特許第5662932号(P5662932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662932
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】ポリグリコール酸繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20150115BHJP
【FI】
   D01F6/62 305Z
   D01F6/62ZBP
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-518400(P2011-518400)
(86)(22)【出願日】2010年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2010058763
(87)【国際公開番号】WO2010143526
(87)【国際公開日】20101216
【審査請求日】2013年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2009-137247(P2009-137247)
(32)【優先日】2009年6月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 昌博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 良
(72)【発明者】
【氏名】新崎 盛昭
(72)【発明者】
【氏名】三枝 孝拓
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−336028(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/055403(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00−6/96
9/00−9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸樹脂を溶融紡糸して未延伸糸を得る工程と、
前記未延伸糸を1〜20℃の温度条件下で保管する工程と、
前記保管後の未延伸糸を延伸して延伸糸を得る工程と
を含むポリグリコール酸繊維の製造方法。
【請求項2】
前記延伸糸を切断してステープルファイバーを得る工程をさらに含む請求項1に記載のポリグリコール酸繊維の製造方法。
【請求項3】
前記保管工程における保管時間が3時間以上である、請求項1または2に記載のポリグリコール酸繊維の製造方法。
【請求項4】
ポリグリコール酸樹脂を溶融紡糸して得られた未延伸糸を1〜20℃の温度条件下で保管する工程を含むことを特徴とするポリグリコール酸樹脂未延伸糸の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリコール酸繊維の製造方法に関し、より詳しくは、ポリグリコール酸樹脂を溶融紡糸した後の未延伸糸を保管する工程を含むポリグリコール酸繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸からなる繊維は、生分解性や生体吸収性を有する繊維として医療など様々な分野で使用されており、従来は、直接紡糸延伸法(SDY法)により製造されていた。しかしながら、SDY法は、紡糸後、巻き取ることなく延伸するため、延伸時に糸切れなどが発生すると紡糸工程で多量の樹脂が吐出され、大量生産においては非効率であり、ポリグリコール酸繊維の生産コストを削減することは容易ではなかった。このため、ポリグリコール酸繊維の用途は手術用縫合糸など特定の高付加価値の分野のものに限定されていた。
【0003】
一方、ポリオレフィン繊維やナイロン繊維、ポリ乳酸繊維などは、紡糸後の未延伸糸を、一度、巻き取ったり、ケンスに収納して保管したりした後、延伸することによって生産されている(例えば、特開2005−350829号公報(特許文献1)、特開2006−22445号公報(特許文献2)、特開2007−70750号公報(特許文献3)、特開2008−174898号公報(特許文献4)、特開2005−307427号公報(特許文献5)参照)。この方法では、紡糸した未延伸糸を束ねて延伸できるため、また、紡糸後すぐに延伸する必要はなく、紡糸工程と延伸工程とを独立して実施するため、生産性が高く、大量生産に適した方法である。
【0004】
しかしながら、ポリグリコール酸繊維をこの方法によって生産すると、巻き取ったり、ケンスに収納したポリグリコール酸の未延伸糸が、保管時に膠着して解きにくくなり、延伸できないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−350829号公報
【特許文献2】特開2006−22445号公報
【特許文献3】特開2007−70750号公報
【特許文献4】特開2008−174898号公報
