特許第5662498号(P5662498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5662498コンクリート構造物及びコンクリート表面の被覆方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662498
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物及びコンクリート表面の被覆方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20150108BHJP
   C04B 41/71 20060101ALI20150108BHJP
   C04B 41/63 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   E04G23/02 A
   C04B41/71
   C04B41/63
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-25920(P2013-25920)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-152584(P2014-152584A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2013年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】織田 裕
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】野村 敬之
【審査官】 土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−001812(JP,A)
【文献】 特開2005−015329(JP,A)
【文献】 特開2005−213844(JP,A)
【文献】 特開2006−342662(JP,A)
【文献】 特開2004−218352(JP,A)
【文献】 特開2004−60197(JP,A)
【文献】 特開2011−252292(JP,A)
【文献】 コンクリート剥落防止システムのラインナップが完成,2004年 9月29日,URL,http://www.nipponpaint.co.jp/news/2004/wn0929.html
【文献】 高架橋の剥落防止対策におけるタフガードQ-R工法の摘要について,2012年 7月12日,URL,http://www.kkr.mlit.go.jp/plan/happyou/thesises/2012/pdf05/05.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E21D 11/00
E21D 11/04
E21D 11/10
E01D 22/00
C04B 41/63
C04B 41/71
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂製の塗膜であって且つ当該塗膜が0.5mm〜5mmの範囲の膜厚で表面被覆された供試体を用いて行うコンクリート押し抜き試験での変位が10mm以上における最大荷重が100N以上である前記塗膜によってコンクリート表面が被覆され、前記塗膜の膜厚と前記押し抜き試験の最大荷重との関係から求めた設定基準線により、前記塗膜の膜厚が、前記コンクリート表面から剥落するコンクリート片の想定荷重を前記最大荷重とした場合の当該最大荷重の大きさに応じて設定され、前記塗膜が設定された所定の膜厚で前記コンクリート表面に被覆されていることを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート構造物において、
前記塗膜は前記コンクリート表面に下塗りとして施されたプライマー塗装の上からコンクリート表面を被覆するように設けられることを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項3】
