特許第5662695号(P5662695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662695
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】新規なジエポキシ化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 303/30 20060101AFI20150115BHJP
【FI】
   C07D303/30CSP
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-105091(P2010-105091)
(22)【出願日】2010年4月30日
(65)【公開番号】特開2011-231079(P2011-231079A)
(43)【公開日】2011年11月17日
【審査請求日】2013年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100150681
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 荘助
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100105061
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 喜博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐樹
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−206814(JP,A)
【文献】 特開2000−248050(JP,A)
【文献】 特開2006−307011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、R、Rは各々独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、a、bは0又は1〜4の整数を示し、但し、a、bは共に0であることはなく、R、Rで示される置換基のいずれか一つがフェニル基であり、Aは下記一般式(2)又は一般式(3)で表される二価基を表す。)で表されるジエポキシ化合物。
一般式(2)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、cは0又は1〜4の整数を示し、cが2以上のとき、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
一般式(3)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、dは0又は1〜4の整数を示し、dが2以上のとき、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
一般式(6)
(式中、R、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、cは一般式(2)のそれと同じである。)で表される請求項1記載のジエポキシ化合物。
【請求項3】
cが0である請求項2記載のジエポキシ化合物。
【請求項4】
一般式(9)
(式中、R、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、dは一般式(3)のそれと同じである。)で表される請求項1記載のジエポキシ化合物。
【請求項5】
dが0である請求項4記載のジエポキシ化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なジエポキシ化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着剤、塗料、一般工業用構造材料、電子・電気機器部品材料等の各種分野で広範に用いられている。近年、これらのエポキシ樹脂の用途の拡大発展に伴って、取り扱いが容易であり、しかも耐熱性、耐湿性、耐薬品性、電気的特性、機械的特性等の諸性能の一段の向上が強く求められており、そこで、そのような要請に応える新規なエポキシ化合物の開発が望まれている。
【0003】
従来、耐熱性に優れたエポキシ樹脂の原料として、あるいは、低融点のジエポキシ化合物として、幾つかの多核ビスポリフェノールのジエポキシ化合物が知られている。例えば、4,4’−〔1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)ビス(フェニレンオキシメチレンオキシラン)〕(特許文献1)、4,4’−ビス(2,3,6−トリメチルヒドロキシフェニル)−1,1’−ビフェニルのジグリシジルエーテル(特許文献2)、1,1−ビス(4’−エポキシプロパニルオキシフェニル)−1−(1’’−ビフェニル)−1−シクロヘキシルメタン(特許文献3)、また、P−ターフェニル骨格にアルキル基が置換した1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンのジグリシジルエーテル、1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセンのジグリシジルエーテル(特許文献4)などが知られている。
しかしながらこれら従来知られたジエポキシ化合物は、硬化樹脂としたときは耐熱性、難燃性、低吸湿性に優れ、加工時においては低融点、溶剤溶解性に優れた性能を有するなどの点において未だ満足できるものではなく改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−206837号公報
【特許文献2】特開2005−314499号公報
【特許文献3】国際公開第2005/092826号