【特許文献5】特開2005−307427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ポリグリコール酸樹脂を紡糸して得た未延伸糸を長く保管した場合であっても、膠着が発生せず、未延伸糸を比較的容易に解除して延伸することが可能なポリグリコール酸繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリグリコール酸樹脂を紡糸して得た未延伸糸を保管した場合に、非晶部が高度に配向したポリグリコール酸の未延伸糸のガラス転移温度(Tg)が高温高湿度下において経時的に低下するために未延伸糸が収縮し、膠着が発生することを見出し、さらに、保管温度が高くなるにつれてTgが低下する傾向が大きくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のポリグリコール酸繊維の製造方法は、ポリグリコール酸樹脂を溶融紡糸して未延伸糸を得る工程と、前記未延伸糸を1〜20℃の温度条件下で保管する工程と、前記保管後の未延伸糸を延伸して延伸糸を得る工程とを含む方法である。前記保管工程における保管時間としては生産性の観点から3時間以上が好ましい。
【0009】
本発明のポリグリコール酸繊維の製造方法においては、さらに、前記延伸糸を切断してステープルファイバーを得る工程を含んでいてもよい。
また、本発明のポリグリコール酸樹脂未延伸糸の保管方法は、ポリグリコール酸樹脂を溶融紡糸して得られた未延伸糸を1〜20℃の温度条件下で保管する工程を含む方法である。
【0010】
なお、本発明においては、前記延伸糸および前記ステープルファイバーをまとめて「ポリグリコール酸繊維」ともいう。また、本発明において、未延伸糸の「解除」とは、未延伸糸を延伸できるように解くことを意味し、具体的には、ボビンに巻き取られたり、ケンスに収納された未延伸糸を、延伸できる単位(例えば、1本ずつ)に解くことを意味する。
【0011】
本発明の製造方法においてポリグリコール酸の未延伸糸が膠着しにくい理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、ポリグリコール酸樹脂は、ポリ乳酸など他のポリエステル樹脂に比べて吸水性が高く、紡糸時や未延伸糸への油剤塗布時に吸水しやすい。このように吸水したポリグリコール酸未延伸糸のTgは保管時に経時的に低下する傾向にあり、その傾向は保管温度が高くなるにつれて大きくなる。そして、Tgが保管温度付近まで低下した未延伸糸は収縮し、単糸同士が圧着されて膠着すると推察される。
【0012】
本発明の製造方法においては、比較的低い温度で保管しているため、Tgの経時的な低下自体が小さく、また、Tgと保管温度との差が大きいため、Tgは保管温度付近まで低下しにくい。このため、未延伸糸の収縮が抑制され、膠着が起こりにくいと推察される。
【0013】
一方、紡糸時や乾燥時と同じような比較的高い温度条件で未延伸糸を保管すると、Tgの経時的な低下が大きく、また、Tgと保管温度との差も小さいため、これらが相乗的に作用して短時間でTgが保管温度付近まで低下する。そして、Tgが保管温度付近まで低下した未延伸糸は収縮性が大きくなり膠着が発生すると推察される。
【0014】
他方、ポリ乳酸など比較的吸水性が低い樹脂においては、紡糸時や未延伸糸の油剤塗布時の吸水が少なく、Tgの経時的な変化が起こりにくい。また、ポリグリコール酸樹脂より高いTgを有しているため、保管温度が高くても収縮が起こりにくい。したがって、樹脂のTgよりも低い温度で保管を開始すれば、上記のような収縮は発生せず、未延伸糸の膠着は起こらない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリグリコール酸樹脂を紡糸して得た未延伸糸を、膠着を発生させずに長く保管することができ、保管後の未延伸糸を比較的容易に解除して延伸することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例および比較例で使用した溶融紡糸装置を示す概略図である。
図2】実施例および比較例で使用した延伸装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明に用いるポリグリコール酸樹脂(以下、「PGA樹脂」という)について説明する。本発明に用いるPGA樹脂は、下記式(1):
−[O−CH−C(=O)]− (1)
で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(以下、「PGA単独重合体」という。グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合体を含む。)である。
【0019】
また、前記PGA樹脂をグリコリドの開環重合によって製造する場合に使用する触媒としては、ハロゲン化スズ、有機カルボン酸スズなどのスズ系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物といった公知の開環重合触媒が挙げられる。
【0020】
前記PGA樹脂は公知の重合方法により製造することができるが、その重合温度としては、120〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましく、140〜220℃が特に好ましく、150〜200℃が最も好ましい。重合温度が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が熱分解する傾向にある。
【0021】
また、前記PGA樹脂の重合時間としては、2分間〜50時間が好ましく、3分間〜30時間がより好ましく、5分間〜18時間が特に好ましい。重合時間が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が着色する傾向にある。
【0022】
