特許第5662550号(P5662550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5662550フェノール及び/又はシクロヘキサノンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662550
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】フェノール及び/又はシクロヘキサノンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 27/00 20060101AFI20150108BHJP
   C07C 39/04 20060101ALI20150108BHJP
   C07C 37/08 20060101ALI20150108BHJP
   C07C 49/403 20060101ALI20150108BHJP
   C07C 45/53 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   C07C27/00 310
   C07C39/04
   C07C37/08
   C07C49/403 A
   C07C45/53
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-263572(P2013-263572)
(22)【出願日】2013年12月20日
(62)【分割の表示】特願2011-506315(P2011-506315)の分割
【原出願日】2009年3月16日
(65)【公開番号】特開2014-139169(P2014-139169A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2013年12月24日
(31)【優先権主張番号】61/104,296
(32)【優先日】2008年10月10日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/047,821
(32)【優先日】2008年4月25日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】08158576.2
(32)【優先日】2008年6月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599134676
【氏名又は名称】エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ダッカ ジハード エム
(72)【発明者】
【氏名】ブキャナン ジョン スコット
(72)【発明者】
【氏名】チェン ジェイン シー
(72)【発明者】
【氏名】チェン タン ジェン
(72)【発明者】
【氏名】デコール ロレンゾ コファルド
(72)【発明者】
【氏名】ヘルトン テリー ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】スタナット ジョン イー.アール.
(72)【発明者】
【氏名】ベニテス フランシスコ エム
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第4021490(US,A)
【文献】 米国特許第3412165(US,A)
【文献】 特開昭54−99788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 27/00
C07C 37/08
C07C 39/04
C07C 45/53
C07C 49/403
C07C 2/74
C07C 13/28
C07C 13/18
C07C 15/04
C07C 5/367
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール及び/又はシクロヘキサノンの製造方法であって、
(a) ベンゼン及び水素をヒドロアルキル化条件下で第一の触媒と接触させてシクロヘキシルベンゼン、シクロヘキサン、及び未反応のベンゼンを含む第一の流出物流を生成し、
(b) 前記第一の流出物流の少なくとも一部を第一の分離系に供給して前記第一の流出物流部分をシクロヘキシルベンゼンに富む流れ、シクロヘキサン及びベンゼンを含むC6生成物流に分け、
(b1) 前記供給工程(b)における前記C6生成物流をシクロヘキサンに富む流れ、及びベンゼンに富む流れに分け、
(b2) ベンゼンに富む流れを前記接触工程(a)に循環し、
(c) 前記シクロヘキサンに富む流れの少なくとも一部と同時供給水素ガスを脱水素化条件下で第二の触媒と接触させてシクロヘキサンの少なくとも一部をベンゼンに変換し、かつベンゼン及び水素を含む第二の流出物流を生成し、
(d) 第二の流出物流の少なくとも一部を前記接触工程(a)に循環し、
(e) 前記シクロヘキシルベンゼンに富む流れの少なくとも一部を第三の触媒の存在下、酸化条件下で酸素含有ガスと接触させて前記シクロヘキシルベンゼンに富む流れ中のシクロヘキシルベンゼンを酸化してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、そして
(f) (e)からのシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを変換してフェノール及びシクロヘキサノンを製造することを特徴とする上記製造方法。
【請求項2】
第一の触媒がモレキュラーシーブ及び水素化金属を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第一の触媒のモレキュラーシーブがゼオライトベータ、ゼオライトX、ゼオライトY、MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブ及びこれらの混合物から選ばれる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第一の流出物流を少なくとも第一の部分及び第二の部分に分け、前記第一の流出物流の第一の部分を冷却し、前記冷却された第一の流出物流部分を前記接触(a)に循環することを更に含む、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記第二の触媒が周期律表の8族の金属又はその化合物/多孔性の非酸性支持体を含む、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記第三の触媒が一般式(I):
【化1】
