特許第5662293号(P5662293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5662293注意欠陥多動性障害の診断用SNPとそれを含むマイクロアレイ及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662293
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】注意欠陥多動性障害の診断用SNPとそれを含むマイクロアレイ及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150108BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20150108BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20150108BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 A
   G01N33/53 M
   C12N15/00 F
   G01N37/00 102
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-227346(P2011-227346)
(22)【出願日】2011年10月14日
(65)【公開番号】特開2013-66454(P2013-66454A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2011年10月14日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0094918
(32)【優先日】2011年9月20日
(33)【優先権主張国】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 Nat. Med., 2011 Apr.17(online), vol.17, no.5, pp.566−572 に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】502318478
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
(73)【特許権者】
【識別番号】510051152
【氏名又は名称】エスエヌユー アールアンドディービー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【復代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】カン、 チャンウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ユンジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジェウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ユンジン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン、 ヒェジョン
(72)【発明者】
【氏名】マ、 ウォン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 スチョル
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/118258(WO,A2)
【文献】 ss721752,2000年 7月27日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/snp_retrieve.cgi?subsnp_id=721752
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの17番染色体の24926101番目の塩基であるC/Tが存在するGIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型部位を含む塩基配列部位と相補的な配列を有するプローブ、及び/または前記一塩基多型部位を含む塩基配列部位の増幅のためのプライマーを含む、注意欠陥多動性障害の診断用組成物。
【請求項2】
1)毛、血液、組職、細胞、血清、血漿、唾液、喀痰及び尿からなる群から選択される何れか一つの生物学的試料から核酸試料を分離する段階と、
2)段階1)で分離した核酸試料で、GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型塩基をヒト染色体17番の24926101番目の塩基位置で確認する段階と、
3)前記段階2)で確認されたrs550818一塩基多型の対立遺伝子型がC/Tである場合、注意欠陥多動性障害の発病危険度が高いと判定する段階と、を含む注意欠陥多動性障害の危険度の予測方法。
【請求項3】
