(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662715
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】油性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/36 20140101AFI20150115BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20150115BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
C09D11/36
B41M5/00 E
B41J2/01 501
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-147662(P2010-147662)
(22)【出願日】2010年6月29日
(65)【公開番号】特開2012-12432(P2012-12432A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2013年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】青木 聡
(72)【発明者】
【氏名】▲清▼水 麻奈美
(72)【発明者】
【氏名】本山 恭子
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−275211(JP,A)
【文献】
特開2008−275744(JP,A)
【文献】
特開2008−297494(JP,A)
【文献】
特開2005−132786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/36
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、顔料分散剤、溶剤を含む油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に、
炭化水素系溶剤(A)と、
1分子内に少なくともエステル基を2個以上とエーテル基を2個以上有する溶剤(B)と、
炭化水素系溶剤および1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤に溶解する溶剤(C)とを含み、
前記溶剤(C)が、高級脂肪酸エステル、高級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする油性インクジェットインク。
【請求項2】
前記溶剤(B)が二塩基酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとから生成するジエステルであることを特徴とする請求項1記載の油性インクジェットインク。
【請求項3】
二塩基酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとから生成する前記ジエステルがシクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、コハク酸ビスエトキシジグリコール、およびコハク酸ジエトキシエチルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の油性インクジェットインク。
【請求項4】
前記溶剤(B)が、トリエチレングリコールジアセテートおよび/またはジカプリル酸イソソルバイドであることを特徴とする請求項1記載の油性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システムの使用に適した油性インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷紙に画像を記録するものであり、とりわけ、多数のインクヘッドを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いると高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、非水溶性溶剤に顔料を微分散させたいわゆる油性インクジェットインクが種々提案されている。
【0003】
例えば、出願人は特許文献1において、顔料をエステル溶剤、高級アルコール溶剤、炭化水素溶剤等の非極性溶剤に分散させたインクを提案している。このインクは機上安定性に優れるとともに、PPC複写機やレーザープリンターで印刷された印刷面と重ね合わせた場合でも貼り付かない印字面を得ることができるという利点を有するものである。
【0004】
ところで、油性インクジェットインクは、インク自体が乾燥固化するものではなく、紙などの印刷物に浸透して乾燥する浸透乾燥方式のインクである。このため、高速印字した場合には、印刷から出力までの時間もその分短くなるために、紙面に印字された未乾燥のインクが搬送ローラーに転写されてしまい、ローラーから次に搬送されてきた印刷物へ転写されて印刷物を汚す、いわゆるローラー転写汚れという問題が起こる。
【0005】
油性インクジェットインクの定着性を改善する方法として、特許文献2には、溶剤のエステル基、エーテル基数およびアルキル基の炭素数を調整することにより可能であることが記載されている。そして、特許文献3には印刷物上での浸透性にすぐれ、印刷直後のインクの定着性が良好な油性インクジェットインクとして、炭化水素系溶媒を主溶媒とし、(ポリ)アルキレングリコールのエステル誘導体を含むインクが提案されている。また、特許文献4には、溶剤として脂肪酸エステルと非水性極性溶剤とを含む油性インクジェットインクが、印刷品質に優れたインクとして提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−126564号公報
【特許文献2】特開2003−268266号公報
【特許文献3】特開2004−137315号公報
【特許文献4】特開2007−161890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3に記載されているインクは、インクの浸透乾燥性に改善は認められるものの、溶剤間の溶解性が悪いために貯蔵安定性、吐出安定性は悪化する。一方、特許文献4に記載されているインクは、普通紙や再生紙に印刷した場合には浸透乾燥性が劣るという問題がある。油性インクジェットインクの浸透乾燥性はインク粘度に大きく依存するが、インクジェット記録方式のインクヘッドはインク粘度の制約が大きいために、インクを吐出させることが可能な粘度範囲でしか粘度の調整ができず、これを無視すると、吐出安定性や貯蔵安定性が悪化してしまう。従って、特許文献2に記載されているように簡単に浸透乾燥性の改善、向上を図ることは困難である。
