【実施例】
【0032】
〔実施例1の構成〕
実施例1のインジェクタ1の構成を、
図1および
図2を用いて説明する。
インジェクタ1は、100MPaを超える超高圧の噴射圧により燃料を噴射供給することができるものであり、例えば、燃料タンクの燃料を吸引するとともに高圧化して吐出する燃料供給ポンプ(図示せず)や、燃料供給ポンプから吐出された燃料を高圧状態で蓄圧するコモンレール等とともに蓄圧式の燃料噴射装置を構成する。そして、インジェクタ1は、コモンレールから受け入れた高圧の燃料を、例えば、ディーゼルエンジン(図示せず)の気筒内に直接的に噴射供給する。
【0033】
インジェクタ1は、高圧の燃料を噴射する噴射ノズル2と、コモンレールから高圧の燃料を受け入れて噴射ノズル2に導く本体3と、噴射ノズル2を開弁させる駆動力を発生する電磁アクチュエータ4とを備え、噴射ノズル2を本体3の軸方向先端側に締結するとともに、電磁アクチュエータ4を本体3の軸方向後端側に締結することで構成されている。
【0034】
噴射ノズル2は、燃料の噴出孔としての複数の噴孔6を有するノズルボディ7と、ノズルボディ7において軸方向に摺動自在に支持されて噴孔6を開閉する弁体としてのノズルニードル8とを有する。
ノズルニードル8は、後端部がノズルボディ7により摺動自在に支持される摺動軸部をなし、先端部が噴孔6を開閉する弁としての機能を具備する。
【0035】
また、ノズルニードル8は、先端部と後端部との間の中間部により、ノズルボディ7との間にノズル室9を形成し、ノズル室9には本体3から高圧の燃料が導入される。さらに、ノズルニードル8の先端部には、ノズルボディ7に設けられたテーパ状のシート面10に離着するシート部11が設けられている。そして、シート部11がシート面10に離着することで、ノズル室9と噴孔6との間が開閉されて噴孔6から高圧の燃料が噴射される。なお、ノズル室9の燃料圧は、ノズルニードル8に対し噴孔6を開く方向(以下、開弁方向と呼ぶ。)に作用する。
【0036】
本体3は、コモンレールから受け入れた高圧の燃料を噴射ノズル2に導くための高圧路13、および、ノズルニードル8に対し噴孔6を閉鎖する方向(以下、閉弁方向と呼ぶ。)に燃料圧を及ぼすための燃料室14を有するとともに、燃料室14の燃料圧をノズルニードル8に伝達するコマンドピストン15を具備する(以下、燃料室14を制御室14と呼ぶ。)。
【0037】
制御室14には、高圧路13から分岐して高圧の燃料を制御室14に流入させるための流入路16、および、制御室14から燃料を流出させるための流出路17が接続しており、流出路17が電磁アクチュエータ4により開閉される。また、流入路16および流出路17は、流出路17の開放時に制御室14の燃料圧が低下するように設けられている。
【0038】
コマンドピストン15は、ノズルニードル8と同軸をなすように本体3に組み込まれており、本体ボディ18により軸方向に摺動自在に支持されている。また、コマンドピストン15の後端は、制御室14に露出しており、制御室14の燃料圧は、コマンドピストン15を軸方向先端側(閉弁方向)に付勢するように作用する。さらに、コマンドピストン15の先端部は、ノズルニードル8の後端部に当接して制御室14の燃料圧をノズルニードル8に伝達している。
【0039】
また、コマンドピストン15の先端部は、本体ボディ18との間に、ノズル室9や制御室14からリークした燃料が流入する低圧室19を形成する。さらに、低圧室19には、ノズルニードル8を閉弁方向に付勢するスプリング20が収容されている。なお、低圧室19の燃料は、図示しない流路を通ってインジェクタ1の外部に流出し、燃料タンクに回収される。
【0040】
電磁アクチュエータ4は、通電により磁束を発生するコイル23と、発生した磁束により軸方向に吸引されるアーマチャ24と、アーマチャ24と一体化されて軸方向に摺動自在に支持され流出路17を開閉する弁部25と、磁束による吸引方向とは逆の方向にアーマチャ24を付勢するスプリング26とを具備する。また、アーマチャ24と弁部25との一体物は、磁束により吸引されて移動することで流出路17を開放する。なお、流出路17の開放に伴い制御室14から流出した燃料は、電磁アクチュエータ4内に形成される流路を通ってインジェクタ1の外部に流出し、燃料タンクに回収される。