前記段階2)は、マイクロアレイ(microarray)によるプローブハイブリダイゼーション法、対立遺伝子特異的プローブハイブリダイゼーション法(allele−specific probe hybridization)、対立遺伝子特異的増幅法(allele−specific amplification)、配列決定法(sequencing)、5’ヌクレアーゼ分解法(5’nuclease digestion)、分子ビーコンアッセイ法(molecular beacon assay)、オリゴヌクレオチド結合アッセイ法(oligonucleotide ligation assay)、サイズ分析法(size analysis)及び一本鎖高次構造多型法(single−stranded conformation polymorphism)からなる群から選択される一つ以上の方法により行われることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型部位の配列を含むプローブ、または前記一塩基多型部位の増幅のためのプライマーを含み、重合酵素連鎖反応により増幅してポリヌクレオチドを決定する段階を含むことを特徴とする注意欠陥多動性障害の危険度の予測方法。
【請求項5】
前記重合酵素連鎖反応は、リアルタイム重合酵素連鎖反応(RT−PCR)またはPNAプローブを用いた重合酵素連鎖反応であることを特徴とする請求項4に記載の予測方法。
【請求項6】
GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型塩基のC/Tとハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドまたはその相補的なポリヌクレオチドを含む、注意欠陥多動性障害の危険度の診断用マイクロアレイ。
【請求項7】
前記注意欠陥多動性障害の診断用マイクロアレイを構成するポリヌクレオチドは、アミノ−シラン、ポリ−L−リジン及びアルデヒドからなる群から選択される一つ以上の活性基がコーティングされた基板に固定されることを特徴とする請求項6に記載のマイクロアレイ。
【請求項8】
前記基板は、シリコンウェハ、ガラス、石英、金属、ナイロン膜、ニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)、及びプラスチックからなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする請求項7に記載のマイクロアレイ。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか一項に記載のマイクロアレイを含む注意欠陥多動性障害の危険度の診断用キット。
【請求項10】
前記マイクロアレイは、ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ結合物質(streptoavidin−alkaline phosphatase conjugate)、化学蛍光物質(chemiflurorensce)及び化学発光物質(chemiluminescent)からなる群から選択される何れか一つをさらに含んでハイブリダイゼーションすることを特徴とする請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記ハイブリダイゼーションに用いられる緩衝溶液、RNAからcDNAを合成するための逆転写酵素、dNTPs及びrNTP(事前混合型または分離供給型)、標識試薬、及び洗浄緩衝溶液からなる反応試薬群から選択される何れか一つ以上をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記化学蛍光物質は、Cy3、Cy5、FITC(poly L−lysine−fluorescein isothiocyanate)、RITC(rhodamine−B−isothiocyanate)及びローダミン(rhodamine)からなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする請求項11に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注意欠陥多動性障害の発病と有意の相関関係を有する特定の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、SNP)を選別し、これをマーカーとして利用して注意欠陥多動性障害の発病危険性を予測する技術に関し、より具体的には、ヒトの17番染色体の24926101番目の塩基であるC/Tを含むポリヌクレオチド、GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型の塩基を確認して、注意欠陥多動性障害の発病危険性を予測する方法に関する。また、前記一塩基多型を検出するためのプローブまたは前記染色体部位を増幅するためのプライマーを含む注意欠陥多動性障害の発病危険性を診断するための組成物及び前記プローブを表面に固定させた検診用キットに関する。
【0002】
従って、本発明による予測方法、診断用組成物及びキットは、簡便且つ高感度で注意欠陥多動性障害の発病危険群を分類することができ、これらの危険群を予め予防したり早期発見できるようにする有用な技術である。
【背景技術】
【0003】
