状態で隣接するプリプレグ(バイアスプリプレグ2Aと曲げ剛性保持プリプレグ9、曲げ剛性保持プリプレグ9とバイアスプリプレグ2B、バイアスプリプレグ2Bと座屈防止プリプレグ3)の角度差が全て45°となっているので、層間の歪みの差が小さくなり、層間の剥離を発生しにくくすることができる。
【0060】
本実施の形態の同時多層巻回層90も実施の形態1と同様の方法により製造可能である。また、同時多層巻回層90を2層以上設けることもでき、この場合、セットプリプレグ1’’を互いに対向する巻回方向から交互に巻回することが好ましい。
【0061】
(実施の形態6)
図14は、本発明の実施の形態6に係るFRP円筒に含まれる同時多層巻回層を示す図である。本実施の形態のFRP円筒は、2つのセットプリプレグ1X、1Yからなる2つの同時多層巻回層95、96を有している。
【0062】
図15に示すように、同時多層巻回層95は、下層(内側)から順に、円筒軸線方向に直交する繊維層を有する座屈防止プリプレグ3と、長繊維方向が円筒軸線方向に+45°で斜交するバイアスプリプレグ2Aと、円筒軸線方向と平行をなす繊維層を有する曲げ剛性保持プリプレグ9と、長繊維方向が円筒軸線方向に−45°で斜交するバイアスプリプレグ2Bを重ねたセットプリプレグ1Xを複数回連続して巻回して熱硬化させたものである。一方、同時多層巻回層96は、下層(内側)から順に、バイアスプリプレグ2Bと、曲げ剛性保持プリプレグ9と、バイアスプリプレグ2Aと、座屈防止プリプレグ3を重ねたセットプリプレグ1Yを複数回連続して巻回して熱硬化させたものである。すなわち、セットプリプレグ1Xと1Y(同時多層巻回層95と96)は、下層(内側)から上層(外側)に向かう積層構造と上層(外側)から下層(内側)に向かう積層構造が同一となっている。
【0063】
以上の各実施形態において、捩り剛性保持プリプレグ2として、一対のバイアスプリプレグ2A、2Bに代えて、
図16に示すような平織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなる平織物(二軸織物)プリプレグ2Cを用いることができる。平織物プリプレグ2Cは、この態様では、一対の繊維糸2C−1、2C−2が円筒軸線方向に対して対称な角度(例えば±45°)で斜交するようにセットされている。
【0064】
また、捩り剛性保持プリプレグ2として、
図17に示すような三軸織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなる三軸織物プリプレグ2Dを用いることができる。三軸織物プリプレグ2Dは、この態様では、緯糸2D−1が円筒軸線方向と平行し、一対の経糸2D−2、2D−3が円筒軸線方向に対して対称な角度(例えば±60°)で斜交するようにセットされている。一方、
図18に示すように、三軸織物プリプレグ2Dを、緯糸2D−1が円筒軸線方向と直交し、一対の経糸2D−2、2D−3が円筒軸線方向に対して対称な角度(例えば±30°)で斜交するようにセットしてもよい。
【0065】
また、捩り剛性保持プリプレグ2として、
図19に示すような四軸織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなる四軸織物プリプレグ2Eを用いることができる。四軸織物プリプレグ2Eは、この態様では、横軸糸2E−1が円筒軸線方向と平行し、縦軸糸2E−2が円筒軸線方向と直交し、一対の斜交軸糸2E−3、2E−4が円筒軸線方向に対して対称な角度(例えば±45°)で斜交するようにセットされている。
【0066】
尚、座屈防止プリプレグ3として、フーププリプレグに代えて、
図20に示すような平織物を熱硬化性樹脂シートに含浸させてなる平織物(二軸織物)プリプレグ8を用いることができる。平織物プリプレグ8は、この態様では、一対の繊維糸8A、8Bが円筒軸線方向と平行(直交)するようにセットされている(0°、90°)。また、座屈防止プリプレグ3として、