【0041】
以上の構成により、電磁アクチュエータ4においてコイル23への通電開始によりアーマチャ24が吸引されて流出路17が開放されると、制御室14の燃料圧が低下してノズルニードル8に対し軸方向に作用する合力が開弁方向に大きくなるので、ノズルニードル8が開弁方向に移動してシート部11がシート面10から離座し、噴孔6とノズル室9との間が開放されて燃料の噴射が開始する。
【0042】
また、コイル23への通電停止によりアーマチャ24がスプリング26により付勢されて流出路17が閉鎖されると、制御室14の燃料圧が上昇してノズルニードル8に対し軸方向に作用する合力が閉弁方向に大きくなるので、ノズルニードル8が閉弁方向に移動してシート部11がシート面10に着座し、噴孔6とノズル室9との間が閉鎖されて燃料の噴射が停止する。
【0043】
〔実施例1の特徴〕
実施例1のインジェクタ1の特徴を、
図1〜
図4を用いて説明する。
まず、ノズルボディ7は、シート面10からシート部11が離座したときにノズル室9から燃料が流れ込むサック室28を有する。サック室28は、ノズル室9の先端側に設けられており、半球面状の先端側底面29、および先端側底面29の後端側に連続する略円筒状の側面30により構成される袋状の空間であって、側面30の後端がサック室28の開口28aを形成している。
【0044】
また、サック室28はノズルニードル8と同軸をなし、サック室28の空間軸は、側面30の円筒軸に略一致し、さらにコマンドピストン15およびノズルニードル8の軸心に略一致している。そして、全ての噴孔6がサック室28に開口している。
【0045】
また、側面30の後端にはシート面10がテーパ状に縮径して連続しており、サック室28の開口28aは、シート部11がシート面10に着座することで封鎖され、シート部11がシート面10から離座することで開放される。そして、開口28aを開放することで、ノズル室9からサック室28に燃料が流れ込むとともに噴孔6から燃料が噴射される。
【0046】
また、ノズルニードル8の先端部は、先端側ほど先細となって円錐状に尖っている。
ここで、ノズルニードル8の先端部は3つの異なる円錐面32a、32b、32cが先端側から連なっており、円錐面32a、32b、32cの順に径大かつ急勾配となっている。そして、円錐面32a、32bの接続線、および円錐面32b、32cの接続線は稜線状の円をなす。そして、円錐面32b、32cの接続線がシート部11をなす。
【0047】
このため、シート部11がシート面10から離座すると、シート部11とシート面10との間に円環状の隙間が形成され、シート部11とシート面10との間の隙間を通過した燃料は、円錐面32b、32aに沿って先端側かつ内周側に向かって流れ、サック室28に流れ込む。そして、サック室28に流入した燃料は、円錐面32aの先端から剥離し、外周側に向かって旋回して渦を形成する。そして、サック室28で形成される燃料の渦は、サック室28の空間軸を含む平面上で流線が旋回する縦方向の渦となる。
【0048】
次に、複数の噴孔6は、周方向に離間している複数の噴孔群34をなし、全ての噴孔6は、いずれかの噴孔群34に含まれている。
ここで、噴孔群34とは、複数の噴孔6を近接配置することで形成されるものであり、例えば、
図3に示すように6つの噴孔6が2つずつ近接配置され、2つの噴孔6からなる噴孔群34が3つ形成されている。具体的には、6つの噴孔6a、6b、6c、6d、6e、6fの内、噴孔6a、6b、噴孔6c、6d、噴孔6e、6fが、それぞれ近接配置されて噴孔群34A、34B、34Cを形成している。
【0049】
