(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
人の歯の3Dイメージングを始め、コンピュータ制御を使った新しい工程が歯科の分野に導入されたのは1990年代に入ってからである。このような新しいデジタル技術の発展によって矯正治療のための基本的に新しい器具が矯正歯科医に提供されつつある。この分野で初期に開示された特許、例えばAndreiko等の発明(米国特許第5139419号)には、歯の3Dイメージングのための初期の方法が記載されている。矯正歯科の治療法の基準を向上させるには、理想とする歯の位置を仮想的に決め、現在の歯を正常な位置に移動させるために必要な情報を得て、仮想的に咬合させる技術が鍵になる。最近では患者の歯の矯正に必要な3Dイメージングに係る治療工程が発達し、矯正歯科医が行う多くの商業サービスにも応用されるようになってきた。
【0003】
これらのデジタル技術が矯正歯科にも応用され、成功している例が商業ベースで使われているインビザライン(Invisalign)プログラムである。インビザラインプログラムは米国特許第5975893号(Chishti等)や米国特許第6398548号を始め多くの発明に基づいた技術である。以下にはインビザラインプログラムを詳しく述べるが、そこには矯正歯科に応用されるデジタル技術の技術的側面の全てが含まれる。本プログラムには新しいデジタル技術を使ったサービスに基づく新しい歯科経営のあり方が説明されており、また矯正歯科の治療に導入された新しい技術の利点が明示されている。本発明はこれらの領域の多くに浸透し、影響力を与えている。以下には、従来法に比較して本発明の改良された点、利点を明らかにするために、関連するインビザラインプログラムを包括的に説明する。
【0004】
インビザラインプログラムでは仮想的に歯を処置し、治療を終えた患者の歯の咬合を予測する。これは限定されたコンピュータソフトウエアの下で厳密に仮想化された治療後の、或いは理想化された歯の咬合であり、結果はコンピュータのモニタ上に表示される。その咬合から、段階的な高分子製の歯のポジショナ(positioners)を作製するための方法論が導き出される。アライナ(aligner)と呼ばれるインビザラインポジショナは、一般的に運動選手の着けるマウスガードと呼ばれる器具又は歯ぎしりによる破壊作用に対して歯を保護するために着ける軟プラスチック製器具等と外観上は類似する。インビザラインプログラムは従来のブレイス(braces)に代替する改良品として市販されており、テレビの宣伝では“見えないブレイス”と呼んでいる。
【0005】
インビザライン型歯ポジショナは薄く、透明でU字型のプラスチック器具であり、上述の仮想の歯による仮想モデルを基準に、コンピュータにより物理的に成形されたパターンから形成される。アライナは真空や圧縮、加熱などの工程の組み合わせにより形成される。この製作工程は矯正歯科医の間では非公式に吸引(suck-down)プロセスと呼ばれており、そのように作られたアライナは非公式には吸引タイプの器具と考えられている。
【0006】
インビザライン型のアライナは従来からあるガードタイプの器具に比べて薄い材料で形成される。通常、それに使われるポリカーボネート(PC)は硬いが、比較的可撓性を有し、また多少の弾性も備えた高分子である。他の材料例えばエチレンと、酢酸ビニル或いはプロピレンとの共重合体や単独のポリプロピレン樹脂、その他のオレフィン系の樹脂も吸引型のアライナに使われる。多くの場合、加工する前の素材はシート状である。換言すれば、アライナは標準的な工業向け高分子のシート材料の材料片から造られる。多くの材料は工業分野から供給されており、矯正用のアライナのために特別な材料が製造されることはない。一般に、汎用のシート材料は連続押出し成型或いはキャスティング成型によって製造される。吸引型の器具に使うシートの寸法は幅、長さ共に様々であるが、一般には厚さは0.75mm(0.030インチ)から2mm(0.079インチ)であり、特別な場合にはこれらよりも厚い材料又は薄い材料も使われる。
【0007】
一連のインビザライン型のアライナを作製するためにインビザラインシステムの技術者は、CADを使って患者の歯、歯茎、表皮から成る仮想モデルを得るために、患者の上歯と下歯一式を型取りする。通常、このようなモデルは一対の上歯と下歯の石膏モデルから成り、歯と口蓋と歯茎から構成されている。Andreikoの方法のように、上記の手順に従って得られたデジタルモデルは、CADプログラムの名前で知られるソフトウエアを使って画像化され、変更が加えられる。不咬合の仮想モデルが得られると、インビザライン技術者は仮想不咬合を矯正するための操作を含むステップを請け負うことになる。この作業によって、包括的かつ一連の工程により広範囲な歯の再配置が行われ、患者の歯は最終的な或いは理想とする咬合に到達する。最終的な咬合は仮想的ではあるが、患者の再配置された上歯と下歯による咬合と一致し、従来の満足すべき矯正治療と同じ結果を約束する。
【0008】
上記の一連の工程が完了すると、インビザライン技術者は仮想のCAD環境の下で利用可能な患者の歯について2つのバージョンを持つことになる。一方は治療前の咬合であり、他方は治療後を想定した理想的な咬合である。即ち、技術者は歯の矯正治療の最初と最後の状態を認識することになる。
【0009】
インビザライン技術者は熟練した矯正歯科医ではないことを銘記する必要がある。3Dイメージングと修正された咬合は仮想的であるため、担当医師はインターネットを通したオンライン通信でそれを利用することができる。インターネットのオンライン通信により医師に配信される特別な画像とメトリックスツールパッケージ(metrix tool package)を使えば、医師はインビザライン技術者が作成した各段階でのモデルの正確さと精度を詳細に検討することができる。医師は技術者の行った仕事を承認し、或いは技術者の仕事の内容と患者への医師の治療計画とが一致するように必要な指示を与えることができる。最終的に、医師は今後継続する工程を正式に承認しなければならない。
【0010】
