特許第5662269号(P5662269)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5662269-酢酸の製造方法 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662269
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】酢酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/12 20060101AFI20150108BHJP
   C07C 53/08 20060101ALI20150108BHJP
   C07C 51/44 20060101ALI20150108BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150108BHJP
【FI】
   C07C51/12
   C07C53/08
   C07C51/44
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-153201(P2011-153201)
(22)【出願日】2011年7月11日
(65)【公開番号】特開2012-46490(P2012-46490A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2014年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-167239(P2010-167239)
(32)【優先日】2010年7月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】山口 和夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健輔
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−533478(JP,A)
【文献】 特開2002−255890(JP,A)
【文献】 特開平06−040999(JP,A)
【文献】 特開2004−300072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/12
C07C 51/44
C07C 53/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム触媒、ヨウ化物塩及びヨウ化メチルで構成された触媒系で、酢酸及び水の存在下、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルからなる群から選択された少なくとも一種と一酸化炭素とを反応器で連続的に反応させる反応工程と、前記反応器から反応混合物を連続的に抜き出して蒸発槽に供給し、高沸点留分と低沸点留分とに分離するフラッシュ蒸発工程と、前記蒸発槽で気化した低沸点留分を蒸留塔に供給し、酢酸を精製する蒸留工程とを含む酢酸の製造方法であって、前記蒸留塔に供給される前記低沸点留分の一部を熱交換器に導入して凝縮し、凝縮した液状流分を反応器にリサイクルする酢酸の製造方法。
【請求項2】
蒸留塔に供給される低沸点留分のうち、1〜50重量%の留分を熱交換器に導入する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
酢酸を精製する蒸留工程から得られた酢酸流を蒸留及び/又は吸着処理して酢酸を得る請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
蒸発槽で分離された高沸点留分を熱交換器に導入して冷却した後、反応器にリサイクルする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
反応工程及び蒸留工程における低沸点留分をコンデンサーで凝縮する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
反応器が除熱又は冷却装置を備えていない請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
反応工程において、反応系の液相全体に対して、ヨウ化物塩2〜25重量%、ヨウ化メチル1〜20重量%、酢酸メチル0.1〜30重量%、水0.1〜10重量%の濃度で反応系を保持して反応させる請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
ヨウ化物塩の濃度が6〜25重量%であり、水の濃度が0.1〜6重量%である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
酢酸の製造方法における温度を制御する方法であって、ロジウム触媒、ヨウ化物塩及びヨウ化メチルで構成された触媒系で、酢酸及び水の存在下、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルからなる群から選択された少なくとも一種と一酸化炭素とを連続的に反応させる反応工程と、前記反応工程から反応混合物を連続的に抜き出して、高沸点留分と低沸点留分とに分離するフラッシュ蒸発工程と、前記フラッシュ蒸発工程で気化した低沸点留分を蒸留し、酢酸を精製する蒸留工程とを含む方法において、前記蒸留工程に供給される前記低沸点留分の一部を熱交換器に導入して凝縮し、凝縮した液状流分を反応工程にリサイクルする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型プラントにおいて、省資源省エネルギー型の設備で高純度の酢酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノール法での酢酸製造プラントにおいては、カルボニル化反応器で一酸化炭素とメタノールとを反応させた後、反応液を蒸発槽(フラッシャー)で気化し、得られた気化物をさらに蒸留塔で蒸留分離して酢酸が製造される。このような工程では、カルボニル化反応による反応熱が発生するため、この反応熱を除去する必要がある。このプラントにおいて、反応熱を除去するシステムとしては、蒸発槽で生成する酢酸の蒸発潜熱及び酢酸の蒸発に付随して起こる反応液の構成物質(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、その他の副生物など)の蒸発潜熱を利用して反応熱を除去する方式が有効である。特に、この除熱方式は、プラントの大きさとも関係するが、1プラント当たりの製造量が約20万t/年である従来のプラント(1.36×10kcal/時間程度の発熱量)では有効な方式であり、反応器で生成した酢酸を分離して回収するために必要なフラッシュ量が物質収支、熱収支的にバランス良く、経済的である。しかし、近年、酢酸製造プラントの経済的規模は、需要の伸びもあり、1プラント当たりの製造量が約40万t/年以上に大型化してきている。製造量が25万t/年以上の規模では、生成する酢酸などの蒸発潜熱よりも大きな熱量の除去が必要であるため、蒸発潜熱を利用した除去方式だけでは除熱量が不足する。
【0003】
反応熱を除熱するシステムに関して、米国特許第5,374,774号公報(特許文献1)には、メタノール法で酢酸を製造する方法において、反応器及び蒸発槽の液面を制御する方法が開示されており、反応器の温度を制御する方法として、蒸発槽の缶出液から反応器に触媒をリサイクルするラインに冷却器を設置する方法、及び反応器にクーラー(冷却器)を設置する方法が記載されている。
【0004】
