(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2化合物は、Cr、AlおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物である請求項8に記載の表面被覆切削工具。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<表面被覆切削工具>
本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被膜とを備えるものである。このような構成を有する本発明の表面被覆切削工具は、たとえばドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップまたはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等として極めて有用に用いることができる。そして、本発明の表面被覆切削工具は、Ti合金加工用またはインコネル合金等の耐熱合金加工用のドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等として特に有用に用いることができる。
【0030】
<基材>
本発明の表面被覆切削工具の基材としては、このような切削工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体等をこのような基材の例として挙げることができる。このような基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。
【0031】
なお、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
【0032】
<被膜>
本発明の表面被覆切削工具の上記基材上に形成される被膜は、1以上の層を含むものである。そして、それらの層のうち少なくとも1の層は、以下で詳述する第1化合物を含むチタン化合物層である。本発明の被膜は、このチタン化合物層を含む限り、さらに他の層を含んでいても差し支えない。なお、本発明の被膜は、基材上の全面を被覆するもののみに限られるものではなく、部分的に被膜が形成される態様をも含む。
【0033】
このような被膜の合計厚み(2以上の層が形成される場合はその総膜厚)は、0.3μm以上15μm以下とすることが好ましく、より好ましくはその上限が10μm以下、さらに好ましくは5μm以下、その下限が0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。その厚みが0.3μm未満の場合、耐摩耗性等の諸特性の向上作用が十分に示されない場合があり、15μmを超えると残留応力が大きくなり基材との密着性が低下する場合がある。なお、膜厚の測定方法としては、切削工具を切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより求めることができる。以下、該被膜についてさらに詳細に説明する。
【0034】
<チタン化合物層>
本発明のチタン化合物層は、化学式Ti
1-XM
XZ
Y(ただし、X、Yはそれぞれ原子比を示し、Xは0<X≦0.3であり、Yは0.1≦Y≦2である。また、Zは硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を示す。MはV、Cr、Nb、Mo、Hf、TaまたはWである。)で示される第1化合物を含むものである。このような第1化合物は、上記Mに該当する金属を含まない構造の化合物に比し高い硬度を示す。これは恐らく、第1化合物の結晶格子中において、上記金属が特定部位のTiに対して侵入型または置換型として混在することにより結晶格子が歪むとともに、結晶粒自体が微細化するためではないかと推測される。
【0035】
本発明のチタン化合物層は、不可避不純物を除き第1化合物のみによって構成することができる。しかし、後述のような他の成分(元素)を含むことができ、また、後述のような第1化合物を含む層と他の化合物を含む層とが積層されて形成されたものであってもよい。
【0036】
なお、このようなチタン化合物層は、第1化合物とともに、その第1化合物に起因する(第1化合物の形成時に同時に形成されたり、その形成後に経時的に形成される)副次的化合物を含んでいても差し支えない。そのような副次的化合物は第1化合物に対し少量含まれるものであり、たとえばTiと上記化学式中のZとからなる化合物や、上記化学式中のMとZとからなる化合物が挙げられる他、Ti単体や上記第1化合物に含まれるMの単体も挙げることができる。
【0037】
<第1化合物>
上記チタン化合物層に含まれる第1化合物は、化学式Ti
1-XM
XZ
Y(ただし、X、Yはそれぞれ原子比を示し、Xは0<X≦0.3であり、Yは0.1≦Y≦2である。また、Zは硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を示す。MはV、Cr、Nb、Mo、Hf、TaまたはWである。)で示される化合物である。上記化学式中、原子比XおよびYが上記範囲を満たす場合は、耐摩耗性を改善する効果が奏される。
【0038】
なお、この第1化合物は、上記化学式においてTiまたはCrの一部が他の元素(たとえば後述のようなZr、Si、Mo、Hf、Al、W、Nb、V等)に置換されているものも含み得るものとし、このような場合であっても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0039】
本発明の第1化合物は、上記のような化学式で示されることから明らかなように、構成元素として原則的にAlを含むものではないため、クレーター摩耗を極めて有効に低減することができる。また、上記のような金属元素Mを特定の原子比で含むことにより、適度に残留応力(圧縮応力)が調節され、これらが相乗的に作用することによりクレーター摩耗を飛躍的に低減することができるようになったものと考えられる。
【0040】
なお、上記の化学式中、Zは硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を示す。すなわち、Zは、これらの元素が各単独で構成されていてもよいし、2以上の元素が組み合わされて構成されていてもよい。2以上の元素が組み合わされて構成される場合、各元素の原子比は特に限定されるものではないが、窒素が含まれる場合はこれらの構成元素に占める(すなわち上記化学式中のYに対する)窒素の原子比を50%以上とすることが好適である。
【0041】
また、原子比Yは、0.1≦Y≦2である限り特に限定されないが、より好ましくは0.4≦Y≦1.8である。Yが0.1未満の場合、耐摩耗性が低下するため好ましくない。またYが2を超えると、やはり耐摩耗性が低下するため好ましくない。なお、上記のようにZが2種以上の元素で構成される場合は、原子比Yはそれらの元素の合計量を示すものとする。
【0042】
上記化学式においてMは、V、Cr、Nb、Mo、Hf、TaまたはWである。
上記化学式におけるMがV(バナジウム)の場合、すなわち第1化合物がTi
1-XV
XZ
Yで示される場合、耐摩耗性に加えて、切削ワークの仕上げ面粗さを良好にすることができる。この場合、上記化学式中、原子比Xは、好ましくは0<X≦0.2であり、その上限がより好ましくは0.15であり、その下限が0.005、さらに好ましくは0.05である。上記MがVの場合は、Xがこれらの値になることで、より耐酸化性が向上し、その結果耐摩耗性が向上する。
【0043】
上記化学式におけるMがCr(クロム)の場合、すなわち第1化合物がTi
1-XCr
XZ
Yで示される場合、上記化学式中、原子比Xは、好ましくは0<X≦0.15であり、その上限がより好ましくは0.12、さらに好ましくは0.1であり、その下限が0.005、さらに好ましくは0.01である。
【0044】
上記化学式におけるMがNb(ニオブ)の場合、すなわち第1化合物がTi
1-XNb
XZ
Yで示される場合、原子比Xは、好ましくは0<X≦0.15であり、その上限がより好ましくは0.12、さらに好ましくは0.1、特に好ましくは0.08であり、その下限が0.005、さらに好ましくは0.01である。Xがこれらの値になることで、より耐酸化性が向上し、その結果耐摩耗性が向上する。
【0045】
上記化学式におけるMがMo(モリブデン)の場合、すなわち第1化合物がTi
1-XMo
XZ