技術者の完成させた仕事(work-up)を担当医師が承認すると、インビザライン工程の次のステップでは、通常は15〜25通りの増大発展する物理的形成モデル(incremental progressive physical forming model)を策定する。これらの形成モデルは、上述のように治療の最初から終りまでの歯の状態に適合して患者に提示された一連の治療に沿うものであり、将来の患者の或る段階における咬合の一様相に対応する。これを完成させるために、インビザライン技術者は仮想的な第1の遷移モデルを作製する。このモデルでは幾つかの或いはほぼ全ての歯について僅かに位置を変えてみる。この第1の遷移モデルでは、最初の位置から最終の落ち着くべき位置に移ることを想定して、幾つかの或いは全ての歯が第1の遷移位置まで移動するモデルを想定する。次いで、第2の仮想的な移動モデルも同様に作製し、そこでも望みの方向に向けて僅かに移動する仮想的な歯を想定する。インビザライン技術者の目的は一連の段階的なモデルを作製することで、それぞれの段階は前段階よりも僅かに進み、目標とする最終位置に向かって少しずつ移動する。最終的な形成モデルでは一連の移動位置から歯を取り出し、望みの最終位置に移動させる。
【0011】
一度、インビザライン技術者によって仮想的な一連の中間形成モデルが作製され、最終の形成モデルが作製されると、高速プロトタイプ装置(rapid prototype machine)として知られるデジタル制御のCNCフライス盤(CNC milling machine)を操作するために、一連の各モデルに対応するデジタルコードが使われる。高速プロトタイプ装置には、三次元リトグラフィや3D印刷のような既知の方法の一部が活用され、一連の物理的形成モデル(physical forming model)ができ上がる。一連のステップによって、各仮想的中間段階と最終段階に応じた硬い、物理的な実体コピーが生まれる。これらは仮想モデルではなく、むしろ硬い物理的モデルであって、手で扱うことができる。
【0012】
インビザラインプロセスの次のステップでは吸引型機械に装着された一連の物理的形成モデルを扱い、そこでは一定の厚みを持ったプラスチックシートから治療の各発展段階に使われる現実の一連のアライナを形成するために、圧力、熱、真空の各工程が同時に使われる。一連の矯正ステップ別のアライナが成形され、仕上げられると、それらには連番が付されて包装され、治療に当たる矯正歯科医に配送される。次いで、矯正歯科医は患者の予約スケジュールを作って、患者にアライナとその使用説明書を渡す時期を決める。患者には一連のアライナのうち、最初のものを一定期間(通常は2週間)装着するように指示が与えられる。その後に、最初のアライナの使用が終わると、患者は次の段階へと移ってゆく。
【0013】
アライナはインビザライン技術者によって仮想的に作られた位置的なバイアスに基づいて、患者の歯を強制的に移動させるように作用する。少しずつ力が加えられた歯は、アライナを形成する高分子材料の可撓性によって、予め決められた最終位置に向けて望みの方向に移動する。アライナがもたらす軟らかい、しかも継続的な力に応じて、歯の根元を支える骨の生成と再吸収を含む生理学的作用が始まる。最終的な結果は、歯を支える骨を介し、望みの場所と方向に向けた緩やかな歯根の漸進的矯正移動によってもたらされる。
【0014】
アライナに基づいて治療を行う矯正歯科医の役割は、歯が受ける肉体的な反応を看視し、治療スケジュールと患者の連携に注意を払うことである。担当医師は治療工程を設定する必要はなく、むしろ治療に専念する。何故ならば、アライナの機能と歯の移動計画は、インビザライン技術者によって別途に矯正サービスセンタにおいて作成されるからである。しかし、矯正歯科医にはインビザラインプログラムによって作成された診断手順を吟味し、承認する責任がある。
【0015】
矯正歯科のデジタル技術の進歩によって、仮想的な咬合データの応用範囲が広まってきた結果、いくつかの伝統的な作業手順が省略されたり、排除されるようになった。このような傾向が矯正歯科に対して、過去には歯科診療所の標準的な装置では想定し得なかった新しい装置と新しい治療法の導入を促した。例えば、矯正医師は前述のようにインビザライン技術者によって作製された仮想的な咬合の画像を見るために、インビザラインプログラムに含まれた3D分析ソフトウエアを入手し、その内容にも通ずるようになった。他の例としては、歯科治療用に最適化された走査装置CATがあり、診療室の据え付け用に市販品の購入が可能になった。同様に、診療所に据え付け用の走査装置や高速プロトタイプ装置の出現によって、商業サービスセンタのインビザライン工程のいくつかは、バックルームラボラトリーに移動することになるであろう。これらは全て、発展中の“デジタル矯正歯科”に対する考え方を反映している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明において患者の歯を矯正するアライナを作製する際に、ケースを加工するための一連の手順を示したフローチャート図である。
図2は本発明の主要なシステム要素を示したブロックダイアグラムである。
図1の最初のステップ10で示すように、矯正治療の最初の状態を認識するには患者の歯の解剖学的構造(anatomy)のデジタルモデルを走査する必要がある。これには多くの方法が使われているが、例えば石を使ったモデルや歯の印象(impression)の走査、或いはハンディタイプのスキャナによる患者の解剖学的構造の直接走査、更には歯のネガティブ印象のCATによる走査などが含まれる。
【0024】
図2に示すように、得られたデータは患者の解剖学的構造26のCADモデルを形成する際にCADソフトウエア22を使って画像化し、加工できるようにコンピュータ20に取り込まれる。CAD技術者は仮想的な矯正モデル(
図1のステップ11)を作製するために、CADソフトウエアを通して患者の歯の解剖学的構造26を元に仮想モデルを作成することができる。例えば、このプロセスはモデルに対する一連の仮想的歯科矯正法を策定するためのインビザラインプログラムに類似させることが可能であり、その後に矯正治療の過程で使われる一連のアライナを作製する際に使用される。より簡略化されたケースでは、ユーザーは1個のアライナに対するCADモデルから、1本の歯或いは数本の歯を仮想的に矯正することもできる。多くの矯正されたCADモデル(即ち、多くの作製されるべきアライナ)と各モデルに連携する仮想的な矯正方法は技術者の裁量に依存し、また1個のアライナがもたらす生理学的反応の程度をどのように予測するかにも影響される。
【0025】
図1のステップ12においては、対応するアライナのCAD固形モデルを作成するために修正された各CADモデルが使われる。読者はアライナとそれに対応する形成パターン(例えば、アライナを形成するインビザラインプログラムで使われる)は、アライナを特徴付けるCADの表面とほぼ一致することを理解しておく必要がある。言い換えれば、一方の手でアライナを、他の手で吸引されたパターンを保持したとすれば、それぞれの手は本質的に同じ仮想のCADモデル(即ち、互いに陰陽の関係にある)を表すことになる。この類似性を更に説明するために、読者は一般的にインビザライン型における吸引形成パターンの凸型の外部表面は、3Dトポロジカルな意味においてそのパターンから形成されるアライナの内面、一般には凹型の表面に一致することを認識しておく必要がある。