【0008】
上記のとおりインクの浸透乾燥性は粘度に大きく依存する一方で、吐出安定性や貯蔵安定性にも影響を与える。このため、粘度以外の構成要素により浸透乾燥性を制御できないかを鋭意検討したところ、極性が異なる溶剤をインク中に含有させることにより、浸透乾燥性が向上し、ローラー転写汚れを抑制できることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は、浸透乾燥性に優れ、印刷物のローラー転写汚れを抑制することが可能であって、吐出安定性および貯蔵安定性にも優れた油性インクジェットインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、顔料分散剤、溶剤を含む油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に、炭化水素系溶剤(A)、1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤(B)、炭化水素系溶剤および1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤に溶解する溶剤(C)とを含むことを特徴とするものである。
前記溶剤(B)は、1分子内に少なくともエステル基を2個以上、エーテル基を2個以上有することが好ましい。
【0010】
前記溶剤(B)は二塩基酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとから生成するジエステルであることがより好ましい。
二塩基酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとから生成する前記ジエステルは、シクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、コハク酸ビスエトキシジグリコール、およびコハク酸ジエトキシエチルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
前記溶剤(B)は、トリエチレングリコールジアセテートおよび/またはジカプリル酸イソソルバイドであることが好ましい。
前記溶剤(C)は、高級脂肪酸エステル、高級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の油性インクジェットインクの含まれる炭化水素系溶剤(A)は極性が低い溶剤であり、一方で1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤(B)は極性が高い溶剤である。この極性が低い溶剤(A)と極性が高い溶剤(B)を共にインク中に含有させることにより、溶剤間の親和性が悪くなり、インク成分から溶剤の離脱性が速まるために、印刷物への浸透速度が速くなったと考えられる。
【0013】
詳細には、溶剤(B)は極性が高いため、インク受理層を有するようなマット紙、コート紙および普通紙の中でも填料を多く含むもの等のように極性の高い用紙に対して濡れ性が良く、これらの用紙へのインクの浸透が速くなったと考えられる。一方で、再生紙や一般的に用いられる普通紙のように比較的極性の低い用紙に対しては、溶剤(B)と溶解しにくい溶剤(A)によって、用紙へインクが浸透する際、溶剤の離脱を速め浸透速度が速くなったと考える。すなわち、溶剤(A)および溶剤(B)を含有させることにより、インク粘度を変えなくても、様々な用紙に対してインクの浸透性を高めることができ、印刷物のローラー転写汚れを抑制することが可能である。そして、インクヘッドはインク粘度の制約を受けずに、安定的に吐出が可能である。
【0014】
一方で、炭化水素系溶剤(A)と、1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤(B)とは相溶性が悪いが、炭化水素系溶剤および1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤に溶解する溶剤(C)を含有させることによって、インク中の溶剤は相溶性が保持されて均一となり、インクの貯蔵安定性をも高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の油性インクジェットインク(以下、単にインクともいう)は、少なくとも顔料、顔料分散剤、溶剤を含む油性インクジェットインクにおいて、溶剤に、炭化水素系溶剤(A)、1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤(B)、炭化水素系溶剤および1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤に溶解する溶剤(C)とを含むことを特徴とする。
【0016】
溶剤(A)、溶剤(B)、溶剤(C)の溶剤構成比率は、インクの貯蔵安定性や、様々な種類の用紙への浸透性等を考慮すると、全溶剤に対して、溶剤(A)が20〜50質量%、溶剤(B)が1〜40質量%、溶剤(C)が20〜70質量%であることが好ましい。より好ましくは、溶剤(A)が25〜50質量%、溶剤(B)が5〜35質量%、溶剤(C)が25〜70質量%であることが望ましい。
【0017】
溶剤(A)は炭化水素系溶剤であり、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、たとえば、日本石油(株)製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」、Exxon社製「Isopar(アイソパー)G、Isopar H、Isopar L、Isopar M、Exxsol D40、Exxsol D80、Exxsol D100、Exxsol D130、Exxsol D140」等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、日本石油(株)製「日石クリーンソルG」(アルキルベンゼン)、Exxon社製「ソルベッソ200」等を好ましく挙げることができる。
【0018】