しかし、触媒リサイクルラインに冷却器を設置する方法では、顕熱による除熱を行うため、耐蝕性の高い高級材質を用いた高価な設備を設置する必要がある上に、除熱量も小さい。また、反応器に冷却器を設置する方法では、反応器と同じく高温高圧下に晒されるため、反応液中に溶存している一酸化炭素が配管中で消費されることにより、活性触媒種であるロジウムカルボニル錯体の活性状態(例えば、[RhI(CO)、[RhI(CO)など)を維持するのが困難となり、主触媒のRhが、例えば、RhIの状態で沈降し、反応に寄与しなくなったり、沈降物による配管などの閉塞、バルブ・ポンプなどの動作不良が起こり、安定した運転が困難となる。さらに、耐蝕性の高級材質を用いる必要があるが、高温高圧であるため、設備が高価である上に、反応液が漏洩し易く、安定した運転が困難である。
【0005】
また、特許第3616400号公報(特許文献2)には、組成を調整して液相カルボニル化反応を操作し、酢酸生成物を単一の蒸留塔で精製する方法が開示されており、フラッシュタンク蒸気及び蒸留塔の頭部からの非凝結物を冷却して、工程からの揮発分の損失を最小にすることが記載されている。すなわち、冷却した凝縮液を反応槽にリサイクルする一連の工程の中で、反応槽から取り出された反応液が持つ熱量の大部分は、フラッシュ蒸気が持つ熱量として移動し、フラッシュ蒸気が蒸留塔に供給され、塔頂コンデンサーで凝縮されることにより除去される。
【0006】
しかし、蒸留塔の塔頂コンデンサーで除熱する方式では、コンデンサーの負荷が大きく、設備費やエネルギーコストが無視できないほど大きい。特に、近年の大型プラントでは、コンデンサー及び蒸留塔のサイズを大きくせざるをえない。
【0007】
さらに、特開2002−255890号公報(特許文献3)には、反応生成物の分離工程で分離された分離成分に対して、循環量に応じて熱量をコントロールして反応系の温度を制御する方法が開示されており、フラッシュ蒸留塔で分離された高沸点成分を反応系に戻す循環ラインにおいて、温度制御ユニット(熱交換器)及び制御ユニットを設置して熱量をコントロールしている。
【0008】
しかし、この方法でも、安定したプラントの運転に対して有効であるものの、大型プラントにおいては、液体の冷却(顕熱)だけでは除熱が充分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,374,774号公報(特許請求の範囲、第7欄48〜66行)
【特許文献2】特許第3616400号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2002−255890号公報(特許請求の範囲、段落[0021]〜[0023]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、大型のプラントであっても、蒸留塔などの装置を小型化した省資源省エネルギー型の設備で、一酸化炭素のロスを抑制でき、高い収率で高純度の酢酸を製造できる方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、酢酸の製造方法において、効率かつ精度よく温度を制御する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルからなる群から選択された少なくとも一種と一酸化炭素とを反応させて高純度の酢酸を連続的に製造する方法において、蒸留塔に供給される低沸点留分の一部を熱交換器に導入して凝縮し、凝縮した液状流分を反応器にリサイクルすることにより、大型のプラントであっても、蒸留塔などの装置を小型化した省資源省エネルギー型の設備で、一酸化炭素のロスを抑制でき、高い収率で高純度の酢酸を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の酢酸の製造方法は、ロジウム触媒、ヨウ化物塩及びヨウ化メチルで構成された触媒系で、酢酸及び水の存在下、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルからなる群から選択された少なくとも一種と一酸化炭素とを反応器で連続的に反応させる反応工程と、前記反応器から反応混合物を連続的に抜き出して蒸発槽に供給し、高沸点留分と低沸点留分とに分離するフラッシュ蒸発工程と、前記蒸発槽で気化した低沸点留分を蒸留塔に供給し、酢酸を精製する蒸留工程とを含む酢酸の製造方法であって、前記蒸留塔に供給される前記低沸点留分の一部を熱交換器に導入して凝縮し、凝縮した液状流分を反応器にリサイクルする製造方法である。熱交換器に導入される前記低沸点留分は、蒸留塔に供給される低沸点留分のうち、1〜50重量%の留分を熱交換器に導入してもよい。また、酢酸を精製する蒸留工程から得られた酢酸流を蒸留及び/又は吸着処理して酢酸を得てもよい。本発明の方法では、さらに他の除熱方式と組み合わせてもよく、例えば、蒸発槽で分離された高沸点留分を熱交換器に導入して冷却した後、反応器にリサイクルする方式や、反応工程及び蒸留工程における低沸点留分をコンデンサーで凝縮する方式と組み合わせてもよい。本発明の方法において、反応器は除熱又は冷却装置を備えていなくてもよい。前記反応工程において、反応系の液相全体に対して、ヨウ化物塩2〜25重量%(特に6〜25重量%)、ヨウ化メチル1〜20重量%、酢酸メチル0.1〜30重量%、水0.1〜10重量%(特に0.1〜6重量%)の濃度で反応系を保持して反応させてもよい。
【0014】
本発明には、酢酸の製造方法における温度を制御する方法であって、ロジウム触媒、ヨウ化物塩及びヨウ化メチルで構成された触媒系で、酢酸及び水の存在下、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルからなる群から選択された少なくとも一種と一酸化炭素とを連続的に反応させる反応工程と、前記反応工程から反応混合物を連続的に抜き出して、高沸点留分と低沸点留分とに分離するフラッシュ蒸発工程と、前記フラッシュ蒸発工程で気化した低沸点留分を蒸留し、酢酸を精製する蒸留工程とを含む方法において、前記蒸留工程に供給される前記低沸点留分の一部を熱交換器に導入して凝縮し、凝縮した液状流分を反応工程にリサイクルする方法も含まれる。
【0015】
この方法は、圧力及び/又は流量の変動が後続する工程に伝播又は波及する系での温度コントロールに有利である。なお、温度の変動に応じて、加圧して供給される一酸化炭素の吸収効率も変動し、圧力変動をもたらし、一酸化炭素を反応に有効に利用できなくなり、エネルギー的に不利である。本発明の方法は、温度変動を抑制できるので、圧力変動を抑制し、一酸化炭素を有効利用できる。そのため、本発明の方法は、酢酸の収率及び純度の低下を抑制しつつ、資源(一酸化炭素など)及びエネルギーを節約する方法ということもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルからなる群から選択された少なくとも一種と一酸化炭素とを連続的に反応させて高純度の酢酸を製造する方法において、蒸留塔に供給される低沸点留分の一部を熱交換器に導入して凝縮し、凝縮した液状流分を反応器にリサイクルするため、大型のプラントであっても、蒸留塔における蒸発潜熱を利用した除熱の前に、反応液からフラッシュ蒸気に移動した熱量の一部を除熱できるとともに、反応器に冷却器を設置する必要がなく、反応液中に溶存している一酸化炭素を有効に利用できる。従って、大型のプラントであっても、蒸留塔などの装置を小型化した省資源省エネルギー型の設備で、一酸化炭素のロスを抑制でき、高い収率で高純度の酢酸を製造できる。本発明では、酢酸の製造方法における温度を、効率かつ精度よく制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の酢酸の製造方法の一例を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、必要により添付図面を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。図1は本発明の酢酸の製造方法を説明するためのフロー図(概略工程図又は概略装置図)である。
【0019】
図1の例では、ロジウム触媒及び助触媒(ヨウ化リチウム及びヨウ化メチル)で構成されたカルボニル化触媒系、並びに酢酸、酢酸メチル、有限量の水の存在下、液相系で、メタノールと一酸化炭素との連続的カルボニル化反応により生成した反応混合物から精製された酢酸を製造するプロセスが示されている。