【0026】
アライナの表面をロボット操作によって機械加工してそれらの表面を完成するために、CAD技術者は3DCADのオフセット表面 (offset surface) 機能と呼ばれる標準的な仕様のCADソフトウエア22を使うことができる。この機能を使えば僅かに外に向かって広がる第2の表面が定義される。この表面は最初の内面42と同心円上にある。そのような表面はCNCフライス盤(CNCミリングマシン)28を操作してアライナの外面を加工する際に使用される。また、予め作成された模様を一様にオフセットすることによって、当初に定義された表面から内側に僅かにずれた面を得ることができる。言い換えれば、薄い壁を持つ高分子のアライナは所定の厚みを有する第1、第2のオフセットされた面として画像表示される。
【0027】
CNCフライス盤により作製されるアライナの形態を完成させるために、CADの技術者はCADソフトウエア22を操作して患者の仮想咬合に基づいて予め定義された形態の表面から、例えば1mmの間隔をおいて全ての点にオフセットされた表面を作製する。CADソフトウエア22は元の内面とオフセットされた外面の間に生成されるどのような空間も固形物と見倣し、内面と外面の間に挟まれた空間は空隙であると認識しない。例えば、アライナの周囲を定義し、仮想的に整形すると、仮想CAD空間には一様の厚み(例えば約1mm)を持つCAD固形モデル27が現れるはずである。
【0028】
仮想的に作製されたアライナは、患者の仮想的な咬合を定義して作製するインビザラインプロセスと同じステップに基づいて作製される。しかし重要なのは、設定された仮想モデルがアライナの内表面であることを実質的に容認すれば、アライナは歯列10の仮想的なモデルから直接設計できるという点である。例えば、
図3は患者の歯のネガ版からアライナの内表面32を作製するためのCADモデル30を示したものである。一度形態が決まると、上述のアウトセットステップ(オフセット表面機能)は、これらの第2の表面(即ちアライナの外面)のセットを作製するために使われる。アウトセッティング値はアライナの仮の厚みを設定する。
【0029】
更に、本発明にはアライナのCAD固形モデル27で仮想的に設定されたアライナの内面及び外面に基づいた機械操作が含まれる。インビザラインプログラムによる外面の生成パターンと同様にアライナの外面がロボット操作によって作製される。更に、CADソフトウエアがオフセット面を規定できるのと同様に、オフセット面はロボット操作により作製することができる。このことはアライナの内面42と外面はいずれも機械加工で作製され、従ってアライナ全体は完全に機械加工で作製されることを意味する。CADモデルの表面の情報をCNCフライス盤の一連の制御プログラムに変換する(
図1のステップ13)ために、従来のコンピュータ制御による製造法(CAM)、例えばMasterCAMが使われる。
【0030】
MDX-40フライス盤あるいはローランド社(Roland ASD, 25691 Atlantic Ocean Drive, B-7, Lake Forest. CA 92630)が製造する他のモデルが本発明の目的に適合しており、治療室で通常の矯正治療用に使う歯科装置にも容易に付加することができる。アライナを機械で製作するには、それに適した適度の大きさからなるブロック状の素材40(即ちブランク)がCNCフライス盤28のプラテン(platen)上に置かれ、機械と直角方向に据えられる。例えば、素材にはアライナに適したブロック状の高分子材料が用いられる。素材は通常ではU字型をしたブロック状の材料で、機械作業の削減のために患者のアーチとおおよそ同じ大きさにする。材料の塊はCNCフライス盤28の中で大きな切削器具を使い、適度の軸回転速度と適度の材料除去速度の条件下で加工される。歯間領域、歯肉の端部、歯の咬合時の解剖学的構造に隣接するアライナの形態を設定するために、作製されるアライナの内面42は、まずCAMソフトウエア24内に読み込まれたプログラムの指示に従って、サイズの小さい切削工具に徐々に切換えながら加工される。CNCフライス盤28の工具交換器(tool exchanger)には、例えば最小の物では0.012インチの直径を持つボールミルを始め多くの切削工具が取り付けられる。切削工具はアライナの精緻な形状と詳細を形成するために十分な種類のサイズが用意されている。
図4はブロック状の素材40の斜視図であり、そこでは患者の歯の雌型の内面42が
図3のCADモデルからCNCフライス盤によって製作される。素材40に機械加工される生物学的表面はアライナの内面になる。
図5は口蓋の表面44を含むアライナ内面の他の実施例である。アライナが完成すると、口蓋の表面44は口蓋に接触し、横断的に装着される。
【0031】
内面42が切削加工されると、次に外面の加工を完成させるために素材40を裏返して内面42が下側を向くようにする。その際に、材料にはほぼ空洞ができているため、そのままアライナの外側部分を切削加工すると、機械に据えられた材料がミリングカッタからずれてしまう。このようなずれを避けるためには、アライナに加工されるブロック状の素材40全体をCNCフライス盤用に適当な材料で作製した支持パターン60(
図1のステップ15)で支持するとよい。例えば、支持パターン60は内面42や支持パターン60に載せられる素材40と同じネガティブな表面形態に対応するポジティブな鏡像になり得る。支持パターン60は切削工具に生ずる力に呼応して、内部側にずれないように内面42をむらなく支持する。
図6はアライナの外面を切削するに先立って、支持パターン60に置かれたCNCフライス盤で加工される素材40の斜視図である。機械加工されるブロック状の素材40が支持パターン60の上に正しく載置されると、通常の凹型の形態と表面は支持パターン60の凸型の形態と表面によって固く支持されることになる。
【0032】
