【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、裏金上に形成された多孔質金属層中に樹脂層を含浸被覆し、前記樹脂層が内周面となるように円筒形状に成型することにより、車両の車輪と車体との間に組み付けられるショックアブソーバに用いられて軸線方向に往復摺動するピストンロッドを支持する車両用のショックアブソーバ用の摺動部材において、前記樹脂層の表面には、凹凸形状を形成すると共に、前記凹凸形状の隣り合う凸部の頂点間の平均距離をRSm、前記凹凸形状の底辺から凸部の頂点までの平均高さをRcとしたとき、式(1)によって表わされるクッション性指数X(式(1)・・RSm×Rc÷2)が2.5×10
3(μm)
2≦X≦5.0×10
3(μm)
2、且つ、RSm≧0.5×10
3μm、Rc≧10μmを満たす凹凸形状領域が形成されることを特徴とする。なお、クッション性指数Xが2.5×10
3(μm)
2≦X≦5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域において、RSmの上限値は1×10
3μm、Rcの上限値は20μmとすることが望ましい。
【0009】
また、請求項2に係る発明においては、請求項1記載の車両用のショックアブソーバ用の摺動部材において、前記摺動部材の内周面のうち前記軸線方向の車体側の端部側における前記樹脂層の表面には、前記クッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成されることを特徴とする。なお、クッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域において、RSmは0.2×10
3〜0.5×10
3μm、Rcは5〜10μmとすることが望ましい。また、クッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域は、摺動部材の内周面における軸線方向の車体側の端部からの長さが、摺動部材の内周面における軸線方向の長さに対して75%未満となる領域に形成されることが望ましく、より望ましくは、50%未満となる領域に形成されることである。
【0010】
さらに、請求項3に係る発明においては、請求項1又は請求項2記載の車両用のショックアブソーバ用の摺動部材において、前記クッション性指数Xが2.5×10
3(μm)
2≦X≦5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域は、前記摺動部材の内周面における前記軸線方向の車輪側の端部からの長さが、前記摺動部材の内周面における前記軸線方向の長さに対して25%以上となる領域に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明においては、樹脂層4の表面には、凹凸形状(円錐または角錐)を形成すると共に、凹凸形状の隣り合う凸部の頂点間の平均距離をRSm、凹凸形状の底辺から凸部の頂点までの平均高さをRcとしたとき、式(1)によって表わされるクッション性指数Xが2.5×10
3(μm)
2≦X(式(1)・・RSm×Rc÷2)≦5.0×10
3(μm)
2、且つ、RSm≧0.5×10
3μm、Rc≧10μmを満たす凹凸形状領域を形成するようにした。まず、摺動部材1における樹脂層4の表面に形成された凹凸形状を表すクッション性指数Xについて、
図1を参照して説明する。
図1には、摺動部材1の断面図を示す。クッション性指数Xとは、
図1に示すように、凹凸形状の隣り合う凸部4aの頂点間の平均距離をRSm、凹凸形状の底辺から凸部4aの頂点までの平均高さをRcとしたとき、X=RSm×Rc÷2から算出される値であり、樹脂層4の表面における凹凸形状の平均的な凸部4aの断面積(凹凸形状の隣り合う凸部4aの平均的な隙間の断面積に合同)に相当している。
【0012】
次に、樹脂層4の表面にクッション性指数Xが2.5×10
3(μm)
2≦X≦5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成される場合について、
図2を参照して説明する。
図2には、クッション性指数Xが2.5×10
3(μm)
2≦X≦5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域に荷重が加えられた場合における凹凸形状の弾性変形を説明するための樹脂層4の断面図を示す。
図2(A)に示すように、クッション性指数Xが2.5×10
3(μm)
2≦X≦5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成された樹脂層4の表面においては、凹凸形状における凸部4aの断面積が大きいが、
図2(B)に示すように、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、凸部4aの弾性変形量が少ない。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積(ピストンロッドとの接触により凹凸形状における凸部4aの頂点が弾性変形したときの平滑な面の面積)を小さく維持すると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積を維持することにより油の流路を確保し、低摩擦力を維持する。一方、
図2(C)に示すように、樹脂層4に加えられる荷重が高い場合には、凸部4aの弾性変形量が多い。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積が大きくなると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積が減少することにより油の流路が塞がれ、ピストンロッドとの摩擦力が増大する。
【0013】
一方、樹脂層4の表面にクッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成される場合について、
図3を参照して説明する。
図3には、クッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域に荷重が加えられた場合における凹凸形状の弾性変形を説明するための樹脂層4の断面図を示す。
図3(A)に示すように、クッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成された樹脂層4の表面においては、凹凸形状における凸部4aの断面積が小さく、
図3(B)に示すように、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、凸部4aの弾性変形量が少ない。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積を小さく維持すると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積を維持することにより油の流路を確保し、低摩擦力を維持する。これに対し、
