(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662935
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】アンテナ整合回路
(51)【国際特許分類】
H03H 9/72 20060101AFI20150115BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20150115BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20150115BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20150115BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20150115BHJP
H03H 7/46 20060101ALI20150115BHJP
H04B 1/50 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
H03H9/72
H03H9/64 Z
H03H9/70
H03H9/54 Z
H03H9/17 F
H03H7/46 A
H04B1/50
【請求項の数】18
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-524336(P2011-524336)
(86)(22)【出願日】2009年8月21日
(65)【公表番号】特表2012-501563(P2012-501563A)
(43)【公表日】2012年1月19日
(86)【国際出願番号】EP2009060839
(87)【国際公開番号】WO2010023167
(87)【国際公開日】20100304
【審査請求日】2012年7月4日
(31)【優先権主張番号】102008045346.3
(32)【優先日】2008年9月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リンク,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】マルクシュタイナー,シュテファン
【審査官】
▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−098046(JP,A)
【文献】
特開2008−160562(JP,A)
【文献】
特開平09−232909(JP,A)
【文献】
特開2006−135447(JP,A)
【文献】
特開2008−109413(JP,A)
【文献】
特開2001−313542(JP,A)
【文献】
特開2006−180192(JP,A)
【文献】
特開2007−036856(JP,A)
【文献】
特開2004−104799(JP,A)
【文献】
特開2003−283363(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/067793(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/040927(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
H03H 7/46
H04B 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通のアンテナに接続される少なくとも2つの信号経路のためのアンテナ整合回路であって、
1つのアンテナ接続がアンテナに接続され、
各々がRF信号の送信および/または受信のための1つの通過帯域を有する、少なくとも2つの信号経路が前記アンテナ接続に接続され、
分岐または信号経路における信号の位相シフトのための個別線路を備える整合回路を備え、前記整合回路が、少なくとも1つの前記信号経路における前記アンテナの端部に統合され、
前記個別線路が、回路の形をとり、当該回路は、ラダータイプと同様であるとともにインダクタンスおよびキャパシタンスから選ばれた少なくとも3つの素子を備え、前記キャパシタンスは、その共振がそれぞれの前記信号経路の前記通過帯域の外にあるマイクロ音波共振器を備え、
前記マイクロ音波共振器は、他の信号経路の阻止帯域における、それぞれの信号経路の通過帯域の外に追加の極点が生成されるように選ばれた共振周波数を有するという特徴を有する、回路。
【請求項2】
前記マイクロ音波共振器は、SAWまたはBAW素子の形をとる、請求項1に記載の回路。
【請求項3】
前記キャパシタンスのいくつかは、MIMキャパシタの形をとる、請求項1または2に記載の回路。
【請求項4】
前記信号経路は、
少なくともいくつかがチップ上に設けられたフィルタ回路を含み、
前記整合回路の少なくとも一部は、前記チップ上に設けられる、請求項1から3のいずれか1項に記載の回路。
【請求項5】
前記個別線路に備えられる前記キャパシタンスおよび/または前記共振器は、1以上の前記フィルタ回路を支持するチップ上に設けられる、請求項4に記載の回路。
【請求項6】
前記個別線路に備えられる前記キャパシタンスおよび/または前記共振器は、チップ上に設けられる、請求項1から3のいずれか1項に記載の回路。
【請求項7】
前記個別線路は、直列キャパシタンスと、それと並列な2つのインダクタンスとを有するπ回路、または、直列インダクタンスと、それと並列な2つのキャパシタンスとを有するπ回路を備える、請求項1から6のいずれか1項に記載の回路。
【請求項8】
前記個別線路は、2つの直列キャパシタンスとそれらと並列なインダクタンスとを有するT回路、または、2つの直列インダクタンスとそれらに並列なキャパシタンスとを有するT回路を備える、請求項1から6のいずれか1項に記載の回路。
【請求項9】
複素インピーダンスは前記マイクロ音波共振器の各々と並列に接続され、
前記マイクロ音波共振器の複素インピーダンスは、直列キャパシタンスを表わす共振器のための前記信号経路の直列分岐とは並列の別の直列分岐に配置されるとともに、並列キャパシタンスを表わす共振器のための前記整合回路の並列分岐に配置される、請求項1から8のいずれか1項に記載の回路。
【請求項10】
前記2つの信号経路は、共振器を有するフィルタ回路を有し、前記フィルタ回路におけるすべての前記共振器および前記整合回路におけるすべての前記共振器は、同じチップ/基板上に設けられる、請求項1から9のいずれか1項に記載の回路。