外面が加工される間、素材40が載せられる支持パターン60はその表面がアライナの内面を補完するので、アライナのCADモデルから設計することができる。このように、CADモデルはアライナのCADモデルに基づいて作成された一式の指示に従うCNCフライス盤により製作することができる。支持パターン60は精度の低い条件で機械加工され、アライナ自身に対するよりも粗い切削工具で切削される。これによって支持パターン60の製作時間は短縮される。また、支持パターン60は必ずしもアライナと同じ材料で製作する必要はない。事実、支持パターン60はコストの削減と作業の速さのみを考慮した最適の材料から造ることができる。代りの作製方法として、このような支持パターン60はBurlington MA.のZ社が市販する310プラスプロトタイピングマシン(310 Plus prototyping machine)を使って、他の製作工程、例えばエポキシとコーンスターチで一部を生成する方法により作製することができる。更に他の代替手段として、支持パターン60はデジタル手段で作製した石や硬いフォームのような材料に鋳型して作ることができる。また、支持パターン60はアライナの選択された部分(例えばアライナの最も薄い部分)のみを支持するように、より効率的に作製することもできる。
【0033】
素材40が裏返えしにされ、支持パターン60によって支持されると、アライナの外面(即ち第2の面)がCNCフライス盤(
図1のステップ16)で機械加工されるようになる。アライナ表面の機械加工の順序は逆にしてもよい(即ち、アライナの外面を内面より先に加工する)。アライナの内面も或いは外面もCNCフライス盤で最初に一方の面が加工されれば、続いて反対側の面が加工されることになる。
【0034】
本発明は余分な材料をトリミングしたり、アライナの歯肉端の輪郭をトリミングするステップが、好ましくはCAD設計ステージ或いはCAMプログラミングステージに組み込めることを見込んでいる。また、手作業でのトリミングも可能である。他の表面加工後の作業(
図1のステップ17)もまた必要に応じて取り入れることができる。いずれにせよ、結果として
図7に示すように全て機械加工され、完成されたアライナ70が得られる。
【0035】
CNCフライス盤加工の1つの欠点は、CNCフライス盤で加工すると、アライナ70の仕上がり面の透明度が吸引工程を使った従来型のアライナに比べて劣ることである。機械加工されるアライナの内面及び外面の仕上がりは、CAMプログラミングステージ(CAM-programming stage)の間、可能な限り小さなスキャロップ高さ(scallop height)に特定して、大きなボールを使ったエンドミルと、速い主軸速度の条件を揃えれば改良することができる。そのように仕上がりを改善するステップは、CAD/CAMを使った機械加工分野ではよく知られている。
【0036】
機械加工されたアライナは、火炎処理、化学処理或いはコーンコブ(corncob)や木片など或る種の軟らかいメディアの中で研磨する等の後工程によって高い透明度に仕上げることができる。火炎処理を含むアライナの仕上げを改善する工程に関して云えば、他で火炎処理されたアライナ70に適用すると、材料が多少収縮する傾向が見られる。収縮を避けるには、アライナ70を対応する支持パターン60に据えながら火炎処理するとよい。
【0037】
アライナを作製するために、CNCフライス盤を使う利点の1つは、矯正治療の中間段階において形成パターンの作製に要する費用、時間を節約し、生ずる廃材を減らせること、そしてそれらの後に来る吸引ステップが省略されることである。更に、上述のようにアライナを作製する吸引ステップでは、真空成形と呼ばれる加工技術に類似して熱が発生する。一般に、シート状のプラスチックを真空成形すると、発生する熱によって材料が収縮し、歪む傾向がある。本発明の場合はそのような熱は発生せず、従って収縮、偏りなど寸法に係る問題の発生は避けられ、またCADの仮想レベルにおいては収縮を補償するために行う簡単な寸法取りも不要になる。これらの特徴に加えて、完全な機械加工により作製されるアライナの持つその他の重要な長所は、以下に述べる工程内でも発揮される。
【0038】
本発明の発明者は矯正治療においてアライナの使用経験が豊富であり、他の技術改良にも貢献してきた。例えば、本発明者の発明、米国特許第6293790号の“加熱する矯正用プライヤ”には、高分子材料で作ったシェルアライナを改良する際に有効な、一連のスチール製の歯科用プライヤが開示されている。これらのプライヤは市販されていて、“サーモプライヤ
TM”と呼ばれている。サーモプライヤは手に持って使う一連のスチール製プライヤを意味し、使うときは所定の温度にまで加熱する。これらのプライヤは一度加熱されると、アライナ構造の一部を軟化したり、加熱流動(或いは加熱生成)を起こさせ、それによって種々の有用な形態や改良品の形成が可能になる。サーモプライヤを使ってアライナをベースとする治療が拡大した例を以下に示す。
【0039】
サーモプライヤを使う代表的な治療には、矯正歯科医が共通に抱える課題に対応可能な技術が使われる。この課題とは、大きく回転した歯を矯正する際に遭遇する治療の困難さである。残念ながら、アライナの歯の受容部分とそれに対応する歯の間に、僅かな位置のずれ或いは歯の僅かな突き出しがあると、大きく回転した歯の矯正には効果のない力のベクトルが生じてしまう。トルクをかけたり、歯の前後に加える力に比べ、アライナによって回転力を与えるのはかなり困難である。回転した歯を完全に矯正できる能力をアライナに付加するために、矯正歯科医はアライナの構造に小さく、鋭い、内側に向いた隆起(bump)の形態を熱加工できる一式のプライヤを使用する。そのように熱加工された隆起をアライナの歯を収容するコンパートメントの壁に形成するためには、プライヤを高度に操作する技術が必要になる。このように手が加わったアライナが口内の正しい位置に取り付けられると、配置された隆起は、歯を望むように回転させるための機械的に最も有利な力のベクトルを発生するようになる。
【0040】
このような隆起を治療で使用する状況を示すために、遠心舌側(disto-lingually)に回転した上顎の左側の歯を考えてみる。第1の隆起は遠心舌側(disto-lingual)表面の歯に接触するように遠心咬合側(disto-incisal)の位置に据えられ、第2の隆起は同じコンパートメントの近心舌側(mesio-labial)の咬合側の位置に形成される。治療中にこのように共働する隆起は、この例のように近心舌側(mesio-lingual)方向に両者の合成された回転力を生成する。このようにバランスがとれて合成された力は、アライナを使った回転矯正には非常に有効であることが証明されている。この例に引き続き、担当医は最初にアライナのコンパートメントの部分的なバイアスだけに頼り、上述のような修正を伴わない、造られたままのアライナを使って部分的な回転矯正を行う。歯が作製したままのアライナに暫く反応したならば、歯の完全な回転に向けてその後に残される矯正手段は、上述した最適なサーモプライヤを使ってアライナを活性化することである。それぞれのアライナの持つ矯正能力を完全に引き出して、歯を収容するコンパートメントに熱加工された活性隆起の作用を更に広げるために、2回目の熱加工が施される。このようにして、1個のアライナは使われて廃棄されるまでに、多くのステップを含む漸進的な治療フェイズのために寄与することができる。このようにアライナを漸進的に活性化すれば、歯はそれに反応して移動し、その結果矯正力が消失して付加力は低下することになる。そのように修正することで、再配置する歯にはより一定の生物学的力が加えられようになり、その結果、この方法は歯を最速で移動するのに適していると考えられている。
