特許第5662613号(P5662613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5662613
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】燃料電池のスタック構造体
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/24 20060101AFI20150115BHJP
   H01M 8/12 20060101ALI20150115BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   H01M8/24 M
   H01M8/24 E
   H01M8/12
   H01M8/02 S
   H01M8/24 R
【請求項の数】3
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-123623(P2014-123623)
(22)【出願日】2014年6月16日
【審査請求日】2014年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-144838(P2013-144838)
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 友宏
(72)【発明者】
【氏名】新海 正幸
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−158531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが、長手方向を有し且つその内部に前記長手方向に沿うガス流路が形成された支持基板と、前記支持基板の表面に設けられ且つ少なくとも内側電極、固体電解質、及び外側電極がこの順で積層された発電素子部と、を含む複数のセルと、
前記各セルが支持板の表面から前記長手方向に沿ってそれぞれ突出し且つ前記複数のセルがスタック状に整列するように、前記各セルの前記長手方向の一端部を接合材を用いてそれぞれ接合・支持する支持板と、
マニホールドの内部空間と前記複数のセルの前記ガス流路のそれぞれの一端部とが連通するように、前記支持板が設けられるガスのマニホールドと、
を備えた燃料電池のスタック構造体であって、
前記支持板の表面には、前記マニホールドの内部空間と前記複数のセルの一端部とを連通するための1つ又は複数の貫通する孔が形成され、
前記各セルの一端部が対応する前記孔に対応して位置付けられ、
前記マニホールドの内部空間内のガスが前記各孔と対応する前記セルの一端部との間の隙間を介して外部に漏れ出ないように、前記各セルの一端部の側面の全周が前記接合材を介して前記支持板に対して接合・固定され、
前記複数のセルのそれぞれについて、前記セルの前記長手方向の全長(L1)に対する、前記セルの一端部の側面における周方向の位置が異なる箇所で測定された前記接合材によって接合される部分の前記長手方向の長さである接合長さ(B)平均値(Bave)の割合(Bave/L1)が0.01〜0.2である、燃料電池のスタック構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池のスタック構造体において、
前記複数のセルのそれぞれについて前記側面の周方向における前記接合長さ(B)の最大値(Bmax)と最小値(Bmin)との差が0.5〜10mmである、燃料電池のスタック構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池のスタック構造体において、
前記接合材は結晶化ガラスで構成された、燃料電池のスタック構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のスタック構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「それぞれが、長手方向を有し且つその内部に前記長手方向に沿うガス流路が形成された支持基板と、前記支持基板の表面に設けられ且つ少なくとも内側電極、固体電解質、及び外側電極がこの順で積層された発電素子部と、を含む複数のセル」と、「前記各セルが支持板の表面から前記長手方向に沿ってそれぞれ突出し且つ前記複数のセルがスタック状に整列するように、前記各セルの前記長手方向の一端部を接合材を用いてそれぞれ接合・支持する支持板」と、「マニホールドの内部空間と前記複数のセルの前記ガス流路のそれぞれの一端部とが連通するように、前記支持板が設けられるガスのマニホールド」と、を備えた固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」と呼ぶ)のスタック構造体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
上記文献に記載のSOFCのスタック構造体では、前記支持板の表面には、前記マニホールドの内部空間と前記複数のセルの一端部とを連通するための1つ又は複数の貫通する孔が形成され、前記各セルの一端部が対応する前記孔に対応して位置付けられている。前記マニホールドの内部空間内のガスが前記各孔と対応する前記セルの一端部との間の隙間を介して外部に漏れ出ないように、前記各セルの一端部の側面の全周が前記接合材を介して前記支持板に対して接合・固定されている。典型的には、前記接合材は、結晶化ガラスで構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−101925号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記文献に記載のスタック構造体が熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、(固化された)接合材の表面から内部に向けてクラックが発生する場合があった。本発明者は、係る問題に対処するために種々の実験等を重ねた。その結果、本発明者は、係るクラックの発生は、「前記セルの前記長手方向の全長(L1)」に対する、「接合長さ(B)における前記側面の周方向の位置に関する平均値(Bave)」の割合(Bave/L1)と強い相関があることを見出した。「接合長さ(B)」とは、前記セルの一端部の側面における前記接合材によって接合される部分の前記長手方向の長さである。
