(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材の少なくとも一方の面に、中間層と染料受容層とをこの順に積層した熱転写受像用シートにおいて、上記中間層を形成する樹脂材料が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする熱転写受像用シート。
前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、前記自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含んでなる請求項1又は2に記載の熱転写受像用シート。
前記マスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であって、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、前記自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応して自己架橋するものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱転写受像用シート。
【背景技術】
【0002】
従来より種々の熱転写記録方式が知られているが、それらの中に昇華転写記録方式がある。昇華転写記録方式では、昇華転写染料を色材とし、これをポリエステルフィルム等の基材シートに担持させた熱転写シートが用いられている。そして、昇華転写記録方式を用い、昇華染料で染着可能な被転写材、例えば、紙やプラスチックフィルム等に染料受容層を形成してなる熱転写受像用シート上に、上記熱転写シートから、基材に担時させた昇華転写染料を熱転写し、各種のフルカラー画像を形成する方法が提案されている。
【0003】
この場合、記録信号に応じて発熱するサーマルヘッドを用い、極めて短時間の加熱によって多色の色ドットを熱転写受像用シートの受容層に転写させ、フルカラー画像を得ている。この記録方式によれば、染料により形成された画像は、非常に鮮明で且つ透明性に優れているため、得られる画像は、中間色や階調の再現性に優れ、従来のオフセット印刷やグラビア印刷による画像と同様であり、かつ、銀塩写真に匹敵する高品質の画像を形成することが可能である。
【0004】
上述したように、昇華型転写方式に使用される熱転写受像用シートは、基材上に染料を染着するための受容層を有している。さらに、基材と受容層の間には、クッション性や柔軟性を出すため中間層が形成されている。しかし、一般的に使用される中間層用樹脂は、染料の拡散防止のバリヤー性に乏しいため、熱転写受像用シートを高温下で長期保存した際に、染料画像が中間層内に拡散して、画像がにじんだりぼやけたりして、鮮明な画像が消失してしまうという問題があった。また、上記した中間層に対する別の要求性能として、基材と受容層との間における接着性がある。これは、プリンターにおいて画像を形成する際や、印刷画像を使用している時に、基材から受容層が剥離するのを防ぐことが必要になるためである。さらには、中間層の上に受容層を塗布する際、受容層の形成に用いる溶剤によって中間層が溶解するなどの問題が起きるため、中間層の耐溶剤性も必要である。
【0005】
このため、中間層の形成材料として、染料の拡散防止に対するバリヤー性に優れたポリビニルアルコール樹脂やポリウレタン系樹脂、またはそれらの混合物を用いたものが提案されている。また、受容層の形成の際に生じる中間層の溶解に関しては、中間層を形成する樹脂に架橋剤を添加して耐溶剤性を持たせるなどのことが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、これらの方法は、中間層に要求される染料画像の拡散を防止するバリヤー性や、基材及び染料受容層に対する接着性、さらに中間層の耐溶剤性の点で、未だ不十分である。
【0006】
さらに、最近では、環境問題の高まりからこの対策に積極的に取り組むメーカーが多くなり、環境保全性に優れた材料を用いて製品を構成する動きがあり、熱転写受像用シートに関しても例外ではない。例えば、前記中間層及び染料受像層(受容層)に使用する樹脂を製造する際に用いる有機溶剤において、特定の溶剤を選択しないことの検討や、有機溶剤の代わりに水系樹脂を使用してVOC(揮発性有機化合物)排出量をできるだけ抑制する検討も盛んに行われている。しかし、現在の地球規模での環境保全性に対応するにはまだ不十分である。
【0007】
二酸化炭素を製造原料とする樹脂として、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が以前から知られている(例えば、特許文献3及び4参照)が、その応用展開は進んでいないのが実情である。その理由は、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、同種系の高分子化合物として対比されるポリウレタン系樹脂に比べ、その特性面で明らかに劣るからである。
【0008】
一方、近年、増加の一途をたどる二酸化炭素の排出に起因すると考えられる地球の温暖化現象は、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題となっている。さらに、枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっており(例えば、非特許文献1及び2)、二酸化炭素を製造原料とできる技術の開発が待望されている。
【0009】
上記のような背景下、再び、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が見直されている。すなわち、この樹脂を構成する5員環環状カーボネート化合物の原料となる二酸化炭素は、容易に入手可能で、かつ、持続可能な炭素資源であり、このような二酸化炭素を原料とできるプラスチックは、上記した地球温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段であると言えるからである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の熱転写受像用シートは、基材の少なくとも一方の面に、中間層と染料受容層(以下、単に受容層という場合がある)とをこの順序で積層し、該中間層を構成する高分子化合物が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導され、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分としていることを特徴とする。以下、各構成について、それぞれ説明する。
