特許第5662213号(P5662213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662213
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 6/26 20071001AFI20150108BHJP
   B60K 6/22 20071001ALI20150108BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20150108BHJP
   B60W 20/00 20060101ALI20150108BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20150108BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20150108BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20150108BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20150108BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   B60K6/26ZHV
   B60K6/22
   B60K6/20 360
   B60K6/20 320
   B60K6/20 400
   B60K6/442
   B60K6/54
   F16D25/14 640S
   B60L11/14
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-60449(P2011-60449)
(22)【出願日】2011年3月18日
(65)【公開番号】特開2012-196980(P2012-196980A)
(43)【公開日】2012年10月18日
【審査請求日】2013年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮野 竜也
(72)【発明者】
【氏名】土屋 英滋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆男
(72)【発明者】
【氏名】村上 新
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】遠山 智之
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−012937(JP,A)
【文献】 特開平11−336579(JP,A)
【文献】 特表2005−512492(JP,A)
【文献】 米国特許第05698905(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/26
B60K 6/22
B60K 6/442
B60K 6/54
B60L 11/14
B60W 10/02
B60W 10/08
B60W 20/00
F16D 48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能であり、駆動軸へ動力を伝達する第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
蓄電装置と固定子導体との間で電力変換を行う第1電力変換装置と、
蓄電装置及び第1電力変換装置のいずれかと回転子導体との間で電力変換を行う第2電力変換装置と、
第1回転子に連結された第1回転部材と第2回転子に連結された第2回転部材との間で伝達されるトルクを調整可能なクラッチ機構と、
第1電力変換装置での電力変換を制御して固定子導体の交流電流により固定子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御し、第2電力変換装置での電力変換を制御して回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御する制御装置と、
を備え、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、第2電力変換装置で電力変換される電力量を所定量以下に制限するように回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間に作用させる回転子間トルクを制御し、前記回転子間トルクまたは第2回転子と第1回転子との回転速度差に基づいてクラッチ機構の第1回転部材と第2回転部材との間に作用させるクラッチトルクを制御し、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、前記回転子間トルクが設定トルクよりも小さいときは前記クラッチトルクを作用させ、前記回転子間トルクが設定トルク以上であるときは前記クラッチトルクを作用させない、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、第2電力変換装置で電力変換される電力量を前記所定量にする条件での前記回転子間トルクが前記設定トルクよりも小さいときに、前記クラッチトルクを作用させる、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の動力伝達装置であって、
前記設定トルクは、エンジンの要求クランキングトルクである、動力伝達装置。
【請求項4】
エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能であり、駆動軸へ動力を伝達する第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
蓄電装置と固定子導体との間で電力変換を行う第1電力変換装置と、
蓄電装置及び第1電力変換装置のいずれかと回転子導体との間で電力変換を行う第2電力変換装置と、
第1回転子に連結された第1回転部材と第2回転子に連結された第2回転部材との間で伝達されるトルクを調整可能なクラッチ機構と、
第1電力変換装置での電力変換を制御して固定子導体の交流電流により固定子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御し、第2電力変換装置での電力変換を制御して回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御する制御装置と、
を備え、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、第2電力変換装置で電力変換される電力量を所定量以下に制限するように回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間に作用させる回転子間トルクを制御し、前記回転子間トルクまたは第2回転子と第1回転子との回転速度差に基づいてクラッチ機構の第1回転部材と第2回転部材との間に作用させるクラッチトルクを制御し、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、第2回転子と第1回転子との回転速度差が設定速度差よりも大きいときは前記クラッチトルクを作用させ、第2回転子と第1回転子との回転速度差が設定速度差以下であるときは前記クラッチトルクを作用させない、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項〜4のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、前記クラッチトルクを作用させるときは、前記回転子間トルクとエンジンの要求クランキングトルクとに基づいて前記クラッチトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項〜5のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、前記クラッチトルクを作用させるときは、第2回転子と第1回転子との回転速度差の減少に応じて、前記回転子間トルクを増加させるとともに前記クラッチトルクを減少させる、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、前記回転子間トルクと前記クラッチトルクと駆動軸の要求トルクとに基づいて固定子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項8】
エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能であり、駆動軸へ動力を伝達する第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
蓄電装置と固定子導体との間で電力変換を行う第1電力変換装置と、
蓄電装置及び第1電力変換装置のいずれかと回転子導体との間で電力変換を行う第2電力変換装置と、
第1回転子に連結された第1回転部材と第2回転子に連結された第2回転部材との間で伝達されるトルクを調整可能なクラッチ機構と、
第2回転子と駆動軸との間の動力伝達を許容または遮断する動力断続機構と、
第1電力変換装置での電力変換を制御して固定子導体の交流電流により固定子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御し、第2電力変換装置での電力変換を制御して回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御する制御装置と、
を備え、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、第2電力変換装置で電力変換される電力量を所定量以下に制限するように回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間に作用させる回転子間トルクを制御し、前記回転子間トルクまたは第2回転子と第1回転子との回転速度差に基づいてクラッチ機構の第1回転部材と第2回転部材との間に作用させるクラッチトルクを制御し、
制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、駆動軸に駆動トルクが要求されていない条件では、動力断続機構により第2回転子と駆動軸との間の動力伝達を遮断し、さらに、第2回転子と第1回転子との回転速度差が設定速度差よりも大きいときは前記回転子間トルクを作用させずに前記クラッチトルクを作用させ、第2回転子と第1回転子との回転速度差が設定速度差以下であるときは前記クラッチトルクを作用させずに前記回転子間トルクを作用させる、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、エンジンからの動力を回転子同士の電磁気結合を利用して駆動軸へ伝達することが可能な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1による動力伝達装置は、ロータ巻線が配設されエンジンからの動力が伝達される入力側ロータと、入力側ロータのロータ巻線と電磁気的に結合する磁石が配設され車輪へ動力を伝達する出力側ロータと、出力側ロータの磁石と電磁気的に結合するステータ巻線が配設されたステータと、ロータ巻線と電気的に接続されたスリップリングと、スリップリングと電気的に接触するブラシと、蓄電装置とステータ巻線との間で電力を授受可能に制御するインバータと、スリップリング及びブラシで取り出されたロータ巻線からの交流電力を整流する整流器と、整流器で整流された電力を昇圧して蓄電装置またはインバータへ供給する昇圧コンバータと、出力側ロータと車輪との間のトルク伝達を許容または遮断するクラッチと、を備える。特許文献1においては、入力側ロータに伝達されたエンジンからの動力は、入力側ロータのロータ巻線と出力側ロータの磁石との電磁気結合によって出力側ロータに伝達されるため、エンジンの動力により車輪を駆動することができる。また、ステータ巻線と出力側ロータの磁石との電磁気結合によって、蓄電装置からインバータを介してステータ巻線に供給された電力を用いて出力側ロータに動力を発生させて車輪を駆動することができるため、エンジンが動力を発生していなくても車輪を駆動することができる。また、エンジンを始動する場合には、出力側ロータをエンジン回転方向に回転駆動するようにステータから出力側ロータにトルクを作用させるとともに、入力側ロータと出力側ロータとの間にトルクが作用するように昇圧コンバータでの昇圧比を制御する。さらに、車輪の要求トルクに基づいてクラッチにより出力側ロータと車輪との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、出力側ロータと車輪との間のトルク伝達を許容するときは、入力側ロータと出力側ロータとの間に作用するトルクと、車輪の要求トルクとに基づいて、ステータから出力側ロータに作用するトルクを制御する。これによって、車輪の駆動条件に関係なくエンジンの始動を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−12937号公報
【特許文献2】特開平9−56010号公報
【特許文献3】特開2009−73472号公報
【特許文献4】特開2009−274536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、車輪が回転している状態でエンジンを始動する場合に、整流器及び昇圧コンバータによる電力変換装置を通過する電力量は、出力側ロータと入力側ロータとの間に作用するトルクと、出力側ロータと入力側ロータの回転速度差との積に相当する。そのため、車輪が回転している状態で、出力側ロータと入力側ロータとの間に作用するトルクによりエンジンの始動に十分なクランキングトルクをエンジンに作用させようとすると、車輪(出力側ロータ)の回転速度が高いほど、整流器及び昇圧コンバータによる電力変換装置を通過する電力量が増加するため、電力変換装置の容量を大きく設定する必要がある。一方、電力変換装置の容量を小さく設定しようとすると、車輪(出力側ロータ)の回転速度が高いときに、出力側ロータと入力側ロータとの間に作用するトルクによりエンジンの始動に十分なクランキングトルクをエンジンに作用させることが困難となるため、エンジンの始動性が低下する。
【0005】
本発明は、電力変換装置の容量の増大を招くことなく、エンジンの始動性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る動力伝達装置は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明に係る動力伝達装置は、エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、第1回転子に対し相対回転可能であり、駆動軸へ動力を伝達する第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、蓄電装置と固定子導体との間で電力変換を行う第1電力変換装置と、蓄電装置及び第1電力変換装置のいずれかと回転子導体との間で電力変換を行う第2電力変換装置と、第1回転子に連結された第1回転部材と第2回転子に連結された第2回転部材との間で伝達されるトルクを調整可能なクラッチ機構と、第1電力変換装置での電力変換を制御して固定子導体の交流電流により固定子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御し、第2電力変換装置での電力変換を制御して回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、第2電力変換装置で電力変換される電力量を所定量以下に制限するように回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間に作用させる回転子間トルクを制御し、前記回転子間トルクまたは第2回転子と第1回転子との回転速度差に基づいてクラッチ機構の第1回転部材と第2回転部材との間に作用させるクラッチトルクを制御することを要旨とする。