【0006】
本発明は、上記のような特徴を有する燃料電池のスタック構造体であって、接合材にクラックが発生する事態を抑制し得るものを提供することを目的とする。
【0007】
本発明に係る燃料電池のスタック構造体は、上述した複数のセルと、上述した支持板と、上述したマニホールドと、を備える。上述と同様、前記マニホールドの内部空間内のガスが前記各孔と対応する前記セルの一端部との間の隙間を介して外部に漏れ出ないように、前記各セルの一端部の側面の全周が前記接合材を介して前記支持板に対して接合・固定されている。前記接合体は、結晶化ガラスで構成されることが好適である。前記結晶化ガラスとは、非晶質材料(非晶質ガラス)に熱処理(結晶化処理)を施すことによって非晶質材料が結晶化(固化、セラミックス化)されたものであり、結晶化度が60%以上のもの、と定義できる。
【0008】
本発明に係るスタック構造体の特徴は、前記複数のセルのそれぞれについて、「前記セルの前記長手方向の全長(L1)」に対する、「前記接合長さ(B)における前記側面の周方向の位置に関する平均値(Bave)」の割合(Bave/L1)が0.01〜0.2であることにある。
【0009】
本発明者は、前記複数のセルのそれぞれについて、前記割合(Bave/L1)が0.01〜0.2である場合に、そうでない場合と比べて、前記接合材にクラックが発生し難くなることを見出した。この場合、前記複数のセルのそれぞれについて、前記接合長さにおける前記側面の周方向の位置に関する最大値(Bmax)と最小値(Bmin)との差が0.5〜10mmであることが好ましい。これらの点の詳細については後述する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池のスタック構造体に使用される1つのセルを示す斜視図である。
図2図1に示すセルの2−2線に対応する断面図である。
図3図1に示す支持基板の凹部に埋設された燃料極及びインターコネクタの状態を示した平面図である。
図4図1に示すセルの作動状態を説明するための図である。
図5図1に示すセルの作動状態における電流の流れを説明するための図である。
図6図1に示す支持基板を示す斜視図である。
図7図1に示すセルの製造過程における第1段階における図2に対応する断面図である。
図8図1に示すセルの製造過程における第2段階における図2に対応する断面図である。
図9図1に示すセルの製造過程における第3段階における図2に対応する断面図である。
図10図1に示すセルの製造過程における第4段階における図2に対応する断面図である。
図11図1に示すセルの製造過程における第5段階における図2に対応する断面図である。
図12図1に示すセルの製造過程における第6段階における図2に対応する断面図である。
図13図1に示すセルの製造過程における第7段階における図2に対応する断面図である。
図14図1に示すセルの製造過程における第8段階における図2に対応する断面図である。
図15図1に示すセルの第1変形例の図2に対応する断面図である。
図16図1に示すセルの第2変形例の図2に対応する断面図である。
図17図1に示すセルの第3変形例の図2に対応する断面図である。
図18図1に示すセルの第4変形例の図3に対応する断面図である。
図19】本発明の実施形態に係る燃料電池のスタック構造体の全体の斜視図である。
図20図19に示した燃料ガスマニホールドの全体の斜視図である。
図21図20に示した支持板に形成された挿入孔の拡大図である。
図22】挿入孔とセルの一端部との接合部の様子を示した縦断面図である。
図23】挿入孔とセルの一端部との接合部の様子を示した横断面図である。
図24図19に示したスタック構造体に対して燃料ガス及び空気が供給・排出される様子を示した図である。
図25】接合長さBを説明するための図22に対応する模式図である。
図26】本発明の実施形態に係る燃料電池のスタック構造体の変形例の図22に対応する図である。
図27図26に示した変形例の図25に対応する模式図である。
図28】本発明の実施形態に係る燃料電池のスタック構造体の他の変形例の図22に対応する図である。
図29図28に示した変形例の図25に対応する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(スタック構造体に使用されるセルの構成の一例)
先ず、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)のスタック構造体に使用されるセル100について説明する。
【0012】
(構成)
図1に示すように、セル100は、長手方向(x軸方向)を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
【0013】
このセル100の全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向(x軸方向)の辺の長さL1が5〜50cmで長手方向に直交する幅方向(y軸方向)の長さL2が1〜10cmの長方形である(L1>L2)。このセル100の全体の厚さL3は、1〜5mmである(L2>L3)。このセル100の全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、図1に加えて、このセル100の図1に示す2−2線に対応する部分断面図である図2を参照しながら、このセル100の詳細について説明する。図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図2に示す構成と同様である。
【0014】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する図6に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。本例では、各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0015】