【0019】
<基材>
本発明の熱転写受像用シートを構成する基材は、受容層を保持する役割を有するとともに、熱転写時には熱が加えられるため、下記に挙げるような、比較的耐熱性のよいフィルムを用いて形成することが好ましい。例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、PEEK、PEN、PET、ポリスチレン、ポリサルフォン、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、トリアセチロセルロース等の各種フィルム或いは合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙などが挙げられる。
【0020】
これら基材の厚みは、任意でよく、通常10〜300μm程度である。また、これら基材と、上に設ける層(後述する中間層)との接着性に乏しい場合には、基材の表面に各種プライマー処理やコロナ放電処理を施すことが好ましい。基材の、上記した中間層などを設ける側と反対の面(背面)には、離型性や導電性を付与することを目的とした層をさらに設けてもよい。
【0021】
<中間層>
本発明は、上記基材上に積層される中間層が、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として形成されていることを特徴とする。本発明を特徴づける自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、少なくとも一個の遊離のイソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有する変性剤を用い、該変性剤の遊離のイソシアネート基を、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導したポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と反応させることによって得ることができる。
【0022】
[変性剤]
(有機ポリイソシアネート化合物)
本発明で用いる自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造において使用する変性剤には、有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物を用いることができる。この際に使用する有機ポリイソシアネート化合物は、脂肪族或いは芳香族化合物中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する有機化合物が挙げられるが、該化合物は従来からポリウレタン樹脂の合成原料として広く使用されている。これらの公知の有機ポリイソシアネート化合物は、いずれも本発明において有用である。本発明で使用できる特に好ましい有機ポリイソシアネート化合物としては、以下のものが挙げられる。
【0023】
例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。さらに、これらの有機ポリイソシアネート化合物と他の化合物との付加体、例えば、下記構造式のものも好適に使用できる。しかし、本発明は、これらに限定されない。
【0025】
(マスキング剤)
本発明で使用し得る好適な変性剤は、少なくとも一個の遊離のイソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有するものであるが、上記に挙げたような有機ポリイソシアネート化合物と、下記に挙げるようなマスキング剤との反応生成物として得ることができる。マスキング剤としては、下記のものが使用できる。アルコール系、フェノール系、活性メチレン系、酸アミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、ピリジン系化合物などが挙げられるが、これらを単独あるいは混合して使用してもよい。具体的なマスキング剤としては、下記のものが挙げられる。
【0026】
アルコール系のマスキング剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、メチルセロソルブ、シクロヘキサノールなどがあり、フェノール系のマスキング剤としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ノニルフェノールなどがある。また、活性メチレン系のマスキング剤としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどがあり、酸アミド系のマスキング剤としては、アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどがある。また、イミダゾール系のマスキング剤としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾールなどがあり、尿素系のマスキング剤としては、尿素、チオ尿素、エチレン尿素などがある。また、オキシム系のマスキング剤としては、ホルムアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどがあり、ピリジン系のマスキング剤としては、2−ヒドロキシピリジン、2−ヒドロキシキノリンなどが挙げられる。
【0027】
(変性剤の合成方法)