【0020】
前記プロセスは、前記メタノールのカルボニル化反応を行うための反応器(反応系)1と、供給ライン14を通じて導入され、かつ反応により生成した酢酸を含む反応混合物(反応液)から主にロジウム触媒及びヨウ化リチウムなどの金属触媒成分(高沸成分)を含む高沸点留分と、酢酸流(低沸点留分)とを分離するための蒸発槽(フラッシュ蒸留塔)2と、この蒸発槽2から供給ライン15及び15bを通じて導入された酢酸流(低沸点留分)から、低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドなど)を含む低沸点留分の少なくとも一部を塔頂からオーバーヘッドで除去し、側流からサイドカットにより酢酸流を流出するための第1の蒸留塔3と、この第1の蒸留塔3から供給ライン23を介してサイドカットされた酢酸流から、低沸成分を含む低沸点留分の少なくとも一部を塔頂からオーバーヘッドで除去し、プロピオン酸などの高沸成分(高沸不純物)の少なくとも一部を缶底から分離して、供給ライン27を通じて側流からサイドカットにより酢酸流を得るための第2の蒸留塔4とを備えている。ライン28を通じて得られる酢酸流を反応器にリサイクルしてもよいし、一部を廃棄してもよいし、また製品としてもよい。必要に応じてこの酢酸流をフラッシュ及び/又は蒸留、イオン交換樹脂、吸着による処理を行ってもよい。
【0021】
さらに、このプロセスは、反応器1に関して、排出ライン11を通じて排出されるオフガス(蒸気)中の凝縮可能成分を凝縮するためのコンデンサー5と、このコンデンサー5で凝縮した液体成分を反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン12と、このコンデンサー5の非凝縮成分である気体成分を排出するための排出ライン13とを備えている。
【0022】
このプロセスは、蒸発槽2に関して、蒸発槽2で分離され、蒸発槽2の底部から排出ライン18を通じて排出された高沸点留分を冷却するための熱交換器6と、熱交換器6で冷却された高沸点留分を反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン19と、蒸発槽2のオーバーヘッドから排出された低沸点留分の一部を供給ライン15及び15aを通じて導入し、低沸点留分の凝縮可能成分を凝縮するための熱交換器7と、この熱交換器7の非凝縮成分である気体成分を排出するための排出ライン16と、熱交換器7で凝縮した酢酸を含む液体成分を反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン17とを備えている。
【0023】
このプロセスは、第1の蒸留塔3に関して、排出ライン20を通じて排出される低沸点留分中の凝縮可能成分を凝縮するためのコンデンサー8と、このコンデンサー8で凝縮した液体成分を第1の蒸留塔3及び/又は反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン22と、このコンデンサー8の非凝縮成分である気体成分を排出するための排出ライン21とを備えている。
【0024】
このプロセスは、第2の蒸留塔4に関して、排出ライン25を通じて排出される低沸点留分中の凝縮可能成分を凝縮するためのコンデンサー9と、このコンデンサー9で凝縮した液体成分を第2の蒸留塔4及び/又は反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン26と、このコンデンサー9の非凝縮成分である気体成分を排出するための排出ラインとを備えている。
【0025】
なお、このプロセスは、コンデンサー5、熱交換器7及びコンデンサー8で排出された気体成分中に含まれる有価成分であるヨウ化メチルなどを回収し反応器1にリサイクルするためのスクラバーシステム10を備えている。なお、スクラバーシステム10から反応器1へ有価成分をリサイクルするラインは図1では省略されている。
【0026】
より詳細には、反応器1には、液体成分としてのメタノール及び気体反応成分としての一酸化炭素が所定速度で連続的に供給されるとともに、カルボニル化触媒系(ロジウム触媒などの主たる触媒成分と、ヨウ化リチウム及びヨウ化メチルなどの助触媒とで構成された触媒系)を含む触媒混合物(触媒液)及び水を連続的に供給してもよい。また、後続の工程(蒸発槽2、第1及び第2の蒸留塔3,4、熱交換器7、スクラバーシステム10など)からの低沸点留分及び/又は高沸点留分を含む留分(例えば、液状の形態で)を反応器1に供給してもよい。そして、反応器1内では、反応成分と金属触媒成分(ロジウム触媒及びヨウ化リチウム)などの高沸成分とを含む液相反応系と、一酸化炭素及び反応により副生した水素、メタン、二酸化炭素、並びに一部が気化した低沸成分(ヨウ化メチル、生成した酢酸、酢酸メチルなど)などで構成された気相系とが平衡状態を形成しており、攪拌機などによる撹拌下、メタノールのカルボニル化反応が進行する。反応器1内の圧力(反応圧、一酸化炭素分圧、水素分圧など)は、上部(又は塔頂)から蒸気を抜き出してコンデンサー5に導入することにより、一定に保持されていてもよい。コンデンサー5で冷却して、液体成分(酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、アセトアルデヒド、水などを含む)と気体成分(一酸化炭素、水素などを含む)とを生成させ、得られた前記液体成分が反応器1にリサイクルされ、前記気体成分(排ガス)はスクラバーシステム10に供給され、有価成分であるヨウ化メチルなどが回収されて反応器1にリサイクルされる。特に、反応系は、発熱を伴う発熱反応系であるため、反応液から蒸気に移行した反応熱の一部をコンデンサー5で冷却することにより、反応器で発生する熱量の一部を除熱できる。
【0027】
なお、反応器1には、触媒活性を高めるため、必要により水素を供給してもよい。また、前記反応系は、発熱を伴う発熱反応系であるため、前記反応器1は、反応温度を制御するための除熱又は冷却装置(ジャケットなど)などを備えていてもよいが、本発明では、この除熱又は冷却装置を配設することなく、除熱が可能である。従って、一酸化炭素を有効に利用でき、ロジウム触媒活性の低下も抑制されるため、反応効率を向上できる。
【0028】
反応器1で生成した反応混合物(反応粗液)中には、酢酸、ヨウ化水素、酢酸よりも沸点の低い低沸成分又は低沸不純物(助触媒としてのヨウ化メチル、酢酸とメタノールとの反応生成物である酢酸メチル、副反応生成物であるアセトアルデヒド、ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなどの高級ヨウ化物など)、及び酢酸よりも沸点の高い高沸成分又は高沸不純物[金属触媒成分(ロジウム触媒、及び助触媒としてのヨウ化リチウム)、プロピオン酸、水など]などが含まれる。
【0029】
前記反応混合物から主に金属触媒成分などの高沸成分を分離するため、前記反応器1から反応混合物の一部を連続的に抜き取って蒸発槽2に導入又は供給する。蒸発槽2では、反応混合物から、高沸点留分(主に、ロジウム触媒及びヨウ化リチウムなどの金属触媒成分などを含む)と、低沸点留分(主に、生成物であり反応溶媒としても機能する酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、ヨウ化水素などを含む)とを分離し、前記高沸点留分を塔底から缶出し、熱交換器6に導入する。この工程においても、高沸点留分が熱交換器6で冷却されることにより、反応熱の一部が除熱される。なお、前記高沸点留分には、前記金属触媒成分の他、蒸発せずに残存したヨウ化メチル、酢酸メチル、ヨウ化水素、水及び酢酸なども含まれる。
【0030】