【特許文献4】特開2005−206814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述したような要望に応えるためになされたものであって、従来のエポキシ樹脂が用いられている接着剤、塗料、一般工業用構造材料等の性能向上のみならず、近年、特に高性能化、高機能化が要望されている電子・電気機器部品向けにも好適に用いることができる、硬化樹脂としたときは耐熱性、難燃性、低吸湿性に優れ、加工時においては低融点、溶剤溶解性に優れた新規なジエポキシ化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記したような特性を同時に付与するエポキシ化合物を鋭意検討した結果、本発明の完成に至ったものである。即ち、本発明は、一般式(1)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、R、Rは各々独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、a、bは0又は1〜4の整数を示し、但し、a、bは共に0であることはなく、R、Rで示される置換基のうち少なくとも一つはフェニル基であり、a、bが2以上のとき、R、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、Aは下記一般式(2)又は一般式(3)で表される二価基を表す。)で表されるジエポキシ化合物を提供するものである。
一般式(2)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、cは0又は1〜4の整数を示し、cが2以上のとき、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
一般式(3)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、dは0又は1〜4の整数を示し、dが2以上のとき、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0007】
本発明のジエポキシ化合物は、中心骨格の両端の4−オキシフェニル基の少なくとも一方にフェニル基が置換している、1,4−ビス(4−オキシフェニル)ベンゼン又は1,4−ビス(4−オキシフェニル)−1−シクロヘキセン骨格を有しているので、両端の4−オキシフェニル基に置換が無いか又はアルキル基が置換した前記骨格のジエポキシ化合物と比べ低融点であり、溶剤溶解性にすぐれている。しかも、剛直なP−ターフェニル等骨格を有するので、耐熱性、難燃性、耐湿性にも優れている。従って、本発明のジエポキシ化合物を樹脂原料として用いる場合、加工時において溶剤溶解性に優れ硬化温度も下げることが出来るので工業的に取り扱いが容易であり、また、硬化樹脂とした場合に難燃性、耐熱性、低吸湿性、基盤密着性に優れており、このような本発明による新規なジエポキシ化合物は、従来のエポキシ樹脂が用いられている接着剤、塗料、一般工業用構造材料向け等のみならず、近年、小型化、高精密化、高精細化、高実装化等の要請が高まっている電子・電気機器部品向け等の用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の下記一般式(1)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、R、Rは各々独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、a、bは0又は1〜4の整数を示し、但し、a、bは共に0であることはなく、R、Rで示される置換基のうち少なくとも一つはフェニル基であり、a、bが2以上のとき、R、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、Aは下記一般式(2)又は一般式(3)で表される二価基を表す。)
一般式(2)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、cは0又は1〜4の整数を示し、cが2以上のとき、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
一般式(3)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基を表し、dは0又は1〜4の整数を示し、dが2以上のとき、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表されるジエポキシ化合物において、式中、Rは水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。また、R、Rで表される、炭素原子数1〜8のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状であってもよく、鎖状の場合には炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、環状の場合には炭素原子数5〜8のシクロアルキル基が好ましい。
また、このようなアルキル基はフェニル基やアルコキシ基で置換されていてもよい。
具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ベンジル基、またシクロヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。これらのうち、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。また、炭素原子数1〜8のアルコキシ基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルコキシ基であってもよく、また、このようなアルコキシ基はフェニル基やアルコキシ基で置換されていてもよい。具体的には例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t−ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基等が挙げられる。アルキル基とアルコキシ基のうちではアルキル基が好ましい。
また、フェニル基には、炭素原子数1〜4のアルキル基及び/又は炭素原子数1〜4のアルコキシ基が例えば1〜3個置換していても良い。このような置換基としてはメチル基等のアルキル基が好ましい。しかしながら、置換基のないフェニル基がより好ましい。
一般式(1)においてフェニル基の総数は、1〜3が好ましく、1または2がより好ましい。
また、式中、a、bは0又は1〜4の整数を示し、a、bは共に0であることはなく、好ましくは0又は1〜2であり、より好ましくはaが1又は2で、かつbが0である。
