(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662337
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】高圧の注射のための開閉バルブの薬物送達システム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/20 20060101AFI20150108BHJP
A61M 5/24 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
A61M5/20
A61M5/24
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-540690(P2011-540690)
(86)(22)【出願日】2009年12月8日
(65)【公表番号】特表2012-511393(P2012-511393A)
(43)【公表日】2012年5月24日
(86)【国際出願番号】US2009006423
(87)【国際公開番号】WO2010077280
(87)【国際公開日】20100708
【審査請求日】2012年11月21日
(31)【優先権主張番号】61/193,595
(32)【優先日】2008年12月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メリッサ ローゼン
(72)【発明者】
【氏名】ライアン スクーンメーカー
(72)【発明者】
【氏名】ミッシェル ブリュービラー
(72)【発明者】
【氏名】アイラ スプール
【審査官】
安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04643723(US,A)
【文献】
特表昭62−502876(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/113318(WO,A1)
【文献】
特表2000−513974(JP,A)
【文献】
特表2004−508897(JP,A)
【文献】
特表2008−538719(JP,A)
【文献】
特開2003−126252(JP,A)
【文献】
特表平06−505415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20−5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品が保管される第1のチャンバと、
前記第1のチャンバに流体連通される第2のチャンバであって、1回の投与量の医薬品が、前記投与量の医薬品の注射の前に前記第1のチャンバから前記第2のチャンバまで移送される第2のチャンバと、
前記投与量の医薬品を注射部位に注射するための、前記第2のチャンバに連通される針であって、前記針を通る第1の長手方向軸が前記第1のチャンバを通る第2の長手方向軸と平行であり、かつ離隔している針と、
前記第1のチャンバ内を移動可能であって屈曲可能なラックと、
初期にはラックから離れており、前記投与量の医薬品を前記第1のチャンバから前記第2のチャンバまで移送するために、前記第1のチャンバを圧縮すべく前記ラックに接触して前記ラックを移動させるばねと、
を有することを特徴とする二重チャンバの薬剤送達デバイス。
【請求項2】
前記第2のチャンバは、前記第1のチャンバより小さい断面積を有することを特徴とする請求項1に記載の二重チャンバの薬剤送達デバイス。
【請求項3】
第1のバルブは、前記第1のチャンバと前記第2のチャンバとの間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の二重チャンバの薬剤送達デバイス。
【請求項4】
第2のバルブは、前記第2のチャンバと前記針との間に配置されることを特徴とする請求項3に記載の二重チャンバの薬剤送達デバイス。
【請求項5】
前記投与量の医薬品が前記第1のチャンバから前記第2のチャンバまで移送されるときに前記第1のバルブが開かれ前記第2のバルブが閉じられ、前記投与量の医薬品が前記第2のチャンバから前記針を通して前記注射部位に注射されるときに前記第1のバルブが閉じられ前記第2のバルブが開かれることを特徴とする請求項4に記載の二重チャンバの薬剤送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、高圧の薬物注射を容易にする薬剤送達デバイス(drug delivery device)に関する。より具体的には、本発明は、薬物が漏洩することおよび投与量に誤差が生じることを防止するために最初の薬剤容器から離れるように高い圧力を方向転換する薬剤送達デバイスに関する。さらに具体的には、本発明は、注射力(injection force)を増強してそれにより皮内薬物注射(intradermal medication injection)を容易にする二次チャンバを有する薬剤送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法119条第(e)項の下で、参照により全内容が本明細書に完全に組み込まれている、2008年12月9日に出願した米国特許仮出願第61/193,595号明細書の利益を主張するものである。