一方、低沸点留分(酢酸流)を蒸発槽2の塔頂部又は上段部から留出させ、第1の蒸留塔3に供給又は導入するとともに、低沸点留分の一部を熱交換器7に導入して凝縮する。詳しくは、熱交換器7で冷却して、液体成分(酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水及びプロピオン酸)と気体成分(一酸化炭素、水素などを含む)とを生成させ、得られた前記液体成分が反応器1にリサイクルされる。一方、前記気体成分(排ガス)はスクラバーシステム10に供給され、ヨウ化メチルなどが回収され、反応器1にリサイクルされる。また、図1に示すプロセスとは異なり、前記液体成分を反応器1にリサイクルする代わりに、後述する蒸留及び/又は吸着処理などを利用して、高純度の酢酸を精製してもよい。本発明では、蒸発槽の低沸点留分を抜き出して熱交換器に導入することにより、反応液からフラッシュ蒸気に移行した反応熱の一部を熱交換器で冷却するため、効率的な除熱が可能となり、その結果、本発明では、大型プラントであっても、後工程(又は後続)の蒸留塔やコンデンサーのサイズを小型化できるため、省資源省エネルギー型の設備で高純度の酢酸を高い収率で製造できる。さらに、反応器に設置される外部循環冷却設備を使用しなくても、除熱が可能となり、一酸化炭素のロスが抑制され、反応効率の向上や設備費用の低下につながる。すなわち、反応熱をフラッシュ蒸気に移行し、蒸留塔の塔頂コンデンサーで移行した反応熱をフラッシュ蒸気の濃縮により除去する従来の方法では、反応器で生成した酢酸を反応液中から蒸発させるのに必要な熱量を大幅に上回る熱量を前記コンデンサーで除去しなければならない。そのため、蒸留塔及びコンデンサーは、酢酸の精製に必要なサイズよりはるかに大きい設備となり、エネルギーコストも大きかった。また、反応器に冷却器を設置する場合、冷却器で温度が低下するまでの配管(冷却器に反応液を供給するための配管及び冷却器中での配管)中では、反応液は高温高圧下であるため、反応器内と同様の酢酸生成反応が起こり、一酸化炭素が消費され、ロジウム触媒の沈降が起こる。これに対して、本発明では、前記冷却器を用いず、酢酸の精製に不要な熱量を予め熱交換器で除去することにより、効率かつ精度よく、温度を制御できるため、前記課題を解決した。
【0031】
なお、蒸発槽2内の温度及び/又は圧力を、反応器1内の温度及び/又は圧力より低くすることにより、副生成物がさらに生成するのを抑制したり、触媒活性が低下するのを抑制してもよい。
【0032】
第1の蒸留塔3では、通常、低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、水などを含む)の一部を含む低沸点留分を塔頂又は塔の上段部から分離してコンデンサー8に供給するとともに、高沸成分(水、プロピオン酸など)を含む高沸点留分を、塔底又は塔の下段部から缶出ラインを通じて分離して反応器1又は蒸発槽2にリサイクルする。さらに、主に酢酸を含む側流(酢酸流)を、第1の蒸留塔3からサイドカットにより留出させ、第2の蒸留塔4に供給又は導入している。
【0033】
第1の蒸留塔3の塔頂又は上段部より留出した低沸点留分は、酢酸なども含んでおり、コンデンサー8に供給される。コンデンサー8において、前記低沸点留分は、凝縮され、主に一酸化炭素、水素などを含む気体成分と、ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸、水、アセトアルデヒドなどを含む液体成分とに分離される。コンデンサー8で分離された前記気体成分は、スクラバーシステム10に供給され、ヨウ化メチルなどを回収して反応系1にリサイクルされる(図示せず)。コンデンサー8で分離された前記液体成分は、第1の蒸留塔3にリサイクルしてもよい。また、所定量の水分を含有する場合、図1に示すプロセスとは異なり、前記液体成分を、水性相と油性相とに分離し、助触媒としてのヨウ化メチルを多く含む油性相を反応器1にリサイクルし、酢酸メチル、酢酸、アセトアルデヒドなどを多く含む水性相を第1の蒸留塔3にリサイクルしてもよい。また、逆に、水性相を反応器1にリサイクルし、油性相を第1の蒸留塔3にリサイクルしてもよく、水性相と油性相の一部を混合して、反応器1や第1の蒸留塔3にリサイクルしてもよい。本発明では、第1の蒸留塔3から留出した低沸点留分をコンデンサー8で凝縮することにより、反応液からフラッシュ蒸気を介して低沸点留分に移動した反応熱の一部をコンデンサー8で冷却でき、反応熱の一部が除熱される。
【0034】
第1の蒸留塔3の底部から缶出された高沸点留分は、高沸成分とともに、蒸発せずに残存した低沸成分及び酢酸などを含んでおり、反応器1にリサイクルされる。なお、図1に示すプロセスとは異なり、高沸点留分は、蒸発槽2を経由して反応器1にリサイクルしてもよい。
【0035】
前記第1の蒸留塔3からサイドカットされ、第2の蒸留塔4に供給された酢酸流は、第2の蒸留塔4において、酢酸流中に残存する低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、水など)の少なくとも一部をさらに分離し、より純度の高い酢酸流を側流として留出させる。第2の蒸留塔4では、前記低沸成分を含む低沸点留分を、塔頂又は塔の上段部からコンデンサー9に供給するとともに、酢酸を多く含む側流(酢酸流)をサイドカットして留出させる。塔頂又は塔上段部から排出された低沸点留分は、必要により第2の蒸留塔4及び/又は反応系1にリサイクルしてもよい。なお、高沸成分(プロピオン酸やヨウ化物塩など)などの高沸点留分を、塔底から缶出し、必要により反応器1にリサイクルしてもよいし、一部を廃棄してもよい。また、前記サイドカットをせずに塔底から缶出した酢酸流をさらに精製してもよい。
【0036】
第2の蒸留塔4の塔頂又は上段部より留出した低沸点留分は、コンデンサー9で凝縮され、主に窒素あるいは一酸化炭素、水素などを含む気体成分と、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、アセトアルデヒドなどを含む液体成分とに分離される。コンデンサー9で分離された前記気体成分は、反応器1にリサイクルされる。コンデンサー9で分離された前記液体成分は、第2の蒸留塔4にリサイクルしてもよい。また、所定量の水分を含有する場合、第1の蒸留塔と同様に、水性相と油性相とに分離してリサイクルしてもよい。
【0037】
本発明の製造方法は、このように、メタノールと一酸化炭素とを反応器で連続的に反応させる反応工程と、前記反応器から反応混合物を連続的に抜き出して蒸発槽に供給し、高沸点留分と低沸点留分とに分離するフラッシュ蒸発工程と、前記蒸発槽で気化した低沸点留分を蒸留塔に供給し、酢酸を蒸留する蒸留工程とを含み、前記蒸留塔に供給される前記低沸点留分の一部を熱交換器に導入して凝縮する工程などを利用して反応熱を除熱している。
【0038】
(反応工程)
反応工程(カルボニル化反応系)では、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルからなる群から選択された少なくとも一種(メタノール及び/又はその誘導体)を一酸化炭素でカルボニル化する。なお、メタノール及び/又はその誘導体は、フレッシュな原料を直接又は間接的に反応系へ供給してもよく、また、蒸留工程から留出するメタノール及び/又はその誘導体を、リサイクルすることにより、反応系に供給してもよい。
【0039】
反応系における触媒系は、カルボニル化触媒であるロジウム触媒と、助触媒又は促進剤とで構成できる。ロジウム触媒は、ロジウム単体であってもよく、また、酸化物(複合酸化物を含む)、水酸化物、ハロゲン化物(塩化物、臭化物、ヨウ化物など)、カルボン酸塩(酢酸塩など)、無機酸塩(硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩など)、錯体などの形態でも使用できる。また、ロジウム触媒は反応液中で可溶な形態で使用するのが好ましい。なお、ロジウムは、通常、反応液中で錯体として存在しているため、触媒は、反応液中で錯体に変化可能である限り、特に制限されず、種々の形態で使用できる。このようなロジウム触媒としては、特に、ロジウムのヨウ化物(RhI)、[RhI(CO)や[RhI(CO)などのロジウム錯体が好ましい。また、触媒は、後述するヨウ化物塩及び/又は水を添加することにより反応液中で安定化させることができる。