(式中、R1及びR2の夫々は独立に1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基及び置換ヒドロカルビル基、もしくは基SO3H、NH2、OH、及びNO2又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選ばれ、但し、R1及びR2が共有結合により互いに結合し得ることを条件とし、
Q1及びQ2の夫々は独立にC、CH、CR3から選ばれ、
X及びZの夫々は独立にC、S、CH2、N、P及び周期律表の4族の元素から選ばれ、
YはO又はOHであり、
kは0、1、又は2であり、
lは0、1、又は2であり、
mは1〜3である)
の環状イミドを含む、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記変換(f)で生成されたフェノールの少なくとも一部を更なるシクロヘキサノン又はシクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物に変換することを更に含む、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記変換(f)で生成されたシクロヘキサノンの少なくとも一部を更なるフェノールに変換することを更に含む、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
新しい補給水素が接触工程(c)に供給される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
接触工程(c)への供給中におけるH2/炭化水素供給原料モル比が0.5:1〜5:1である請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は2008年4月25日に出願された先の米国仮特許出願第61/047,821号、2008年10月10日に出願された米国仮特許出願第61/104,296号、及び2008年6月19日に出願された欧州特許出願第08158576.2号(これらの全てが参考として本明細書にそのまま含まれる)の利益を主張する。
本発明はフェノール及び/又はシクロヘキサノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノールは化学工業における重要な製品であり、例えば、フェノール樹脂、ビスフェノールA、ε-カプロラクタム、アジピン酸、及び可塑剤の製造に有益である。
現在、フェノールの製造のための最も普通の経路はホック方法である。これは最初の工程がクメンを製造するためのプロピレンによるベンゼンのアルキル化を伴ない、続いて相当するヒドロペルオキシドへのクメンの酸化次いで等モル量のフェノール及びアセトンを製造するためのそのヒドロペルオキシドの開裂を伴なう3工程方法である。しかしながら、フェノールについての世界の需要はアセトンについての需要よりも迅速に増大しつつある。加えて、プロピレンのコストが、プロピレンの発展する不足のために、おそらく増大する。こうして、供給原料としてプロピレンに代えて高級アルケンを使用し、アセトンではなく、高級ケトンを同時製造する方法が、フェノールの製造の魅力的な別の経路であるかもしれない。
例えば、シクロヘキシルベンゼンの酸化(クメン酸化と同様の)がアセトン同時製造の問題のないフェノール製造の別の経路を与え得る。この別の経路はシクロヘキサノンを同時製造し、これは増大しつつある市場を有し、かつ工業用溶媒として、酸化反応における活性剤として、またアジピン酸、シクロヘキサノン樹脂、シクロヘキサノンオキシム、カプロラクタム及びナイロン6の製造に使用される。更に、シクロヘキサノン及びフェノールは夫々、脱水素化及び水素化によりすぐに相互変換され、その結果、シクロヘキシルベンゼン経路がフェノール及びシクロヘキサノンの混合物を製造するためだけでなく、市場の需要に従ってフェノール又はシクロヘキサノンの製造を最大にするのに潜在性を与える。
シクロヘキシルベンゼンはベンゼンからヒドロアルキル化又は還元アルキル化の方法により製造し得ることが公知である。この方法では、ベンゼンが触媒の存在下で水素とともに加熱され、その結果、ベンゼンが部分水素化を受けてシクロヘキセンを生じ、次いでこれがベンゼン出発物質をアルキル化する。このような方法の例が米国特許第6,037,513号に記載されている。
しかしながら、その潜在的な利点にもかかわらず、ベンゼンのヒドロアルキル化並びに得られるシクロヘキシルベンゼンの酸化及び開裂を経由してのフェノール及び/シクロヘキサノンの製造のための商用の方法が、未だ開発されていなかった。商用の方法で取り組まれる必要がある問題の中に、ヒドロアルキル工程における比較的低い転化率及びかなりの量のシクロヘキサンの如き、副生物を生成するヒドロアルキル化の傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はその方法の商用の適用に固有の問題が軽減される、ベンゼンからのフェノール及び/又はシクロヘキサノンの製造のための有効かつ経済的なシクロヘキシルベンゼンをベースとする方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一局面において、本発明はフェノール及び/又はシクロヘキサノンの製造方法にあり、その方法は
(a) ベンゼン及び水素をヒドロアルキル化条件下で第一の触媒と接触させてシクロヘキシルベンゼン、シクロヘキサン、及び未反応のベンゼンを含む第一の流出物流を生成し、 (b) 前記第一の流出物流を第一の分離系に供給して前記第一の流出物流をシクロヘキシルベンゼンに富む流れとシクロヘキサン及びベンゼンを含むC6生成物流に分け、
(c) 前記C6生成物流の少なくとも一部を脱水素化条件下で第二の触媒と接触させてシクロヘキサンの少なくとも一部をベンゼンに変換し、かつベンゼン及び水素を含む第二の流出物流を生成し、
(d) 第二の流出物流の少なくとも一部を前記接触工程(a)に循環し、
(e) 前記シクロヘキシルベンゼンに富む流れの少なくとも一部を第三の触媒の存在下、酸化条件下で酸素含有ガスと接触させて前記シクロヘキシルベンゼンに富む流れ中のシクロヘキシルベンゼンを酸化してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、そして
(f) (e)からのシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを変換してフェノール及びシクロヘキサノンを製造することを特徴とする。
【0005】
都合良くは、その方法は、代わりに
(g) 前記供給工程(b)における前記C6生成物流をシクロヘキサンに富む流れ、及びベンゼンに富む流れに分け、
(h) ベンゼンに富む流れを前記接触工程(a)に循環し、そして
(i) シクロヘキサンに富む流れを前記接触工程(c)における第二の触媒と接触させることを含む。
