(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662802
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】フォン−ビルブランド病ならびにフォン−ビルブランド病および血小板機能の後天性または先天性障害に関連する出血リスクの増加を評価するためのインビトロ診断法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/56 20060101AFI20150115BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20150115BHJP
G01N 33/86 20060101ALN20150115BHJP
【FI】
C12Q1/56
C12Q1/02
!G01N33/86
【請求項の数】20
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2010-538476(P2010-538476)
(86)(22)【出願日】2008年12月19日
(65)【公表番号】特表2011-518542(P2011-518542A)
(43)【公表日】2011年6月30日
(86)【国際出願番号】EP2008010899
(87)【国際公開番号】WO2009080303
(87)【国際公開日】20090702
【審査請求日】2011年5月27日
(31)【優先権主張番号】07024932
(32)【優先日】2007年12月21日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】08105554
(32)【優先日】2008年10月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】597070264
【氏名又は名称】ツェー・エス・エル・ベーリング・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ゲオルク・トプフ
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート・ラオー
【審査官】
小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】
特表平11−511261(JP,A)
【文献】
Platelets, 2006 Sep;17(6):p.385-392
【文献】
J. Lab. Clin. Med., 2004 May;143(5):p.301-309
【文献】
Semin. Thromb. Hemost., 2006 Jul;32(5):p.456-471
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるフォン−ビルブランド因子(VWF)の欠陥に関わる出血リスクを検出する方法であって、以下:
a)ヒト個体または動物の血小板および止血因子を含む、予め採取されている体液を含むサンプルを準備する工程
b)該サンプルの少なくとも一部を血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションする工程であって、ここで前記血小板凝集のアクチベーターは、血小板のVWF受容体にVWFを結合させることが可能な化合物を含み
c)血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションした後の工程(b)からの該サンプルの一部において凝固を誘導する工程
d)血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションしたサンプルの一部における凝固誘導後に起こる粘弾性変化をトロンボエラストグラフィによって測定する工程
e)工程(d)で測定された粘弾性変化量を基準値と比較する工程であって、前記基準値は、凝固を誘導した後の標準サンプルにおいて、トロンボエラストグラフィによって測定した粘弾性変化量からなる、
を含み、かつ
前記基準値は、
i)工程(a)で準備されたヒト個体または動物の元々のサンプルを少なくとも2つのサンプルに分けるか、またはヒト個体または動物の少なくとも2つのサンプルを工程(a)で準備し、ここで前記少なくとも1つのサンプルで工程(a)、および工程(c)〜(e)のみを行ない、工程(b)を省略し、そして前記工程(b)を省略したサンプルで測定された粘弾性変化量が、基準値であり、さらに工程(d)で測定された粘弾性変化量が前記基準値に比して減少していない場合に、VWFの欠陥に関わる出血リスクが検出される、または
ii)健常ドナーのサンプルかまたは出血リスクの増大していない健常ドナーの複数のサンプルに、工程(a)および工程(c)〜(e)を適用し、ここで、工程(b)を省略したサンプル中または複数のサンプル中で測定された粘弾性変化量が、基準値であり、さらに工程(d)で測定された粘弾性変化量が前記基準値に比して減少していない場合に、VWFの欠陥に関わる出血リスクが検出される、または
iii)健常ドナーのサンプルかまたは出血リスクの増大していない健常ドナーの複数の
サンプルに、工程(a)〜(e)を適用し、ここで、前記サンプルまたは前記複数のサンプル中で測定された粘弾性変化量が、基準値であり、さらに工程(d)で測定された粘弾性変化量が前記基準値に比して上昇している場合において、VWFの欠陥に関わる出血リスクが検出される、
i)、ii)またはiii)のいずれかによって得られる
ことを特徴とする出血リスクを検出する方法。
【請求項2】
体液が、全血、抗凝固処理をした血液または多血小板血漿である、請求項1に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項3】
請求項1のii)またはiii)において得られた基準値は、健常ドナーの複数のサンプル
で測定された粘弾性変化量の平均値である、請求項1または2に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項4】
凝固アクチベーターを加える、請求項1〜3に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項5】
凝固アクチベーターを、工程(b)の後であるが工程(c)において凝固を誘導する前に加える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項6】
工程(e)が、基準サンプルにおける粘弾性変化量に対する、血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションされたサンプルの粘弾性変化量の比率を決定することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項7】
VWFと血小板の相互作用を低減させる血小板機能異常を検出する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項8】
粘弾性変化がトロンボエラストグラフィによって検出される最大振幅を決定することにより測定される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項9】
工程(e)が、基準サンプルにおける最大振幅に対する、血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションされたサンプルの最大振幅の比率を決定することを含む、請求項8に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項10】
血小板凝集のアクチベーターが、リストセチンまたはボトロセチンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項11】
血小板凝集のアクチベーターがリストセチンである、請求項10に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項12】
リストセチンの濃度が0.1mg/ml〜1.5mg/mlである、請求項11に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項13】
手術前または治療中の患者における出血リスクを予測するための、請求項1〜12いずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項14】
フォン−ビルブランド病(VWD)を予測するための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項15】
VWDが機能的凝固因子の不足につながる先天性出血障害を含む、請求項14に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項16】
体液のサンプルが、試験あたり多くても105μlである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項17】
0.15またはそれ以上の、(血小板凝集のアクチベーターを加えたドナーの体液のサ
ンプルの粘弾性変化)/(血小板活性化のアクチベーターを加えていない同一体液のサンプルの粘弾性変化)の値が、出血リスクの指標である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項18】
VWD治療の前か、そして/または該治療の後で実施する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項19】
VWD治療がデスモプレシンアセテート(DDAVP)の投与を含む、請求項18に記載の出血リスクを検出する方法。