【0040】
触媒の濃度は、例えば、液相系全体に対して重量基準で200〜3,000ppm、好ましくは300〜2,000ppm、さらに好ましくは500〜1,500ppm程度である。
【0041】
前記触媒系を構成する助触媒としては、ヨウ化物塩が使用される。ヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化物アルカリ金属塩(ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウムなど)、ヨウ化物アルカリ土類金属塩(ヨウ化ベリリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウムなど)、ヨウ化物の周期表3B属元素塩(ヨウ化ホウ素、ヨウ化アルミニウムなど)、ヨウ化物のホスホニウム塩(トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなど)、ヨウ化物のアンモニウム塩(三級アミン、ピリジン類、イミダゾール類、イミド類とヨウ化物との塩など)などが挙げられる。これらのヨウ化物塩は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのヨウ化物塩のうち、ヨウ化リチウムなどのヨウ化物アルカリ金属塩が好ましい。
【0042】
ヨウ化物塩の反応器の反応系(反応液)における濃度は、反応系の液相全体に対して、例えば、2〜30重量%、好ましくは6〜25重量%、さらに好ましくは7〜25重量%程度である。さらに、反応系におけるヨウ化物イオンの濃度は、例えば、0.07〜2.5モル/リットル、好ましくは0.25〜1.5モル/リットルであってもよい。
【0043】
前記触媒系を構成する促進剤としては、ヨウ化アルキル(例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピルなどのヨウ化C1−4アルキルなど)、特にヨウ化メチルが利用される。促進剤の濃度は、高いほど反応が促進されるため、促進剤の回収、回収した促進剤を反応器へ循環する工程の設備規模、回収や循環に必要なエネルギー量などを考慮し、経済的に有利な濃度を適宜選択できる。ヨウ化アルキル(特にヨウ化メチル)の反応系における濃度は、反応系の液相全体に対して、例えば、1〜20重量%、好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは6〜16重量%程度である。
【0044】
反応系は、反応系全体に対して、酢酸メチルを0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%程度の割合で含有していてもよい。なお、原料としてメタノールやジメチルエーテルを用いた場合であっても、反応液中には原料のメタノールが存在し、生成物の酢酸との平衡により、通常0.5〜6重量%程度の酢酸メチルが存在している。
【0045】
反応系に供給する一酸化炭素は、純粋なガスとして使用してもよく、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、二酸化炭素など)で稀釈して使用してもよい。また、後続の工程(フラッシュ蒸発工程、蒸留工程、熱交換器、コンデンサーなど)から得られる一酸化炭素を含む排ガス成分を反応系にリサイクルしてもよい。反応器中の一酸化炭素分圧は、例えば、2〜30気圧、好ましくは4〜15気圧程度であり、絶対圧力で、例えば、0.8〜3MPa、好ましくは1.05〜2.5MPa、さらに好ましくは1.15〜2MPa程度であってもよい。
【0046】
前記カルボニル化反応では、一酸化炭素と水との反応によりシフト反応が起こり、水素が発生するが、反応系に水素を供給してもよい。反応系に供給する水素は、原料となる一酸化炭素と共に混合ガスとして反応系に供給することもできる。また、後続の蒸留工程(蒸留塔)で排出された気体成分(水素、一酸化炭素などを含む)を、必要により適宜精製して反応系にリサイクルすることにより、水素を供給してもよい。反応系の水素分圧は、絶対圧力で、例えば、0.5〜200kPa、好ましくは1〜150kPa、さらに好ましくは5〜100kPa(例えば、10〜70kPa)程度であってもよい。
【0047】
なお、反応系の一酸化炭素分圧や水素分圧は、例えば、反応系への一酸化炭素及び水素の供給量又はこれらの成分の反応系へのリサイクル量、反応器オフガス量、反応系への原料基質(メタノールなど)の供給量、反応温度や反応圧力などを適宜調整することにより調整することができる。
【0048】
カルボニル化反応において、反応温度は、例えば、150〜250℃、好ましくは160〜230℃、さらに好ましくは180〜220℃程度であってもよい。また、反応圧力(全反応器圧)は、例えば、15〜40気圧程度であってもよく、ゲージ圧力で、1〜5MPa、好ましくは1.5〜4MPa、さらに好ましくは2〜3.5MPa程度であってもよい。
【0049】
反応は溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。反応溶媒としては、反応性や、分離又は精製効率を低下させない限り特に制限されず、種々の溶媒を使用できるが、通常、生成物である酢酸を用いる場合が多い。
【0050】
反応系に含まれる水濃度は、特に制限されないが、低濃度であってもよい。反応系の水濃度は、反応系の液相全体に対して、例えば、0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜6重量%、さらに好ましくは0.1〜4重量%程度である。反応系において、各成分、特にヨウ化物塩(ヨウ化リチウム)及び水濃度を特定の濃度に保持して反応させることにより、蒸発槽に供給する液中の一酸化炭素の溶解度を低下させ、一酸化炭素のロスを低減できる。一酸化炭素ロス低減の目的から、特にヨウ化物塩の濃度が6〜25重量%(好ましくは7〜25重量%)、水の濃度が0.1〜6重量%(好ましくは0.1〜4重量%)の場合が好ましい。
【0051】
前記カルボニル化反応では、酢酸が生成するとともに、生成した酢酸とメタノールとのエステル(酢酸メチル)、エステル化反応に伴って、水、さらにはアセトアルデヒド、プロピオン酸などが生成する。
【0052】
なお、反応系では、後続の工程(蒸留塔など)からのリサイクル流中のアルデヒドを除去したり、反応条件、例えば、ヨウ化アルキルなどの助触媒の割合及び/又は水素分圧を低減することなどにより、アルデヒドの生成を抑制してもよい。また、水濃度を調整したりすることにより、反応系内での水素の発生を抑制してもよい。
【0053】
反応系における目的の酢酸の空時収量は、例えば、5〜50モル/Lh、好ましくは8〜40モル/Lh、さらに好ましくは10〜30モル/Lh程度であってもよい。
【0054】
反応器の圧力の調整などを目的とし、反応器の上部(又は塔頂)から抜き出された蒸気成分は、反応熱の一部を除熱するために、コンデンサーや熱変換器などにより冷却するのが好ましい。冷却された蒸気成分は、液体成分(酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、アセトアルデヒド、水などを含む)と気体成分(一酸化炭素、水素などを含む)とに分離され、液体成分を反応器にリサイクルし、気体成分をスクラバーシステムに導入するのが好ましい。
【0055】
(フラッシュ蒸発工程)
フラッシュ蒸発工程(蒸発槽)では、反応工程から供給された反応混合物から、少なくとも高沸点触媒成分(金属触媒成分、例えば、ロジウム触媒及びヨウ化物塩)を含む高沸点留分を液体として分離するとともに、酢酸を含む低沸点留分(酢酸流)を蒸気として分離する。
【0056】
ロジウム触媒成分の分離は、慣用の分離方法又は分離装置により行うことができるが、通常、フラッシュ蒸留塔を利用して行うことができる。また、蒸留と、工業的に汎用されるミストや固体の捕集方法とを併用して、ロジウム触媒成分を分離してもよい。
【0057】
