(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載のようなクローラ走行装置や特許文献2に記載のようなバケットの保守点検や修理をするために、昇降トラックフレームを揺動アームから取り外したり、バケットをアームから取り外したりすることがある。このときは、二つの第一ボス部と第二ボス部とからピンを取り外す必要がある。しかし、二つの第一ボス部及び第二ボス部に対するピンの揺動軸芯方向の移動が拘束されているため、特に、連結箇所の外側に位置する第一ボス部とピンとが互いに錆付く等して、ピンが抜け難くなることがある。この場合に、ピンをハンマーで叩く等して無理矢理外そうとすると、ピンを抜く側の第一ボス部がピンと共に外側に折れ曲がり、さらには破損する虞がある。
【0008】
本発明は、ピンによって相対的に揺動自在に連結された第一連結部及び第二連結部において、簡単な治具を使うことで、第一連結部及び第二連結部を破損させずにピンを外すことが可能なピン連結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るピン連結構造の特徴構成は、互いに対向する二つの第一ボス部を有する第一連結部と、二つの前記第一ボス部の間に介装される第二ボス部を有する第二連結部と、二つの前記第一ボス部と前記第二ボス部とに挿通されて、前記第一連結部及び前記第二連結部を揺動軸芯回りに相対的に揺動自在に連結するピンと、二つの前記第一ボス部及び前記第二ボス部に対する前記ピンの前記揺動軸芯方向の移動を拘束する抜け止め手段と、を備え、前記ピンの前記揺動軸芯方向における他方側から前記揺動軸芯方向における一方側向きの引き抜き力を付与可能な引き抜き用の係止部として、前記ピンの一方側の端部に、前記揺動軸芯方向に沿ったボルト孔を形成し、前記抜け止め手段は、前記ボルト孔と、前記ボルト孔に締結される一つの第一ボルトと、
前記ピンの前記一方側の端部に
係脱自在に固定され、かつ
、前記一方側の前記第一ボス部に
係脱自在に固定される回り止め部材と、を備え、
前記ピンの前記他方側の端部は、前記揺動軸芯方向における引き抜き及び差し込みを拘束しない状態で、前記他方側の前記第一ボス部に支持され、前記ピンの前記一方側の端部に、前記一方側に突出する凸部が形成され、前記回り止め部材に、前記凸部の形状に対応する形状の凹部が形成され、前記凸部と前記凹部とが異形嵌合された状態で、前記第一ボルトを前記ボルト孔に締結することによって、前記回り止め部材が前記ピンの前記一方側の端部に係脱自在に固定され、前記一方側から第二ボルトを、前記回り止め部材と前記一方側の前記第一ボス部とに亘って締結することによって、前記回り止め部材が前記一方側の前記第一ボス部に係脱自在に固定され、一つの前記第一ボルトを、前記ボルト孔に差し込む方向に回転操作することによって、前記ピンに引き抜き力が付与され、前記ピンは、前記第二ボルトによって前記回り止め部材を前記一方側の前記第一ボス部に固定することで、前記第一ボス部に対する前記揺動軸芯回りの回転及び前記揺動軸芯方向の移動が拘束されていることにある。
【0010】
本特徴構成によると、引き抜き専用の係止部がピン自体に備えられているので、ピンを外す際にハンマーでピンの端部を叩く等する必要がなく、第一連結部や第二連結部が破損する虞がない。
【0011】
また、ピンに押し出し力を付与する構成の場合は、ピン連結構造に対して静止した部材をピン連結構造とは別に備えて、ピンの抜け出し側とは反対側の端部とその静止部材とを突っ張るようにしてピンを押し出す必要がある。
【0012】
しかし、本特徴構成によれば、ピンに引き抜き力を付与する構成であるので、ピンに押し出し力を付与する構成のように別の部材を備えずとも、例えば、ピンを外す作業によって破損する虞がある抜け出し側の第一ボス部自身を利用して、ピンの抜け出し側の端部と抜け出し側の第一ボス部とを突っ張るようにしてピンを引き抜くことができる。即ち、抜け出し側の第一ボス部がピンの動きに追従せず、第一ボス部とピンとの間にせん断力が発生し、そのせん断力によって、第一連結部及び第二連結部を破損させずに、第一ボス部とピンとの間の錆付き等を引き剥がすことができる。
