【実施例】
【0020】
以下、本発明を、実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0021】
(比較例:従来例)
原料化合物として、SrCO
3、CaCO
3、Na
2CO
3、Nb
2O
5を、組成式Sr
2−xCa
xNaNb
5O
15において、表1に示す組成になるようなxとなるように秤量し、この化合物をエタノールとともにボールミルに入れ、湿式混合し、得られたスラリーを乾燥させ、これを1050〜1250℃、3時間で仮焼した。
この仮焼物をエタノールとともにボールミルに入れ、湿式粉砕し、得られたスラリーを乾燥させ、PVAを加えて乾式造粒した。
この造粒物を1軸プレスで、10mmφ×1mm厚の円板に成形し、これを1200〜1350℃で焼成を行い、円板状の磁器焼結体を得た。
【0022】
これら各磁器焼結体に対して、X線回折装置(XRD)により生成相を同定し、走査型電子顕微鏡(SEM)で微細組織、原子量の差異による組成像(反射電子像)を得るとともに、偏析の有無を評価し、SEMに付随する電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)により、組成分布を評価した。
また、これら各磁器焼結体の両主面にAg電極を塗布および焼付けして電極を形成した後、100〜200℃の絶縁オイル中で2〜7kV/mmで分極させ、d33メータにより圧電特性を測定した。
【0023】
図1は、Sr
2−xCa
xNaNb
5O
15磁器組成物(x=0.0、x=0.05、x=0.1、x=0.2)の焼結体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で微細組織を観察した写真である。
該図からわかるように、x=0.0、x=0.05、x=0.1、及びx=0.2のいずれの場合にも、マイクロクラックが発生するとともに、異常粒成長により微細構造が不均一になる特徴を有している。
【0024】
図2は、典型例として、Sr
2−xCa
xNaNb
5O
15磁器組成物(x=0.1)の焼結体の組成分布を示すものであって、左側の1つは組成像(反射電子像)で、中央及び右側の4つは、ぞれぞれ、組成像(反射電子像)の領域に対応するEPMAによる主な構成元素のSr、Na、Nb、Oの組成分布である。
図2の示すとおり、Sr
2−xCa
xNaNb
5O
15磁器組成物は、焼結体の微細構造を観察すると、単相でなく、Sr
0.25Na
0.5NbO
3を代表とする2次相が検知され、容易に複相化していることが分かる。
【0025】
以下の表1は、Sr
2−xCa
xNaNb
5O
15磁器組成物における、2次相の有無、クラックの有無、及び圧電特性を測定した結果をまとめたものである。
【0026】
【表1】
【0027】
該表から分かるように、Sr
2−xCa
xNaNb
5O
15系の圧電磁器組成物の圧電特性は、単結晶で報告されている圧電定数270pC/Nに対して、65pC/N程度に低い。
【0028】
(実施例1)
原料化合物として、SrCO
3、CaCO
3、Na
2CO
3、Nb
2O
5を、組成式(Sr
2−xCa
x)
1+y/4Na
1−yNb
5O
15において、表2に示す組成になるようなxとyとなるように秤量した以外は、比較例1と同様にして、円板状の磁器焼結体を得た。
【0029】
これら各磁器焼結体に対して、X線回折装置(XRD)により生成相を同定し、走査型電子顕微鏡(SEM)で微細組織、原子量の差異による組成像(反射電子像)を得るともに、偏析の有無を評価し、SEMに付随する電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)により、組成分布を評価した。
【0030】
図3は、典型例として(Sr
2−xCa
x)
1+y/4Na
1−yNb
5O
15(x=0.1、y=0.2)焼結体の組成分布を示すものであって、左側の1つは、組成像(反射電子像)で、中央及び右側の4つは、ぞれぞれ、組成像(反射電子像)の領域に対応するEPMAによる主な構成元素のSr、Na、Nb、Oの組成分布である。
図3から、明らかなように、(Sr
2−xCa
x)
1+y/4Na
1−yNb
5O
15(x=0.1、y=0.2)焼結体では、2次相が抑制され、単相のタングステンブロンズ相が得られることが分かる。
【0031】
また、これら各磁器焼結体の両主面にAg電極を塗布および焼付けして電極を形成した後、100〜200℃の絶縁オイル中で2〜7kV/mmで分極させ、d33メータにより圧電特性を測定した。
得られた結果を表2にまとめて示す。
なお、本発明において、圧電定数(d
33)が70未満のものは、「本発明外」とした。
【0032】
【表2】
【0033】
試料1−1〜1−7(y=0.1)、及び試料1−22〜1−28(y=0.6)では、xにかかわらず、いずれの場合も比較例1と同様な2次相の生成が見られ、圧電特性の向上が確認できなかった。
これに対して、試料1−8〜1−13(x=0〜0.25、y=0.2)、及び試料1−15〜1−20(x=0〜0.25、y=0.5)では、
図3のようなタングステンブロンズの単相が得られたが、試料1−14(x=0.3、y=0.2)及び試料1−21(x=0.3、y=0.5)では、タングステンブロンズの単相にならず、混相となり、分極することができなかった。