コンクリート構造物におけるコンクリート表面をイソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂製の塗膜で被覆するコンクリート表面の被覆方法において、
前記塗膜が0.5mm〜5mmの範囲の膜厚で表面に被覆された供試体を用いて行うコンクリート押し抜き試験での変位が10mm以上における最大荷重が100N以上の塗膜によってコンクリート表面が被覆され、前記塗膜の膜厚と前記押し抜き試験の最大荷重との関係から求めた設定基準線により、前記塗膜の膜厚が前記コンクリート表面から剥落するコンクリート片の想定荷重を前記最大荷重とした場合の当該最大荷重の大きさに応じて設定され、前記塗膜が設定された所定の膜厚により、前記コンクリート表面を被覆することを特徴とするコンクリート表面の被覆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面が塗膜で被覆されたコンクリート構造物及びコンクリート表面の被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンクリート構造物は、コンクリートの中性化や塩害、アルカリ骨材反応などの経年劣化により、コンクリート内部の鉄筋が腐食することがある。そして、鉄筋の腐食に伴う膨張圧によって、鉄筋に対するコンクリートのかぶり部分がコンクリート表面からコンクリート片となって剥落する虞があった。そこで、こうしたコンクリート片の剥落を抑制するために、高強度の塗膜でコンクリート構造物のコンクリート表面を被覆する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、コンクリート構造物の一種であるトンネルの場合は、その覆工コンクリート表面にプライマー塗装が施された後、そのプライマー塗装箇所にイソシアネート成分とポリアミン成分とを含む硬化型ポリウレア系スプレー材料が吹き付けられることにより樹脂製の塗膜が形成される。そして、この場合の塗膜に関しては、例えばポリウレア系樹脂層を2mm以上の膜厚となるように形成することが、塗膜の強度を維持する上では好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−218352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンクリート表面に形成される塗膜は、その膜厚が厚すぎると、塗膜形成のために費やされる施工時間及び樹脂の使用量が多大となり、施工コストが増大してしまうという問題がある。一方、塗膜の膜厚が薄すぎると、コンクリート片の剥落を抑制し得るだけの強度が得られなかったりするという問題がある。そのため、塗膜の形成に際しては、その膜厚の調整が重要事項であるところ、従来は、塗膜の強度を確実に維持するためには、ポリウレア系樹脂からなる塗膜を2mm以上の厚みで形成すればよいと提案するだけであり、実用的には更なる改善が望まれていた。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンクリート表面が塗膜で被覆されたコンクリート構造物におけるコンクリート表面からのコンクリート片の剥落を施工コストの低減を図りつつ良好に抑制することができるコンクリート構造物及びコンクリート表面の被覆方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するコンクリート構造物は、イソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂製の塗膜であって且つ当該塗膜が0.5mm〜5mmの範囲の膜厚で表面被覆された供試体を用いて行うコンクリート押し抜き試験での変位が10mm以上における最大荷重が100N以上である前記塗膜によってコンクリート表面が被覆され、前記塗膜の膜厚と前記押し抜き試験の最大荷重との関係から求めた設定基準線により、前記塗膜の膜厚が、前記コンクリート表面から剥落するコンクリート片の想定荷重を前記最大荷重とした場合の当該最大荷重の大きさに応じて設定され、前記塗膜が設定された所定の膜厚で前記コンクリート表面に被覆されている。
【0008】