【0003】
インスリンおよび別の注射可能な薬物は、一般に、注射器を用いて皮膚の皮内層および別の高密度の組織の中に与えられる。皮内薬物注射により薬物の摂取がより迅速となり、それにより治療が改善される。このような注射には、従来の皮下注射を超える200psi(1.38MPa)以上の高い注射圧力(injection pressure)が必要となる。
【0004】
皮膚の皮内領域内への注射を実施するための技術およびデバイスは知られている。一般にMantoux技術と称される一手法では、「標準的な」針および注射器、すなわち筋肉注射または皮下注射を実施するのに通常使用される注射器が使用される。注射を実施する医療提供者は、注射を実施するときに患者の皮膚を基準に注射器をある程度正確に方向付けすることが必要となる特定の手技に従う。医療提供者はまた、皮内領域を越えて貫通することがないように、患者の皮膚内への針の貫通深さを正確に制御することを試みなければならない。このような技術は複雑であり、実施するのが困難であり、経験のある医療専門家によってのみ実施され得ることが多い。
【0005】
薬剤の送達についての理解が増すにつれて、皮内送達システムの使用が増えると考えられる。しかし、薬剤物質を皮内に送達するために「標準的な」長さの針を使用することには上述したような欠点がある。さらに、多目的の小瓶から注射器に薬剤物質を吸引するのに、皮内注射に適した針長さを有する送達デバイスを使用することは不可能である。したがって、従来技術には、「標準的な」長さの針および多目的の小瓶を用いて皮内注射を実施することが妨げられるという欠点がある。上述した欠点に直面することなく、多目的の小瓶内に保管された物質に到達することができ、さらにそれらの物質を皮内領域内に送達することができる薬剤送達デバイスを有することが有利であろう。
【0006】
従来の注射器101が
図1に示されている。針103は、薬剤を皮膚の皮下領域に送達するのに十分な長さである。しかし、上述したように、使用者は、薬剤を皮膚の皮内領域に容易に送達することはできないであろう。
【0007】
現行の薬剤送達ペン(drug delivery pen)は、インスリンを皮下に送達するための注射器ベースのシステムに対していくつかの利点を有する。再使用可能な薬剤送達ペンは、薬剤カートリッジを補充する必要がなく20回以上の投与量を保持する。投与量の設定はダイヤルを使用することによって容易に達成される。しかし、これらの注射システムは低圧での皮下注射用に設計されている。インスリンおよび別の薬物を皮内注射することにより、薬剤の摂取がより迅速となり治療の改善につながる。現行の薬剤送達ペンには、皮内薬剤送達に関していくつかの制限がある。一つ目は、薬剤送達ペンによってもたらされる機械的利点が最小であり、十分な圧力を発生させるために使用者が20lbs(9.1kg)以上の力を供給する必要があることである。二つ目は、このような強い力によりペン構成要素が損傷する可能性があり、それにより高圧時に漏洩が起こったり誤差が生じたりすることである。
【0008】
図2および3に示される例示の薬剤送達ペン100などの薬剤送達ペンは、皮下注射用に設計されており、通常、ドースノブ/ボタン24、外側スリーブ13、およびキャップ21を有する。ドースノブ/ボタン24は、使用者が注射する薬物の投与量を決定するのを可能にする。外側スリーブ13は、薬物を注射するときに使用者によって握持される。キャップ21は、シャツのポケット、財布、または別の適当な場所において薬剤送達ペン100を安全に保持して、針による不慮の怪我に対するカバー/保護を確立するために、使用者によって使用される。
【0009】
図3は
図2の薬剤送達ペン100の分解図である。ドースノブ/ボタン24は二重の目的を有しており、注射する薬物の投与量を設定すること、および、リードスクリュー7およびストッパー15を介して、下側ハウジング17によって薬剤送達ペンに取り付けられる医薬品カートリッジ(medicament cartridge)12を通して投与薬物を注射することの両方のために使用される。標準的な薬剤送達ペンでは、投与・送達機構はすべて外側スリーブ13内に見られるが、これらの機構は当業者には理解されるものであるからここでは詳細に説明しない。プランジャまたはストッパー15が医薬品カートリッジ12内で遠位方向に移動することにより、薬物がハブ20の針11内へと押し込まれる。