【請求項20】
VWD治療がVWF濃縮物の投与を含む、請求項18に記載の出血リスクを検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォン−ビルブランド病(VWD)のインビトロ診断法ならびにフォン−ビルブランド病および/またはフォン−ビルブランド因子(VWF)と血小板の相互作用を低減させる後天的もしくは先天的血小板機能不全に関連して増大した出血リスクに関する。本発明のインビトロ診断法はまた、さらなる出血リスクを診断するためにも用いられる。この試験は、全血を基にしたスクリーニングテストとしての使用に適切であり、ポイントオブケアテストとして適しているというさらなる利点も有している。
【背景技術】
【0002】
VWFは、哺乳動物の血漿中に存在するマルチマー付着性糖タンパク質であり、複数の生理機能を持つ。一次止血の間、VWFは血小板表面上の特異的な受容体とコラーゲン等の細胞外マトリックス成分と間のメディエーターとして働く。さらに、VWFはプロコアギュラントFVIII用担体を安定させるタンパク質として働く。VWFは、2813個のアミノ酸からなる前駆体分子として血管内皮細胞および巨核球で合成される。前駆体ポリペチド(プレプロVWF)は、成熟血漿VWFで見つかる22残基シグナルペプチド、741残基プロペプチド、および2050残基ポリペチドからなる(非特許文献1)。血管内皮細胞および巨核球によって血漿へ分泌されると、VWFは異なる分子の大きさで多用な種類の形態で循環する。これらのVWF分子は、2050のアミノ酸残基の成熟サブユニットのオリゴマーおよびマルチマーからなる。VWFは、通常、1つのダイマーから最大で50〜100のダイマーからなるマルチマーまでのダイマーとして、血漿で見いだされる(非特許文献2)。ヒト血液循環内のヒトVWFの生体内半減期は、約12〜20時間である。
【0003】
VWFは生体内でFVIIIを安定化させることで、FVIIIの血漿レベルを調節する重要な役割を担うことで、結果として一次および二次止血を制御するための中心因子となることが知られている。フォン−ビルブランド病(VWD)患者にVWFを含む医薬品を静脈内投与した後、24時間内に1mlあたり1〜3単位まで内因性FVIII:Cが増大することが観察され、このことがFVIII上でのVWFの生体内安定効果を示していることも知られている。
【0004】
VWFは、例えば、特許文献1、特許文献2が組み換えVWFの単離方法を記載しているように、ヒト血漿から製造することができる。
【0005】
約0.8%〜1.3%の有症率を有するヒトにおいて最も頻繁な遺伝性出血障害が、フォン−ビルブランド症候群またはフォン−ビルブランド病(VWD)であり、これらは血漿起源または組み換え起源のVWFを含む濃縮物による代償療法によって処置することができる。
【0006】
上述のVWDには、タイプ1、タイプ2、タイプ3、および血小板タイプの4つの遺伝型が存在する。先天性形態および後天性形態のVWDが存在する。ほとんどの場合が遺伝的であるが、後天性形態のVWDが記載されている。国際血栓止血学会議(International Society on Thrombosis and Haemostasis(ISTH))の分類は、質的および量的な欠損の定義による。
【0007】
タイプ1 VWD
タイプ1 VWD(全てのVWD症例のうち60〜80%)は、量的欠損であるが、明らかに凝固障害を伴っていない場合がある。多くの患者は通常、ほぼ通常の生活を送って最期を迎える。合併症は、手術(歯科治療を含む)、著しく内出血をしやすい状態、または月経過多(重い月経)の後の出血という形態で起こる可能性がある。VWFレベルの減少が検出される(通常の10〜45%、すなわち10〜45IU)。
【0008】
タイプ2 VWD
タイプ2 VWD(10〜20%)は、質的欠損であり、この出血傾向は個体間でかなり異なる。VWFのレベルは通常であるが、マルチマーが構造的に異常であるかまたは高分子量マルチマーや低分子量マルチマーのサブグループが存在していない。4つのメインサブタイプが存在する:2A、2B、2Mおよび2N。
【0009】
タイプ2A VWD
このタイプは、VWFマルチマーの合成またはタンパク質分解の異常であり、血液循環中に低分子量マルチマーユニットを存在させる。第VIII因子の結合は正常である。タイプ2A VWDは、フォン−ビルブランド抗原と比べると不釣り合いに低いリストセチンコファクター活性を引き起こす。
【0010】
タイプ2B VWD
このタイプは、「機能獲得型」欠損であり、血小板に自発的に結合し、その後それらの血小板および高分子量VWFマルチマーを急速に排除する。穏やかな血小板減少が起こりえる。高分子量VWFマルチマーは血液循環中に存在せず、第VIII因子の結合は正常である。
【0011】
タイプ2M VWD
このタイプは、血小板上のGPIbへの結合の減少または結合がないことで引き起こされる。第VIII因子の結合は正常である。
【0012】
タイプ2N (Normandy) VWD
このタイプはVWFの第VIII因子への結合の不足である。このタイプはVWF抗原レベルが正常であり、正常な機能テスト結果を得るが、第VIII因子が少ない。これによりおそらく2N患者は過去、血友病Aに罹患していると誤診されていた。
【0013】
タイプ3 VWD
タイプ3(1〜3%)は、機能的VWFが存在しないVWDの最も重篤な形態であって重篤な粘膜出血を引き起こす場合があり、VWF抗原が検出不可能、かつ軽い血友病の場合のように関節血症(hemarthoses)(関節の出血)を発症する第VIII因子レベルの十分に低い状態を引き起こす場合もある。
【0014】
血小板−タイプVWD
血小板−タイプVWDは、血小板上(具体的には糖蛋白Ib受容体(GPIb)のα鎖)のVWF受容体の機能変異が増加することによって引き起こされる常染色体優性タイプのVWDである。このタンパク質は、血小板上に一面にVWF受容体を形成するより大きい複合体(GPIb/V/IX)の一部である。このリストセチン活性および高分子量VWFマルチマーの損失はタイプ2Bと類似しているが、VWFの遺伝子検査では変異が示されない。
【0015】
VWFの量的または質的欠損に加え、血小板表面上の特異的受容体の非存在、または他の血小板異常は、VWF依存の血小板凝集に影響を及ぼす可能性がある。VWF分子は血小板受容体GPIbおよびGPIIb/IIIa、FVIIIC、コラーゲン、スルファチド、ヘパリン、およびヘビ毒由来のタンパク質であるボトロセチンに対して特異的結合部位を有している。血小板凝集は、血小板間の接触によってもたらされる。この接触はフィブリノゲンおよびVWFによって媒介され、血小板表面に受容体の存在が必要である。休止状態において、血小板は非血栓形成性であるが、血小板凝集が開始し、血小板が活性化されると受容体を曝露する。VWFに対応する受容体の欠損や活性化が損なわれることによって、GPIbの欠損を伴う先天性障害であるベルナール−スリエ症候群で見られるような重篤な出血を引き起こす。血小板−タイプVWDにおけるGPIbの「機能獲得型」変異と比較して、ベルナール−スリエ症候群におけるVWF受容体GPIbの「機能損失型」変異は臨床的な表現型をもたらす。この臨床的表現型はVWDに匹敵するが、VWFの量も活性も変化しない。
【0016】
後天性 フォン−ビルブランド病
後天性VWDは、先天性VWDのラボ所見と類似の所見を示す出血障害である。先天性形態とは異なり、後天性VWDは通常、出血障害に関して個人の病歴または家族歴のない個体に発症する。後天性VWDは、リンパ性骨髄増殖性疾患、免疫障害および心血管障害、ならびに固形腫瘍および他の種々の症状と関連している。後天性VWDは、自己抗体を有する患者において発症し得る。この場合、VWFの機能は阻害されないが、VWF−抗体の複合体が血液循環系から急速になくなる。後天性VWDはおそらく、後天性出血障害の多くの症例が診断を下されない原因であり、なぜならばVWDのための特定の試験が通常のラボのほとんどで抜けているからである。後天性VWDの別の形態は、大動脈弁狭窄を罹患している患者に発症し、消化管出血(ハーバー症候群)につながる。
【0017】
単一の試験が理想的であるが、現在は多くの試験(これらの多くは複雑で時間がかかる)がVWDの診断および分類に必要である。いくつかは、PTT、FVIII:Cおよび出血時間の測定のような一般的な出血リスクを評価する一般凝固試験であるが、他の試験はVWF、特にVWF抗原(VWF:Ag)の測定などに関する。
【0018】
現在、凝固に関して利用可能な日常的なスクリーニング試験(例えば、血小板算定、活性化部分トロンボプラスチン時間、および出血時間の測定)は、VWDによって引き起こされる凝固異常の検出またはVWFと血小板との相互作用を低減させる血小板欠損に対して非感受性である。出血時間は非常に可変的であり、血漿VWF抗原(VWF:Ag)またはリストセチン補因子活性(VWF:RCo)を十分に相関しない。従って出血時間は、VWDに対しては有用ではないスクリーニング試験である。
【0019】