【請求項11】
前記個別線路は、直列キャパシタンスと、それと並列な2つのインダクタンスとを有する第1のπ回路、または、直列インダクタンスと、それと並列な2つのキャパシタンスとを有する第2のπ回路を備え、前記第1のπ回路の場合においては、前記直列キャパシタンスに並列である前記2つのインダクタンスのうちの1つは、前記アンテナ接続に直接的に接続され、第2のπ回路の場合には、前記直列インダクタンスに並列である前記2つのキャパシタンスのうちの1つは、前記アンテナ接続に直接的に接続される、請求項1から10のいずれか1項に記載の回路。
【請求項12】
2以上の信号経路の各々は、個別線路を有する整合回路を備え、それぞれの整合回路における少なくとも1つのキャパシタンスは、その共振周波数がそれぞれの信号経路の通過帯域の外にある、マイクロ音波共振器の形をとる、請求項1から11のいずれか1項に記載の回路。
【請求項13】
両方の信号経路は、共振器を備えるフィルタ回路を有し、前記整合回路における前記マイクロ音波共振器は、前記フィルタ回路における個別の共振器と同じ設計のものであるか、または、追加の層、省略された層、または異なる層厚みを有する層によって変更されている、請求項1から12のいずれか1項に記載の回路。
【請求項14】
両方の信号経路は、共振器を備えるフィルタ回路を有し、前記フィルタ回路におけるすべての前記共振器と、前記整合回路におけるすべての前記共振器は、BAW共振器である、請求項1から13のいずれか1項に記載の回路。
【請求項15】
1つの信号経路は、RF信号の受信のためのフィルタ回路を有し、フィルタ回路は、少なくとも1つのSAWまたはGBAW共振器を備える、請求項1から14のいずれか1項に記載の回路。
【請求項16】
両方の信号経路は、共振器を備えるフィルタ回路を有し、
前記フィルタ回路におけるすべての前記共振器は、SAW共振器である、請求項1から
12のいずれか1項に記載の回路。
【請求項17】
直列インダクタンスおよび2つの並列キャパシタンスを有するπ回路が、個別線路として用いられ、このインダクタンスの左手側および/または右手側の1または両方の並列キャパシタンスが、この場合、1以上のフィルタによって置換され、当該フィルタは、容量性であるように設計されるとともに、キャパシタが、1より多いフィルタに置換される場合、すべてのフィルタが前記信号経路における同じノードに接続される、請求項1から11のいずれか1項に記載の回路。
【請求項18】
直列インダクタンスまたは2つの並列インダクタンスを有するπ回路またはT回路が個別線路として設けられ、さらなるマイクロ音波共振器が、1または両方のインダクタンスに並列に接続される、請求項1から11のいずれか1項に記載の回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大量市場での動作と関連した、すべての第3世代(3G)移動無線システムは、(完全)周波数複信モード(FDD)を用いる、すなわち送信と受信とが異なる周波数チャネルで行なわれる。この場合に用いられる送信方法は、実際には符号分割多元接続方法(CDMA)のみであり、それは電話と基地局とによる「現実の」同時送受信を要求する。たとえば、移動無線規格である、バンドII(1.9GHz)におけるCDMA2000およびW−CDMA(UMTS)、およびバンドI(2.1GHz)におけるW−CDMA(UMTS)がここに言及され得る。これらは、とりわけ、アメリカおよびヨーロッパ大陸で用いられる。
【背景技術】
【0002】
CDMA法のような周波数複信モードは、
図1に示されるように、送信経路(TX)と受信経路(RX)との両方がアンテナANに常に接続されるデュプレクサを必要とする。送信経路TXは、少なくとも1つのTXフィルタTXFまたは対応するフィルタ回路を有する。受信経路RXは少なくとも1つのRXフィルタRXFまたは対応するフィルタ回路を有する。この場合におけるデュプレクサの主目的は、TX経路とRX経路とを互いに分離することである。このことは、そのPAの送信パワーが逆に受信機の感度に影響を与えることを防ぐ。さらに、一方においてはPAによる電力消費を少なく保つため、また、他方においては受信経路における信号対雑音比に逆に不必要に影響を与えないために、デュプレクサを介した受信経路において、減衰はできるだけ少なくなければならない。
【0003】
今日、携帯電話のためのデュプレクサは実際にはSAWまたはBAW技術のみを用いて製造される。両方のアプローチは、平坦な端末の要求を満たす部品の高さを可能にし、両方のアプローチにおいて、2つの個別のバンドパスフィルタが1つのアンテナノードに接続される。2つの個別のフィルタ自身は、複数の適切に接続された共振器からなる。SAWの場合、設計に依存して、1つのさらなるDMSトラック、複数のDMSトラック、または排他的に1以上のDMSトラックもあり得る。共振器および/またはDMSトラックは各々モノリシックに集積化され、両方のフィルタは共通の基板、または2つの異なる基板上に作製される。このことは、デュプレクサに接続される単一のチップまたは2つの異なるチップが、好ましくは筐体内において密閉されるということをもたらす。さらに、1つのデュプレクサを、セラミック基板(FR4基板)または他の所望の基板上の単一モジュール内にある他のデュプレクサおよび個別のフィルタと組合せることは、今日では通常行なわれることである。したがってこれらのフィルタは、各々の場合において、グループ中の複数のアンテナノードの1つを共有するか、または、すべてが一緒に単一のアンテナノードを共有する。デュプレクサは、各々が別々に収容された2つの個別のフィルタを備えるモジュールに相互接続されることができる。デュプレクサは、また、適切な基板上にある、収容されていないチップ(ベアチップ)を介して形成されることも可能である。
【0004】
さらなる受動素子が、デュプレクサの電気的挙動の機能および最適化のために必要であり、その部品は、筐体内の単数または複数のフィルタ基板上、モジュール(FEM)上、または電話機内の基板に外付けで収容される。一般に、これらはインダクタンス、キャパシタンスおよび線路である。共振器および適切な電気的(誘導性または容量性)または磁気的結合は、また、整合回路における素子とノードとの間において一般的である。さらに、ポートPAおよびLNAは、所望のフィルタインピーダンスと整合していなければならない。接地に関する状況においては、実際にすべての場合において、これは50Ωであり、この平衡した場合において、それは100Ωである。
