(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の突部の軸方向間に形成された凹所の容積が、前記本体ゴム弾性体の体積の10%以上且つ50%以下に設定されている請求項1〜3の何れか1項に記載の筒形防振装置。
前記複数の突部が周方向に延びる環状とされていると共に、該複数の突部の軸方向間に形成された凹所が全周に亘って連続的に延びる溝状とされている請求項1〜5の何れか1項に記載の筒形防振装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結する防振装置の一種として、筒形防振装置が知られている。筒形防振装置は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有しており、例えばサスペンションメンバマウントとして用いられる場合には、インナ軸部材が車両ボデーに取り付けられると共に、アウタ筒部材がサスペンションメンバ(サブフレーム)に取り付けられることによって、サスペンションメンバが車両ボデーに対して防振支持されるようになっている。
【0003】
ところで、筒形防振装置では、軸方向で優れた耐荷重性が求められる場合があり、その場合には軸方向のばね定数が大きく設定されることが望ましい。そこで、実開平4−113343号公報(特許文献1)等では、軸方向での耐荷重性を確保するために、インナ軸部材から外周側に向かって突出する突部が設けられている。
【0004】
しかし、このような突部が設けられると、突部の形成部分において本体ゴム弾性体の軸直角方向での厚さ寸法が小さくなることから、軸方向のばね定数だけでなく軸直角方向のばね定数までも大きくなってしまい、要求されるばね特性を実現することが困難となる場合もあった。
【0005】
そこで、特開平8−233007号公報(特許文献2)には、軸方向のばね定数を高めながら、軸直角方向のばね定数を抑え得る構造が提案されている。即ち、特許文献2では、アウタ筒部材の軸方向端部を内周側に延び出させて、インナ軸部材に設けられた突部と軸方向の投影で重なり合うように配置し、それら突部とアウタ筒部材の軸方向間で本体ゴム弾性体が圧縮されるようになっていると共に、突部の突出先端面が小さくされて、本体ゴム弾性体において突部とアウタ筒部材の軸直角方向間で圧縮される部分が制限されている。
【0006】
ところが、このような特許文献2に記載の筒形防振装置では、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸方向間に本体ゴム弾性体の一部を挟み込んで、圧縮ばね成分を支配的に利用することで軸方向のばね定数を高めていることから、軸方向で荷重−変位特性の非線形化が問題となる場合がある。即ち、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が通常使用の範囲内に収まっていても、軸方向のばね定数が変位量に対して非線形的に変化して著しく増大し、目的とする防振効果が充分には発揮されないおそれがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、軸方向での耐荷重性と軸直角方向での振動絶縁性を両立して高度に実現しつつ、軸方向でばね特性の線形領域を充分に確保して、インナ軸部材とアウタ筒部材の変位量に対するばね定数の急激な変化を軸方向において防止し得る、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の第1の態様は、インナ軸部材の外周側にアウタ筒部材が配設されて、それらインナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結された筒形防振装置において、前記本体ゴム弾性体に固着された前記インナ軸部材の外周面には複数の突部が軸方向で互いに離隔して設けられており、軸方向の投影においてそれら突部の先端が何れも前記アウタ筒部材における該本体ゴム弾性体の固着面にまで達しない突出高さとされて、それら突部が該本体ゴム弾性体に埋設されている
ことにより、各該突部の外周面とアウタ筒部材との径方向対向面間が少なくとも径方向一方向で対向する両側部分においてそれぞれゴム弾性体で直接に隙間なく連結されていると共に、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との対向面間での該本体ゴム弾性体の厚さ寸法が、該突部の形成部分に比して該突部の形成されていない部分で大きくされていることを特徴とする。
【0010】