また、本発明の一般式(1)で表されるジエポキシ化合物においては、R、Rで示される置換基のうち少なくとも一つはフェニル基である。R、Rで示される置換基のうちいずれか一つがフェニル基であるか、又はa、bが1以上のとき、R、Rで示される置換基のうち各々一つがフェニル基であるものが好ましく、R、Rで示される置換基のうちいずれか一つがフェニル基であるものがより好ましい。
また、R及びRの置換位置はフェニル核上のエーテル基に対しオルソ位が好ましく、フェニル置換基がフェニル核上のエーテル基に対しオルソ位にあることがさらに好ましい。
また、式中、2価基Aで表される前記一般式(2)又は一般式(3)において、式中、R又はRは炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基であり、それらはR又はRで表される炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又はフェニル基と同じである。また、式中、c又はdは0又は1〜4の整数を示し、好ましくは0又は1〜2であり、より好ましくは0である。dが1以上のとき、Rの置換位置は、1−シクロヘキセン骨格の4位以外の位置が好ましく、dが2以上のときは、同一の炭素原子上に置換しないことが好ましい。
したがって、前記一般式(1)において、R及びRで示される置換基のうち、いずれか一つがフェニル基であり、2価基Aが前記一般式(2)で表される場合、式中cが0であるか又は2価基Aが一般式(3)で表される場合、式中dが0であることが好ましい。
【0009】
したがって、前記一般式(1)で表される本発明の好ましいジエポキシ化合物は下記一般式(4)又は一般式(5)で表される。
一般式(4)
(式中、R1 は一般式(1)のそれと同じであり、R'及びR'3は炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルコキシ基を表し、a−1は一般式(1)のaが1以上であって、aから1を引いた整数であり、bは一般式(1)のそれと同じである。)
また、R'及びR'3で表される炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルコキシ基としては、一般式(1)の炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルコキシ基と同じである。
一般式(5)
(式中、R1 、R'及びR'3 、a−1は上記一般式(4)のそれと同じであり、b−1は一般式(1)のbが1以上であって、bから1を引いた整数である。)
【0010】
また、一般式(1)において、2価基Aが一般式(2)で表される場合、一般式(1)は下記一般式(6)で表される。
一般式(6)
(式中、R、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、cは一般式(2)のそれと同じである。)
【0011】
より好ましくは、前記一般式(6)において、cが0であり、R、Rで示される置換基のうちいずれか一つがフェニル基であるか(一般式(7))、又はR、Rで示される置換基のうち各々一つがフェニル基である(一般式(8))ジエポキシ化合物である。
一般式(7)
(式中、R1 、R'及びR'3 、a−1、bは一般式(4)のそれと同じである。)
一般式(8)
(式中、R1 、R'及びR'3、a−1、b−1は一般式(5)のそれと同じである。)
【0012】
また、前記一般式(1)において、2価基Aが一般式(3)で表される場合、一般式(1)は下記一般式(9)で表される。
一般式(9)
(式中、R、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、dは一般式(3)のそれと同じである。)
【0013】
より好ましくは、前記一般式(9)において、dが0であり、R、Rで示される置換基のうちいずれか一つがフェニル基であるか(一般式(10))、又はR、Rで示される置換基のうち各々一つがフェニル基である(一般式(11))ジエポキシ化合物である。
一般式(10)
(式中、R1 、R'及びR'3 、a−1、bは一般式(4)のそれと同じである。)
一般式(11)
(式中、R1 、R'及びR'3 、a−1、b−1は一般式(5)のそれと同じである。)
【0014】
このような前記一般式(1)で表されるジエポキシ化合物としては、具体的には例えば、
1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)ベンゼン、
1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−1−シクロヘキセン、
1,4−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジフェニルフェニル)ベンゼン、1−(4−グリシジルオキシ−5−メチル−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)ベンゼン、1−(4−グリシジルオキシ−2−メチル−5−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)ベンゼン、1−(4−グリシジルオキシ−2−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)ベンゼン、1−(4−グリシジルオキシ−5−メチル−2−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)ベンゼン、1−(4−グリシジルオキシ−3,5−ジフェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)ベンゼン、1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−2−メチルベンゼン、1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−3−フェニルベンゼン、1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−フェニルベンゼン、1,4−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−2−フェニルベンゼン、1,4−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