【0013】
【0014】
本特徴構成であると、引き抜き力をピンに付与するボルトと、ピンに形成されたボルト孔とは螺合する。即ち、ピンの引き抜き方向に対して略垂直な方向でボルトとボルト孔とが複数箇所で係止するので、効率よく引き抜き力をピンに伝達することができると共に、引き抜き最中にボルトがボルト孔から外れるようなことはない。
【0015】
また、第一ボス部及び第二ボス部に対するボルトの軸芯方向(即ち、揺動軸芯方向)の相対移動を拘束すると共に、ボルトの回転は許容するような治具を準備すれば、ボルトを締め付けると、ボルトとボルト孔との螺合が進行しても、ボルトは第一ボス部及び第二ボス部に対して相対移動しないため、ピンが第一ボス部及び第二ボス部から抜け出す。ボルトの締め付け速度を遅くして、ピンの移動を遅くすれば、ハンマーでピンを叩くような場合等と比較して、錆付部分等を徐々に引き離しながら、ピンをゆっくりと引き抜くことも可能である。このように、本特徴構成であると、ボルトをボルト孔に締め付けるという簡単な構成で、第一連結部や第二連結部を破損させることなく、ピンを抜き出すことが可能である。
【0016】
なお、第一ボス部及び第二ボス部に対するボルトの締め込み方向の相対移動を拘束すると共に、ボルトの回転は許容するような治具としては、ボルトの頭部と第一ボス部の外側面と間に配設可能であると共に、ボルトを挿通可能な孔が形成された台座であって、ボルトの頭部と第一ボス部の外側面との距離を一定に保つような治具が考えられる。
【0017】
【0018】
本特徴構成によると、回り止め部材はピンの一方側の端部に固定されるので、回り止め部材を第一ボス部のうちの一方に固定すれば、ピンは、二つの第一ボス部に対して回転できないだけでなく、二つの第一ボス部及び第二ボス部に対して揺動軸芯方向に移動することはできない。即ち、ボルトをボルト孔から取り外し、かつ、回り止め部材の第一ボス部への固定を解除すると、ピンは引き抜き可能な状態となる。
【0019】
本特徴構成によれば、回り止め部材をピンに固定するためのボルト孔が、引き抜き用のボルト孔を兼用しているので、ボルト孔に異物等が侵入していることがなく、適切に引き抜き用のボルトをボルト孔に螺合させることができる。また、ピンに形成する孔の数が少ないので、ピンの断面欠損が少なく、ボルト孔を形成することによるピンの剛性の低下を最小限に抑えられる。
【0020】
さらに、回り止め部材をピンから取り外すことができるため、回り止め部材をピンの一方の端部に一体的に備えた場合と比較して、回り止め部材を取り外せば、ピンの一方側の端部の回りに広いスペースを確保できる。この結果、上述のような治具を設置し易い。
【0021】
本発明に係るピン連結構造の特徴構成は、前記ボルト孔のネジ深さを、前記揺動軸芯方向における前記第一ボス部の厚さの二倍よりも大きく設定した点にある。
【0022】
本特徴構成によると、ボルト孔のネジ深さを、第一ボス部の厚さの二倍よりも大きく設定してあるので、上述したような治具を使用してピンを引き抜く場合に、治具の高さに適合したボルト長のボルトを使用すれば、第一ボス部の厚さ分に相当する距離以上に移動するまでピンを引き抜くことが可能である。即ち、錆付き範囲以上にピンを動かすこととなり、ピンを容易に取り外すことができる。
【0023】
本発明に係るピン連結構造の特徴構成は、前記
第一ボルトの長さを、前記揺動軸芯方向における前記第一ボス部の厚さの二倍以上に設定した点にある。
【0024】
本特徴構成のように、敢えて、ボルトを呼び長さの長いボルトにすることで、回り止め部材を固定するボルトをピン引き抜き用のボルトに兼用でき、ピンを抜く時に別途、呼び長さの長いボルトを用意する必要がなく、ピン引き抜き用ボルトを紛失することがない。
【0025】
なお、上記呼び長さとは、JIS規格(JIS B1180)に規定されている「呼び長さ」のことを指し、具体的にはボルト頭を除外したボルトの長さである。
