【実施例】
【0043】
<実験例1>
実験例1は、タングステン酸ナトリウム水溶液に含まれる各種不純物元素のイオンの陰イオン交換樹脂に対するイオン交換順位を調査するために行なわれた。まず、タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、不純物として、Vなどを含む超硬合金やスクラップ回収の過程でSi、Alなどが混入した超硬工具を硝酸ナトリウムの溶融塩に溶解させることによって溶融塩溶解物を生成した。そして、生成した溶融塩溶解物を水に溶解させることによって、
図6の模式的構成図に示すように、W濃度(実際には「WO
3濃度」のことであるが、以下「W濃度」として表記する)が60g/Lのタングステン酸ナトリウム水溶液からなる試料溶液16を調製し、これを容器15に収容した。この試料溶液16のpHをpHメーターで調査したところ、試料溶液16のpHは12であった。
【0044】
次に、Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂(商品名:IRA900J、ローム・アンフド・ハース社製、高さh:75cm、断面積:5.5cm
2)11b,12bがそれぞれガラスカラムに充填されたイオン交換樹脂塔11a,12aを輸送管13で直列に連結した。
【0045】
次に、送液ポンプ14によって、輸送管13を通して、上記のように連結されたイオン交換樹脂塔11a,12aに試料溶液16を空間速度SV(SVは流速を表わす単位で、体積流速を樹脂体積で割った値)=0.67hr
-1で通液させた(吸着工程)。
【0046】
そして、十分な量の純水をイオン交換樹脂塔11a,12aに通液させて陰イオン交換樹脂の洗浄を行なった(洗浄工程)。
【0047】
その後、溶離液(NH
4Cl濃度200g/Lの塩化アンモニウム水溶液と2mol/Lのアンモニア濃度のアンモニア水との混合水溶液)を空間速度SV=1.5hr
-1で通液させた(溶離工程)。
【0048】
なお、上記の吸着工程、洗浄工程および溶離工程を通して、イオン交換樹脂塔12aから流出した流出液18をフラクションコレクターにより複数の試験管17に分配して収容し、各試験管17に収容された流出液18におけるW(WO
3で検出)、Mo、VおよびSiの流出量をICP−AESにより検出した。その結果を
図7および
図8に示す。なお、
図7が吸着工程および洗浄工程における結果を示し、
図8が溶離工程における結果を示す。
図7および
図8の縦軸がそれぞれの元素の流出率(%;100×C/C
0)を示しており、横軸がCl型強塩基性陰イオン交換樹脂11b,12bの樹脂体積に対する溶離液の通液量の割合(すなわち、横軸の増加にしたがって時間が経過することを示す。以下同じ。)を示している。また、
図7の流出率(%)は流出液18中の各元素の濃度Cを原料溶液中の各元素の濃度C
0で割った値である。
【0049】
図7に示すように、吸着工程および洗浄工程においては、Siのイオン(SiO
32-)、Vのイオン(VO
3-)、Wのイオン(WO
42-)、Moのイオン(MoO
42-)の順にイオンが流出することが確認された。イオン交換順位の低い元素のイオンほど早く流出することからpH12の塩基性領域では、イオン交換順位はMoO
42-、WO
42-、VO
3-、SiO
32-の順であることが確認された。また、試料溶液16のpHを変化させて上記と同様の試験を行なったところ、pHが9〜14の範囲内では上記のイオン交換順位は上記と同様であることも確認された。
【0050】
また、
図8に示す結果から、VO
3-は、吸着工程においてCl型強塩基性陰イオン交換樹脂11b,12bに一旦吸着するものの、WO
42-に押し出されて、WO
42-よりも早く流出したものと考えられる。したがって、高濃度のCl
-を含む溶液ではVO
3-はWO
42-とともに流出するが、低濃度のCl
-を含む溶液ではVO
3-のみを選択的に除去することができると考えられる。その検証を以下の実験例2で行なった。
【0051】
<実験例2>
以下に示す条件により、吸着工程、洗浄工程、不純物除去工程、および溶離工程をこの順序で行なった。そして、実験例1と同様に、通液時間の経過に対するイオン交換樹脂塔から流出した流出液中のそれぞれの元素の濃度変化を求めた。その結果を
図9に示す。
図9の縦軸が流出液中のそれぞれの元素の最大の流出濃度に対する流出液中の濃度を示し、横軸が樹脂体積に対する溶離液の通液量の割合を示している。また、
図9の「高pH」および「低pH」は、それぞれ、後述する不純物除去工程におけるNH
4Cl−NaOHの混合水溶液を通液させた場合およびNH
4Cl水溶液を通液させた場合に相当する。また、