より緻密なVWF試験は、VWF抗原(WF:Ag)、リストセチン補因子活性(VWF:RCo)、コラーゲン結合法(VWF:CBA)、リストセチン誘発血小板凝集(RIPA)の分析、VWF:FVIII結合法および特に手間のかかるVWFマルチマーパターンの分析である。VWFタンパク質は、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)またはより新しい自動化された技術によって数量化される。VWFの活性、機能、または接着特性は反映されない。現在、このリストセチン補因子分析法がVWFの機能分析として唯一日常的に用いられており、血小板凝集を用いて実施されている。しかしながら、再現性の乏しさ、ラボ間での相関の乏しさなどの多くの制限を有している。VWF:CBAは、代替の機能分析としてELISAを基に開発され、再現性が比較的高いと考えられる。このVWF:CBAは、特に高分子量のVWFマルチマーの損失に対して感度が高い。VWF:FVIII結合アッセイは、VWFがFVIIIに結合する能力を評価し、タイプ2Nを診断するために用いられる。このRIPA法は、あらゆる濃度でリストセチンに対する感度を持たせるために、個人の多血小板血漿を必要とする。リストセチン感度は、VWFの濃度と機能の両方に依存する。VWFマルチマー分析は、分子量の異なるVWFを検出し、特定のVWF構造異常を同定するゲル電気泳動を含む。マルチマー分析は、異なるサブタイプへの分配を可能にする。試験の複雑さ、時間および費用のために、この試験はわずかな数の専門研究所でしか実施されていない。また、サンプルを専門研究所に送る際の時間的な遅れとサンプルの取り扱いがもとで、高分子量のVWF形態の損失に起因する間違った結果が得られることがある。
【0020】
VWD診断に加えて、血小板の機能障害の診断も自動化分析装置PFA100(Siemens Medical Solution Diagnostics)を用いて行うことができ、この装置は、小さな開口部を通して一定の負圧で抗凝固処理をした血液サンプルを吸引することにより、高いずり応力条件下での一次止血を測定する。その開口部に血栓が形成され、血流の中断が起こるのに必要な時間(閉塞時間(closure time))が測定される。血小板機能およびVWF濃度は、この閉塞時間の重要な決定因子となることが示されている(非特許文献3)。PFA100をベースにした試験において、内因性のみならず外因性の血漿凝固カスケードも、誘導されず、例えばフィブリンの形成をもたらす血漿凝固が起こらない。
【0021】
特許文献3は、試験前カルシウム再沈着工程を導入することによって血小板を含有するクエン酸処理した血液サンプル中の活性化凝固時間を測定するための改善された方法を提唱しており、その中で抗凝固剤は凝固が速く開始しすぎるのを防いでいる。これは、クエン酸処理した血液サンプルに(a)血小板機能回復剤、(b)抗凝固剤および(c)サンプルの少なくとも1つには血小板活性化剤、を同時に添加することを提唱している。試験前カルシウム再沈着後、凝固剤を添加することによって凝固を誘導する。その後、凝固を粘度の変化の測定を含む種々の方法で測定することができる。血小板活性化剤の機能は、通常の状態において、血液凝固反応に効果的に関与する血小板の能力を増強し、それによって凝固時間を短縮するものである。従って、血小板活性化剤の添加は、健常で正常なドナー由来のサンプルにおいては、血小板活性化剤が添加されていない同じドナー由来のサンプルと比較して粘度の増加をもたらすが、血小板欠損を伴うドナー由来のサンプルにおいては、この血小板活性化剤の添加は凝固時間の短縮効果を低減させる(例えば、血小板活性化剤を添加していない同じドナー由来のサンプルと比較した場合に粘度の増加が低減されているかまたは粘度変化が全く起きていない)。開示されているこの試験方法は、血小板欠損を検出するための方法を提供する目的を有している。
【0022】
特許文献4は、特定の金属イオンの存在下で血液凝固速度を測定することによって血液の凝固活性を評価する方法を開示している。ドナー由来のサンプルを少なくとも2つのサンプルに分け、そのうちの少なくとも1つに金属イオンを添加する。この発明の1実施形態において、粘度変化が測定される。この実施形態において、血漿凝固は誘導されないが、金属イオンを少なくとも1つのサンプルに添加し、その後2つのサンプル間の粘度の相対変化を測定する。粘度変化を測定する前に、場合により血小板活性化剤を添加してもよい。しかしながら、この方法は片方のサンプルにのみ血小板活性化剤を添加し、他方には添加しないこと、およびこの異なる処理によって引き起こされる粘弾性変化量の差異を比較することを教示していない。
【0023】
近年、トロンボエラストグラフィの分析技術が臨床実験に導入された。トロンボエラストグラフィ(TEG)は、振動装置中で血餅の形成または溶解を機械的に調査する診断法である。ここで、容器(カップ)を測定用ロッド(ピン)周囲の振動動作中におく(従来型TEG)か、またはそうでなければその容器を固定してピンを振動回転動作中に置く(ROTEGまたはROTEM)。カップとピンとの間に生じる機械的な力を記録する。血液または血漿が凝固し始めるとすぐに最初の測定信号の変化が生じる。両方のデザインも本明細書中ではTEGと示す。
【0024】
TEGは、2mmの振幅(amplitude)を有する最初の顕著な血餅形成が達成されるまでの時間(凝固または反応時間r)、20mmの振幅の凝固厚が達成されるまでの時間(k値)、血餅形成の速度(アルファ角度)、最大振幅(MA)におけるもしくはその他のあらゆる所望の時点における血餅の機械的性質、MAまでの時間(TMA)、またはフィブリン溶解により再度血餅強度が特定の値になるまでの時間、のような凝固関連パラメータ(TEGパラメータ)を測定する目的で、血液または血漿を試験するために用いられる。臨床的に、TEGは、診断用手段として、特に、例えば心臓手術、肝臓移植、大きな腹部手術における凝固異常の評価のため、および、手術周囲での凝固管理における準ベットサイド試験として、用いられる。
【0025】
TEGは、さらに値の測定により時間のかかる標準的な凝固診断(トロンボプラスチン時間、aPPT、血小板計数、AT III、フィブリノゲン、D二量体、出血時間)についても出血傾向に関する迅速な情報入手のために利用できる。このことは、凝固異常が、大規模な手術介入の最中にまたは多発性損傷の後に生じた場合には、重篤な止血障害が速やかに二次的な組織損傷を進行させる可能性があり、そしてしばしばより時間を必要とする標準的な凝固診断に基づく従来法の止血療法に抵抗することから、特に重要である。
【0026】
この方法の魅力はその包括的な面にあり、その出力は、凝固のアクチベーターおよびインヒビター、血小板、ならびに線溶系によって影響を受ける(非特許文献4)。これは、人工的な凝固スクリーニング試験よりもより意義のある方法でサンプル内の不完全な止血および凝固に寄与する主要なメカニズムを同定する可能性を与える。TEGパラメーターは多くの因子、特にフィブリノゲン、第XIII因子、および血小板濃度ならびにプラスミン、プラスミン活性化因子、およびプラスミン阻害剤のような線溶系の成分によって影響を受ける。例えば、フィブリノゲンは止血物質として止血の安定性と関係がある。これは、トロンボエラストグラムにて明確に見ることができる。FVIIIまたはFIXのような凝固のアクチベーターの非存在もまた、トロンボエラストグラフィによって検出することができる。
【0027】
血餅は、フィブリンと活性化血小板との相互作用によって形成される。フィブリン鎖および血小板凝集物は、形成された血餅の機械的強度およびサンプルの粘弾性特性の両方を決定する。VWFとフィブリンが結合して凝集した血小板は、正常なサンプルの粘弾性特性(例えばTEGにて測定される最大振幅)の約80%に寄与し、フィブリンは約20%に寄与する。
【0028】
上述のように、トロンボエラストグラフィは血友病AおよびB、血小板減少、血小板障害、過凝固ならびに線溶系の欠損のような凝固における様々な欠損の分析のために現在用いられている(
図1を参照)(非特許文献5)。特許文献5は、XIII因子をフィブリノゲン欠損状態と区別するためにTEGを用いることを教示している。
【0029】
近年、改良された回転トロンボエラストグラフィ(ROTEM
(R)、Pentapharm,Munich,Germany)は、従来のTEGの様々な制限を回避している。4つのチャンネルで同時測定が可能である。各試験において300μlのクエン酸処理した全血を必要とする。異なる活性化因子によって凝固の活性化を実施することで、異なる活性化経路を評価することができる。4つの標準的なROTEM
(R)分析は、INTEM、EXTEM、NATEM、およびFIBTEMと呼ばれており、製造業者より提供されるプロトコルに従って実施することができる。INTEMおよびEXTEMは、内因性または外因性の凝固経路が誘発される試験を表している。NATEM(非活性化TEM)は、カルシウム再沈着および自発的な接触による活性化以外の凝固カスケードの活性化の非存在下で全血血餅形成を評価するために用いられる。最後に、FIBTEM分析は、サイトカラシンDによる血小板の阻害後の血餅形成におけるフィブリノゲンの特別な役割を評価するために用いることができる。INTEMおよびEXTEMについては、300μLのクエン酸処理した血液を20μLのCaCl
2 0.2M(star−TEM
(R)試薬、Pentapharm GmbH,Munich,Germany)でカルシウム再沈着させ、凝固カスケードは、それぞれウサギの脳にエラグ酸を加えることで作製される部分トロンボプラスチンリン脂質(in−TEM
(R) 試薬、Pentapharm GmbH,Munich,Germany)およびウサギ脳由来のトロンボプラスチン(ex−TEM
(R) 試薬、Pentapharm GmbH,Munich,Germany)によって活性化される。FIBTEMについては、300μLのクエン酸処理した血液を20μLのex−TEM
(R)試薬および20μLのサイトプラスチンD/DMSO溶液、0.2M CaCl
2 (fib−TEM
(R)試薬、Pentapharm GmbH,Munich,Germany)に加えて混合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】欧州特許第05503991号
【特許文献2】欧州特許第0784632号
【特許文献3】米国特許第5,951,951号
