【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
なお、測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0042】
(1)繊度、破断強度、破断伸度
JIS−L−1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に基づいて測定した。単糸繊度は、糸の繊度をフィラメント数で除して算出した。
【0043】
(2)最小微分ヤング率、極大微分ヤング率
JIS−L−1013に基づいて測定を行った。得られた応力−歪曲線の各点での応力を伸度で微分して求め、得られた微分ヤング率曲線より、伸度2%以上5%以下の領域の微分ヤング率の最小値を最小微分ヤング率とした。
極大微分ヤング率についても同様に、伸度10%以上15%以下の領域の微分ヤング率の最大値として求めた。
【0044】
(3)極限粘度
オルソクロロフェノール(以下、OCPと略記する)に試料ポリマーを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて複数点の相対粘度ηrを求め、それを無限希釈度に外挿して求めた。
【0045】
(4)限界延伸倍率
図7もしくは
図9中の第1ロール(10)直前において未延伸糸を採取し、JIS−L−1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に基づいて限界延伸倍率を算出した。未延伸糸の限界延伸倍率(MD)は、未延伸糸の破断伸度を(E)とした場合に、MD=(E+100)/100で表される。
【0046】
(5)紡糸性
紡糸性の評価は、3日間紡糸を行った際、糸切れ率が5%以下を「○」、5%以上、もしくは紡糸不能の場合を「×」と判定した。
【0047】
(6)耐摩耗性
マーチンデール摩耗試験機を用いて、JIS−L−1096に基づいて耐摩耗性を評価した。摩擦回数を20000回として、摩擦後の重量減少率を基準に5等級に区分して判定した。重量減少率(%)={(原布重量−摩擦後重量)/(原布重量)}×100で表し、重量減少率が4%以上ならば3等級以下、2%以上4%未満ならば4等級、2%未満ならば5等級として評価した。
【0048】
なお、本発明の繊維を経糸及び緯糸に用い、経糸密度97本/2.54cm、緯糸密度98本/2.54cmの平織物を製織し、耐摩耗性、ならびに風合い評価に用いた。
【0049】
(7)風合い
風合いにおいては、熟練した検査人10人のうち、9人以上が良好と判断した場合を「○」、それ以外を「×」として評価した。10人全員が、特に柔らかく優れた風合いであると判断したものに関しては「◎」で評価した。
【0050】
(8)総合評価
紡糸性、耐摩耗性、風合いの3つの観点において、全て○の場合を「○」、一つでも×がある場合は「×」と判定した。特に優れたものに関しては「◎」で評価した。
【0051】
〔実施例1〜
3、参考例4、比較例1及び2〕
本例では、単糸繊度が紡糸性、耐摩耗性、風合い性能に及ぼす効果について説明する。
以下、実施例2の製造条件を示す。
図7のような紡糸機を用いて、第1ロールと第2ロール間で延伸、一旦巻き取った後に、
図8に示す装置を用いて、供給ロールと延伸ロール間で弛緩熱処理することで、本発明の56dtex/24フィラメントの繊維を製造した。条件は下記に示すとおりである。
【0052】
(紡糸条件)
ペレット乾燥温度及び到達水分率:155℃、10ppm
押出機温度:295℃
スピンヘッド温度:300℃
紡糸口金:孔径0.25mmΦの孔が口金当たり24個を有する口金
【0053】
ホットディスタンス:135mm
冷却風条件:温度;22℃、相対湿度;90%、速度;0.4m/sec
仕上げ剤:ポリエーテルエステルを主成分とする水系エマルジョン(濃度15wt%)
仕上げ剤付与率:0.75%
紡糸口金から仕上げ剤付与ノズルまでの距離:100cm
【0054】
(巻取条件)
第1ロール:速度;1500m/分、温度;90℃
第2ロール:速度;3975m/分、温度;130℃
巻取機:SA−608機(旭エンジニアリング(株)社製)
綾角:5.8度
【0055】
(弛緩熱処理)
供給ロール:速度;555m/分、温度;85℃
ホットプレート温度:180℃
延伸ロール:速度;500m/分、温度;非加熱(室温)
延伸張力:0.25cN/dtex
リラックス率:2.5%
巻量:1kg/1パーン
【0056】
得られた繊維の物性、及び評価結果を表1〜3に示す。また、実施例1、
3、参考例4、比較例1〜2は、紡孔数と吐出量を除いては実施例2と同様の条件で製造した。
各実施例及び比較例により得られた繊維の物性、及び評価結果を表1〜3に示す。
【0057】
表1〜3から明らかなように、本発明の実施例で得られた繊維は、紡糸性、耐摩耗性、風合いにおいて良好な結果を示した。
比較例1は、本発明で規定している範囲に対して単糸繊度が小さいので、風合いは良いものの、耐摩耗性において、本発明が期待した効果が得られなかった。
比較例2は、本発明が規定している範囲に対して単糸繊度が大きいので、耐摩耗性は良いものの、風合いが硬く、本発明が期待した効果が得られなかった。