注意欠陥多動性障害(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder、ADHD)は児童期に多く発症する障害であり、持続的な注意力の低下による注意散漫、活動過多、衝動性を症状とする障害である。これらの症状を治療せずに放置すると、児童期の全体に亘って持続的に生活が困難であり、一部の場合は青少年期及び成人期になっても症状が続くようになる(Barkey RA、Attention Deficit Hyperactivity Disorder.A Handbook for Diagnosis and Treatment、Guilford、New York、2006)。
【0004】
注意欠陥多動性障害の発病原因としては、神経化学的要因、遺伝的要因及び環境的要因が報告されている。特に、神経伝達物質であるドーパミンと注意欠陥多動性障害との連関性が知られているが(Swanson JM et al.、Neuropsychol.Rev.17:39−59、2007)、既に行われた注意欠陥多動性障害の感受性関連遺伝子の探索研究では、ドーパミン輸送体などのドーパミン関連遺伝子が含まれていなかった(Franke B et al.Hum.Genet.126:13−50、2009)。従って、本疾病の発病原因には、多様な遺伝的素因があると判断される。
【0005】
注意欠陥多動性障害に係って、最近行われたゲノム(genome)ワイド関連解析の結果として、ヒトゲノム上17p12、17p11及び17q11領域に疾患感受性関連遺伝変異が存在する可能性が報告された(Ogdie MN et al.、Am.J.Hum.Genet.75:661−668、2004;Ogdie MN et al.、Am.J.Hum.Genet.72:1268−1279、2003;Acros−Burgos M et al.、Am.J.Hum.Genet.75:998−1014、2004)。この領域に存在する遺伝子から発現されるタンパク質の一つであるGIT1タンパク質は、GTPase−活性タンパク質ドメインを有するアダプタータンパク質の一つであり、β2−アドレナリン受容体を始め、多様なGタンパク質−関連受容体を調節すると知られている(Premont RT et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14082−14087、1998;Claig A et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:1119−1124、2000)。齧歯類の脳でGIT1タンパク質は、シナプスの形成を始め、多様な神経機能に影響を及ぼすと知られており、特にGit1遺伝子が除去されたマウス(Git1−/−)では、神経細胞樹状突起の成長障害、脊椎密度の減少、恐怖反応障害及び新しい環境への適応力の減少などの症状が確認された(Menon P et al.、Brain Res 1317:218−226、2010;Schmalzigaug et al.、Neurosci.Lett.458:79−93、2009)。
【0006】
従って、GIT1タンパク質のこのような機能に注目した本発明者らは、患者−対照群の研究によりGIT1遺伝子の注意欠陥多動性障害の感受性との関連性を分析し、GIT1遺伝子内のイントロンに位置する一塩基多型が疾患感受性と有意味に関連していることを最初に見い出した。
【0007】
一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)は、ヒトゲノムに約0.1%(約1000塩基に1塩基)の比率で存在するもっとも頻度の高い多型である。即ち、この一塩基多型とは、ゲノム遺伝子で一つの塩基が異なる塩基に置換することにより、例えば野生型がG/C塩基対であることに対し、多型ではA/T塩基対となっている状態を意味する。また、二本鎖染色体の夫々の対立遺伝子が多型の形態である場合(同型接合多型)と、一方が野生型で他方が多型である場合(異型接合多型)が存在する。このような一つの塩基の変異は、コドン変異による変異アミノ酸の合成(ミスセンス変異)や終止コドンの生成による不完全タンパク質の合成(ナンセンス変異)を発生させる場合がある。従って、一塩基多型の有無が様々な疾病にも関連していることが明らかになっており(特許文献1;韓国登録特許10−1012601、特許文献2;韓国登録特許10−1057262)、診断や遺伝的治療などを目的に、一塩基多型の有無を正確に判定すること(SNPタイピング)の重要性が強く認識されている。また、この一塩基多型は、疾患にかかりやすい性質や薬剤反応性に係る遺伝子を探索する際の有用な多型マーカーでもあり、テーラーメイド(tailor−made)医療のための重要な遺伝子情報としても注目されている。
【0008】
そこで、本発明者らは、GIT1遺伝子内のイントロンに位置する一塩基多型が注意欠陥多動性障害の遺伝的素因を予測するために用いられることができるということを確認し、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許10−1012601:乳癌の発病危険性を検診するための組成物、登録日:2011年01月27日、出願人:マクロジェン・インコーポレーテッド