【0005】
直列または並列インダクタンスが、この場合において通常用いられ、あるいはL回路網がインダクタンスおよびキャパシタンスを備える。具体的にデュプレクサの場合においては、最終的には、アンテナにおいて、両方のフィルタが、それぞれの他の帯域におけるすべての周波数においてできるだけ高いインピーダンスを有し、それ自身が有する通過帯域におけるすべての周波数において必要なフィルタインピーダンスと整合していることが必要である。理想的な整合は、結果的に反射係数Γが、他の帯域のすべての周波数において、+1であり、それ自身の通過帯域におけるすべての周波数において0となる。
【0006】
デュプレクサは、送信フィルタおよび受信フィルタからなる。一般に、送信帯域の周波数は、受信帯域のそれよりも低い。一般に、各フィルタ自身は、その送信帯域におけるアンテナポートと十分に整合し、それぞれの他の帯域においてできるだけ整合しないように設計されている。したがって各フィルタはそれ自身の帯域における通過帯域を有し、他の帯域における阻止帯域を有する。
【0007】
もし、2つのフィルタがさらなる手段なしに共通のアンテナノードに直接的に接続されるとしたならば、相互の影響のため、通過帯域の破壊をもたらすであろう。このような振る舞いの理由は、|Γ|≒1という条件は、それぞれの他の帯域における両方のケースで満たされているが、他の帯域における必要なオープン回路Γ≒+1は、しかしながら、例外的な場合においてのみ得られるためである。一般に、この種の問題は、各フィルタを、位相シフタΦ
TXまたはΦ
RXを介してアンテナに接続することによって解決される。
【0008】
この場合、アンテナポートにおける整合曲線は、各々、スミスチャートの中心に対して回転している。この場合、位相シフタは、オープン回路条件Γ≒+1が、各フィルタのそれぞれの他の帯域における中心回転によって意図的に満たされるように設計されている。それ自身の帯域の整合は、これによって実際に影響を受けないままであるが、その理由は、通過帯域に対する整合曲線が、原点に対して回転するのみであり、|Γ|≒0がなおも満たされるためである。1つの単純な例において、1つの位相シフタのみがRX側に必要である、つまりTXフィルタはアンテナに直接的に接続されて、RXフィルタは位相シフタを介して接続される。デュプレクサにおける整合のための他の選択肢は、特別な場合、たとえば小さなデュプレクサ分離を有するデュプレクサに対してのみ用いられることが可能であり、これらは、そうでなければ一般に他の不利な点と関連する。
【0009】
位相シフタを提供するための3つの選択肢が知られている。第1の選択肢は、遅延線路(連続線路)を用いることである。連続線路は、スミスチャートにおいて時計回り方向に回転し、したがって、位相シフタとして用いられることができる。一例として、このような連続線路がUS6,262,637B1に記載されている。
【0010】
連続遅延線路の位相をシフトさせる振る舞いは、また、複数のインダクタンスおよびキャパシタンスを備える、ラダータイプと同様の回路としてモデル化されることができる個別線路(discrete line)によって与えられることができる。最も単純な場合において、対称的なπまたはT配置に接続された3つの素子が個別線路を与えるために用いられる。このことは全部で4つの異なる構成を可能にする。その構成に依存して、このような個別線路がスミスチャートにおいて時計回り方向または反時計回り方向に回転する。
【0011】
位相シフタのためのさらなる選択肢が、アンテナコイルによって提供され得る。一例として、アンテナ端部において直列素子で終端するとともにそれ自身の通過帯域において適切な容量性効果を有する送信または受信フィルタであり、もし、アンテナ接続が、並列インダクタンスで接地に直接に接続され得るならば、位相シフトにとって十分である。このことは、アンテナ接続の両側における個別線路と同様の位相シフタをもたらす。
【0012】
位相シフタの代わりに、並列コイルもまた、直列共振器を形成するために接続されることができる。さらなる直列コイルが、任意選択的にこの並列回路のために用いられ、フィルタは、この方法によって形成された回路を介してアンテナノードに導かれる。このような回路は、1つまたは両方のフィルタによって用いられることができる。TX帯域とRX帯域が大きなデュプレクサ分離を有する場合にはデュプレクサにとって特に適切である。これは、デュプレクサ分離が小さいならば、直列コイルが高いインダクタンス値を必要とし、それが集積化されることができないという不利な点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の1つの目的は、RF信号の送信および受信のために共通のアンテナに接続された、複数の信号線路のためのアンテナ整合回路であって、小型化に対する現在の要求を満たすとともに大量生産に適したアンテナ整合回路を具体化することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、請求項1に従うアンテナ整合回路によって達成される。本発明の有利な改良点は、さらなる請求項において見出されることができる。
【0015】
アンテナ整合回路は、アンテナに接続される少なくとも1つのアンテナ接続を有することで特定される。少なくとも2つの信号経路が、このアンテナに接続されて、各々はRF信号の送信および/または受信のいずれかのための1つの通過帯域を有し、特に、信号経路は、無線通信および情報システムのためのものである。信号経路を互いに分離するために、この分岐における信号の位相シフトのための個別線路を備える整合回路は、少なくとも1つの信号経路におけるアンテナ端部において統合される。個別線路は、ラダータイプと同様の回路の形をとるとともに少なくとも3つの素子を備え、それらはインダクタンスおよびキャパシタンスから選ばれる。この個別線路における少なくともいくつかのキャパシタンスは、マイクロ音波共振器の形で提供されることがここで提案される。共振器の共振周波数は、それらの共振が、それぞれの信号経路の通過帯域外となるように選ばれる。したがって共振器は通過帯域において純粋に容量的効果を有する。
【0016】
TXフィルタが高い容量性であるように設計された、少数の特別な場合において、アンテナにおける並列素子は、個別線路において省略されることができる。一般に、個別線路は少なくとも3つの素子からなる。
【0017】