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。
【0016】
支持基板10は、「遷移金属酸化物又は遷移金属」と、絶縁性セラミックスとを含んで構成され得る。「遷移金属酸化物又は遷移金属」としては、NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)が好適である。遷移金属は、燃料ガスの改質反応を促す触媒(炭化水素系のガスの改質触媒)として機能し得る。
【0017】
また、絶縁性セラミックスとしては、MgO(酸化マグネシウム)、又は、「MgAl(マグネシアアルミナスピネル)とMgO(酸化マグネシウム)の混合物」が好適である。また、絶縁性セラミックスとして、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、Y(イットリア)が使用されてもよい。
【0018】
このように、支持基板10が「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含むことによって、改質前の残存ガス成分を含んだガスが多孔質の支持基板10の内部の多数の気孔を介して燃料ガス流路11から燃料極に供給される過程において、上記触媒作用によって改質前の残存ガス成分の改質を促すことができる。加えて、支持基板10が絶縁性セラミックスを含むことによって、支持基板10の絶縁性を確保することができる。この結果、隣り合う燃料極間における絶縁性が確保され得る。
【0019】
支持基板10の厚さは、1〜5mmである。以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
【0020】
図2及び図3に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に形成された各凹部12には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状を呈している。各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0021】
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0022】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0023】
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0024】
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
【0025】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
【0026】
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸素イオン伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0027】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0028】
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0029】
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。
【0030】
なお、図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0031】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0032】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0033】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0034】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0035】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0036】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0037】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、前記「電気的接続部」に対応する。
【0038】
なお、インターコネクタ30は、前記「電気的接続部」における前記「緻密な材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は10%以下である。空気極集電膜70は、前記「電気的接続部」における前記「多孔質の材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。
【0039】
以上、説明した図1に示す「横縞型」のセル100に対して、図4に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O+2e→O2− (於:空気極60) …(1)
+O2−→HO+2e (於:燃料極20) …(2)
【0040】
発電状態においては、図5に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図4に示すように、このセル100全体から(具体的には、図4において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
【0041】
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のセル100の製造方法の一例について図6図14を参照しながら簡単に説明する。図6図14において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0042】