医薬品カートリッジ12は隔壁16によって密封されており、隔壁16は、ハブ20内に位置する隔壁貫通用針カニューレ(septum penetrating needle cannula)18によって穿孔される。ハブ20は好適には下側ハウジング17上にねじ込まれるが、カートリッジに取り付けるなどの別の取付手段が使用されてもよい。使用者またはペン注射デバイス(pen injection device)100を扱ういかなる人も保護するために、ハブ20に取り付けられた外側カバー69がハブをカバーしている。内側シールド59が外側カバー69内にある患者用の針11をカバーしている。内側シールド59は、患者用の針をカバーするために、締まり嵌めまたはスナップ嵌めなどの任意適当な手段によってハブ20に固定され得る。外側カバー69および内側シールド59は、使用前に取り外される。使用者が薬剤送達ペン100を安全に運ぶことができるように、キャップ21が外側スリーブ13にぴったりと嵌合される。
【0010】
医薬品カートリッジ12は、通常、一方の端部が隔壁16によって密封されて他方の端部がストッパー15によって密封されるガラス管である。隔壁16は、ハブ20内にある隔壁貫通用カニューレ(septum penetrating cannula)18によって穿孔可能であるが、医薬品カートリッジ12に対して移動することはない。ストッパー15は、液密シールを維持しながら医薬品カートリッジ12内で軸方向に変位可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
皮下注射の背圧はそれ程大きくないが、皮内注射に付随する背圧は皮下注射の背圧の何倍もの大きさになることがある。例えば、皮内注射の背圧はしばしば200psi(1.38MPa)を超えるが、皮下注射の背圧は一般に30〜50psi(0.21〜0.34MPa)の範囲内にある。したがって、現行の薬剤送達ペンを用いて皮内層に薬物を注射するのに大きな力が必要であることを考慮すると、薬物を皮内に注射することは困難である。皮内注射時のカートリッジ内の最初の大きな始動力(initial high breakout force)に打ち勝つのに必要となる親指の力を軽減できるような大きな機械的利点を有する薬剤送達ペンが必要とされている。
【0012】
また、薬剤送達ペンの構成要素は、皮内注射に付随する高い圧力を受けることによって損傷する可能性があり、それにより薬物が漏洩して投与量に誤差が生じてしまう。したがって、皮内注射に付随する高い圧力を最初の薬物容器から方向転換するような薬剤送達デバイスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によると、高圧でインスリンまたは別の薬物を注射するのを容易にする薬剤送達デバイスが提供される。
【0014】
本発明の別の態様によると、薬剤送達デバイスが、注射力を増強してそれにより皮内薬物注射を容易にする二次チャンバを有する。
【0015】
本発明の別の態様によると、薬物が漏洩することおよび投与量に誤差が生じることを防止するために、皮内注射に付随する高い圧力が最初の薬物容器から方向転換される。
【0016】
本発明の別の態様によると、薬物送達デバイスは小型であり、それによりデバイスの有用性および携帯性が向上する。
【0017】
薬剤送達デバイスは、現行の再使用可能な薬剤供給ペンと同様の形で動作する。使い捨て針が薬剤送達デバイスに取り付けられ、使用者が投与量をダイヤル調整し、注射部位において針を皮膚内に挿入し、そして薬物を注射する。薬剤送達デバイスは、容器に力を加えるための圧縮ばねを使用して、使用者が決定する一回分の薬剤を最初の薬剤容器(すなわち、カートリッジ)から二次チャンバへと送るシステムを有する。二次チャンバは、加えられる所与の力において注射圧力を増強するために、最初の薬剤容器より小さい断面積を有する。使用者は、現行の薬剤供給ペンに類似する投与量設定ノブを介して所望する投与量を設定する。投与量が設定されると、薬剤容器に力を加えるためのばねを使用して該投与量が二次チャンバへと移動される。針の挿入後、該投与量を患者の中に注射するためにプランジャが押し下げられる。
【0018】
本発明の目的、利点、および顕著な特徴は、添付図面との組み合わせで本発明の例示の実施形態を開示する以下の詳細な説明より明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
上記の利益、および本発明の種々の実施形態の別の利点が、本発明の例示の実施形態の以下の詳細な説明および添付の図面からより明らかとなる。
【0020】
【
図3】
図2の薬剤供給ペンを示す分解斜視図である。
【
図4A】本発明の例示の実施形態による薬剤送達デバイスを示す斜視図である。
【
図4B】本発明の例示の実施形態による薬剤送達デバイスを示す斜視図である。