−1−シクロヘキセン、1,4−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジフェニルフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−グリシジルオキシ−5−メチル−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−グリシジルオキシ−2−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−グリシジルオキシ−5−メチル−2−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−グリシジルオキシ−3−メチル−2−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−グリシジルオキシ−3,5−ジフェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−2−メチル−1−シクロヘキセン、1−(4−グリシジルオキシフェニル)−4−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−2−フェニル−1−シクロヘキセン、1−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−2−フェニル−1−シクロヘキセン、1,4−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−2−フェニル−1−シクロヘキセン等が挙げられる。
【0015】
本発明による前記一般式(1)で表されるジエポキシ化合物は、その製造方法については特に限定されるものではないが、例えば、1)フェノール系化合物のエポキシ化反応は原料となるフェノール化合物をエピハロヒドリンに溶解し、テトラメチルアンモニウムクロライドやトリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩などを触媒として反応させた後、アルカリ金属水酸化物等塩基性化合物をそのままで、及び/又は水溶液として添加処理することにより閉環させ得る方法や、2)フェノール化合物をエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリンに溶解しメタノールやエタノール等の極性溶媒を添加し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の固体を添加し、または添加しながら反応させる方法、また、3)アルカリ金属水酸化物の水溶液を使用し、アルカリ金属水酸化物を逐次的に添加すると共に反応系内から減圧下、または常圧下、連続的に水及びエピハロヒドリンを留出させ、これを分液し、水は除去しエピハロヒドリンは反応系内に連続的に戻す方法、4)フェノール化合物と、例えばアリルクロリド、アリルブロミド等のハロゲン化ビニル化合物とを溶媒中で塩基の存在下に反応させ、次いで、反応終了後、そのままm−クロロ過安息香酸等の炭素−炭素二重結合をエポキシ基に酸化可能な酸化剤を作用させるか、又は、例えば反応液と水を混合し、反応生成物を取り出した後、該反応生成物に前記酸化剤を作用させるかした後、例えば、必要に応じて残存する酸化剤を分解処理し、次いで濃縮処理することにより、エポキシ化合物を得る方法等が知られている。本発明のエポキシ化合物を得るには、これら何れの方法でもよい。
【0016】
本発明による前記一般式(1)で表されるジエポキシ化合物を得るには、そのジエポキシ化合物の構造に対応する下記一般式(12)で表されるジフェノール化合物と下記一般式(13)で表されるエピハロヒドリンを原料として用いればよい(反応式1)。
反応式(1)
上記一般式(12)で表される原料ジフェノール化合物において、R、R3、a、b及びAは一般式(1)のそれと同じである。従って、上記一般式(12)で表されるジフェノール化合物において、Aが前記一般式(2)で表される場合、ジフェノール化合物は下記一般式(14)で表される。
一般式(14)
(式中、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、cは一般式(2)のそれと同じである。)
【0017】
また、Aが前記一般式(3)で表される場合、ジフェノール化合物は下記一般式(15)で表される。
一般式(15)
(式中、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、dは一般式(3)のそれと同じである。)
【0018】
また、上記一般式(13)で表されるエピハロヒドリンにおいて、Rは一般式(1)のそれと同じであり、Xはハロゲン原子を表す。
したがって、一般式(12)で表されるジフェノール化合物としては、具体的には例えば、1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)ベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−5−メチル−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−2−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−5−メチル−2−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−3−メチル−2−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−2−メチルベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルベンゼン、1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−フェニルベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−2−フェニルベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−1−シクロヘキセン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシ−5−メチル−