このような本態様に従う構造の筒形防振装置によれば、インナ軸部材の外周面に突部が突設されていることによって、軸方向でのばね定数が大きく設定されて、軸方向での耐荷重性の向上が図られる。その結果、軸方向で入力される静的な荷重が大きい場合にも、本体ゴム弾性体における亀裂等の発生が防止されて、充分な耐久性が確保される。特に、突部が本体ゴム弾性体に埋設されていることによって、軸方向のばね定数をより大きく設定することが可能とされており、軸方向での耐荷重性に優れた筒形防振装置を実現することができる。
【0011】
しかも、突部は、軸方向の投影において、その先端が何れもアウタ筒部材における本体ゴム弾性体の固着面まで達しない突出高さで形成されている。それ故、軸方向の振動入力時に、本体ゴム弾性体がインナ軸部材とアウタ筒部材の間に挟み込まれて圧縮されるのを防ぐことができる。これによって、軸方向のばね特性(荷重−変位特性)において線形領域がより大きく確保されることから、軸方向に大きな静荷重が入力されている場合や、軸方向に大振幅の振動が入力される場合であっても、軸方向のばねが急激に高まるのが回避されて、有効な防振効果が発揮される。
【0012】
なお、線形領域が大きく確保される理由としては、突部を軸方向に外れた部分で本体ゴム弾性体が厚肉とされていることによって、本体ゴム弾性体の実質的な自由長が大きくなっていることも考えられる。更に、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が小さい状態では、突部の形成部位に設けられた本体ゴム弾性体の薄肉部分のばねが支配的に作用する一方で、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が大きくなると、突部を外れた部分に設けられた本体ゴム弾性体の厚肉部分のばねの影響が大きくなって、初期の硬いばね特性と、充分に大きな線形領域の確保が両立されること等も考えられる。
【0013】
また、軸方向で離隔して複数の突部が形成されており、それら突部の間において本体ゴム弾性体が厚肉とされている。要するに、本体ゴム弾性体において突部の形成で薄肉とされた部分が比較的に小さくされており、突部の形成によって軸直角方向でのばね定数が大きくなるのが抑えられている。これによって、軸直角方向の振動に対して有効な振動絶縁効果が発揮されて、目的とする防振効果を得ることができる。
【0014】
さらに、本体ゴム弾性体が突部を外れた部分で厚肉とされていることにより、突部の突出する軸直角方向で振動が入力されると、本体ゴム弾性体において突部とアウタ筒部材の間で圧縮される部分が、突部を外れた厚肉部分に逃げることから、本体ゴム弾性体の変形が充分に許容される。その結果、軸直角方向のばね定数が大きくなるのが抑えられて、軸直角方向の振動入力に対する振動絶縁効果を有効に得ることができる。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された筒形防振装置において、前記複数の突部の軸方向間に形成された凹所の側面が傾斜面とされており、該凹所が開口側に向かって軸方向で次第に拡幅しているものである。
【0016】
第2の態様によれば、凹所が開口側に向かって軸方向で次第に拡開していることにより、凹所内に入り込んだ本体ゴム弾性体の厚肉部分に対して突部による変形拘束作用が抑えられている。これにより、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位時に、ばね特性の線形領域が充分に確保されて、ばね定数の急激な増大が回避されることから、目的とする防振効果を有効に得ることができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された筒形防振装置において、前記突部の突出先端面が凸状の湾曲面とされているものである。
【0018】
第3の態様によれば、突部の突出先端面が外周側に向かって凸の滑らかな湾曲面で構成されていることにより、本体ゴム弾性体における突部への固着部分において応力の集中的な作用による亀裂の発生等が防止されて、耐久性の向上が実現される。
【0019】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記複数の突部の軸方向間に形成された凹所の容積が、前記本体ゴム弾性体の体積の10%以上且つ50%以下に設定されているものである。
【0020】
第4の態様によれば、凹所の容積が本体ゴム弾性体の体積に対して10%以上に設定されていることにより、凹所の形成部分で本体ゴム弾性体のゴムボリュームが充分に確保されて、ばね特性の線形領域の確保と、軸直角方向での低ばねが、何れも有効に実現される。更に、凹所の容積が本体ゴム弾性体の体積に対して50%以下に設定されていることにより、突部とアウタ筒部材の対向面間に充分な厚さで本体ゴム弾性体が配されて、軸方向に入力される荷重に対して充分な耐久性が実現される。
【0021】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記本体ゴム弾性体には、一対のすぐり部が前記インナ軸部材を径方向に挟んで形成されているものである。