先ず、図6に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図6に示す7−7線に対応する部分断面を表す図7図14を参照しながら説明を続ける。
【0043】
図7に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図8に示すように、支持基板の成形体10gの上下面に形成された各凹部に、燃料極集電部の成形体21gがそれぞれ埋設・形成される。次いで、図9に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面に形成された各凹部に、燃料極活性部の成形体22gがそれぞれ埋設・形成される。各燃料極集電部の成形体21g、及び各燃料極活性部22gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0044】
続いて、図10に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面における「燃料極活性部の成形体22gが埋設された部分を除いた部分」に形成された各凹部に、インターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成される。各インターコネクタの成形体30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0045】
次に、図11に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)及び複数のインターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
【0046】
次に、図12に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0047】
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したセル100において空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
【0048】
次に、図13に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0049】
次に、図14に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0050】
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したセル100が得られる。以上、図1示したセル100の製造方法の一例について説明した。
【0051】
(セルの作用・効果)
以上、説明したように、図1に示した「横縞型」のセル100では、支持基板10の上下面に形成されている、燃料極20を埋設するための複数の凹部12のそれぞれが、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁を有している。換言すれば、支持基板10において各凹部12を囲む枠体がそれぞれ形成されている。従って、この構造体は、支持基板10が外力を受けた場合に変形し難い。
【0052】
また、支持基板10の各凹部12内に燃料極20及びインターコネクタ30等の部材が隙間なく充填・埋設された状態で、支持基板10と前記埋設された部材とが共焼結される。従って、部材間の接合性が高く且つ信頼性の高い焼結体が得られる。
【0053】
また、インターコネクタ30が、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bに埋設され、この結果、直方体状のインターコネクタ30の幅方向(y軸方向)に沿う2つの側面と底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。従って、燃料極集電部21の外側平面上に直方体状のインターコネクタ30が積層される(接触する)構成が採用される場合に比べて、燃料極20(集電部21)とインターコネクタ30との界面の面積を大きくできる。従って、燃料極20とインターコネクタ30との間における電子伝導性を高めることができ、この結果、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0054】
なお、図1に示したセル100では、図6等に示すように、支持基板10に形成された凹部12の平面形状(支持基板10の主面に垂直の方向からみた場合の形状)が、長方形になっているが、例えば、正方形、円形、楕円形、長穴形状等であってもよい。
【0055】
また、図1に示したセル100では、各凹部12にはインターコネクタ30の全体が埋設されているが、インターコネクタ30の一部のみが各凹部12に埋設され、インターコネクタ30の残りの部分が凹部12の外に突出(即ち、支持基板10の主面から突出)していてもよい。
【0056】
また、図1に示したセル100では、凹部12における底壁と側壁とのなす角度θが90°になっているが、図15に示すように、角度θが90〜135°となっていてもよい。また、図1に示したセル100では、図26に示すように、凹部12における底壁と側壁とが交差する部分が半径Rの円弧状になっていて、凹部12の深さに対する半径Rの割合が0.01〜1となっていてもよい。
【0057】
また、図1に示したセル100では、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられているが、図17に示すように、支持基板10の片側面のみに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。
【0058】
また、図1に示したセル100では、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22との2層で構成されているが、燃料極20が燃料極活性部22に相当する1層で構成されてもよい。加えて、図1に示したセル100では、「内側電極」及び「外側電極」がそれぞれ燃料極及び空気極となっているが、逆であってもよい。
【0059】