そして、噴孔群34A〜34Cは、全て、以下のような構成を有する第1噴孔群である。すなわち、第1噴孔群とは、2つの噴孔6からなり、一方の噴孔6の孔軸と他方の噴孔6の孔軸とがねじれの位置の関係にあり、かつ、両方の噴孔6の孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係に
あり、さらに、2つの噴孔6が、図3(b)に示すように、サック室28の空間軸方向から見て、両方の噴孔6の交差点を通るサック室28の径方向軸に対し対象な位置の関係にある噴孔群34である。
【0050】
つまり、噴孔群34Aにおいて、噴孔6aの孔軸と噴孔6bの孔軸とがねじれの位置の関係にあり、かつ、噴孔6a、6bの孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にある。また、噴孔群34Bにおいて、噴孔6cの孔軸と噴孔6dの孔軸とがねじれの位置の関係にあり、かつ、噴孔6c、6dの孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にある。さらに、噴孔群34Cにおいて、噴孔6eの孔軸と噴孔66fの孔軸とがねじれの位置の関係にあり、かつ、噴孔6e、6fの孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にある。
【0051】
そして、噴孔6a〜6fの孔軸が全てサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にあることから、サック室28で形成される縦方向の燃料の渦は偏心して噴孔6のサック室28における開口(以下、内側開口35と呼ぶ。)から噴孔6a〜6f内に進入する。このため、噴孔6a〜6fに進入した燃料は、ノズルニードル8のリフト量に係わらずそれぞれの孔軸の周囲に旋回しながら外部に対する開口(以下、外側開口36と呼ぶ。)に向かう。
【0052】
また、噴孔6a〜6fでは、燃料が旋回しながら内側開口35から外側開口36に向かうことにより、それぞれの孔軸近傍の内周部が孔壁寄りの外周部よりも低圧になり、内周部ではキャビテーションが発生する(
図4参照)。また、サック室28でも、渦の中心近傍が渦の周辺よりも低圧になってキャビテーションが発生し(
図2参照)、やがて、噴孔6a〜6fのキャビテーション領域がサック室28のキャビテーション領域につながる。
【0053】
そして、噴孔6a〜6fのキャビテーション領域がサック室28のキャビテーション領域につながっていく間に、噴孔6a〜6fにおける燃料の液部分は、外周側に密度を増しながら集約され(
図4参照)、同時に、噴孔6a〜6fの周方向(旋回方向)に加速されるとともに噴孔6a〜6fの軸方向(直進方向)に減速される。このため、噴孔6a〜6fから噴射された燃料は、孔軸に垂直な旋回方向には速度が大きく、かつ、孔軸に沿う直進方向には速度が小さくなるので、低貫徹かつ広角の噴霧を形成する。
【0054】
また、噴孔群34Aにおいて噴孔6a、6bの孔軸が互いにねじれの位置の関係にあることから、噴孔6aからの噴射により形成される噴霧と、噴孔6bからの噴射により形成される噴霧とは、噴孔6a、6bが同一の噴孔群34Aに含まれているにもかかわらず重なりにくくなる。このため、噴孔群34Aからの噴射により形成される噴霧群は、噴霧同士の重なりによる貫徹力の増大が抑制される。
同様に、噴孔群34B、34Cそれぞれからの噴射により形成される噴霧群も、噴霧同士の重なりによる貫徹力の増大が抑制される。
【0055】
また、周方向に隣り合う2つの噴孔群34に関して、一方の噴孔群34をなす2つの噴孔6の内側開口35と、他方の噴孔群34をなす2つの噴孔6の内側開口35との周方向の距離の最小値を群間距離Lと定義する。
また、第1噴孔群をなす2つの噴孔6の内側開口35同士の周方向の距離の最小値を第1群内距離Bと定義する。
【0056】
ここで、噴孔群34A〜34Cは、サック室28の空間軸(インジェクタ1の軸心)の周囲で回転対称性を有しており、1/3回転(120°回転)で重なる3回対称である。このため、噴孔群34A、34B間、噴孔群34B、34C間、および噴孔群34C、34A間の群間距離Lは全て等しく、かつ、噴孔群34A〜34Cそれぞれの第1群内距離Bは全て等しい。