本発明に係るコンバインのクローラ走行装置の特徴構成は、上記特徴構成を有するピン連結構造を備えたコンバインのクローラ走行装置であって、機体フレームに対して昇降自在に連結された昇降トラックフレームを備え、前記第一連結部は、前記機体フレーム側に上下揺動可能に枢支連結される揺動アームであり、前記第二連結部は、一端部が前記揺動アームの遊端部に枢支連結され、他端部が前記昇降トラックフレームに枢支連結される補助リンクであり、前記揺動軸芯は、機体左右方向に設定され、前記一方側は、機体左右外側であり、前記他方側は、機体左右内側であることにある。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための形態を農作業機である自脱型コンバインを例に説明する。
【0028】
〔全体構成〕
図1に示すコンバインは、クローラ走行装置1を備えた走行機体2の前部に刈取り部3が昇降自在に連結され、走行機体2に運転部4、脱穀装置5及び穀粒搬出装置付きの穀粒回収タンク6等が搭載された構造となっている。
【0029】
図2、
図3に示すように、クローラ走行装置1は、前端の駆動用輪体として駆動スプロケット7、後端の緊張用遊転輪であるテンション輪8、これらの間に配備された複数(この例では6個)の接地用遊転輪である接地転輪9,10、及びキャリアローラ11とに亘ってゴム製のクローラベルト12を巻回張設して構成されている。クローラベルト12の内周面には、左右一対ずつの芯金突起13が前後一定ピッチで突設されている。接地転輪9,10は、芯金突起13を左右から跨ぐ外転輪型に構成されている。テンション輪8及びキャリアローラ11は、左右の芯金突起13の間に係入する内転輪型に構成されている。
【0030】
走行機体2の下部に備えられた機体フレーム14の左右下方には、前後一対の固定フレーム16が配備されている。キャリアローラ11は、後部の固定フレーム16に遊転自在に装着されている。前側及び後側の固定フレーム16には、前後一対の揺動アーム17,18が、夫々軸支点a,b周りに上下揺動可能に後向きに枢支連結されている。前側の揺動アーム17の遊端部には、昇降トラックフレーム19の前部が、本発明に係る「ピン」としての支軸32を介して枢支連結されている。また、後側の揺動アーム18の遊端部には、昇降トラックフレーム19の後部が、本発明に係る「ピン」としての支軸33を介して補助リンク20を介して枢支連結されている。
【0031】
駆動スプロケット7は、固定フレーム16に軸支されている。テンション輪8は、昇降トラックフレーム19の後端部に、スライドフレーム21を介して前後方向に位置変更固定可能に軸支されている。前端の接地転輪10と後端の接地転輪10とは、昇降トラックフレーム19に対して位置変更しない状態で軸支されている。中間の4個の接地転輪9は、昇降トラックフレーム19の横外側部に揺動自在に支持した前後2本の揺動フレーム22を介して2個ずつ支持されている。
【0032】
前側及び後側の揺動フレーム22,22は同じ仕様に構成されている。前側及び後側の揺動フレーム22,22は、昇降トラックフレーム19の前後に設けられた軸支点c,dを中心に夫々天秤状に上下揺動自在に支持され、各軸支点c,dから等距離の位置に前後一対ずつ接地転輪9,9が夫々遊転自在に軸支されている。揺動フレーム22の下部には、左右の芯金突起13の間に入り込む脱輪防止ガイド23が夫々一体形成されており、クローラベルト12が接地転輪9,10に対して横ずれ変形して外れることが防止されている。
【0033】
昇降トラックフレーム19の後部上側にはジャッキボルト24を介して前後調節可能にスライドフレーム21が装備されており、このスライドフレーム21にテンション輪8が遊転自在に軸支装着されている。
【0034】
前側及び後側の揺動アーム17,18の基端に連結された支軸25,26の機体内方端部から上方に夫々操作アーム27,28が一体揺動可能に延出されているとともに、両操作アーム27,28が連係ロッド29で連動連結され、かつ、後方の操作アーム28と機体フレーム14とに亘って油圧シリンダ30が架設されている。
【0035】