【0041】
既述の隆起は、隆起に隣接するアライナ構造の領域に部分的に蓄えたエネルギを集中させるように作用する。隆起が内部に向かって突き出るとアライナの材料は歯の表面から離れた領域で外側に撓むことになる。このような位置を占めることによって、隆起は貯蔵されたエネルギを広い領域から集めて、機械的に最も有効な位置において歯にそのエネルギを集中させ、その結果、矯正力を最も効率的に絞ることができる。
【0042】
サーモプライヤの他のタイプには、アライナの特に構造の形態を成していない領域に弾性を持つフック形状を、直接熱加工するための挟み口を備えたものもある。フック状領域72は
図8に示すように矯正弾性体74の固定点として使われる。弾性体74は治療中に必要に応じてアライナ70(或いはアライナと歯に固着した他の構造体)の区画化された部分の間で、互いを牽引する力を付与する。同様に、他のサーモプライヤは熱加工された形態を高分子シェル中に取り込むことによって、アライナの働きをより一層高めている。
【0043】
矯正歯科医がアライナを製作当初の形態から高分子シェルタイプのアライナに変更して使う他の治療法についても検討したい。読者はアライナに形成されて、歯を収容するコンパートメントの内側にあって、歯に接触する表面について考察する必要がある。器具が納められ、正規の場所に位置すると、どの1つのコンパートメントの内側も歯を取り囲み、歯と隙間なく接触するようになる。歯を移動させるのに有効な1個の隆起を取り付けることによって生ずる力のために、コンパートメントの反対側の内壁は、その方向への歯の移動を許容するように緩和されるか、或いは除去されなければならない。矯正治療で歯を動かすときの原則によれば、たとえ望ましい方向に歯を動かすように力を加えても、歯に対する全ての障害が除かれ、動ける自由なスペースが与えられない限り、歯は移動できないはずである。そのような場合に、矯正歯科医は移動に必要な自由なスペースを作り出すために、材料を離散的にカットしてアライナの形状を修正することになる。そのようにカットされた形状は開口(windows)と呼ばれている。開口は歯が望ましい方向に移動できるように、アライナの材料をトリミングすることによって形成される。もし、治療計画で隆起を舌側に形成したい場合は、アライナの開口は例えば歯の唇側に作られる。隆起によって歯の舌側に形成された集中力が、唇側に平均的なしかし反対の拘束力の発生を回避させ、それによって歯は事実上、アライナの唇側に開かれた開口に向けて動くことになる。他にも自由な空間を作るために、他のタイプのサーモプライヤが使われる。特殊なサーモプライヤは加熱されて、例に挙げたようにアライナ材料が歯の唇側で働くように使われる。実際には、アライナの外側に向いた形態として泡が形成される。正しい形が得られると、歯はその自由なスペースに向けて動けるようになるが、同時に歯にストップをかけて必要以上に動くことを防ぎ、柔らかいが唇と頬の内側に向かう不必要な力から歯を守ることを可能にする。
【0044】
アライナの構造に付加する有用な熱成形には、次のような工程が含まれる。歯の先端を内側或いは外側(トルクと呼ばれる矯正)に回転させる際に、歯が本来のあるべき位置にあって、その望みの方向に向けて立てる(トルキング)ことだけが要請される場合には、開口は門歯に対応するアライナの一方の側にのみ切り込みを入れて作製される。舌側にあって門歯の先端近くに隆起を付けると、門歯の歯冠の先端は唇側の開口に向けて徐々に反応する。この例の場合には、アライナのコンパートメントの大部分は依然として動かない歯肉の部分を保持しているので、歯はその望ましい位置から外れることなく、立ち上がることができる。
【0045】
この一般的な手順と類似の手法を使って、矯正歯科医師はコンパートメントに一方の側に押す力を加え、反対側の面に対しては支持する歯槽骨を通して離散的に歯根を正確に曲げ、トルクを加え、回転させ、全体的に移動するように誘導する。アライナを使う治療法の大部分は、歯の総括的な治療の場で発達したもので、部分的な歯の移動、簡単な修正或いは仕上げの機能などに限定されることはない。
【0046】
高分子シェルの治療能力を最大限活かすための他の方法は矯正歯科によって習熟されたもので矯正歯科の文献にも紹介されている。サーモプライヤを使ってアライナに開口を取り付けて補助手段としたり、アライナの矯正力生成の可能性を増幅したり、平均化したり、再活性化したり、寿命を延長させる他の手段が知られるようになった。例えば、米国特許第6702575号は“矯正アライナ補助システム”と題する特許で、アライナの有効性を拡大する技術を開示しており、参考までに紹介する。上記特許ではアライナの物理的構造に別々の補助具を取り付けており、そのような補助具を備えたアライナを作製する関連の方法が開示されている。以下には、これらの補助具がどのように機能し、どのように作られるのかなどについて記述するが、それらはアライナ構造に取り付ける最初の段階で行われるものである。
【0047】
米国特許第6702575号はアライナ構造に意図的に位置付けられ、付加された一連の小型のデバイスを開示している。このようなデバイスは“アライナ補助具”と呼ばれている。これらの補助具を着ける前に、歯科医は例えば中間段階でケースがどのような状態になっているかをチェックし、特に望みの歯の反応が鈍かったり、対象となる歯が矯正力に抗して動かなかった場合など問題のある個所があればそれを記録しておく。アライナの補助具はアライナに矯正を促す矯正力を増幅し、集中させるためにこれらの位置に据え付けられる。例えば、タック90(
図9参照)と呼ばれる補助具は、アライナの歯を納めるコンパートメントの壁に所定のサイズの孔を空けた後に据えられる。孔の直径はタックの足の部分の直径よりも僅かに小さい。次に、タックを据え付けるプライヤは、孔を通してタック90の頭部を強制的に叩くために使われ、その結果、アライナ構造内にタックが緊密に保持される。タックはアライナに緊密に保持されるように、開けられた孔を通して取り付けられる。このように漸進的にサイズの変更するタックと他の補助具は市販されており、矯正歯科医はこれら補助具をアライナの歯の位置を矯正する力を増大させ、延長させるために使う。
【0048】