そして、群間距離Lは第1群内距離Bよりも大きい。
【0057】
これにより、例えば、噴孔群34Aに着目すると、サック室28において噴孔6aの内側開口35よりも周方向一方側、および、噴孔6bの内側開口35よりも周方向他方側では、第1群内距離Bよりも周方向に長い範囲で他の噴孔6c〜6fの内側開口35が存在しない。そして、噴孔6aの内側開口35から、第1群内距離Bよりも大きい群間距離Lだけ周方向一方側に離れて噴孔6fの内側開口35が存在する。また、噴孔6bの内側開口35から、群間距離Lだけ周方向他方側に離れて噴孔6cの内側開口35が存在する。
【0058】
このため、サック室28において、噴孔6aの内側開口35の周方向一方側には、内側開口35が存在しないことにより渦がさほど乱れることなく形成される渦安定領域38Aが広範囲に形成され、噴孔6bの内側開口35の周方向他方側にも、同様の渦安定領域38Bが広範囲に形成される。
【0059】
同様に、噴孔群34Bに着目すると、噴孔6cの内側開口35の周方向一方側には渦安定領域38Bが広範囲に形成され、噴孔6dの内側開口35の周方向他方側には、渦安定領域38A、38Bと同様の渦安定領域38Cが広範囲に形成される。さらに、噴孔群34Cに着目すると、噴孔6eの内側開口35の周方向一方側には渦安定領域38Cが広範囲に形成され、噴孔6fの内側開口35の周方向他方側には、渦安定領域38Aが広範囲に形成される。
【0060】
この結果、噴孔6aの内側開口35は、渦安定領域38Aに周方向他方側から対向し、噴孔6bの内側開口35は、渦安定領域38Bに周方向一方側から対向する。また、噴孔6cの内側開口35は、渦安定領域38Bに周方向他方側から対向し、噴孔6dの内側開口35は、渦安定領域38Cに周方向一方側から対向する。さらに、噴孔6eの内側開口35は、渦安定領域38Cに周方向他方側から対向し、噴孔6fの内側開口35は、渦安定領域38Aに周方向一方側から対向する。
【0061】
以上により、噴孔6a、6fには、渦安定領域38Aの渦が安定した状態で進入しやすくなる。同様に、噴孔6b、6cには、渦安定領域38Bの渦が安定した状態で進入しやすくなり、噴孔6d、6eには、渦安定領域38Cの渦が安定した状態で進入しやすくなる(以下の説明では、渦安定領域38A〜38Cを渦安定領域38と呼ぶことがある。)。
【0062】
〔実施例1の効果〕
実施例1のインジェクタ1によれば、ノズルニードル8が開弁方向に移動すると、サック室28で縦方向に旋回する燃料の渦が形成される。また、インジェクタ1には、燃料を噴射するための3つの噴孔群34が周方向に離間して設けられている。そして、3つの噴孔群34は、全て、2つの噴孔6からなり、一方の噴孔6の孔軸と他方の噴孔6の孔軸とがねじれの位置の関係にあり、かつ、両方の噴孔6の孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にある第1噴孔群として設けられている。
【0063】
これにより、噴孔6の孔軸がサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にあることから、サック室28の渦は偏心して噴孔6に進入する。このため、噴孔6に進入した燃料は、ノズルニードル8のリフト量に係わらず孔軸の周囲に旋回しながら外側開口36に向かう。
【0064】
また、噴孔6では、燃料が旋回しながら外側開口36に向かうことから、孔軸近傍の内周部が孔壁寄りの外周部よりも低圧になり、内周部ではキャビテーションが発生する。また、サック室28でも、渦の中心近傍が渦の周辺よりも低圧になってキャビテーションが発生し、やがて、噴孔6のキャビテーション領域がサック室28のキャビテーション領域につながる。
【0065】