この構成によれば、塗膜は、その膜厚が0.5mm未満でないため、コンクリート片の剥落を抑制可能な強度が得られるとともに、その膜厚が5mmを越えないため、塗膜形成のために費やす施工時間及び樹脂の使用量を低減できる。
【0009】
また、所定の膜厚の塗膜で表面が被覆された供試体に対してコンクリート表面から剥落するコンクリート片の想定荷重に対応した荷重をかけて最大耐力(最大荷重)を調査するコンクリート押し抜き試験を行えば、剥落するコンクリート片の想定荷重に応じて塗膜の膜厚をどのように設定すればよいかも判断できる。したがって、そのようにコンクリート表面から剥落するコンクリート片の想定荷重をコンクリート押し抜き試験での最大荷重とした場合の当該最大荷重の大きさに応じて塗膜の膜厚を設定すれば、薄すぎず且つ厚すぎない好適な膜厚の塗膜により、コンクリート表面からコンクリート片が剥落するのを抑制できる。
【0010】
また、コンクリート構造物において、例えば内部の鉄筋に対するコンクリートのかぶりが比較的小さい箇所は、かぶりが比較的大きい箇所よりも、コンクリート片の剥落の発生頻度が高いという傾向がある。その一方、こうしたコンクリートのかぶりが比較的小さい箇所は、かぶりが比較的大きい箇所よりも、コンクリート表面から剥落するコンクリート片が相対的に小さいという傾向がある。そのため、こうしたコンクリートのかぶりが比較的小さい箇所のコンクリート表面から剥落するコンクリート片の想定荷重は小さく見積もることが可能である。したがって、こうした箇所を被覆する塗膜については、その膜厚を一律に厚く設定するのではなく、想定荷重に応じて、当該想定荷重が小さい場合には想定荷重が大きい場合よりも薄くなるように設定すれば、施工コストの低減に大きく貢献することができる。
【0014】
上記コンクリート構造物において、前記塗膜は前記コンクリート表面に下塗りとして施されたプライマー塗装の上からコンクリート表面を被覆するように設けられるのが好ましい。
【0015】
この構成によれば、プライマー塗装がコンクリート表面に対する塗膜の接着力を強化するため、コンクリート表面から剥落する虞のあるコンクリート片の想定荷重にばらつきがあって過大な荷重が塗膜にかかるような場合にも、十分に強度のある塗膜がコンクリート表面に強固に付着した状態を維持しつつ、その剥落を好適に抑制することができる。
【0016】
上記課題を解決するコンクリート表面の被覆方法は、コンクリート構造物におけるコンクリート表面をイソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂製の塗膜で被覆するコンクリート表面の被覆方法において、前記塗膜が0.5mm〜5mmの範囲の膜厚で表面被覆された供試体を用いて行うコンクリート押し抜き試験での変位が10mm以上における最大荷重が100N以上の塗膜によってコンクリート表面が被覆され、前記塗膜の膜厚と前記押し抜き試験の最大荷重との関係から求めた設定基準線により、前記塗膜の膜厚が前記コンクリート表面から剥落するコンクリート片の想定荷重を前記最大荷重とした場合の当該最大荷重の大きさに応じ設定され、前記塗膜が設定された所定の膜厚により、前記コンクリート表面を被覆する。
【0017】
この構成によれば、上記コンクリート構造物における作用効果と同様の作用効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コンクリート表面が塗膜で被覆されたコンクリート構造物におけるコンクリート表面からのコンクリート片の剥落を施工コストの低減を図りつつ良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】コンクリート構造物の一例である高速道路の高架橋のコンクリート表面を塗膜で被覆する作業状態を示す模式図。
図2】コンクリート表面が塗膜で被覆されたコンクリート構造物の模式図。
図3】コンクリート押し抜き試験の試験結果を示す図であり、(a)は剥落の耐荷性能規格が100N以上の塗膜の場合の図、(b)は剥落の耐荷性能規格が500N以上である塗膜の場合の図。
図4】コンクリート押し抜き試験での載荷状態を示す模式断面図。
図5】コンクリート押し抜き試験でコア部が破壊された状態を示す模式断面図。