【特許文献4】WO 99/41615
【特許文献5】WO 2006/084648
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】Fisher et al.FEBS Lett.351:345−348,1994
【非特許文献2】Ruggeri et al.Thromb.Haemost.82:576−584,1999
【非特許文献3】E.J. Favaloro,Seminars in Thrombosis and hemostasis 32:456−471,2006
【非特許文献4】Luddington,Clin.Lab.Haem. (2005)27,81−90
【非特許文献5】R.J.Luddington,Clin.Lab.Haem.27:81−90,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
ROTEM
(R)は、種々の出血障害の迅速診断のため、および過凝固症状のある患者における凝固状態の全体的な評価のためのポントオブケア装置であることが示されている。特にこの方法は、血友病、種々の凝固のアクチベーター欠損および血小板障害のような障害に典型的に見られる過凝固を明らかにする能力を有している。さらに、種々の止血促進成分による実験的なエキソビボ置換は、ROTEM
(R)が障害した止血能(compromised haemostatic capacity)の補正を表すのに有用であることが明らかとなっている。
【0033】
しかしながら、TEGは、これまでVWDまたはVWFと血小板との相互作用を低減させる血小板欠損と関連する出血リスクの増加の診断については使用されてきていない。
【0034】
臨床的な業務においては、手術を行う前に患者の出血リスクを測定することが必要である。例えば一般的な凝固試験において出血リスクの増加を示すPTTが増加している場合、PTTの増加した原因を決定するために、しばしば例えばVWFのマルチマー分析のようなより時間のかかる試験を含むいくつかの追加試験を行う必要がある。
【0035】
これらの試験結果が有効でない場合、命にかかわるような症状ではない患者には、予定されている外科手術を行うべきではなく、その手術はしばしば数週間後に延期される。
【課題を解決するための手段】
【0036】
従って、患者個人の出血リスクと同様、その患者のVWF機能を確認するテストが、医療的に非常に必要とされており、そのテストは迅速に結果を示す必要があり、血液サンプルを少量しか必要としない全血分析に適切なポイントオブケア試験が理想的である。この問題は、本発明が提供するような試験によって解決される。
【0037】
驚いたことに、本発明において、VWDの質的および量的な欠陥と、フォン−ビルブランド病およびVWFと血小板との相互作用を低減させる後天性または先天性の血小板機能不全に関連する出血リスクの両方を含む、VWFの欠陥を評価する際に、好ましくはトロンボエラストグラフィにおいて粘弾性の変化を決定するのに用いられる方法が存在することがわかった。本発明は、トロンボエラストグラフィをベースにした全血の使用に適切なベッドサイド試験またはポイントオブケア試験を含む、迅速なVWDおよび血小板機能検出アッセイを提供する。
【0038】
なおさらに驚いたことに、この試験は、患者が血小板貯蔵プール病および異常フィブリノゲン血症に罹患していることを明らかにすることができることがわかった。血小板の相互作用は多段階プロセス、および関与すると思われる異なる受容体を介する異なるメカニズムを必要とするようである。フィブリノゲンまたはVWFのような種々の血小板接着タンパク質と、それらそれぞれの表面受容体との間の相互作用が血小板相互作用を媒介し、出血素因が臨床的に明らかになると考えられる。血小板の活性化の間に血小板粒子から細胞内タンパク質が分泌されることもまた報告された。
【0039】
この試験が、試験あたり105μlほどの少量の体液、好ましくは血液を用いて実施することができることも明らかとなり、このことは特に小児科患者および新生児の診断において非常に大きな利点である。従って、本発明は、試験あたりせいぜい300μl、好ましくは試験あたりせいぜい200μlおよび最も好ましくは試験あたりせいぜい105μlの血液サンプル中のVWD、血小板欠損、血小板貯蔵プール病、および異常フィブリノゲン血症に起因する所定の患者の出血リスクを決定するための試験を包含する。本発明の最も好ましい実施形態は、105μlより少量の血液サンプルから出血リスクを決定することである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】凝固における種々の欠乏のトロンボエラストグラムと比較した正常なトロンボエラストグラムを示す。
【
図2】クエン酸添加血とインキュベーションするリストセチンの量を増加させる(最終濃度最大1.05mg/ml)につれ、最大振幅が減少し、凝固時間が延長することを示す。
【
図3】正常な血液のトロンボエラストグラフィ分析を行なう場合、リストセチンとのプレインキュベーション後の最大振幅は、このようなリストセチンとのプレインキュベーションなしの最大振幅の約20%までしか到達しないことを示している。VWDタイプ3の患者由来の血液においては、リストセチンプレインキュベーションの場合でさえほぼ100%の最大振幅に到達し、VWDタイプ1の患者由来の血液においては、約75%である。
【
図4】リストセチンとのプレインキュベーションなしの最大振幅に対するリストセチンとのプレインキュベーションでの最大振幅の比が、健常な個体とVWDを罹患している患者とを識別する診断パラメーターを提供することを示している。この最大振幅の減少は、
図3および
図2に見られるとおりのリストセチン濃度の関数である。
【
図5】全員がVWDタイプ1に罹患している家族のメンバーについての最大振幅の比を示している。これらの患者は、観察される振幅比に相関する臨床的発現の広範囲な変化を示す。
【
図6】VWDタイプ3の患者のクエン酸添加血にインビトロでヘマート(Haemate)(0.5U/ml)を添加した後の、最大振幅の比([(リストセチンを添加したドナー由来の血液サンプル中の最大振幅])/(リストセチンを添加していない血液サンプル中の最大振幅)]
*100)の正規化を示している。
【
図7-1】3時点(DDAVPの投与前、投与後30分および投与後180分)における3人のVWDタイプ1患者(Pat1〜Pat3)にDDAVPを投与した後の、リストセチン補因子活性の増加およびVWF:Agの増加、および対応する最大振幅の比([(リストセチンを添加したドナー由来の血液サンプルの最大振幅])/(リストセチンを添加していない血液サンプルの最大振幅)]
*100)の減少を示している。
【
図8】VWF濃縮物(ヘマート(Haemate
(R))33U/kg)で置換する前および置換後の、VWDタイプ2の患者におけるVWF濃縮物の投与前および投与後の最大振幅の比([(リストセチンを添加したドナー由来の血液サンプル中の最大振幅])/(リストセチンを添加していない血液サンプル中の最大振幅)]
*100)、リストセチン補因子活性、およびVWF−Agを示している。
【
図9】最大振幅の比が15%またはそれ以上である([(リストセチンを添加したドナー由来の血液サンプルの最大振幅])/(リストセチンを添加していない血液サンプルの最大振幅)]
*100≧15%)と決定されたサンプルを示している。患者を標準臨床検査(reference laboratory)の分類に従って3つに分類した。(グループ1:VWDに罹患している患者(1:VWD タイプ1、2:VWD タイプ2、3:VWD タイプ3、M:マイルドフェノタイプVWD タイプ1)、グループ2:O:他の分類された出血障害に罹患している患者、グループ3:VWDに罹患していない患者(N:VWDに罹患していない、E:VWDに罹患しているか不定である))。
【
図10】最大振幅の比が15%未満である([(リストセチンを添加したドナー由来の血液サンプルの最大振幅])/(リストセチンを添加していない血液サンプルの最大振幅)]
*100<15%)と決定されたサンプルを示している。患者を標準臨床検査(reference laboratory)の分類に従って3つに分類した。(グループ1:VWDに罹患している患者(1:VWD タイプ1、2:VWD タイプ2、3:VWD タイプ3、M:マイルドフェノタイプ タイプ1)、グループ2:O:他の分類された出血障害に罹患している患者、グループ3:VWDに罹患していない患者(N:VWDに罹患していない、E:VWDに罹患しているか不定である))。
【0041】
(発明の詳細な説明)
本発明は、フォン−ビルブランド病ならびにフォン−ビルブランド病および血小板機能障害に関連する出血リスクのインビトロ診断法に関する。この方法は、全血をベースにしたスクリーニング方法として使用するのに適切であり、ポイントオブケアの診断方法として適切であるというさらなる利点も有する。本発明の方法は、血小板算定、活性化部分トロンボプラスチン時間、プロトロンビン時間および出血時間のような公知の診断方法と比較して、出血リスクを予測する点で優れている。
【0042】
本発明は、粘弾性変化の測定および凝固を誘導した後の血液サンプル中の粘弾性変化量の比較に関する。凝固を誘導した後の健常な人間から採取したサンプル中の粘弾性変化の総量は、一部は血漿凝固を誘導した後に形成されるフィブリンの網目構造から、また一部は活性化された血小板(これはトロンビンによる凝固の間に活性化される)、VWFおよびフィブリン網目構造の凝集物から生じる。
【0043】