図3(C)に示すように、樹脂層4に加えられる荷重が高い場合にも、凹凸形状における凸部4aの機械的強度が高くクッション性がないため、凸部4aの弾性変形量が少ない。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積を小さく維持すると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積の変化が小さいことにより油の流路が塞がれることがなく、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合と同等に低摩擦力を維持する。
【0014】
また、樹脂層4の表面にクッション性指数XがX>5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成される場合について、図示しないが、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合にも、凹凸形状における凸部4aの機械的強度が低くクッション性が高過ぎるため、凸部4aの弾性変形量が多い。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積が大きくなると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積の変化が大きいことにより油の流路が塞がれてしまい、低摩擦力を維持することができない。
【0015】
ところで、ショックアブソーバは、オリフィスを有するピストンをシリンダ内に配した油圧式の周知構成のもので、シリンダを車輪側に、ピストンロッドを車体側にそれぞれ取り付けるようにしているが、通常、ショックアブソーバの軸方向は、車輪及び車体の往復移動方向に対して傾けて配設されるため、ピストンロッドに対して摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4が主に片当りしている。このようなショックアブソーバでは、車両が平滑な路面を走行時に車体が殆ど傾くことがなく、縮み動作時・伸び動作時にショックアブソーバにはあまり負荷がかからないため、配設時のようにピストンロッドに対して摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4が主に片当りする。しかしながら、車両が凹凸のある路面を走行時には、車体の傾きにより車体が沈み込む側の縮み動作をするショックアブソーバに加えられる荷重が高く、ピストンロッドがたわみ、ピストンロッドに対して摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4だけでなく、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4にも片当りが発生するようになる。一方、車両が凹凸のある路面を走行時であっても、車体が浮き上がる側の伸び動作をするショックアブソーバにはあまり負荷がかからないため、ピストンロッドに対して摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4が主に片当りしている。
【0016】
上記したショックアブソーバの機構を考慮して、樹脂層4の表面には、クッション性指数Xが2.5×10
3(μm)
2≦X≦5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域を形成するようにした。例えば、車両が平滑な路面を走行時には、縮み動作時・伸び動作時にショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。また、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、
図2(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすく、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズであるため、伸び動作・縮み動作を繰り返しやすくなり、ショックアブソーバが減衰力を発生させやすい。
【0017】
一方、車両が凹凸のある路面を走行時には、車体の傾きにより縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4にも片当りが発生するようになり、摺動部材1の車体側・車両側の両端部側の樹脂層4とピストンロッド間に摩擦力が同時に発生する。また、樹脂層4に加えられる荷重が高い場合には、
図2(C)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が増大するので、ピストンロッドが滑り難く、ピストンロッドのシリンダ内への侵入量が抑えられるため、縮み動作の振幅が小さくなり、車体の傾きを小さくすることができる。これに対し、車両が凹凸のある路面を走行時であっても、伸び動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。また、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、
図2(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすくシリンダ内から出やすいため、早期に伸び動作が起こり、路面に車輪を接地させることができる。
【0018】
なお、例えば特許文献1に開示される技術のように、単に摺動面(樹脂層4)を低摩擦化した摺動部材1における樹脂層4の表面には、クッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成されている。例えば、車両が平滑な路面を走行時には、縮み動作時・伸び動作時にショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。また、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、
図3(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすく、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズであるため、伸び動作・縮み動作を繰り返しやすくなり、ショックアブソーバが減衰力を発生させやすい。しかしながら、車両が凹凸のある路面を走行時には、車体の傾きにより縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4にも片当りが発生するようになるが、樹脂層4に加えられる荷重が高い場合であっても、