図6】コンクリート押し抜き試験でコア部が破壊された後の更なる載荷状態を示す図であり、(a)はその模式断面図、(b)はその下面図。
図7】コンクリート押し抜き試験で得られる荷重−変位曲線のグラフ。
図8】コンクリート構造物におけるコンクリート表面部分の模式断面図であって、(a)は初期段階の模式断面図、(b)は鉄筋が腐食し始めた段階の模式断面図、(c)は鉄筋に対するかぶり部分に亀裂が生じた段階の模式断面図、(d)はコンクリート表面からコンクリート片が分離した段階の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、コンクリート構造物の一実施形態について、そのコンクリート表面の被覆方法と共に、図を参照して説明する。
図1に示すように、コンクリート構造物の一例である高速道路の高架橋11は、鉄筋コンクリート製であり、地上面12から立脚する橋脚部13と、橋脚部13上に架設される底版部14と、底版部14の側縁などから立設される高欄部15を備えている。そして、橋脚部13、底版部14及び高欄部15の各コンクリート表面19には、高所作業車16の作業台に乗った作業者17が樹脂製のスプレー材料を吹き付けることにより、コンクリート片28(図8参照)の剥落を抑制可能な塗膜20が形成される。
【0021】
図2において模式的に示すように、高架橋11における高欄部15(及び橋脚部13、底版部14)のコンクリート内部には、補強用の鉄筋18がコンクリート表面19に沿う方向へ所定の間隔をおいて配筋されている。そして、そのコンクリート表面19に樹脂製の塗膜20が所定の膜厚Tで形成されている。なお、この場合の塗膜20の材料は、イソシアネート成分とポリアミン成分とを含む硬化型のポリウレア系樹脂であって、例えば、LINE-X LLC(所在地:米国アラバマ州ハンツビル)製の「LINE-X・XS-100」や「LINE-X・XS-350」が用いられる。
【0022】
因みに、「LINE-X・XS-100」は、イソシアネート混合物のLINE-X・XS-100・A剤(硬化剤)とポリオール・芳香族ジアミン混合物であるLINE-X・XS-100・B剤(樹脂)を加熱混合したポリウレア・ポリウレタン混成のエラストマー(ゴムのような高弾性を示す高分子物質)である。一方、「LINE-X・XS-350」は、イソシアネート混合物のLINE-X・XS-350・A剤(硬化剤)とポリオール・芳香族ジアミン混合物であるLINE-X・XS-350・B剤(樹脂)を加熱混合した100%ポリウレアのエラストマーである。
【0023】
そして、これらのポリウレア系樹脂の物性(ASTM規格)について、例えば引っ張り強度(試験方法:ASTM D412)は、「LINE-X・XS-100」の場合が14.80N/mmである一方、「LINE-X・XS-350」の場合は13.86N/mmである。同様に、引き裂き強さ(試験方法:ASTM D624)は、「LINE-X・XS-100」の場合が51.7N/mmである一方、「LINE-X・XS-350」の場合は87.0N/mmであり、これらを材料とする塗膜20が被覆するコンクリート表面19から剥落しようとするコンクリート片28の荷重を支持するのに十分な強度を有している。
【0024】
なお、これらのポリウレア系樹脂でコンクリート表面19を被覆する塗膜20の膜厚は0.5mm〜5mmの範囲内であることが好ましい。その理由は、膜厚が0.5mm未満であると、コンクリート片の剥落を抑制し得るだけの強度が得られなかったりするからである。その一方、膜厚が5mmを超えると、塗膜20の形成のために費やされる施工時間及び樹脂の使用量が多大となり、施工コストが増大してしまうからである。
【0025】
また、塗膜20は、下地処理をしたコンクリート表面19にポリウレア系樹脂のスプレー材料を吹き付けて形成するが、その吹き付け前にコンクリート表面19にはプライマー塗装を施すことが好ましい。プライマー塗装を施すと、そのプライマーの有する接着力が加わってコンクリート表面19に対する塗膜20の付着力が強化される。そのため、例えば鉄筋18に対するコンクリートのかぶりが比較的大きくて、コンクリート表面19から剥落する虞のあるコンクリート片28の想定荷重が大きく見込まれる場合は、プライマー塗装を施すことが好ましい。また、コンクリート片28の大きさにばらつきがあって、想定荷重が予想に反して大きい場合などにも、プライマー塗装を施してあれば対処が容易になる。