【特許文献2】韓国登録特許10−1057262:アスピリン過敏症の診断用バイオマーカー、その製造方法及びそれを利用したアスピリン過敏症の診断方法、登録日:2011年08月09日、出願人:スンチュンヒャンユニバーシティインダストリーアカデミーコオペレーションファウンデーション
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Swanson JM et al.、Neuropsychol.Rev、17:39−59、2007。
【非特許文献2】Franke B et al.、Hum.Genet、126:13−50、2009。
【非特許文献3】Ogdie MN et al.、Am.J.Hum.Genet.75:661−668、2004。
【非特許文献4】Ogdie MN et al.、Am.J.Hum.Genet.72:1268−1279、2003。
【非特許文献5】Acros−Burgos M et al.、Am.J.Hum.Genet.75:998−1014、2004。
【非特許文献6】Premont RT et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14082−14087、1998。
【非特許文献7】Claig A et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:1119−1124、2000。
【非特許文献8】Menon P et al.、Brain Res 1317:218−226、2010。
【非特許文献9】Schmalzigaug et al.、Neurosci.Lett.458:79−93、2009。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ヒトの17番染色体の24926101番目の塩基であるC/Tを含むポリヌクレオチド、GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型または一塩基多型の周辺を含む注意欠陥多動性障害の診断用組成物を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、注意欠陥多動性障害の発病と有意の相関関係を有する所定の一塩基多型を含む染色体部位と相補的な配列を有するプローブまたは前記染色体部位の増幅のためのプライマーを含む注意欠陥多動性障害の診断用組成物を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、ヒト被検体から採取した遺伝子試料に対して、注意欠陥多動性障害の発病と有意の相関関係を有する所定の一塩基多型の塩基を確認し、注意欠陥多動性障害の発病危険性を予測する方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、マイクロアレイを含む、注意欠陥多動性障害の危険度を診断するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によると、注意欠陥多動性障害の患者群と正常群とのGIT1遺伝子内の一塩基多型を確認することにより、注意欠陥多動性障害と有意の相関関係を有する一塩基多型を選別し、後で前記一塩基多型の情報に基づいて注意欠陥多動性障害の発病危険性を測定する予測方法が提供される。
【0016】
本発明によると、注意欠陥多動性障害の患者群に特異的で有意の相関関係を有する一塩基多型であるヒト染色体17番の24926101番目の塩基位置(Genome Build 36.3)に存在するrs550818の1個の一塩基多型が選別された。野生型の場合は前記位置に塩基Cを有するが、変異が起こりTに変わると変異されたTは注意欠陥多動性障害の発病において優性として作用するため、二つの対立遺伝子のうち一つでもTを含むC/T型である場合、注意欠陥多動性障害の発病危険性が有意に高くなる可能性がある。
【0017】
このように、本発明における一塩基多型に関する情報に基づいて、注意欠陥多動性障害が発病していない個体の全体遺伝子のうち前記一塩基多型の塩基を確認して、注意欠陥多動性障害の発病危険性が高い場合に該当するか否かを決定し、前記個体の注意欠陥多動性障害の発病危険性を予測することができる。
【0018】
そのために、本発明におけるヒトの17番染色体の24926101番目の塩基に位置するGIT1遺伝子内のrs550818の1個の一塩基多型は、注意欠陥多動性障害の発病危険性を診断するための組成物に提供される。
【0019】
一方、連鎖不平衡(Linkage Disequilibrium、以下LDという)部位は、ゲノム上の特定領域が世代を経ていくうちにcross−overが殆ど起こらないほど短いかまたは遺伝子が密集しているため生じる部分である。従って、この領域に存在するゲノム情報(genomic information)は殆ど同一であり、世代を経ても殆ど保存される。本発明における注意欠陥多動性障害の発病危険性と有意の相関関係を有する一塩基多型は、ゲノム上の特定位置に存在する変異である。また、注意欠陥多動性障害と連関を示した一塩基多型rs550818と相関係数(correlation coefficiency r−二乗(r−square))が0.95以上である多型部位を探索する段階と、注意欠陥多動性障害と連関を示した一塩基多型rs550818と連鎖不平衡係数(linkage disequilibrium D−プライム(D'))が0.95以上である多型部位を探索する段階と、を含む。従って、前記GIT1遺伝子内の一塩基多型の周辺にLD領域が形成されている場合、そのLD領域に位置する遺伝子も前記一塩基多型と同一のゲノム情報を有するようになるため、前記GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型の周辺の連鎖不平衡部位も注意欠陥多動性障害の診断用組成物に提供されることができる。