【
図4C】本発明の例示の実施形態による薬剤送達デバイスを示す斜視図である。
【
図5】
図4A〜4Cの薬剤送達デバイスを示す断面の立面図である。
【
図6A】最初の薬物容器と二次チャンバとを連結させる導管を示す断面の立面図である。
【
図6B】最初の薬物容器と二次チャンバとを連結させる導管を示す断面の立面図である。
【
図7】
図4の薬剤送達デバイスを示す断面の立面図である。
【
図8A】本発明の別の例示の実施形態による薬剤送達デバイスを示す斜視図である。
【
図8B】本発明の別の例示の実施形態による薬剤送達デバイスを示す斜視図である。
【
図8C】本発明の別の例示の実施形態による薬剤送達デバイスを示す斜視図である。
【
図8D】本発明の別の例示の実施形態による薬剤送達デバイスを示す斜視図である。
【
図9】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスを示す断面の立面図である。
【
図10】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの投与量の設定を示す図である。
【
図11】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの投与量の設定を示す図である。
【
図12】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの投与量の設定を示す図である。
【
図13】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの投与量の設定を示す図である。
【
図14】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの投与量の設定を示す図である。
【
図15】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの投与量の設定を示す図である。
【
図16】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイス内にある二次チャンバの充填を示す図である。
【
図17】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイス内にある二次チャンバの充填を示す図である。
【
図18】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの該投与量の供給を示す図である。
【
図19】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの該投与量の供給を示す図である。
【
図20】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの該投与量の供給を示す図である。
【
図21】
図8A〜8Dの薬剤送達デバイスの該投与量の供給を示す図である。
【0021】
複数の図面を通して、同様の参照符号は、同様の部品、構成要素および構造を示すものとして理解される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の例示の実施形態による薬剤送達デバイスは、一次(最初の)薬剤容器およびその断面積を注射機構から分離することにより、使用者が加える力をより小さくして高圧で薬物を注射することを可能にする。
【0023】
この薬剤送達デバイスは、高い圧力を最初の医薬品容器(カートリッジ12)から離れるように方向転換させることにより、現行の薬剤供給ペン100(
図2および3)に対して、投与量の正確さが改善されて医薬品の漏洩が減少するという利点を有する。高い圧力では、薬剤容器ストッパー15が変形する場合があり、それにより容積が変化して投与量に誤差が生じる。加えて、ストッパー15が平衡状態を維持することが可能であり、針11が皮内空間から取り外されて背圧が消滅した後に元の容積に戻ることができる場合、望ましくない薬剤の放出が起こる場合がある。
【0024】
図4〜7に示される本発明の例示の実施形態では、二重チャンバの薬剤送達デバイス(dual−chambered drug delivery device)201が、インスリン、高粘度の医薬品、または別の医薬品を高圧で注射する。使い捨て針203がデバイス201の端部に取り付けられており、デバイス201は最初の医薬品容器(カートリッジ)すなわち第1のチャンバ211を収容している。好適には、針203は皮内針である。あるいは、針は皮下注射用針であってもよい。好適には、針は34ゲージニードル(34 gauge needle)などのスモールゲージニードル(small gauge needle)である。
【0025】