【0026】
その一方、例えば鉄筋18に対するコンクリートのかぶりが比較的小さくて、コンクリート表面19から剥落する虞のあるコンクリート片28の想定荷重が小さく見込まれる場合は、こうしたプライマー塗装を省略してもよい。ポリウレア系樹脂は、それ自体も強固な接着力を有しているので、コンクリート表面19から剥落する虞のあるコンクリート片28の想定荷重が過大でない限り、そのコンクリート片28の荷重がかかった状態でも、コンクリート表面19に対する付着力を維持可能である。
【0027】
次に、上記塗膜20によるコンクリート表面19の被覆方法について説明する。
まず、コンクリート表面19にポリウレア系樹脂を吹き付けて塗膜20を形成する前に当該塗膜20の膜厚Tが設定される。この場合、膜厚Tは、0.5mm〜5mmの範囲内で、コンクリート表面19から剥落するコンクリート片28の想定荷重に応じて、所定の膜厚Tとなるように設定される。
【0028】
例えば、鉄筋18に対するコンクリートのかぶりが比較的大きかったり、コンクリート表面19に沿う方向の鉄筋18の間隔が比較的狭かったりして、剥落するコンクリート片28の体積及び想定荷重が大きく見込まれるコンクリート表面19の場合は、塗膜20の膜厚Tが相対的に厚く設定される。一方、鉄筋18に対するコンクリートのかぶりが比較的小さかったり、コンクリート表面19に沿う方向での鉄筋18の間隔が比較的広かったりして、剥落する虞のあるコンクリート片28の体積及び想定荷重が小さく見込まれるコンクリート表面19の場合には、塗膜20の膜厚Tが相対的に薄く設定される。
【0029】
以下、塗膜20の膜厚Tとコンクリート片28の想定荷重との関係について説明する。
図3(a)(b)は、ポリウレア系樹脂の塗膜20でコンクリート表面19が被覆された供試体21(図4図6参照)を用いて行ったコンクリート押し抜き試験での試験結果を示している。すなわち、図中にプロットされた各印は、塗膜20の膜厚Tが当該印と対応する厚さの場合におけるコンクリート片28の剥落に対する最大耐力の評価値を押し抜き抵抗力(最大荷重)Pという荷重概念で示している。なお、図中にプロットされた複数の印のうち、○印はプライマー塗装ありの場合の試験結果を示し、□印はプライマー塗装なしの場合の試験結果を示している。また、図3(a)は、塗膜20の樹脂材料が「LINE-X・XS-100」である場合の試験結果を示し、図3(b)は、塗膜20の樹脂材料が「LINE-X・XS-350」である場合の試験結果を示している。
【0030】
次に、上記試験結果を得るために行ったコンクリート押し抜き試験について説明する。
図4図6に示すように、コンクリート押し抜き試験は、コンクリート製の基板からなる供試体21の表面(コンクリート表面19)を、試験しようとする膜厚Tの塗膜20で被覆し、その供試体21の裏面(塗膜20で被覆した表面とは反対側の面)側から荷重をかけて、その膜厚Tでの塗膜20の荷重に対する最大耐力を試験するものである。
【0031】
本実施形態における供試体21には、JIS A 5372附属書5に規定する上ぶた式U字側溝(ふた)の1種呼び名300(縦400×横600×厚さ60mm)を使用した。そして、この供試体21の中央部を直径10cmの形状でコンクリート用コアドリルにより円環状の溝22で囲まれたコア部23ができるようにコア抜きをした。その際のコア抜き方向は供試体21の裏面(塗膜20で被覆する表面とは反対側の面)側からとし、コア部23の周りの溝22の深さは供試体21の裏面より55±3.0mmとした。そして、その供試体21における表面の中心部を縦400mm×横400mmの塗膜20で被覆した。
【0032】
図4に示すように、コンクリート押し抜き試験を行う際には、このようにして製作した供試体21を、その塗膜20の形成された表面が下向きとなるようにし、450±5mmの間隔をおいて配置された一対の支点24上にセットした。そして、オートグラフ(島津製作所製)などの試験機を用いて、供試体21におけるコア部23の中央部に鉛直、均等に荷重がかかるように球座25等を挟んで載荷し、塗膜20の押し抜き方向への押し抜き変位δ及び押し抜き方向への押し抜き荷重Paを測定した。なお、その測定結果は、図7に示すような荷重−変位曲線Jにより表される。