上記のような有機ポリイソシアネート化合物と、上記のようなマスキング剤とを反応させることで、少なくとも一個の遊離イソシアネート基を有し、かつ、他はマスキングされたイソシアネート基を有する本発明で用いることのできる変性剤が合成される。この場合に用いる合成方法は特に限定されないが、例えば、上記の如きマスキング剤と、上記の如き有機ポリイソシアネート化合物とを、1分子中でイソシアネート基が1個以上過剰になる官能基比で、有機溶媒および触媒の存在下または不存在下で、0〜150℃、好ましくは20〜80℃の温度で30分〜3時間反応させることによって容易に得ることができる。
【0028】
[ポリヒドロキシポリウレタン樹脂]
上記したような方法で得られる特定の変性剤によって変性されたポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応により得ることができる。以下に、この際に用いる各成分について説明する。
【0029】
(5員環環状カーボネート化合物)
上記の場合に使用する5員環環状カーボネート化合物は、下記[式−A]で示されるように、エポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。さらに詳しくは、エポキシ化合物を、有機溶媒の存在下又は不存在下、および触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で、常圧又は僅かに高められた圧力下、10〜20時間二酸化炭素と反応させることによって得ることができる。
【0031】
上記の合成の際に好適に使用できるエポキシ化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0033】
上記に列記したエポキシ化合物は、好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物を用いて得た樹脂を使用することに限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明で使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂の合成に使用することができる。
【0034】
本発明に用いる5員環環状カーボネート化合物は、上記のようなエポキシ化合物と、二酸化炭素との反応によって得ることができる。この反応に使用できる触媒として、塩基触媒及びルイス酸触媒が挙げられる。
【0035】
上記塩基触媒として、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン、ピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、などの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0036】
また、ルイス酸触媒としては、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0037】
これらの触媒の使用量は、エポキシ化合物50質量部当たり、0.1〜100重量部、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、100質量部を超えると最終樹脂の諸性能を低下させるおそれがあるので好ましくない。従って、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して除去してもよい。
【0038】
エポキシ化合物と二酸化炭素の反応においては使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノン等の混合系で使用してもよい。
【0039】
本発明で使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、下記[式−B]で示されるように、例えば、上記のような反応で得た5員環環状カーボネート化合物と、アミン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得ることができる。
【0041】
上記反応で使用するアミン化合物としては、例えば、ジアミンが好ましく、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンが挙げられる。
【0042】
以上列記したアミン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0043】
また、本発明のポリヒドロキシポリウレタン樹脂の数平均分子量(GPCで測定した、標準ポリスチレン換算値)は、2,000〜100,000程度であることが好ましく、より好ましくは5,000〜70,000程度である。
【0044】
また、本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、該樹脂を構成する芳香環と水酸基とにより分子間で水素結合を形成して、染料の拡散防止のバリヤー性を発現することができる。本発明を特徴づける中間層によって、本発明が目的としている染料画像の拡散を防止するのに十分なバリヤー効果を得るためには、該樹脂の水酸基価が50〜350mgKOH/gであることが好ましい。水酸基の含有量が上記範囲未満では、形成した中間層のバリヤー性が十分に得られないことがあるだけでなく、二酸化炭素削減効果が不足であり、一方、水酸基の含有量が上記範囲を超えると、高分子化合物としての諸物性不足となるため好ましくない。なお、特に昇華型転写方式に使用される熱転写受像用シートにおいて、中間層における、十分な昇華染料に対するバリヤー性を確保するためには、本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その酸素ガス透過度が低いものであることが好ましい。これは、一般に染料拡散防止のバリヤー性と酸素ガスバリヤー性は相関関係にあると言われていることによる。
【0045】
[自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂]
本発明を特徴づける自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、上述のような少なくとも一個の遊離イソシアネート基を有する変性剤と、上記のようにして誘導されるポリヒドロキシポリウレタン樹脂とを反応させることによって得られる。より詳しくは、上記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と、該変性剤中の少なくとも一個の遊離したイソシアネート基とが反応することによって得られる。