都合良くは、その方法に供給される新しいベンゼンは5ppm(質量基準)未満の硫黄、1ppm(質量基準)未満の窒素及び500ppm(質量基準)未満の水を含む。一実施態様において、新しいベンゼンが前記第一の分離系に供給される。
都合良くは、その方法に供給される新しい水素が5ppm(質量基準)未満の硫化水素、1ppm(質量基準)未満の窒素及び5ppm(質量基準)未満の一酸化炭素を含む。一実施態様において、新しい水素が前記接触(d)に供給される。
都合良くは、第一の触媒がモレキュラーシーブ及び水素化金属を含む。一実施態様において、前記第一の触媒のモレキュラーシーブがゼオライトベータ、ゼオライトX、ゼオライトY、MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブ及びこれらの混合物から選ばれ、かつ前記第一の触媒の水素化金属がパラジウム、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト及びこれらの混合物から選ばれる。
都合良くは、前記水素化金属の少なくとも50質量%が前記モレキュラーシーブとは異なり、一般に元素の周期律表の2族、4族、13族及び14族の少なくとも一種の元素の酸化物を含む無機酸化物で担持される。
都合良くは、前記ヒドロアルキル化条件が約50℃〜約400℃の温度、約100kPa〜約7000kPaの圧力、約0.01hr-1〜約100hr-1の毎時の質量空間速度及び約0.01〜約100のベンゼン対水素モル比を含む。
【0006】
一実施態様において、その方法が前記第一の流出物流を少なくとも第一の部分と第二の部分に分け、前記第一の流出物流の第一の部分を冷却し、そして前記冷却された第一の流出物流の部分を前記接触(a)に循環することを更に含む。
都合良くは、前記第一の分離系がジシクロヘキシルベンゼンに富む流れを前記第一の流出物流から更に分離し、かつその方法が前記ジシクロヘキシルベンゼンに富む流れをトランスアルキル化触媒の存在下で更なるベンゼンと接触させて前記ジシクロヘキシルベンゼンを追加のシクロヘキシルベンゼンに変換することを更に含む。
典型的には、第二の触媒が多孔性の、非酸性支持体上の周期律表の8族の金属又はその化合物を含み、かつ前記脱水素化条件が約330℃〜約500℃の温度及び約100kPa〜約1000kPaの圧力を含む。
都合良くは、前記第三の触媒が一般式(I)の環状イミドを含む。
【0007】
【化1】
【0008】
式中、R1及びR2の夫々は独立に1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基及び置換ヒドロカルビル基、もしくは基SO3H、NH2、OH、及びNO2又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選ばれ、但し、R1及びR2が共有結合により互いに結合し得ることを条件とし、
Q1及びQ2の夫々は独立にC、CH、CR3から選ばれ、
X及びZの夫々は独立にC、S、CH2、N、P及び周期律表の4族の元素から選ばれ、 YはO又はOHであり、
kは0、1、又は2であり、
lは0、1、又は2であり、
mは1〜3である。
一実施態様において、環状イミドがN-ヒドロキシフタルイミドを含み、かつ前記接触(f)の前に前記シクロヘキシルベンゼンに富む流れの少なくとも一部に溶解される。
一実施態様において、前記変換(g)が50℃未満の温度で行なわれる第一の段階及び第一の段階の温度より高いが、150℃未満の温度で行なわれる第二の段階を含む少なくとも二つの段階で行なわれる。都合良くは、前記変換(g)が約120℃〜約150℃の温度で行なわれる第三の段階を更に含む。
都合良くは、前記変換(g)が前記シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを第四の触媒、例えば、硫酸と接触させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一例の方法のシクロヘキシルベンゼン合成工程の工程系統図である。
図2】本発明の前記一例の方法のシクロヘキシルベンゼン酸化工程の工程系統図である。
図3】本発明の前記一例の方法のシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド開裂及び生成物回収工程の工程系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
その方法の種々の工程、特にヒドロアルキル化、酸化、開裂及び生成物回収が、供給原料の利用及び所望の生成物の収率を最大にし、かつ副生物生成を最小にする様式で行なわれ、統合される、ベンゼン及び水素からのフェノール及び/又はシクロヘキサノンの製造方法が本明細書に記載される。
供給原料前処理
あらゆる市販のベンゼン供給原料及び水素供給原料が本方法に使用し得る。しかしながら、ヒドロアルキル化では、供給原料ができるだけ純粋であることが望ましい。ベンゼン供給原料及び水素供給原料中の硫黄、窒素、水、一酸化炭素及び/又はその他の不純物が13X、4A、セレクスソーブCD、クレー、Zn、Cu、及び/又はあらゆるその他の有効な吸着剤を使用する吸着により除去されてもよい。ヒドロアルキル化触媒へのベンゼン供給原料中の好ましい硫黄レベルは5wppm未満、一般に1wppm未満である。ベンゼン供給原料中の好ましい水レベルは500wppm未満、一般に250wppm未満である。ベンゼン供給原料中の好ましい窒素レベルは1wppm未満である。同様に、水素供給原料中の好ましい硫化水素レベルは5wppm未満、一般に1wppm未満である。水素供給原料中の好ましいCOレベルはまた5wppm未満、一般に1wppm未満である。水素供給原料中の好ましい窒素レベルは1wppm未満である。
シクロヘキシルベンゼンの製造
本方法では、シクロヘキシルベンゼンがベンゼンをヒドロアルキル化条件下でヒドロアルキル化触媒の存在下で水素と接触させることにより製造され、それによりベンゼンが下記の反応(1)を受けてシクロヘキシルベンゼン(CHB)を生じる。
【0011】
【化2】
【0012】
そのヒドロアルキル化反応は固定床、スラリー反応器、及び/又は接触蒸留塔を含む広範囲の反応器形態で行ない得る。加えて、そのヒドロアルキル化反応は単一反応ゾーン又は複数の反応ゾーン(少なくとも水素が諸段階の反応に導入される)中で行ない得る。好適な反応温度は約50℃〜約400℃、例えば、約100℃〜約250℃であり、一方、好適な反応圧力は約100kPa〜約7,000kPa、例えば、約500kPa〜約5,000kPaである。水素対ベンゼンのモル比に適した値は約0.01〜約100、更に特別には約0.15:1〜約15:1、例えば、約0.4:1〜約4:1、例えば、約0.4〜約0.9:1である。ベンゼンの毎時の質量空間速度は通常約0.01hr-1〜約100hr-1である。