そして、噴孔6のキャビテーション領域がサック室28のキャビテーション領域につながっていく間に、噴孔6における燃料の液部分は、外周側に密度を増しながら集約され、同時に、旋回方向に加速されるとともに直進方向に減速される。このため、噴孔6から噴射された燃料は、旋回方向には速度が大きく、かつ、直進方向には速度が小さくなるので、低貫徹かつ広角の噴霧を形成することができる。
【0066】
また、それぞれの噴孔群34を形成する2つの噴孔6は、孔軸が互いにねじれの位置の関係にあることから、これら2つの噴孔6により形成される噴霧は重なりにくくなる。このため、噴孔群34により形成される噴霧群は、噴霧の重なりによる貫徹力の増大が抑制される。
以上により、インジェクタ1において、ノズルニードル8のリフト量に係わらず、より安定した低貫徹噴霧を実現することができる。
【0067】
また、群間距離Lは第1群内距離Bよりも大きい。
これにより、サック室28において、噴孔群34の周方向両側には渦安定領域38が広範囲に形成され、噴孔6の内側開口35は渦安定領域38に対向する。このため、噴孔6には渦が安定した状態で進入しやすくなるので、低貫徹かつ広角の噴霧を形成する効果をより顕著に得ることができる。
【0068】
〔実施例2〕
実施例2のインジェクタ1によれば、
図5に示すように、6つの噴孔6g、6h、6i、6j、6k、6mを有し、噴孔6g、6h、噴孔6i、6j、および噴孔6k、6mがそれぞれ噴孔群34D、34E、34Fを形成している。
【0069】
そして、噴孔群34D〜34Fは、全て、以下のような構成を有する第2噴孔群である。すなわち、第2噴孔群とは、2つの噴孔6からなり、2つの噴孔6の内側開口35が互いに重なるとともに、一方の噴孔6の孔軸と他方の噴孔6の孔軸とが非平行であり、かつ、両方の噴孔6の孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にある噴孔群34である。
なお、噴孔群34D〜34Fでは、2つの噴孔6の内側開口35が略一致しており、一方の噴孔6の孔軸と他方の噴孔6の孔軸とが内側開口35において交差している。
【0070】
つまり、噴孔群34Dにおいて、噴孔6gの孔軸と噴孔6hの孔軸とが非平行であって内側開口35で交差しており、かつ、噴孔6g、6hの孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にある。また、噴孔群34Eにおいて、噴孔6iの孔軸と噴孔6jの孔軸とが非平行であって内側開口35で交差しており、かつ、噴孔6i、6jの孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にある。さらに、噴孔群34Fにおいて、噴孔6kの孔軸と噴孔6mの孔軸とが非平行であって内側開口35で交差しており、かつ、噴孔6k、6mの孔軸がそれぞれサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にある。
【0071】
そして、噴孔6g〜6mの孔軸が全てサック室28の空間軸とねじれの位置の関係にあることから、実施例1のインジェクタ1と同様に、噴孔6g〜6mおよびサック室28でキャビテーション領域が形成され、噴孔6g〜6mから噴射された燃料は、低貫徹かつ広角の噴霧を形成する。
【0072】
また、噴孔群34Dにおいて噴孔6g、6hの孔軸が互いに非平行であって内側開口35で交差していることから、噴孔6gからの噴射により形成される噴霧と、噴孔6hからの噴射により形成される噴霧とは、噴孔6g、6hが同一の噴孔群34Dに含まれているにもかかわらず重なりにくくなる。
【0073】
このため、噴孔群34Dからの噴射により形成される噴霧群は、噴霧同士の重なりによる貫徹力の増大が抑制される。
同様に、噴孔群34E、34Fそれぞれからの噴射により形成される噴霧群も、噴霧同士の重なりによる貫徹力の増大が抑制される。
以上により、ノズルニードル8のリフト量に係わらず、より安定した低貫徹噴霧を実現することができる。
【0074】
また、周方向に隣り合う2つの噴孔群34に関して、実施例1のインジェクタ1と同様に群間距離Lを定義する。