【0022】
第5の態様によれば、インナ軸部材とアウタ筒部材の間への振動入力時に、本体ゴム弾性体が一対のすぐり部への膨出を許容されることでより変形し易くなる。その結果、ばね特性の線形領域がより大きく確保されると共に、軸直角方向でのばね定数を一層小さく設定することが可能とされる。
【0023】
しかも、複数の突部間に本体ゴム弾性体の厚肉部分を設けることによって、軸直角方向のばね定数を小さく設定することが可能とされていることから、比較的に小さなすぐり部によって軸直角方向で要求される防振特性を実現することができる。その結果、すぐり部の形成時にも、軸方向でのばね定数が大きく保たれて、充分な耐荷重性を確保することができる。
【0024】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記複数の突部が周方向に延びる環状とされていると共に、該複数の突部の軸方向間に形成された凹所が全周に亘って連続的に延びる溝状とされているものである。
【0025】
第6の態様によれば、突部や凹所の形成によってインナ軸部材とアウタ筒部材の周方向での相対的な向きが限定されるのを回避することができる。それ故、例えば、本体ゴム弾性体の加硫成形用金型に対するインナ軸部材およびアウタ筒部材のセット作業が容易になると共に、向きの誤りによる不良の発生を回避することができる。
【0026】
本発明の第7の態様は、第1〜第6の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記インナ軸部材には別体の筒状部材が外嵌されており、該筒状部材に対して前記複数の突部が形成されているものである。
【0027】
第7の態様によれば、インナ軸部材に直接突部を形成する場合に比して、インナ軸部材の形状を単純化することが可能となり、製造が容易になる。しかも、筒状部材を合成樹脂等で形成すれば、任意の形状の突部を簡単に形成することができることから、要求されるばね特性等に応じた突部を容易に設けることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、インナ軸部材の外周面に突部を形成することによって、軸方向での耐荷重性が充分に確保されていると共に、複数の突部が形成されて、それら突部の間では本体ゴム弾性体が厚肉とされていることから、軸直角方向のばね定数が抑えられている。更に、突部を外れた部分で本体ゴム弾性体が厚肉とされていると共に、ばね特性の線形領域が大きく確保されて、優れた防振性能を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1には、本発明に係る筒形防振装置の第1の実施形態としてのサスペンションメンバマウント10が、車両への装着状態で示されている。サスペンションメンバマウント10は、
図2〜
図6に示されているように、インナ軸部材12とその外周側に配設されたアウタ筒部材14を本体ゴム弾性体16によって弾性連結した構造を有しており、インナ軸部材12が車両ボデー18側に取り付けられると共に、アウタ筒部材14がサスペンションメンバ20側に取り付けられることにより、車両に装着されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、車両装着状態において略鉛直方向で、サスペンションメンバマウント10の軸方向となる、
図1中の上下方向を言うものとする。
【0032】
より詳細には、インナ軸部材12は、厚肉小径の略円筒形状で、上下方向に直線的に延びており、鉄やアルミニウム合金で形成された高剛性の部材とされている。そして、インナ軸部材12は、取付用ボルト22と取付用ナット24によって車両ボデー18に対して固定されている。
【0033】
アウタ筒部材14は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、インナ軸部材12と同様に高剛性の部材とされている。また、アウタ筒部材14の下端部が屈曲して径方向外側に延び出しており、環状の当接フランジ部26が形成されている。このアウタ筒部材14は、サスペンションメンバ20の装着凹所27に嵌着されるようになっている。
【0034】
そして、アウタ筒部材14は、インナ軸部材12に外挿されて、インナ軸部材12の外周側に所定距離を隔てて配設されており、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向間に本体ゴム弾性体16が配設されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円筒形状とされており、その内周面がインナ軸部材12と後述する筒状部材48に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14に加硫接着されている。なお、本実施形態の本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12および後述する筒状部材48と、アウタ筒部材14とを備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0035】