そのヒドロアルキル化反応に使用される触媒は酸機能を有するモレキュラーシーブと水素化金属を含む二機能性触媒である。好適なモレキュラーシーブとして、ゼオライトベータ、ゼオライトX、ゼオライトY及びMCM-22ファミリーのモレキュラーシーブが挙げられる。本明細書に使用される“MCM-22 ファミリー物質”(又は“MCM-22 ファミリーの物質” もしくは“MCM-22 ファミリーのモレキュラーシーブ”)という用語は、
・普通の第一級(first degree)結晶性ビルディングブロック単位セル(その単位セルはMWWフレームワークトポロジーを有する)からつくられたモレキュラーシーブ(単位セルは原子の空間配置であり、これは三次元空間中でタイルにされた場合に結晶構造を記載する。このような結晶構造が“ゼオライトフレームワーク型のアトラス”, 第五編, 2001(その全内容が参考として含まれる)に説明されている);
・一つの単位セル厚さ、好ましくは一つのc-単位セル厚さの単層を形成する、このようなMWWフレームワークトポロジー単位セルの2次元のタイリング(tiling)である、普通の第二級(second degree)ビルディングブロックからつくられたモレキュラーシーブ;
・一つ以上の単位セル厚さの層である、普通の第二級ビルディングブロックからつくられたモレキュラーシーブ(一つより多い単位セル厚さの層が一単位セル厚さの少なくとも二つの単層を積み重ね、充填し、又は結合することからつくられる。このような第二級ビルディングブロックの積み重ねは規則的な様式、不規則な様式、ランダム様式、又はこれらのあらゆる組み合わせであってもよい);及び
・MWWフレームワークトポロジーを有する単位セルのあらゆる規則的又はランダムな2次元又は3次元の組み合わせによりつくられたモレキュラーシーブ
の一つ以上を含む。
【0013】
MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブは一般に12.4±0.25、6.9±0.15、3.57±0.07及び3.42±0.07 Åにd-間隔最大を含むX線回折パターンを有する。その物質(b)を特性決定するのに使用されるX線回折データは通常の技術により、入射放射線としての銅のK-α二重線及び収集システムとしてのシンチレーションカウンター及び関連コンピュータを備えたディフラクトメーターを使用して得られる。MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブとして、MCM-22 (米国特許第4,954,325号に記載されている)、PSH-3 (米国特許第4,439,409号に記載されている)、SSZ-25 (米国特許第4,826,667号に記載されている)、ERB-1 (欧州特許第0293032号に記載されている)、ITQ-1 (米国特許第6,077,498号に記載されている), ITQ-2 (国際特許公開WO97/17290に記載されている)、MCM-36 (米国特許第5,250,277号に記載されている)、MCM-49 (米国特許第5,236,575号に記載されている)、MCM-56 (米国特許第5,362,697号に記載されている)、UZM-8 (米国特許第6,756,030号に記載されている)、及びこれらの混合物が挙げられる。モレキュラーシーブは(a) MCM-49、(b) MCM-56 並びに(c) MCM-49 及びMCM-56のイソタイプ、例えば、ITQ-2から選ばれることが好ましい。
あらゆる既知の水素化金属がヒドロアルキル化触媒中に使用し得るが、好適な金属として、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、及びコバルトが挙げられ、パラジウムが特に有利である。一般に、触媒中に存在する水素化金属の量は触媒の約0.05質量%〜約10質量%、例えば、約0.1質量%〜約5質量%である。一実施態様において、モレキュラーシーブがアルミノシリケートである場合、存在する水素化金属の量はモレキュラーシーブ中のアルミニウム対水素化金属のモル比が約1.5から約1500まで、例えば、約75から約750まで、例えば、約100から約300までであるような量である。
【0014】
水素化金属は、例えば、含浸又はイオン交換によりモレキュラーシーブに直接担持されてもよい。しかしながら、更に好ましい実施態様において、水素化金属の少なくとも50質量%、例えば、少なくとも75質量%、一般に実質的に全てがモレキュラーシーブとは別だが、モレキュラーシーブと複合された無機酸化物で担持される。特に、水素化金属を無機酸化物で担持することにより、触媒の活性並びにシクロヘキシルベンゼン及びジシクロヘキシルベンゼンへのその選択率が均等触媒(この場合、水素化金属がモレキュラーシーブで担持される)と較べて増大されることがわかる。
このような複合ヒドロアルキル化触媒中に使用される無機酸化物は、それがヒドロアルキル化反応の条件下で安定かつ不活性であることを条件として狭く特定されない。好適な無機酸化物として、元素の周期律表の2族、4族、13族及び14族の酸化物、例えば、アルミナ、チタニア、及び/又はジルコニアが挙げられる。本明細書に使用される周期律表グループについてのナンバリングスキームはChemical and Engineering News, 63(5), 27 (1985)に開示されているようなものである。
水素化金属は都合良くは含浸により無機酸化物に付着され、その後に金属含有無機酸化物が前記モレキュラーシーブと複合されて触媒複合材料を生成する。典型的には、触媒複合材料は同時ペレット化により生成され、その場合、モレキュラーシーブ及び金属含有無機酸化物の混合物が高圧(一般に約350kPa〜約350,000kPa)で、又は同時押出(この場合、モレキュラーシーブ及び金属含有無機酸化物のスラリーが、必要により別のバインダーと一緒に、ダイに押しやられる)によりペレットに成形される。必要により、付加的な水素化金属がその後に得られる触媒複合材料に付着し得る。
【0015】
好適なバインダー材料として、合成物質又は天然産物質だけでなく、無機物質、例えば、クレー、シリカ及び/又は金属酸化物が挙げられる。後者は天然産であってもよく、又はシリカ及び金属酸化物の混合物を含むゼラチン質の沈殿又はゲルの形態であってもよい。バインダーとして使用し得る天然産クレーとして、モンモリロナイトファミリー及びカオリンファミリーのクレー(これらのファミリーはサブベントナイトを含む)並びにディキシイクレー、マックナミイクレー、ジョージアクレー及びフロリダクレーとして普通知られているカオリン又はその他(その場合、主鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ジッカイト、ナクライト又はアナウキサイトである)が挙げられる。このようなクレーは初期に微粉砕され、又は最初に焼成、酸処理もしくは化学変性にかけられた生の状態で使用し得る。好適な金属酸化物バインダーとして、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニアだけでなく、3成分組成物、例えば、シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア及びシリカ-マグネシア-ジルコニアが挙げられる。