加えて、図1に示したセル100では、図3に示すように、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bが、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(支持基板10の材料からなる長手方向に沿う2つの側壁と、燃料極集電部21の材料からなる幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みとなっている。この結果、凹部21bに埋設されたインターコネクタ30の幅方向に沿う2つの側面と底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0060】
これに対し、図18に示すように、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bが、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みであってもよい。これによれば、凹部21bに埋設されたインターコネクタ30の4つの側面の全てと底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触する。従って、燃料極集電部21とインターコネクタ30との界面の面積をより一層大きくできる。従って、燃料極集電部21とインターコネクタ30との間における電子伝導性をより一層高めることができ、この結果、燃料電池の発電出力をより一層高めることができる。
【0061】
(スタック構造体の全体構成の一例)
次に、上述したセル100を用いた本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)のスタック構造体について説明する。図19に示すように、このスタック構造体は、多数のセル100と、多数のセル100のそれぞれに燃料ガスを供給するための燃料ガスのマニホールド200と、を備えている。マニホールド200の全体は、ステンレス鋼等の鉄とクロムを含む材料で構成されている。
【0062】
マニホールド200の天板(換言すれば、ガスタンクの天板(平板))は、多数のセル100を支持するための平板状の支持板210を兼ねている。従って、支持板210も、ステンレス鋼等の鉄とクロムを含む材料で構成されている。また、マニホールド200には、外部からマニホールド200の内部空間に燃料ガスを導入するための導入通路220が設けられている。各セル100が支持板210の表面から第1長手方向(x軸方向)に沿ってそれぞれ突出し且つ複数のセル100がスタック状に整列するように、各セル100の第1長手方向の一端部が支持板210に接合・支持されている(接合構造の詳細は後述する)。各セル100の第1長手方向の他端部は、自由端となっている。従って、このスタック構造は、「片持ちスタック構造」と表現することができる。
【0063】
図20に示すように、支持板210(マニホールド200の天板)の表面(上面)には、マニホールド200の内部空間と連通する多数の挿入孔211が形成されている。各挿入孔211には、対応するセル100の一端部がそれぞれ挿入される。図21に示すように、各挿入孔211の形状は、長さL4、幅L5の長円形状(L4>L5)を呈し、線対称に関する対称軸の方向(第2長手方向、y軸方向)を有する。
【0064】
挿入孔211の長さL4は、セル100の一端部の側面の長さL2(図1を参照)より0.2〜3mm大きい。同様に、挿入孔211の幅L5は、セル100の一端部の側面の幅L3(図1を参照)より0.2〜3mm大きい。即ち、図22、23に示すように、セル100の一端部が挿入孔211に挿入された状態では、挿入孔211の内壁とセル100の一端部の外壁との間に隙間が形成される。換言すれば、セル100の一端部が挿入孔211に遊嵌される。なお、図22図23(特に、図23)では、前記隙間が誇張して描かれている。
【0065】
図22図23に示すように、挿入孔211とセル100の一端部との接合部のそれぞれにおいて、固化された接合材300が前記隙間に充填されるように設けられている。これにより、各挿入孔211と対応するセル100の一端部とがそれぞれ接合・固定されている。図22に示すように、各セル100のガス流路11の一端部は、マニホールド200の内部空間と連通している。
【0066】
接合材300は、非晶質ガラス、金属ろう材等でも構成されてもよいが、結晶化ガラスで構成されることが好適である。結晶化ガラスとしては、例えば、SiO−BO3系、SiO−CaO系、MgO−BO3系が採用され得るが、SiO−MgO系のものが最も好ましい。なお、本明細書では、結晶化ガラスとは、全体積に対する「結晶相が占める体積」の割合(結晶化度)が60%以上であり、全体積に対する「非晶質相及び不純物が占める体積」の割合が40%未満のガラス(セラミックス)を指す。結晶化ガラスの結晶化度は、具体的には、例えば、「XRD等を用いて結晶相を同定し、SEM及びEDS、或いは、SEM及びEPMA等を用いて結晶化後のガラスの組織や組成分布を観察した結果に基づいて、結晶相領域の体積割合を算出する」ことによって得ることができる。
【0067】
また、図22に示すように、隣接するセル100、100の間には、隣接するセル100、100の間(より詳細には、一方のセル100の燃料極20と他方のセル100の空気極60)を電気的に直列に接続するための集電部材400が介在している。集電部材400は、例えば、金属メッシュ等で構成される。加えて、各セル100について表側と裏側とを電気的に直列に接続するための集電部材500も設けられている。
【0068】
以上、説明した燃料電池の片持ちスタック構造を稼働させる際には、図24に示すように、高温(例えば、600〜800℃)の燃料ガス(水素等)及び「酸素を含むガス(空気等)」を流通させる。導入通路220から導入された燃料ガスは、マニホールド200の内部空間へと移動し、その後、各挿入孔211を介して対応するセル100のガス流路11にそれぞれ導入される。各ガス流路11を通過した燃料ガスは、その後、各ガス流路11の他端(自由端)から外部に排出される。空気は、スタック構造の内部における隣接するセル100間の隙間に沿って、セル100の幅方向(y軸方向)に流される。
【0069】