【0020】
このような内容に基づき、本発明における前記注意欠陥多動性障害の診断用組成物で各被検体の遺伝子を分析することができる。前記遺伝子分析は、注意欠陥多動性障害と有意の相関関係を有する所定の一塩基多型を含む染色体部位と相補的な配列を有するプローブ及び/または前記染色体部位の増幅のためのプライマーを含む。
【0021】
このような遺伝子分析の具体的な方法は、特に制限されず、この発明が属する技術分野において公知された全ての遺伝子検出方法を利用することができる。前記遺伝子試料は、被検体から分離した全ての生体試料を含み、例えば、毛、血液、組職、細胞、血清、血漿、唾液、喀痰及び尿からなる群から選択される何れか一つであることが好ましく、血液であることがさらに好ましいが、これに限定されない。
【0022】
前記方法において、前記被検体は、ヒト、サル、イヌ、ヤギ、ブタ、またはマウスなどの全ての動物を意味する。
【0023】
本発明によると、1)被検体由来の生物学的試料から核酸試料を分離する段階と、2)段階1)で分離した核酸試料で、GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型塩基をヒト染色体17番の24926101番目の塩基位置で確認する段階と、3)前記段階2)で確認されたrs550818一塩基多型の対立遺伝子型がC/Tである場合、注意欠陥多動性障害の発病危険度が高いと判定する段階と、を含む注意欠陥多動性障害の危険度の予測方法が提供される。
【0024】
前記方法において、被検体の生物学的試料から核酸を分離する方法は、当業界において公知された方法を利用して行われることができる。例えば、目的の核酸が細胞にある際、純粋な核酸を得るために、まず細胞の抽出物を得た後、示差沈殿(differential precipitation)、カラムクロマトグラフィー、有機溶媒の抽出などをさらに行うことができる。抽出物は、該当技術分野の標準技術、例えば細胞の化学的または機械的溶解を利用して得られることができる。次に、抽出物は、如何なる汚染及び干渉タンパク質を無くすために、例えば、ろ過及び/または遠心分離により、及び/またはグアニジウムイソチオシアネート(guanidium isothiocyanate)または尿素(urea)などのカオトロピック塩(chaotropic salt)、若しくはフェニル及び/またはクロロホルムなどの有機溶媒により、さらに処理されることができる。カオトロピック塩が用いられる場合、核酸を含む試料から前記塩を除去することが好ましい。これは、沈殿、ろ過、サイズ排除クロマトグラフィーなどのような該当技術分野の標準技術を利用して行われることができる。上記のような方法により細胞または組職から分離された核酸は、直接精製したり、PCRまたはRT−PCR(Real Time−PCR)のような増幅方法を利用して特定領域を特異的に増幅し、これを分離することによりなることができるが、これに限定されるものではない。前記核酸とは、DNAだけでなくmRNAから合成されるcDNAも含む意味である。また、PCRまたはRT−PCRは、個体の全体核酸配列に対して行われることもできるが、一塩基多型と知られている部位の周辺のみに対して行われることもできる。
【0025】
前記方法において、分離された核酸の塩基配列の決定は、当業界において公知された多様な方法によって行われることができる。例えば、ジデオキシ法によって直接的に核酸のヌクレオシド配列を決定する方法や、一塩基多型部位の配列を含むプローブまたはそれに相補的なプローブを前記DNAとハイブリダイゼーションさせて、それから得られるハイブリダイゼーションの程度を測定することにより多型部位のヌクレオシド配列を決定する方法などが利用されることができる。前記ハイブリダイゼーションの程度は、例えば、検出可能な標識を標的DNAに標識して、ハイブリダイゼーションされた標的DNAのみを特異的に検出することによりなされることができるが、その他に電気的信号の検出方法などが用いられることができる。具体的には、マイクロアレイ(microarray)によるプローブハイブリダイゼーション法、対立遺伝子特異的プローブハイブリダイゼーション法(allele−specific probe hybridization)、対立遺伝子特異的増幅法(allele−specific amplification)、配列決定法(sequencing)、5’ヌクレアーゼ分解法(5’nuclease digestion)、分子ビーコンアッセイ法(molecular beacon assay)、オリゴヌクレオチド結合アッセイ法(oligonucleotide ligation assay)、サイズ分析法(size analysis)及び一本鎖高次構造多型法(single−stranded conformation polymorphism)からなる群から選択される一つ以上の方法によって行われることができるが、これに限定されない。