Yで示される場合、上記化学式中、原子比Xは、好ましくは0<X≦0.15であり、その上限がより好ましくは0.12、さらに好ましくは0.1である。また、その下限が0.005であることが好ましく、さらに好ましくは0.01である。この原子比Xが0.3を超えるとクレーター摩耗の低減効果が劣るとともに優れた耐摩耗性が示されなくなる。
【0046】
上記化学式におけるMがHf(ハフニウム)の場合、すなわち第1化合物がTi
1-XHf
XZ
Yで示される場合、上記化学式中、原子比Xは、好ましくは0<X≦0.2であり、その上限がより好ましくは0.12、さらに好ましくは0.1であり、その下限が0.005、さらに好ましくは0.01である。原子比Xが上記範囲を満足する場合に、耐酸化性をより向上させることができ、それにより耐摩耗性を改善することができる。一方、原子比Xが0.3を超えると、クレーター摩耗の低減効果が劣るとともに優れた耐摩耗性が示されなくなる。
【0047】
上記化学式におけるMがTa(タンタル)の場合、すなわち第1化合物がTi
1-XTa
XZ
Yで示される場合、上記化学式中、原子比Xは、好ましくは0<X≦0.15であり、その上限がより好ましくは0.12、さらに好ましくは0.1であり、その下限が0.005、さらに好ましくは0.01である。Xがこれらの値になることで、より耐酸化性が向上することで耐摩耗性が向上する。この原子比Xが0.3を超えるとクレーター摩耗の低減効果が劣るとともに優れた耐摩耗性が示されなくなる。
【0048】
上記化学式におけるMがW(タングステン)の場合、すなわち第1化合物がTi
1-XW
XZ
Yで示される場合、上記化学式中の原子比Xは、好ましくは0<X≦0.15であり、その上限がより好ましくは0.12、さらに好ましくは0.1であり、その下限が0.005、さらに好ましくは0.01である。この原子比Xが0.2を超えるとクレーター摩耗の低減効果が劣るとともに優れた耐摩耗性が示されなくなる。
【0049】
本発明における第1化合物は、上記のような化学式で示されることから明らかなように、構成元素として原則的にAlを含むものではないため、クレーター摩耗を極めて有効に低減することができる。しかも、Vを上記のような原子比で含んだことにより、膜硬度が増加するために、クレーター摩耗を飛躍的に低減することができるようになったものと考えられる。また、Mo、Nb、HfまたはWを含んだことにより、耐酸化性をTiAlNの有する耐酸化性程度に向上させることができる。他方、Cr、Nb、Ta、VまたはHfを含んだことにより、膜硬度を増加させることができる。このことによりクレーター摩耗を極めて有効に低減することができる。
【0050】
また、構成元素として原則的にSi、Zrを含むものではないため、適度に残留応力(圧縮応力)が調節され、刃先の耐欠損性を向上させることができる。
【0051】
<第1化合物の結晶構造>
上記第1化合物は、X線回折における(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/Aが0≦B/A≦1となる結晶構造を有することが望ましい。すなわち、このように規定される結晶構造は、本発明の第1化合物の配向性が(200)優先配向(たとえば前述の特許文献4のように(200)面に最高ピークが現われ、かつその最高ピークの半価幅が2θで0.9度以下であるX線回折パターンを示すような結晶構造)ではなく(111)優先配向であることを示している。この事実は、無配向であるTiN粉末の上記比B/Aが1.3となることから、本発明の第1化合物がもし無配向ならば当然上記比B/Aは1.25〜1.3の範囲内の数値を示すことが予想されるからである。
【0052】
上記比B/Aは、より好ましくはその上限が0.8、さらに好ましくは0.5であり、その下限は0となるのが理想である。
【0053】
このように第1化合物の結晶構造が(111)優先配向を示すことにより、極めて高い耐摩耗性が示される。本発明では、(111)優先配向が(200)優先配向の場合に比し極めて高い潤滑性を有していることを見い出しており、それによって切削時の耐摩耗性が向上していると考えられる。また、切削ワークの仕上げ面の粗さを低減することができる。
【0054】
<面間隔>
本発明において、上記第1化合物はそのX線回折における面間隔が特定の範囲である場合は後述のように被膜強度をさらに向上させることができる。このようなX線回折は、θ−2θ法により決定される。
【0055】
第1化合物がTi
1-XV
XZ
Yで示される場合、X線回折における(111)面の面間隔が2.28Å以上2.65Å以下であることが望ましい。また、より望ましくは、(111)面の面間隔が2.40Å以上2.51Å以下であることが望ましい。
【0056】
第1化合物がTi
1-XCr
XZ
Yで示される場合、X線回折における(111)面の面間隔が2.46Å以上2.63Å以下であり、(200)面の面間隔が2.09Å以上2.15Å以下である結晶構造を有することが好ましい。さらに好ましくは(111)面の面間隔が2.49Å以上2.58Å以下であり、(200)面の面間隔が2.10Å以上2.13Å以下であることがより好ましい。
【0057】
第1化合物がTi
1-XHf
XZ
Yで示される場合、X線回折における(111)面の面間隔が2.40Å以上2.55Å以下であることが好ましく、(200)面の面間隔が2.09Å以上2.25Å以下である結晶構造を有することが好ましい。前記(111)面の面間隔は、2.43Å以上がより好ましく、さらに好ましくは2.47Å以上である。また、(111)面の面間隔は、2.52Å以下がより好ましく、2.50Å以下がさらに好ましい。前記(200)面の面間隔としては、2.10Å以上がより好ましく、さらに好ましくは2.11Å以上である。また、(200)面の面間隔は、2.16Å以下がより好ましく、2.14Å以下がさらに好ましい。前記(111)面、(200)面の面間隔が上記範囲を満たす場合は、耐摩耗性がさらに向上する傾向がある。
【0058】
第1化合物がTi
1-XTa
XZ
Yで示される場合、X線回折における(111)面の面間隔が2.30Å以上2.75Å以下であり、(200)面の面間隔が2.00Å以上2.30Å以下である結晶構造であることが望ましい。また、より望ましくは、(111)面の面間隔が2.40Å以上2.55Å以下であり、(200)面の面間隔が2.1Å以上2.2Å以下である結晶構造であることが望ましい。
【0059】
また、本発明の被膜において、第1化合物がTi
1-XW
XZ
Yで示される場合、X線回折における(111)面の面間隔が2.30Å以上2.65Å以下であり、(200)面の面間隔が2.04Å以上2.20Å以下である結晶構造を有することが好ましい。
【0060】
TiNの(111)の面間隔は一般的に2.45Åであることが知られており、(200)の面間隔は一般的に2.12Åであることが知られている。したがって、上記のような面間隔で規定される本発明の第1化合物の結晶構造は、(111)面において面間隔が明らかに大きくな数値を示すことを表わしている。これは、恐らく第1化合物の結晶格子中において、特定部位のTiに対して上記V、Cr、HfまたはTaが侵入型または置換型として存在しているためではないかと推測される。
【0061】
このように第1化合物の結晶構造において、(111)面の面間隔のみが大きな数値を示すことから、この(111)面において大きな歪が存在しているものと考えられる。そして、この(111)面が大きく歪むことによって、被膜の硬度および靭性という機械的特性が向上し、これらの相乗作用により切削性能が飛躍的に向上するものと考えられる。
【0062】
<結晶粒径>
さらに、本発明の第1化合物は、その結晶粒径が0.1nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくはその上限が100nm、さらに好ましくは60nmである。上記結晶粒径が0.1nm未満になるとアモルファス状態のものと区別できなくなり、200nmを超えると切削性能が低下することがある。
【0063】
このように本発明の第1化合物の結晶粒径は、上記に示した範囲のように微小であることが好ましく、小さくなればなる程緻密化が促進され靭性が向上したものとなり切削性能が向上したものとなる。したがって、その結晶粒径は小さくなればなる程好ましいが、上記のように0.1nm未満になると結晶状態を維持できなくなりアモルファス状態となってしまうため、却って切削性能が低下することになる。
【0064】
なお、このような結晶粒径は、X線回折における(111)面に起因するピークの半価幅から求めることができる平均値をいう。
【0065】
<チタン化合物層に含まれる他の成分>