使用者は投与量設定ノブ213上で投与量をダイヤル調整し、針203を挿入し、医薬品を注射する。薬剤送達デバイス201は、医薬品が漏洩することおよび投与量に誤差が生じることを防止するために、最初の薬剤容器、すなわち第1のチャンバ211から高い圧力を方向転換する。
【0026】
第1のチャンバ211の(圧縮ばね243を解放するための使用者が加える力によって発生する)圧力およびダイヤル調整された投与量を二次チャンバ221から患者の中に注射するための2バルブシステムを用いて、導管(流体チャネル)231を介して該投与量の医薬品を二次チャンバ221に移動させることにより、注射圧力が最初の医薬品容器211から分離される。第1および第2のチャンバはハウジング225内に配置される。圧縮ばね243を解放するために、ハウジング225から外側に延在するレバー245が使用者によって操作される。第2のバルブ235が閉じた状態で第1のバルブ233が開かれると、二次チャンバ221が充填され得るようになる。注射の際、第1のバルブ233は閉じられ、第2のバルブ235が開かれて該投与量の医薬品が注射され得るようになる。二次チャンバ221は第1のチャンバ211より断面積が小さく、したがって使用者が加える力が等しい場合により高い圧力を発生させる。圧力、力および面積の関係式P=F/Aを使用して、断面積が半分のチャンバは所与の荷重において2倍の圧力を発生させる。
図7に示されるように、針203を通る第1の長手方向軸は、カートリッジ211を通る第2の長手方向軸と平行であり、かつ離隔している。
【0027】
現行の薬剤供給ペン100(
図2および3)における、高圧下のカートリッジストッパーの作用に関連する投与量の正確性の問題および液垂れの問題は、高い注射圧力を一次医薬品容器(第1のチャンバ211)から分離して(変形に関して)圧力の影響を受けにくい二次チャンバ221およびストッパーに向けることにより軽減される。
【0028】
さらに、1単位の医薬品を最初の大型の薬剤容器(第1のチャンバ211)から外へ供給するためのストッパーの移動距離が約0.15mmであることと比較して、1単位の医薬品を小型の二次チャンバ221から外へ供給するためのストッパーの移動距離が約1mmであることから、投与量の正確性は現行の薬剤供給ペンより高くなる。現行の薬剤供給ペン100(
図2および3)に対して投与量の正確性が改善されることは、特に少量の投与量範囲において重要である。
【0029】
また、使用者の力が回転する親指ボタン(rotating thumb button)215を介して小型の第2のチャンバ221の直線プランジャロッド223に直接に加えられることにより、高い圧力(すなわち、使用者の力)による構成要素の変形が制限され、現行の薬剤供給ペン100(
図2および3)でしばしば使用される複雑な力伝達・増幅機構(使用者からストッパー15まで)が必要なくなる。現行のほとんどの薬剤供給ペン100では、供給される投与量は、ダイヤル調整された1回分の量によって決定される所与の長さだけ並進するドライブスクリュー7の線形変位の結果である。ダイヤル調整された1回分の量により、注射のストローク長さが決定される。使用者が注射ボタン24に力を加え、注射のストローク長さが満たされる。注射動作の力およびストロークはトルクに変換される。このトルクは、ドライブスクリュー7を前方に直線駆動させるのに使用される。このタイプのシステムでは、最初のストロークと最後のドライブスクリューの動作との間の関係が複雑になることから、投与範囲の下限において誤差が生じてしまう。
【0030】
代わりに、本発明の第2のチャンバ221の断面積は現行のほとんどの薬剤供給ペン100の断面積より小さいことから、注射のために同様の直線的な手法を用いて、システムを駆動させるのに使用されるトルクは非常に小さくなる。
【0031】
一次薬剤容器211の最初の始動機構が作動された後、圧縮ばね243が解放され、屈曲可能なラック241を介して一次薬剤容器が加圧される。
【0032】
医薬品は、第1のチャンバ211から導管231を介して、第1のバルブ233および第2のバルブ235を有する第2のチャンバ221の中に移動される。第1のバルブ233(V
1)の開放圧力を超える圧力を発生させる圧縮ばね243を使用して第1のチャンバ211に力F
csを作用させることにより、第2のチャンバ221の充填が達成される。注射による力がプランジャ223の摩擦力より小さいことから、注射による力によって第1のバルブ233(V
1)の薄い肩部が曲げられ、第1のバルブ233(V
1)が閉じられる。第2のバルブ235(V
2)は、構成要素が摺動することにより、注射時の皮膚からの反力が第2のばね251を圧縮させるくらいに十分に大きくなるときのみ開かれ、それにより針203が隔壁253を通って移動するようになる。
【0033】