図19に示す態様の四軸織物プリプレグ2Eを用いることもできる。
【0067】
上述した平織物プリプレグ2C、三軸織物プリプレグ2D、四軸織物プリプレグ2E及び平織物プリプレグ8のような織構造を有する強化繊維プリプレグの場合、糸の太さは、好ましくは6K以下であるのがよい。6Kを超えるとプリプレグが厚くなりすぎるとともに、均一な繊維物性(特性)を確保できない虞があり、また製造時にマンドレルに巻き付ける作業性が悪くなる虞がある。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
実施例1で本発明者は、本発明のFRP円筒と従来構造のFRP円筒を比較するために、タイプA〜タイプDの4つのFRP円筒を試作した。
図21は、各タイプのFRP円筒の積層巻回構造を示す図であり、太枠で囲まれた領域が1つのFRP層を示している。
【0069】
タイプA、Bは実施の形態3の構成を有するFRP円筒に対応し、タイプAは同時多層巻回で離型シートを挟んだものであり、タイプBは同時多層巻回で離型シートを挟まないものである。タイプA、Bともに、最内層から最外層に向かって、一対のバイアスプリプレグ(±45°)とフーププリプレグ(90°)を重ねたセットプリプレグを3回連続して巻回(9プライ)して熱硬化させた同時多層巻回層を2層有している(合計18プライ)。
図21では、この2つの同時多層巻回層を網掛け表示している。製造したFRP円筒の内径φは33.5mm、外径Φは38.7mm、長さLは330.2mm、重量は約150gであった。
【0070】
タイプC、Dは従来の一般的構成を有する(同時多層巻回ではない)FRP円筒に対応している。タイプCは、最内層から最外層に向かって、一対のバイアスプリプレグ(±45°)のみを筒状に2回巻回(4プライ)してなるFRP層、フーププリプレグ(90°)のみを筒状に2回巻回(2プライ)してなるFRP層を交互に3つ有している(合計18プライ)。タイプDは、最内層から最外層に向かって、一対のバイアスプリプレグ(±45°)のみを筒状に3回巻回(6プライ)してなるFRP層を2つ、更にフーププリプレグ(90°)のみを筒状に3回巻回(3プライ)してなるFRP層を2つ有している(合計18プライ)。
【0071】
本発明者は、試作したタイプA〜DのFRP円筒について捩り破壊試験を行い、本発明のFRP円筒の捩り強度の優位性を実証した。捩り強度試験は各タイプについて2回ずつ行った。
【0072】
捩り破壊試験は以下のように実施した。各試験片を油圧式捩り試験機に装填し、一端を完全拘束し、他端に角度変位を振幅±45°、速度0.02Hzの正弦波で与えた。完全拘束端に配されたトルク検出器により捩り強度を測定した。捩れ角度は、変位側の軸に取り付けられたエンコーダーにより測定を行った。
【0073】
表1は、試作したタイプA〜DのFRP円筒の捩り破壊試験の結果を示している。本願構成のタイプA、Bは、従来構成のタイプC、Dと比較して平均値で100Nm以上高い捩り強度を有し、本願の同時多層巻回の優位性が実証されている。タイプA、Bを比較すると、タイプAはタイプBよりも平均値で180Nmもの高い捩り強度を有し、離型シート巻きの優位性が実証されている。
【表1】
【0074】
また、タイプA、Bを比較すると、タイプAの方が格段に滑らかな表面形状を有しており外観から成形性の違いが明らかであった。また、両者を研磨して内部状態を比較したところ、タイプAの方が均一な内部構造を有しており、離型シート巻きの優位性が実証された。
【0075】
(実施例2)
実施例2で本発明者は、タイプE、タイプF、及びタイプGの3つのFRP円筒を試作した。
図22は、各タイプのFRP円筒の積層巻回構造を示す図であり、太枠で囲まれた領域が1つのFRP層を示している。
【0076】
タイプEは実施の形態4の構成(