さらに、本体ゴム弾性体16には、インナ軸部材12を挟んで径方向一方向(
図6中、左右方向)で対向配置された一対のすぐり部28,28が形成されている。すぐり部28は、本体ゴム弾性体16の径方向中間部分を軸方向に貫通して形成されており、周方向に半周弱の所定長さで延びている。また、すぐり部28は、軸方向中央に向かって径方向での幅寸法が次第に小さくなっている。
【0036】
更にまた、本体ゴム弾性体16には、それぞれ周方向に半周弱の長さで延びる一対の下ストッパゴム30が、径方向(
図4中、左右方向)で対向して一体形成されている。下ストッパゴム30は、アウタ筒部材14の当接フランジ部26から下方に向かって突出しており、突出先端側に向かって次第に径方向で狭幅となっている。更に、下ストッパゴム30の表面には、複数の小突起が突設されている。なお、当接フランジ部26は、その表面が本体ゴム弾性体16と一体形成された被覆ゴム層で覆われており、該被覆ゴム層から下方に突出するように下ストッパゴム30が一体形成されている。
【0037】
さらに、本体ゴム弾性体16には、アウタ筒部材14の外周面上に突出する嵌着ゴム32が一体形成されている。嵌着ゴム32は、周方向に連続して延びる環状のゴム弾性体であって、
図2,
図5に示されているように、軸方向に所定の距離を隔てて3つの嵌着ゴム32,32,32がアウタ筒部材14の外周面上に設けられている。なお、嵌着ゴム32の軸方向端面が傾斜面とされており、嵌着ゴム32の軸方向寸法が外周側に向かって次第に小さくなっている。また、嵌着ゴム32は、
図6に示されているように、アウタ筒部材14に設けられた連通孔34を通じて本体ゴム弾性体16と一体形成されている。
【0038】
そして、
図1に示されているように、インナ軸部材12が挿通される取付用ボルト22とそれに螺着される取付用ナット24によって車両ボデー18に取り付けられるようになっていると共に、アウタ筒部材14がサスペンションメンバ20に設けられた装着凹所27に嵌め込まれて、サスペンションメンバ20に取り付けられている。なお、アウタ筒部材14と装着凹所27の周壁部との間には、嵌着ゴム32が介在しており、この嵌着ゴム32がアウタ筒部材14と装着凹所27の径方向で圧縮されている。
【0039】
また、インナ軸部材12の上端には、ストッパ部材36が固定されている。ストッパ部材36は、上ストッパプレート38とそれに固着された上ストッパゴム40で構成されている。上ストッパプレート38は、略円板形状を有していると共に、中央部分を貫通するボルト挿通孔が形成されており、ボルト挿通孔の周縁部がインナ軸部材12の上端面と車両ボデー18の間に挟み込まれて固定されるようになっている。また、上ストッパプレート38には、下方に向かって突出する上ストッパゴム40が加硫接着されている。この上ストッパゴム40は、内周部分がインナ軸部材12の上端部分をカバーする筒状の封止部42とされていると共に、外周部分が突出先端に向かって次第に径方向で狭幅となる当接部44とされている。
【0040】
そして、ストッパ部材36の上ストッパプレート38は、サスペンションメンバマウント10の車両への装着状態において、サスペンションメンバ20の装着凹所27の上底壁部45と軸方向で所定距離を隔てて対向配置される。これにより、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する軸方向下方への変位量を制限するバウンドストッパ機構が、上ストッパプレート38と上底壁部45の当接によって実現されている。しかも、それら上ストッパプレート38と上底壁部45の対向面間に上ストッパゴム40の当接部44が介在させられていることにより、上ストッパプレート38と上底壁部45の当接による衝撃が緩和されて、打音の発生が防止されるようになっている。なお、上ストッパゴム40の封止部42は、インナ軸部材12の外周側で本体ゴム弾性体16の上面に押し付けられており、雨水等がインナ軸部材12に付着するのを防止している。
【0041】
一方、インナ軸部材12の下端には、下ストッパプレート46が固定されている。下ストッパプレート46は、略円板形状であって、中央部分を貫通するボルト挿通孔が形成されており、ボルト挿通孔の周縁部がインナ軸部材12の下端面と取付用ボルト22の頭部との間に挟み込まれて固定されるようになっている。
【0042】