本発明のチタン化合物層は、Zr、Si、Mo、Hf、Al、W、Nb、およびVからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことができる。Zr、Si、Al、Nbを含有することにより硬度がさらに高くなり、耐摩耗性が向上する。また、Moを含有することにより耐酸化性が向上し、クレーター摩耗をさらに低減することができる。また、Hf、W、Vを含有することにより硬度と耐酸化性の両者が向上し、耐摩耗性の向上およびクレーター摩耗の低減を達成することができる。
【0066】
本発明のチタン化合物層がZr、Si、Mo、Hf、Al、W、Nb、およびVからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む態様は特に限定されず、上記第1化合物がZr、Si、Mo、Hf、Al、W、Nb、およびVからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよいし、あるいはこのような第1化合物とは独立して含まれるものであってもよい。なお、上記第1化合物がZr、Si、Mo、Hf、Al、W、Nb、およびVからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む場合、それらの元素は該第1化合物中に侵入型または置換型として含有されることが好ましいが、これにより上記の第1化合物の結晶構造の特徴が変化することはない。
【0067】
また、上記のように優れた効果を示すZr、Si、Mo、Hf、Al、W、Nb、およびVからなる群より選択される少なくとも1種の元素は、原子比でTiに対して0.005以上0.3以下の割合で含まれることが好ましい。特にAl、SiやZrは、前述の通りクレーター摩耗を促進するという欠点を有するため、これを多量に含むことは好ましくなく、悪影響を及ぼさない範囲で含むことが必要である。
【0068】
ここで、上記「Tiに対して」のTiとはチタン化合物層(他の成分が第1化合物に含まれる場合は第1化合物)に含まれる全Tiを示す。上記原子比はZr、Si、Mo、W、Nb、およびVの場合、より好ましくはその上限が0.2、さらに好ましくは0.15であり、その下限が0.01、さらに好ましくは0.02である。また、HfおよびAlの場合、より好ましくはその上限が0.28、さらに好ましくは0.2であり、その下限が0.05、さらに好ましくは0.08である。
【0069】
上記原子比が、0.005未満の場合や0.3を超える場合、上記のような優れた効果が示されなくなる場合がある。なお、上記元素が2種以上含まれる場合、その合計量が上記範囲の原子比に含まれる限り各元素間の原子比は特に限定されない。
【0070】
<チタン化合物層の積層構造>
本発明の上記チタン化合物層は、上記第1化合物を含む第1層と、第2化合物を含む第2層とが各々1層以上積層されて形成されているものとすることができ、この第2化合物は、Si、Cr、Al、Ti、Hf、Ta、Nb、およびVからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とを含むものとすることができる。この場合、第1層における第1化合物のMは、第2層に含まれる第2化合物には含まないことが好ましい。このような構成と摺ることにより、第1層と第2層とにより被膜に付与される特性が良好なものとなる。
【0071】
ここで、この第2化合物は、Si、Cr、Al、Ti、Hf、Ta、Nb、およびVからなる群より選択される少なくとも1種の元素に対して、硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を原子比で0.1以上2以下含むことが好ましい。原子比をこの範囲のものとすることにより、以下のような優れた効果が示される。なお、Si、Cr、Al、Ti、Hf、Ta、Nb、およびVのうち異なった元素が2種以上含まれる場合、その合計量が上記範囲の原子比を満たす限り、各元素間の原子比は特に制限されない。同様にして、硼素、酸素、炭素、および窒素のうち異なった元素が2種以上含まれる場合も、各元素間の原子比は特に制限されない。
【0072】
上記のような積層構造を採用することにより、次のような優れた効果が示される。すなわち、上記第2化合物は耐酸化性に優れているため、クレーター摩耗の低減作用および耐摩耗性の向上作用に加え、チタン化合物層全体として優れた耐酸化性が示される。また、このように組成の異なる2層を積層させたことにより、被膜の厚み方向に亀裂が進展することを極めて有効に抑制することができ、この亀裂の進展による被膜破壊に起因した摩耗現象を効果的に低減することができることから結果的に耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0073】
チタン化合物層が上記のような積層構造を有する場合において、特に、第2層がTiおよびAlを含む層やAlおよびCrを含む層である場合の積層構造は、耐摩耗性が向上する上で望ましい。先に述べたように第1化合物を含む第1層においてAlの存在比が増加する場合は、耐クレーター摩耗性を低減させる傾向があるので望ましくない。しかし、第2層としてTiおよびAlを含む層やAlおよびCrを含む層を第1層と多層化(または超多層化)させた場合に、第1層にAlを含む場合のように耐クレーター摩耗性を低下させることはなく、むしろ耐クレーター摩耗性を向上させることが本発明者らの検討によりわかった。これは、上記のような積層構造をとる場合は、この積層構造による被膜全体の靭性の向上が著しいものであることを示唆していると考えられる。上記TiおよびAlを含む層やAlおよびCrを含む層とは、例えば、TiAlNを含む層やAlCrNを含む層などであり、これらの層においてTiとAlの原子比はTi:Al=50:50〜80:20であることが望ましく、AlとCrの原子比はAl:Cr=80:20〜60:40であることが望ましい。
【0074】
第1化合物がTi
1-XV
XZ
Yであって上記のような積層構造を有する場合は、第2層を構成する原子にバナジウムを含まないことが耐チッピング性の面から望ましい。この理由としては、例えば第2層がTiAlVNにより構成される場合は、バナジウムを含まないTiAlNにより構成される場合と比較して、第2層の格子定数が第1層のTiVNと近くなり、その結果積層構造を構成する各層間の格子歪みが少ない構造となっていることが挙げられる。すなわち、格子歪みが少ないことから被膜内の圧縮応力が少ないと考えられ、そのため破壊抵抗が小さく、被膜がチッピングしやすくなると考察される。同様の理由により、上記積層構造において、第1化合物と第2層に含まれる第2化合物とはその格子定数が相異なるものであることが好ましい。
【0075】
チタン化合物層が上記積層構造を有する場合、第1層は、その厚みが0.5nm以上200nm以下であることが好ましく、また同じく第2層も、その厚みが0.5nm以上200nm以下であることが好ましい。この範囲の厚みを有することにより切削時において特に優れた耐摩耗性が示されるからである。そして、上記第1層および第2層の各厚みは、より好ましくはその上限が80nm、さらに好ましくは20nmであり、その下限はより好ましくは1nmである。0.5nm未満の厚みで各層を形成することは困難であり、その厚みが200nmを超えると上記のような優れた効果が示されない場合がある。そして、特に好ましくは上記第1層のみの加算合計厚みが0.3μm以上10μm以下となる場合であり、より好ましくは0.7μm以上5μm以下となる場合である。第1層のみの合計厚みをこれらの範囲とすることにより、上記の効果が最も効果的に発現する。なお、第1層のみの合計厚みがこのような範囲となる限り、第2層のみの合計厚みは特に限定されないが、1μm以上10μm以下の厚みとすれば通常は十分である。このように積層される第1層と第2層との各厚みは、概ね等しいものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0076】
なお、本発明において積層構造とは、上記第1層と第2層とが各々1層以上積層されて形成されていることを示すものであるが、より好ましくは上記第1層と第2層とが各々上下交互に複数積層されることが好適である。なお、このような積層構造において最下層および最上層は第1層または第2層のいずれの層によって形成されていても差し支えない。また、積層数は特に限定されるものではないが、各層それぞれ1層以上8000層以下、より好ましくは20層以上5000層以下とすることができる。
【0077】
<チタン化合物層の厚み>