また、第2噴孔群をなす2つの噴孔6の内側開口35同士を重ね合わせた全開口の周方向の長さを第2内側開口長さD2と定義する。なお、噴孔群34D〜34Fでは、第2内側開口長さD2が内側開口35の径に略一致している。
【0075】
さらに、噴孔群34D〜34Fは、実施例1の噴孔群34A〜34Cと同様に3回対称である。このため、噴孔群34D、34E間、噴孔群34E、34F間、および噴孔群34F、34D間の群間距離Lは全て等しく、かつ、噴孔群34D〜34Fそれぞれの第2内側開口長さD2は全て等しい。
そして、群間距離Lは第2内側開口長さD2よりも大きい。
【0076】
これにより、サック室28において、実施例1の渦安定領域38A〜38Cと同様の渦安定領域38D、38E、38Fが形成される。すなわち、噴孔群34Dの内側開口35の周方向一方側、他方側には、それぞれ渦安定領域38D、38Eが形成され、噴孔群34Eの内側開口35の周方向一方側、他方側には、それぞれ渦安定領域38E、38Fが形成され、噴孔群34Fの内側開口35の周方向一方側、他方側には、それぞれ渦安定領域38F、38Dが形成される(以下の説明では、渦安定領域38D〜38Fを渦安定領域38と呼ぶことがある。)。
【0077】
また、第2噴孔群では、同一の噴孔群34に含まれる2つの噴孔6の内側開口35同士が重なることから、渦安定領域38は、第1噴孔群を有するインジェクタ1のサック室28に形成される渦安定領域38に比べて、より広範囲に形成される。さらに、実施例2の噴孔群34D〜34Fでは、内側開口35同士が略一致することから、渦安定領域38はより一層広範囲に形成される。
以上により、噴孔6g〜6mには、渦安定領域38の渦が安定した状態で進入しやすくなるので、低貫徹かつ広角の噴霧を形成する効果をより顕著に得ることができる。
【0078】
〔実施例3〕
実施例3のインジェクタ1によれば、
図6に示すように、9つの噴孔6n、6p、6q、6r、6s、6t、6u、6v、6wを有し、噴孔6n〜6q、噴孔6r〜6t、および噴孔6u〜6wがそれぞれ噴孔群34G、34H、34Iを形成している。
【0079】
そして、噴孔群34G〜34Iは、全て、以下のような構成を有する第3噴孔群である。すなわち、第3噴孔群とは、内側開口35が外側開口36よりも大きく、内側開口35から外側開口36に向かって孔径がテーパ状に縮径する大噴孔、および、大噴孔の孔軸とねじれの位置関係にある孔軸を有し、大噴孔から分岐して外部に対し開口する小噴孔により形成される噴孔群34である。なお、小噴孔は、内側開口35を有さず、大噴孔の孔壁に開口を有する(以下、大噴孔の孔壁における小噴孔の開口を分岐口40と呼ぶ。)
【0080】
ここで、噴孔群34Gは、大噴孔として噴孔6nを有し、小噴孔として噴孔6p、6qを有する。また、噴孔6p、6qは、径方向に関して略同一の部位から分岐し、噴孔6nの孔壁において、噴孔6p、6qの分岐口40は、噴孔6nの孔軸を軸方向および周方向に挟むように設けられている。そして、噴孔6pの分岐口40は、噴孔6nの孔軸の軸方向先端側かつ周方向一方側に設けられ、噴孔6qの分岐口40は、噴孔6nの孔軸の軸方向後端側かつ周方向他方側に設けられている。
【0081】
また、噴孔群34Hは、大噴孔として噴孔6rを有し、小噴孔として噴孔6s、6tを有する。そして、噴孔6s、6tは、それぞれ噴孔群34Gにおける噴孔6p、6qと同様の配置関係を有する。
さらに、噴孔群34Iは、大噴孔として噴孔6uを有し、小噴孔として噴孔6v、6wを有する。そして、噴孔6v、6wは、それぞれ噴孔群34Gにおける噴孔6p、6qと同様の配置関係を有する。
【0082】
これにより、例えば、大噴孔である噴孔6nでは、内側開口35を大きくすることができるので、噴孔6nの孔軸がサック室28の空間軸に交差しても、噴孔6nに進入する渦の大部分を偏心させることができる。このため、噴孔6nにおいて、外周側における燃料の液部分の集約を促進して噴孔6nの周方向(旋回方向)への加速を強化することができる。