図2に示す前側及び後側の揺動アーム17,18の基端側の軸支点a,bと、遊端側の軸支点e,fとの間の長さは、後側の揺動アーム18のbf間の長さの方が、前側の揺動アーム17のae間の長さよりも少し長く設定してある。
【0036】
〔ピン連結構造〕
トラックフレーム19は、上トラックフレーム部材19aと下トラックフレーム部材19bとで構成されている。
図4は、後側の揺動アーム18と補助リンク20とのピン連結構造A、及び、補助リンク20と下トラックフレーム部材19bとのピン連結構造Bを示す。後側の揺動アーム18と補助リンク20とのピン連結構造Aでは、後側の揺動アーム18が本発明に係る「第一連結部」に相当し、補助リンク20が本発明に係る「第二連結部」に相当する。また、補助リンク20と下トラックフレーム部材19bとのピン連結構造Bでは、補助リンク20が本発明に係る「第一連結部」に相当し、下トラックフレーム部材19bが本発明に係る「第二連結部」に相当する。
【0037】
先ず、ピン連結構造Aについて説明する。後側の揺動アーム18の遊端部を二股状にして、互いに対向する二つの第一ボス部18a,18bを備えてある。補助リンク20の基部側には、二つの第一ボス部18a,18bの間に介装される第二ボス部20aを備えてある。二つの第一ボス部18a,18bと第二ボス部20aとに支軸33を挿通し、二つの第一ボス部18a,18b及び第二ボス部20aを連結してある。支軸33と第二ボス部20aとの間には一対のブッシュ34を嵌挿し、第二ボス部20aの両端にOリングからなるオイルシール35を設けてある。第二ボス部20aには、グリースニップル36を備えてある。
【0038】
支軸33の外側一端には、両側面33aが平行となるように切り込んだ回り止め用の凸部33bを形成するとともに、端面の中央に固定用のボルト37を挿通する長いボルト孔38を形成してある。符号39は小判形の回り止め部材を示す。回り止め部材39には、支軸33の凸部33bが側面33aに沿って嵌まり込む長孔40と、回り止め部材39を第一ボス部18aの外側面に固定するためのボルト挿通孔41と、を形成してある。
【0039】
ボルト37の長さL(ボルト頭を除いたJISB1180で規定されている「呼び長さ」)は、第一ボス部18aのピン軸芯方向の厚さTの2倍以上の寸法に形成してある。ボルト孔38の深さDは当然のことながらボルト37の長さLよりも長く、第一ボス部18aのピン軸芯方向の厚さTの2倍を超える寸法に形成してある。
【0040】
二つの第一ボス部18a,18bと第二ボス部20aとの軸支点fを合わせた状態で支軸33を挿通し、一端の凸部33bに回り止め部材39を嵌め込んでボルト挿通孔41にボルト42を挿通する。そして、ボルト42を第一ボス部18aの側部に形成したボルト孔43に螺合して、回り止め部材39を介して支軸33を後側の揺動アーム18に回り止め固定する。さらに、ボルト37を、座金44を介して支軸33に形成したボルト孔38に螺合して支軸33の抜け止めを施す。座金44はボルト37に通した状態で、長孔40の両外の回り止め部材39の表面に渡る大きさである。
【0041】
なお、
図2に示すように、前側の揺動アーム17の支軸32に対してもピン連結構造Aと同じ構成のピン連結構造Aが備えられている。
【0042】
続いて、ピン連結構造Bについて説明する。
図4に示すように、補助リンク20には、第二ボス部20aを形成したのとは反対側を正面視U字形状の二股状にして、リンク部材20b,20bを備えてある。リンク部材20b,20bの下端部には、二つの第一ボス部45a,45bを形成してある。下トラックフレーム部材19bには、下トラックフレーム部材19bを貫通する状態で、第二ボス部46を備えてある。リンク部材20b,20bによって上下のトラックフレーム部材19a,19bを挟み込んだ状態で、二つの第一ボス部45a,45bと第二ボス部46とを本発明に係る「ピン」としての支軸47で連結してある。
【0043】
支軸47と第二ボス部46との間には、ブッシュ48とOリング49とを備えてある。支軸47の一端側には、ピン連結構造Aと同様に、固定用のボルト50、ボルト孔51、小判形の回り止め部材52、座金53を備えてある。また、