【0046】
本発明を特徴づける自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、変性剤による変性率が2〜60%であることが好ましい。変性率が2%未満であると、十分な架橋が起こらないので、製品の耐熱性や、耐薬品性などが不足するおそれがあるので、好ましくない。一方で、60%を超えると、解離したイソシアネート基が反応せずに残存する可能性が増すおそれがあるので、好ましくない。なお、変性率は下記のようにして算出する。
変性率(%)={1−(変性後の樹脂の水酸基÷変性前の樹脂の水酸基)}×100
【0047】
変性剤と、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂との反応は、有機溶媒および触媒の存在下または不存在下で、0〜150℃、好ましくは20〜80℃の温度で30分〜3時間反応させばよく、これによって本発明で用いる自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を容易に得ることができる。但し、反応時にはマスキング剤の解離温度よりも低い温度で反応させる点に注意し、合成されたポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有するものとなるようにしなければならない。
【0048】
また、中間層の形成材料中に、上記した自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂に加えて添加剤として、白色顔料を使用してもよい。白色顔料としては、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛などを使用することができる。中間層に上記したような白色顔料を含有させると、積層する基材シートのギラつき感やムラを隠蔽することができるため、基材の選択の自由度が広がるといった効果をさらに得ることができる。これら白色顔料の配合比は、質量比で、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂/白色顔料=0.1〜6.0程度が好ましく、より好ましくは0.5〜3.0の範囲である。さらに、中間層の形成材料中に、従来公知の蛍光増白剤を添加してもよい。蛍光増白剤の配合比は、質量比で、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂/蛍光増白剤=0.001〜0.50程度が好ましく、より好ましくは0.005〜0.20の範囲である。
【0049】
また、本発明においては、中間層を形成する樹脂成分として、上述した自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を単体で使用することが好ましいが、接着性や、塗膜の成膜性の向上といった機能を付与する目的で、従来公知の各種バインダー樹脂を混合して使用してもよい。併用するバインダー樹脂は、本発明を特徴づける自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と相溶性の高い樹脂が好ましい。その使用量は、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の効果を損なわない程度であればよい。
【0050】
本発明の熱転写受像用シートを構成する中間層は、上記した特有の自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とし、必要に応じて上記したような添加剤を含有してなる組成物を、グラビア、スクリーン、リバースロール等の公知の方法で塗布・乾燥することによって容易に形成できる。その塗工量は、0.2〜10.0g/m
2程度とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜4.0g/m
2である。
【0051】
<染料受容層>
本発明の熱転写受像用シートは、基材上に形成した中間層の上に、さらに染料受容層が積層されてなる。該受容層は、加熱された際に熱転写シートから移行してくる染料を受容し、形成された画像を維持するためのものである。本願発明における受容層を形成するための樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩ビ・酢ビ・ビニルアルコール共重合樹脂、セルロースエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂等を挙げることができ、これらは市場から容易に入手できる。
【0052】
上記に列挙した樹脂は一般的に軟化点が低いため、使用する樹脂によっては、画像形成時に発生するサーマルヘッドの熱により、受容層と熱転写シートとが融着を起こす場合もある。このため、より良好な離型性を得る目的で、上記樹脂と共に各種離型剤や離型性樹脂を含有させて受容層を形成するか、または、上記樹脂により形成した受容層の上にさらに離型層を積層してもよい。
【0053】
染料受容層の形成材料には、白色度を向上させて転写画像の鮮明度を高めたり、マット感を得る目的で、必要に応じて、本技術分野で公知の、例えば、顔料や充填剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤などの添加剤を用いてもよい。本発明の熱転写受像用シートを構成する染料受容層は、上記した樹脂と共に、必要に応じてこれらの添加剤を適宜に使用し、適当な有機溶剤に溶解させ、或いは有機溶剤や水に分散させて、前記中間層形成の手段と同様の方法で塗布・乾燥することで形成される。形成する染料受容層の厚さは任意であるが、一般的には、塗工量は1〜20g/m
2程度とする。
【0054】
本発明の熱転写受像用シートは、上記したような中間層及び染料受容層を必須とし、必要に応じて受容層の上に離型層が積層されてなるが、これら以外に、印刷性能や画像の耐久性向上やカール防止のため、断熱層やクッション層、さらには接着層やカール防止層をさらに設けてもよい。