マイクロ音波共振器は、SAWまたはBAW素子の形をとり得る。これらは、高いQ係数を有するように設計され得るという利点を有する。このことは、個別線路におけるキャパシタンスとしての機能だけでなく、適切な位置決めによって、その目的のために要求される追加の部品なしに特定の干渉周波数を取り除くことができる、転送機能における追加的な極点(pole point)を提供することも可能にする。
【0018】
しかしながら、マイクロ音波共振器は、また、他の技術を用いて設計され得る。個別線路における、マイクロ音波共振器の形ではないキャパシタンスは、MIMキャパシタ(MIM=金属−絶縁物−金属)の形をとり得る。共振器を有し、たとえばラダータイプ技術を用いたマイクロ音波共振器から形成されたフィルタを信号経路が含む場合に、これらのようなキャパシタは特に有利である。したがって、MIMキャパシタを製造するために金属または誘電体の蒸着のための適切な製造ステップを用いることによって、フィルタのために用いられる共振器のための製造プロセスにMIMキャパシタの製造を統合することも可能である。
【0019】
少なくとも2つの信号経路の各々は、フィルタ回路を含んでもよく、フィルタ回路の少なくともいくつかはチップ上に設けられる。たとえば、整合回路の少なくとも一部は、したがって、このチップ上、たとえばチップの表面に設けられることができる。フィルタ回路全体および整合回路全体がチップの表面に設けられることもまた可能である。1つの例外は、高いQ係数素子であり、それは個別部品の形をとり、チップに集積化されては製造されない。
【0020】
アンテナ整合回路は、複数のチップ上に設けられたフィルタ回路を含み得る。整合回路においてこの目的のために用いられるキャパシタンスまたはマイクロ音波共振器は、これらのフィルタ回路を支持する複数のチップ上に同様に設けられることができる。
【0021】
しかしながら、個別線路のためのキャパシタンスまたはこの目的のために用いられる共振器を、別のチップ上に、フィルタ回路とは独立して、これらがアンテナ整合回路に接続されるためにのみ設けることも可能である。
【0022】
π回路が、直列キャパシタンスと、それに並列な2つのインダクタンスとを有する個別線路として設けられることも可能である。直列インダクタンスとそれに並列な2つのキャパシタンスとを備えるπ回路もまた可能である。
【0023】
個別線路は、またT回路の形をとり得る。この目的のため、たとえば、それは2つの直列キャパシタンスとそれらと並列なインダクタンスとを有する。T回路はまた、2つの直列インダクタンスとそれに並列なキャパシタンスとを有することも可能である。
【0024】
アンテナ整合回路において、マイクロ音波共振器の各々と並列に複素インピーダンスが接続されることができる。個別線路において直列キャパシタンスを表わす共振器の場合、これらの複素インピーダンスは、並列直列分岐に配置される。個別線路における並列キャパシタンスを表わすマイクロ音波共振器の場合、複素インピーダンスは整合回路の並列分岐において配置される。
【0025】
一般的な複素インピーダンスもまた、インダクタンスの代わりに用いられることができる。
【0026】
複素インピーダンスは、少なくとも1つのインピーダンス要素を意味する。しかしながら、複素インピーダンスは、また、接続される複数のインピーダンス要素によっても表わされ得る。複素インピーダンスにおける個別のインピーダンス要素は、この場合においてキャパシタンス、インダクタンス、抵抗およびマイクロ音波共振器から形成され得る。
【0027】
提案される整合回路は、相対的に大量のスペースを占めるとともに相対的に高い電気的損失を有する連続線路を省くことを可能にするという利点を有する。整合回路は、かなり多くの自由度を有し、したがって、単純なアンテナコイルと比較すると、アンテナ接続におけるフィルタ回路がかなり良好に整合することを可能にする。
【0028】
整合回路におけるキャパシタンスは、アンテナ整合回路において設けられる1以上のチップ、特にフィルタ回路を有するチップ上に、スペースを節約する方式において適合されることが可能である。
【0029】
アンテナ整合回路は、デュプレクサに有利に用いられることができ、第1の信号経路は、送信経路と適切な送信フィルタとを備え、第2の信号経路は、適切な受信フィルタを伴う受信経路を備える。送信フィルタおよび受信フィルタを含むチップ間の、整合回路のキャパシタンスの分配は、整合回路のスペースの消費が釣り合うことを可能にする。
【0030】
特にデュプレクサにおいて、極点が、フィルタ伝送機能または2つのフィルタのよりよい分離のために用いられることができるように、個別線路を備える整合回路における、マイクロ音波共振器の形をとるキャパシタンスの共振および反共振が選ばれうる。一方、これらの極点の共振は、整合回路に設けられた、さらなる素子の組合せによってシフトし得る。さらに、この場合において、マイクロ音波共振器の共振および反共振に加えて、伝送機能を改善するために適切な追加の極点を生成する、追加の共振が強制的に行なわれ得る。
【0031】
フィルタまたはフィルタ回路の通過帯域における(有用な)信号の伝送は、これらの極点によっては、実際には影響を受けない。このことは、第1近似において、マイクロ音波共振器が、単に、高いQ係数の静的キャパシタンスとして動作することを確保する。
【0032】
極点は、それらが、たとえばデュプレクサを備えるアンテナ整合回路の分離を改善するように、それぞれのフィルタ回路の素子帯域において適切に選ばれ得る。
【0033】
整合回路および特に個別線路におけるマイクロ音波共振器は、フィルタ回路において用いられるすべての共振器と同様に、「二重化」され得る。直列に接続された共振器は、この目的のためにカスケードされる。カスケードされるとは、直列に接続された複数の共振器を意味し、全体として、共振器が、二重化していない1つの共振器の特性に対応することを意味する。このことは、カスケードされた共振器における共振器領域の適切な拡大によってなされ得る。並列分岐に設けられた共振器は、さらなる共振器を並列に接続することによって「二重化」され得る。この並列回路における共振器は、また、その並列回路の特性が、単一の従来の共振器のそれと対応するように設計される。しかしながら、共振器を二重化させた場合には、カスケードまたは並列接続内において互いに関係する共振周波数をシフトさせることも可能である。このことは、特性が変化することを可能にするとともに、アンテナ整合回路の動作に有利に用いられることを可能にする。
【0034】