【0008】
さらに、本発明では、制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、前記回転子間トルクが設定トルクよりも小さいときは前記クラッチトルクを作用させ、前記回転子間トルクが設定トルク以上であるときは前記クラッチトルクを作用させない。
【0009】
本発明の一態様では、制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、第2電力変換装置で電力変換される電力量を前記所定量にする条件での前記回転子間トルクが前記設定トルクよりも小さいときに、前記クラッチトルクを作用させることが好適である。
【0010】
本発明の一態様では、制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、前記クラッチトルクを作用させるときは、前記回転子間トルクとエンジンの要求クランキングトルクとに基づいて前記クラッチトルクを制御することが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、前記クラッチトルクを作用させるときは、第2回転子と第1回転子との回転速度差の減少に応じて、前記回転子間トルクを増加させるとともに前記クラッチトルクを減少させることが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、前記設定トルクは、エンジンの要求クランキングトルクであることが好適である。
【0013】
また、本発明では、制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、第2回転子と第1回転子との回転速度差が設定速度差よりも大きいときは前記クラッチトルクを作用させ、第2回転子と第1回転子との回転速度差が設定速度差以下であるときは前記クラッチトルクを作用させない。
【0014】
本発明の一態様では、制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、前記回転子間トルクと前記クラッチトルクと駆動軸の要求トルクとに基づいて固定子と第2回転子との間に作用させるトルクを制御することが好適である。
【0015】
また、本発明では、第2回転子と駆動軸との間の動力伝達を許容または遮断する動力断続機構をさらに備え、制御装置は、第2回転子及び駆動軸が回転している状態でエンジンの始動を行う場合に、駆動軸に駆動トルクが要求されていない条件では、動力断続機構により第2回転子と駆動軸との間の動力伝達を遮断し、さらに、第2回転子と第1回転子との回転速度差が設定速度差よりも大きいときは前記回転子間トルクを作用させずに前記クラッチトルクを作用させ、第2回転子と第1回転子との回転速度差が設定速度差以下であるときは前記クラッチトルクを作用させずに前記回転子間トルクを作用させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第2回転子及び駆動軸が回転している状態で回転子間トルクを制御してエンジンの始動を行う場合に、回転子間トルクまたは第2回転子と第1回転子との回転速度差に基づいて制御されるクラッチトルク分、第2電力変換装置で電力変換される電力量を減少させることができるとともに、エンジンのクランキングトルクを増加させることができる。その結果、第2電力変換装置の容量の増大を招くことなく、エンジンの始動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
図3】回転電機10の入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16の構成例を示す図である。
図4】回転電機10の入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16の構成例を示す図である。
図5】エンジンの始動を行う場合に電子制御ユニットにより実行される処理の一例を説明するフローチャートである。
図6図5のフローチャートの処理を実行する場合のエンジン始動動作を説明する図である。
図7】エンジンの始動を行う場合に電子制御ユニットにより実行される処理の他の例を説明するフローチャートである。
図8図7のフローチャートの処理を実行する場合のエンジン始動動作を説明する図である。
図9】エンジンの始動を行う場合に電子制御ユニットにより実行される処理の他の例を説明するフローチャートである。
図10図9のフローチャートの処理を実行する場合のエンジン始動動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0019】
図1〜3は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2,3は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と駆動軸37(車輪38)との間に設けられ、変速比の変更が可能な変速機(機械式変速機)44と、エンジン36と変速機44との間に設けられ、動力(機械的動力)の発生及び発電が可能な回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。
【0020】
回転電機10は、図示しないステータケースに固定されたステータ16と、ステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ロータ回転軸と直交する径方向においてステータ16及び第1ロータ28と所定の空隙を空けて対向し、ステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。ステータ16は、第1ロータ28より径方向外側の位置に第1ロータ28と間隔を空けて配置されており、第2ロータ18は、径方向においてステータ16と第1ロータ28との間の位置に配置されている。つまり、第1ロータ28は第2ロータ18より径方向内側の位置で第2ロータ18と対向配置されており、ステータ16は第2ロータ18より径方向外側の位置で第2ロータ18と対向配置されている。第1ロータ28はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は変速機44を介して駆動軸37に機械的に連結されていることで、駆動軸37(車輪38)には第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されてから伝達される。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
【0021】
入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0022】
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0023】
出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。
【0024】
入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。
【0025】