生理学的に歯を移動させる際に最適な力を配分するために、タック90のような補助具を装着すると、前述の隆起を装着した場合と同様の効果が得られる。しかし、
図9や米国特許第6702575号に記載されているような一連の漸進的に長くなるタックを使えば、長時間に亘って漸進的に制御できるようになる。実際に歯科医は、最初に作製されたままのアライナを使って一連の治療計画を策定し、当初はサーモプライヤによる活性化、開口、タック、隆起あるいは同様の活性化や付加については考慮しない。患者が使うと、そのようなアライナは2〜6週間で駄目になるが、殆どの場合は2〜3週間しかもたない。次の診療予約では最も短いタック(labial-lingual間の距離)がアライナに装着されることになる。ドーム状の部分は臨床医によって決められて、アライナの歯のコンパートメントにまで延びることになる。タック90は各歯に直接接触し力を作用する。患者の診療予約の時間間隔は、歯の移動の予測された量に呼応して大方制御される。次の予約になると、歯科医は最短のタックを外して中間の長さのタックを装着し、短いタックを廃棄する。タック付近のアライナ構造に蓄積されたエネルギが歯の生理学的反応に呼応して消費されると共に、3個のタックの内、最長のタックが装着され、中間長のタックは外されて廃棄される。適した器具を使い、医者の指示に従えば、患者は家でも漸進的なアライナを装着できると本発明者は考えている。アライナにそのような融通性を持たせれば、予約に伴う頻度や費用は減少し、治療費全体の削減に繋がる。
【0049】
読者は矯正歯科医が作製したままの漸進的なアライナを使う利点の恩恵に浴してきたことを理解すべきであり、そこでは歯の位置間にバイアスがかかった歯の収容コンパートメントのみが生理学的に活性化された歯の移動機構を供給することになる。インビザラインプログラムは矯正歯科医に対して、1つの商業べースでも成り立ち、歯科で運用されるサービスビューロタイプのオプションを提案している。そのような漸進的なアライナをベースとする治療は成果を上げているが、いくつかの領域ではまだ改良する余地がある。インビザラインタイプの治療では、極端な場合に50個のアライナを必要とする。それよりも少ないアライナで済む治療の場合でも、まだかなりの出費を要する。これまでの詳細な記載には、アライナの補助具の形態や補助具そのものに係る多くの技術が、アライナの矯正力を増幅し集中させ、力の配分を延長させる可能性を備えていることが述べられている。
【0050】
特に、ロボット操作による素材40の固形ブランクから直接的にアライナを作製する本発明は、上記をカバーするアライナに新たな性能を備えた多くの形態を同時に付加するための門戸を開いたことになる。例えば、
図1のステップ11(CADモデルの仮想的な矯正)やステップ12(アライナのCAD固形モデルの作製)は、CNCフライス盤でアライナ中に形成される孔、隆起、開口、隆起したランド、厚みの厚い個所或いは薄い個所など補助具を収容する形態に取り込んで、アライナの機能を拡大させる可能性を有している。アライナのCAD固形モデル27は矯正治療の際に歯間の力や特別な口内力を供する目的で、アライナに他の矯正コンポーネントを付加するための構造的装着点を組み込むように改良することができる。
【0051】
次に、本発明の重要な利点と融通性について述べる。従来型のアライナもCNCフライス盤28によって機械加工される。そのようなアライナは通常0.75mm〜約2mmの範囲の厚みを仮の厚みとして、内面42からオフセットされた外部トポロジを提供することができる。アライナはその形態を通して、全ての点において厚みは一定となるはずである。機械加工されたアライナと従来の真空成形されたアライナとを比較すると、真空成形にはプラスチックのシートの凸面が薄くなり易い潜在的な課題があることに注目すべきである。言い換えれば、真空成形に形成される凸面は加熱中により放射エネルギを吸収する傾向があり、また材料がこれらの高温に加熱された凸面を形成する際に、真空度が上がったり、過度に圧力がかかると材料は横方向に高い張力を受けて、凸面に沿って伸ばされるため、これらの領域では厚みが薄くなる。更に、吸引型のアライナの咬合する大臼歯の解剖学的構造の中の歯間のくぼみや、割れ目のように凹面に位置する部分の厚みは薄くならず、相応の厚みを持つであろう。もし、アライナが従来のように1mm(0.040インチ)厚の材料から真空下で成形されたとすれば、歯の咬頭の先端に位置する部分では厚みが0.026インチになる。反対に、凹面での材料の厚みは0.042インチにまで増大してしまう。
【0052】
上述のように、通常の真空成形される卵の仕切り容器、ブリスタータイプの包装容器などのサイズは、成形する時に使われるダイに比べ小さくなる。このため、標準的な真空成形用のダイでは数度のドラフト角度を見込んでおく。そうすることによって、容器は成形され、冷却された後でも型から外れ易くなる。同様に、従来の吸引型のアライナは通常の工業用途の真空成形と同様な材料と温度の下で成形されるため、真空成形に特有の収縮を回避することが困難になる。それを補償するために、ダイを僅かに大きなサイズに調整するが、直接にCNCフライス盤を使って製作するアライナの場合にはその作業が不要になる。本来的に予測され、そして中和すべき収縮が起こらないためである。
【0053】
熱収縮の問題を更に取り上げると、アライナに見る特別な領域での熱収縮の程度は材料の厚みに依存し、薄い領域では厚い領域よりも収縮し易くなる。上述したように、従来法で製作されたアライナは厚みにむらがあるため、熱収縮に差が生じ、厚み依存性が生ずる。これらの要素によって、本来的に熱加工されるアライナには、熱成形での収縮の差によって起こる歪みと、予測し得ない位置のずれが生ずることが予想される。現行のCNC機械加工によりアプローチすれば、これらの問題はいずれも回避できる。機械加工されるアライナは歪みの原因となる熱加工を必要としないので、形態全体に渡って均一な厚みを得ることができる。
【0054】
CNC機械加工されるアライナは、CAD技術者が作成したCAD固形モデル27の表面から直接採取し、マシンコードに変換したツールパスに基づいている。形成パターンを作製するステップと、形成パターンを漸進させるために用いられたラピッドプロトタイピングプロセス(rapid prototyping process)によるモデルで生ずる不正確さは、無駄な廃材や時間、コストと共に本発明によって回避される。これらいくつかの理由により、CNC加工アライナは吸引アライナに比べ、より正確に安価に、そしてより速く作製することができる。
【0055】