アンテナ整合回路にとって必要なインダクタンスは、フィルタまたはフィルタ回路を支持する少なくとも1つのチップ上に形成されることができ、そのチップは、モジュール基板におけるフィルタ筐体内のデュプレクサ筐体内に形成され、アンテナ整合回路のため、または外部的に個別の素子として用いられるPCB(プリント回路基板)上に集積化され得る。
【0035】
1つの実施例において、アンテナ整合回路は、π回路の形での個別線路を有し、π回路において、並列素子の1つは、アンテナ接続に直接的に接続される。π回路の形に依存して、並列素子は、インダクタンスでもキャパシタンスでもよい。
【0036】
アンテナ整合回路のさらなる実施例において、共振器を備えるフィルタ回路は、信号経路に設けられる。整合回路におけるマイクロ音波共振器は、したがって、フィルタ回路における個別の共振器と同様の方法で設計され得るが、それらとは、追加の層、省略された層または異なる層厚みを有する層を有することによって僅かに異なる。マイクロ音波共振器は、したがって、全く追加の処理の複雑性を有さないか、あるいは少量の追加の処理の複雑性のみを有するように形成され得る。このことはまた、マイクロ音波共振器の共振周波数が、フィルタ回路に用いられる共振器の共振周波数の外にあることを確保する。
【0037】
アンテナ整合回路の1つの実施例において、共振器を備えるフィルタ回路は、両方の信号経路に設けられる。フィルタ回路におけるすべての共振器と少なくとも1つの整合回路におけるすべての共振器とは、この場合においてBAW(バルク音波)共振器の形をとる。フィルタ回路における共振器と整合回路における共振器とに対する標準的な技術の使用は、それらの製造を1つの処理に統合することを可能にし、したがって処理の複雑さを減少させる。実際、整合回路のためのマイクロ音波共振器の追加の製造が、あらゆる場合において、フィルタ回路のための共振器の製造に要求される複雑さを増加させない。
【0038】
RF信号の受信を対象としたフィルタ回路を伴う信号経路を有するアンテナ整合回路は、少なくとも1つのSAW(表面音波)またはGBAW(誘導バルク音波)共振器を備える。
【0039】
少なくとも2つの信号経路がフィルタ回路と共振器とを有し、フィルタ回路におけるすべての共振器がSAW共振器の形をとることもまた可能である。この場合において、個別線路におけるキャパシタンスとして機能する、整合回路におけるマイクロ音波共振器が、同じようにまたSAW技術を用いて設けられることが有利である。このような共振器は、したがって、それぞれのフィルタ回路の通過帯域の外にある共振周波数を有する。これは、通過帯域の領域においてのみ共振器が純粋な容量性効果を有するように、共振器において用いられるインターデジタルトランスデューサの間の適切に選ばれたフィンガー分離によって達成され得る。
【0040】
本発明は、例示的な実施例と関連する図面とを参照して、以下の文書においてより詳細に説明される。図は、純粋に概略的であって、本発明に従うアンテナ整合回路を完全に反映することを主張するものではない。なぜなら、比較的重要ではないいくつかの要素が、明確性の理由のために図示されていないためである。さらに、現実のフィルタ整合回路は、さらなる信号経路、および、さらに、図示された信号経路の各々において、さらなるフィルタ回路、整合回路または離散的素子を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】既に知られたデュプレクサ回路を示す図である。
【
図2】本発明に従うアンテナ整合回路を示す図である。
【
図3A】個別線路のさまざまな実施例を示す図である。
【
図3B】個別線路のさまざまな実施例を示す図である。
【
図3C】個別線路のさまざまな実施例を示す図である。
【
図3D】個別線路のさまざまな実施例を示す図である。
【
図4】ノッチを有するアンテナ整合回路を示す図である。
【
図5A】帯域阻止フィルタのさまざまな実施例を示す図である。
【
図5B】帯域阻止フィルタのさまざまな実施例を示す図である。
【
図5C】帯域阻止フィルタのさまざまな実施例を示す図である。
【
図5D】帯域阻止フィルタのさまざまな実施例を示す図である。
【
図5E】帯域阻止フィルタのさまざまな実施例を示す図である。
【
図6A】直列並列共振器の「二重化」のためのさまざまな選択肢を示す図である。
【
図6B】直列並列共振器の「二重化」のためのさまざまな選択肢を示す図である。
【
図6C】直列並列共振器の「二重化」のためのさまざまな選択肢を示す図である。
【
図6D】直列並列共振器の「二重化」のためのさまざまな選択肢を示す図である。
【
図7】多段整合を有するアンテナ整合回路を示す図である。
【
図8】並列接続インピーダンスを有する個別線路の1つの変形を示す図である。
【
図9】並列接続された直列インピーダンスを有する個別線路のさらなる変形を示す図である。
【
図10】アンテナ接続に直接的に接続された共振器を有するアンテナ整合回路を示す図である。
【
図11】1つの個別線路が2つの信号分岐に等しく分割されたアンテナ整合回路を示す図である。
【
図12】1つの信号経路における個別線路を有するアンテナ整合回路を示す図である。
【
図13】アンテナ整合回路のさらなる変形を示す図である。
【
図14】さらなるインピーダンス素子が追加された、正方向回転型の個別線路の一般化した図を示す図である。
【
図15】さらなるインピーダンス素子が追加された、負方向回転型の個別線路の一般化した図を示す図である。
【
図16】TXフィルタが容量性となるように設計された、
図10の単純化した形態を示す図である。
【
図17】TXフィルタとRXフィルタとが容量性となるように設計された、
図10の単純化した形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、アンテナ接続ANが送信経路TXおよび受信経路RXに接続された、単純なデュプレクサ回路を概略的に示す。受信フィルタRXFと入力増幅器LNAとは、受信経路において接続される。送信フィルタTXFと電力増幅器PAとは、送信経路TXにおいて接続される。図は、信号の適切な回転による2つの信号経路の間の相互の影響を避ける、信号経路の1つとアンテナとの間の位相シフタ素子を示していない。
【0043】