クラッチ48は、エンジン36と変速機44との間に、回転電機10(入力側ロータ28及び出力側ロータ18)に対し並列に設けられており、入力側ロータ28に機械的に連結されたクラッチ板(第1回転部材)48aと出力側ロータ18に機械的に連結されたクラッチ板(第2回転部材)48bとの係合/解放により、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合及びその解除を選択的に行うことが可能である。クラッチ板48aとクラッチ板48bとを係合させて、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のクラッチ48を介したトルク伝達が許容され、入力側ロータ28と出力側ロータ18とが一体となって等しい回転速度で回転する。一方、クラッチ板48aとクラッチ板48bとを解放して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合を解除することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転速度差が許容される。ここでのクラッチ48は、例えば油圧や電磁力を利用してクラッチ板48aとクラッチ板48bとの係合/解放を切り替えることが可能であり、さらに、クラッチ48に供給する油圧力や電磁力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することもできる。クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容しながら、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの間で伝達されるトル(摩擦トルク)を調整することが可能となり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間でクラッチ48を介して伝達されるトルクを調整することが可能となる。
【0026】
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。蓄電装置42とステータ巻線20との間で電力変換を行う第1電力変換装置として設けられたインバータ40は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の電力変換も可能である。このように、インバータ40は、蓄電装置42とステータ巻線20との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
【0027】
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、さらに、ロータ巻線30の各相と電気的に接続されている。回転が固定されたブラシ96は、スリップリング95に押し付けられて電気的に接触する。スリップリング95は、ブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接触を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、インバータ41と電気的に接続されている。蓄電装置42及びインバータ40のいずれかとロータ巻線30との間で電力変換を行う第2電力変換装置として設けられたインバータ41は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。その際には、ロータ巻線30の交流電力がスリップリング95及びブラシ96により取り出され、この取り出された交流電力がインバータ41で直流に変換される。インバータ41で直流に変換された電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、インバータ41からの直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、インバータ41で直流に変換された電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、インバータ41は、蓄電装置42及びインバータ40のいずれかとロータ巻線30との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
【0028】
電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御してインバータ40での電力変換を制御することで、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作を制御してインバータ41での電力変換を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、クラッチ48の係合/解放を切り替えることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を切り替える制御も行う。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速比の制御も行う。
【0029】
インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からインバータ40を介してステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができ、ステータ16及び出力側ロータ18を同期電動機(PMモータ部)として機能させることができる。さらに、出力側ロータ18の動力をステータ巻線20の電力に変換してインバータ40を介して蓄電装置42に回収することも可能である。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流す交流電流の振幅や位相角を制御することで、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用するトルクを制御することができる。
【0030】
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流(交流電流)が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、入力側ロータ28及び出力側ロータ18を誘導電磁カップリング部として機能させることができる。
【0031】
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(電磁カップリングトルク)を発生させる際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。その際には、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に流れる交流電流を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子をオフ状態に維持してスイッチング動作を停止させることで、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
【0032】
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の動作について説明する。
【0033】
エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。クラッチ48が解放されている状態で、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。これによって、ロータ巻線30の誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクが作用して出力側ロータ18がエンジン回転方向に回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから駆動軸37(車輪38)へ伝達されることで、車両の前進駆動等、負荷の正転駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動することができ、車両を前進方向に駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。そのため、回転電機10を発進装置として機能させることができ、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。