そして、下ストッパプレート46は、サスペンションメンバマウント10の車両への装着状態において、アウタ筒部材14の当接フランジ部26と軸方向で所定距離を隔てて対向配置される。これにより、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する軸方向上方への変位量を制限するリバウンドストッパ機構が、下ストッパプレート46と当接フランジ部26の当接によって実現されている。しかも、それら下ストッパプレート46と当接フランジ部26の対向面間に下ストッパゴム30が介在させられていることにより、下ストッパプレート46と当接フランジ部26の当接による衝撃が緩和されて、打音の発生が防止されるようになっている。なお、下ストッパゴム30の表面に多数の小突起が形成されていることによって、下ストッパプレート46への当接時の衝撃がより緩和されて、打音が更に低減されるようになっている。
【0043】
かくの如き構造とされたサスペンションメンバマウント10において、インナ軸部材12における本体ゴム弾性体16の固着部分には、筒状部材48が装着されている。筒状部材48は、硬質の合成樹脂や金属で形成された略円筒形状の嵌着部50を有しており、嵌着部50がインナ軸部材12の軸方向中間部分に外嵌固定されて、本体ゴム弾性体16に埋め込まれている。
【0044】
また、筒状部材48には、複数の突部52が形成されている。突部52は、
図5に示されているように、嵌着部50の軸方向両端部に形成されており、
図6に破線で示されているように、嵌着部50から径方向一方向(
図6中、上下方向)で両側に向かって突出している。要するに、本実施形態では、4つの突部52が形成されており、筒状部材48がそれら突部52を基端部分で互いに連結した一体成形品とされている。また、突部52は、一対のすぐり部28,28の対向方向とは直交する径方向に突出しており、複数の突部52が何れも一対のすぐり部28,28を周方向に外れた位置に設けられている。
【0045】
さらに、突部52の突出先端面54は、縦断面において略半円形を呈する滑らかな円弧状湾曲面とされており、外周側に向かって凸形状をなしている。そして、突部52の突出先端面54は、基端側に設けられた嵌着部50の表面に対して、折れ点等を持たずに滑らかに繋がっている。
【0046】
また、軸方向に離隔して一対の突部52,52が形成されることにより、それら突部52の間には、凹所56が形成されている。凹所56は、筒状部材48の軸方向中央部分に形成されており、外周側に開口して周方向に所定の長さで延びる溝状とされている。更に、凹所56は、軸方向の最大寸法(開口部での軸方向寸法)が、深さ寸法に対して、100%〜300%の範囲に設定されていることが望ましく、より好適には、120%〜200%の範囲に設定される。特に本実施形態の凹所56では、軸方向寸法が深さ寸法に比して充分に大きくされて、比較的に浅底とされている。
【0047】
また、凹所56の容積の総和は、本体ゴム弾性体16の体積に対して、10%〜50%の範囲に設定されていることが望ましく、より好適には15%〜30%に設定されている。本実施形態では、凹所56の容積の総和が本体ゴム弾性体16の体積の20%程度に設定されている。
【0048】
また、凹所56の軸方向両側の面は、外周側に行くに従って次第に軸方向外側に傾斜する傾斜面58とされている。この傾斜面58は、平面形状であっても良いが、本実施形態では、湾曲面の組み合わせによって構成されている。このような傾斜面58が設けられていることにより、凹所56は、底面に比して開口部が大きくされた拡開形状を有している。
【0049】
そして、突部52と凹所56を備えた筒状部材48は、インナ軸部材12に予め外嵌されており、筒状部材48を備えたインナ軸部材12とアウタ筒部材14の間に本体ゴム弾性体16が加硫成形される。これにより、筒状部材48の外周面は、突部52の形成部分を含んだ全体が本体ゴム弾性体16によって覆われて、突部52を含んだ筒状部材48が本体ゴム弾性体16に埋設されており、筒状部材48とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって連結されている。
【0050】
かかるインナ軸部材12への装着状態において、突部52は、インナ軸部材12の外周面から径方向外側に向かって突出していると共に、軸方向の投影においてアウタ筒部材14の本体ゴム弾性体への固着面まで達しない突出高さとされている。これにより、突部52の突出先端面54とアウタ筒部材14の軸直角方向での対向面間には、本体ゴム弾性体16が介在している。なお、本実施形態では、アウタ筒部材14の内周面が軸方向で直線的に延びる円筒形状とされており、突部52は、軸方向の投影においてアウタ筒部材14と重なり合うことなく、アウタ筒部材14よりも内周側に離隔して配置されている。
【0051】