【0026】
前記方法において、前記一塩基多型部位の配列を含むポリヌクレオチドを決定する段階は、前記ポリヌクレオチドが固定化されているマイクロアレイに前記核酸試料をハイブリダイゼーションさせる段階と、前記ハイブリダイゼーションの結果を検出する段階と、を含むことができる。
【0027】
また、前記一塩基多型部位の配列を含むプローブとしては、多様なDNA類似体(analogues)のうち一つであるPNA(peptide nucleic acids)が含まれることができる。前記PNAは、DNAのホスホジエステル(phosphodiester)結合がペプチド結合(peptide bond)に代替されており、DNAと同様なアデニン、チミン、グアニンとシトシンを有しているため、塩基特異的にDNAやRNAとハイブリダイゼーション反応を起こすことができる。特に、負電荷を帯びるリン酸結合の骨格のため互いに電気的に反発する天然核酸と異なって、ペプチド結合からなる骨格は電荷を帯びないため、ハイブリダイゼーション反応でPNAはDNAより天然核酸により強く結合し、この結合は塩濃度(salt concentration)に影響を受けない。また、PNAは核酸加水分解酵素、タンパク質分解酵素などの生分解酵素に分解されないため、DNAやRNAより安定性が非常に高い。このように天然核酸を相補的に認識することができ、ハイブリダイゼーション結合力と安定性に優れたPNAは、蛍光物質で標識され、標的核酸と反応してハイブリダイゼーション反応がなされると、ミスマッチされた部分は核酸加水分解酵素により分解除去され、FRET(fluorescenceresonance energy transfer)で一塩基多型が分析される方法に利用されることができる。
【0028】
前記一塩基多型部位の配列を含むポリヌクレオチドを決定するさらに他の段階としては、ターゲット遺伝子と相補的な一塩基多型塩基をプローブの中央(central)に位置させ、その左右に5〜6個の比較的短い塩基が位置するようにプローブを考案して、塩基の置換、挿入、欠失に対する検出弁別力と特異度を向上させた分析方法を含むが、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析(MALDI−TOF)を利用することが好ましい。前記MALDI−TOFは、マトリックス分子を分析しようとする生物高分子に混合し、パルスレーザーを照射して生物高分子をイオン化させる方法を含む。
【0029】
前記マトリックス分子、例えば3−ヒドロキシピコリン酸(3−hydroxypicolinic acid)及び分析物質にレーザーを照射すると、マトリックスがレーザーに吸収され、前記分析物質にエネルギーとプロトンを伝達してイオン化される機能をすることができる。前記物質は、イオン化されたマトリックスとともに飛行して、真空状態で反対側の検出器まで飛んでいくのにかかる時間を計算して質量を分析する原理により作動する。前記質量が小さい物質は検出器に速く到逹し、このように得られる質量の差及び既に分かっている一塩基多型の配列に基づいて、標的DNA内の一塩基多型配列が決定されることができるのである。
【0030】
一方、本発明によると、注意欠陥多動性障害の発病危険度を予測するためのマイクロアレイが提供される。
【0031】
前記マイクロアレイとは、基板表面の区分された領域に前記ポリヌクレオチドが高い密度に固定化されていることを意味し、前記領域は、例えば400/cm以上、10/cm、または10/cmの密度で基板上に配列されていることができる。
【0032】
本発明における前記マイクロアレイは、GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型塩基のC/Tとハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドを含むことが好ましいが、これに限定されない。
【0033】
本発明における前記マイクロアレイは、前記プローブを探針DNA分子として利用してマイクロアレイの基板上に固定化させるために、ピエゾエレクトリック(piezoelectric)方式を利用したマイクロピペット法(micropipetting)またはピン(pin)形態のスポッター(spotter)を利用した方法などを利用することが好ましいが、これに限定されない。前記マイクロアレイの基板は、アミノ−シラン(amino−silane)、ポリ−L−リジン(poly−L−lysine)及びアルデヒド(aldehyde)からなる群から選択される一つ以上の活性基がコーティングされることが好ましいが、これに限定されない。また、前記基板は、シリコンウェハ、ガラス、石英、金属、ナイロン膜、ニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)、及びプラスチックからなる群から選択される一つ以上であることを特徴とするが、これに限定されない。これにより、本発明における前記マイクロアレイは、注意欠陥多動性障害の発病危険度を予測するためのキットを提供することができる。
【0034】
前記キットは、前記ポリヌクレオチドをプライマーとして含むとともに、増幅に必要な試薬を含むことができる。