上述した片持ちスタック構造は、例えば、以下の手順で組み立てられる。先ず、必要な枚数の完成したセル100、並びに、完成したマニホールド200が準備される。次いで、所定の治具等を用いて、複数のセル100がスタック状に整列・固定される。次に、複数のセル100がスタック状に整列・固定された状態が維持されながら、複数のセル100のそれぞれの一端部が、支持板210の対応する挿入孔211に一度に挿入される。次いで、接合材300用のペースト(典型的には、非晶質材料(非晶質ガラス)のペースト)が、挿入孔211とセル100の一端部との接合部のそれぞれの隙間に充填される。その際、図22に示すように、ペーストが支持板210の表面から上方に向けてはみ出す程度まで前記接合部に供給されてもよい。
【0070】
次に、上記のように充填された接合材300用のペーストに熱処理(結晶化処理)が加えられる。この熱処理によって非晶質材料の温度がその結晶化温度まで到達すると、結晶化温度下にて、材料の内部で結晶相が生成されて、結晶化が進行していく。この結果、非晶質材料が固化・セラミックス化されて、結晶化ガラスとなる。これにより、結晶化ガラスで構成される接合材300が機能を発揮し、各セルの一端部が対応する挿入孔211にそれぞれ接合・固定される。換言すれば、各セル100の一端部が接合材300を用いて支持板210にそれぞれ接合・支持される。その後、前記所定の治具が複数のセル100から取り外されて、上述した片持ちスタック構造体が完成する。
【0071】
以下、上述した「接合材300用の非晶質材料(非晶質ガラス)のペースト」について付言する。
【0072】
SOFCセルを劣化させる被毒元素の一つとしてホウ素Bが挙げられる。或る濃度以上のBが燃料極に供給されると、燃料極を構成するNi粒子が肥大化し、その結果、燃料極の反応抵抗が増大してSOFCセルが劣化する。燃料極へのBの供給源の一つとして、ガラスが疑われている。係る観点から、接合材300内におけるBの含有量を小さくすることが望まれてきている。以上の知見に基づき、上記ペースト内(従って、結晶化ガラスとしての接合材300内)におけるホウ素Bの含有量は、10モル%以下であることが好ましい。
【0073】
同様に、SOFCセルを劣化させる被毒元素として、アルカリ金属、リンP、硫黄S、塩素Cl等の不純物が知られている。上記のBと同様、SOFCセルの被毒劣化抑制の観点から、接合材300内における上述した不純物の含有量を小さくすることが望まれてきている。以上の観点に基づき、上記ペースト内(従って、結晶化ガラスとしての接合材300内)における、アルカリ金属、P、S、Clのそれぞれの含有量は、0.5モル%以下であることが好ましい。
【0074】
SOFCセルを他の部材に接合する場合に使用される接合材は、高い熱膨張率(50〜850℃において10×10−6/K以上)を有することが要求される。一般に、熱処理により上記ペーストが結晶化された後に高い熱膨張率を有する結晶相が析出するように、上記ペースト中のガラス組成が調整される。ここで、Bの含有量が少ない結晶化ガラスであって50〜850℃において11.0×10−6/K以上の高い熱膨張率を有するものを得るためには、上記ペースト中のガラスにバリウムBaを添加することが重要であることが分かってきている。以上の観点に基づき、上記接合材300用のペースト中のガラス内におけるBaの含有量は、BaOとして、5〜40モル%であることが好ましい。
【0075】
ところで、熱処理により上記ペーストが結晶化されて得られる結晶化ガラス(結晶化度が60%以上)は、複数種類の結晶相を含む。これは以下の理由に基づく。即ち、一般に、熱処理中において、熱処理に使用される炉内の空間では場所によって温度上昇のパターンが異なる。従って、熱処理中では、上記ペーストの温度上昇のパターンも、上記ペーストの部分によって異なる。この結果、上記ペーストの部分によって、析出する結晶相が異なり得る。以上のことから、上記ペーストが結晶化されて得られる結晶化ガラスは、複数種類の結晶相を含み得る。
【0076】
(接合材にクラックが発生する事態の発生の抑制)
図19に示したSOFCのスタック構造体では、通常の環境下で稼働される場合には、接合材300にクラックが発生しない。しかしながら、SOFCのスタック構造体が熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、接合材300にクラックが発生する場合があった。本発明者は、係るクラックの発生が、「セル100の長手方向(x軸方向)の全長L1」(図1図25を参照)に対する「接合長さBの平均値Bave」の割合(Bave/L1)と強い相関があることを見出した。ここで、「接合長さB」とは、図25に示すように、「セル100の長手方向(x軸方向)の一端部の側面における接合材300によって接合される部分の長手方向(x軸方向)の長さ」を指す。「接合長さBの平均値Bave」とは、「接合長さBにおける、セル100の一端部の側面の周方向の位置に関する平均値」を指す。以下、このことを確認した試験Aについて説明する。なお、本明細書において「平均」とは「相加平均」を指す。
【0077】
(試験A)
試験Aでは、上述したSOFCのスタック構造体(図19を参照)について、接合材300の材質、接合長さBの平均値Bave、及び、セル100の全長L1(従って、値「Bave/L1」)の組み合わせが異なる複数のサンプル(スタック構造体)が作製された。具体的には、表1に示すように、10種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。この試験Aでは、10種類の水準間において、値「Bave/L1」が大きく異ならされている。
【0078】
【表1】
【0079】