アライナ70を作製するCNCフライス盤加工用コード13はインターネットで送信され、更に、小さいベンチタイプのCNCフライス盤が矯正治療のために設置され、維持されると期待する考え方は、それほど妥当性を欠いてはいないので、たとえ走査や仮想ステップが距離をおいた他の場所で行われたとしても、矯正歯科医とそのスタッフによってアライナを作製するための全ステップは、1つの場所で行われるとする考え方が現実的になっている。
【0056】
上述のように、漸進的なアライナの後ろ盾となる矯正歯科的治療の原理には、アライナの中に生成する歯を受け入れるコンパートメントの位置間に漸進的にバイアスをかけることを含むが、他にも漸進的なアライナを完成するための知られている手段がある。例えば、アライナのための一連の活性化のオプションには、サーモプライヤによる部分的な熱加工とタック90を含む漸進的に長く、硬く、大きくなる補助具の接着が含まれる。これらの物療器具はアライナが第1のフェイズでは作製されたままの状態で、続く第2、第3(或いはそれ以上の)フェイズにおいては生理学的に適正な矯正力が維持されるように、漸進的に活性化されて漸進的な機能を達成することができる。
【0057】
1個のアライナの形態から漸進的性能を得る従来の他の方法では、同じパターンからアライナを吸引するが、その際に少しずつ厚い材料を使う。もし厚みの異なる、例えば0.040〜0.060インチそして0.080インチのシート材料を使って、同じパターンから3個のアライナを作製したとすると、これら3個のアライナを順次に使えば漸進的なアライナ性能が発揮されることになる。言い換えれば、最初に最も薄いアライナを使っても或る程度の歯の位置矯正は達成されるであろう。同じパターンから作製されるが、厚み0.060インチを持ったアライナも歯には適合するはずである。或る程度の歯の位置矯正はそれまでに終わっているので、歯を収容するコンパートメント領域におけるアライナ材料のエネルギ蓄積は部分に限られるが、器具は厚い材料から形成されるために、歯に供給される矯正力はより薄い0.040インチの厚みを持つ材料によって達成される平均的な力の水準と同程度になるはずである。そのため、0.060インチの厚みにしても、同様に歯の継続的な位置矯正は行われ、それを使い終わった後に、薄い材料よりも撓み難く、硬い0.080インチの厚みを持つ材料に変えても、同様に平均的な力のみが加わることになる。
【0058】
厚みが増してゆく材料から、CNCフライス盤を使ってアライナを作製するステップには相応の利点がある。例えば、上述のように厚みを増していく操作は、工業的に供給される標準的な厚みを持つシート状のプラスチックには依存せずに行うことができる。CNCフライス盤による機械加工では最適の厚みが決められる。例えば、矯正歯科医は厚みを一連の0.040、0.053、0.080インチに限定するよりは成長の早い若い患者に比べて、歯の再配置速度の遅い大人の患者には、0.040、0.053、0.066インチの厚みの順序を選択するであろう。
【0059】
薄い材料から作製したアライナは同じ形状であっても、厚い材料から形成されたアライナに比べて矯正力は弱くなるという考え方があるが、それは強い力を必要とする領域では厚みを厚くし、弱い力を必要とする領域では薄くしてCNCフライス盤加工を行うことの効用を示唆している。最初は仮の厚みで作製し、次いで厚みを変えてゆけるのであれば、日常的に困難な課題と向き合っている矯正歯科医には助けとなるだろう。例えば、どの不完全な咬合も、他の歯に比べ望みとする最終位置から離れた歯によって構成されている。更に、いくつかの歯は他の歯よりも小さいこともあるので、歯の大きさは歯を動かし始めるために必要な力の閾値の絶対値に対応関係がある。他の歯は皮層と歯槽骨から成る支持体間の境界周辺歯根が近すぎる等を含む多くの要素のために矯正は困難になる。更に、一部の歯では、他に比べて回転させたり、角度を変えたり、直立させることが困難になるかもしれない。また、他の歯や歯列では、オープンスペースを埋めるために比較的大きな距離をできるだけ早く動かさなければならない。これらの全ての理由から、大きな歯や矯正されるべき位置から離れている歯、或いは頑固な歯を含む領域周辺でのアライナの厚み、即ち力のレベルを予め決めるための選択肢があれば、それらの特別な歯に対しては、小さなサイズで、より理想に近い位置にある歯に比べると、より強い力を作用させることができる。
【0060】
歴史を見ると、矯正治療には“差動力”と呼ばれる考え方があり、それは各歯に要請された理想的な力のレベルに基づいて、綿密に予測された歯への矯正力を意味した。差動力の考え方は、これらの要求される理想的な力のレベルだけを供給するように志向され、正しく調整されたばねを備えたハードウエアに基づいている。今日のアライナの作製に対しても、差動力の概念を当てはめてみると、CNCフライス盤で作製するアライナは、厚みの変化を注意深く制御できるため、歯と歯の間に差動力を作用させる目的にふさわしい技術であることが理解される。歯を囲むコンパートメントは、技術者が各歯のニーズに従ってCAD/CAMレベルで作製した壁の厚みを有する。CNCフライス盤で作製したアライナは内面と外面の間に制限のない、独自のオフセット厚みを持った一連の領域を備えることができる。
【0061】
その他CNC機械加工されるアライナのみが有する利点は、既に述べたようにアライナの一連の活性化と補助的なデバイスの付加に当たって、多様性或いはデザインの自由度が与えられることである。CNC機械加工により、そのような補助具を如何にしてアライナに付加するかを示す代表例が、現在市販されている発明者の発明になるサーモプライヤ機能の使用である。特に、サーモプライヤで加熱され、アライナに導入された形状には熱成形によりアライナ構造に直接装着するフック構造があった。そのようなフック状領域72は弾性体74を付加するための支柱の働きをする。矯正に使う弾性体は広い範囲の壁の厚さと直径に対応し、或る場合に弾性体は数100グラムに及ぶ非常に大きな牽引力を発生する。このように非常に大きな牽引力を要する場合には、熱加工したアライナのフック状領域72は、潜在的な破壊力或いは歪みを発生する力に耐えられるように更に補強されることが望ましい。フック状領域72を厚くすれば、確かに或る種の補強が成され、厚みを増したフック状領域は強くなり、従って回りに歪みを生じさせることなく、強い弾性力に対応することができる。更に、CNCフライス盤によって、フック状領域72或いは類似の形態をアライナに形成することもできる。
【0062】
