【実施例】
【0027】
≪ポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料の合成≫
本発明の分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料の合成手順を説明する。
【0028】
〔実施例1〕
図1に、実施例1の6分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料の合成スキームを示す。
<1>6分岐構造を有するポリ乳酸の合成(第一工程)
乾燥及び窒素置換した三口フラスコ中に、乳酸モノマーとしてL−ラクチド30.0g(208.3mmol)及び開始剤としてジペンタエリトリトール76.3mg(0.3mmol)を投入し、60℃のオイルバス中で撹拌しながら真空ポンプを用いて2時間減圧乾燥させ、その後フラスコ内を窒素置換した。次に、触媒としてオクチル酸スズ(Sn(Oct)
2)/トルエン(0.1g/ml)を820μl(0.203mmol)投入した。その後、予め120℃に熱しておいたオイルバス中で撹拌しながら乳酸モノマーの重合を行った。重合反応の終了後、放冷してから得られたポリマーを塩化メチレン300mlに溶解させ、3lのメタノール中に再沈させることにより精製した。次いで、沈殿した精製ポリマーを吸引ろ過し、100℃で8時間真空乾燥させた。合成した6分岐構造を有するポリ乳酸の数平均分子量は、
1HNMR測定(500MHz)から、293,000であった。また、収率は93.8%であった。
【0029】
<2>ポリ乳酸とシリカとのハイブリッド化(第二工程)
上記第一工程で合成した6分岐構造を有するポリ乳酸3.0gを1,4−ジオキサン52.0mlに溶解させ(5.6重量%)、シランカップリング剤として3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン37mg(ポリ乳酸の末端OH基に対して1:1)を添加した。次いで、触媒としてジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ/1,4−ジオキサン溶液を添加し、24時間撹拌して前駆体の溶液を調製した。次に、この前駆体溶液にアルコキシシランとしてテトラメトキシシラン(TMOS)を、0.40g添加し、ゾル−ゲル反応触媒として1N−塩酸を添加し、24時間撹拌した。その後、反応溶液をキャスト法によりフィルム状に成形し、100℃で一日真空乾燥させた。乾燥後のフィルムを200℃で溶融プレスし、その後急冷することで非晶フィルムを得た。この非晶フィルムは、6分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料(6分岐TMOS系ハイブリッド)であり、シリカ含有量は、後述する示差熱−重量同時測定(TG−DTA)で分析した結果、6.4重量%であった。
【0030】
〔実施例2及び3〕
実施例1で使用したテトラメトキシシラン(TMOS)を、夫々0.84g(実施例2)及び1.90g(実施例3)使用した以外は、実施例1と同様の方法で、シリカ含有量の異なる6分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料(6分岐TMOS系ハイブリッド)を合成した。
【0031】
〔実施例4〜6〕
実施例1で使用したテトラメトキシシラン(TMOS)の代わりにメチルトリメトキシシラン(MTMS)を、夫々0.34g(実施例4)、0.68g(実施例5)及び1.36g(実施例6)使用した以外は、実施例1と同様の方法で、メチル基を有するシリカ含有量の異なる6分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料(6分岐MTMS系ハイブリッド)を合成した。
【0032】
〔実施例7〕
実施例1で使用したジペンタエリトリトールの代わりにmeso−エリトリトールを18.3mg使用した以外は、実施例1と同様の方法で、4分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料(4分岐TMOS系ハイブリッド)を合成した。
図2に、実施例7の4分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料(4分岐TMOS系ハイブリッド)の合成スキームを示す。第一工程として4分岐構造を有するポリ乳酸を合成し、次いで、第二工程としてポリ乳酸とシリカとのハイブリッド化を行う。第一工程で合成した4分岐構造を有するポリ乳酸の数平均分子量は、
1HNMR測定(500MHz)から、210,000であった。また、収率は91.3%であった。
【0033】
〔実施例8及び9〕
実施例7で使用したテトラメトキシシラン(TMOS)を、夫々0.84g(実施例7)及び1.90g(実施例8)使用した以外は、実施例7と同様の方法で、シリカ含有量の異なる4分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料(4分岐TMOS系ハイブリッド)を合成した。
【0034】
〔実施例10〜12〕