本発明のチタン化合物層は、0.3μm以上10μm以下の厚みを有することが好ましい。より好ましくは、その上限が8μm、さらに好ましくは6μmであり、その下限が0.7μm、さらに好ましくは1μmである。
【0078】
上記厚みが0.3μm未満の場合、クレーター摩耗を低減するとともに高度な耐摩耗性を付与するという本発明の効果が示されない場合があるとともに、10μmを超えると、該効果が低減される場合がある。上記厚みが、1μm以上6μm以下の場合に特に優れた上記効果が示される。
【0079】
<下地層>
本発明の表面被覆切削工具は、被膜として下地層が基材上に形成され、その下地層上に上記チタン化合物層が形成されたものとすることができ、この下地層は、Tiと、硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とを含む第3化合物を含むことができる。この第3化合物は基材との密着性に優れるので、基材上に基材と接するようにしてこの下地層を形成し、この下地層上に上記チタン化合物層を形成すれば、これらの被膜が全体として密着力高く基材上に形成されることになる。
【0080】
このような第3化合物としては、たとえばTiN、TiC、TiCN、TiBN、TiNO等、あるいはこれらの化合物にSi、W、またはMo等を添加したもの等を挙げることができる。なお、これらの化学式において特に原子比が規定されない場合は、各元素の原子比は必ずしも等比となるものではなく、従来公知の原子比が全て含まれるものとする。たとえばTiNと記す場合、TiとNとの原子比は1:1が含まれる他、2:1、1:0.95、1:0.9等が含まれる(特に断りのない限り、他の化学式の記載において同じ)。すなわち、Tiと、硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素との原子比(Ti以外に他の(金属)元素を含む場合はその元素の原子比を含み、硼素、酸素、炭素、または窒素を2種以上含む場合はそれらの各元素間の原子比も含む)は特に限定されず、従来公知の原子比がすべて含まれる。
【0081】
上記のような下地層は、0.05μm以上2μm以下、より好ましくは0.1μm以上1μm以下の厚みを有していることが好ましい。なお、このような下地層は1の層により構成することができる他、2以上の層により構成することもできる(2以上の層により構成する場合はその合計厚みを上記の範囲のものとする)。
【0082】
<その他の層など>
本発明の被膜は、上記のようなチタン化合物層や下地層以外の他の層をさらに1以上含むことができる。たとえばそのような他の層は、下地層とチタン化合物層との間に形成したり、チタン化合物層の上に形成したりすることができる。このような他の層を形成することにより、クレーター摩耗を低減するとともに高度な耐摩耗性を付与するという本発明の効果がさらに向上したり、あるいは潤滑性を付与したり、被削材との溶着を抑制したりすることができるという効果を達成することもできる。
【0083】
このような他の層を構成する化合物としては、たとえばAl
2O
3等の酸化物、TiSiN等のケイ窒化物、TiCN等の炭窒化物等を挙げることができる。なお、このような他の層は、0.05μm以上5μm以下、より好ましくは0.1μm以上2μm以下の厚みを有していることが好ましい。
【0084】
<製造方法>
本発明の被膜とりわけチタン化合物層は、上記の通り結晶性の高い化合物で構成されている必要があるため、本発明の被膜はそのような結晶性の高い化合物で構成されるような成膜プロセスにより形成されていることが好ましい。したがって、本発明の被膜は特に物理蒸着法(PVD法)により形成されることが望ましい。このような物理蒸着法としては、たとえばバランストマグネトロンスパッタリング法、アンバランストマグネトロンスパッタリング法、アークイオンプレーティング法、これらを各組み合わせた方法等を挙げることができる。なお、チタン化合物層が上記のような積層構造で形成されている場合であっても、これらの物理蒸着法の下、従来公知の手法により形成することができる。
【0085】
そして、特に上記のようなチタン化合物層を好適に形成する具体的な条件を挙げると以下の通りとなる。すなわち、アークイオンプレーティング法を採用する場合、所望の構造の第1化合物が得られるように適切な配合比で各対応する元素を含んだターゲットをアーク式蒸発源にセットし、基板(基材)温度を400〜700℃および該装置内の反応ガス圧を2.0〜6.0Paに設定し、反応ガスとしてたとえば窒素、メタン、酸素等のうちから1以上のガスを選択することによりこれを導入する。そして、基板(負)バイアス電圧を−60V〜−200Vに維持したまま、カソード電極に50〜120Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによりチタン化合物層を形成することができる。なお、上記基板(負)バイアス電圧を負側に高く(すなわち、その絶対値を大きく)する程、第1化合物の結晶構造の(111)優先配向性が高くなる傾向を示す。
【0086】
また、アンバランストマグネトロンスパッタリング法を採用する場合、基板(基材)温度を400〜600℃および該装置内の反応ガス圧を300mPa〜800mPaに設定し、所望の第1化合物に対応する反応ガスとしてたとえば窒素、アセチレン、酸素のうちから1以上のガスを選択することによりこれを導入する(なお、反応ガスの導入に際しては、希ガス/反応ガスの比を1〜5に設定することが好ましい)。そして、基板(負)バイアス電圧を0V〜−90Vに維持したまま(この基板(負)バイアス電圧は負側に低く(すなわち、その絶対値を小さく)する程第1化合物の結晶構造の(111)優先配向性は高くなる傾向を示す)、ターゲットに0.12〜0.3W/mm
2の電力密度を発生させることによりチタン化合物層を形成することができる。
【0087】
<実施例>
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の各被膜を構成する各層の化学組成(化合物の組成)は二次電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型ケイ光X線分光計(SEM−EDX)により確認し、各層の厚みは被膜の断面を二次電子顕微鏡(SEM)により観察することにより確認した。また、X線としてCuKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折を行なうことにより、第1化合物の結晶構造について、(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/A(下記において、単にB/Aと表記する場合がある)と、結晶粒径と、(111)面の面間隔(d
(111))と、(200)面の面間隔(d
(200))とを求めた。上記第1化合物の結晶粒径は(111)面の半価幅より算出し、面間隔はピーク強度が最大になる点の2θ角度から算出した。
【0088】
本実施例において基材上に形成される被膜は、以下のように陰極式アークイオンプレーティング法により形成した。なお、実施例および比較例においては、切削用刃先交換型チップ(超硬合金(P20)製、形状がCNMG120408(ISO規格))を用いて成膜し、表面被覆切削工具を得た。
【0089】
<陰極式アークイオンプレーティング(AIP)法>
まず、基材として、グレードがP30(JIS B 4053−1998)の超硬合金であり、形状がSNGN120408(JIS B 4121−1998)である切削チップを準備し、これを洗浄した後、陰極式アークイオンプレーティング装置(成膜装置)内の基板取り付け位置にセットした。なお、このような成膜装置としては従来公知の構成のものを特に制限なく使用することができる。
【0090】
そして、真空ポンプにより該装置内を1×10
-4Pa以下に減圧するとともに、該装置内に設置されたヒーターにより上記基材の温度を650℃に加熱し、1時間保持した。
【0091】
次に、アルゴンガスを導入して該装置内の圧力を3.0Paに保持し、基板(基材)バイアス電圧を徐々に上げながら−1500Vとし、基材の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
【0092】