図4〜7の例示の実施形態はまた、第1のチャンバ211の内側でのストッパー261の変位を追跡するためにばねに係合された状態でヒンジ取付ラック241を使用する投与量追跡システムを含むことができる。投与量設定ノブ213が、回転方向において固定されているがデバイス内で摺動することができる雄ねじ要素271に回転可能に結合される。医薬品が第1のチャンバ211から空になると、ヒンジ取付ラック241は、脚部271がねじナット273に衝突するまで前進するので、第1のチャンバ211で使用可能である制限された医薬品を超えて投与量が設定されることが防止される。あるいは、医薬品の投与量は、投与量設定機構に組み込まれたナットによって追跡されてもよい。このナットは、供給された蓄積の投与量を追跡し、機械的な止めに係合されるとき、使用可能な医薬品を超える投与量を使用者が設定することを防止する。これにより、デバイスの設計をより小型にすることができる。
【0034】
第2のチャンバ221は、第1のチャンバより断面積が小さく、加えられる力が等しい場合により高い圧力を発生させる。標準的な3.0mLのインスリンカートリッジ(第1のチャンバ211)は約9.7mmの直径を有することから、断面積は、A=πr
2=4.85
2×3.14159=73.9mm
2となる。薬剤送達デバイス201の第2のチャンバ221は3.5mmの直径を有することができることから、断面積は、1.75
2×3.14159=9.62mm
2となる。所与の圧力をPとすると、力の乗法は以下の関係式を使用して得られる:P=F
1/A
1、P=F
2/A
2。したがって、F
1/A1=F
2/A
2となる。力の乗数M
f、F
1/F
2は、面積の比A
1/A
2となり、M
f=73.9/9.62=7.7となる。
【0035】
したがって、本発明の例示の実施形態は、薬剤送達デバイス100(
図2および3)が力の増幅なしに医薬品カートリッジ12に直接に力を加える場合と等しい注射圧力を達成するのに、約7分の1の力を必要とする。
【0036】
本発明の二重チャンバの薬剤送達デバイス301の別の例示の実施形態が
図8〜21に示されている。薬剤送達デバイス301は、
図4〜7に示される例示の実施形態と同様に動作する。投与量が設定され、第2のチャンバが充填され、該投与量が皮内に送達される。
【0037】
カートリッジ341がハウジング303内に移動可能に配置される。カートリッジ341は、その中に医薬品が保管される第1のチャンバ342を有する。第1のチャンバ341の端部344がハウジング303の外に延在している。第2のチャンバ331が第1のチャンバ342に流体連通される。第1のチャンバ342および第2のチャンバ331はハウジング303内に配置される。針ハブ361がハウジング303にねじ込み式に係合され、針ハブ361の中に皮内針363が堅固に固定される。
図9に示されるように、針363を通る第1の長手方向軸は、カートリッジ341を通る第2の長手方向軸と平行であり、かつ離隔している。
【0038】
医薬品の1回の投与量が設定され、トラックシリンダ(track cylinder)317上に配置されたストップナット313によって追跡される。好適には、ストップナット313は、単一部品としてトラックシリンダ317と共に一体に形成される。
図15〜17に示されるように、ドースノブ321が、第2のチャンバ331内の許容投与量を設定するためにハウジング303から外にねじ込み式に出ている。医薬品の投与量が設定されると、トラックナット315がドースノブ321と共に持ち上げられる。トラックナット315は、トラックシリンダ317の外側表面にねじ込み式に係合されている。注射の間、トラッククラッチ(track clutch)319がトラックナット315をドースノブ321に係合させる(
図18〜21)。該投与量の医薬品が供給されるとき、トラッククラッチ319はトラックシリンダ317に係合されており、したがって、トラックナット315はトラックシリンダ317上でその位置を維持する。トラッククラッチ319がトラックシリンダ317に係合されていることにより、ドースノブ321、トラックシリンダ317、トラッククラッチ319およびトラックナット315は一体に回転することから、トラックナット315はドースノブ321が下方向に回転しても移動しない。
図19に示されるように、医薬品の投与量が設定されているとき、クラッチばね320がトラッククラッチ319をトラックシリンダ317から離れるように付勢し、その結果、トラッククラッチ319がドースノブ321と共に回転し、それにより、固定されたトラックシリンダ317上でトラックナット315が上方向に回転する。トラックシリンダ317は、トラッククラッチ319から外れているため、ドースノブ321、トラッククラッチ319およびトラックナット315と共に回転することはなく、したがって、トラックナット315はトラックシリンダ317上を上方向に回転することができる。医薬品の投与量は、トラックナット315がトラックシリンダ317上を上方向に回転してストップナット313に当接されるまで繰り返しダイヤル調整され得ることから、医薬品の追加の投与量が抜き取られることが防止される。ストップナット313の位置は第1のチャンバ342に残る医薬品の所定の量に一致しており、これは、追加の投与量の医薬品が抜き取られるには不十分な量である。