各サンプルは、セル数が5個のスタック構造体であった。各サンプルにて使用されたセル100の長手方向(x軸方向)の一端部の端面の形状(図1図23を参照)としては、長さL2が20〜100mm、幅L3が2〜4mmの長円形状(L2>L3)が採用された。挿入孔211の開口の形状としては、長さL4が長さL2より0.5〜3mm大きく、幅L5が幅L3より0.5〜3mm大きい長円形状(L4>L5)が採用された。より具体的には、長さL2として20、30、50、100mmの4パターンが採用され、幅L3として3mmの1パターンが採用された。即ち、4種類の形態のセルが用いられた。また、L4がL2より大きい量、並びに、L5がL3より大きい量としては、共に、0.5、1.0、2.0、3.0mmの4パターンが採用された。即ち、4種類の大きさの前記隙間が実現された。セル100の熱膨張係数は11.0〜12.0ppm/K(常温から1000℃における熱膨張係数)とされた。接合材300の選定は、接合材300の熱膨張係数とセル100の熱膨張係数との差が0.5ppm/K以下となるようになされた。
【0080】
支持板210(マニホールド200)の材質としてはステンレス鋼が使用された。各サンプルでは、前記隙間に充填された接合材用のペーストに対して、温度850℃で1〜5時間の熱処理(結晶化処理)が施された。この結果、接合材300が固化し(結晶化し)、各セル100の一端部が接合材300を用いて支持板210にそれぞれ接合された(スタック構造体が完成した)。
【0081】
この試験Aでは、各サンプルに含まれる各セル100について、セル100の一端部の側面における周方向位置が異なる所定の10か所で測定されたそれぞれの接合長さBの平均値がBaveとされた(後述する試験Bでも同様)。表1に記載された各水準についての「Bave」の値(mm)の範囲は、その水準に対応する10個のサンプルに含まれる「10×5」個のセル100のそれぞれについて算出されたBaveの値(「10×5」個の値)のうちの「最大〜最小」範囲である。各セル100について、Baveの調整は、接合材300用のペーストの充填度合を調整することによってなされた。
【0082】
そして、上記熱処理後の各サンプルについて、「燃料極20に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで2時間で上げた後に750℃から常温まで4時間で下げるパターン」を100回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプルについて、接合材300におけるクラックの発生の有無が確認された。この確認は、目視、並びに、顕微鏡を使用した観察によってなされた。この結果は表1に示すとおりである。
【0083】
表1から理解できるように、熱応力的に過酷な上記熱サイクル試験を行った後では、SOFCのスタック構造体について、「値Bave/L1が0.01未満、又は、0.2より大きくなるセル100」が一つでも含まれると、接合材300の表面にクラックが発生し易い。なお、このクラックは、値Bave/L1が0.01未満となるセル100(表1の水準7を参照)、又は、0.2より大きくなるセル100(表1の水準9を参照)に関する接合材300に対して発生していた。
【0084】
値Bave/L1が0.01未満であるときに接合材300にクラックが発生するのは、セル全長L1に対して接合長さBが相対的に小さいことに起因して、接合材300がセル100を支持板210に対して接合・固定する強度が小さくなることに基づく、と考えられる。値Bave/L1が0.2より大きいときに接合材300にクラックが発生するのは、セル全長L1に対して接合長さBが相対的に大きいことに起因して、接合材300とセル100との間の熱膨張係数差により発生する接合材300の変形量が大きくなることに基づく、と考えられる。
【0085】
一方、一つのSOFCのスタック構造体に含まれる複数のセル100のそれぞれについて、値「Bave/L1」が0.01〜0.2の範囲内であると、前記クラックが発生し難い、ということができる。
【0086】
なお、本発明者は、通常の条件・環境下(例えば、常温から750℃まで4時間で上げた後に750℃から常温まで12時間で下げるパターン)にて上記スタック構造体が使用される場合、値「Bave/L1」が0.01〜0.2の範囲外であっても、接合材300にクラックが発生しないことを別途確認している。
【0087】
また、本発明者は、一つのスタック構造体に含まれる複数のセル100のそれぞれについて値「Bave/L1」が0.01〜0.2の範囲内である場合において、前記それぞれのセル100について、接合長さBの最大値Bmaxと最小値Bminとの差(Bmax−Bmin)が0.5〜10mmであると、接合材300においてクラックがより一層発生し難くなることも見出した。セルの「接合長さBの最大値Bmax」とは、そのセルの接合長さBにおけるセル100の一端部の側面の周方向の位置に関する最大値を指し、セルの「接合長さBの最小値Bmin」とは、そのセルの接合長さBにおけるセル100の一端部の側面の周方向の位置に関する最小値を指す。以下、このことを確認した試験Bについて説明する。
【0088】
(試験B)
試験Bでは、上述しSOFCのスタック構造体(図19を参照)について、接合材300の材質、接合長さBの平均値Bave、セル100の全長L1(従って、値「Bave/L1」)、及び、値「Bmax−Bmin」の組み合わせが異なる複数のサンプル(スタック構造体)が作製された。具体的には、表2に示すように、10種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。この試験Bでは、10種類の水準間において、値「Bave/L1」が0.01〜0.2の範囲内に設定される一方で、値「Bmax−Bmin」が大きく異ならされている。
【0089】
【表2】
【0090】
各サンプルについて、セル数(5個)、寸法、熱処理条件等は、試験Aのものと同様である。表2に記載された各水準についての「Bave」の値(mm)の範囲は、表1の場合と同様、その水準に対応する10個のサンプルに含まれる「10×5」個のセル100のそれぞれについて算出されたBaveの値(「10×5」個の値)のうちの「最大〜最小」範囲である。表2に記載された各水準についての「Bmax−Bmin」の値(mm)の範囲は、その水準に対応する10個のサンプルに含まれる「10×5」個のセル100のそれぞれについて算出された「Bmax−Bmin」の値(「10×5」個の値)のうちの「最大〜最小」範囲である。「Bmax−Bmin」の調整は、接合材300用のペーストの充填度合を調整することによってなされた。
【0091】