次いで、上記基材表面に形成される被膜(すなわち第1化合物からなるチタン化合物層)として、その化学組成が以下の表1に示したものになるように各対応する金属元素を含んだ各ターゲットを原料蒸発源(アーク式蒸発源)にセットした。基板(基材)温度を550〜650℃および該装置内の反応ガス圧を4.0Paに設定し、表1に示した化学組成の窒素、酸素、硼素、炭素などの軽元素成分に対応する反応ガスとして、窒素、メタン、酸素のうちから1以上のガスを選択することによりこれを導入した。そして、チタン化合物層を構成する第1化合物としてTiVZ、TiCrZ、TiNbZ、TiMoZ、TiHfZ、TiTaZ、TiWZを用いる場合は、基板バイアス電圧を−50V〜−400Vに維持したまま、カソード電極に50A〜200Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させチタン化合物層を形成した。
【0093】
すなわち、アーク式蒸発源から発生した金属イオン、金属元素、またはクラスター等がプラズマ雰囲気中で上記反応ガスと反応することにより、基材上にチタン化合物層(すなわち第1化合物)が形成(析出)されることになる。なお、反応ガスとしては、最終生成物(第1化合物)が窒化物の場合は窒素を選択し、炭化物の場合はメタン(メタンのみに限られずアセチレン等の炭化水素ガスを特に限定なく使用することができる)と雰囲気ガス(反応ガス分圧制御用)としてアルゴンガスを選択し、酸化物の場合は酸素と雰囲気ガス(反応ガス分圧制御用)としてアルゴンガスを選択することができる。また、その他の炭窒化物や窒酸化物等の場合は、上記の例に基づき2種以上の反応ガスを選択して用いた。化学組成に硼素が含まれる場合はターゲットに予め硼素元素を所望量含有させたものを用いた。
【0094】
第1化合物と第2化合物との積層構造を作製するには、例えば、
図1の成膜装置6の構成を示す概略図のように、金属原料蒸発源1,2と、基板用の回転テーブル3と、基板ホルダ4とを少なくとも備えた成膜装置を用いればよい。本実施例等においては、このような成膜装置6を用いてたとえば第1化合物の金属成分からなる原料をターゲット金属原料蒸発源1にセットし、該金属原料蒸発源1に対向する位置または所定の角度を持たせた位置に、第2化合物の金属成分からなる原料をターゲットとして金属原料蒸発源2にセットして、基板ホルダ4に切削チップとなる基板5を保持させる。基材5が各ターゲット側を向くように通過させるために、基材5を回転テーブル3でたとえば
図1中の矢印方向に回転させ、第1化合物および第2化合物からなる層をそれぞれ所望数形成させて、積層構造を得た。
【0095】
窒化物の場合、バイアス電圧を0〜−50Vに設定することで、上記比B/Aが1.0を超えるものとなる。またバイアス電圧を−50Vよりも負側に大きくすることで、配向性についての上記比B/Aを1.0以下とすることができる。なお、耐摩耗性の観点から、バイアス電圧は成膜中に−50Vから−150Vまで連続的に負側に増加させることが望ましく、実施例においては、バイアス電圧を上記範囲において連続的に増加させた。このような製法で作製したチタン化合物層は、上記B/Aが1以下であった。
【0096】
そして、表1〜18に記載した厚みとなったところでアーク式蒸発源に供給する電流を停止し、冷却後該装置内を大気に開放した後、被膜が基材上に形成された表面被覆切削工具を装置から取り出すことにより、本発明の表面被覆切削工具を製造した。なお、表1〜18の「製法」の項において、この陰極式アークイオンプレーティング法により製造された表面被覆切削工具は「AIP」と表記した。
【0097】
(
参考例1〜27):TiVZ
表1〜2に示す第1化合物の組成、表3に示す第1化合物および第2化合物の組成となるように上記陰極式アークイオンプレーティング法により被膜を形成し、表面被覆切削工具を製造した。
【0098】
(比較例1〜6)
比較例1として、第1化合物においてバナジウムを含まない化合物(すなわち具体的にはTiN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例2として、TiAlNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例3は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は
参考例2と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例4は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は
参考例2と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例5は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は
参考例2と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例6は、ターゲットとしてTi単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、
参考例2と同様の上記成膜条件にしたがい成膜したSi含有窒化物被膜である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表1に示す。
【0099】
(比較例7〜12)
比較例7として、第1化合物においてバナジウムを含まない炭窒化物(すなわち具体的にはTiCN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例8として、TiAlCNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例9は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は
参考例9と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例10は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は
参考例9と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例11は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は
参考例9と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例12は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、
参考例9と同様にして得られるSi含有炭窒化物被膜である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表2に示す。
【0100】
(比較例13、14)
比較例13は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は
参考例12と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例14は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は
参考例18と同様にして得られる表面被覆切削工具である。これらの比較例でえられた表面被覆切削工具の物性等を表3に示す。
【0101】
<切削試験1>
上記のようにして製造された実施例1〜27の表面被覆切削工具および比較例1〜14の表面被覆切削工具について、以下の表19に示す切削条件により連続旋削試験を実施して、逃げ面摩耗量(VB)とクレーター摩耗量(KT)とを測定した。逃げ面摩耗量が小さいもの程耐摩耗性に優れていることを示し、クレーター摩耗量が小さいもの程クレーター摩耗が低減されていることを示す。その結果を以下の表1〜3に示す。
【0102】
<切削試験2>
上記のようにして製造された実施例1〜27の表面被覆切削工具および比較例1〜14の表面被覆切削工具について、以下の切削条件により断続切削試験を実施することにより、逃げ面摩耗量とクレーター摩耗量とを測定した。
【0103】
被削材はサイズが、幅100mm×長さ300mm×高さ100mmであり、長さ300mmの辺に垂直で、幅100mmの辺に平行な溝を等間隔で多数あける。溝間は、溝の中心同士の距離とした。切削試験として、カッターFPG4160Rに、チップ1つだけ取り付け、以下の条件で切削を開始する。チップが破損して、切削が不可になったときの時間を切削時間として表に記載した。この時間が長いほど、被膜の耐欠損性が高いと判断できる。切削試験2の条件を表20に示す。
【0104】
この結果、多層の積層構造にすることで、被膜の耐欠損性が向上し、特に積層周期が10nm程度の被膜を形成した表面被覆切削工具が最も耐欠損性に優れていた。