本発明の趣旨は、血漿の凝固を誘導する前に、血小板およびVWFを含む健常的なドナーから採取した血液サンプルを血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションすることによってサンプル中の血小板をもつれさせるのに十分なトロンビンおよびフィブリンを提供し、血小板のほぼ完全な前凝集(preaggregation)を提供することである。この前凝集はVWFと血小板との間の相互作用が正常であるという前提条件ではあるが、そのドナーの出血リスクが増加していないという意味を持つ。
【0044】
前凝集した血小板は凝集させていない血小板と同様に粘弾性変化の総量に寄与しないため、その後血小板を前凝集させたサンプル中で凝固が誘導され、フィブリンの網目構造がつくられた場合、血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションしていないサンプル中の粘弾性変化量と比較して、粘弾性変化量が減少していることがわかる。その後血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションさせたサンプル中の低下した粘弾性変化量を基準値または血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションさせていない同じドナー由来の同様のサンプル中の粘弾性変化量のいずれかと比較する。2つの粘弾性変化量の差が大きいと、そのドナーの出血リスクが増大していないという診断をくだすことができる。
【0045】
逆に、VWFと血小板との間の相互作用が損なわれていることにより出血リスクが増加しているドナー由来のサンプルにおいては、血小板およびVWFの前凝集も損なわれ、健常なドナー由来のサンプルと比較してより少ない程度に起こるかまたは全く凝集しない。その後凝固を開始(前凝集が起こらないかまたは少ない程度でしか起こらないため)すると、血小板は粘弾性変化の総量に寄与することができる。従って出血リスクの増大している患者由来のサンプル中においては、凝固を誘導した後に正常な大きい粘弾性変化量が測定され、血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションしたサンプル中においても正常な大きい粘弾性変化量が測定される。その後血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションしたサンプル中の正常な大きい粘弾性変化量を、基準値または血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションしていない同じドナー由来の同様のサンプル中の粘弾性変化量のいずれかと比較する。2つの粘弾性変化量が小さいとそのドナーの出血リスクが増大しているという診断をくだすことができる。
【0046】
基準値は、出血リスクが増大していない健常なドナーにおいてi)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションする(=REFH+)かまたはii)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションしない(=REFH−)かのいずれかで、凝固を誘導した後に粘弾性変化量を測定することにより、非限定的な例法によって測定することができる。
【0047】
基準値は、例えば出血リスクの増大しているドナー由来のドナーサンプルを用いることによっても決定することができる。
【0048】
基準値をどのように決定するかによって、出血リスクの増大していないドナーから作製された標準サンプル(REFH+またはREFH−)について、表1に示すように判断が異なる。
【0049】
【表1】
【0050】
従って、本発明の1つの実施形態は、患者における出血リスクを決定するインビトロ診断法であって、以下:
a)ヒト個体または動物から、血小板および止血因子を含む体液を含むサンプル例えば、全血または抗凝固処理をした血液または多血小板血漿)を得る工程
b)該サンプルの少なくとも一部を血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションする工程
c)血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションした該サンプルの一部において凝固を誘導する工程であって、工程(c)は、工程(b)の後、工程(b)と同時にまたは工程(b)の前に行うことができる
d)血小板凝集のアクチベーターとインキュベーションした該サンプルの一部における凝固の誘導後に起こる粘弾性変化を測定する工程
e) 工程(d)で測定された粘弾性変化の量を基準値と比較する工程
を含む方法であって、工程(d)で測定された粘弾性変化の量が、工程(a)と同じ手段で同じドナーから得たが、血小板凝集のアクチベーターを加えていない別のサンプルに、上記と同じ方法を適用した場合に測定される粘弾性変化の量と比較して、より低い、方法。
【0051】
従って、VWFタイプ1の患者由来のサンプルにおいて、工程(d)で測定される粘弾性変化量は、同じVWFタイプ1の患者由来の工程(a)と同じ方法で得られたが、血小板凝集のアクチベーターを加えていない別のサンプルに適用した場合に測定される粘弾性変化と比較すると低い。
【0052】
上記の方法の工程(e)で用いられる基準値は、以下の1)〜3)の非限定的な例法によって得ることができる:
1.)上記の方法の工程(a)で得られた元々のドナーサンプルを少なくとも2つのサンプルに分けるかまたはドナーから少なくとも2つのサンプルを上記の方法の工程(a)で得ることによる方法であって、ここで、少なくとも1つのサンプルにおいては、上記の方法の工程(a)のみ、および工程(c)〜(e)を実施しており、上記の方法の工程(b)を省略し、上記の方法の工程(b)を省略した該サンプル中で測定された粘弾性変化量が基準値である。
2.)健常なドナーから採取した1つのサンプルかまたは出血リスクの増大していない健常なドナーから採取したいくつかのサンプルに、上記の方法の工程(a)および工程(c)〜(e)を含む方法を適用することによる方法であって、ここで、該サンプル中または上記の方法の工程(b)を省略したサンプル中で測定された粘弾性変化量が基準値である。好ましくは、健常なドナーから得られた複数のサンプルにおける粘弾性変化量の平均値が基準値である。
3.)健常なドナーから採取した1つのサンプルまたは出血リスクの増大していない健常なドナーから採取した複数のサンプルに、上記の方法の工程(a)〜(e)を含む方法を適用する方法であって、この1つのサンプルまたは複数のサンプル中で測定された粘弾性変化量が基準値である。好ましくは、健常なドナーから得られた複数のサンプル中の粘弾性変化量の平均値が基準値である。
【0053】
i)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされたサンプル中で測定された粘弾性変化量とii)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされていない標準サンプルの粘弾性変化量との間の差が大きいと、そのサンプルのドナーの出血リスクは増大していないという診断が得られるが;
一方、i)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされたサンプル中で測定された粘弾性変化量とii)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされていない標準サンプルの粘弾性変化量との間の差が小さいと、そのドナーの出血リスクが増大しているという診断が得られる。
【0054】
i)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされたサンプル中で測定された粘弾性変化量とii)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされた標準サンプルの粘弾性変化量との差が小さいと、そのサンプルのドナーの出血リスクは増大していないという診断が得られるが;
一方、i)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされたサンプル中で測定された粘弾性変化量とii)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされた標準サンプルの粘弾性変化量との間の差が大きいと、そのドナーの出血リスクが増大しているという診断が得られる。
【0055】
好ましくは、上記の方法の工程(b)は、上記の方法の工程(c)の前に実施される。
【0056】
場合により、本発明の方法を実施する際に凝固のアクチベーターを加えてもよい。好ましくは、その凝固のアクチベーターは工程b)において血小板凝集のアクチベーターを添加する前または後であるが、凝固を誘導する前に加えられる。
【0057】
米国特許第5,951,951号に開示されている方法とは異なり、本発明の方法は抗凝固剤の添加を必要としない。従って、本発明の好ましい実施形態において、抗凝固剤はサンプルに添加されない。
【0058】
元々の体液は希釈されてもよく、その組成は血小板および止血因子を含む限り、変化してもよい。
【0059】
好ましくは、血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションされたサンプルの粘弾性変化と上記の基準値との間の比は、上記の方法の工程e)で決定される。
【0060】
粘弾性変化を評価する好ましい方法はTEGである。TEGによって決定することができ、粘弾性変化を評価する複数のパラメーターを用いて、最大振幅(MA)、曲線下面積、血餅が形成される速度(アルファ角)、所定の時点における振幅、誘導パラメーターを決定するような本発明の方法を実施することができる。好ましくは、元々のサンプルの両方の部分で本発明の方法の工程e)において最大振幅または領域を決定することであり、より好ましくは、工程(f)においてそのサンプル中の両方の部分の最大振幅または曲線下面積の比率を決定することである。