前記PGA樹脂の重量平均分子量としては、5万〜80万が好ましく、8万〜50万がより好ましい。PGA樹脂の重量平均分子量が前記下限未満になるとPGA繊維の機械的強度が低下し、繊維が切れ易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶融粘度が高くなり紡糸が困難となる傾向にある。なお、前記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したポリメチルメタクリレート換算値である。
【0023】
また、前記PGA樹脂の溶融粘度(温度:240℃、剪断速度:122sec−1)としては、1〜10000Pa・sが好ましく、100〜6000Pa・sがより好ましく、300〜4000Pa・sが特に好ましい。溶融粘度が前記下限未満になるとPGA繊維の機械的強度が低下し、繊維が切れ易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると紡糸が困難となる傾向にある。
【0024】
本発明においては、前記PGA樹脂をそのまま使用してもよいし、必要に応じて熱安定剤、末端封止剤、可塑剤、熱線吸収剤などの各種添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加してPGA系樹脂組成物として使用してもよい。
【0025】
次に、本発明のPGA繊維の製造方法について説明する。本発明のPGA繊維の製造方法は、PGA樹脂を溶融紡糸してPGA未延伸糸を得る工程と、前記PGA未延伸糸を1〜20℃の温度条件下で保管する工程と、前記保管後の未延伸糸を延伸してPGA延伸糸を得る工程とを含む方法である。また、この方法により得られたPGA延伸糸を切断することによってPGAステープルファイバーを製造することができる。
【0026】
本発明においては、先ず、前記PGA樹脂を溶融し、次いで、この溶融PGA樹脂を紡糸してPGA未延伸糸を得る。このような溶融紡糸方法としては公知の方法を採用することができる。
【0027】
本発明における前記PGA樹脂の溶融温度としては、230〜300℃が好ましく、250〜280℃がより好ましい。前記PGA樹脂の溶融温度が前記下限未満になるとPGA樹脂の流動性が低くなり、PGA樹脂がノズルから吐出されず、紡糸が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとPGA樹脂が着色したり、熱分解したりする傾向にある。
【0028】
溶融PGA樹脂を紡糸して未延伸糸を得る方法としては、例えば、溶融したPGA樹脂を、紡糸用ノズルを通して吐出させて糸状に成形し、これを冷却固化させるといった、公知の方法が挙げられる。前記紡糸用ノズルとしては特に制限はなく、公知のものを使用することができる。ノズルの穴数、穴径についても特に制限はない。また、冷却方法も特に制限はないが、簡便な点で空冷が好ましい。
【0029】
次に、このようにして得たPGA未延伸糸をローラー等で引き取って保管する。このようにPGA樹脂を紡糸した後に、得られた未延伸糸を保管し、これらを束ねて延伸することによって、PGA繊維の生産効率を向上させることが可能となり、低コストでPGA繊維を製造することができる。
【0030】
前記PGA未延伸糸の保管方法としては特に制限はないが、例えば、引き取ったPGA未延伸糸をボビンなどに巻き取ったり、ケンスなどに収納したりして保管する方法が挙げられる。前記引き取り速度(ローラーの周速)としては、100〜4000m/分が好ましく、1000〜2000m/分がより好ましい。引き取り速度が前記下限未満になるとPGAが結晶化し、未延伸糸の延伸が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると部分的に配向結晶化が進行し、延伸倍率が低くなり、強度が低下する傾向にある。
【0031】
また、本発明においては、冷却固化後のPGA未延伸糸を、上記のようにそのまま引き取ってもよいが、延伸時の解除性を向上させるために、ローラー等で引き取る前にPGA未延伸糸に繊維用油剤を塗布することが好ましい。
【0032】
本発明におけるPGA未延伸糸の保管温度は1〜20℃である。保管温度が1℃未満では温度が低すぎて実用的ではなく、他方、20℃を超えるとPGA未延伸糸のガラス転移温度(Tg)の経時的な低下が短時間で発生し、PGA未延伸糸の膠着が発生するため、PGA未延伸糸を延伸することが困難となる。また、保管温度が15℃を超えて20℃未満になると長時間(例えば6時間以上)保管した場合に膠着は発生しないが、解除性に部分的なムラが発生するため、延伸時に単糸切れする場合がある。従って、膠着が発生せず、解除性が均一且つ良好であり、容易に延伸できるという観点から前記保管温度は1〜15℃であることが好ましい。
【0033】
本発明におけるPGA未延伸糸の保管時間は特に制限されないが、本発明の効果が顕著に現れるという点で、PGA未延伸糸を3時間以上(より好ましくは6時間以上)保管する場合に本発明の製造方法を適用することが好ましい。
【0034】
また、本発明においては、保管開始から3時間経過後(好ましくは6時間経過後)のPGA未延伸糸のTgが35℃以上となるように保管することが好ましく、38℃以上となるように保管することがより好ましい。保管後のPGA未延伸糸のTgが前記下限未満になると収縮による膠着が発生する傾向にある。
【0035】