フラッシュ蒸発工程では、反応混合物を加熱してもよく、加熱することなく蒸気成分と液体成分とを分離してもよい。例えば、断熱フラッシュにおいては、加熱することなく減圧することにより反応混合物から蒸気成分と液体成分とに分離でき、恒温フラッシュでは、反応混合物を加熱し減圧することにより反応混合物から蒸気成分と液体成分とに分離でき、これらのフラッシュ条件を組み合わせて、反応混合物を分離してもよい。これらのフラッシュ蒸留は、例えば、反応混合物を80〜200℃程度の温度で圧力(絶対圧力)50〜1,000kPa(例えば、100〜1,000kPa)、好ましくは100〜500kPa、さらに好ましくは100〜300kPa程度で行うことができる。
【0058】
フラッシュ蒸発工程は、単一の工程で構成してもよく、複数の工程を組み合わせて構成してもよい。また、蒸留塔形式の蒸発槽を用いてもよい。このようにして分離された高沸点触媒成分(ロジウム触媒成分)を含む高沸点留分は、通常、反応系にリサイクルされる。本発明では、このリサイクルラインに熱交換器を配設し、前記高沸点留分を冷却してもよい。熱交換器により、例えば、20〜220℃、好ましくは40〜200℃、さらに好ましくは60〜180℃程度の温度に低下するように冷却することにより、システム全体の除熱効率を向上できる。
【0059】
蒸発槽で分離された低沸点留分(酢酸流)は、生成物である酢酸の他に、ヨウ化水素、ヨウ化メチルなどの助触媒、メタノールと生成物酢酸とのエステル(酢酸メチル)、水、微量の副生成物(アセトアルデヒドやプロピオン酸など)を含んでおり、前記酢酸流を、第1及び第2の蒸留塔で蒸留することにより、精製された酢酸を製造できる。本発明では、低沸点留分(酢酸流)の一部を熱交換器に導入して凝縮することにより、反応液からフラッシュ蒸気に移動した反応熱の一部を冷却できるため、除熱効率を向上でき、反応器に対する外部循環冷却設備を配設することなく、高純度の酢酸を製造できる。蒸発槽で分離された低沸点留分のうち、熱交換器に導入される留分の割合(仕込み量比)は、例えば、1〜50重量、好ましくは3〜45重量(例えば、4〜30重量)、さらに好ましくは5〜25重量(特に7〜20重量)程度である。本発明では、このような割合(特に7〜20重量)で低沸点留分を熱交換器に導入することにより、反応効率を低下させず、有効に装置を小型化できる。さらに、熱交換器により、例えば、10〜70℃、好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは10〜30℃程度の温度に低下するように低沸点留分を冷却してもよい。前述のように反応系における各成分の濃度を調整するとともに、このような温度で前記所定量の低沸点留分を冷却することにより、一酸化炭素のロスを抑制でき、反応効率を低下させずに、除熱効率を向上できる。前述のように、冷却された低沸点留分のうち液体成分は、反応器にリサイクルしてもよく、後述する蒸留及び/又は吸着処理などを利用して、高純度の酢酸を精製してもよいが、反応器の冷却のため、反応器にリサイクルするのが好ましい。一方、冷却された低沸点留分のうち、気体成分は、スクラバーシステムに導入するのが好ましい。
【0060】
(蒸留工程)
蒸留工程では、前記蒸発工程で気化した低沸点留分を蒸留塔に供給し、酢酸を蒸留する工程であれば、特に限定されず、本発明では、前述のように、蒸留工程に供給される低沸点留分の一部が熱交換器で凝縮されて反応熱を除熱できるため、蒸留塔の塔径及び付随するコンデンサーのサイズを小さくできるため、プラントの設備が簡略化される。蒸留工程は、1つの蒸留塔で脱低沸成分処理及び脱水処理を行う工程(例えば、特許第3616400号公報に記載の蒸留塔などを利用した工程)、脱低沸成分処理及び脱水処理を行う蒸留塔に続いて、第2の蒸留塔で更なる精製を行う工程などであってもよいが、精製効率などの点から、第1の蒸留塔で主として脱低沸成分処理を行い、第2の蒸留塔で主として脱水処理を行う蒸留工程が好ましい。
【0061】
(第1の蒸留塔)
第1の蒸留塔には、蒸発槽から供給された酢酸流(低沸点留分)から、一部を熱交換器に導入した残りの酢酸流が供給される。第1の蒸留塔では、低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドなど)の少なくとも一部を含む低沸点留分と、高沸成分(プロピオン酸、水など)の少なくとも一部を含む高沸点留分(缶出)とを分離し、少なくとも酢酸を含む低沸点留分(側流)をサイドカットにより留出させている。
【0062】
第1の蒸留塔に供給される酢酸流は、前記のように、反応系からの反応混合物からロジウム触媒成分を除去して得られる酢酸流に限らず、少なくとも酢酸、ヨウ化水素、低沸成分、高沸成分などを含む酢酸流であればよく、単にこれらの成分の混合物であってもよい。また、前記反応系からの反応混合物をそのまま前記酢酸として第1の蒸留塔に供給し、ロジウム触媒成分を含む高沸点留分を第1の蒸留塔の塔底から缶出してもよい。
【0063】
第1の蒸留塔としては、例えば、慣用の蒸留塔、例えば、棚段塔、充填塔などが使用できる。なお、蒸留塔の材質は特に制限されず、ガラス、金属、セラミックなどが使用できるが、通常、金属製の蒸留塔を用いる場合が多い。
【0064】
第1の蒸留塔における蒸留温度及び圧力は、蒸留塔の種類や、低沸成分及び高沸成分のいずれを重点的に除去するかなどの条件に応じて適宜選択できる。例えば、棚段塔で行う場合、塔内圧力(通常、塔頂圧力)は、ゲージ圧力で、0.01〜1MPa、好ましくは0.01〜0.7MPa、さらに好ましくは0.05〜0.5MPa程度であってもよい。
【0065】
また、第1の蒸留塔において、塔内温度(通常、塔頂温度)は、塔内圧力を調整することにより調整でき、例えば、20〜180℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは100〜140℃程度であってもよい。
【0066】
また、棚段塔の場合、理論段は、特に制限されず、分離成分の種類に応じて、5〜50段、好ましくは7〜35段、さらに好ましくは8〜30段程度である。また、第1の蒸留塔で、アセトアルデヒドを高度に(又は精度よく)分離するため、理論段を、10〜80段、好ましくは20〜60段、さらに好ましくは25〜50段程度にしてもよい。
【0067】
第1の蒸留塔において、還流比は、前記理論段数に応じて、例えば、0.5〜3,000、好ましくは0.8〜2,000程度から選択してもよく、理論段数を多くして、還流比を低減してもよい。なお、前記フラッシュ蒸発工程から前記高沸点触媒成分を除去した低沸点留分を第1の蒸留塔の塔頂から供給することにより還流させなくてもよい。
【0068】
第1の蒸留塔から分離された低沸点留分は、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水などの有用成分を含有するため、コンデンサーや熱変換器などにより液体にした後、反応器及び/又は第1の蒸留塔にリサイクルしてもよい。その際、反応器での反応熱を除熱するために、反応器にリサイクルすることができる。なお、一酸化炭素及び水素などのオフガス成分を除去して、残る液体成分をリサイクルしてもよい。また、低沸点留分中の低沸成分のうち、アセトアルデヒドは、製品酢酸の品質を低下させるため、必要により、アセトアルデヒドを除去した後(例えば、低沸不純物を含む前記留分をさらに後述するアセトアルデヒド分離工程(アセトアルデヒド分離塔)に供し、アセトアルデヒドを除去した後)、残りの成分を反応系及び/又は第1の蒸留塔にリサイクルしてもよい。なお、オフガス成分は、スクラバーシステムに導入してもよい。
【0069】
第1の蒸留塔で分離された高沸点留分(缶出液)は、水、酢酸、飛沫同伴により混入したロジウム触媒、ヨウ化リチウムの他、蒸発せずに残存した酢酸及び前記低沸不純物などを含んでいるため、必要により、反応系及び/又は蒸発槽にリサイクルしてもよい。なお、リサイクルに先立って、製品酢酸の品質を低下させるプロピオン酸を除去してもよい。
【0070】
(第2の蒸留塔)