溶剤(B)は1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤であり、1分子内に少なくともエステル基を2個以上、エーテル基を2個以上有することが好ましい。エステル基およびエーテル基を共に2個以上有することにより、極性がさらに高くなるため、インク成分からの溶剤離脱性がより速まって、浸透速度をさらに向上させることができる。1分子内のエステル基は2個以上10個以下であることが好ましく、2個以上5個以下であることがより好ましい。1分子内のエーテル基は2個以上30個以下であることが好ましく、4個以上10個以下であることがより好ましい。
【0019】
さらに浸透速度を向上させることができ、溶剤の臭気が少ないという観点からすれば、溶剤(B)は二塩基酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとから生成するジエステルであることが好ましい。二塩基酸としては、
HO−CO−R−CO−OH
(Rは炭素数2〜10の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基を表す。)
具体的には、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等を好ましく挙げることができる。
【0020】
(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノプロピルエーテル、テトラプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル、ブチレンングリコールモノプロピルエーテル、ブチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ブチレンングリコールモノブチルエーテル、ブチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジブチレングリコールモノメチルエーテル、ジブチレングリコールモノエチルエーテル、ジブチレンングリコールモノプロピルエーテル、ジブチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジブチレンングリコールモノブチルエーテル、ジブチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリブチレングリコールモノメチルエーテル、トリブチレングリコールモノエチルエーテル、トリブチレンングリコールモノプロピルエーテル、トリブチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリブチレンングリコールモノブチルエーテル、トリブチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラブチレングリコールモノメチルエーテル、テトラブチレングリコールモノエチルエーテル、テトラブチレンングリコールモノプロピルエーテル、テトラブチレングリコールモノイソプロピルエーテル、テトラブチレンングリコールモノブチルエーテル、およびテトラブチレングリコールモノイソブチルエーテル等を好ましく挙げることができる。
【0021】
二塩基酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとから生成するジエステルの中でも、入手のしやすさという観点からはシクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール(エステル基2、エーテル基4)、コハク酸ビスエトキシジグリコール(エステル基2、エーテル基4)、およびコハク酸ジエトキシエチル(エステル基2、エーテル基2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤の他の例としては、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(エステル基1、エーテル基1)、ジカプリル酸イソソルバイド(エステル基2、エーテル基2)、トリエチレングリコールジアセテートコハク酸(エステル基2、エーテル基2)、ポリプロピレングリコールオリゴエステル(エステル基8、エーテル基30、分子量2000〜3000)(製品名:コスモール102(日清オイリオグループ(株))製))等を好ましく挙げることができる。◎
上記の(B)溶剤はそれぞれを単独で、あるいは2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0023】
溶剤(C)は炭化水素系溶剤および1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤に溶解する溶剤、すなわち炭化水素系溶剤および1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤と混合した場合に透明でありかつ単一の相を形成する溶剤である。ここでいう「透明である」とは、濁度が10以下(JIS−K0101透視比濁法(カオリン水溶液))であることを意味する。溶剤(C)としては、高級脂肪酸エステル、高級アルコール、高級脂肪酸、エーテル等を好ましく挙げることができる。
【0024】
高級脂肪酸エステルとしては1分子中の炭素数が5以上、好ましくは9以上、より好ましくは12〜32の高級脂肪酸エステルが好ましく、より詳細には、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソノナン酸イソノニル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2エチルヘキサン酸グリセリルなどを好ましく挙げることができる。
【0025】
高級アルコールとしては、1分子中の炭素数が12以上の高級アルコールが好ましく、より詳細には、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどを好ましく挙げることができる。
【0026】
高級脂肪酸としては、1分子中の炭素数が4以上、好ましくは9〜22の高級脂肪酸が好ましく、より詳細には、イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などを好ましく挙げることができる。
【0027】
エーテルとしては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどを好ましく挙げることができる。