【0034】
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力はインバータ41で直流に変換される。そして、インバータ40のスイッチング動作により、インバータ41からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ巻線20に交流電流が流れ、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクを作用させることができる。これによって、出力側ロータ18のエンジン回転方向のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、インバータ41からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
【0035】
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。
【0036】
また、クラッチ48を係合して入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に連結することで、ロータ巻線30に交流電流が流れず入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用しなくても、エンジン36からの動力をクラッチ48を介して駆動軸37(車輪38)へ伝達することができる。これによって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のすべりに伴ってロータ巻線30に誘導電流が流れることで生じるジュール損失を抑えることが可能となる。
【0037】
また、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行う場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してステータ巻線20へ供給するように、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、駆動軸37(車輪38)を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給により車輪38を回転駆動することができる。なお、EV走行を行う場合は、クラッチ48を解放状態に制御する。
【0038】
また、EV走行やフリーラン(駆動軸37に駆動トルクが伝達されずに車両が惰性で走行する状態)等、出力側ロータ18及び駆動軸37(車輪38)が回転している状態でエンジン36を始動する場合は、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、出力側ロータ18から入力側ロータ28にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクを作用させることが可能となり、入力側ロータ28を回転駆動してエンジン36のクランキングを行うことが可能となる。その場合に、インバータ41で交流から直流に電力変換される電力量(ロータ巻線30での発電電力量)は、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用する電磁カップリングトルクと、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差との積に相当する。そのため、出力側ロータ18及び駆動軸37が回転している状態で、電磁カップリングトルクによりエンジン36の始動に十分なクランキングトルクをエンジン36に作用させようとすると、車速(出力側ロータ18の回転速度)が高いほど、インバータ41で電力変換される電力量が増加するため、インバータ41の電気容量を大きく設定する必要がある。一方、インバータ41の電気容量を小さく設定しようとすると、車速(出力側ロータ18の回転速度)が高いときに、電磁カップリングトルクによりエンジン36の始動に十分なクランキングトルクをエンジン36に作用させることが困難となるため、エンジン36の始動性が低下し、さらに、エンジン停止状態でEV走行可能な最高車速(駆動軸37の最高回転速度)も低下する。
【0039】
そこで、本実施形態では、EV走行やフリーラン等、出力側ロータ18及び駆動軸37が回転している状態でエンジン36を始動する場合は、インバータ41で交流から直流に電力変換される電力量(ロータ巻線30での発電電力量)を所定量以下(例えばインバータ41の電気容量以下)に制限するように、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルク(回転子間トルク)を作用させる。さらに、電磁カップリングトルクだけでなく、クラッチ48のクラッチ板48aとクラッチ板48bとの間に作用する摩擦トルク(クラッチトルク)も併用して、入力側ロータ28を回転駆動してエンジン36のクランキングを行う。以下、出力側ロータ18及び駆動軸37が回転している状態でエンジン36を始動する場合に、電子制御ユニット50が実行する処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0040】
図5のフローチャートの処理では、まずステップS101において、ロータ巻線30での発電電力量Pcoupをインバータ41の電気容量以下に制限する条件での、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に発生可能な電磁カップリングトルクの最大値Tcmaxが、出力側ロータ18の回転速度Nmgと入力側ロータ28の回転速度Nengとの差Nmg−Nengから算出される。ここでは、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが大きいほど、電磁カップリングトルクの最大値Tcmaxが小さくなる。ステップS102では、ステップS101で算出された電磁カップリングトルクの最大値Tcmaxがエンジン36の要求クランキングトルクTereqよりも小さいか否かが判定される。
【0041】
ステップS102でTcmax<Tereqの場合は(ステップS102の判定結果がYESの場合)は、ステップS103において、電磁カップリングトルクの目標値がTcmaxに設定され、ロータ巻線30の交流電流により出力側ロータ18と入力側ロータ28との間に作用させる電磁カップリングトルクTcoupが目標値Tcmaxになるように、インバータ41での電力変換(スイッチング動作)が制御される。その際には、インバータ41で交流から直流に電力変換される電力量(ロータ巻線30での発電電力量)Pcoupが所定量(インバータ41の電気容量)になるように、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用させるエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupが出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengに基づく目標値Tcmaxに制御される。
【0042】
一方、ステップS102でTcmax≧Tereqの場合は(ステップS102の判定結果がNOの場合)は、ステップS104において、電磁カップリングトルクの目標値がTereqに設定され、ロータ巻線30の交流電流により出力側ロータ18と入力側ロータ28との間に作用させる電磁カップリングトルクTcoupが目標値Tereqになるように、インバータ41での電力変換が制御される。その際には、インバータ41で交流から直流に電力変換される電力量Pcoupが所定量以下(インバータ41の電気容量以下)に制限されるように、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用させるエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupが目標値Tereqに制御される。