図8に示すように、回り止め部材52には、回り止め部材39と同様に、長孔54、ボルト挿通孔55を形成してある。ボルト56をボルト挿通孔55に通し、第一ボス部45aに形成したボルト孔57に締結することにより、支軸47の一方側の端部を第一ボス部45aに対して、回転不能かつ抜け出し不能に固定する。
【0044】
支軸47の他端側においては、支軸47の端面にピン軸芯方向に沿って形成したボルト孔58を備え、中心にボルト挿通孔を形成したリンク保持部材59を備え、さらに、リンク保持部材59を固定するボルト60を備えている。符号61はグリースニップルである。
【0045】
補助リンク20には、走行機体2の荷重による圧縮力が作用するので、左右一対のリンク部材20b,20bの下方遊端部には、リンク部材20b,20bを左右に押し広げようとする力が作用する。しかし、回り止め部材52とリンク保持部材59とは、支軸47の両端部にボルト50,60で固定されて抜け止めを兼ねるので、リンク部材20b,20bが押し広げられることが防止される。
【0046】
なお、ピン連結構造Aにおいては、凸部33b、回り止め部材39、座金44、ボルト37、ボルト孔38、ボルト42、及び、ボルト孔43が、本発明に係る「抜け止め手段」に相当し、軸支点fが本発明に係る「揺動軸芯」に相当する。ピン連結構造Bにおいても同様に、回り止め部材52、座金53、ボルト50、ボルト孔51、ボルト56、及び、ボルト孔57が、本発明に係る「抜け止め手段」に相当し、支軸47のピン軸芯方向が本発明に係る「揺動軸芯」に相当する。
【0047】
〔支軸を取り外す手順〕
クローラ走行装置1の保守点検や支軸33に外嵌しているブッシュ34等を交換するために、後側の揺動アーム18の揺動端部の支軸33を取り外すときは次のような手順で行う。支軸33の一端に螺合したボルト37を取り外し、ボルト42を取り外して支軸33に対して着脱自在に装着している回り止め部材39を取り外す。これにより、支軸33の両端の何れの側を押しても支軸33を外すことが可能な状態となる。
【0048】
支軸33の両端を別々に強すぎない適当な強さ(支軸33が第一ボス部18a,18bに錆び付いているときに、支軸33の一端を叩いても反対側の第一ボス部18a,18bが屈曲しない程度の強さ)で叩いてみる。これで、第一ボス部18a,18bに対して支軸33が抜け移動したときは、引き続き支軸33の一端を叩いて支軸33を抜く。
【0049】
支軸33の何れの側を叩いても抜けないときは、ボルト挿通用の孔62を形成してある台座63を用意し、
図9(a)に示すように、台座63のボルト挿通用の孔62にボルト37を通し、当該ボルト37を支軸33のボルト孔38に螺合する。螺合したボルト37を締め付けると、支軸33がボルト37の締め付け力によって、引き抜き力が作用し、支軸33が二つの第一ボス部18a,18bに錆び付いていても、二つの第一ボス部18a,18bと支軸33との間のせん断力で錆びが外れる。そして、
図9(b)に示すように、二つの第一ボス部18a,18bに対して支軸33が軸線方向に移動する。支軸33が移動することで、錆びによる二つの第一ボス部18a,18bと支軸33との固着が外れた状態となるから、後は、支軸33を手で、又はレンチなどの小道具を用いて抜くか、二つの第一ボス部18a,18bの孔よりも小さな径の部材で、支軸33の端部を叩いて簡単に押し出すことができる。このように、ボルト孔38が、本発明に係る「係止部」に相当する。
【0050】
台座63がないときは、支軸33の左右に、添え板又はレンチ等の支軸33の外形に沿う工具と、ボルト37が挿通できる孔を穿設した板材を用意して、左右の添え板又はレンチで支軸33を挟むように配設し、その上に板材を置いて、孔にボルト37を通し、ボルト37を支軸33のボルト孔38に螺合する。
【0051】