【0061】
本発明において「粘弾性変化」は、凝固プロセスおよび血餅の形成の間のサンプルの粘度およびずり弾性の任意の変化を意味する。
【0062】
本発明において「粘弾性変化量」は、凝固を誘導する前と凝固を誘導した後の特定の時点後のサンプルの粘度の差異を意味する。粘弾性変化量を測定するのに好ましい時点は変化し、また実際に測定されるパラメーターにも依存する。
【0063】
本発明において「血小板凝集のアクチベーター」は、VWFと血小板上のVWF受容体との結合を引き起こすことにより血小板およびVWFを含むヒトの体由来の流体中でVWF依存性の血小板活性化、凝集(aggregation(集合))および凝集(agglutination(塊の形成))の誘導を可能にする、任意の合成物または任意の化合物を意味する。好ましい血小板凝集のアクチベーターはリストセチンおよびボトロセチンである。最も好ましい血小板凝集のアクチベーターはリストセチンである。
【0064】
本発明において血小板凝集のアクチベーターと共に「インキュベーションする」とは、血小板およびVWFを含むサンプルに、少なくとも0.1分間、好ましくは少なくとも1分間、最も好ましくは少なくとも5分間血小板凝集のアクチベーターを加えることである。
【0065】
本発明において「止血因子」は、内因性および外因性の凝固カスケードの成分であるトロンビンおよびフィブリノゲンを含む凝固のアクチベーターのグループであり、これらはいったん凝固が起こるとフィブリノゲンからフィブリンを作製する。
【0066】
本発明において「凝固を誘導する」とは、サンプルのタイプおよび用いられる抗凝固剤に依存して凝固系を誘発または活性化させる任意の方法を意味し、カルシウム再添加、添加した抗凝固剤のアンタゴニストの添加、またはフィブリノゲンからフィブリンを作製させる任意の他の物質の添加を含む。未処理の全血において、凝固は例えばその血液がインキュベーションされるキュベットの表面のような表面に接触することによってすでに誘導される場合がある。保存血液または多血小板血漿が用いられる場合は、カルシウムの添加によって凝固を誘導することができる。ヘパリン処理した血液または多血小板血漿の場合においては、ヘパリナーゼの添加によって凝固を誘導することができる。
【0067】
好ましくは、血小板凝集のアクチベーターは凝集を誘導する前に添加する。しかしながら本発明は凝固と血小板凝集のアクチベーターの添加を同時に誘導することによって実施することもできる。あまり好ましくはないが、本発明の実行可能な実施形態は、凝固を誘導したのちに血小板凝集のアクチベーターを加えることを含む。
【0068】
本発明において「凝固のアクチベーター」とは、1つまたはそれ以上の凝固のアクチベーターを活性化させる物質を意味するが、凝固のアクチベーター自体は血小板および止血因子を含む体液を含むそれぞれの流体中のフィブリンの生成をもたらさない。実際に凝固を誘導する前のこのような活性化因子とのプレインキュベーションは、表面接触のみによる活性化に対して制御された活性化と、向上した精度によって反応時間の短縮のような明らかな利点を提供する。好ましい凝固のアクチベーターはカオリンである。さらに、さらなる差別的な診断情報の可能性を与える。
【0069】
好ましくは、凝固のアクチベーターは凝固させる前に添加する。
【0070】
機能的VWFがサンプル中に存在し、血小板機能が正常である場合、凝固プロセスを誘導する前、凝固プロセス間、または凝固プロセスを誘導した後の血小板凝集のアクチベーターの添加は、血小板の凝集および血小板の活性化を導く。これらの前凝集した血小板は、一旦凝固が誘導されると、血餅の形成中にフィブリノゲンから形成されるフィブリンとの異なる相互作用を示す。これは、血小板凝集のアクチベーターを添加しなかったサンプルと比較して、サンプル中の粘弾性に大きな減少変化をもたらす。このような健常な個体からのサンプルにおいて、例えば血小板凝集のアクチベーターを加えずにTEGにおける大きいMAを測定するが、血小板凝集のアクチベーターを加えた場合は小さいMAを測定する。
【0071】
それに対し、量的または質的な欠損を伴うVWFがサンプル中に存在する場合、一旦血小板凝集のアクチベーターが加えられても血小板凝集はほとんど起きないかまたは全く起きない。従って、凝固を誘導した場合、凝集されていないほとんどまたは全ての血小板が利用可能であり、凝固プロセスの間に形成されるフィブリンとの相互作用も可能である。従って、このVWFの質的または量的な欠損は、血小板凝集のアクチベーターが加えられた場合、例えばTEGにおける大きいMAによって決定することができる。
【0072】
本発明の方法はまた、異なるタイプのVWDを区別することもできる。例えば
図3に示すように、正常な血液のトロンボエラストグラフィ分析を行った場合、リストセチンと共にプレインキュベーションした後の最大振幅は、リストセチンと共にプレインキュベーションしなかった最大振幅の訳20%までしか達しない。VWDタイプ3の患者から採取した血液において、ほぼ100%の最大振幅は、リストセチンとプレインキュベーションを行うことで到達し、VWDタイプ1の患者から採取した血液は、最大振幅が約75%まで低減する。
【0073】
血小板凝集のアクチベーターの添加およびその後の凝集因子−VWF複合体の血小板への結合は、血小板の凝集およびそれらの活性化も引き起こす。この活性化は、VWF複合体の対応する血小板受容体への結合に依存する。よってこの血小板凝集のアクチベーターに対する応答はまた、対応する血小板受容体の欠乏または損なわれている血小板機能によって影響を受ける。従って例えばサンプルを血小板凝集のアクチベーターで処理した後のTEGにおける大きいMAは、損なわれたVWF依存性の血小板凝集(例えば、ベルナール−スリエ症候群のような場合)につながる血小板の欠損によっても引き起こされる。
【0074】
本発明の方法を実施することによってTEGにおける大きいMAのように粘弾性に大きな変化が測定される場合、VWFの質的もしくは量的な欠損または損なわれたVWFに依存する血小板凝集の診断は、以下に基づくことができるa)健常な個体からのサンプル中の粘弾性の事前に測定された変化に基づいて基準値を用いる、粘弾性の大きな変化の比較:またはb)血小板凝集のアクチベーターと共にインキュベーションしておらず、凝固が引き起こされている元々のサンプルの参照部分と比較することによって。
【0075】
従って、本発明の方法は、VWFの非存在または機能不全およびVWF因子関連の血小板欠損を評価するための迅速な方法を提供し、その他にVWDおよびVWFと血小板との相互作用を低減させる血小板機能障害を診断する迅速な方法を提供する。さらに驚いたことに、この試験は、患者が血小板貯蔵プール病および異常フィブリノゲン血症に罹患していることを決定することができることが明らかとなった。本発明の方法は、他の非常に時間のかかる診断方法を不要にする、病床試験に適切である。本発明の別の利点は、時間のかかる遠心分離工程の必要性を排除したという点である。この試験は105μlほどの少量の血液で実施することができ、小児科患者および新生児を診断するのに特に大きな利点となる。
【0076】
このような試験は、出血リスクが、例えば、手術前および術中のセッティング中などに結果が迅速に必要である際に決定する必要のあるVWF欠陥またはベルナール−スリエ症候群のような血小板機能障害に起因する場合に特に有用である。いくつかの障害および同時罹患に加え、複数の薬物が血小板機能を損なわせることが知られている。
【0077】
トロンボエラストグラムの結果に例示されているような粘弾性の変化が、所定のドナーの凝固および線溶系の全体的な状態を反映するように、血友病Aもしくは血友病Bのような特定の凝固のアクチベーターにおける先天性欠陥、外傷もしくは手術に伴う出血の場合のフィブリノゲンのような凝固のアクチベーターの欠損、またはクマリン処置のような薬物介入もまた、当業者が判断し得る粘弾性の変化またはトロンボエラストグラムの特定の特徴あるパターンに反映される(Luddington,Clin.Lab.Haem.(2005)27,81−90)。従って、本発明の方法の使用はVWF、またはVWFと血小板の相互作用を低減させる血小板受容体の欠損に起因する増大した出血リスクの診断を可能にするだけではなく、凝固系または線溶系の他の異常の同時診断も可能にする。
【0078】
従って、本発明を実施することにより、線溶亢進、失血による多因子凝固障害、抗凝血剤の使用による出血、外傷関連の低凝固状態、妊娠関連の低凝固状態、播種性血管内凝固、血小板減少、FVIII、FIX、FXIIIおよびフィブリノゲンよのうな機能的凝固のアクチベーターの不足につながる先天性出血障害、血小板貯蔵疾患(platelet storage diseases)および異常フィブリノゲン血症の診断も可能となる。
【0079】
粘弾性変化を測定することによってフォン−ビルブランド病およびフォン−ビルブランド病に関連する出血リスクならびに後天性または先天性の血小板機能不全を評価するのに適した試薬およびキットの使用もまた、本発明の一部である。
【0080】
最も驚いたことには、従来のVWFの診断が異なる患者間の異なる出血リスクを診断することができない場合でさえも、実施例4(a)に示すような本発明の方法は(a)公知の方法よりもより予測的な方法で所定の患者の出血傾向を予測する。実施例4(b)に示すように、個体がVWDに罹患していると誤って診断される場合(おそらく、通常の現象である貯蔵および移動の間のVWDマルチマーの損失に起因すると思われる)は、本発明のインビトロ診断法で健常的かつ出血リスクの増大していないと正確に診断された。従って、本発明の方法は、従来のVWD診断法よりも少なくともいくつかの場合においてより信頼的でありゆらがないものである。