ヒドロアルキル化反応は発熱性であり、こうしてその反応系は熱管理を考慮する必要がある。好ましい方法はヒドロアルキル化反応器からの流出物の一部を冷却熱交換器に循環し、冷却された循環流を供給原料と混合することである。一つより多いヒドロアルキル化床又は反応器を有し、水素を諸段階で加えることがまた有利であり得る。
【0016】
シクロヘキシルベンゼンの分離
ヒドロアルキル化工程はシクロヘキシルベンゼンについて高度に選択的であるが、所望のモノアルキル化種に加えて、ヒドロアルキル化反応からの流出物は通常若干のジアルキル化生成物及びその他のヘビー生成物だけでなく、未反応のベンゼン供給原料を含むであろう。それ故、ヒドロアルキル化流出物は通常少なくとも二つの蒸留塔を含む分離系に供給される。第一の蒸留塔では、未反応のベンゼン供給原料が流出物から回収され、ヒドロアルキル化反応器に循環される。詳しくは、一実施態様において、未反応のベンゼンがシクロヘキサンとともに回収される。その他の実施態様において、シクロヘキサンに富む流れがベンゼンに富む流れとは独立に第一の蒸留塔から回収される。更に別の実施態様において、シクロヘキサンが追加の分離工程を加えることによりベンゼンから実質的に分離し得る。ベンゼンからのシクロヘキサンの実質的な分離が行ない得るが、この別のアプローチは状況に応じて手が出せない程高価であるかもしれない。第一の蒸留塔からのボトムが更に蒸留されて精製されたシクロヘキシルベンゼン生成物流を回収する。シクロヘキシルベンゼンよりもヘビーな物質がパージ流中に除去されてもよい。必要により、この工程では、少なくともジシクロヘキシルベンゼンを含む、ポリアルキレート流が、任意のトランスアルキル化工程への供給のために回収されてもよい。ヘビー流が依然としてこの工程で除去され、そのプロセスからパージされる。このヘビー流はポリアルキレート流のスリップ流であってもよく、又はポリアルキレート流の精製からの残渣であってもよく、或いは両方の組み合わせであってもよい。一般に、シクロヘキシルベンゼン回収は一つ又は必要により二つの真空蒸留塔を使用して達成される。
【0017】
ジシクロヘキシルベンゼンのトランスアルキル化
ヒドロアルキル化流出物中に存在するジシクロヘキシルベンゼンの量に応じて、ジシクロヘキシルベンゼンを追加のベンゼンでトランスアルキル化して所望のモノアルキル化種の生成を最大にすることが望ましいかもしれない。追加のベンゼンによるトランスアルキル化は典型的には好適なトランスアルキル化触媒、例えば、MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブ、ゼオライトベータ、MCM-68(米国特許第6,014,018号を参照のこと)、ゼオライトY及びモルデナイトの上で、ヒドロアルキル化反応器とは別の、トランスアルキル化反応器中で行なわれる。トランスアルキル化反応は典型的には少なくとも部分的液相条件下で行なわれ、これらの条件は好適には約100℃〜約300℃の温度、約800kPa〜約3500kPaの圧力、全供給原料についての約1hr-1〜約10hr-1の毎時の質量空間速度、及び約1:1〜約5:1のベンゼン/ジシクロヘキシルベンゼン質量比を含む。
シクロヘキサン脱水素化
加えて、ヒドロアルキル化反応器からの流出物は通常かなりの量のシクロヘキサンを含むであろう。何とならば、シクロヘキシルベンゼンを生成するためのベンゼンのヒドロアルキル化に競争するプロセスが下記の反応(2)に従ってシクロヘキサンを生成するためのベンゼンの完全飽和を伴なうからである。
【0018】
【化3】
【0019】
上記されたプロセスの如き高度に選択的なヒドロアルキル化プロセスでさえも、反応生成物中の5質量%〜20質量%のシクロヘキサンのレベルを見出すことが普通である(未変換のベンゼンを無視して)。ヒドロアルキル化工程におけるベンゼン転化率が典型的にはほんの40-60%であるので、C6生成物フラクションの少なくとも一部が典型的には循環される。しかしながら、シクロヘキサンはそれらの近い沸点のために蒸留によりベンゼンからすぐに分離し得ない。しかし一実施態様において、シクロヘキサンがシクロヘキサンに富む流れを都合良くは第一の蒸留塔からのスリップ流として分離系から抜き取ることによりベンゼンから或る程度まで分離し得る。このスリップ流は典型的には供給位置とオーバーヘッド流の間のいずれかで第一の蒸留塔から抜き取られるであろう。その他の実施態様において、シクロヘキサンが追加のシクロヘキサン/ベンゼン分離工程を全プロセスに導入することによりC6生成物物流から一層実質的に分離し得る。更に別の実施態様において、C6生成物流がシクロヘキサンに富む流れとベンゼンに富む流れに分けられない。しかしながら、C6生成物流からのシクロヘキサンの実質的な分離を除いて、シクロヘキサンは典型的にはシクロヘキシルベンゼン合成工程でC6循環流中に蓄積する傾向があり、その場合、それがベンゼンを置換し、そしてまた更なる望ましくない副生物に導き得る。
【0020】
シクロヘキサンが分離系から回収される方法にかかわらず、シクロヘキサンの脱水素化に少なくとも三つのアプローチがある。第一に、ベンゼン及びシクロヘキサンを含む分けられていないC6生成物流が脱水素化系に供給し得る。第二に、スリップ流として分離系から回収されたシクロヘキサンに富む流れが脱水素化系に供給し得る。第三に、C6生成物流のその後の蒸留により回収された実質的に純粋なシクロヘキサン流が脱水素化系に供給し得るが、この第三のアプローチはベンゼンとシクロヘキサンの近い沸点のために不当に高価であるかもしれない。
流れが特定の種に“富む”と記載される場合、その流れ中の特定の種が質量%基準で同系中のその他の流れに対して濃縮されることが意味される。例示目的のみのために、分離系を出るシクロヘキサンに富む流れは分離系への供給原料、ベンゼンに富む流れ、又はシクロヘキシルベンゼンに富む流れよりも大きいシクロヘキサン質量%を有するであろう。“C6”種は一般に6個以上の炭素原子を含むあらゆる種を意味する。