発明者によるプライヤの他の使用例は、上述のように歯に接触する隆起(bump)の取り付けである。著しく回転した顎の中心にくる歯を、回転矯正するような極端に困難な治療の場合には更に強い非常に強固であって、一般的に必要とされるものよりも、更に強い力が加えられる隆起が必要になる。このような場合に、通常の隆起よりも大きな隆起を受け入れる領域のみが仮想のモデリングレベルにおいて、周囲よりも厚く加工されるべき領域として認識される。CNCフライス盤加工の途上では、オフセット間隔(内面と外面間の厚み)は、隆起形態の周辺領域に比べて大きな値に設定される。例えば、アライナ全般に亘る厚みの初期値が0.035インチであれば、特に丈夫な隆起を受ける領域の厚みは0.042インチに増やすことになる。更に、本発明によるCNCフライス盤を使ったアライナの熱加工に比較した有利な点の例として、開口タイプのレリーフをアライナに取り付けられることが挙げられる。そのような領域に開口を設けるためには、機械加工によって内面42の部分から材料を取り除けばよい。
【0063】
更にその他の例について記載する。一般的にアライナは整形外科的咬合の不具合に対する矯正には、適用できないと考えられている。過蓋咬合、離間咬合、狭いアーチ、そして狭くアーチ形の口蓋等がこれら不具合の例である。それらは口蓋に係る2つのアーチ間の理想的な嵌め合わせからのずれであり、整形外科の問題であると考えられている。通常では、そのような整形外科的咬合の著しい不具合を矯正するには、大きな力を加える必要があり、そのために、特別な口内固定具が使われる。整形外科的矯正では他のアーチとは異なって、固定具のせり台の役割を果たすように、1個のアーチ全体を狭める必要がある。従来型のアライナは比較的薄いシート状のプラスチック材料を使って製作されるので、そのような大きな力に耐え得る固定点を付加できるほど構造的完全さを備えていない。そのため、アライナ構造に僅かに生ずる歪でも、歯を収容するコンパートメントの位置を変え、歯の移動ベクトルに影響を与えることになる。従来のアライナは一様に壁が薄いので、大きな外部の力を受けると歯から外れる恐れがある。例えば、アライナの外面は内面と同心円上に位置する必要はなく、特に後方では更にずれる傾向がある。CADでデザインし、CNCフライス盤で作製したアライナの外面は内面に対して並び方も位置も独立している。そのため、矯正用に配置された補助具の取り付け位置を決める場合に、完全な自由設計が可能になる。アライナの構造は幾らでも厚くすることができる。補助具を固定するねじを取り付ける際に、十分な深さを有する雌孔を開けることができる。その結果、これらの部分は厚さの薄い口内のセグメントや前方の部分に比べて、はるかに丈夫にすることができる。例えば、或る断面形状で見た場合に、厚みはアライナの後方では6mm(0.236インチ)或いは1/4インチの厚さになることもある。そのように補強すれば、整形外科的矯正や抜歯等により生じた隙間の埋め合わせ等に伴う高いレベルの力に対しても、構造的に十分な硬さを得ることができる。
【0064】
熱加工で作られる従来のアライナは薄く、一様に可撓性を有し、良く知られた硬いアクリル樹脂製のリテイナのように口蓋を横方向に引き締めるように取り付けることはできない。従来のアライナと同様に、薄い材料を口蓋に取り付ける構造を使うと、それ自体が歪んで使用できなくなる。しかし、どのような場合でも、壁の薄い構造では口蓋に移すための矯正力を維持し、移動し、抗することは困難になる。しかし、本発明のアライナは舌の歯肉の上端部から口蓋にかけて、横方向に延びる口蓋に接触する形態44を備えている。そのような口蓋に位置する所定の部分は2〜4mmの範囲の厚みを持って機械加工される。アライナの下部は同様に顎の柔らかい組織に密着して配置される。そのようなアライナの上側と下側の形態は口蓋移動ばね或いはナンスポジション(Nance position)と呼ばれる位置で機能する器具など、口蓋を拡張するデバイス(palatal expansion device)が受け入れられるように機械加工される。比較的角度のついたポイントや端部から成る一連の構造は、破壊を伴う咬合習慣をなくすことを目的に、口蓋に延びるアライナの前方部に取り付けられるように機械加工される。
【0065】
機械加工されるアライナは広範囲の厚みに対応できるので、本発明は歯の咬合する表面を覆う材料の厚みの変更も予期することができる。例えば、特に下側の第2臼歯の咬合のために厚みを増せば、上側の臼歯の出過ぎを遅らせたり抑えたりすることが可能になる。臼歯の咬合形態の上側に位置する空間によって、歯を収容するコンパートメントの内部に、歯を下側の咬合力から守るための空隙が確保される。そのような配置は、下側の伸びきらない臼歯を一杯に伸ばすために作用する。これらのステップは強すぎる噛み合わせを直すために、矯正歯科医師が取り組む仕事の一部である。
【0066】
顎によるクラスIIの咬合異状からクラスIへ進展させるために、矯正歯科医が使う他の良く知られた構造は機械加工されたアライナ70を使えば可能になる。例えばツインブロックカミング(Twin block camming)やインターウオーキングインクライン(inter-working incline)として知られる構造は、一対のアライナをCNC機械加工するのに使われる。そのようなインクラインは、僅かに傾いたランプの上側の第1臼歯と下側の小臼歯の咬合する場所に位置し、顎を前方に出さなければ完全に閉じてしまう患者を守るために作用する。更に、顎が継続的に前方に突き出ると、それに伴う生理的反応によって、顎がより前方に永久的に位置してしまう生理的適応性を誘引する。
【0067】
これまでも概略述べたように、CNCフライス盤には多くの場合工具変換器と呼ばれる部材が装着される。工具変換器には様々なタイプや大きさの切削工具が保持される。CNCフライス盤はCNCプログラムに沿って、フライ(fly)の上の切削工具を交換する。CAD/CAMプログラミングステージには、英数字をアライナの平面或いは曲面上に彫りこむ工程を持たせることもできる。数字や文字を製作するツールパスは、生物の表面を彫るためのツールパスと大差ない。工具交換器には、切削用に1/64インチ(0.0156インチ)の直径を持つボールミルを保持することができる。そして、グラフィック用の文字、使用する順番を示す連続した番号、あらゆる種類のIDナンバ、担当医又は患者の名前を機械加工したアライナ表面に彫りこむことができる。例えば、英数字はポジ版(standing)でもネガ版(intended)であっても、アライナの最適な位置に書き込むことができる。
【0068】
上記の開示は同時に示した図面と共に詳しく記載された本発明の多くの実施例から成る。ここに開発された技術は、種々の変更、修正、他の構造への再配置そしてそのほかの実施例も次の請求項に示されたこの発明の範囲から逸脱することなく本発明の教示のもとで実施可能であることを示す。