このように保管したPGA未延伸糸を解除しながら引き出した後、延伸することによってPGA延伸糸を得ることができる。本発明において、延伸温度および延伸倍率は特に制限されず、所望のPGA繊維の物性などに応じて適宜設定することができるが、例えば、延伸温度としては40〜120℃が好ましく、延伸倍率としては2.0〜6.0が好ましい。
【0036】
このようにして得られたPGA延伸糸は、そのまま長繊維として使用してもよいし、切断してステープルファイバーにすることもできる。前記切断方法としては特に制限はなく、公知のステープルファイバーを製造する際の公知の切断方法を採用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
先ず、図1に示す溶融紡糸装置を用いて、PGA未延伸糸を作製した。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0039】
ペレット状のPGA樹脂((株)クレハ製、重量平均分子量:20万、溶融粘度(温度240℃、剪断速度122sec−1):700Pa・s、ガラス転移温度:43℃、融点:220℃、サイズ:径3mmφ×長さ3mm)を、原料ホッパー1からシリンダー径30mmφの一軸押出機2に投入し、240〜250℃で溶融させた。なお、前記押出機2のシリンダー温度は240〜250℃、ヘッド温度、ギアポンプ温度およびスピンパック温度は250℃に設定した。
【0040】
この溶融PGA樹脂を、ギアポンプ3を用いて24穴ノズル4(孔径:0.30mm)から1穴あたり0.51g/分の速度で吐出させ、冷却塔5で空冷(約5℃)して糸状に固化させ、このPGA未延伸糸に繊維用油剤(竹本油脂(株)製界面活性剤「デリオンF−168」)を塗布し、周速1200m/分の第1引き取りローラー7で引き取り、第2〜第7引き取りローラー8〜13を介して単糸繊度4〜5DのPGA未延伸糸を1000mごとにボビン14に巻き取った。
【0041】
このPGA未延伸糸を巻きつけたボビンを恒温恒湿槽(ISUZU(株)製「HPAV−120−20」)に入れ、温度5℃、相対湿度90%RHで所定時間保管した。保管前後のPGA未延伸糸について、以下の方法によりTgを測定し、解除性(膠着の有無)を評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
<ガラス転移温度(Tg)>
PGA未延伸糸10mgを容量160μlのアルミパンに秤量し、これを示差走査熱量測定装置(メトラー・トレド(株)製「DSC−15」)に装着して、−50℃から280℃まで20℃/分で加熱した後、280℃から50℃まで20℃/分で冷却し、冷却時に得られた発熱ピークからPGA未延伸糸のガラス転移温度Tg(単位:℃)を求めた。
【0043】
<未延伸糸の解除性>
PGA未延伸糸を巻きつけたボビンを図2に示す延伸装置に装着し、PGA未延伸糸をボビン14からフィードローラー21を介して温度60℃、周速900m/分の第1加熱ローラー22で引き出し、温度85℃、周速1800m/分の第2加熱ローラー23、および冷却ローラー24を介してボビン25に巻き取った。このときのPGA未延伸糸の解除性を以下の基準で判定した。
A:膠着は観察されず、解除性は均一かつ良好であった。
B:膠着は観察されなかったが、解除性に部分的なムラがあった。
C:膠着しており、未延伸糸を解除することは困難であった。
【0044】
(実施例2〜4)
保管温度を10℃、15℃、20℃(それぞれ相対湿度は90%RH)に変更した以外は実施例1と同様にしてPGA未延伸糸を所定時間保管した。保管前後のPGA未延伸糸について、実施例1と同様にしてTgを測定し、解除性(膠着の有無)を評価した。その結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1〜2)
保管温度を30℃、40℃(それぞれ相対湿度は90%RH)に変更した以外は実施例1と同様にしてPGA未延伸糸を所定時間保管した。保管前後のPGA未延伸糸について、実施例1と同様にしてTgを測定し、解除性(膠着の有無)を評価した。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のPGA繊維の製造方法(実施例1〜4)においては、PGA未延伸糸を18時間保管してもTgの低下はほとんど見られず、膠着も観察されなかった。一方、本発明にかかる保管温度よりも高い温度で保管した場合(比較例1〜2)においては、保管温度が30℃でも2時間までしか膠着なしで保管することができず、大量生産が困難であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、ポリグリコール酸樹脂を溶融紡糸し、これにより得た未延伸糸を保管した場合であっても、膠着が発生せず、未延伸糸を比較的容易に解除して延伸することが可能となる。
【0049】
したがって、本発明のポリグリコール酸繊維の保管方法は、保管後の解除性に優れたポリグリコール酸樹脂の未延伸糸を得ることができる方法であり、このような保管方法を伴う本発明のポリグリコール酸繊維の製造方法は、ポリグリコール酸繊維の生産性を向上させることができ、ポリグリコール酸繊維を大量生産する際の製造方法などとして有用である。
【符号の説明】
【0050】
1:原料ホッパー、2:押出機、3:ギアポンプ、4:ノズル、5:冷却塔、6:油剤塗布装置、7〜13:第1〜第7引き取りローラー、14:未延伸糸用ボビン、21:フィードローラー、22:第1加熱ローラー、23:第2加熱ローラー、24:冷却ローラー、25:延伸糸用ボビン。
図1
図2