そして、上記熱処理後の各サンプルについて、試験Aで実行された熱サイクル試験より熱応力的に過酷な熱サイクル試験、即ち、「燃料極20に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで1時間で上げた後に750℃から常温まで2時間で下げるパターン」を20回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプルについて、接合材300におけるクラックの発生の有無が確認された。この結果は表2に示すとおりである。
【0092】
表2から理解できるように、熱応力的により過酷な上記熱サイクル試験を行った後では、SOFCのスタック構造体について、「Bmax−Bmin」が10mmより大きくなるセル100が一つでも含まれると、接合材300の表面にクラックが発生し易い。なお、このクラックは、「Bmax−Bmin」が10mmより大きくなるセル100(表2の水準8を参照)に関する接合材300に対して発生していた。
【0093】
「Bmax−Bmin」が10mmより大きいときに接合材300にクラックが発生するのは、接合材300とセル100との間の熱膨張係数差により発生する接合材300の変形量における「セル100の一端部の側面の周方向に関するばらつき」が大きいことに起因して、接合材300の内部に発生する熱応力が大きくなることに基づく、と考えられる。
【0094】
なお、接合材300用のペーストの充填度合の調整の都合により、各セルについて、Bmax−Bmin」を0.5mmより小さくすることはできなかった。以上、熱応力的により過酷な上記熱サイクル試験を行った後では、一つのSOFCのスタック構造体に含まれる複数のセル100のそれぞれについて、「Bmax−Bmin」が0.5mm〜10mmの範囲内であると、そうでない場合と比べて前記クラックが発生し難い、ということができる。
【0095】
以上、表1、表2の結果より、一つのスタック構造体に含まれる複数のセルのそれぞれについて、「Bave/L1」が0.01〜0.2の範囲内であると、接合材300にクラックが発生し難く、更に、一つのスタック構造体に含まれる複数のセルのそれぞれについて、「Bmax−Bmin」が0.5mm〜10mmの範囲内であると、前記クラックがより一層発生し難い、ということができる。
【0096】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、図22及び図25に示すように、挿入孔211にセル100の一端部が挿入されている(即ち、挿入孔211の内部空間にセル100の一端部が進入している)が、図26及び図27に示すように、孔211にセル100の一端部が挿入されていなくてもよい(即ち、孔211の内部空間にセル100の一端部が進入していなくてもよい)。
【0097】
また、上記実施形態では、図22及び図25に示すように、支持板に形成された1つの挿入孔に1つのセルの一端部が挿入されているが、図28及び図29に示すように、支持板に形成された1つの挿入孔211に2つ以上のセル100の一端部が挿入されていてもよい。更には、支持板に形成された1つの(唯一の)挿入孔に複数のセルの一端部の全てが挿入されていてもよい。
【0098】
上述した図26及び図27に示す態様、並びに、上述した図28及び図29に示す態様についても、上記実施形態と同様、一つのスタック構造体に含まれる複数のセルのそれぞれについて、「Bave/L1」が0.01〜0.2の範囲内であると、接合材300にクラックが発生し難く、更に、一つのスタック構造体に含まれる複数のセルのそれぞれについて、「Bmax−Bmin」が0.5mm〜10mmの範囲内であると、前記クラックがより一層発生し難い、ということが、別途確認されている。
【0099】
また、上記実施形態では、支持基板の表面の互いに離れた複数個所にて前記発電素子部がそれぞれ設けられ、隣り合う発電素子部の間が電気的に接続された所謂「横縞型」のセルが採用されているが、支持基板の表面に「燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順に積層されてなる発電素子部」が1つのみ設けられたセルが複数枚積層された所謂「縦縞型」の構成が採用されてもよい。
【0100】
また、上記実施形態のセルでは、燃料極と空気極とを入れ替えてもよい。この場合、図4、及び図24において燃料ガスと空気とが入れ替えられたガスの流れが採用される。更には、上記実施形態では、マニホールドの天板が多数のセルを支持するための支持板を兼ねているが(即ち、支持板がマニホールドと一体で構成されているが)、マニホールドの内部空間と複数のセルのガス流路とが連通する限りにおいて、支持板がマニホールドとは別体で構成されていてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、支持基板10が平板状を呈しているが、支持基板が円筒状を呈していても良い。この場合、円筒状の支持基板の内側空間がガス流路として機能する。
【符号の説明】
【0102】
10…支持基板、11…ガス流路、20…燃料極、40…固体電解質膜、60…空気極、100…セル、200…マニホールド、210…支持板、211…挿入孔、300…接合材、A…発電素子部
【要約】      (修正有)
【課題】複数の平板状のセルがスタック状に整列するように接合材を用いて支持板に接合された燃料電池のスタック構造体であって、接合材のクラック発生を抑制する燃料電池スタック構造体の提供。
【解決手段】マニホールドの支持板210の上面に、各セル100が支持板210の表面から長手方向に沿ってそれぞれ突出し且つ複数のセル100がスタック状に整列するように、複数のセル100のそれぞれの一端部が接合材300を用いて固定される。複数のセル100のそれぞれについて、「セル100の長手方向の全長L1」に対する、「セル100の一端部の側面における接合材300によって接合される部分の長手方向の長さ(接合長さB)における前記側面の周方向の位置に関する平均値Bave」の割合(Bave/L1)が0.01〜0.2である燃料電池スタック構造体。
【選択図】図25
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