本方法において、シクロヘキサン生成の問題がシクロヘキサンについての脱水素化工程をヒドロアルキル化の循環ループに組み込むことにより最小にされる。こうして、ベンゼン及びシクロヘキサンがC6生成物流として回収される一実施態様において、シクロヘキシルベンゼン生成物から除去されたC6生成物流(典型的には50%より多いベンゼン及び50%より少ないシクロヘキサンを含む)の少なくとも一部が脱水素化反応器に供給されてもよく、そこでシクロヘキサンが下記の反応(3)に従って、90%より大きく、例えば、96%より大きく、例えば、99%より大きい選択率で、ベンゼンに変換される。
【0021】
【化4】
【0022】
別の実施態様において、シクロヘキサンに富む流れが脱水素化反応器に供給され、次いで逆にヒドロアルキル化工程に循環されてもよい。
反応(3)は勿論反応(2)の逆である。こうして、反応(2)は比較的低い温度及び高圧の条件により有利にされるが、反応(3)を前方向に誘導するために、熱力学が一層低い圧力及び/又は一層高い温度を要求する。こうして、シクロヘキサン脱水素化工程は典型的には300℃より高い温度、例えば、約330℃〜約430℃、及び1000kPa未満の圧力、例えば、約100kPa〜約500kPaを含む条件下で実施される。
シクロヘキサン脱水素化は一般に活性金属機能を有する触媒、例えば、一種以上のVIII族金属/多孔性の非酸性支持体の存在下で行なわれる。好適なVIII族金属として、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム及びこれらの組み合わせが挙げられる。都合良くは、脱水素化金属が酸部位中和のため、また触媒安定性及び選択性を改良するために、一種以上のその他の元素、例えば、カリウム、ナトリウム、スズ及び/又はリンと組み合わされる。脱水素化触媒に適した支持体として、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、活性炭及びこれらの組み合わせが挙げられる。支持体は典型的には3m2/gより大きく、例えば、約20m2/g〜約500m2/gの表面積を有する。シクロヘキサン転化率は典型的には50%より大きく、例えば、約70%〜約99%である。
脱水素化反応器へのガス同時供給は必要とされないが、水素ガス同時供給が触媒コーキングを抑制するのに好ましく、その結果典型的には、H2/炭化水素供給原料モル比は約0.5:1〜約5:1である。実際に、一実施態様において、全プロセスのための新しい補給水素がシクロヘキサン脱水素化工程に供給される。次いで過剰かつ同時生成された水素が圧縮され、ヒドロアルキル化反応器に循環される。
あらゆる既知の反応器形態(固定床、移動床及び接触蒸留反応器を含む)がシクロヘキサン脱水素化を行なうのに使用し得る。更に、その反応がバッチ又は連続プロセスとして行ない得る。
シクロヘキシルベンゼン酸化
シクロヘキシルベンゼンをフェノール及びシクロヘキサノンに変換するために、シクロヘキシルベンゼンが最初に相当するヒドロペルオキシドに酸化される。これは空気の如き酸素含有ガスをシクロヘキシルベンゼンを含む液相に導入することにより達成される。クメンと違って、触媒の不在下のシクロヘキシルベンゼンの大気の空気酸化は非常に遅く、それ故、その酸化は通常触媒の存在下で行なわれる。
シクロヘキシルベンゼン酸化工程に適した触媒は一般式(I)の環状イミドである。
【0023】
【化5】
【0024】
式中、R1及びR2の夫々は独立に1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基及び置換ヒドロカルビル基、もしくは基SO3H、NH2、OH及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選ばれ、但し、R1及びR2が共有結合により互いに結合し得ることを条件とし、Q1及びQ2の夫々は独立にC、CH、CR3から選ばれ、X及びZの夫々は独立にC、S、CH2、N、P及び周期律表の4族の元素から選ばれ、YはO又はOHであり、kは0、1、又は2であり、lは0、1、又は2であり、mは1〜3、例えば、1、2又は3であり、かつR3はR1についてリストされた物(基、又は原子)のいずれかであってもよい。都合良くは、R1及びR2の夫々が独立に脂肪族アルコキシ基もしくは芳香族アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシ-カルボニル基及び炭化水素基から選ばれ、これらの基の夫々が1〜20個の炭素原子を有する。
一般に、酸化触媒として使用される環状イミドは一般式(II)に従う。
【0025】
【化6】
【0026】
式中、R7、R8、R9、及びR10の夫々は独立に1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基及び置換ヒドロカルビル基、もしくは基SO3H、NH2、OH及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選ばれ、X及びZの夫々は独立にC、S、CH2、N、P及び周期律表の4族の元素から選ばれ、YはO又はOHであり、kは0、1、又は2であり、かつlは0、1、又は2である。都合良くは、R7、R8、R9、及びR10の夫々が独立に脂肪族アルコキシ基もしくは芳香族アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシ-カルボニル基及び炭化水素基から選ばれ、これらの基の夫々が1〜20個の炭素原子を有する。
一つの実用的な実施態様において、環状イミド触媒がN-ヒドロキシフタルイミドを含む。
これらの環状イミドは単独で、又は遊離基開始剤の存在下で使用でき、液相、均一触媒として使用でき、又は不均一触媒を用意するために固体担体で担持し得る。典型的には、N-ヒドロキシ置換環状イミドがシクロヘキシルベンゼンの0.0001質量%〜15質量%、例えば、0.001質量%〜5質量%の量で使用される。一実施態様において、環状イミド触媒がシクロヘキシルベンゼン供給原料又は反応媒体(或いはこれらの組み合わせ)に溶解することにより酸化反応工程に加えられる。触媒が反応媒体に有利に添加され、この場合、温度が既に高く、またこの場合、若干のヒドロペルオキシドが存在し、これらの両方が固体触媒の改良された溶解性に寄与する。
酸化工程に適した条件として、約70℃〜約200℃、例えば、約90℃〜約130℃の温度、及び約50kPa〜10,000kPaの圧力が挙げられる。あらゆる酸素含有ガス、好ましくは空気が酸化媒体として使用し得る。その反応は回分式反応器又は連続流反応器中で行ない得る。塩基性緩衝剤が酸化中に生成し得る酸性副生物と反応するために添加されてもよい。加えて、水相が導入されてもよく、これが炭酸ナトリウムの如き塩基性化合物を溶解することを助け得る。