【0105】
<切削試験3>
上記のようにして製造された表面被覆切削工具について、以下の切削条件により連続切削試験を実施して、逃げ面摩耗量とクレーター摩耗量とを測定した。表21に示す条件で所定時間切削を行い、最終の被削材表面の光沢を、目視で5段階評価した。5の面光沢が最も優れており、1の面光沢が最も劣っている。「5」は切削面全面が金属光沢を有しており、「4」は剥れなどにより金属光沢不良の部分の合計面積が切削面全面積の1/4程度あり、「3」は上記金属光沢不良の部分の合計面積が切削面全面積の1/2程度あり、「2」は上記金属光沢不良の部分の合計面積が切削面全面積の3/4程度あり、「1」はほとんど光沢が観測されなかったことを示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
上記表1〜3中、「X」、「Y」、「Z」とは第1化合物である化学式Ti
1-XM
XZ
Y中のX、Y、Zをそれぞれ示す。「混合元素」とは第1化合物に含まれるTi、Mおよび上記化学式のZ以外の元素を示す。なお、「Z」の項に記載されている数値は原子比を示す(それらの数値の合計は「Y」に記載された数値となる)。「混合元素の原子比」は前述の通り第1化合物に含まれるTiに対する原子比を示す。「d」とはチタン化合物層またはそれに相当する比較例における層の厚みを示す。また、上記表3中、「第2化合物」の項に記載されている数値は原子比を示す。
【0110】
なお、表1〜3の「積層構造」の項において、チタン化合物層が前述の第1層と第2層とが積層されて形成されている場合は「有」と表記し、そのような積層構造を含まない場合(すなわち単層の場合)は「無」と表記した。
【0111】
(実施例28〜42):TiCrZ
表4に示す第1化合物の組成、または表5に示す第1化合物および第2化合物の組成となるように上記陰極式アークイオンプレーティング法により被膜を形成し、表面被覆切削工具を製造した。
【0112】
(比較例15〜21)
比較例15として、第1化合物においてクロムを含まない炭窒化物(すなわち具体的にはTiCN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例16として、TiAlCNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例17は、実施例24の第1化合物と同じ組成の化合物からなる被膜を形成したものであるが、成膜時のバイアス電圧を50Vに変更することにより(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/Aが1以上となる点において実施例2とは異なる表面被覆切削工具である。
【0113】
また、比較例18は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例24と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例19は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は実施例24と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例20は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は実施例24と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例21は、ターゲットとしてTi単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、実施例24と同様にして得られる表面被覆切削工具である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表4に記載した。
【0114】
(比較例22〜25)
比較例22は実施例32の第1化合物と同じ組成の化合物からなる被膜を形成したものであるが、成膜時のバイアス電圧を20Vに変更することにより(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/Aが1以上となる点において実施例32とは異なる表面被覆切削工具である。比較例23は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例28と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例24は、実施例38の第1化合物と同じ組成の化合物からなる被膜を形成したものであるが、成膜時のバイアス電圧を20Vに変更することにより(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/Aが1以上となる点において実施例38とは異なる表面被覆切削工具である。比較例25は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例34と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0115】
上記実施例28〜42および比較例15〜25で得られた表面被覆切削工具について、上記切削試験1〜3を行なった。その結果を表4〜5に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
表4および5における各項目は表1〜3における各項目と同様の内容を示す。
(実施例43
〜49、51〜55および57〜68、ならびに参考例50および56):TiNbZ
表6〜7に示す第1化合物の組成、または表8に示す第1化合物および第2化合物の組成となるように上記陰極式アークイオンプレーティング法により被膜を形成し、表面被覆切削工具を製造した。
なお、表中、最左列に「参」と記載されるものは参考例である。
【0119】
(比較例26〜31)
比較例26として、第1化合物においてニオブを含まない化合物(すなわち具体的にはTiN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例27として、TiAlNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例28は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例44と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例29は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は実施例44と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0120】
比較例30は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は実施例44と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例31は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、実施例44と同様の上記成膜条件により成膜したSi含有窒化物被膜である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表6に示す。
【0121】
(比較例32〜37)
比較例32として、第1化合物においてニオブを含まない炭窒化物(すなわち具体的にはTiCN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例33として、TiAlCNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例34は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例51と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例35は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は実施例51と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0122】