【0033】
なお、コンクリート押し抜き試験での載荷速度は、押し抜き荷重が初期ピーク値となるコア部23のコンクリートが破壊されるまでは1mm/分の速度とした。そして、図5に示すように、コア部23のコンクリートが破壊された後は、載荷速度を5mm/分とした上で、図6(a)(b)に示すように、さらに載荷を継続しつつ、コア部23が破壊された初期ピーク値後に表れる押し抜き荷重Paの最大値である押し抜き抵抗力(最大荷重)Pを測定した。そして、その押し抜き抵抗力(最大荷重)Pを測定した後、測定される荷重が押し抜き抵抗力(最大荷重)Pに対して50%程度まで低下した段階で、載荷を終了した。なお、測定される荷重が押し抜き抵抗力(最大荷重)に対して50%程度まで低下する迄に押し抜き変位δが50mmを越えるようになった場合には、その段階で載荷を終了してもよい。
【0034】
ここで、押し抜き荷重Paの変化状況について説明すると、図7に示す荷重−変位曲線Jから理解されるように、供試体21に対する載荷の開始後において、押し抜き荷重Paは、まず、コア部23が破壊されたとき初期ピーク値となり、その後、一旦は落ち込むものの、再び上昇するようになる。そして、押し抜き変位δが10mm以上において表れる押し抜き荷重Paの最大値が押し抜き抵抗力(最大荷重)Pとして測定される。因みに、押し抜き変位δが10mm以上になってから表れる押し抜き荷重Paの最大値を押し抜き抵抗力(最大荷重)Pとする理由は、押し抜き変位δが10mm未満で破断する可能性のある塗膜20ではコンクリート片28の剥落に耐えることができないからである。
【0035】
また、押し抜き変位δが10mm以上における押し抜き荷重Paの最大値たる押し抜き抵抗力(最大荷重)Pの目標荷重レベルについては、コンクリート表面19から剥離するコンクリート片28の想定荷重を押し抜き抵抗力(最大荷重)Pとする関係から、かかる想定荷重以上であることを条件とした。そのため、樹脂材料が「LINE-X・XS-100」である塗膜20の場合は、その用途が比較的かぶりの小さい箇所の被覆用であり、そうした箇所からの剥落が想定される縦300×横500×厚さ30mmのコンクリート片28の重量は約10kgであることから、押し抜き抵抗力(最大荷重)Pの目標荷重は100N以上とした。一方、樹脂材料が「LINE-X・XS-350」である塗膜20の場合は、その用途が比較的かぶりの大きい箇所の被覆用であり、そうした箇所からの剥落が想定される縦650×横650×厚さ50mmのコンクリート片28の重量は約50kgであることから、押し抜き抵抗力(最大荷重)Pの目標荷重は500N以上とした。
【0036】
なお、コンクリート内部の鉄筋18に対するかぶりの大きさが同じであったとしても、コンクリート表面19に沿う方向での配筋間隔にばらつきがあると、鉄筋の腐食に伴う膨張圧によって剥落するコンクリート片28の大きさにもばらつきが生じる可能性がある。そのため、こうしたばらつきを考慮して、剥落するコンクリート片28の想定荷重も余裕をもって多めに見込んでおくことが好ましい。
【0037】
そこで、樹脂材料が「LINE-X・XS-100」である塗膜20の場合は、そのコンクリート押し抜き試験での押し抜き抵抗力(最大荷重)Pの目標荷重が余裕を見込んで100Nの3倍の300Nとされるのが好ましい。一方、樹脂材料が「LINE-X・XS-350」である塗膜20の場合は、同じく余裕を見込んで、そのコンクリート押し抜き試験での押し抜き抵抗力(最大荷重)Pの目標荷重は500Nの3倍の1500Nとするのが好ましい。
【0038】
以上のようなコンクリート押し抜き試験は、塗膜20の材料となるポリウレア系樹脂の種類ごとに、コンクリート表面19にプライマー塗装がある場合と無い場合に分けて、様々な膜厚Tごとに実施した。
【0039】