【0055】
以上のような構成の本発明の熱転写受像用シートは、特定の樹脂材料からなる中間層を有するため、染料画像の拡散を防止するバリヤー効果や、基材と受容層とを十分に接着することができるので、熱転写に用いた場合に、基材から受容層が剥離するのを有効に防止でき、画像の保存性に優れ、高濃度及び高解像度の印刷画像の形成可能なものとなる。また、本発明で中間層に使用する樹脂の合成に用いられる5員環環状カーボネート化合物は、二酸化炭素を製造原料とすることができるため、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素の削減の観点からも有用な、従来品では到達できなかった環境対応製品としての熱転写受像用シートの提供が可能になる。
【実施例】
【0056】
次に具体的な製造例、実施例及び比較例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。又、以下の各例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0057】
<製造例1>(変性剤の製造)
トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(コロネートHL(商品名)、日本ポリウレタン社製、NCO=12.9%、固形分75%)100部、酢酸エチルを24.5部、100℃でよく攪拌しながら、ε−カプロラクタムを25.5部添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720、以下同様)によれば、2,270cm
-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.1%であるのに対し実測値は1.8%であった。上記の変性剤の主たる構造は、下記式と推定される。
【0058】
【0059】
<製造例2>(変性剤の製造)
ヘキサメチレンジイソシアネートと水の付加体(ジュラネート24A−100(商品名)、旭化成社製、NCO=23.0%)100部、酢酸エチルを132部、80℃でよく攪拌しながら、メチルエチルケトオキシムを32部添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトルによれば、2,270cm
-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.9%であるのに対し実測値は2.6%であった。上記の変性剤の主たる構造は、下記式と推定される。
【0060】
【0061】
<製造例3>(変性剤の製造)
トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネート3量体付加物(コロネートL(商品名)、日本ポリウレタン社製、NCO=12.5%、固形分75%)100部、酢酸エチルを67.3部、80℃でよく攪拌しながら、メチルエチルケトオキシムを17.3部添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトルによれば、2,270cm
-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.3%であるのに対し実測値は2.0%であった。上記の変性剤の主たる構造は、下記式と推定される。
【0062】
【0063】
<製造例4>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ化合物(エピコート828(商品名)、ジャパンエポキシレジン(株)製;エポキシ当量187g/mol)100部、N−メチルピロリドン100部、ヨウ化ナトリウム1.5部を加え均一に溶解させた。
【0064】
【0065】
その後、炭酸ガスを0.5リッター/分の速度でバブリングしながら80℃で30時間加熱攪拌させた。反応終了後、得られた溶液を300部のn−ヘキサン中に300rpmで高速攪拌しながら徐々に添加し、生成した粉末状生成物をフィルターでろ過、さらにメタノールで洗浄し、N−メチルピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。粉末を乾燥機中で乾燥し、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−A)118部(収率95%)を得た。
【0066】
得られた生成物(1−A)の赤外吸収スペクトルは、910cm
-1付近の原料のエポキシ基由来のピークが、生成物ではほぼ消滅し、1,800cm
-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。又、生成物の数平均分子量は414(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−A)中には、19%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0067】
<製造例5>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
製造例4で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式Bで表わさせる2価エポキシ化合物(YDF−170(商品名)、東都化成(株)製;エポキシ当量172g/mol)を使用した以外は、製造例4と同様に反応させ、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−B)121部(収率96%)を得た。
【0068】
【0069】
生成物は、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−B)中には、20.3%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0070】