実施例7で使用したテトラメトキシシラン(TMOS)の代わりにメチルトリメトキシシラン(MTMS)を、夫々0.34g(実施例10)、0.68g(実施例11)及び1.36g(実施例12)使用した以外は、実施例7と同様の方法で、メチル基を有するシリカ含有量の異なる4分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料(4分岐MTMS系ハイブリッド)を合成した。
【0035】
〔比較例1及び2〕
実施例1の第一工程で合成した6分岐構造を有するポリ乳酸の諸物性を比較例1として測定した。また、実施例7の第一工程で合成した4分岐構造を有するポリ乳酸の諸物性を比較例2として測定した。
【0036】
≪ポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料の諸物性測定≫
上記手順により合成した実施例1〜12に係る6分岐構造又は4分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料が有する諸物性の測定方法を以下<1>〜<12>に説明する。
6分岐構造に関する測定結果を表1に、4分岐構造に関する測定結果を表2に示すとともに、各測定結果に関するグラフを
図3〜12に示す。なお、下記の表1及び2には、夫々のハイブリッド材料の比較例として、ハイブリッド化されていない材料、すなわち、実施例1の第一工程で合成した6分岐構造を有するポリ乳酸(比較例1)、及び実施例7の第一工程で合成した4分岐構造を有するポリ乳酸(比較例2)の諸物性の測定結果についても合わせて示してある。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
<1>示差熱−重量同時測定(TG−DTA)
セイコーインスツル株式会社製TG/DTA6300を使用し、昇温速度10℃/分、温度範囲25〜500℃、エアーフロー条件下で測定した。測定結果から求めた熱分解温度(Td)を
図3のグラフに示す。
図3の熱分解温度のグラフより、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料中のシリカ含有量が少量であっても、シリカが含まれると熱分解温度(Td)が急激に上昇することが確認された。
【0040】
<2>紫外/可視(UV/vis)透過スペクトル測定
日本分光株式会社製V−530 UV/VIS Spectrometerを使用し、波長200〜800nm、分解能1nmの条件下で測定した。測定結果を
図4のグラフに示す。
図4の透過光スペクトルのグラフより、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料は、シリカ含有量に関係なく、何れも紫外光及び可視光に対して高い透過性を示すことが確認された。
【0041】
<3>鉛筆硬度測定
株式会社井元製作所製JIS5600を使用し、ペンシル角45±1°、荷重750±10gの条件下で測定した。表1及び表2より、6分岐構造及び4分岐構造を有するポリ乳酸の鉛筆硬度は「HB」であったのに対し、シリカをハイブリッド化した材料の鉛筆硬度はいずれも「HB」より向上した。分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料は、シリカ含有量が増加するにつれて、鉛筆硬度(すなわち、ハイブリッド材料の表面硬度)が向上することが確認された。
【0042】
<4>接触角測定
協和界面科学株式会社製の接触角計(DROP MASTER)を使用し、水、25℃、60%の条件下で測定した。測定結果を
図5のグラフに示す。
図5のグラフより、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料は、シリカ含有量が増加するにつれて、接触角が増大することが確認された。
【0043】
<5>示差走査熱量測定(DSC)
セイコーインスツル株式会社製DSC/SSC5200を使用し、昇温速度5℃/分、温度範囲25〜190℃、窒素フロー条件下で測定した。また、前処理として、サンプルを25℃から190℃まで100℃/分の昇温速度で加熱し、その後液体窒素中でクエンチした。測定結果から求めたガラス転移温度(Tg)を
図6のグラフに示す。
図6のガラス転移温度(Tg)のグラフより、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料中のシリカ含有量が増加するにつれて、ガラス転移温度(Tg)が上昇することが確認された。
【0044】
<6>動的粘弾性測定(DMA)
セイコーインスツル株式会社製TMA/SS6100を使用し、昇温速度2℃/分、温度範囲20〜180℃、窒素フロー条件下で測定した。測定結果を
図7のグラフに示す。
図7のDMAのグラフより、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料中のシリカ含有量の増加に伴い、ガラス状態(30〜50℃)、及びゴム状態(60〜80℃)での動的貯蔵弾性率(E´)が上昇することが確認された。
【0045】
<7>引張試験
株式会社東京試験機製LSC−05/30を使用し、20mm×4mmの試験片について、ひずみ速度5mm/分の条件下で試験した。試験結果を
図8のグラフに示す。
図8(a)はシリカ含有量に対する引張強度(σ)を示し、
図8(b)はシリカ含有量に対するヤング率(E´)を示し、
図8(c)はシリカ含有量に対する破断伸び(ε)を示す。