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシ−2−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシ−5−メチル−2−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシ−3−メチル−2−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−2−メチル−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−2−フェニル−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−4−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−2−フェニル−1−シクロヘキセン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−2−フェニル−1−シクロヘキセン等が挙げられる。
また、一般式(13)で表されるエピハロヒドリンとしては、具体的には例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリン、β−メチルエピブロモヒドリン等が挙げられる。これらの中では、経済性の観点から、エピクロロヒドリンが好ましく用いられる。
【0019】
次に、本発明による前記一般式(1)で表されるジエポキシ化合物を、上記1)の製造方法に従い、原料となる上記一般式(12)で表されるジフェノール化合物を上記一般式(13)で表されるエピハロヒドリンに溶解し、テトラメチルアンモニウムクロライドやトリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩などを触媒として使用し、反応させた後、アルカリ金属水酸化物等塩基性化合物をそのままで、及び/又は水溶液として添加処理することにより閉環させる製造方法で得る場合について、更に詳細に述べる。
【0020】
上記反応で使用される触媒としての第4級アンモニウム塩としては、具体的には、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
第4級アンモニウム塩の添加量は、原料ジフェノール1モルに対し、通常、0.05〜1モルの範囲、好ましくは0.1〜0.5モルの範囲である。
【0021】
また、塩基性化合物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム等の炭酸塩又は炭酸水素塩のような無機塩、ピリジン、トリエチルアミン等の有機アミン等が挙げられる。これらのうちでは、アルカリ金属水酸化物が好ましい。
塩基性化合物の使用量は原料ジフェノール化合物1モルに対し、通常、0.1〜10モルの範囲、好ましくは1〜5モルの範囲である。これらの塩基性化合物は、そのまま用いてもよく、また、水溶液として用いることもできる。
【0022】
反応に際し、ジフェノール化合物に対するエピハロヒドリンのモル比は、ジフェノール化合物の水酸基のすべてをエピハロヒドリンでエポキシ化するに要する理論量である2モル倍以上、通常、ジフェノール化合物1モルに対し、2〜100モルの範囲、好ましくは2〜50モルの範囲である。また、4級アンモニウム塩は通常、原料仕込み時に全量添加するのが好ましいが、反応途中で追加添加してもよい。また、アルカリ金属水酸化物は原料ジフェノールのヒドロキシ基が消失した段階で添加するのが好ましい。
【0023】
反応に際し、溶媒は反応操作に支障がなければ用いなくてもよい。しかしながら用いる場合には、用いる溶媒は反応に不活性であれば特に制限がなく、単独でも、また2種以上を混合して用いても良い。また、過剰のエピハロヒドリン化合物を反応溶媒として用いてもよい。
溶媒としては例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、プソイドクメン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、メチルペンチルケトン、2−オクタノン、2−トリデカノン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの脂肪族ニトリル類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどの脂肪族エーテル類、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどの脂環式エーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。用いる量としては容積効率の許容範囲であれば特に制限はないが原料ジフェノール1重量部に対して通常、0.1〜50重量部の範囲、好ましくは1〜20重量部の範囲である。
【0024】
反応温度は、20℃〜100℃の範囲、好ましくは30℃〜70℃の範囲である。反応圧力は常圧でも又減圧下でもよい。このような反応条件において、反応は通常10〜30時間で終了するが、更に、アルカリ金属水酸化物の供給後、反応を完了させるために、必要に応じて、1〜5時間程度、反応系を撹拌下に保持してもよい。
また、これらのエポキシ化反応の反応物を、更に加水分解性ハロゲンの少ないエポキシ化合物とするために、トルエン、メチルイソブチルケトンなどに溶解させてから更に反応を行い、閉環を確実にする事も出来る。
【0025】
反応は、通常、原料ジフェノール、エピハロヒドリン及び4級アンモニウム塩を仕込み、加温下に反応し、原料ジフェノールのヒドロキシ基が消失した時点でアルカリ金属水酸化物を添加して、更に反応させる。反応終了後、反応系を冷却し、反応終了混合液に蒸留水及び必要に応じて上記した溶媒を加え、撹拌した後、系内に存在するハロゲン化アルカリ塩、未反応のエピハロヒドリンを除去し、更に必要ならば中和を行い、析出している結晶を濾別して取り出す。また、析出している結晶を濾別せず、一旦溶解させてから晶析しても構わない。結晶の純度が低い等、必要ならば、晶析または沈殿を1回〜複数回行って更に精製しても良い。
【0026】