図9中の数値は、不純物除去工程において上記のそれぞれの溶液を通液させたときの流出液中のそれぞれの元素の最大流出濃度(mg/L)を示している。
【0052】
<吸着工程>
通液させる溶液:W濃度が30g/LでpHが9のタングステン酸ナトリウム水溶液
イオン交換樹脂塔:Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂(商品名:IRA900J、ローム・アンフド・ハース社製、高さh:250cm、断面積:5.5cm
2)をガラスカラムに充填したもの
SV:1.6hr
-1
通液量:Wの貫流点まで(WO
42-が流出するまで)
【0053】
<洗浄工程>
通液させる溶液:純水
SV:1.6hr
-1
通液量:イオン交換樹脂塔から流出する流出液の導電率が0.1mS/cm以下になるまで
【0054】
<不純物除去工程>
通液させる溶液:低Cl
-濃度の溶液としての、NH
4Cl濃度が5g/Lの中性のNH
4Cl水溶液(pH:6)(陰イオン濃度:0.09モル/L)、または塩基性のNH
4Cl−NaOHの混合水溶液(NH
4Cl濃度が5g/LのNH
4Cl水溶液と0.1規定のNaOH水溶液との混合水溶液)(pH:13)(陰イオン濃度:0.19モル/L)。ただし、ここでの陰イオン濃度の算出には、NaOH由来のOH
-は陰イオンに含めていない。
SV:1.6hr
-1
通液量:陰イオン交換樹脂の樹脂体積の5倍量
【0055】
<溶離工程>
通液させる溶液:NH
4Cl濃度が200g/LのNH
4Cl水溶液とアンモニア濃度が2mol/Lのアンモニア水との混合水溶液
SV:1.6hr
-1
通液量:陰イオン交換樹脂の樹脂体積の0.8倍量
【0056】
図9に示すように、SiO
32-については、不純物除去工程において、高pHおよび低pHのいずれの溶液を用いた場合にも樹脂体積の1倍量の通液量の時点で最大の流出濃度を迎え、樹脂体積の2倍量の通液量までには流出が終了している。WO
42-の流出は、SiO
32-の流出が完了した後に開始するため、低濃度陰イオン含有溶液を通液することでSiはWをロスすることなく除去できることが確認された。
【0057】
また、
図9に示すように、VO
3-については、不純物除去工程において低pHの溶液である中性のNH
4Cl水溶液を通液させた場合にはWO
42-が流出した後にも流出が続いている。しかしながら、高pHの溶液である塩基性のNH
4Cl−NaOHの混合水溶液を通液させた場合にはVO
3-の流出時間が早まるとともに最大流出濃度が高くなって、Vの除去に伴うWのロスが減少することが確認された。
【0058】
以上の結果から、不純物除去工程において、NH
4Cl水溶液を通液させた場合には、Vはその少なくとも一部が複合錯体を構成しているために、Vの流出が抑制されたものと考えられる。また、吸着工程で通液させるタングステン酸ナトリウム水溶液のpH、ならびに不純物除去工程で用いられるNH
4Cl−NaOHの混合水溶液のpHおよび陰イオン濃度をそれぞれ変化させて上記と同様の試験を行なったところ、タングステン酸ナトリウム水溶液のpHが9〜14の範囲内であって、NH
4Cl−NaOHの混合水溶液のpHが9以上の場合には上記と同様の結果が得られることが確認された。さらに、NH
4Cl−NaOHの混合水溶液の陰イオン濃度が0.01モル/L以上1モル/L以下である場合、特に0.1モル/L以上0.3モル/L以下である場合には、Vの除去に伴うWのロスをさらに低減できることも確認された。
【0059】
<実験例3>
実験例2では、WをロスすることなくVを分離して除去することができることが確認できたが、実験例3においてはタングステン酸ナトリウム水溶液に混入する可能性のある不純物であるNbおよびTaの除去可能性について検討した。
【0060】
実験例3においては、以下に示す条件により、吸着工程、不純物除去工程、洗浄工程、および溶離工程をこの順序で行なった。そして、実験例1および実験例2と同様に、通液時間の経過に対するイオン交換樹脂塔から流出した流出液中のそれぞれの元素の濃度変化を求めた。その結果を
図10に示す。
図10の縦軸が流出液中のそれぞれの元素の最大の流出濃度に対する流出液中の濃度を示し、横軸が樹脂体積に対する溶離液の通液量の割合を示している。
【0061】
<吸着工程>
通液させる溶液:W濃度が30g/LでpHが12のタングステン酸ナトリウム水溶液
イオン交換樹脂塔:Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂(商品名:IRA900J、ローム・アンフド・ハース社製、高さh:250cm、断面積:5.5cm
2)をガラスカラムに充填したもの
SV:1.6hr
-1
通液量:Wの貫流点まで(WO
42-が流出するまで)
【0062】
<不純物除去工程>