また、本発明の範囲である、試料1−9〜1−13(x=0.05〜0.25、y=0.2)、及び試料1−16〜1−20(x=0.05〜0.25、y=0.5)では、顕著な圧電特性の向上が見られた。
【0034】
本実施例により、(Sr
2−xCa
x)
1+y/4Na
1−yNb
5O
15(式中、0<x<0.3、0.1<y<0.6である)で表される組成式を有する圧電体材料では、2次相の生成が抑制された単相が得られ、圧電特性の特性が向上することが明らかにされた。
【0035】
(実施例2)
原料化合物として、SrCO
3、CaCO
3、Na
2CO
3、Nb
2O
5を、組成式 Sr
2−xCa
x)
1+y/4Na
1−yNb
5O
15において、表3に示すようなxとyとなるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、仮焼し、この仮焼物をエタノールとともにボールミルに入れ、湿式粉砕し、得られたスラリーを乾燥させた。
【0036】
この仮焼物に、Al
2O
3、SiO
2、又はAl
2O
3:SiO
2=1:1混合物を、表3の添加量になるように秤量し、エタノールとともにボールミルに入れ、湿式混合し、得られたスラリーを乾燥させ、PVAを加えて乾式造粒した。
この造粒物を用い、実施例1と同様にして、円板状の磁器焼結体を得た。
これら各磁器焼結体に対して、実施例1と同様に、評価し、測定した。
評価、及び測定の結果を、下記の表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
この表から分かるように、Al
2O
3を添加した場合は、試料2−2、2−3でクラックが減少し、試料2−4〜2−6で消失した。
圧電特性も、Al
2O
3の添加により向上するが、過剰に添加した試料2−6では低下が確認された。
微細組織は、Al
2O
3により、粒成長を抑制する効果がみられた。
【0039】
また、SiO
2を添加した場合は、試料2−7でクラックが減少し、試料2−8〜2−11で消失した。
圧電特性も、SiO
2の添加により向上するが、過剰に添加した試料2−11では低下が確認された。
微細組織は、Al
2O
3よりもSiO
2の添加により、粒成長が抑制され、微細組織が均一化した。
【0040】
Al
2O
3とSiO
2を共に添加した場合は、試料2−12でクラックが減少し、試料2−13〜2−16で消失した。
圧電特性は、Al
2O
3とSiO
2を個別に添加した場合よりも向上したことから、相乗効果が確認されるとともに、過剰に添加した試料2−16では、低下が確認された。
微細組織は、SiO
2単体の添加よりも粒成長したが、Al
2O
3単体の添加よりも粒径が小さく、粒子径が均一であった。
【0041】
上記実施例1の組成でも、同様な評価を行った。その結果、表3と同じ効果を確認した。
これらの本実施例により、(Sr
2−xCa
x)
1+y/4Na
1−yNb
5O
15(式中、0<x<0.3、0.1<y<0.6である)で表される組成式を有する圧電体材料に、添加物として、Al、Siを少なくとも1種類を、Al
2O
3又はSiO
2換算で0.4wt%以下添加することにより、クラックを抑制し、微細組織を改善するとともに、圧電特性が向上することが確認された。
【0042】
(実施例3)
原料化合物として、SrCO
3、CaCO
3、Na
2CO
3、Nb
2O
5を、組成式(Sr
2−xCa
x)
1+y/4Na
1−yNb
5O
15において、表4に示すようなxとyとなるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、仮焼し、この仮焼物をエタノールとともにボールミルに入れ、湿式粉砕し、得られたスラリーを乾燥させた。
この仮焼物に、Al
2O
3、SiO
2、又はAl
2O
3:SiO
2=1:1混合物を、表3の添加量になるように秤量し、エタノールとともにボールミルに入れ、湿式混合し、得られたスラリーを乾燥させた。
さらにこの混合物に、MnOを、表4の添加量になるように秤量し、エタノールとともにボールミルに入れ、湿式混合し、得られたスラリーを乾燥させ、PVAを加えて乾式造粒した。
【0043】
この造粒物を用い、実施例1と同様にして、円板状の磁器焼結体を得た。
これら各磁器焼結体に対して、実施例1と同様に、評価、測定した結果を、下記の表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
MnOが無添加の試料3−1、3−9、3−17に対して、添加量が0.1〜5wt%の試料3−2〜3−7、3−10〜3−15、3−18〜3−23において圧電特性が顕著に向上した。
さらに過剰に6wt%を添加した試料3−8、3−16、3−24では、絶縁抵抗が低下して分極ができず、圧電特性を評価できなかった。
微細組織は、圧電特性が向上した添加量が0.1〜5wt%の試料3−2〜3−7、3−10〜3−15、3−18〜3−23において、添加量ともに粒成長がみられたが、粒径分布の均一性は保持した。また、クラックも発生しなかった。
【0046】
上記の実施例1、2の組成でも、同様な評価を行った。その結果、表4と同じ効果を確認した。
これらの本実施例により、(Sr
2−xCa
x)
1+y/4Na
1−yNb
5O
15(式中、0<x<0.3、0.1<y<0.6である)で表される組成式を有する圧電体材料に、添加物として、Mnを、MnOで換算して、5wt%以下添加することで、さらに圧電特性を向上した圧電材料が得られることが確認できた。