【0043】
ステップS105では、電磁カップリングトルクTcoupに基づいて、クラッチ48のクラッチ板48aとクラッチ板48bとの間に作用させる摩擦トルクTclが制御される。ここでは、クラッチ板48bからクラッチ板48aに作用させるエンジン回転方向の摩擦トルクTclが要求クランキングトルクTereqと電磁カップリングトルクTcoupとの差Tereq−Tcoupになるように、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力が制御される。ステップS102でTcmax<Tereqとなり、電磁カップリングトルクTcoupが要求クランキングトルクTereq(設定トルク)よりも小さい場合は、クラッチ48に摩擦トルクTclを作用させ、要求クランキングトルクTereqに足りない分を摩擦トルクTclで補うように、電磁カップリングトルクTcoupと要求クランキングトルクTereqとに基づいて摩擦トルクTclが制御される。その際には、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの間に滑りが生じながら摩擦トルクTclが伝達される。一方、ステップS102でTcmax≧Tereqとなり、要求クランキングトルクTereq(設定トルク)以上の電磁カップリングトルクTcoupを発生可能である場合は、クラッチ48に摩擦トルクTclを作用させないように(Tcl=0)、クラッチ48が解放状態に制御される。
【0044】
ステップS106では、電磁カップリングトルクTcoupと摩擦トルクTclと駆動軸37の要求トルクTdreq(車両の要求駆動力)とに基づいて、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用させるPMモータトルクTmgが制御される。駆動軸37の要求トルクTdreq(車両の要求駆動力)については、例えばアクセル開度から設定することが可能である。ここでは、ステータ16から出力側ロータ18に作用させるエンジン回転方向のPMモータトルクTmgがTcoup+Tcl+Tdreq/γ(γは変速機44の変速比)になるように、インバータ40での電力変換(スイッチング動作)が制御される。その際には、インバータ41で直流に変換されたロータ巻線30からの電力と、蓄電装置42からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてステータ巻線20へ供給される。
【0045】
ステップS107では、エンジン36(入力側ロータ28)の回転速度Nengに基づいて、エンジン36の始動が終了したか否かが判定される。ここでは、エンジン36の回転速度Nengが設定速度以上になった場合に、エンジン36の始動が終了したと判定することが可能である。エンジン36の回転速度Nengが設定速度よりも低い場合(ステップS107の判定結果がNOの場合)は、ステップS101に戻る。一方、エンジン36の回転速度Nengが設定速度以上である場合(ステップS107の判定結果がYESの場合)は、本処理の実行を終了する。
【0046】
図5のフローチャートの処理を実行した場合における、入力側ロータ28(エンジン36)の回転速度Neng及び出力側ロータ18の回転速度Nmgの時間変化の一例を図6(a)に示し、電磁カップリングトルクTcoup、クラッチ48の摩擦トルクTcl、エンジン36のクランキングトルクTcr、PMモータトルクTmg、及びEV走行トルクTevの時間変化の一例を図6(b)に示し、インバータ41通過電力(ロータ巻線30の発電電力)Pcoup、クラッチ48の損失パワーPcl、エンジン36のクランキングパワーPcr、EV走行パワーPev、蓄電装置42の電力Pb、及びインバータ40通過電力(PMモータ駆動パワー)Pmgの時間変化の一例を図6(c)に示す。エンジン36のクランキングトルクTcrは以下の(1)式で表され、EV走行トルクTevは以下の(2)式で表され、インバータ41通過電力Pcoupは以下の(3)式で表され、クラッチ48の損失パワーPclは以下の(4)式で表され、エンジン36のクランキングパワーPcrは以下の(5)式で表され、EV走行パワーPevは以下の(6)式で表され、蓄電装置42の電力Pbは以下の(7)式で表され、インバータ40通過電力Pmgは以下の(8)式で表される。
【0047】
Tcr=Tcoup+Tcl (1)
Tev=Tmg−Tcr (2)
Pcoup=Tcoup×(Nmg−Neng)
=(Tcr−Tcl)×(Nmg−Neng) (3)
Pcl=Tcl×(Nmg−Neng) (4)
Pcr=Tcr×Neng=(Tcoup+Tcl)×Neng (5)
Pev=Tev×Nmg=(Tmg−Tcr)×Nmg (6)
Pb=Pcr+Pev+Pcl (7)
Pmg=Pb+Pcoup=(Tev+Tcr)×Nmg (8)
【0048】
図6において、エンジン36の始動前には、出力側ロータ18及び駆動軸37は回転しており、エンジン36及び入力側ロータ28の回転は停止している。時刻t0において、エンジン36の始動指令が出力されると、ロータ巻線30の交流電流により出力側ロータ18から入力側ロータ28にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる。その際には、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが大きく、Tcmax<Tereqであるため、インバータ41通過電力Pcoupがインバータ41の電気容量になるように、電磁カップリングトルクTcoupがTcmaxに制御される。それとともに、クラッチ48のクラッチ板48bからクラッチ板48aに作用させるエンジン回転方向の摩擦トルクTclがTereq−Tcoupに制御される。これによって、電磁カップリングトルクTcoupと摩擦トルクTclの両方をエンジン36のクランキングトルクTcrとして作用させるトルク併用動作によるクランキング動作が実行される。さらに、ステータ16から出力側ロータ18に作用させるエンジン回転方向のPMモータトルクTmgがTcoup+Tcl+Tdreq/γに制御される。トルク併用動作によるエンジン36のクランキングが行われることで、エンジン36(入力側ロータ28)の回転速度Nengが徐々に上昇し、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが徐々に減少する。トルク併用動作の実行時(摩擦トルクTclを作用させるとき)には、エンジン36のクランキングトルクTcr(電磁カップリングトルクTcoupと摩擦トルクTclの和)が要求クランキングトルクTereqになるように、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengの減少に応じて、電磁カップリングトルクTcoupを徐々に増加させるとともに、摩擦トルクTclを徐々に減少させる。
【0049】
時刻t1において、電磁カップリングトルクTcoupが要求クランキングトルクTereqに達すると、トルク併用動作によるクランキング動作の実行を終了し、摩擦トルクTclを作用させずに(Tcl=0)、電磁カップリングトルクTcoupをクランキングトルクTcrとして作用させる電磁カップリングトルク(ロータ間トルク)伝達動作によるクランキング動作が実行される。電磁カップリングトルク伝達動作の実行時には、インバータ41通過電力Pcoupがインバータ41の電気容量以下に制限されるように、電磁カップリングトルクTcoupがTereqに制御される。さらに、PMモータトルクTmgがTcoup+Tdreq/γに制御される。電磁カップリングトルク伝達動作によるエンジン36のクランキングが行われることで、エンジン36の回転速度Nengがさらに上昇し、時刻t2において、エンジン36の始動が終了する。