通液させる溶液:低Cl
-濃度の溶液としての、塩基性のNH
4Cl−NaOHの混合水溶液(NH
4Cl濃度が5g/LのNH
4Cl水溶液と0.1規定のNaOH水溶液との混合水溶液)(pH:13)(陰イオン濃度:0.19モル/L)。ただし、ここでの陰イオン濃度の算出には、NaOH由来のOH
-は陰イオンに含めていない。
SV:1.6hr
-1
通液量:陰イオン交換樹脂の樹脂体積の4倍量
【0063】
<洗浄工程>
通液させる溶液:純水
SV:1.6hr
-1
通液量:イオン交換樹脂塔から流出する流出液の導電率が0.1mS/cm以下になるまで
【0064】
<溶離工程>
通液させる溶液:NH
4Cl濃度が200g/LのNH
4Cl水溶液とアンモニア濃度が2mol/Lのアンモニア水との混合水溶液
SV:1.6hr
-1
通液量:陰イオン交換樹脂の樹脂体積の0.8倍量
【0065】
図10に示すように、吸着工程においては、Wのイオンが全く流出していない一方で、Si、V、TaおよびNbのそれぞれのイオンが高濃度に流出していることから、これらの不純物は不純物除去工程を行なわなくてもある程度除去できることが確認された。
【0066】
また、
図10に示すように、不純物除去工程においては、塩基性のNH
4Cl−NaOHの混合水溶液を樹脂体積の5.7倍量を通液させた時点でVおよびNbのそれぞれのイオンが高濃度に流出しており、5.8倍量を通液させた時点でWのイオンの流出が開始している。この結果から、塩基性のNH
4Cl−NaOHの混合水溶液の通液を樹脂体積の6倍量程度で停止すればWをほとんどロスすることなく、不純物を除去することができると考えられる。
【0067】
図10に示すそれぞれの元素の流出濃度を積分することにより各元素の除去率を算出したところ、Wのロスが2%の時点(塩基性のNH
4Cl−NaOHの混合水溶液を樹脂体積の5.8倍量を通液させた時点)におけるSi、V、TaおよびNbの除去率はそれぞれ100%、92%、93%および83%であった。したがって、不純物工程において、塩基性の低Cl
-濃度の溶液を通液させることによって、Si、V、TaおよびNbを効率的に除去できることがわかった。
【0068】
また、吸着工程で通液させるタングステン酸ナトリウム水溶液のpH、ならびに不純物除去工程で用いられるNH
4Cl−NaOHの混合水溶液のpHおよび陰イオン濃度をそれぞれ変化させて上記と同様の試験を行なったところ、タングステン酸ナトリウム水溶液のpHが9〜14の範囲内であって、NH
4Cl−NaOHの混合水溶液のpHが9以上の場合には上記と同様の結果が得られることが確認された。さらに、NH
4Cl−NaOHの混合水溶液の陰イオン濃度が0.01モル/L以上1モル/L以下である場合、特に0.1モル/L以上0.3モル/L以下である場合には、Si、V、TaおよびNbをさらに効率的に除去できることがわかった。
【0069】
<実験例4>
低Cl
-濃度の溶液としてNaCl−NaOHの混合溶液(NaCl濃度が5g/LのNaCl溶液と、0.1規定のNaOH溶液との混合水溶液)(pH:13)(陰イオン濃度:0.09モル/L)を通液させたこと以外は実験例3と同様の条件で不純物除去工程を行なった場合と、不純物除去工程を行なわなかった場合とのそれぞれの場合について、溶離工程後の流出液中のSi、V、NbおよびAlのそれぞれの元素の濃度を求めた。その結果を表1に示す。なお、表1における数値は、原料溶液となるタングステン酸ナトリウム水溶液のWの質量(ここでは、「WO
3」の質量ではなく「W」の質量である。)に対する比率(ppm)で表わされている。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、不純物工程を行なった場合と行なわなかった場合とで、Wに対するSi、V、NbおよびAlのそれぞれの不純物の含有量を1/3〜1/10程度に低減することができることが確認された。
【0072】
また、吸着工程で通液させるタングステン酸ナトリウム水溶液のpH、ならびに不純物除去工程で用いられるNH
4Cl−NaOHの混合水溶液のpHおよび陰イオン濃度をそれぞれ変化させて上記と同様の試験を行なったところ、タングステン酸ナトリウム水溶液のpHが9〜14の範囲内であって、NH
4Cl−NaOHの混合水溶液のpHが9以上の場合には上記と同様の結果が得られることが確認された。さらに、NH
4Cl−NaOHの混合水溶液の陰イオン濃度が0.01モル/L以上1モル/L以下である場合、特に0.1モル/L以上0.3モル/L以下である場合には、Si、V、NbおよびAlをさらに効率的に除去できることがわかった。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。