上記構成によれば、回り止め部材39を支軸33に対して着脱自在に装着してあるので、台座63などの治具を使って支軸33を引き抜くときは、回り止め部材39を支軸33から取り外すことによって、支軸33の外側(支軸33の外周よりも径方向外方)における第一ボス部18aの外側面全体に、治具(台座63)を接当させる広い治具用接当面が形成される。そして、この治具用接当面に円筒状の治具(台座63)のリング状の内端面を接当させることで治具(台座63)を安定させながら支軸33を容易に引き抜くことが可能となった。
【0052】
支軸33の端部形成したボルト孔38の深さDを第一ボス部18aの支軸33の軸芯方向の厚さTの2倍を超える長さに形成してあることで、台座63等の治具の高さに適合したボルト長のボルト(回り止め部材39を固定していたボルト37又は別のボルト)を使用すれば、台座63にボルト37を通して、ボルト37をボルト孔38に螺合して支軸33を引き抜く場合、第一ボス部18aの厚さ分に相当する距離以上に移動するまで支軸33を引き抜くことがきるようにすることが可能となり、支軸33の錆び付き範囲以上に支軸33を引き抜くことで、支軸33を容易に取り外すことができるようになった。
【0053】
ボルト孔38に螺合するボルト37の長さLを、第一ボス部18aの支軸33の軸芯方向の厚さTの2倍以上長さに形成してある。これにより、回り止め部材39を固定するボルト37を長いボルトにしておくことで、支軸33を抜く時に別途、長いボルトを用意する必要がなく、回り止め部材39を固定するボルト37をピン引き抜き用のボルトに兼用でき、ピン引き抜き用のボルト37を紛失することがない。
【0054】
ピン連結構造Bにおいても、例えば、
図4に示す補助リンク20の下側で支持されている支軸47に外嵌しているブッシュ48を交換するときは、ボルト60を抜いてリンク保持部材59を外す。この後は支軸33の取り外し方と同じ手順で行う。
【0055】
即ち、支軸47の一端に螺合したボルト50,56を取り外して回り止め部材52を取り外す。
図9(a)に示すように、台座63のボルト挿通用の孔62にボルト50を通し、当該ボルト50を支軸47のボルト孔51に螺合する。ボルト50を締め付けると、支軸47が補助リンク20の第一ボス部45a,45bに錆び付いていても、錆びによるボス部45,45と支軸47との固着が外れ、
図9(b)に示すように、第一ボス部45a,45bに対して支軸47を軸線方向に移動させて抜き取ることができる。
【0056】
〔第一別実施形態〕
上述の実施形態では、本発明に係るピン連結構造をコンバインのクローラ走行装置1に適用した例を示したが、これに限られるものではない。以下に、本発明に係るピン連結構造をバックホーのバケット110とアーム100との連結部分に適用した例を示す。ただし、ピン連結構造自体の構成は、上述の実施形態に係るピン連結構造A,Bと同じであるので、同じ構成についての説明は省略する。また、同じ構成には上述の符号と同じ符号を付してある。
【0057】
図10に示すごとく、アーム100は、バックホー本体に対して上下揺動自在に支持された不図示のブームの先端部分に、左右方向の軸芯回りに回動自在に枢支され、前後揺動自在である。バケット110は、アーム100の先端側に、ピン連結構造C及びDを介してスクイ・ダンプ動作可能に連結されている。基端部を不図示のブームに枢支されたバケットシリンダ133のロッドヘッドを、第一リンク部材131及び第二リンク部材132を介して、バケット110及びアーム100の先端部に連結してある。これにより、バケットシリンダ133が伸縮すると、バケット110は揺動してスクイ・ダンプ動作する。
【0058】
ピン連結構造Cについて説明する。
図11及び
図12に示すごとく、バケット110の基端部に、左右方向に互いに対向する二つの支持プレート111,111を固着してある。二つの支持プレート111,111のうちのアーム100に近い側の端部に、互いに対向する二つの第一ボス部112a,112bを夫々備えてある。アーム100の先端部には、二つの第一ボス部112a,112bの間に介装される第二ボス部101を備えてある。二つの第一ボス部112a,112bと第二ボス部101とに支軸33を挿通し、二つの第一ボス部112a,112b及び第二ボス部101を連結してある。即ち、ピン連結構造Cにおいては、支持プレート111,111が本発明に係る「第一連結部」に相当し、アーム100が本発明に係る「第二連結部」に相当する。