【0035】
前記キットは、ハイブリダイゼーションに用いられる緩衝溶液、RNAからcDNAを合成するための逆転写酵素、dNTPs及びrNTP(事前混合型または分離供給型)、標識試薬、及び洗浄緩衝溶液からなる反応試薬群から選択される何れか一つをさらに含むことができ、好ましくは、GIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型塩基を増幅させるプライマーを含むものを提供する。
【0036】
本発明における前記プライマーは、標的部位である前記多型部位を増幅することができ、サイズ及び鋳型に結合する位置は制限されず、当業者であれば通常のプライマー選定用ソフトウェアを利用してプライマーを容易に考案することができる。
【0037】
前記プライマーは、例えば、一塩基多型部位に該当するヌクレオシド配列がプライマーの3’末端ヌクレオシドを形成し、前記3’末端ヌクレオシドは前記一塩基多型部位のヌクレオシドに相補的であるもの(特異的プライマー)または相補的でないもの(非特異的プライマー)からなることができる。前記非特異的プライマーは、前記3’末端ヌクレオシドだけでなく、他の部位にも相補的でない配列を含むことができる。
【0038】
本発明における前記キットは、前記ポリヌクレオチドまたはそれに由来したプローブを試料中の核酸とハイブリダイゼーションさせ、そのハイブリダイゼーションの結果から個体の注意欠陥多動性障害の発病危険を診断するためのキットであることができる。この場合、前記キットは、前記プローブ及びハイブリダイゼーションに必要な試薬を含むことができる。ハイブリダイゼーションに必要な試薬とは、例えば、ハイブリダイゼーションバッファーが含まれることができる。前記核酸は、増幅または増幅されていないものであることができる。従って、前記キットは核酸の増幅に必要な試薬をさらに含むことができる。前記核酸は検出可能な標識で標識されることができる。このような前記検出可能な標識は、ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ結合物質(streptoavidin−alkaline phosphatase conjugate)、化学蛍光物質(chemiflurorensce)及び化学発光物質(chemiluminescent)からなる群から選択される何れか一つをさらに含むことができるが、これに限定されない。
【0039】
従って、本発明における前記キットは、前記ポリヌクレオチドに完全に相補的なプローブ(perferct match probe)または前記ポリヌクレオチドにおいて、一塩基多型部位を除いた全ての部位で相補的なミスマッチプローブ(mismatch probe)を含むことができる。前記プローブは、基板上の複数個に区分された領域に固定されているマイクロアレイの形態であることができる。前記完全に相補的なプローブを用いたハイブリダイゼーション反応で標的配列が検出され、前記ミスマッチプローブを用いたハイブリダイゼーション反応で標的配列が検出されない場合、試料中に注意欠陥多動性障害に係る配列が存在すると決定され、その結果から個体の注意欠陥多動性障害の発病危険が決定される。
【0040】
前記キットにおいて、蛍光物質は、Cy3、Cy5、FITC(poly L−lysine−fluorescein isothiocyanate)、RITC(rhodamine−B−isothiocyanate)及びローダミン(rhodamine)からなる群から選択される一つ以上であることを特徴とするが、これに限定されない。
【0041】
このような結果により、本発明による注意欠陥多動性障害の発病危険性の予測方法は、ヒト被検体から得た遺伝子試料の塩基配列を分析して、17番染色体の24926101塩基がC/Tである場合に該当すると、注意欠陥多動性障害の発病危険性が高い危険群に分類されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
本発明のGIT1遺伝子内のrs550818一塩基多型マーカーは、注意欠陥多動性障害の感受性と有意の関連性を有するため、一塩基多型を分析して注意欠陥多動性障害の発病を予測、診断するための組成物及びキットで構成して提供することができる。
【0043】
また、本発明の注意欠陥多動性障害の発病危険性の予測方法は、上記のような遺伝情報(一塩基多型)の分析の他に、性別及びIQ指数などのような臨床的変数に対する調査を並行実施して、正確性をより増進させることができる。
【発明を実施するための具体的な内容】
【0044】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。しかし、本発明は下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の思想と範囲内で様々な変形または修正が可能であることは、当分野に従事する業者にとって明白である。
【0045】
この際、用いられる技術用語及び科学用語について他に正義されない限り、この発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する意味を有する。
【0046】
また、従来と同一の技術構成及び作用についての重複説明は省略する。