第2の蒸留塔では、第1の蒸留塔で分離されずに残存したヨウ化水素、低沸成分及び高沸成分をさらに精度よく除去する。第2の蒸留塔としては、例えば、慣用の蒸留塔、例えば、棚段塔、充填塔などが使用できる。また、第2の蒸留塔における塔内温度、塔内圧力、理論段数、及び還流比は、蒸留塔の種類などに応じて選択でき、例えば、前記第1の蒸留塔と同様の範囲から選択できる。
【0071】
第2の蒸留塔から分離された低沸点留分は、水、ヨウ化メチル、酢酸メチルなどの有用成分を含有するため、そのまま反応器及び/又は第2の蒸留塔にリサイクルしてもよい。また、前記低沸点留分は、アセトアルデヒドを含むため、必要により、アセトアルデヒドを、例えば、後述するアルデヒド分離塔などにより除去した後、リサイクルしてもよい。なお、オフガス成分は、スクラバーシステムに導入してもよい。
【0072】
さらに、高沸点留分を塔底又は塔下段部から缶出してもよい。第2の蒸留塔から分離された高沸点留分は、プロピオン酸、アルデヒド類、酢酸エステル類、ヨウ化アルキル類、ヨウ化金属塩類などを多く含むため、そのまま廃棄してもよい。なお、高沸点留分は、さらに水や酢酸も含むため、必要により、プロピオン酸などを除去及び/又は回収して、反応系にリサイクルしてもよい。
【0073】
第2の蒸留塔では、精製された酢酸流をサイドカットにより留出させるが、側流口の位置は、通常、蒸留塔の中段部又は下段部であってもよい。なお、高沸点留分を缶出させる缶出口より上方に位置する側流口から酢酸流を留出させて、側流と高沸点留分とを効率よく分離してもよい。
【0074】
(ヨウ化物除去工程)
第2の蒸留塔からサイドカットにより回収した精製酢酸は、通常は、製品酢酸塔に導入され、製品酢酸となるが、製品酢酸塔に導入する前に、さらにヨウ化物除去工程に供して、ヨウ化物(ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなどのヨウ化C1−15アルキルなど)を除去してもよい。
【0075】
ヨウ化物除去工程は、ヨウ化物除去能又は吸着能を有する除去体(例えば、ゼオライト、活性炭、イオン交換樹脂など)に酢酸流を接触させればよい。連続的に得られる酢酸流から、効率よくヨウ化物を除去するには、ヨウ化物除去能又は吸着能を有するイオン交換樹脂、特に、前記イオン交換樹脂を内部に備えたヨウ化物除去塔などを利用するのが有利である。
【0076】
前記イオン交換樹脂としては、通常、少なくとも一部の活性部位(通常、スルホン基、カルボキシル基、フェノール性水酸基、ホスホン基などの酸性基など)を、金属で置換又は交換したイオン交換樹脂(通常、カチオン交換樹脂)を使用する場合が多い。前記金属としては、例えば、銀Ag、水銀Hg及び銅Cuから選択された少なくとも一種などが使用できる。ベースとなるカチオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂及び弱酸性カチオン交換樹脂のいずれであってもよいが、強酸性カチオン交換樹脂、例えば、マクロレティキュラー型イオン交換樹脂などが好ましい。
【0077】
前記イオン交換樹脂において、例えば、活性部位の10〜80モル%、好ましくは25〜75モル%、さらに好ましくは30〜70モル%程度が、前記金属で交換されていてもよい。
【0078】
第2の蒸留塔からの酢酸流を、前記イオン交換樹脂に少なくとも接触(好ましくは通液)させることにより、ヨウ化物を除去できる。前記イオン交換樹脂との接触(又は通液)に伴って、必要に応じて、酢酸流を段階的に昇温してもよい。段階的に昇温することにより、イオン交換樹脂の前記金属が流出するのを防止しつつ、ヨウ化物を効率よく除去できる。
【0079】
ヨウ化物除去塔としては、少なくとも前記金属交換したイオン交換樹脂を内部に充填した充填塔、イオン交換樹脂の床(例えば、粒状の形態の樹脂を有する床)(ガードベッド)などを備えた塔が例示できる。ヨウ化物除去塔は、前記金属交換イオン交換樹脂に加え、他のイオン交換樹脂(カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、ノニオン交換樹脂など)などを内部に備えていてもよい。金属交換イオン交換樹脂より下流側にカチオン交換樹脂を配設(例えば、充填により配設、樹脂床を配設)すると、金属交換イオン交換樹脂から金属が流出しても、カチオン交換樹脂により酢酸流中から除去することができる。
【0080】
ヨウ化物除去塔の温度は、例えば、18〜100℃、好ましくは30〜70℃、さらに好ましくは40〜60℃程度であってもよい。
【0081】
酢酸流の通液速度は特に制限されないが、例えば、ガードベッドを利用するヨウ化物除去塔では、例えば、3〜15床容積/h、好ましくは5〜12床容積/h、さらに好ましくは6〜10床容積/h程度であってもよい。
【0082】
なお、ヨウ化物除去工程では、少なくとも前記金属交換イオン交換樹脂と酢酸流とを接触できればよく、例えば、金属交換イオン交換樹脂を備えた塔と、他のイオン交換樹脂を備えた塔とで構成してもよい。例えば、アニオン交換樹脂塔と、下流側の金属交換イオン交換樹脂塔とで構成してもよく、金属交換イオン交換樹脂塔と、下流側のカチオン交換樹脂の塔とで構成してもよい。前者の例の詳細は、例えば、国際公開WO02/062740号公報などを参照できる。
【0083】
(アセトアルデヒド分離工程)
反応により生成したアセトアルデヒドを含む留分を、リサイクルにより反応系及び蒸留塔などを循環させると、プロピオン酸、不飽和アルデヒド、ヨウ化アルキルなどの副生量が増大する。そのため、反応系及び/又は蒸留塔へのリサイクル液中のアセトアルデヒドを分離除去するのが好ましい。アセトアルデヒドの分離方法としては、リサイクル液をアセトアルデヒド分離塔に供給し、アセトアルデヒドを含む低沸点留分と、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水などを含む高沸点留分とに分離した後、アルデヒド分離塔の塔頂又は塔上段部からは、一酸化炭素、水素などのオフガス成分とともに、アセトアルデヒドを分離する方法であってもよい。さらに、アセトアルデヒドの分離に先立って、コンデンサーや冷却器などを利用することによりオフガス成分を予め除去してもよい。さらに、アセトアルデヒドを低沸点留分として除去して得られた高沸点留分は、ヨウ化メチル、水、酢酸メチル、酢酸などを含んでいるため、反応系にリサイクルしてもよい。
【0084】
アルデヒド分離塔としては、例えば、慣用の蒸留塔、例えば、棚段塔、充填塔、フラッシュ蒸留塔などが使用できる。
【0085】
アセトアルデヒド分離塔において、温度(塔頂温度)及び圧力(塔頂圧力)は、アセトアルデヒドと他の成分(特にヨウ化メチル)との沸点差を利用して、前記第1及び/又は第2の蒸留塔で得られた低沸点留分から、少なくともアセトアルデヒドなどを低沸点留分として分離可能であれば特に制限されず、アセトアルデヒド及びヨウ化メチルの量や比率並びに蒸留塔の種類などに応じて選択できる。例えば、棚段塔の場合、塔頂圧力は、絶対圧力で、10〜1,000kPa、好ましくは10〜700kPa、さらに好ましくは100〜500kPa程度である。塔内温度(塔頂温度)は、例えば、10〜80℃、好ましくは20〜70℃、さらに好ましくは40〜60℃程度である。理論段は、例えば、5〜80段、好ましくは8〜60段、さらに好ましくは10〜50段程度であってもよい。
【0086】
アセトアルデヒド分離塔において、還流比は、前記理論段数に応じて、1〜1000、好ましくは10〜800、さらに好ましくは50〜600(例えば、100〜600)程度から選択できる。また、アセトアルデヒドを含む低沸点留分は若干のヨウ化メチルを含み、さらなる工程、例えば、水抽出工程や蒸留工程などを経て、さらにアセトアルデヒドとヨウ化メチルとを分離してもよい。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0088】
比較例1