【0058】
〔
参考例5及び6、比較例3及び4〕
本例では、極限粘度の効果について説明する。
実施例2と同様の紡糸・延伸・弛緩熱処理を行うにあたり、使用するポリマーの極限粘度を変更して紡糸及び巻取を行い、
参考例5及び6、比較例3及び4の繊維を得た。各実施例
、参考例及び比較例により得られた繊維の物性、及び評価結果を表1〜3に示す。
【0059】
表1〜3から明らかなように、本発明の実施例で得られた繊維は、紡糸性、耐摩耗性、風合いにおいて良好な結果を示した。
比較例3は、本発明が規定している範囲に対して極限粘度が低いため、耐摩耗性において、本発明が期待した効果が得られなかった。
比較例4は、本発明が規定している範囲に対して極限粘度が高いため、風合いが悪化し、本発明が期待した効果が得られなかった。
【0060】
〔
参考例7及び
実施例8、比較例5〕
本例では、延伸倍率の効果について説明する。
実施例2と同様の紡糸・延伸・弛緩熱処理を行うにあたり、延伸倍率の限界延伸倍率に対する割合及びリラックス率を異ならせることにより、
参考例7及び
実施例8、比較例5の繊維を得た。
各実施例及び比較例により得られた繊維の物性、及び評価結果を表1〜3に示す。
【0061】
表1〜3から明らかなように、本発明の実施例で得られた繊維は、紡糸性、耐摩耗性、風合いにおいて良好な結果を示した。
比較例5は、本発明が規定している範囲に対して限界延伸倍率が高いので、紡糸性が悪化し、繊維を得ることができなかった。
【0062】
〔実施例9及び
参考例10、比較例6及び7〕
本例では、熱処理温度の効果について説明する。
実施例2と同様の紡糸・延伸・弛緩熱処理を行うにあたり、熱処理温度を異ならせることにより、実施例9及び
参考例10、比較例6及び7の繊維を得た。
各実施例及び比較例により得られた繊維の物性、及び評価結果を表1〜3に示す。
表1〜3から明らかなように、本発明の実施例で得られた繊維は、紡糸性、耐摩耗性、風合いにおいて良好な結果を示した。
【0063】
比較例6は、本発明が規定している範囲に対して熱処理温度が低いので、2%以上5%以下の領域における最小微分ヤング率の値が、20cN/dtex以上となり、耐摩耗性において本発明が期待した効果が得られなかった。
比較例7は、本発明が規定している範囲に対して熱処理温度が高いので、工程張力が下がり、紡糸性が悪化したため、本発明の繊維を得ることができなかった。
【0064】
〔実施例11
、参考例12、実施例13、比較例8〜10〕
本例では、弛緩熱処理の際の、リラックス率の影響について説明する。
実施例2と同様の紡糸・延伸・弛緩熱処理を行うにあたり、弛緩熱処理に関与するロールの速度を変更することにより、実施例11
、参考例12、実施例13、比較例8〜10に示すリラックス率違いの繊維を得た。また、比較例9は、実施例2と同様の紡糸・延伸条件で巻取りを行った後、弛緩熱処理を行わなかった繊維である。
【0065】
各実施例及び比較例により得られた繊維の物性、及び評価結果を表1〜3に示す。
表1〜3から明らかなように、本発明の実施例で得られた繊維は、紡糸性、耐摩耗性、風合いにおいて良好な結果を示した。
【0066】
比較例8〜10は、本発明が規定している範囲に対してリラックス率が小さく、比較例8では−5%、つまり延伸熱処理をしたもの、比較例9は弛緩熱処理をしないものである。これらの場合においては、弛緩熱処理によって起こる繊維中のポリエステル分子の配向緩和効果が小さいか、もしくはないため、最小微分ヤング率が20cN/dtex以上となり、耐摩耗性は大幅には向上しなかった。
【0067】
比較例10は、本発明が規定している範囲に対してリラックス率が大きく、弛緩熱処理の際の工程張力が低くなるため、紡糸性が悪化し、本発明の繊維を得ることができなかった。
【0068】
また、実施例13では、
図9のような紡糸機及び巻取機を用いて、第1ロールと第2ロール間で延伸した後、一旦巻き取ることなしに第2ロールと第3ロール間で弛緩熱処理することで、本発明の56dtex/24フィラメントの繊維を製造した。条件は、ペレットの乾燥から第2ロールまでは実施例2と同様に設定し、第3ロール以降の条件を新たに設定した。新たに設定した条件は、下記に示すとおりである。
【0069】
(紡糸条件)
ペレット乾燥温度及び到達水分率:155℃、10ppm
押出機温度:295℃
スピンヘッド温度:300℃
紡糸口金:孔径0.25mmΦの孔が口金当たり24個を有する口金
【0070】
ホットディスタンス:135mm
冷却風条件:温度;22℃、相対湿度;90%、速度;0.4m/秒
仕上げ剤:ポリエーテルエステルを主成分とする水系エマルジョン(濃度15wt%)
仕上げ剤付与率:0.75%
紡糸口金から仕上げ剤付与ノズルまでの距離:100cm
【0071】
(巻取条件)
第1ロール:速度;1500m/分、温度;90℃
第2ロール:速度;3975m/分、温度;130℃
第3ロール:速度;3617m/分、温度;180℃
巻取機:SA−608機(旭エンジニアリング(株)社製)
綾角:5.8度
【表1】
【表2】
【表3】