【0059】
ピン連結構造Dについて説明する。
図11に示すごとく、二つの支持プレート111,111のうちのアーム100から遠い側の端部に、互いに対向する二つの第一ボス部113a,113bを夫々備えてある。第一リンク部材131の先端部には、二つの第一ボス部113a,113bの間に介装される第二ボス部131aを備えてある。二つの第一ボス部113a,113bと第二ボス部131aとに支軸33を挿通し、二つの第一ボス部113a,113b及び第二ボス部131aを連結してある。即ち、ピン連結構造Dにおいては、支持プレート111,111が本発明に係る「第一連結部」に相当し、第一リンク部材131が本発明に係る「第二連結部」に相当する。
【0060】
ピン連結構造C及びDにおいて、その他の構成については、ピン連結構造A及びBと同じ構成である。
【0061】
以上の構成により、バケット110等の保守点検の際に、上述の台座63等を使うことで、支持プレート111、アーム100、第一リンク部材131が破損させずに支軸33を外すことが可能である。
【0062】
〔第二別実施形態〕
本発明に係るピン連結構造は、トラクタ本機の前部に取り付けられるフロントローダに適用しても良い。特に図示はしないが、例えば、フロントローダは、トラクタ本機の前部左右に備えられた支持ブラケットに脱着自在に連結固定される左右一対の支持フレームと、左右の支持フレームの上端部に上下揺動可能に連結された左右一対のブームと、左右のブームの前端に亘って上下回動可能に連結されたバケットと、を備える。
【0063】
このフロントローダにおいて、左右のブームの先端部分の夫々に第一連結部を備え、バケットには、第一連結部に対応させて左右一対の第二連結部を備える。そして、第一連結部に、互いに対向する二股状の第一ボス部を備え、第二連結部には、二つの第一ボス部に介在される第二ボス部を備え、二つの第一ボス部と第二ボス部とをピンで連結する。その他の構成については、上述の実施形態と同じ構成である。
【0064】
〔第三別実施形態〕
本発明に係るピン連結構造は、四輪駆動型のトラクタをセミクローラ型に仕様変更したトラクタに適用しても良い。特に図示はしないが、このトラクタは、キャビン付きのトラクタ本機の前部に操向可能な左右一対の前輪を備えると共に、機体の後部に主推進装置として左右一対のクローラ走行装置を備えている。
【0065】
クローラ走行装置は、後車軸の端部に固定された駆動スプロケットと、トラックフレームと、トラックフレームの前後端部に夫々配設された前従動輪及び後従動輪と、前従動輪と後従動輪との間においてトラックフレームに配設された複数の遊転輪と、駆動スプロケット、及び、前従動輪、複数の遊転輪、後従動輪に亘って巻き回されたクローラベルトと、を備えている。
【0066】
トラックフレームは、後車軸ケースに支持され、後車軸と平行な軸芯回りに揺動自在に構成してある。後車軸ケースの下部に、前記軸芯に沿った筒状の支持筒体を支持する。トラックフレームの上部に、前記軸芯方向内側に向けて延出する延設台を片持ち状態で固定支持する。延設台の前記軸芯方向外側端部付近と前記軸芯方向内側端部付近とにおいて、左右方向に互いに対向する二つの支持板を延設台の上部に夫々立設する。
【0067】
二つの支持板の間に支持筒体を配置した状態で、揺動軸を、支持板に形成した円形の孔及び支持筒体に挿通し、後車軸ケースとトラックフレームとをピン連結する。即ち、本実施形態においては、トラックフレームが本発明に係る「第一連結部」に相当し、後車軸ケースが本発明に係る「第二連結部」に相当する。また、二つの支持板が本発明に係る「第一ボス部」に相当し、支持筒体が本発明に係る「第二ボス部」に相当する。その他の構成については、上述の実施形態と同じ構成である。
【0068】
〔第四別実施形態〕