その結果、塗膜20の材料が「LINE-X・XS-100」である場合は、図3(a)に示すように、塗膜20の膜厚Tを0.5mm以上に設定した複数の供試体21において、その塗膜20の最大耐力(最大荷重)が100N以上である場合の様々な膜厚Tごとの押し抜き抵抗力(最大荷重)Pを試験結果として得た。一方、塗膜20の材料が「LINE-X・XS-350」である場合は、図3(b)に示すように、塗膜20の膜厚Tを0.5mm以上に設定した複数の供試体21において、その塗膜20の最大耐力(最大荷重)が約500N以上である場合の様々な膜厚Tごとの押し抜き抵抗力(最大荷重)Pを試験結果として。
【0040】
そして、図3(a)に示す試験結果からは、樹脂材料が「LINE-X・XS-100」である塗膜20の場合には、膜厚Tと押し抜き抵抗力(最大荷重)Pとの関係を一次関数式によって表したT=P/600という設定基準線Sが得られることから、想定荷重に耐え得る塗膜20の膜厚TはT≧P/600となるように設定すればよい、ということが示唆される。同様に、図3(b)に示す試験結果からは、樹脂材料が「LINE-X・XS-350」である塗膜20の場合は、膜厚Tと押し抜き抵抗力(最大荷重)Pとの関係を一次関数式によって表したT=P/1200という設定基準線Sが得られることから、想定荷重に耐え得る塗膜20の膜厚TはT≧P/1200となるように設定すればよい、ということが示唆される。
【0041】
そこで次に、以上のように構成されたコンクリート構造物(高架橋11)の作用を説明する。
さて、図8(a)に示すように、コンクリート内部に鉄筋18が配された高架橋11のコンクリート表面19を塗膜20で被覆する場合は、その鉄筋18に対するコンクリートのかぶり26の大きさ等を判断基準にして、そのコンクリート表面19から剥落する虞のあるコンクリート片28の荷重を想定する。そして、コンクリートのかぶりが比較的小さい場合は、樹脂材料が「LINE-X・XS-100」である塗膜20が選択され、膜厚Tと押し抜き抵抗力(最大荷重)Pとの関係においてT≧P/600という式を満足する膜厚Tでコンクリート表面19に形成される。
【0042】
次に、図8(b)に示すように、そのような塗膜20にてコンクリート表面19が被覆された高架橋11において、経年劣化等で鉄筋18が腐食すると、鉄筋18の周囲に腐食部分27ができてしまう。すると次に、図8(c)に示すように、その腐食に伴う膨張圧により、かぶり26の部分に亀裂が生じてしまう。そして次に、図8(d)に示すように、かぶり26の部分がコンクリート片28となってコンクリート表面19から分離するようになる。
【0043】
このように、コンクリート表面19から分離したコンクリート片28は、重力の作用で下方へ剥落しようとするが、コンクリート表面19を被覆している樹脂製の塗膜20が、適度な引っ張り強度を有して伸張しつつ、剥落しようとするコンクリート片28を保持する。このとき、塗膜20は、剥落しようとするコンクリート片28の想定荷重に対応した押し抜き抵抗力(最大荷重)PをT≧P/600という式に代入して求めた膜厚Tに設定されるため、必要最低限の膜厚に設定した場合には施工コストが大いに低減される。
【0044】
上記実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)塗膜20は、その膜厚Tが0.5mm未満でないため、コンクリート片28の剥落を抑制可能な強度が得られるとともに、その膜厚Tが5mmを越えないため、塗膜20の形成のために費やす施工時間及びポリウレア系樹脂の使用量を低減できる。
【0045】
(2)所定の膜厚Tの塗膜20で表面が被覆された供試体21に対してコンクリート表面19から剥落するコンクリート片28の想定荷重に対応した荷重をかけて最大耐力(最大荷重)を調査するコンクリート押し抜き試験を行えば、剥落するコンクリート片28の想定荷重に応じて塗膜20の膜厚Tをどのように設定すればよいかも判断できる。したがって、コンクリート表面19から剥落するコンクリート片28の想定荷重をコンクリート押し抜き試験での押し抜き抵抗力(最大荷重)Pとした場合の当該押し抜き抵抗力Pの大きさに応じて膜厚Tを設定すれば、薄すぎず且つ厚すぎない好適な膜厚Tの塗膜20により、コンクリート表面19からコンクリート片28が剥落するのを抑制できる。
【0046】