図2は、本発明に従うアンテナ整合回路の1つの単純な実施例を概略的に示す。アンテナに接続されるアンテナ接続ANは、2つの信号経路SP1,SP2に接続される。第1のフィルタ回路F1と整合回路ASとは、第1の信号経路SP1に直列に接続される。第2のフィルタ回路F2は、第2の信号経路SP2に設けられる。整合回路ASは、少なくとも1つの個別線路を備え、その個別線路において、当該個別線路を形成する少なくとも1つの容量性素子は、マイクロ音波共振器の形をとる。
【0044】
図3は、どのようにして少なくとも3つの素子を備える個別線路が示されることができるかというためのさまざまな選択肢を示す。
図3Aおよび
図3Bは、スミスチャートにおいて正方向に回転する個別線路を示し、
図3Cおよび
図3Dにおける個別線路は負方向に回転する。
図3Aおよび
図3Cは、π回路の形をとる個別線路を示す。
図3Aにおいて、直列インダクタンスLSは、ともにπ素子を形成する2つのキャパシタンスCP1,CP2と並列に接続される。
図3Cにおいて、直列キャパシタンスCSは、ともにπ素子を形成する2つのインダクタンスLP1,LP2と並列に接続される。
図3Bと
図3Dとは、T素子の形をとる2つの個別線路を示す。
図3Bにおいて、2つの直列接続された直列インダクタンスLS1,LS2は、中央のノードを介して並列キャパシタンスCPに接続される。
図3Dにおいて、2つの直列接続された直列キャパシタンスCS1,CS2は、それらの間に設けられたノードを介して並列インダクタンスLPに接続される。これらの個別線路の各々においてスミスチャートにおける180〜360°回転が可能である。本発明の主題ではない連続線路とは対照的に、個別線路は、上述のように、負方向に回転するように設計されることができる。この場合、回転は、スミスチャートにおいて反時計回り方向に起こる。
【0045】
図3において示された個別線路は、それに追加される、任意の所望の数のさらなる素子を有してもよく、その場合において各素子は直列または並列素子でもよく、キャパシタンスまたはインダクタンスとして選ばれてもよい。
【0046】
図4は、アンテナが、アンテナ接続ANを介して送信経路TXと受信経路RXとに接続される、アンテナ整合回路を示す。アンテナ接続ANは、第1のインピーダンス整合回路M1内に設けられる。送信フィルタTXFは、送信経路に設けられるが、帯域阻止フィルタ(ノッチとも呼ばれる)は、受信経路において直列に、第2のインピーダンス整合回路M2と受信フィルタRXFとに直列に接続される。適切な増幅回路PAおよびLNAが、それぞれの信号経路の端部において設けられる。
【0047】
この実施例において、2つのインピーダンス回路と帯域阻止フィルタは、それらが個別線路のような位相シフトを生成するように設計される。同時に、インピーダンス回路は、TXフィルタとアンテナにおける帯域阻止フィルタとの間、および帯域阻止フィルタとRXフィルタとの間における整合を提供する。
【0048】
図5は、
図4において例として示された実施例において帯域阻止フィルタが、どのように設けられることが可能であるかということのためのさまざまな選択肢を示す。それぞれの帯域阻止フィルタNOは、この場合において、信号経路の少なくとも1つにおいて、および1つの実施例では、他の要素とは独立に、両方の信号経路においても配置される。帯域阻止フィルタは、好ましくはアンテナ接続に近付けて設けられる。
【0049】
図5Aにおいて、帯域阻止フィルタは、信号経路において単一のマイクロ音波共振器を備える。平衡した第2の信号線路、または代わりに接地経路が、これとは並列に設けられる。
【0050】
図5Bは、並列な2つの信号経路を遮る並列共振器Xを備える帯域阻止フィルタNOを示す。
【0051】
図5Cは、直列共振器X1と並列共振器X2とを備える帯域阻止フィルタNOを示す。
図5Dは、
図5Cに対して鏡像対称の配置を示す。
図5Eは、2つの直列共振器X1,X3と、それらに並列な共振器X2とからなる帯域阻止フィルタを示す。さらに、
図5A〜Eに示された帯域阻止フィルタは、任意の所望の数のさらなる素子、および、特にそれらに追加されるさらなる共振器を有していてもよい。帯域阻止フィルタ効果は、共振器の共振および反共振周波数の適切な配置によって得られる。帯域阻止フィルタの周波数は、たとえば、直列共振器の反共振の領域、または並列共振器の共振の領域に設けられる。もし、直列および並列共振器が、帯域阻止フィルタNOに用いられるならば、対応の直列反共振と並列直列共振は、一致するか、または密接に隣り合う。一般に、帯域阻止フィルタは、アンテナ端部から、直列共振器または並列共振器とともに始まる、ラダータイプ回路における複数のマイクロ音波共振器から形成されることができる。帯域阻止フィルタは、各々の場合において、1つの直列および1つの並列マイクロ音波共振器からなる、整数の素子からなる必要はなく、個々の共振器を備えていてもよい。帯域阻止フィルタにおける素子の数は制限されない。
【0052】
図6は、フィルタ回路の共振器または帯域阻止フィルタまたは個別線路においてキャパシタンスとして用いられる共振器の共振器がどのようにして「二重化される」かということのためのさまざまな選択肢を示す。
図6Aは、この場合において、2つの直列接続されたマイクロ音波共振器X1,X2のカスケードを備える二重化した直列共振器を示す。
図6Bにおいて、さらなるマイクロ音波共振器X3が、この配置に追加され、その配置と並列に接続される。
図6Cは、帯域阻止フィルタ、フィルタ回路または個別線路の基本素子を示し、第1の直列共振器X1と、それに並列な2つの共振器X2,X3が接続される。2つの並列共振器は、回路において直接的に隣り合う。
図6Dは、
図6Cのさらなる変形を示し、直列共振器X1もまた二重化される。2つの並列直列共振器X1,X2は、2つの共振器X3,X4と並列に接続される。
【0053】
図7は、本発明のさらなる実施例として、多段整合を有するアンテナ整合回路を示す。これは専用の整合回路AS
TXおよびAS
RXを備え、それらの各々は、2つの信号経路RX,TXの各々において、個別線路を備える。2つの整合回路はアンテナ接続に直接的に接続され、したがって各々の信号経路におけるアンテナ端部に配置される。整合回路ASの各々に含まれる個別線路は、
図3に示されたような構造を有する個別線路を伴う、マイクロ音波共振器の形態をとるキャパシタンスを備える。個別線路に要求されるいくつかのキャパシタンスは、主として容量性効果を有する金属−誘電体−金属構造に置換され得る。
【0054】
さらに、信号経路の各々は、各々が通過帯域を有する対応するフィルタまたは対応するフィルタ回路TX,RXを含む。信号経路は、さらなるインピーダンス整合回路M
LNA,M