酸化工程の生成物はシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド及び未反応のシクロヘキシルベンゼンを含む液体流出物並びに主として酸素減少空気を含む煙道ガスである。シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドは未反応のシクロヘキシルベンゼンの少なくとも一部を一つ以上の真空フラッシュ工程/蒸留工程でストリッピングすることにより濃縮されてもよい。シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドは濃縮されず、その後の開裂工程のためにその希薄な形態で使用されることが好ましい。この流れ中の未変換のシクロヘキシルベンゼンが開裂部分後に回収され、酸化部分に循環される。
煙道ガスが冷却され、蒸気生成物の少なくとも一部が凝縮され、非凝縮性ガスから分離される。吸着剤床(例えば、活性炭の)が更なる有機化合物を煙道ガスから回収するのに使用されることが好ましい。
【0027】
ヒドロペルオキシド開裂
フェノール及びシクロヘキサノンへのシクロヘキシルベンゼンの変換における最後の反応工程はシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの開裂を伴ない、これは都合良くはそのヒドロペルオキシドを液相中で約20℃〜約150℃、例えば、約40℃〜約120℃、例えば、約60℃〜約100℃の温度、及び約50kPa〜約2,500kPa、例えば、約100kPa〜約1000kPa、例えば、約100kPa〜約200kPaの圧力で触媒と接触させることにより行なわれる。典型的な滞留時間は5〜10分のオーダである。シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドはその開裂反応に不活性な有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、フェノール又はシクロヘキシルベンゼンで希釈されて、熱除去を助けてもよい。
その開裂反応は都合良くは少なくとも二つの段階で行なわれる。第一の反応段階は比較的温和な条件:一層低い温度(50℃未満)及び一層低い酸濃度で作業され、その結果、供給原料中のフェニルシクロヘキサノールがオレフィンに脱水されない。温和な条件のために、第一の反応段階が好ましくは5-10分付近の滞留時間で一層高いレベルのシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドで作業し得る。第一の反応段階は都合良くは固定床又は連続撹拌反応器中で行なわれる。
第二の反応工程では、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド含量が好ましくは約30秒の滞留時間でプラグ流反応器中で約0.5%に低下される。この反応器は単に一片の断熱されていない相互連結パイプであってもよい。第三の反応工程では、反応混合物が120-150℃に素早く加熱される。この加熱された混合物が好ましくは約30秒の滞留時間でプラグ流で別の片のパイプに流入し、次いで素早く冷却される。この最後の、高度に苛酷な工程がフェニルシクロヘキサノールをフェニルシクロヘキセンに変換する。短い滞留時間がフェニルシクロヘキセンにその他の成分と反応/縮合する時間を与えず、こうして低減されたフェノールタール生成をもたらす。
【0028】
開裂工程で使用される触媒は均一触媒又は不均一触媒であってもよい。
好適な均一開裂触媒として、硫酸、過塩素酸、リン酸、塩酸及びp-トルエンスルホン酸が挙げられる。塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、二酸化硫黄及び三酸化硫黄がまた有効な均一開裂触媒である。好ましい均一開裂触媒は硫酸であり、その好ましい濃度は0.05質量%〜0.5質量%の範囲である。均一酸触媒について、中和工程が通常その開裂工程に続く。このような中和工程は典型的には塩基性成分、例えば、ナトリウムフェニレートとの接触、その後の塩に富む水相の除去のための沈降及びデカントを伴なう。
シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの開裂における使用に適した不均一触媒として、スメクタイトクレー、例えば、米国特許第4,870,217号に記載されたような、酸性モンモリロナイトシリカ-アルミナクレー、酸性イオン交換樹脂(例えば、アンバーリスト15)、金属酸化物の酸性混合物(WO3/ZrO2、MoO3/ZrO2、等)、及び塩化アルミニウムが挙げられる。
【0029】
開裂流出物の処理
開裂反応からの流出物は未反応のシクロヘキシルベンゼンと一緒に、実質的に等モル量のフェノール及びシクロヘキサノンを含む。それ故、流出物が少なくとも酸化工程への循環のために未反応のシクロヘキシルベンゼンを除去し、そして通常フェノール及びシクロヘキサノンを別々の生成物として回収するために一つ以上の分離工程にかけられる。シクロヘキサノン及びフェノールは28質量%のシクロヘキサノン及び72質量%のフェノールを含む共沸混合物を生じるので、後者の分離は通常真空又は抽出蒸留を伴なう。
フェノールについての市場の需要に応じて、フェノールの先の除去を伴ない、又は伴なわない、開裂流出物中のシクロヘキサノンの一部又は全部が、反応(4)に従って脱水素化されて追加のフェノールを生成し得る。
【0030】
【化7】
【0031】
あらゆる好適な脱水素化触媒、例えば、米国特許第4,417,076号に記載された促進されたニッケル触媒が反応(4)に使用し得る。脱水素化工程に適した条件は約250℃〜約500℃の温度及び約0.01気圧〜約20気圧(1kPa〜2000kPa)の圧力、例えば、約300℃〜約450℃の温度及び約1気圧〜約3気圧(100kPa〜300kPa)の圧力を含む。
また、シクロヘキサノンが一層高い需要がある場合、シクロヘキサノンの先の除去を用い、又は用いないで、開裂流出物中のフェノールの一部又は全部が、反応(4)の逆に従って水素化されて追加のシクロヘキサノンを生成し得る。あらゆる好適な水素化触媒、例えば、白金触媒又はパラジウム触媒がこの反応に使用し得る。同様に、水素化条件が精密に制御されず、典型的には約20℃〜約250℃の温度、約101kPa〜約10,000kPaの圧力、及び約1:1〜約100:1の水素対フェノールモル比を含む。その水素化反応は固定床、スラリー反応器、及び/又は接触蒸留塔を含む広範囲の反応器形態で行ない得る。水素化方法に使用される条件に応じて、シクロヘキサノンの一部又は全部がシクロヘキサノールに更に還元されてもよい。
本方法により製造されたフェノールは、例えば、ビスフェノール-Aの製造に使用し得るが、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物はナイロン6及びナイロン6,6の製造に有益な供給原料である。
本発明の方法の一実施例が添付図面を参照して今記載される。
【実施例】
【0032】