年間稼働8000時間において、酢酸を年間50万t製造するためのプラントとして、以下の実験を行った。図1のフロー図で示されたプラントにおいて、蒸発槽V2で分離された高沸点留分を冷却するための熱交換器E3を使用せず、蒸発槽V2で分離された低沸点留分の一部を冷却するための熱交換器E4及びそのラインを使用せずに運転を行った。反応条件としては、反応圧力が2.76MPaG(ゲージ圧)、反応温度が185℃、一酸化炭素分圧が1.06MPaA(絶対圧)であり、反応液中の各成分の濃度を水8重量%、酢酸メチル2重量%、ヨウ化メチル13重量%、ヨウ化リチウム13重量%、ロジウム600ppmに保持して連続運転を行った。発生する反応熱量は3.4×10kcal/時間であり、このプラントでは、この反応熱量を反応器V1に付随するコンデンサーE1、第1の蒸留塔T1に付随するコンデンサーE2を用いて除熱した。
【0089】
実施例1
図1のフロー図で示されたプラントを用いて、比較例1と同様の方法で連続運転を行った。すなわち、反応熱量をコンデンサーE1、コンデンサーE2、熱交換器E3及び熱交換器E4を用いて除熱した。得られた酢酸の収率、純度は、比較例1と略同じであった。
【0090】
比較例1のプラントと、実施例1のプラントとの熱量収支を比較した結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
また、比較例1におけるコンデンサーE1の仕込量(t/時間)を1として、第1の蒸留塔T1、熱交換器E3、熱交換器E4の各仕込量を相対値で表した結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
さらに、比較例1におけるコンデンサーE2の設備費(億円)を1として、コンデンサーE3、コンデンサーE4、蒸発槽V2、第1の蒸留塔T1、第2の蒸留塔T2の各設備費を相対値で表した結果を表3に示す。なお、コンデンサーE1に関しては、比較例1と実施例1とで差異がないため、省略した。
【0095】
【表3】
【0096】
表3の結果は、実施例1の設備費は、比較例1の設備費に対して6.2%(約1.4億円)安価であることを示している。すなわち、熱交換器E3、熱交換器E4及びそのラインを使用することにより、蒸発槽V2、第1の蒸留塔T1、コンデンサーE2のサイズを小型化でき、設備費を低減できる。
【0097】
比較例2
年間稼働8000時間において、酢酸を年間50万t製造するためのプラントとして、以下の実験を行った。図1のフロー図で示されたプラントにおいて、熱交換器E4及びそのラインを使用せずに運転を行った。反応条件としては、反応圧力が2.76MPaG(ゲージ圧)、反応温度が185℃、一酸化炭素分圧が1.06MPaA(絶対圧)であり、反応液中の各成分の濃度を水8重量%、酢酸メチル2重量%、ヨウ化メチル13重量%、ヨウ化リチウム13重量%、ロジウム600ppmに保持して連続運転を行った。発生する反応熱量は3.4×10kcal/時間であり、このプラントでは、この反応熱量をコンデンサーE1、コンデンサーE2、熱交換器E3を用いて除熱した。
【0098】
実施例2
図1のフロー図で示されたプラントを用いて、比較例2と同様の方法で連続運転を行った。すなわち、反応熱量をコンデンサーE1、コンデンサーE2、熱交換器E3及び熱交換器E4を用いて除熱した。なお、実施例1とは、後述するように、仕込量が異なっている。得られた酢酸の収率、純度は、比較例2と略同じであった。
【0099】
比較例2のプラントと、実施例2のプラントとの熱量収支を比較した結果を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
また、比較例1におけるコンデンサーE1の仕込量(t/時間)を1として、第1の蒸留塔T1、熱交換器E3、熱交換器E4、第2の蒸留塔T2の各仕込量を相対値で表した結果を表5に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
さらに、比較例1におけるコンデンサーE2の設備費(億円)を1として、コンデンサーE2、コンデンサーE3、コンデンサーE4、蒸発槽V2、第1の蒸留塔T1、第2の蒸留塔T2の各設備費を相対値で表した結果を表6に示す。なお、コンデンサーE1に関しては、比較例2と実施例2とで差異がないため、省略した。
【0104】
【表6】
【0105】
表6の結果は、実施例2の設備費は、比較例1に対して8.8%安価であり、比較例2に対して5.4%安価であることを示している。すなわち、熱交換器E4及びそのラインを使用することにより、蒸発槽V2、第1の蒸留塔T1、コンデンサーE2、第2の蒸留塔T2のサイズを小型化でき、設備費を低減できる。
【0106】
比較例3
年間稼働8000時間において、酢酸を年間50万t製造するためのプラントとして、以下の実験を行った。図1のフロー図で示されたプラントにおいて、熱交換器E4及びそのラインを使用しない代わりに、反応器に外部循環冷却装置E6を設置して運転を行った。反応条件としては、反応圧力が2.76MPaG(ゲージ圧)、反応温度が185℃、一酸化炭素分圧が1.15MPaA(絶対圧)であり、反応液中の各成分の濃度を水2.5重量%、酢酸メチル3重量%、ヨウ化メチル9重量%、ヨウ化リチウム15重量%、ロジウム900ppmに保持して連続運転を行った。発生する反応熱量は3.4×10kcal/時間であり、このプラントでは、この反応熱量をコンデンサーE1、コンデンサーE2、熱交換器E3、外部循環冷却装置E6を用いて除熱した。
【0107】
実施例3
図1のフロー図で示されたプラントを用いて、比較例3と同様の方法で連続運転を行った。すなわち、反応熱量をコンデンサーE1、コンデンサーE2、熱交換器E3及び熱交換器E4を用いて除熱した。得られた酢酸の収率、純度は、比較例3と略同じであった。
【0108】
比較例3のプラントと、実施例3のプラントとの熱量収支を比較した結果を表7に示す。
【0109】
【表7】
【0110】
また、比較例1におけるコンデンサーE1の仕込量(t/時間)を1として、第1の蒸留塔T1、熱交換器E3、熱交換器E4、第2の蒸留塔T2、外部循環冷却装置の各仕込量を相対値で表した結果を表8に示す。
【0111】
【表8】
【0112】
表8の結果から、実施例3は、比較例3に比べて、熱交換器E3の仕込量が多いものの、その差は、比較例3における外部循環冷却装置E6の仕込量よりも小さい。
【0113】
さらに、比較例1におけるコンデンサーE2の設備費(億円)を1として、コンデンサーE2、コンデンサーE3、コンデンサーE4、外部循環冷却装置E6、蒸発槽V2、第1の蒸留塔T1、第2の蒸留塔T2の各設備費を相対値で表した結果を表9に示す。なお、コンデンサーE1に関しては、比較例3と実施例3とで差異がないため、省略した。
【0114】
【表9】
【0115】
表9の結果から、比較例3と実施例3との設備費は同等である。さらに、一酸化炭素のロス量、蒸気・冷却水量、これらの合計量の比例費を評価した結果を表10に示す。なお、比較例3において、水分濃度を8重量%、酢酸メチル濃度を1.6重量%、ヨウ化メチル濃度を13重量%、ヨウ化リチウム濃度を5重量%、ロジウム濃度を600ppmとした比較例4についても比較のために、評価した。
【0116】
【表10】
【0117】
表10の結果から、反応液中の水分を低減し、ヨウ化リチウム濃度を増加させることにより、蒸発槽に供給する一酸化炭素の溶解度を低下させ、一酸化炭素ロスを抑制できる。しかし、外部循環冷却装置を使用する比較例3及び4の場合、ロジウムの沈降が起こり、運転が不可能となることもある。また、ロジウムロスを考慮すると、比例費は、比較例3よりも実施例3の方が著しく安価となる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の製造方法は、工業的な酢酸の製造方法、特に、連続法による大型プラントでの酢酸の製造方法において、省資源省エネルギー型の設備で、高度に精製された酢酸を得るのに有用である。
【符号の説明】
【0119】
1…反応器
2…蒸発槽
3…第1の蒸留塔
4…第2の蒸留塔
5,8,9…コンデンサー
6,7…熱交換器
図1