さらに、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の対向面間での本体ゴム弾性体16の厚さ寸法は、筒状部材48の装着部位において、突部52の形成部分に比して突部52の形成されていない部分(凹所56の形成部分)で大きくされている。
図5を用いて説明すると、本体ゴム弾性体16の径方向での厚さ寸法は、凹所56に入り込んだ厚肉部分60の寸法:Tが、突部52の突出先端面54に固着された薄肉部分62の寸法:tよりも大きくされている。
【0052】
また、サスペンションメンバマウント10の単体状態において、筒状部材48の下側の突部52は、
図5に示されているように、その頂点がアウタ筒部材14を下方に外れて位置している。そして、サスペンションメンバマウント10が車両に装着されて、サスペンションメンバ20の支持荷重が軸方向に入力されることにより、
図1に示されているように、各突部52の頂点が何れもアウタ筒部材14の内周側に収まるようになっている。これにより、突部52とアウタ筒部材14の軸直角方向での対向面間には、本体ゴム弾性体16が隙間なく介在している。なお、サスペンションメンバマウント10の車両への装着によって、本体ゴム弾性体16は、上端面が上側の突部52の表面に略沿った湾曲形状になると共に、下端面が略軸直角方向に広がるように、変形させられる。
【0053】
このような構造とされた本実施形態のサスペンションメンバマウント10においては、インナ軸部材12の外周面から径方向外側に向かって突出する突部52が設けられていることによって、軸方向でのばねが硬くされている。これにより、差動装置等を支持するサスペンションメンバ20から大きな分担支持荷重が入力される場合であっても、充分な耐荷重性が発揮されて、必要な耐久性を確保することが可能となる。特に、突部52の表面全体を覆うように本体ゴム弾性体16が固着されており、突部52が本体ゴム弾性体16に埋め込まれた状態で配設されていることにより、軸方向のばねをより硬く設定して耐荷重性の向上を図ることができる。
【0054】
しかも、突部52は、軸方向の投影において、その先端が何れもアウタ筒部材14における本体ゴム弾性体16の固着面までは達しない突出高さで形成されている。それ故、突部52を有するインナ軸部材12とアウタ筒部材14との間で本体ゴム弾性体16が軸方向に挟み込まれて圧縮されることはなく、サスペンションメンバマウント10に入力される分担支持荷重が大きい場合にも、ばね特性の線形性が確保される。その結果、車両装着状態において、入力振動に対する防振効果を有効に得ることができる。
【0055】
また、突出先端の面積を小さくされた複数の突部52が軸方向で部分的に設けられており、それら突部52の間には凹所56が形成されて、その凹所56に本体ゴム弾性体16が入り込んで厚肉部分60が形成されている。その結果、軸直角方向では突部52の形成によるばね定数の増大が軽減されて、ばねを充分に軟らかく設定することが可能とされている。従って、軸直角方向でのばね特性のチューニング自由度を確保することができて、要求されるばね特性を実現することができる。
【0056】
更にまた、凹所56の軸方向両側の内面が外周側に向かって次第に軸方向外側に傾斜する傾斜面58とされており、凹所56が開口側に向かって次第に拡開している。これによって、振動入力時に、本体ゴム弾性体16の厚肉部分60が変形し易くされており、軸直角方向での小さなばね定数と、軸方向のばね特性における線形領域の拡大が、より効果的に実現されている。
【0057】
また、凹所56の容積の総和が、本体ゴム弾性体16の体積に対して、10%以上に設定されている。これにより、凹所56に充填された本体ゴム弾性体16の厚肉部分60のゴムボリュームが充分に確保されて、軸直角方向のばね定数の低減と、軸方向でのばね特性の線形領域の確保が、何れも有効に実現される。一方、凹所56の容積の総和は、本体ゴム弾性体16の体積に対して、50%以下に設定されている。これにより、本体ゴム弾性体16において厚肉部分60以外の部分の体積が充分に確保されることから、突部52とアウタ筒部材14の対向面間に配される本体ゴム弾性体16の薄肉部分62においても、充分な厚さ寸法(径方向寸法)が確保されて、軸方向での荷重入力による剪断歪みが低減されて、充分な耐久性が確保される。
【0058】
また、突部52の突出先端面54が外周側に凸とされた滑らかな湾曲面とされており、凹所56の内面に対して滑らかに繋がっていることによって、筒状部材48の外周面の全体が角のない滑らかな面で構成されている。このように、本体ゴム弾性体16の固着面である筒状部材48の外周面が滑らかな面とされていることによって、応力の集中による本体ゴム弾性体16の損傷や剥離が回避されて、耐久性の向上が図られる。
【0059】