本発明に係るピン連結構造は、トラクタ本機の後部に備えられる三点リンク機構のトップリンクの連結部分に適用しても良い。特に図示はしないが、トラクタ本機のミッションケースの後部に、左右方向に互いに対向する二つのプレート状のブラケットを備え、トップリンクの先端に備えた第二ボス部を二つのブラケットの間に介在させる。そして、二つのブラケットの夫々に形成した第一ボス部と第二ボス部とにピンを挿通し、ブラケットとトップリンクとをピン連結する。本実施形態においては、ブラケットが本発明に係る「第一連結部」に相当し、トップリンクが本発明に係る「第二連結部」に相当する。その他の構成については、上述の実施形態と同じ構成である。
【0069】
〔その他の別実施形態〕
(1)上述の実施形態においては、係止部としてボルト孔38,51を備え、ボルト孔38,51にボルト37,50を締結することにより、支軸33,47に引き抜き力を付与する構成としたが、これに限られるものではない。第一ボス部18a,45a,112a,113aの揺動軸芯方向に沿った移動を拘束しつつ、支軸33,47に引き抜き力を付与する構成であれば他の構成であっても良い。係止部は、例えば、孔ではなく、突起であっても良い。この場合、治具としては、その突起に係止しつつ、第一ボス部18a,45a,112a,113aと突起とに揺動軸芯方向に離間力を付与するものが考えられる。
【0070】
また、特に図示はしないが、支軸33,47の一方の端部が第一ボス部18a,45a,112a,113aから外側に突出する程度に、支軸33,47の長さを設定すると共に、支軸33,47に揺動軸芯と直交する孔を形成する。この孔は、支軸33,47を組付けた状態で、第一ボス部18a,45a,112a,113aに対して半掛かり(孔の一部分が第一ボス部18a,45a,112a,113aの断面と重なり、孔のその他の部分が第一ボス部18a,45a,112a,113aの断面と重なっていない状態)となるように穿孔する。この孔に、孔のその他の部分よりも断面が大きい軸体を打ち込めば、クサビ効果によって、第一ボス部18a,45a,112a,113aの揺動軸芯方向に沿った移動を拘束しつつ、支軸33,47に引き抜き力を付与することが可能である。
【0071】
(2)上述の実施形態においては、本発明に係るピン連結構造を、前側及び後側の揺動アーム17,18の支軸32,33に対して備えた例を示したが、これに限られるものではない。例えば、後側の揺動アーム18の支軸33に対してのみ本発明に係るピン連結構造を備えてもよい。同様に、アーム100とバケット110との連結構造においては、ピン連結構造CまたはDだけであっても良いし、また、第二リンク部材132とアーム100との連結部分に本発明に係るピン連結構造を備えてあっても良い。
【0072】
(3)上述の実施形態において呼び長さの長いボルトを別途用意している場合は、回り止め部材39,51を固定するためのボルト37,50の呼び長さを、
図6に示されているボルト42,56の長さ程度の短い長さのボルトに構成してもよい。
【0073】
(4)上述の実施形態においては、ボルト37,50を締結したとき、回り止め部材39,52が座金44,53によって第一ボス部18a,45a,112a,113aに押圧されて、支軸33,47の抜け止めがなされる。しかし、ボルト37,50に、座金44,53を兼ねる傘状のボルト頭を備えてあっても良い。
【0074】
(5)上述の実施形態においては、支軸33,47と回り止め部材39,52とを別部材とした例を示したが、これに限られるものではない。特に図示はしないが、支軸33,47と回り止め部材39,52とを一体としてあっても良い。
【0075】
(6)上述の実施形態においては、前側及び後側の揺動アーム17,18の側やバケット110の側に第一ボス部を備え、昇降トラックフレーム19の側やアーム100の側、第一リンク部材131の側に第二ボス部を備えた例を示したが、これに限られるものではない。特に図示はしないが、逆に、揺動アーム17,18の側やバケット110の側に第二ボス部を備え、昇降トラックフレーム19の側やアーム100の側、第一リンク部材131の側に第一ボス部を備えてあっても良い。