上記ジエポキシ化合物の製造においては、エポキシ化反応時に、一般的に知られているエポキシ化反応と同様に、ジグリシジルエーテル化合物の二量体、三量体、四量体等のオリゴマーが少量副生するので、本発明によるジエポキシ化合物は、このようなオリゴマーを少量含んでいてもよい。また、エポキシ基の形成が未完了のままの所謂加水分解性塩素を有する末端基を有する化合物等が若干量含まれていてもよい。
【0027】
また、本発明の一般式(1)で表されるジエポキシ化合物の原料である上記一般式(12)で表される原料ジフェノール化合物は、公知の方法により得ることができる。
例えば、前記一般式(12)においてAがシクロヘキセン−1,4−ジイル基である1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類は、特開2002−308809公報記載の方法に準じて、対応する4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノン類にフェノール類を反応させて1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシフェニルシクロヘキサン類を得、これをアルカリ触媒の存在下に熱分解することにより得ることができる。
あるいはまた、Journal of American Chemical Society, Vol.74, p.5631-5632(1952年)に記載の方法により、4−アルコキシフェニルシクロヘキサノン類と4−アルコキシベンゼンマグネシウムブロミド類とを反応させて、1,4−ビス(4−アルコキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を合成し、その後得られたビス(4−アルコキシフェニル)類のアルコキシル基のアルキル基を公知の方法により、例えば、三臭化ホウ素で脱離させて水素原子に置換することによっても1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を得ることができる。
更に、得られた1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を、特開2002−308808公報記載の方法に準じて、そのシクロヘキセン部分を脱水素することにより、一般式(12)においてAがベンゼン−1,4−ジイル基である1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン類を得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)ベンゼンの合成
【0030】
撹拌装置を備えた300mlの四つ口フラスコに1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン10.0gとテトラブチルアンモニウムブロミド1.9g、エピクロロヒドリン82.1gを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、50℃で9時間撹拌した。その反応液に水酸化ナトリウム3.5gを加えて更に4時間撹拌した。反応終了後、トルエン100gと蒸留水40gを加え、30℃で1時間撹拌後、析出している結晶をろ別した。得られた結晶を50℃で減圧乾燥して目的物の1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)ベンゼン11.5gを純度96%(高速液体クロマトグラフィー)の白色粉末状結晶として得た。
原料の1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンに対する収率は86.5モル%であった。
融点:175℃(示差走査熱量測定(DSC)法による)
H−NMR測定結果
(400MHz、溶媒;CDCl、内部標準:テトラメチルシラン)
2.69(dd,1H)、2.77−2.84(m,2H)、2.93(t,1H)、3.29(br,1H)、3.39(br,1H)、3.99−4.05(m,2H)、4.27(dd,2H)、7.01(d,2H)、7.07(d,1H)、7.35(t,1H)、7.44(t,2H)、7.55−7.65(m,10H)
【実施例2】
【0031】
1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−1−シクロヘキセンの合成
【0032】
撹拌装置を備えた300mlの四つ口フラスコに1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン10.0gとテトラブチルアンモニウムブロミド1.9g、エピクロロヒドリン81.0gを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、50℃で19時間撹拌した。その反応液に水酸化ナトリウム3.5gを加えて更に4時間撹拌した。反応終了後、蒸留により濃縮して過剰のエピクロロヒドリンを除去し、メチルイソブチルケトン100gと蒸留水40gを加え、撹拌した後水層を除去した。
得られた油層に水を加えて、水洗、水層除去の操作を水層のpHが7になるまで繰り返した。得られた油層を蒸留により濃縮してメチルイソブチルケトンを除去した。
残液にシクロヘキサン15gを加え混合して晶析を行い、析出した結晶をろ別した。得られた結晶を50℃で減圧乾燥して目的物の1−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−グリシジルオキシフェニル)−1−シクロヘキセン9.3gを純度97%(高速液体クロマトグラフィーによる)の白色粉末状結晶として得た。
原料の1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセンに対する収率は70モル%であった。
融点:113℃(示差走査熱量測定(DSC)法による)
H−NMR測定結果
(400MHz、溶媒;CDCl、内部標準:テトラメチルシラン)
1.85−1.90(m,1H)、2.07(br,1H)、2.30−2.33(m,1H)、2.46−2.57(m,3H)、2.67(dd,1H)、2.74−2.91(m,4H)、3.25(br,1H)、3.35(br,1H)、3.94−4.00(m,2H)、4.18−4.23(m,2H)、6.16(s,1H)6.88(d,2H)、6.95(d,1H)、7.19(d,2H)、7.31−7.36(m,2H)、7.39−7.43(m,3H)、7.55(d,2H)