比較例36は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は実施例51と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例37は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、実施例51と同様にして得られるSi含有炭窒化物被膜である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表7に示す。
【0123】
(比較例38、39)
比較例38は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例54と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例39は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例68と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0124】
【表6】
【0125】
【表7】
【0126】
【表8】
【0127】
表6〜8における各項目は表1〜3における各項目と同様の内容を示す。
(実施例69〜
74、77〜84および86〜90、ならびに参考例75、76、85および91):TiMoZ
表9〜10に示す第1化合物の組成、または表11に示す第1化合物および第2化合物の組成となるように上記陰極式アークイオンプレーティング法により被膜を形成し、表面被覆切削工具を製造した。
なお、表中、最左列に「参」と記載されるものは参考例である。
【0128】
(比較例40〜45)
比較例40として、第1化合物においてモリブデンを含まない化合物(すなわち具体的にはTiN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例41として、TiAlNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例42は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例70と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例43は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は実施例70と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0129】
比較例44は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は実施例70と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例45は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、実施例70と同様の上記成膜条件により成膜したSi含有窒化物被膜である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表9に示す。
【0130】
(比較例46〜51)
比較例46として、第1化合物においてモリブデンを含まない炭窒化物(すなわち具体的にはTiCN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例47として、TiAlCNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例48は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例77と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例49は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は実施例77と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0131】
比較例50は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は実施例77と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例51は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、実施例77と同様にして得られるSi含有炭窒化物被膜である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表10に示す。
【0132】
(比較例52、53)
比較例52は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例80と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例53は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例87と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0133】
【表9】
【0134】
【表10】
【0135】
【表11】
【0136】
表9〜11における各項目は表1〜3における各項目と同様の内容を示す。
(実施例92〜
97、および99〜110、ならびに参考例98):(TiHfZ)
表12に示す第1化合物の組成、または表13に示す第1化合物および第2化合物の組成となるように上記陰極式アークイオンプレーティング法により被膜を形成し、表面被覆切削工具を製造した。
なお、表中、最左列に「参」と記載されるものは参考例である。
【0137】
(比較例54〜59)
比較例54として、第1化合物においてハフニウムを含まない炭窒化物(すなわち具体的にはTiCN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例55として、TiAlCNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例56は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は
参考例98と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例57は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は
参考例98と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0138】
比較例58は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は
参考例98と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例59は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、
参考例98と同様にして得られる表面被覆切削工具である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表12に示す。
【0139】
(比較例60、61)
比較例60は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例100と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例61は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例106と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0140】
【表12】
【0141】
【表13】
【0142】
表12〜13における各項目は表1〜3における各項目と同様の内容を示す。
(実施例111〜
116、119〜126および128〜132、ならびに参考例117、118、127および133):TiTaZ
表14〜15に示す第1化合物の組成、または表16に示す第1化合物および第2化合物の組成となるように上記陰極式アークイオンプレーティング法により被膜を形成し、表面被覆切削工具を製造した。
なお、表中、最左列に「参」と記載されるものは参考例である。
【0143】
(比較例62〜67)