【0081】
本発明の方法は、VWDもしくは血友病A患者へのDDAVPの投与またはVWDもしくは血友病A患者へのVWF濃縮物の投与のような異なる処方計画の出来不出来をモニターするのに用いることができることも示されている(実施例5)。
【0082】
おそらく、本発明の方法の最も魅力的な特徴のひとつは、VWDおよび/またはVWFの血小板への結合に影響を及ぼす血小板欠損を診断するための、高感度かつ特異的な試験方法を提供するのみならず、出血リスクが増大している患者(このリスクは、時折不確かな病因によるさらなる原因に起因する)を見分けることである。
【0083】
このことは、本発明の方法が全血(凝固系の血漿成分および細胞成分が存在し、多くの他の凝固試験システムの場合と同様に人為的に分離されていない)中の個体の出血リスクを決定するという事実に基づくと思われる。
【0084】
従って、本発明の方法は所定の個体における出血リスクを確実に予測し、このような失血リスクの原因を絞る、迅速な方法である。
【0085】
本発明の方法は、実施例に記載されるように優先的に実施される。
【0086】
患者から採取した全血または抗凝固処理をした血液(例えばクエン酸塩添加血もしくはクエン酸塩添加多血小板血漿またはヘパリン処理した血液もしくはヘパリン処理した多血小板血漿)のような、血小板および止血因子を含む流体を、場合により凝固のアクチベーターとして作用するが、この時点では実際に凝固を誘発しない安定化剤(例えばカオリンまたは組織因子)を含んだバイアルに移す。
【0087】
好ましくは、これらの成分を反転されることによって混合し、場合により少なくとも2つのアリコートに分割する。ほとんどの血小板凝集のアクチベーターはこれらのアリコートのうちの1つに添加する。リストセチンを用いる場合、好ましい最終濃度は0.01〜100mg/ml、より好ましくは0.1〜3mg/mlまたはさらにより好ましくは0.3mg/ml〜1.5mg/mlである。
【0088】
これらのアリコートを10〜37℃で0〜360分、より好ましくはほぼ室温で5分、または約37℃で10分、好ましくは混合の間、インキュベーションする。
【0089】
その後両方のアリコートを、粘弾性変化を測定することのできる容器(例えばTEG分析カップ)に移す。
【0090】
好ましくは、その後凝固を誘導するが、凝固は、血小板凝集のアクチベーターの添加と同時にかまたは好ましくは添加の前に誘導されてもよい。
【0091】
粘弾性変化は両方のアリコートで測定され、粘弾性変化を測定するのにTEGが用いられる場合、その試験は、最大振幅に到達するまで優先的に実行される。
【0092】
リストセチンなどの血小板凝集のアクチベーターを添加していない追加サンプルは、コントロールの測定として用いられる。
【0093】
TEGが粘弾性変化を決定するための試験である場合、リストセチンなどの血小板凝集のアクチベーターに応答する血小板活性化は、非限定的な例によって血小板活性化のアクチベーターを添加していないコントロールの最大振幅(MA)および血小板活性化のアクチベーターのリストセチンを添加したサンプルの最大振幅(MA
リストセチン)から決定することができ:その後その比(MA
リストセチン/MA)
*100として示される。この割合の変化を測定することで個々の患者の応答を評価し、リストセチンのある用量に対
する相対的な応答の指標を提供する。
【0094】
リストセチン濃度が0.75mg/mlにおいては、15%の比率が、出血リスクの増大した患者を決定するための好ましいカットオフ値であることがわかった。
その比率(MA
リストセチン/MA)
*100が15%以上である場合、患者の出血リスクは増大しており、VWDまたは他の出血性素因に罹患しており、命にかかわるような症状で緊急手術が必要でない場合は、さらなる診断の前に手術を受けるべきではない。
その比率(MA
リストセチン/MA)
*100が15%より低い場合は出血リスクが増大していないので、患者は手術を受けることができる。
【0095】
15%というこの比率は、限定的なものではなく一例にすぎないことを理解されたい。粘弾性変化を測定する技術に依存し、測定される個々のパラメーターに依存して、当業者は例えばVWD患者からおよび健常な患者からのサンプルに基づいて、病気の状態と健常な状態とを区別する比率を決定することができる。
【0096】
本発明の目的は、インビトロ診断法であり、その診断法において、0.85以上、または0.80より大きい、または0.75より大きい、または0.70より大きい、または0.65より大きい、または0.60より大きい、または0.55より大きい、または0.50より大きい、または0.45より大きい、または0.40より大きい、または0.35より大きい、または0.30より大きい、または0.25より大きい、または0.20より大きい、または0.15より大きい、または0.10より大きい、または0.05より大きい(血小板凝集のアクチベーターを添加したドナーから採取した体液のサンプル中の粘弾性変化)/(血小板活性化のアクチベーターを添加していない同じ体液サンプル中の粘弾性変化)の値は、出血リスクの指標であると解釈される。この出血リスクはVWDに起因するものであってもよいが、他の原因ならびに上記で概説したようなものでもよい。
【0097】
VWDに罹患していない患者は、実施例2に記載するようにリストセチンとのインキュベーション後の最大振幅において顕著な減少を示す。ほぼすべての血小板が不活化され、引き続く凝固の誘導後の凝固強度(clot strength)に寄与する血小板はそれ以上検出されない。反対にVWD患者については、リストセチンとのインキュベーションによって凝固強度が全く改変されないかまたはごくわずかしか改変されない。
【0098】
TEGのほかに、粘弾性変化のための他の試験も用いることができる。例えば、血小板因子分析機(Siemens Medical Solutions)も個々に適用したプロトコルに次いで類似の方法で用いることができる。Sonoclot Analyser(Sienco)またはReoRoxもしくはVisco Analyser(MediRoxAB)のような粘弾性の凝固検出に適した他のレオロジー装置を用いてもよい。
【0099】
要約すると、本発明のインビトロ診断法は特にスクリーニングテストとして適切である。この初期スクリーニングテストにおける陽性結果は、その後ほとんどの場合はVWFマルチマー算定または血小板機能試験のようなさらなる特別なラボ試験を行う。
【実施例】
【0100】
(実施例1)
健常な患者から採取したクエン酸で安定化した血液を、標準化したカオリン試薬を入れたバイアルに移し、反転させることで混合した。このカオリン試薬は、Haemoscope Corporationより購入した。混合物を十分に混合し、2つの500μLのアリコートに分けた。15mg/mLの濃度で異なる量のリストセチンを、活性化した血液のアリコートの片方に加え、両方のサンプルを10分間ミキサー上でインキュベーションした。両方のアリコートの300μLをTEGアッセイカップに充填し、20μLの0.2M CaCl
2を加えた。Rotem Analyserを用いて、少なくとも最大振幅に到達するまで、TEG追跡をランさせた。
図2は、得られた4つの異なるTEGパターンを示している。リストセチンの最終濃度に依存して、最大振幅の減少および凝固時間の延長が観察された。
【0101】
(実施例2)
分析器および試薬は、Haemoscope Corporationからのものであった。1.3mLの血液を、3.18%のクエン酸三ナトリウム中に集めた(1:9 抗凝固剤:血液)。1mLのクエン酸で安定化させた血液を標準化したカオリン試薬を含むバイアルに移し、反転することで混合した。この混合物を十分に混合し、2つの500μLのアリコートに分けた。15mg・mL
-1の濃度で25μのリストセチンを、活性化した血液のアリコートの片方に加え、両方のサンプルを10分間ミキサー上でインキュベーションした。両方のアリコートの360μLをTEGアッセイカップに充填し、20μLの0.2M CaCl
2を加えた。少なくとも最大振幅に到達するまで、TEG追跡をランさせた。
図3は、得られた3つの異なるTEGパターンを示している。
図1aは、正常で健常なヒトのTEGプロフィールを示し、
図1bおよび1cは、VWDタイプ3およびタイプ1に罹患している患者のTEGプロフィールを示している。
【0102】
(実施例3)
実施例2の手順に従って、健常な患者およびVWDに罹患している患者から採取した血液サンプルを試験した。全てのVWDサンプルは、標準的な基準を用いてVWDを罹患していると診断された患者に由来した。VWD血漿に加え、多くの正常なサンプルも集め、比較試験のために用いた。リストセチンに対する血小板活性を、コントロールの最大振幅(MA)およびリストセチン活性化トレース(MA
リストセチン):MA
Ricocetin/MA
*100から決定した。この割合の変化を計算して個々の被験者の反応を評価し、一定量のリストセチンの用量(最終濃度 0.71mg/mlおよび1,05mg/ml)に対する反応の指標を与えた。リストセチンを加えていないカオリンで誘導したサンプルを、コントロールの測定として用いた。VWDを罹患していない患者は、実施例2に記載しているように、リストセチンとのインキュベーション後に有意な最大振幅の減少を示している。ほぼ全ての血小板が不活化され、凝固強度に寄与する血小板はもはや検出できなかった。反対に、VWDに罹患している患者については、リストセチンとのインキュベーションによって、凝固強度は全く変化しないかまたはごくわずかしか変化しなかった。
【0103】
(実施例4)