<重合例1>(自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに、製造例4で得られた5員環環状カーボネート化合物を100部、固形分が35%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM)を加え均一に溶解した。
【0071】
次に、ヘキサメチレンジアミンを27.1部加え、90℃の温度で10時間攪拌し、ヘキサメチレンジアミンが確認できなくなるまで反応させた。次に、製造例1の変性剤を20部(固形分50%)添加し、90℃で3時間反応させた。赤外吸収スペクトルによるイソシアネート基の吸収が消失したことを確認し、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0072】
<重合例2〜3>(自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
以下、重合例1と同様に、5員環環状カーボネート化合物、ポリアミン化合物、変性剤を組み合わせて、重合例1と同様の方法で反応させて、表1に記載の自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0073】
【0074】
<比較重合例1>(ポリエステルポリウレタン樹脂)
下記のようにして、比較例で用いるポリエステルポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解し、60℃でよく攪拌しながら、62部の水添加MDI(メチレンビス(1,4−シクロヘキサン)−ジイソシアネート)を、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有し、水酸基価はゼロであった。また、酸素ガス透過度は、4,380cm
3/m
2・24h・atm(25℃、65%RH、厚さ25μm)であった。
【0075】
上記において、染料(昇華染料)に対するバリヤー性を評価する目的で、該バリヤー性と相関関係にあるとされている「酸素ガス透過度」を測定した。すなわち、酸素ガス透過度の値が小さい材料ほど、染料拡散防止に優れた中間層の形成が可能であると評価できる。後述するように、各材料の酸素ガス透過度の値と、画像におけるにじみの発生との間には相関がある。「酸素ガス透過度」は、下記の方法で測定した。まず、上記で得た樹脂溶液を、キャストフィルム成型機を用い210℃で成型し、厚みが25μmのフィルムを得た。得られたフィルムの酸素ガス透過度をガス透過率測定器(モダンコントローラ社製MOCON OXTRAN−10/50A)を用いて、25℃,65%RHの条件で測定した。
【0076】
<比較例2用の樹脂>(ポリビニルアルコール)
比較例2では、中間層の形成にポリビニルアルコールであるNM−11(商品名、日本合成化学工業(株)、ケン化度99.0モル%以上)を使用した。このNM−11を温水に溶解し、固形分5%のポリビニルアルコール溶液とした。その酸素ガス透過度は、0.5cm
3/m
2・24h・atm(25℃、65%RH、厚さ25μm)であった。
【0077】
<比較例3用の樹脂>(酢酸セルロース)
比較例3では、中間層の形成に酢酸セルロースであるL−20(商品名、ダイセル化学工業(株)製)を使用した。このL−20を溶媒(アセトン/アノン=1/1)に溶解し、固形分10%の酢酸セルロース溶液とした。その酸素ガス透過度は、1,820cm
3/m
2・24h・atm(25℃、65%RH、厚さ25μm)であった。
【0078】
<実施例1〜3、比較例1〜3>
(中間層の作製)
厚さ150μmの合成紙(ユポ・コーポレーション製)を基材として使用した。そして、その一方の面に、表2の組成からなる各塗工液を用いて、乾燥後の塗布量がそれぞれ3.0g/m
2になるように塗工した後、130℃で5分間乾燥して、基材上に中間層をそれぞれ形成した。
【0079】
【0080】
(熱転写受像用シートの作製)
上記で得た中間層の上に、下記のようにして染料受容層を形成して、実施例及び比較例の各熱転写受像用シートを得た。まず、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合(日信化学製 Aタイプ)100部、シリコーン油SF8417(トーレシリコーン製)5部、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製、コロネートL(商品名))10部に、メチルエチルケトン/トルエン(=1/1)を加えて固形分20%になるように調整し、染料受容層用塗料とした。この受容層用塗料を、上記で得た各中間層の上に、乾燥膜厚が5μmとなるように塗工し、実施例及び比較例の各熱転写受像用シートを得た。
【0081】
<評価>
上記で得た各熱転写受像用シートを用いて、画像濃度、にじみ、接着性、環境対応性について、以下の方法で評価した。
【0082】
(画質濃度)
実施例及び比較例の各熱転写受像用シート上に、ソニー製の昇華型熱転写プリンターCVP−G7を用いて、32階調のグラデーション印画を行った。そして、得られた印画物のそれぞれについて、高濃度階調部の印画濃度を反射型マクベス濃度計(マクベス社製、RD918)にて測定し、下記の基準で評価した。結果を表3に示した。
○;1.8以上
△;1.5以上〜1.8未満
×;1.5未満
【0083】
(にじみ)
画質濃度の評価の際に行ったと同様にして得たそれぞれの印画物を、50℃の環境下に1週間放置後、画像のにじみの有無をルーペ(10倍)で観察し、下記の基準で評価した。結果を表3に示した。
○;にじみが全く観察されない
△;にじみがあるが、目視では観察されないレベルである
×;にじみがあり、目視でもにじみが認められる
【0084】
(接着性)
実施例及び比較例の各熱転写受像用シートの中間層及び受容層が塗工された面(染料受容層面)にセロハンテープを張り、1分後に剥離した。そして、染料受容層面及びセロハンテープ面を目視にて観察し、下記の基準で評価した。結果を表3に示した。
○;染料受容層に剥離部分がない
△;一部に染料受容層が剥離している
×;染料受容層が剥離している
【0085】
(環境対応性)
各熱転写受像用シートにおける二酸化炭素の固定化の有無により、○×で評価した。結果を表3に示した。
【0086】