また、筒状部材48は、インナ軸部材12とは別体で形成されており、インナ軸部材12に外嵌されて後固定されている。これにより、インナ軸部材12自体は、単純な直管形状とすることができて、製造が容易である。しかも、筒状部材48は、剛性を確保するために金属製とされたインナ軸部材12と別体であることを利用して、成形性に優れた合成樹脂で形成されていることから、任意の突部52および凹所56を容易に形成してインナ軸部材12の外周面上に設定することができる。
【0060】
また、本体ゴム弾性体16には、一対のすぐり部28,28が設けられており、それらすぐり部28,28の対向方向でより軟らかいばねが設定されている。しかも、一対のすぐり部28,28は、突部52の突出方向に対して直交する径方向で対向配置されていることから、比較的に小さなすぐり部28によって互いに直交する軸直角方向2方向でのばね比を充分に大きく設定することが可能とされている。その結果、軸方向では、すぐり部28の形成によるばね定数の低下が抑えられて、優れた耐荷重性が実現される。換言すれば、突部52が周上で部分的に設けられていることによって、軸直角方向2方向でのばね比が大きく設定されており、それによって、軸方向でのばねが有利に確保されているのである。
【0061】
次に、
図7には、本発明に係る筒形防振装置の第2の実施形態としてのサスペンションメンバマウント70が、車両への装着状態で示されている。なお、以下の説明において、前記第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0062】
本実施形態のサスペンションメンバマウント70では、インナ軸部材12に筒状部材72が取り付けられている。筒状部材72は、略円筒形状でインナ軸部材12の中間部分に外嵌される嵌着部50と、嵌着部50から外周側に向かって突出する複数の突部74とを含んでいる。
【0063】
本実施形態の突部74は、
図7,
図8に示されているように、全周に亘って略一定の断面形状で連続的に延びる略円環形状とされており、軸方向に所定の距離を隔てて一対の突部74,74が形成されている。なお、突部74の縦断面形状は、第1の実施形態の突部74の最大突出位置での縦断面形状と略同一とされており、その突出先端面54が縦断面において略半円形を呈している。
【0064】
また、一対の突部74,74の軸方向間には、凹所76が形成されている。凹所76は、全周に亘って連続して延びる凹溝状であって、外周側に開口している。なお、凹所76の縦断面形状は、第1の実施形態の突部74の最大突出位置での凹所76の縦断面形状と略同一とされており、開口側(外周側)に向かって軸方向で次第に拡幅していると共に、軸方向両側の面が突部74の表面と滑らかに繋がっている。
【0065】
このような本実施形態に従う構造とされたサスペンションメンバマウント70においても、第1の実施形態と同様に、軸方向での高いばね定数による耐荷重性の向上と、軸直角方向での低いばね定数による防振性能の向上、更にはばね特性における線形領域の確保等の効果が、何れも有効に発揮される。
【0066】
また、突部74および凹所76が略一定断面で周方向に延びる環状とされていることによって、筒状部材72を組み付けられたインナ軸部材12を本体ゴム弾性体16のすぐり部28,28に対して周方向で位置決めする必要がない。それ故、本体ゴム弾性体16の加硫成形工程において、インナ軸部材12が誤った方向で本体ゴム弾性体16に加硫接着されることはなく、不良品の発生を抑えることができる。
【0067】
なお、本実施形態のサスペンションメンバマウント70において、軸方向でばね特性の線形領域が大きく確保されることは、
図9に示された単品状態(車両への非装着状態)で測定された軸方向での荷重−変位特性の実測値を示すグラフからも明らかである。即ち、サスペンションメンバマウント70(実施例)の荷重−変位特性を示す
図9中の実線では、インナ軸部材の軸方向中間部分に凹所76のないバルジ(拡径部分)を備えた従来構造のサスペンションメンバマウント(比較例)の荷重−変位特性を示す
図9中の破線に比して、変位量が小さい領域でのばね定数が大きくなっている。その結果、サスペンションメンバ20が充分なばね剛性で支持されて、本体ゴム弾性体16の変形量が抑えられることにより、耐久性が充分に確保される。一方、実施例は、比較例に比して、変位量が3aを越えた辺りから荷重の増加が抑えられており、ばね特性の線形領域がより大変位側まで大きく確保されている。このことから、サスペンションメンバマウント70では、サスペンションメンバ20から大きな静荷重が入力された状態で更に振動が入力された場合であっても、比較例に比してばね定数の急激な増大が抑えられて、目的とする防振効果が有効に発揮される。このように、サスペンションメンバマウント70が従来構造のサスペンションメンバマウントでは実現され難い優れた効果を奏することが、実験結果によっても確認されている。