図8より、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料中のシリカ含有量が増加するにつれて、ヤング率が上昇することが確認された。引張強度及び破断伸びは、シリカ含有量が一定値を超えると減少傾向に転じることが確認された。
【0046】
<8>水蒸気透過量測定(WVTR)
厚さ約100μmのフィルム状のサンプルを用いて、乾湿センサー法(JIS K 7129:2008)により、76cmHg(1atm)、25℃で、水蒸気透過量を測定した。測定は、透過セルにサンプルをセットした後、系内を湿度8%以下まで乾燥させ、サンプルを介して透過した水蒸気量を湿度の変化から算出した。標準サンプルとしてPETフィルムを用いて水蒸気透過量(WVTR:g/m
2/day)を測定したところ、100μm厚で6.9g/m
2/dayであった。
水蒸気透過量は、以下の(1)式により求められる。
水蒸気透過量(g/m
2/24h)=6.9×273.552/t ・・・(1)
(t:湿度が8%から12%まで変化するのに要した時間/膜厚[μm]×100)
測定結果から求めた水蒸気透過量を
図9のグラフに示す。一般に、ポリ乳酸は、気体(空気)、水蒸気等の透過速度が高く、バリアー性が低いという性質を示すが、
図9より、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料は、シリカ含有量とともに水蒸気透過速度が低下し、良好なバリアー性が付与されることが確認された。
【0047】
<9>吸水率測定
キャストフィルムから1cm×3cmの試験片を切り出し、質量(W
1)を測定した。イオン交換水20mlに対して試験片1枚を浸し、23.0℃で24時間静置した。イオン交換水から試験片を取り出し、試験片表面に付着した水滴を除去した後、試験片の質量(W
2)を測定した。その結果から、以下の(2)式を用いて吸水率を測定した。
吸水率(%)=(W
2−W
1)/W
1×100 ・・・(2)
測定結果から求めた吸水率を
図10のグラフに示す。一般に、ポリ乳酸は、吸水率が低いという性質を示すが、
図10より、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料は、シリカ含有量とともに吸水率が増大し、良好な吸水性が付与されることが確認された。
【0048】
<10>酵素分解性測定
キャストフィルムから1cm×3cmの試験片を切り出し、質量(W
a)を測定した。Tris−HCl buffer(25mM、pH8.6)にproteinase Kが50μg/mlとなるよう溶解させた後、酵素溶液5mlに対して試験片1枚を浸した。その後、37.0℃で1週間攪拌を行った。1週間後の試験片はエタノールで洗浄後、40℃で24時間真空乾燥させ、質量(W
b)を測定した。その結果から、以下の(3)式を用いて分解率を測定した。
分解率(%)=(W
a−W
b)/W
a×100 ・・・(3)
測定結果から求めた分解率を
図11のグラフに示す。
図11より、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料は、シリカ含有量とともに分解率が増大し、良好な酵素分解性が付与されることが確認された。
【0049】
<11>酸素透過測定
酸素輸送特性を評価するため、気体透過測定を定容法により、76cmHg(1atm)、25℃において行った。まず透過セルにサンプルをセットした後、系内を真空に保ち、十分乾燥させた。その後、高圧側に測定気体を導入し、サンプルを介して低圧側に透過してきた気体の圧力変化を記録した。定常状態に達した後の圧力−時間直線の傾きから透過速度dp/dt(cmHg/sec.)を求め、その結果から、以下の(4)式、(5)式、(6)式を用いて、透過係数P(cm
3STPcm/cm
2sec.cmHg)、拡散係数D(cm
2/sec.)、及び溶解度係数S(cm
3STPcm
3polym.cmHg)を算出した。
P=273/T・V/A・L・1/p・1/76・dp/dt ・・・(4)
D=L
2/6θ ・・・(5)
P=D・S ・・・(6)
ここで、Tは測定温度(K)、Aは透過面積(cm
2)、Vは低圧側体積、Lは膜厚(cm)、pは高圧側圧力(cmHg)、θは定常状態に達するまでの遅れ時間(sec.)である。
測定結果から求めた酸素透過性を
図12のグラフに示す。
図12より、分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料は、TMOS系ハイブリッドではシリカ含有量とともに酸素透過性が低下し、MTMS系ハイブリッドではシリカ含有量とともに酸素透過性が向上することが確認された。この結果は、分岐ポリ乳酸の酸素透過性をハイブリッド構造で制御できることを示唆している。
【0050】
<12>透過型電子顕微鏡(TEM)観察
実施例1の6分岐構造を有するポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料について、日本電子株式会社製JEM−2010SPを使用し、加速電圧200kVの条件下で観察した。電子顕微鏡写真を
図12に示す。実施例1のポリ乳酸/シリカ系ハイブリッド材料は、20nm程度の一次粒子の凝集が確認されたが、その一次粒子の分散性は良好であった。