PAを介してそれぞれの増幅器PAまたはLNAと整合される。
【0055】
フィルタ回路および整合回路の、信号経路におけるすべての要素、特にインピーダンス整合回路の要素の接地への接続は、ともにマルチポート複素インピーダンスZ
GNDを形成し、それは所望の素子、これらの素子の間の電気的接続、および素子間の電気的および磁気的結合を含み得る。マルチポート複素インピーダンスZ
GNDは、また、マイクロ音波共振器も含み得る。
【0056】
インピーダンス整合回路M
PAおよびM
LNAは任意選択的であり、必要ならば省略されることも可能である。アンテナANは、複素2極回路Z
ANTを介して給電され、それは任意の所望の受動素子を含み得る。最も単純な場合において、Z
ANTは、インピーダンスを有する給電線である。
【0057】
図8は、本発明に従って設計された個別線路を示し、たとえば
図7における整合回路ASまたはインピーダンス整合回路Mにおいて用いられることができるものである。示された個別線路は、
図3A,3Bに示された個別線路の変形である。
図7において、すべての並列キャパシタンスは、マイクロ音波共振器X1,X2〜Xnにより置き換わっている。一般的な複素インピーダンスZ
p1,Z
p2〜Z
pnは、各々の場合におけるマイクロ音波共振器の1つと並列に接続される。並列した分岐のマイクロ音波共振器への交差接続と、それらと並列な複素インピーダンスは、並列素子のすべての接地への接続がマルチポート複素インピーダンスZ
GNDを介してなされる場合には、一般的な複素インピーダンスZ
L,Z
S1,Z
S2〜Z
Snによって与えられる。この場合には同様に、複素インピーダンスは、さらなるマイクロ音波共振器を含み得る。整合回路ASは、図においてより詳細に示されるように、少なくとも1つの基本素子GGおよびその基本素子GGに適切に接続された、任意の所望の数の追加素子ZGとを備える。
【0058】
図9は、本発明に従って設計された個別線路を示し、原則として
図3Cおよび3Dに示され、各々の場合においてスミスチャートにおいて負方向に回転するものである。この実施例において、個別線路におけるすべての直列キャパシタンスは、マイクロ音波共振器X
1〜X
nに置き換えられ、それらの各々は、それに並列に接続された一般的な複素インピーダンスZ
S1〜Z
Snをそれぞれ有する。
【0059】
一般的な複素インピーダンスZ
LおよびZ
Rは、アンテナ接続から離れた信号経路の端部、またはポートに設けられる。複素インピーダンスZ
p1,Z
p2〜Z
pnは並列の分岐に設けられ、それらの各々は、直列素子の上流および/または下流のノードを介して接地に接続される。並列した分岐の接地接続は、一般的なマルチポートインピーダンスZ
GNDを介してなされる。ここに示された複素インピーダンスは、また、さらなるマイクロ音波共振器を含み得る。
【0060】
図10は、個別線路が、
図3Aに示されたような種類の単純なπ素子の形態をとる、本発明に従うアンテナ整合回路の実施例を示す。送信フィルタTXFは、整合回路網を伴わずにアンテナ接続ANに接続される。受信フィルタRXFは、対照的に、π形態におけるCLC回路の形態での個別線路を介してアンテナANと結合され、このπ素子におけるキャパシタンスは、マイクロ音波共振器X1,X2の形態をとる。この場合におけるπ素子は、位相シフタとして動作する。
【0061】
ここに示されたようなアンテナ整合回路は、バンドIIデュプレクサが含み得るような、デュプレクサを表わす。
【0062】
マイクロ音波共振器X1,X2は、チップ上に設けられることができ、そのチップ上では、送信フィルタまたは受信フィルタのフィルタ回路もまた設けられる。2つの別々のチップ上に個別線路のマイクロ音波共振器を置くこともまた可能であり、RXおよびTXフィルタのためのそれぞれのフィルタ回路がそこに適合される。1つの実施例において、送信フィルタTXFは、フィルタ回路の一部である直列共振器を介してアンテナANと結合される。さらなる実施例において、受信フィルタRXFは、アンテナANと向い合うその端部において直列共振器から始まる。さらなる実施例において、ポートM
PAおよびM
LNAにおける少なくとも1つのインピーダンス整合回路、またはさもなくばアンテナインピーダンスZ
ANTが、直列インダクタンスの形態をとる。
【0063】
1つの実施例において、π素子のマイクロ音波共振器は、送信フィルタTXFのフィルタ回路を備える直列または並列共振器の形態をとる。その共振周波数をシフトさせるために、π素子における並列マイクロ音波共振器は、この共振器の共振周波数を低減して、その周波数をTXフィルタの通過帯域の外に移動させるために、追加的に、その上部電極に接地面を有してもよい。マイクロ音波共振器X2は、同様に、送信フィルタTXFのための直列または並列共振器と同様の方法で設計され得る。
【0064】
しかしながら、マイクロ音波共振器X2は、また、X1が送信フィルタTXFのための並列共振器として設計されることができる一方で、RXフィルタのための並列共振器と同じ方法で設計され得る。
【0065】
さらに、π素子の並列マイクロ音波共振器X2は、また、共振周波数を低減して、それを送信または受信フィルタの通過帯域の外へと移動させるために、追加の接地面を有していてもよい。
【0066】
アンテナから離れた信号経路の端部におけるインピーダンス整合回路Mは、それぞれの増幅器PAおよびLNAとの整合を確保するが、任意選択的であり省略されることもまた可能である。それらは、デュプレクサの機能自身にとっては必要ではない。
【0067】
デュプレクサのさまざまな実施例において、デュプレクサの動作を確保するために、送信経路側および受信経路側の両方におけるデュプレクサのための整合を行なうこともまた可能である。このことは、したがって、アンテナノードの両側に設けられたπ素子を用いてなされることができ、その場合において、各々の場合においてアンテナ側にある並列マイクロ音波共振器X2は、π素子に対して共通である。一例として、
図11は、このような配置を示す。さらに、
図11に示されたアンテナ整合回路は、
図10に示されたアンテナ整合回路と同一または同様である。この場合には同様に、整合回路ASにおけるマイクロ音波共振器が1以上のチップ上に設けられ、そのチップに、送信フィルタTXFまたは受信フィルタRXFのための少なくともいくつかのフィルタ回路もまた設けられる。アンテナまたはアンテナ整合インダクタンスZ