図3(C)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑り過ぎてシリンダ内に深く侵入するため、車体の傾きが大きくなってしまう。
【0019】
また、樹脂層4の表面にクッション性指数XがX>5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成される場合について、例えば、車両が平滑な路面を走行時には、縮み動作時・伸び動作時にショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。しかしながら、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合であっても、凹凸形状における凸部4aの機械的強度が低く、凸部4aが容易に弾性変形することにより低摩擦力を維持することができないので、ピストンロッドが滑り難く、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズでなくなるため、伸び動作・縮み動作を繰り返し難くなり、ショックアブソーバが十分な減衰力を発生させることができない。
【0020】
したがって、本願の発明者は、例えば特許文献1に開示される技術のように、単に摺動部材1の摺動面(樹脂層4)を低摩擦化だけで走行安定性を向上させようという発想とは異なり、樹脂層4の表面に制御された凹凸形状領域を形成することにより、ショックアブソーバの伸び動作と縮み動作のそれぞれにおいて、即座に摺動部材1とピストンロッド間に路面の状態に応じた摩擦力を発生させることに注目した。これにより、縮み動作側のショックアブソーバでは振幅を抑えるのに対し、伸び動作側のショックアブソーバでは路面への車輪の接地を確保し、車両の走行安定性を向上することが可能であることを見出した。
【0021】
なお、凹凸形状の隣り合う凸部4aの頂点間の平均距離RSmは、RSm≧0.5×10
3μmに設定されるものであるが、RSm≧0.5×10
3μmで形成しなければ、凹凸形状の底辺から凸部4aの頂点までの平均高さRcをRc≧10μmで形成することが加工上困難であるためである。また、凹凸形状の底辺から凸部4aの頂点までの平均高さRcは、Rc≧10μmに設定されるものであるが、凹凸形状の底辺から凸部4aの頂点までの平均高さRcをRc<10μmで形成すると、樹脂層4に加えられる荷重に関わらず、凹凸形状における凸部4aの機械的強度が高くクッション性がないため、凸部4aの弾性変形量が少ない。すなわち、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積を小さく維持すると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積の変化が小さいことにより油の流路が塞がれることがなく、低摩擦力を維持してしまう。
【0022】
次に、請求項2に係る発明においては、摺動部材1の内周面のうち軸線方向の車体側の端部側における樹脂層4の表面には、クッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域を形成するようにした。上記したように、車両が凹凸のある路面を走行時には、伸び動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。また、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、
図3(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすくシリンダ内から出やすいため、早期に伸び動作が起こり、路面に車輪を接地させることができる。
【0023】
なお、摺動部材1の車体側の端部側における樹脂層4の表面にクッション性指数XがX≧2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成される場合について、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、
図2(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられる。しかしながら、摺動部材1の車体側の端部側における樹脂層4の表面にクッション性指数XがX<2.5×10
3(μm)
2の凹凸形状領域が形成される場合と比べると、樹脂層4に加えられる荷重が同じであっても、凹凸形状における凸部4aの弾性変形量が多く、隣り合う凸部4aの隙間の体積が減少することにより油の流路が塞がれてしまい、ピストンロッドとの摩擦力が僅かに増加する傾向にある。
【0024】
したがって、本願の発明者は、例えば特許文献1に開示される技術のように、摺動部材1の摺動面(樹脂層4)の粗さを一様とすることにより、ショックアブソーバが伸び動作と縮み動作をする際のピストンロッドの滑り方を常に変化させない場合とは異なり、摺動部材1の車体側・車両側の端部側のそれぞれにおいて、樹脂層4の表面に制御された異なる凹凸形状領域を組み合わせることにより、ショックアブソーバの伸び動作と縮み動作のそれぞれにおいて、即座に摺動部材1とピストンロッド間に路面の状態に応じた摩擦力を発生させることに注目した。これにより、縮み動作側のショックアブソーバでは振幅を抑えるのに対し、伸び動作側のショックアブソーバでは路面への車輪の接地を確保しやすく、車両の走行安定性を向上することが可能であることを見出した。
【0025】
さらに、請求項3に係る発明においては、クッション性指数Xが2.5 ×10
3(μm)
2≦X≦5.0×10
3(μm)
2の凹凸形状領域は、摺動部材1の内周面における軸線方向の車輪側の端部からの長さが、摺動部材1の内周面における軸線方向の長さに対して25%以上となる領域に形成するようにした。これによれば、摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4における上記クッション性指数の凹凸形状領域とピストンロッド間で接触する領域を十分に確保すると共に、その樹脂層4に加えられる荷重の高低により、凹凸形状における凸部4aの弾性変形量の変化の総量が多いため、隣り合う凸部4aの隙間の体積が減少する変化の総量も多く、路面の状態に応じて発生するピストンロッドとの摩擦力の変化に十分な効果を得ることができる。
【0026】
一方、上記クッション性指数の凹凸形状領域を摺動部材1の軸線方向の長さに対して25%未満となる領域に形成しただけでは、摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4における上記クッション性指数の凹凸形状領域とピストンロッド間で接触する領域を十分に確保することができないと共に、その樹脂層4に加えられる荷重の高低により、凹凸形状における凸部4aの弾性変形量の変化の総量が少ないため、隣り合う凸部4aの隙間の体積が減少する変化の総量も少なく、路面の状態に応じて発生するピストンロッドとの摩擦力の変化に効果がなくなってしまう。