【0050】
なお、インバータ41通過電力Pcoupをインバータ41の電気容量以下に制限する条件で発生可能な電磁カップリングトルクの最大値Tcmaxは、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengから決まり、回転速度差Nmg−Nengが大きいほど、電磁カップリングトルクの最大値Tcmaxが小さくなる。そこで、回転速度差Nmg−Nengが設定速度差δNset1よりも大きい場合に摩擦トルクTclを作用させ、回転速度差Nmg−Nengが設定速度差δNset1以下である場合に摩擦トルクTclを作用させないように、回転速度差Nmg−Nengに基づいて摩擦トルクTclを制御することも可能である。ここでの設定速度差δNset1は、インバータ41の電気容量に基づいて設定され、インバータ41の電気容量が小さいほど、δNset1の値が小さくなる。また、トルク併用動作の実行時には、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengの減少に応じて、要求クランキングトルクTereqと電磁カップリングトルクTcoupとの差Tereq−Tcoupも減少するため、回転速度差Nmg−Nengの減少に応じて摩擦トルクTclを減少させるように、回転速度差Nmg−Nengに基づいて摩擦トルクTclを制御することも可能である。また、トルク併用動作の実行時には、インバータ41通過電力Pcoupがインバータ41の電気容量よりも小さい値になるように、電磁カップリングトルクTcoupを制御することも可能である。
【0051】
以上説明した本実施形態によれば、EV走行やフリーラン等、出力側ロータ18及び駆動軸37が回転している状態でエンジン36を始動する場合に、エンジン36のクランキングトルクTcrとして、電磁カップリングトルクTcoupに加えてクラッチ48の摩擦トルクTclも併用することで、エンジン36のクランキングトルクTcrを増加させることができるので、エンジン36の始動の所要時間を短くすることができ、エンジン36の始動性を向上させることができる。その際には、要求クランキングトルクTereqに相当する電磁カップリングトルクTcoupを発生可能になるまで、摩擦トルクTclを作用させることで、エンジン36の始動の所要時間をさらに短くすることができる。さらに、摩擦トルクTclを作用させる分、インバータ41通過電力Pcoupを減少させることができるので、インバータ41の電気容量を小さく設定することができ、低コスト化を図ることができる。さらに、車速(出力側ロータ18の回転速度)が高いときでも、電磁カップリングトルクTcoupと摩擦トルクTclによりエンジン36の始動に十分なクランキングトルクTcrをエンジン36に作用させることができるので、エンジン停止状態でEV走行可能な最高車速(駆動軸37の最高回転速度)を向上させることができる。
【0052】
出力側ロータ18及び駆動軸37が回転している状態でエンジン36を始動する場合に、電子制御ユニット50が実行する処理の他の例を図7のフローチャートに示す。図7のフローチャートの処理において、ステップS201〜S204は、図5のフローチャートのステップS101〜S104と同様である。ステップS205では、電磁カップリングトルクTcoupが設定トルクTsetよりも小さいか否かが判定される。ここでの設定トルクTsetは、要求クランキングトルクTereqよりも小さい値に設定される。ステップS205でTcoup<Tsetの場合(ステップS205の判定結果がYESの場合)は、ステップS206において、図5のフローチャートのステップS105と同様に、クラッチ48に作用させる摩擦トルクTclがTereq−Tcoupに制御される。一方、ステップS205でTcoup≧Tsetの場合(ステップS205の判定結果がNOの場合)は、ステップS207において、クラッチ48に摩擦トルクTclを作用させない(Tcl=0)。ステップS208,S209は、図5のフローチャートのステップS106,S107と同様である。
【0053】
図7のフローチャートの処理を実行した場合における、入力側ロータ28(エンジン36)の回転速度Neng及び出力側ロータ18の回転速度Nmgの時間変化の一例を図8(a)に示し、電磁カップリングトルクTcoup、クラッチ48の摩擦トルクTcl、エンジン36のクランキングトルクTcr、PMモータトルクTmg、及びEV走行トルクTevの時間変化の一例を図8(b)に示し、インバータ41通過電力(ロータ巻線30の発電電力)Pcoup、クラッチ48の損失パワーPcl、エンジン36のクランキングパワーPcr、EV走行パワーPev、蓄電装置42の電力Pb、及びインバータ40通過電力(PMモータ駆動パワー)Pmgの時間変化の一例を図8(c)に示す。時刻t0において、エンジン36の始動指令が出力されると、図6の時刻t0以降と同様に、トルク併用動作によるクランキング動作が実行されることで、エンジン36の回転速度Nengが上昇する。時刻t1において、電磁カップリングトルクTcoupが設定トルクTsetに達すると、トルク併用動作によるクランキング動作の実行を終了し、摩擦トルクTclを作用させずに(Tcl=0)、電磁カップリングトルクTcoupをクランキングトルクTcrとして作用させる電磁カップリングトルク(ロータ間トルク)伝達動作によるクランキング動作が実行される。それとともに、PMモータトルクTmgがTcoup+Tdreq/γに制御される。時刻t1以降では、インバータ41通過電力Pcoupがインバータ41の電気容量になるように、電磁カップリングトルクTcoupがTcmaxに制御され、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengの減少に応じて、電磁カップリングトルクTcoupがTsetから徐々に増加する。時刻t2において、電磁カップリングトルクTcoupが要求クランキングトルクTereqに達すると、インバータ41通過電力Pcoupがインバータ41の電気容量以下に制限されるように、電磁カップリングトルクTcoupがTereqに制御される。電磁カップリングトルク伝達動作によるエンジン36のクランキングが行われることで、エンジン36の回転速度Nengがさらに上昇し、時刻t3において、エンジン36の始動が終了する。
【0054】
以上説明した図7のフローチャートの処理によれば、電磁カップリングトルクTcoupが要求クランキングトルクTereqよりも小さい設定トルクTsetに達したら、摩擦トルクTclを作用させないため、図5のフローチャートの処理と比較して、エンジン36の始動の所要時間は長くなるものの、クラッチ48の滑りによる損失エネルギーを減らすことができるので、その分蓄電装置42からの持ち出し電力量を減らすことができる。
【0055】
本実施形態では、出力側ロータ18及び駆動軸37が回転している状態でエンジン36を始動する場合に、駆動軸37に駆動トルク(車両に駆動力)が要求されていないときは(Tdreq=0)、出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達を遮断した状態で、電磁カップリングトルクTcoup及び摩擦トルクTclを制御することで、エンジン36のクランキングを行うことも可能である。変速機44が自動変速機(AT)や自動マニュアル変速機(AMT)等の有段変速機である場合は、変速機44の変速段を選択するための係合装置を解放して変速機44をニュートラル状態に制御することで、出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達を遮断することが可能となる。その場合は、変速機44が出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達を許容または遮断する動力断続機構として機能する。また、変速機44が無段変速機(CVT)である場合は、出力側ロータ18と変速機44の入力軸との間、または変速機44の出力軸と駆動軸37との間に前後進切替装置を設け、前後進切替装置のクラッチ及びブレーキを解放することで、出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達を遮断することが可能となる。その場合は、前後進切替装置が出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達を許容または遮断する動力断続機構として機能する。また、出力側ロータ18と変速機44の入力軸との間、または変速機44の出力軸と駆動軸37との間にクラッチを設け、クラッチの解放により出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達を遮断することとも可能であり、その場合は、クラッチが出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達を許容または遮断する動力断続機構として機能する。