図1(これは本方法の好ましい実施態様のシクロヘキシルベンゼン合成工程の工程系統図である)を参照して、ベンゼン及び水素をヒドロアルキル化反応器11に供給し、そこでそれらが反応して、若干のシクロヘキサン及びジシクロヘキシルベンゼンと一緒に、シクロヘキシルベンゼンを生成する。ヒドロアルキル化反応器11からの流出物12を第一の蒸留ユニット13に供給し、これはまた新しい補給ベンゼン14を受け取る。第一のベンゼンに富むオーバーヘッド流15を第一の蒸留ユニット13から除去し、ヒドロアルキル化反応器11に循環し、一方、シクロヘキサンに富む第二オーバーヘッド流16(即ち、シクロヘキサンに富むスリップ流)を第一の蒸留ユニット13から除去し、脱水素化ユニット17に供給する。第二のオーバーヘッド流16中のシクロヘキサンを脱水素化ユニット17中でベンゼンと水素に変換し、得られる流出物流18をヒドロアルキル化反応器11に循環する。水素、例えば、新しい補給水素を、必要により脱水素化ユニット17に供給してもよい。
【0033】
若干のジシクロヘキシルベンゼンと一緒に所望のシクロヘキシルベンゼンを含むボトムフラクション19をまた第一の蒸留ユニット13から回収し、次いで第二の蒸留ユニット21に通し、そこでシクロヘキシルベンゼンを図2に示された酸化部分への通過のためのオーバーヘッド流22として除去する。ヘビーパージ流23をまた任意のポリアルキレート流24と一緒に、第二の蒸留ユニット21から除去する。回収された場合、ポリアルキレート流24をベンゼンに富むオーバーヘッド流15の一部と一緒にトランスアルキル化ユニット25に供給し、そこで流れ24中のジシクロヘキシルベンゼンをトランスアルキル化して追加のシクロヘキシルベンゼンを製造する。トランスアルキル化ユニット25からの流出物26を流れ22の一部としての未反応のベンゼン続いてシクロヘキシルベンゼンの回収のために第一の蒸留ユニット13に通す。
今、図2(これは本方法の好ましい実施態様のシクロヘキシルベンゼン酸化工程の工程系統図である)を参照して、第二の蒸留ユニット21から回収されたシクロヘキシルベンゼン流22を下流のプロセス工程から循環された未反応のシクロヘキシルベンゼン27と一緒に酸化反応器28に通す。その反応器28はまた酸化触媒29及び空気流31を受け取り、これはシクロヘキシルベンゼンを触媒29の存在下で酸化して主としてシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド及び未反応のシクロヘキシルベンゼンを含む液体生成物流32と主として酸素減少空気を含む煙道ガス流33を生成する。
煙道ガス流33を冷却器34に供給し、そこで流れ33中の有機物質の大半が凝縮し、ノックアウトドラム34a中で液体流出物流35として非凝縮性ガスから分離する。残存する非凝縮性ガスがベントガス流36として冷却器を出て、都合良くは、これを追加の有機物質の除去のための吸着剤床(示されていない)、例えば、活性炭に通し、その後にその系からガス抜きする。
液体生成物流32及び液体流出物流35を合わせ、これらは任意の処理工程37及び任意の濃縮工程38を受けて、その後に図3に示された開裂及び生成物回収部分に流れ39として通されてもよい。任意の処理工程37では、合わされた流れ32、35を処理して酸、例えば、酸化反応器28中で副生物として生成された有機酸及び一つ以上のシクロヘキシルベンゼン循環流中に存在するフェノール性酸を除去する。任意の濃縮工程38では、合わされた流れ32、35中のシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを濃縮するように、未反応のシクロヘキシルベンゼンの少なくとも一部を一つ以上の真空フラッシュ/蒸留工程でストリッピングする。次いで未反応のシクロヘキシルベンゼン27を酸化反応器28に循環し得る。
【0034】
今、図3(これは開裂プロセスの好ましい実施態様である)を参照して、主としてシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド及び未反応のシクロヘキシルベンゼンを含む流れ39を硫酸触媒41と一緒に開裂反応器42(循環冷却系を備えた管状反応器として示される)に供給する。冷却系は反応器42の内容物を熱交換器45に循環するポンプ44を含み、その結果、冷却された反応器内容物が流れ39中のシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドと混合し、これを希釈し、その後にその流れが触媒41と接触する。反応器42中で、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドをフェノールとシクロヘキサノンに変換し、こうして、反応が進行するにつれて、フェノールとシクロヘキサノンの濃度が循環反応器内容物中で増大する。それ故、反応器内容物の一部を任意の更なる処理及び生成物回収のために流出物流46として連続的に除去する。
【0035】
開裂反応器流出物46の更なる処理は必要により一般に反応器42で使用された条件よりも苛酷な条件下の一つ以上の更なる開裂段階を伴なっていてもよい。一つのこのような二次開裂反応器を図3中で47に示す。開裂反応器流出物46の追加の処理はその流出物中に存在する酸触媒を中和するための塩基性成分、例えば、ナトリウムフェニレートによる処理を伴なってもよい。一つのこのような中和工程を図3中に48で示す。一実施態様において、一つ以上の任意の二次開裂反応器47及び一つ以上の任意の中和工程48が順次組み合わされてもよい。
任意の処理工程47及び48の後に、開裂反応器流出物46を蒸留系に供給し、これは一般に49で示されるが、通常一つ以上の抽出蒸留ユニットを伴ない、そこで流出物流をフェノール生成物流及びシクロヘキサノン生成物流、夫々51及び52、未反応のシクロヘキシルベンゼン流53及びヘビー流54に分ける。未反応のシクロヘキシルベンゼン流53を酸化反応器に循環する。
本発明が特別な実施態様を参照して記載され、説明されたが、当業者は本発明が本明細書に必ずしも説明されていない変化に合わせることを認めるであろう。この理由のために、本発明の真の範囲を決めるという目的のために特許請求の範囲のみが参考にされるべきである。
【符号の説明】
【0036】
11−ヒドロアルキル化反応器
13−第一の蒸留ユニット
14−補給ベンゼン
15、16、22−オーバーヘッド流
17−脱水素化ユニット
21−第二の蒸留ユニット
23−ヘビーパージ流
24−ポリアルキレート流
25−トランスアルキル化ユニット
28−酸化反応器
29−酸化触媒
31−空気流
32−液体生成物流
33−煙道ガス流
34−冷却器
37−任意の処理工程
38−任意の濃縮工程
42−開裂反応器
44−ポンプ
45−熱交換器
47−任意の二次開裂反応器
48−任意の中和工程
図1
図2
図3