【0028】
本発明で使用される顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化クロム、ピリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料などが好適に使用できる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用してもよい。顔料は、インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0029】
本発明で使用される分散剤としては、顔料を溶剤中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が好適に使用され、そのうち、高分子分散剤を使用するのが好ましい。
【0030】
分散剤の具体例としては、日本ルーブリゾール社製「ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、22000、24000、28000」(いずれも商品名)、Efka CHEMICALS社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名)、花王社製「デモールP、EP、ポイズ520、521、530、ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)」(いずれも商品名)、楠本化成社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)、第一工業製薬社製「ディスコール202、206、OA−202、OA−600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名)等が挙げられる。上記分散剤の含有量は、上記顔料を十分にインク中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。
【0031】
本発明のインクには、インクの浸透乾燥性、吐出安定性および貯蔵安定性に影響を与えない限り、上記の溶剤、分散剤及び顔料に加えて、例えば、染料、界面活性剤、防腐剤等を添加することができる。
【0032】
本発明のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。具体的には、予め溶剤の一部と顔料及び分散剤の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
以下に本発明の油性インクジェットインクの実施例を示す。
【実施例】
【0033】
(インキの調製)
下記表1に示す配合(表1に示す数値は質量部である)で原材料をプレミックスした後、ロッキングミル65Hzにて約2時間分散させて実施例1〜10、比較例1〜6のインクを調製した。
【0034】
(評価)
(インクの貯蔵安定性)
各インクを密閉容器に入れて、70℃環境下で4週間放置し、その後インクの粘度および、下記式より粘度変化率を算出し、以下の基準で評価した。
[(4週間後の粘度/粒度値×100)/(粘度/粒度初期値)]−100(%)
◎:粘度および粒度変化率がどちらもが5%未満
○:粘度および粒度のどちらか一方でも変化率が5%以上10%未満
×:粘度および粒度のどちらか一方でも変化率が10%以上
【0035】
(転写汚れ評価)
各インクをORPHIS−X9050(理想科学工業(株)社製)に装填して300dpi相当のベタ画像を、普通紙(Askul Multipaperスーパーセレクトスムース(アスクル(株)製))、再生紙(リサイクルPPC(大王製紙(株)製))、マット紙(理想用紙IJマット(W)(理想科学工業(株)製))のそれぞれに両面印刷した。転写汚れの度合いを目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:転写汚れが全くない
○:転写汚れが殆どない
△:若干の転写汚れがある
×:転写汚れが目立つ
【0036】
(吐出安定性)
各インクをORPHIS−X9050に装填して印刷動作を行った後、30分間印刷機を停止した状態で放置し、その後印刷操作を再開した時の吐出性を以下の基準で評価した。
◎:全く不吐出が発生しない
○:時々不吐出が発生するが、吸引クリーニング動作により回復する
×:不吐出ノズルが頻発する
実施例および比較例のインクの処方とともに、上記の評価項目により評価した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、溶剤(A)、(B)、(C)の全てを含む実施例1〜10は、貯蔵安定性、吐出安定性に優れ、転写汚れが少なかった。さらに、溶剤(B)がエステル基2個、エーテル基2個以上含む実施例1〜9においては、転写汚れがより低減し、吐出安定性が向上した。さらに、溶剤(B)が二塩基酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとから生成するジエステル、トリエチレングリコールジアセテート、アルキレングリコールから生成するエステル、およびジカプリル酸イソソルバイトの場合、転写汚れがさらに向上した。
【0039】
比較例1は溶剤(C)を含まない処方(先行技術文献の特許文献3に記載されている炭化水素系溶媒と(ポリ)アルキレングリコールのエステル誘導体とを含むインク)であるが、この場合には本件発明に比べて転写汚れが発生し、また貯蔵安定性および吐出安定性は使用に耐えるレベルになかった。また、比較例2は溶剤(A)を含まない処方(特許文献4に記載されている脂肪酸エステルと非水性極性溶剤とを含むインク)であるが、この場合には貯蔵安定性および吐出安定性は良好であるものの、普通紙や再生紙に対する転写汚れが顕著に発生した。比較例3〜6は溶剤(B)を含まない処方であるが、この場合にも貯蔵安定性および吐出安定性は良好であるものの、印刷媒体によっては顕著な転写汚れが発生した。
【0040】
以上の実施例、比較例から明らかなように、溶剤(A)、溶剤(B)、炭化水素系溶剤および1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤に溶解する溶剤(C)を含有させることによって、様々な用紙に対してインクの浸透性を高めることができ、印刷物のローラー転写汚れを抑制することが可能であるとともに、吐出安定性および貯蔵安定性にも優れたインクとすることができる。