(3)また、高架橋11において、例えば内部の鉄筋18に対するコンクリートのかぶり26が比較的小さい箇所(高欄部15など)は、かぶり26が比較的大きい箇所(橋脚部13など)よりも、コンクリート片28の剥落の発生頻度が高いという傾向がある。その一方、こうしたコンクリートのかぶり26が比較的小さい箇所は、かぶり26が比較的大きい箇所よりも、コンクリート表面19から剥落するコンクリート片28が相対的に小さいという傾向がある。そのため、こうしたコンクリートのかぶり26が比較的小さい箇所のコンクリート表面19から剥落するコンクリート片28の想定荷重は小さく見積もることが可能である。したがって、こうした箇所を被覆する塗膜20については、その膜厚Tを一律に厚く設定するのではなく、想定荷重に応じて、当該想定荷重が小さい場合には想定荷重が大きい場合よりも薄くなるように設定すれば、施工コストの低減に大きく貢献することができる。
【0047】
(4)例えば、内部の鉄筋18に対するコンクリートのかぶり26の大きさが同じであったとしても、コンクリート表面19に沿う方向での配筋間隔にばらつきがあると、鉄筋18の腐食に伴う膨張圧によって剥落するコンクリート片28の大きさにもばらつきが生じる可能性がある。この点、本実施形態の場合の塗膜20は、そのコンクリート押し抜き試験での押し抜き抵抗力(最大荷重)Pが余裕を見込んで100Nの3倍の300Nとされているので、剥落しようとするコンクリート片28の大きさに少々のばらつきがあっても、ある程度の余裕をもって対処することができる。
【0048】
(5)塗膜20は、膜厚Tと押し抜き抵抗力(最大荷重)Pとの関係がT≧P/600となるように膜厚Tが設定されるので、コンクリート片28の剥落を、剥落が想定されるコンクリート片28の想定荷重に適合した強度を有する膜厚Tの塗膜20によって、より一層好適に抑制することが可能となる。
【0049】
(6)コンクリート表面19に下塗りとして施されたプライマー塗装の上から塗膜20がコンクリート表面19を被覆するようにしているので、プライマー塗装がコンクリート表面19に対する塗膜20の接着力を強化することになる。そのため、コンクリート表面19から剥落する虞のあるコンクリート片28の想定荷重にばらつきがあって過大な荷重が塗膜20にかかるような場合にも、十分に強度のある塗膜20がコンクリート表面19に強固に付着した状態を維持しつつ、その剥落を好適に抑制することができる。
【0050】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・コンクリート表面19に塗膜20を形成する前にプライマー塗装は必ずしもしなくてよい。その場合でも、ポリウレア系樹脂からなる塗膜20は十分な接着力を有している。
【0051】
・例えば図3(a)に示す試験結果に基づいて塗膜20の膜厚Tを設定する場合、膜厚TはT≧P/600の条件を必ずしも満たさなくてよい。要するに、コンクリート片28の想定荷重に対応した押し抜き抵抗力(最大荷重)Pでプロットされた印と対応した膜厚T以上であればよい。
【0052】
・例えば樹脂材料が「LINE-X・XS-100」である塗膜20の場合のコンクリート押し抜き試験での押し抜き抵抗力(最大荷重)Pの目標荷重は、余裕を見込んで100Nの3倍の300Nとしたが、剥落するコンクリート片28の想定荷重以上であれば、これを100Nの2倍の200Nや、100Nの1.5倍の150Nとしてもよい。
【0053】
・塗膜20の材料は、ウレア結合するポリウレア系樹脂ならば、「LINE-X・XS-100」や「LINE-X・XS-350」以外でもよい。
・塗膜20でコンクリート表面19が被覆されるコンクリート構造物は、高速道路の高架橋11に限らず、表面がコンクリート製のトンネル、防護壁、堤防、建屋等でもよい。
【符号の説明】
【0054】
11…高速道路の高架橋(コンクリート構造物)、13…橋脚部(コンクリート構造物の一部)、14…底版部(コンクリート構造物の一部)、15…高欄部(コンクリート構造物の一部)、19…コンクリート表面、20…塗膜、21…供試体、28…コンクリート片、P…押し抜き抵抗力(最大荷重)、T…膜厚、δ…押し抜き変位(変位)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8