図11)を有するFRP円筒に対応しており、最内層から最外層に向かって、0°プリプレグ、一対のバイアスプリプレグ(±45°)、及びフーププリプレグ(90°)を重ねたセットプリプレグを5回連続して巻回して熱硬化させた同時多層巻回層を有している(合計20プライ)。
【0077】
タイプFは実施の形態5の構成(
図13)を有するFRP円筒に対応しており、最内層から最外層に向かって、バイアスプリプレグ(+45°)、0°プリプレグ、バイアスプリプレグ(−45°)、及びフーププリプレグ(90°)を重ねたセットプリプレグを5回連続して巻回して熱硬化させた同時多層巻回層を有している(合計20プライ)。
【0078】
タイプGは従来の一般的構成を有する(同時多層巻回ではない)FRP円筒に対応している。タイプGは、最内層から最外層に向かって順に、0°プリプレグを2プライ、一対のバイアスプリプレグ(±45°)を2プライ(4プライ)、フーププリプレグ(90°)を2プライ、0°プリプレグを3プライ、一対のバイアスプリプレグ(±45°)を3プライ(6プライ)、フーププリプレグ(90°)を3プライしてなる(合計20プライ)。
【0079】
本発明者は、試作したタイプE、F、GのFRP円筒について捩り破壊試験を行い、本発明のFRP円筒の捩り強度及び捩り剛性の優位性を実証した。捩り破壊試験は、上述の実施例1と同様の方法で実施した。
【0080】
表2は、試作したタイプE、F、GのFRP円筒の捩り破壊試験の結果を示している。本願構成のタイプEは、従来構成のタイプGと比較して、90Nm高い捩り強度を示し、20Nm
2高い捩り剛性を示している。タイプE、Gは、古典積層理論(CLT:Crassical Lamina Theory)による計算強度は同一であるにもかかわらず、タイプEの方が高い捩り強度及び捩り剛性を示しており、同時多層巻回の優位性が実証されている。また、本願構成のタイプFは、従来構成のタイプGと比較して、捩り剛性は10Nm
2低くなってい
るものの、120Nm高い捩り強度を示している。
【表2】
【0081】
(実施例3)
実施例3で本発明者は、タイプHとタイプIの2つのFRP円筒を試作した。
図23は、各タイプのFRP円筒の積層巻回構造を示す図であり、太枠で囲まれた領域が1つのFRP層を示している。
【0082】
タイプHは実施の形態4の構成(
図9)を有するFRP円筒に対応しており、最内層から最外層に向かって、0°プリプレグ、一対のバイアスプリプレグ(±45°)、及びフーププリプレグ(90°)を重ねたセットプリプレグを3回連続して巻回して熱硬化させた同時多層巻回層を有している(合計12プライ)。
【0083】
タイプIは従来の一般的構成を有する(同時多層巻回ではない)FRP円筒に対応している。タイプIは、最内層から最外層に向かって順に、0°プリプレグを3プライ、一対のバイアスプリプレグ(±45°)を3プライ(6プライ)、フーププリプレグ(90°)を3プライしてなる(合計12プライ)。
【0084】
本発明者は、試作したタイプH、IのFRP円筒について曲げ破壊試験を行い、本発明のFRP円筒の曲げ強度及び曲げ剛性の優位性を実証した。
【0085】
曲げ破壊試験は、4点曲げ試験治具を装備した引張圧縮万能試験装置を用いて以下のように実施した。全長700mmの円筒試験片を作成し、支持点間距離600mm、荷重点間距離200mm、荷重負荷速度5mm/分で試験した。支持点直下には、断面変形を防止する目的で長さ20mmの鉄製の中子を装填した。試験片にはひずみゲージを取り付け、測定されたひずみとクロスヘッドに取り付けたロードセルの荷重とから曲げ強度及び曲げ剛性を求めた。
【0086】
表3は、試作したタイプH、IのFRP円筒の曲げ破壊試験の結果を示している。本願構成のタイプHは、従来構成のタイプIと比較して、3.55kNm高い曲げ強度を示し、0.77kNm
2高い曲げ剛性を示している。このように、セットプリプレグに曲げ剛
性保持プリプレグを含ませる(同時多層巻回層に曲げ剛性保持層を含ませる)ことにより、曲げ強度及び曲げ剛性も向上することが実証されている。
【表3】