【0068】
また、突部74が突出する軸直角方向で振動を及ぼして、サスペンションメンバマウント70の耐久性の確認試験を行った。即ち、実施例として、本実施形態に従う構造のサスペンションメンバマウント70を準備すると共に、比較例として、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向間で本体ゴム弾性体に中間スリーブが固着されたサスペンションメンバマウントを準備して、それらサスペンションメンバマウントに軸直角方向一方向の加振力を及ぼした。その結果、比較例のサスペンションメンバマウントは、数万回の加振で本体ゴム弾性体に亀裂が生じて破損したが、実施例のサスペンションメンバマウント70は、数十万回の加振によっても、性能上問題となる程度の破損は確認されなかった。このことからも明らかなように、本発明に従う構造とされた筒形防振装置によれば、軸直角方向の振動入力時にも、優れた耐久性が発揮される。
【0069】
図10には、本発明に係る筒形防振装置の第3の実施形態としてのサスペンションメンバマウント80が、車両への装着状態で示されている。このサスペンションメンバマウント80のインナ軸部材12には、筒状部材82が取り付けられている。
【0070】
筒状部材82は、厚肉の略円筒形状とされた嵌着部84と、嵌着部84から外周側に突出する複数の突部86を、一体的に備えている。
【0071】
突部86は、周方向環状に延びており、軸方向に所定の距離を隔てて複数が形成されている。また、軸方向両端の突部86,86は、それぞれ軸方向寸法が中間に位置する他の突部86よりも大きくされている。更に、下端に位置する突部86は、突出高さが他の突部86よりも小さくされている。
【0072】
また、軸方向で隣り合う突部86の間には、凹所88が形成されている。凹所88は、全周に亘って連続的に延びる凹溝状とされており、外周側に向かって次第に拡幅しながら開口している。更に、突部86を挟むことで軸方向に所定の距離を隔てて複数の凹所88が形成されており、筒状部材82の外周面は突部86と凹所88が繰り返し形成されていることによって波打ち形状とされている。
【0073】
このような本実施形態に従う構造とされたサスペンションメンバマウント80によれば、前記第1の実施形態に示された効果に加えて、多数の凹所88が形成されており、本体ゴム弾性体16の厚肉部分60が多数に分割されて形成されている。これにより、振動入力時に、本体ゴム弾性体16の厚肉部分60に入力される歪が分散されて、各厚肉部分60の歪が低減される。その結果、本体ゴム弾性体16において亀裂の発生や筒状部材82からの剥離等が防止されて、耐久性の向上が図られる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、突部の断面形状は、前記実施形態に記載されたものだけに限定して解釈されるものではない。具体的には、例えば、突部の突出先端面が、軸方向に所定の幅を持って周方向に延びる筒状の部分、換言すれば、縦断面において軸方向に延びる平坦な部分を有していても良い。
【0075】
また、複数の突部52は、それらの軸方向での離隔距離が大きくされている方が望ましいが、必ずしも筒状部材48の両端に設けられていなくても良く、インナ軸部材12への嵌着部50が突部52の形成位置より軸方向外側に突出していても良い。
【0076】
また、前記実施形態において、突部52は、インナ軸部材12とは別体の筒状部材48に形成されており、筒状部材48がインナ軸部材12に外嵌されることによって、インナ軸部材12の外周面上に突部52が設けられていたが、突部は、例えばインナ軸部材に一体形成されていても良い。
【0077】
また、前記実施形態において、突部52は、軸方向の投影において、アウタ筒部材14よりも内周側に離隔位置していたが、アウタ筒部材14における本体ゴム弾性体16の固着面に対して内周側に離隔していれば、軸方向の投影において重なり合う構造も採用され得る。具体的には、例えば、アウタ筒部材が本体ゴム弾性体16を軸方向に外れた位置で内周側に延び出しており、かかる延出部分が軸方向の投影において突部52と重なり合っていても良い。
【0078】
また、一対のすぐり部28,28は、軸直角方向2方向でのばね比の調節や、軸直角方向でのばね定数の低減のために、形成されていることが望ましいが、要求される防振特性によっては省略され得る。更に、すぐり部の具体的な構造は特に限定されるものではなく、例えば、軸方向で貫通しない凹所状のすぐり部等も採用され得る。
【0079】
本発明は、必ずしも自動車用の筒形防振装置にのみ適用されるものではなく、例えば、自動二輪車や鉄道用車両,産業用車両等に用いられる筒形防振装置にも適用され得る。更に、本発明に係る筒形防振装置は、サスペンションメンバマウント以外にも、エンジンマウントやデフマウント等にも採用可能である。