a)VWDの診断にはまだ問題が残っており、このことは、タイプ1VWDについて特にそうである。これらの対象(subject)の多くは出血の発現を示さないために認識されないまま進行する。家族のメンバーの研究によって、この疾患には変化しやすい浸透度および表現度があることが示されている。冒されている家族メンバー間の出血徴候とラボ結果の両方における可変性は、VWD変異体の変化しやすい浸透度および表現度を表している(Miller CH,Graham JB,Goldin LR,Elston RC.Genetics of classic von Willebrand's disease.I.Phenotypic variation within families.Blood 1979:54:117−36)。
【0104】
本発明者らは、VWDタイプ1に全員が罹患している家族の4人のメンバーについて調査した。詳細な出血履歴および家族歴を個人インタビューによって各被験者から聴取した。これらの患者は、彼らの臨床所見と相関する異なるトロンボエラストグラフィ(TEG)パターンを示している。最も高い比を有する患者Hは、機能性子宮出血(meno−metorrhagia)、抜歯後の出血および皮膚の出血症状を示す。対照的に、他の3人の患者は、これまでに目立った出血発現は報告されていない。
【0105】
従って、本発明の診断方法は従来の診断アッセイよりも家族のメンバーHの出血リスクを予測するのに優れていた。凝固スクリーニング試験について、プロトロンビン時間と活性化トロンボプラスチン時間に相関は見いだされなかった。
【0106】
b)多くの分析前変動要因は、VWDの同定に実質的な問題を引き起こす。さらに、VWFおよび特に高分子量のVWFにおいては、アーチファクトの収集および輸送に非常に感受性である。クエン酸ナトリウム血漿の低温での輸送および/または貯蔵は、サンプルのサブセットにおけるHMW VWFの消失を引き起こす。これらの場合には、臨床検査結果を反復確認をせずに受けると、VWDの誤認または誤った結論が生じる場合がある。
【0107】
驚いたことに、試験した103のサンプルにおいて、本発明のインビトロ診断法が、マルチマー検出をベースにした従来の診断がVWDを有する患者の誤分類を引き起こした2つの症例において、VWDの非存在を正確に検出することを発現した。両方の患者は、マルチマーパターンをベースにした従来の診断法に従ってタイプ2Aであると分類されたのに対し、本発明のインビトロ診断法では、TEG比が正常な範囲にあるので、出血リスク/VWDの兆しがないと同定された。その後これらの患者の第二のサンプルを再試験し、それはマルチマーパターンにおいて異常がないことが示された。
【0108】
(実施例5)
a)インビトロ治療コントロール(VWF濃縮物)
VWDタイプ3に罹患した患者のクエン酸添加血を、補充療法のための市販のVWF濃縮物であるhaemateの種々の量と共にインキュベーションした。この混合物をよく混合し、2つの500μLのアリコートに分けた。15mg・mL
-1の濃度で25μのリストセチンを、活性化した血液のアリコートの片方に加え、両方のサンプルを10分間ミキサー上でインキュベーションした。300μLの両方のアリコートを、20μLのstar−TEM試薬(カルシウム再添加(recalcification)用)および20μLのex−TEM試薬を含むROTEM
(R)分析器のTEGアッセイカップに加えた。外因性の凝固カスケードをその組織因子を加えることによって誘発させた。ROTEM
(R)分析器を用いて、少なくとも最大振幅に到達するまでTEGトレースを記録した。
図6に示すように、その比率は正常化し、インビトロでHaemateを加えた後の健常な患者と有意な差は存在しなかった。
【0109】
b)インビボ治療管理(DDAVP)
VWDにおける治療は、出血エピソードを軽減するかまたは出血エピソードを予防する必要があり得る。タイプ1 VWDに罹患している個体のほとんどは、一般的には内生的に貯蔵されたVWFを放出するように作用するDDAVP(デスモプレシンアセテート)を用いて効果的に管理される。DDAVPのトライアルを行い、次いでその後の血液のサンプリングおよび試験によって反応をモニターするのが一般的である。全ての患者はDDAVPの投与前に高い振幅比を有しており、DDAVPは、TEG比([(リストセチンを添加したドナー由来の血液サンプルの最大振幅])/(リストセチンを添加していない血液サンプルの最大振幅)]
*100)を正常化させることができた。この方法は、DDVAPに対するノンレスポンダーからレスポンダーを識別するための単純かつ迅速なツールである。本方法の利点は、ほぼ迅速な試験時間が得られたことである。この結果は、血液のサンプリング後直ちに利用可能である。対照的に、VWF:CBの結果は、一般的には血液のサンプリング後数日後にしか得られない。振幅比についての値は、VWF:AgおよびVWF−RCoを3時点(DDAVPの投与前、投与後30分および投与後180分)について
図7に示している。これは、インビボにおいても本発明のインビトロ診断法がVWDに起因する出血リスクを低減するためにDDAVPを用いた治療介入の成功をモニターするのに用いることができることを示している。
【0110】
c)インビボ治療管理(VWF濃縮物)
中等度から重症の第VIII因子およびフォン−ビルブランド因子の欠乏を有する患者は通常治療を必要とする。血漿由来の濃縮物の注入を通して正常なVWFを提供することで、第VIII因子およびVWFの欠乏を矯正することが可能である。リストセチンとのプレインキュベーションを伴うTEGアッセイおよび伴わないTEGアッセイを、投与前および投与後に行った。VWFの置換の効果は
図8に示されているように、TEG試験の最大振幅比([(リストセチンを添加したドナー由来の血液サンプルの最大振幅])/(リストセチンを添加していない血液サンプルの最大振幅)]
*100)の有意な減少において見ることができた。従って、本発明者らは血漿VWF:AgおよびVWF−リストセチン補因子活性の両方の変動因子について、それぞれ10%、11%からのベースライン値における139%および66%への増加を得た。このことはまた、インビボにおいても、本発明のインビトロ診断法がVWDに起因する出血リスクを低減するためにVWFを置換する治療介入の成功をモニターするのに用いることができることを示している。
【0111】
(実施例6)
本発明者らはこのアッセイの性能とVWDの臨床検査診断のためのその有用性について評価した。103人の患者(女性58名、男性45名:年齢の中央値11.9±11.2)を治験に登録した。INTEMアッセイによって検出することのできる血友病障害をすでに患っている患者は、この治験から除外した。VWD分類は、VWF:Ag、vWF:CBおよびVWFマルチマーパターンをベースにして標準臨床検査により行なった。3つのサブグループについて、最大振幅比([(リストセチンを添加したドナー由来の血液サンプルの最大振幅])/(リストセチンを添加していない血液サンプルの最大振幅)]
*100)の結果を
図9および10に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
図9および10に示されているように、結果は以下のとおりである:
a)TEG比<15%
→正常で健常な個体由来の56サンプル(これらのうちのxyzはVWD診断結果が「不定」のものである)
→VWDタイプ1に罹患している患者由来の1サンプル(マイルドフェノタイプ)
b)TEG比≧15%
→VWDタイプ3に罹患している患者由来の1サンプル
→VWDタイプ2Aに罹患している患者由来の4サンプル
→VWDタイプ2Bに罹患している患者由来の2サンプル
→VWDタイプ1に罹患している患者由来の3サンプル
→VWDタイプ1(マイルドフェノタイプ)に罹患している患者由来の10サンプル
→VWDに罹患していない個体由来の26サンプル
【0114】
振幅比の15%のカットオフ値に従って、VWDの検出感度は95%([(真陽性の数)/(真陽性の数+偽陰性の数)]:20/21=95.2%)、VWDの特異性(specificity)は68%([(真陰性の数)/(真陰性の数+偽陽性の数)]:56/82=68.3%))であった。
【0115】
しかしながら、TEG比≧15%であるが、標準臨床検査によってVWDとして分類されなかった26人の個体の中でもほぼ半数は、他の特性化されていない出血障害を指す病歴を有していた。これまで、以下の出血障害を以下のように割り当てることができた:
→1人の患者は、強い消化管出血を伴う未分類の血小板機能欠乏を有する。
→1人の患者は、リンパ増殖性症候群によって引き起こされる強い消化管出血を有する。
→1人の患者は、血小板貯蔵プール病を有する。
→1人の患者は、異常フィブリノゲン血症を有する。
→5人は不定のVWDであると分類される。
→2人の患者は、出血エピソード、鼻血および出血時間の延長を繰り返している。
→3人の個体は、重篤な出血エピソードの家族歴を有する。
【0116】
つまり、出血障害に対する特異性および感度は非常に高いと想定することができる。
【0117】
出血素因の診断に関して、感度は少なくとも95%(検出されなかったVWDタイプyxzの1人の患者が、さらに試験したときに出血リスクの増加を示さないとして)および潜在的な特異度(potential specificity)は82%(56/68=82.3%)である。たとえ残りの15名の「偽陽性」の個体が、さらに試験した際に増大した出血リスクを有するという結果になったとしても真の特異性はより高くなるはずである。
【0118】
従って、本発明のインビトロ診断法は、VWDまたはVWFと血小板との相互作用に影響を及ぼす血小板疾患に関連する出血リスクを検出するのに適しているのみならず、出血リスクを検出するのに適した一般的な試験である。