【0039】
図10〜15は、医薬品の投与量が設定されるときのトラックナット315の動作を示している。ドースノブ321がトラッククラッチ319およびトラックナット315に結合されている。医薬品の投与量が設定される際、トラックナット315がドースノブ321と共に回転し、トラックナット315がトラックシリンダ317上で上方向に持ち上げられる。医薬品の投与量が設定される際、トラッククラッチ319のクラッチばね320がクラッチ319とトラックシリンダ317とを分離した状態に維持する。
図19に示されるように、クラッチばね320が、トラックシリンダ317の基部381から離れるようにトラッククラッチ319を上方向に付勢する。
図21に示されるように、トラッククラッチ319がトラックシリンダ317に係合されているとき、トラックシリンダの基部381の上側表面上の溝がトラッククラッチ319上の溝に係合される。
【0040】
図16および17は、1回の投与量の医薬品を第2のチャンバ331に移送するときの動作を示している。上方向に移動する最初の薬剤容器(すなわち、カートリッジ)341がその中に第1のチャンバ342を有し、第1のチャンバ342内に医薬品が保管される。カートリッジ341内のばね343には常に荷重がかけられている。針345が隔壁347内に埋め込まれている。容器341が第1の位置(
図16)から第2の位置(
図17)まで下方向に押されると、針345が隔壁347を穿孔し、該投与量の医薬品が第2のチャンバ331まで移送される。ばね349がカートリッジ341を第1の位置まで戻す。この第1の位置では、
図16に示されるように針345は隔壁347を穿孔しない。
【0041】
図18〜21は、薬剤送達デバイス301を用いた該投与量の医薬品の供給を示している。投与量の設定の際、クラッチ319のばね320がクラッチ319とトラックシリンダ317とを分離した状態に維持することから、ドースノブ321が第2の位置(
図18)まで引き抜かれると、トラックナット315がトラックシリンダに沿って上方向に移動する。ドースノブ321が引き抜かれる量によって第2のチャンバのサイズが決定され、それにより医薬品の投与量の大きさが決定される。医薬品の該投与量を供給するためにドースボタン323が第1の位置(
図9)まで下方向に押されると(第2のチャンバ331を通してドライブスクリュー391およびストッパー393を下方向に移動させることにより)、クラッチ319がトラックシリンダ317に係合され、トラックシリンダ317、トラックナット315およびクラッチ319が一体に回転する。したがって、該投与量の医薬品が供給される際、トラックナット315がストップナット313から離れるように移動することはない。したがって、次に医薬品の1回の投与量が設定されるとき、トラックナット315はトラックシリンダ317上のストップナット313に接近するように上方向に移動する。トラックナット315がトラックシリンダ317上のストップナット313に当接されると、ドースノブ321が移動することが防止され、それにより、さらなる投与量の医薬品が第1のチャンバ342から第2のチャンバ331まで抜き取られることが防止される。
【0042】
また、本発明の例示の実施形態による薬物送達デバイスは、再構成される薬剤送達システムとして使用され得る。第1のチャンバは希釈剤を収容する。取り外し可能/交換可能であってよい第2のチャンバは固体薬剤を収容する。したがって、この薬剤送達デバイスにより再構成システムまたは再懸濁システムが可能となる。第1のチャンバは多数回の注射のための十分な希釈剤を保管することができ、第2のチャンバは1回または2回といったようなより少ない回数の注射のための固体薬剤を保管することができる。したがって、本発明の例示の実施形態による薬剤送達デバイスは、高圧注射用の再構成システムを含めた再構成システムとして使用され得る。
【0043】
前述の実施形態および利点は単に例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されない。本発明の例示の実施形態の記述は説明的なものであることを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図しない。種々の修正形態、代替形態および変更形態が当業者には明白であり、これらは、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物で定義される本発明の範囲内にあることを意図する。