【0083】
さらに、小噴孔である噴孔6p、6qを噴孔6nから分岐させ、かつ、噴孔6p、6qの孔軸と噴孔6nの孔軸とがねじれの位置関係となるように噴孔6p、6qを設けることで、噴孔6p、6qには、噴孔6nの旋回方向へ強力に加速された燃料が分岐口40から流入して噴孔6p、6qそれぞれの外側開口36に向かう。そして、噴孔6p、6qにおいても、外周側における燃料の液部分の集約が促進されて周方向(旋回方向)への加速が強化される。
【0084】
この結果、噴孔6n〜6qおよびサック室28ではキャビテーション領域が形成され、噴孔6n〜6qのそれぞれから噴射された燃料は低貫徹かつ広角の噴霧を形成する。また、噴孔6n〜6qのそれぞれにより形成される噴霧は重なりにくくなるため、噴孔群34Gからの噴射により形成される噴霧群は、噴霧同士の重なりによる貫徹力の増大が抑制される。
【0085】
同様に、噴孔群34H、34Iそれぞれからの噴射により形成される噴霧群も、噴霧同士の重なりによる貫徹力の増大が抑制される。
以上により、ノズルニードル8のリフト量に係わらず、より安定した低貫徹噴霧を実現することができる。
【0086】
また、周方向に隣り合う2つの噴孔群34に関して、実施例1、2のインジェクタ1と同様に群間距離Lを定義し、大噴孔の内側開口35の径を第3内側開口径D3と定義する。
さらに、噴孔群34G〜34Iは、実施例1の噴孔群34A〜34Cと同様に3回対称である。このため、噴孔群34G、34H間、噴孔群34H、34I間、および噴孔群34I、34G間の群間距離Lは全て等しく、かつ、噴孔群34G〜34Iそれぞれの第3内側開口径D3は全て等しい。
そして、群間距離Lは第3内側開口径D3よりも大きい。
【0087】
これにより、サック室28において、実施例1の渦安定領域38A〜38Bと同様の渦安定領域38G〜38Iが形成される。すなわち、噴孔6nの内側開口35の周方向一方側、他方側には、それぞれ渦安定領域38G、38Hが形成され、噴孔6rの内側開口35の周方向一方側、他方側には、それぞれ渦安定領域38H、38Iが形成され、噴孔6uの内側開口35の周方向一方側、他方側には、それぞれ渦安定領域38I、38Gが形成される(以下の説明では、渦安定領域38G〜38Iを渦安定領域38と呼ぶことがある。)。
【0088】
以上により、噴孔6n、6r、6uには、渦安定領域38の渦が安定した状態で進入しやすくなるので、低貫徹かつ広角の噴霧を形成する効果をより顕著に得ることができる。
【0089】
〔変形例〕
インジェクタ1の態様は、実施例1〜3に限定されず種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例1のインジェクタ1によれば、噴孔群34は全て第1噴孔群であり、実施例2のインジェクタ1によれば、噴孔群34は全て第2噴孔群であり、実施例3のインジェクタ1によれば、噴孔群34は全て第3噴孔群であったが、噴孔群34の種類を2種以上含むようにインジェクタ1を設けてもよく、第1〜第3噴孔群以外の種類の噴孔群34を含むようにインジェクタ1を設けてもよい。
【0090】
また、実施例1〜3のインジェクタ1によれば、3つの噴孔群34が設けられていたが4つ以上の噴孔群34を設けてもよい。また、例えば、回転対称性を有さないように噴孔群34を配置してもよく、周方向に隣り合う噴孔群34同士を軸方向にずらして配置してもよい。
【0091】
また、実施例2のインジェクタ1によれば、噴孔群34において2つの噴孔6の内側開口35が略一致していたが、内側開口35同士が部分的に重なるように2つの噴孔6を配置してもよい。また、実施例2のインジェクタ1によれば、一方の噴孔6の孔軸と他方の噴孔6の孔軸とが交差していたが、孔軸同士の配置関係がねじれの位置の関係となるように2つの噴孔6を設けてもよい。
さらに、実施例3のインジェクタ1によれば、噴孔群34において、2つの小噴孔が大噴孔から分岐していたが、1つまたは3つ以上の小噴孔を大噴孔から分岐させてもよい。