比較例62として、第1化合物においてタンタルを含まない化合物(すなわち具体的にはTiN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例63として、TiAlNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例64は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例112と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例65は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は実施例112と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0144】
比較例66は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は実施例112と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例67は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、実施例112と同様の上記成膜条件により成膜したSi含有窒化物被膜である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表14に示す。
【0145】
(比較例68〜73)
比較例68として、第1化合物においてタンタルを含まない炭窒化物(すなわち具体的にはTiCN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例69として、TiAlCNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例70は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例119と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例71は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は実施例119と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0146】
比較例72は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は実施例119と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例73は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、実施例119と同様にして得られるSi含有炭窒化物被膜である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表15に記載した。
【0147】
(比較例74、75)
比較例74は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例123と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例75は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例129と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0148】
【表14】
【0149】
【表15】
【0150】
【表16】
【0151】
表14〜16における各項目は表1〜3における各項目と同様の内容を示す。
(実施例134〜150):TiWZ
表17に示す第1化合物の組成、または表18に示す第1化合物および第2化合物の組成となるように上記陰極式アークイオンプレーティング法により被膜を形成し、表面被覆切削工具を製造した。
【0152】
(比較例76〜82)
比較例76として、第1化合物においてタングステンを含まない炭窒化物(すなわち具体的にはTiCN)による被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例77として、TiAlCNからなる被膜を基材上に形成した表面被覆切削工具を製造した。また、比較例78は、実施例135の第1化合物と同じ組成の化合物からなる被膜を形成したものであるが、成膜時のバイアス電圧を50Vに変更することにより(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/Aが1以上となる点において実施例135とは異なる表面被覆切削工具である。また、比較例79は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例135と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例80は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが0.1未満となることを除き他は実施例135と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0153】
比較例81は、第1化合物において上記化学式における原子比Yが2を超えることを除き他は実施例135と同様にして得られる表面被覆切削工具である。比較例82は、ターゲットとしてTiに、Ti単独の代わりに、Tiに10原子%(第1化合物の欄の金属組成に対する割合)のSiを混合したものを使用した以外は、実施例135と同様にして得られる表面被覆切削工具である。これらの比較例の表面被覆切削工具の物性等を表17に記載した。
【0154】
(比較例83〜86)
比較例83は実施例144の第1化合物と同じ組成の化合物からなる被膜を形成したものであるが、成膜時のバイアス電圧を20Vに変更することにより(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/Aが1以上となる点において実施例144とは異なる表面被覆切削工具である。比較例84は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例140と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0155】
比較例85は、実施例150の第1化合物と同じ組成の化合物からなる被膜を形成したものであるが、成膜時のバイアス電圧を20Vに変更することにより(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/Aが1以上となる点において実施例150とは異なる表面被覆切削工具である。比較例86は、第1化合物において上記化学式における原子比Xが0.3を超えることを除き他は実施例146と同様にして得られる表面被覆切削工具である。
【0156】
【表17】
【0157】
【表18】
【0158】
表17〜18における各項目は表1〜3における各項目と同様の内容を示す。
【0159】
【表19】
【0160】
【表20】
【0161】
【表21】
【0162】
表1〜18より明らかなように、本発明の実施例の表面被覆切削工具は、比較例の表面被覆切削工具に比し、クレーター摩耗の低減化および耐摩耗性の向上の両者において優れた結果を示していることは明らかである。このように、本発明の表面被覆切削工具は優れた切削性能を有したものであることがわかる。また、表1〜18の結果から、特に、多層の積層構造にすることで被膜の耐欠損性を向上させることができ、なかでも積層周期が10nm程度とした場合に、最も耐欠損性に優れることがわかった。また、第2層にTi
0.35Al
0.5V
0.15N
1を使用することで耐欠損性の向上がみられなかった。
【0163】
なお、上記した実施例においては、基材上に被膜としてチタン化合物層のみを形成した構造であるが、基材上に前述のような下地層を形成し、その下地層上にチタン化合物層を形成することもでき、そのような場合には基材と被膜との密着性をさらに向上させることができる。
【0164】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0165】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。