【0047】
実施例1.研究対象
本発明は、韓国人からなる注意欠陥多動性障害の患者群と対照群との連関性を研究するために、総388人のゲノムDNAを利用した。対象人の血液はソウル大学病院の内部倫理委員会の承認の元収集された。192人の注意欠陥多動性障害の患者群と、患者群と年齢を合わせた疾病が発病していない196人の対照群とに基き、連関分析を行った。具体的には、前記研究対象から得た血液試料から、PuregeneTM DNA purification kit(Gentra、Minneapolis、MN)を用いてゲノムDNAを抽出した。抽出されたDNAは、二本鎖DNAのみを特異的に定量するPicoGreen(Molecular Probes、Eugene、OR)蛍光染料を用いて濃度を測定した後、遺伝子型解析(genotyping)に適する2.510ng/μlの濃度で保管した。
【0048】
実施例2
<2−1>遺伝子多型の選定
本発明者らは、International Hapmapデータベースに基き、GIT1遺伝子が含まれた17番染色体内の19−キロベース領域で27個の一塩基多型を分析対象として選定し、注意欠陥多動性障害の患者群−対照群に対する連関研究を分析した。
【0049】
<2−2>遺伝子型解析(Genotyping)
本発明におけるGIT1遺伝子多型の遺伝子型は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析(MALDI−TOF、Matrix Assisted Laser Desorption and Ionization−Time of Flight Mass Spectrometry)の質量分析器を利用したMassARRAYTM system(Sequenom、SanDiego、CA)を利用して分析した。前記分析に用いられた重合酵素連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)用プライマー(primer)と塩基延長反応(extension reaction)用プライマー配列は、下記表1乃至表3に示されたように、遺伝子型解析に用いられたプライマーはAssay Design 3.1(Sequenom、SanDiego、CA)プログラムを用いて設計された。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
前記PCR反応は、2.5ngのゲノムDNA、1×緩衝溶液、1mMのMgCl、200μMのdNTP混合物、0.1 unitのHotStart Taq polymerase混合物に、200nMの表1のPCRプライマーを添加した5μlの溶液で行った。反応条件は、94℃で15分間初期変性化した後、94℃20秒、56℃30秒、72℃1分の周期を45回繰り返して、72℃で3分間最終延長段階が行われた。PCR反応後、0.3 unitのSAP(shrimp alkaline phosphatase)を添加し、37℃20分、85℃5分間培養し、残余dNTPを除去した。前記塩基延長反応は、上記の反応結果物に50μMのdNTP terminator mixと625nMのextension primer mix、0.5 unitのthermo sequenase enzymeを添加して行った。94℃で30秒間初期変性化を行った後、94℃5秒、52℃5秒、80℃5秒の短い周期を40回繰り返した。16μlの蒸溜水と3mgのレジン(Clean Resin)を添加した後、最終反応産物をSpectroChipに移して、質量分析器で遺伝子型を決定した。前記実施例1の27個の一塩基多型を確認した結果、下記表4では、8個の一塩基多型のみが患者群及び対照群の試料で多型を示したことが確認された。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例3.統計分析
本発明の統計分析は、χ2独立性の検定(chi−square testfor independence)を利用してハーディ‐ワインベルク平衡(Hardy−Weinberg equilibrium;HWE)を分析し、後で注意欠陥多動性障害の患者群−対照群間の性別及びIQ指数の差を補正するために、ロジスティック回帰分析を利用して注意欠陥多動性障害の発病危険性と夫々の多型との関連性を分析した。全ての統計分析は、SPSS 15プログラムを利用した。
【0056】
実施例4.注意欠陥多動性障害の発病感受性との連関性
本発明のGIT1遺伝子内の27個の一塩基多型の注意欠陥多動性障害の発病感受性との連関性分析を行った。
【0057】
その結果、表5に示したように、rs550818一塩基多型でC/T異型接合体の遺伝子型を有する場合、C/C同型接合体の遺伝子型を有する場合より注意欠陥多動性障害の発病危険性が約2.66倍高く示された(OR=2.66、95%CI=1.33−5.31、P=0.0056)。従って、前記一塩基多型を利用した注意欠陥多動性障害の疾患感受性との連関分析を行った結果、rs550818一塩基多型のC/T異型接合体が疾病危険の増加と強い関連性を有することが確認された。
【0058】
【表5】

【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]