ANTから離れた信号経路の端部に配置された少なくとも1つのインピーダンス整合回路Mは、直列インダクタンスの形態をとる。
【0068】
図10に示されたアンテナ整合回路の変形版において、
図12における整合回路ASは、2つの直列マイクロ音波共振器X1,X2だけでなくそれらの間に配置された並列インダクタンスLからなるT素子の形態をとる。
図10および11における実施例を参照して既に説明された、π素子の形態における個別線路と同じ変形例のオプションが、整合回路として与えられ、個別線路におけるマイクロ音波共振器の統合および対応する共振周波数の選択のために適用される。
【0069】
図13は、アンテナ整合回路のさらなる実施例を示し、整合回路ASが、負方向に回転する個別線路の形態(
図3Cに示された種類と同様)の形態をとる。この場合において、送信フィルタTXFは、整合回路または位相シフタなしにアンテナに直接的に接続される。対照的に、受信フィルタRXFは、LCLを介してπ素子の形をとり、LCLにおいて、直列キャパシタンスがマイクロ音波共振器X1の形をとる。並列インダクタンスL2が小さく、チップ上に実装可能であることを確保するために、たとえば、単純な方式においては、追加の並列共振器X2が用いられ、π素子のインダクタンスL2と並列に接続される。共振器X2は、また、マイクロ音波共振器の形態をとり得るとともに、共振器X1と同様の種類でもあり得る。ここに記載された回路のための1つの典型的な適用は、バンドIIデュプレクサである。
【0070】
既述されたデュプレクサのための送信および受信フィルタのフィルタ回路は、好ましくは、共振器から形成される。例として、フィルタ回路におけるすべての共振器は、BAW共振器であり得る。受信フィルタRXFにおける少なくとも1つの共振器は、SAW共振器であり得る。受信フィルタにおける少なくとも1つの共振器は、同様に、またGBAW共振器(GBAW=誘導バルク音波)であってもよい。さらなる変形において、個別線路およびインピーダンス整合回路におけるマイクロ音波共振器ではない、送信および受信フィルタにおけるすべての共振器は、SAW共振器の形態をとる。個別線路においてキャパシタンスを表わすマイクロ音波共振器は、好ましくは、BAW共振器として与えられる。しかしながら、デュプレクサのフィルタ回路におけるすべての共振器が、そこに含まれる整合回路および個別線路と同様の方法によって、SAW共振器の形態をとることもまた可能である。整合回路における共振器がBAW共振器の形態をとるのとは対照的に、デュプレクサのフィルタ回路におけるすべての共振器が、GBAW共振器の形態をとることもまた可能である。さらなる実施例において、デュプレクサおよび整合回路におけるすべての共振器がGBAW共振器の形態をとる。
図14は、
図3Aおよび3Bに示された種類の、整合回路において本発明に従って用いられるような、個別線路を提供するための一般化した選択肢を示す。複数の素子を備える個別線路におけるすべての並列キャパシタンスは、マイクロ音波共振器X1〜Xnによって置き換わっている。直列分岐、つまり信号線における交差接続は、一般に、複素マルチポートインピーダンスZ
seriesによってなされるが、並列した分岐の接地接続は、一般的なマルチポートインピーダンスZ
GNDによってなされる。複素インピーダンスZ
seriesとZ
GNDとの間の接続は、たとえば、個々の共振器に各々が並列に接続されたインピーダンスもしたがって備え得る、複素インピーダンスZ
shuntを介してなされる。複素インピーダンスの各々は、さらなるマイクロ音波共振器を含み得る。
【0071】
対応する方式において、個別線路は、
図3Cおよび3Dに示されたような種類の整合回路において、本発明に従って用いられるように、
図15における対応する方式において一般化される。ここで、すべての直列キャパシタンスは、マイクロ音波共振器X1,X2〜Xnによって置き換えられている。交差接続は、一般的な複素マルチポートインピーダンスZ
seriesによってなされるが、接地の供給は、一般的なマルチポート複素インピーダンスZ
GNDによって与えられる。Z
seriesとZ
GNDとの間の接続は、一般的なマルチポート複素インピーダンスZ
shuntによってなされる。すべての複素インピーダンスが、さらなる共振器を含み得る。
【0072】
図14および15に示された一般化は、最終的に複素マルチポートインピーダンスを形成するために組合せ得る、
図3に示されたような基本的な種類の個別線路および任意の所望のインピーダンス素子を追加する選択肢を考慮する。しかしながら、
図3に示された基本素子の1つは、マイクロ音波共振器によって与えられた各々のケースにおける少なくとも1つのキャパシタンスを伴う、これら2つの実施例の各々において与えられる。
【0073】
図16および17は、
図10の単純化を示す。この場合において、TXフィルタ(
図16)および/またはRXフィルタ(
図16における両方のフィルタ)は、容量性に設計されたものである。このことは、個別線路のためのアンテナ側における並列マイクロ音波共振器X1および/またはX2を省くことを可能にする。最も単純な場合において、両方のフィルタはインダクタンスを介してのみ接続される。容量性であるように定められたフィルタは矢印によって示される。
【0074】
本発明に従うアンテナ整合回路は、例示的な実施例または図によって具体的に記述された、既述された実施例に限定されるものではない。本発明は、定められた基本素子に制限され得るかまたは、信号経路またはアンテナ経路における任意の所望のさらなる素子によって追加され得る。アンテナ整合回路は、デュプレクサのために用いられることができるというだけでなく、1つのアンテナに対する送信または受信、特に、マルチプレクサを形成するために用いられることが可能な、任意の所望の数の信号経路の接続を可能にする。
【符号の説明】
【0075】
AN アンテナ接続、DU デュプレクサ、TXF 送信フィルタ、RXF 受信フィルタ、PA 電力増幅器(TX分岐)、LNA 低ノイズ増幅器(RX分岐)、F1,F2 フィルタ(回路)、SP1,SP2 信号経路、Ls 直列インダクタンス、Lp 並列インダクタンス、Cs 直列キャパシタンス、Cp 並列キャパシタンス、NO 帯域阻止フィルタ(ノッチ)、M1,M2 インピーダンス整合回路、AS 個別線路を有する整合回路、X マイクロ音波共振器、GG 個別線路の基本素子、ZG 個別線路の追加素子、Zs 複素直列インピーダンス、Zp 複素並列インピーダンス、Z
GND 接地接続のための複素インピーダンス。