【0056】
出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達を遮断した状態でエンジン36を始動する場合に、電子制御ユニット50が実行する処理の一例を図9のフローチャートに示す。図9のフローチャートの処理は、駆動軸37に駆動トルクが要求されていないとき(Tdreq=0)に実行される。
【0057】
図9のフローチャートの処理では、まずステップS301において、出力側ロータ18と駆動軸37との間の動力伝達が遮断される。ステップS302では、電磁カップリングトルクTcoupを作用させずに(Tcoup=0)、摩擦トルクTclをクランキングトルクTcrとして作用させるクラッチトルク伝達動作によるクランキング動作が実行される。クラッチトルク伝達動作の実行時には、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの間に滑りが生じながら摩擦トルクTclが伝達される。また、クラッチトルク伝達動作の実行時には、PMモータトルクTmgを作用させない(Tmg=0)。
【0058】
ステップS303では、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが設定速度差δNset2以下であるか否かが判定される。ここでの設定速度差δNset2は、インバータ41の電気容量に基づいて設定され、インバータ41の電気容量が小さいほど、δNset2の値が小さくなる。ステップS303でNmg−Neng>δNset2である場合(ステップS303の判定結果がNOの場合)は、ステップS302に戻り、クラッチトルク伝達動作の実行が維持される。一方、ステップS303でNmg−Neng≦δNset2である場合(ステップS303の判定結果がYESの場合)は、ステップS304において、クラッチトルク伝達動作の実行を終了し、摩擦トルクTclを作用させずに(Tcl=0)、電磁カップリングトルクTcoupをクランキングトルクTcrとして作用させる電磁カップリングトルク(ロータ間トルク)伝達動作によるクランキング動作が実行される。電磁カップリングトルク伝達動作の実行時には、インバータ41通過電力Pcoupがインバータ41の電気容量以下に制限されるように電磁カップリングトルクTcoupが制御され、電磁カップリングトルクTcoupに基づいてPMモータトルクTmgが制御される。
【0059】
ステップS305では、図5のフローチャートのステップS107と同様に、エンジン36の始動が終了したか否かが判定される。エンジン36の回転速度Nengが設定速度よりも低い場合(ステップS305の判定結果がNOの場合)は、ステップS304に戻り、電磁カップリングトルク伝達動作の実行が維持される。一方、エンジン36の回転速度Nengが設定速度以上である場合(ステップS305の判定結果がYESの場合)は、電磁カップリングトルク伝達動作の実行を終了し、本処理の実行を終了する。
【0060】
図9のフローチャートの処理を実行した場合における、入力側ロータ28(エンジン36)の回転速度Neng及び出力側ロータ18の回転速度Nmgの時間変化の一例を図10(a)に示し、電磁カップリングトルクTcoup、クラッチ48の摩擦トルクTcl、及びPMモータトルクTmgの時間変化の一例を図10(b)に示し、インバータ41通過電力(ロータ巻線30の発電電力)Pcoup、蓄電装置42の電力Pb、及びインバータ40通過電力(PMモータ駆動パワー)Pmgの時間変化の一例を図10(c)に示す。時刻t0において、エンジン36の始動指令が出力されると、クラッチトルク伝達動作によるクランキング動作が実行されることで、入力側ロータ28の回転速度Nengが徐々に増加するとともに出力側ロータ18の回転速度Nmgが徐々に減少し、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが徐々に減少する。時刻t1において、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが設定速度差δNset2まで減少すると、クラッチトルク伝達動作によるクランキング動作の実行を終了し、電磁カップリングトルク伝達動作によるクランキング動作が実行される。電磁カップリングトルク伝達動作の実行時には、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが減少し、且つ出力側ロータ18の回転速度Nmgが増加するように、電磁カップリングトルクTcoupに基づいてPMモータトルクTmgが制御される。電磁カップリングトルク伝達動作によるエンジン36のクランキングが行われることで、エンジン36の回転速度Nengがさらに上昇し、時刻t2において、エンジン36の始動が終了する。
【0061】
以上説明した図9のフローチャートの処理によれば、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが大きく、インバータ41通過電力Pcoupが増大しやすくなるクランキング初期において、電磁カップリングトルクTcoupを作用させずに、クラッチ48に摩擦トルクTclをエンジン36のクランキングトルクTcrとして作用させることで、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengを速やかに減少させつつ、エンジン36のクランキングを行うことができる。そして、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが減少してから、電磁カップリングトルクTcoupをエンジン36のクランキングトルクTcrとして作用させることで、インバータ41通過電力Pcoupを減少させつつ、エンジン36の始動を速やかに行うことができる。さらに、電磁カップリングトルクTcoupをエンジン36のクランキングトルクTcrとして作用させる際には、出力側ロータ18と入力側ロータ28の回転速度差Nmg−Nengが減少し、且つ出力側ロータ18の回転速度Nmgが増加するように、PMモータトルクTmgを制御することで、エンジン36の始動の所要時間をさらに短くすることができる。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
1 回転電機、16 ステータ、18 出力側ロータ(第2ロータ)、20 ステータ巻線、28 入力側ロータ(第1ロータ)、30 ロータ巻線、32,33 永久磁石、36 エンジン、37 駆動軸、38 車輪、40,41 インバータ、42 蓄電装置、44 変速機、48 クラッチ、48a,48b クラッチ板、50 電子制御ユニット、51 ステータコア、52,53 ロータコア、95 スリップリング、96 ブラシ。
図1
図2
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