【実施例】
【0051】
<実施例1:基本厚さ6.0mmの試験>
摩擦攪拌接合される金属板(板状端部)の厚さと金属板同士の隙間との関係を調査するための試験を行った。摩擦攪拌接合される一対の金属板の試験体(A6063−T5材)については、基本厚さを6.0mmとし、
図8に示すとおり試験体H1〜H19まで用意した。「Ad側」とは、ボビンツールの回転方向と進行方向が一致する側=右回転の場合進行方向左側、を意味する。「Re側」とは、ボビンツールの回転方向と進行方向が相違する側=右回転の場合進行方向右側を意味する。
【0052】
試験体H1〜H7は、金属板の厚さがAd側とRe側が同一の場合においてその厚さを変化させている。試験体H8〜H13は、Ad側の金属板を6.0mmに固定し、Re側の金属板の厚さを変化させている。試験体H14〜H19は、Re側の金属板を6.0mmに固定し、Re側の金属板の厚さを変化させている。
【0053】
金属板同士の隙間は0〜2.0mmまで0.25mmずつ変化させた。試験に使用したボビンツールは、ショルダ外径20mm、ピン外径12mm、ショルダ間距離5.8mmに設定した。ボビンツールの回転数は800rpm、移動速度は600/min、回転方向は右回転に設定した。また、このボビンツールは、実施形態で記載したように、金属板の反りに追従してボビンツールの高さ位置が変化する形態である。摩擦攪拌接合後、X線透過試験と断面ミクロ組織から品質を判定した。
【0054】
図9は、第一実施例において、試験体H1の隙間と接合部の厚さとの関係を示したグラフである。
図10は、第一実施例において、試験体H3の隙間と接合部の厚さとの関係を示したグラフである。第一実施例の接合部とは、実施形態における塑性化領域Wと同義である。また、第一実施例の接合部の「Ad部」、「中央部」、「Re部」とは、
図6の(b)に示すように、接合部(塑性化領域W)のAd側、中央、Re側における厚さ(厚さ寸法)を示している。
【0055】
図9に示すように、金属板の厚さを6.0mm同士に設定して接合した場合、隙間0.75mm未満ではAd部、中央部、Re部ともに厚さの減少は小さいが、隙間0.75以上では隙間が増加するに従いAd部、中央部、Re部の厚さが減少した。隙間が1.2mmを超えると接合部の厚さは5.8mm未満になり接合欠陥が発生した。
【0056】
図10に示すように、金属板の厚さが6.4mm同士に設定して接合した場合、隙間0.75mm未満ではAd部、中央部、Re部ともに厚さの減少は小さかった。隙間0.75〜1.75までは、Ad部、中央部、Re部ともに厚さの減少はするが、接合欠陥は発生しなかった。隙間2.0となると著しく接合部の厚さが減少し接合欠陥が発生した。
【0057】
図9及び
図10からは、接合部の中央部の厚さが5.8mm以下になると接合欠陥が発生することがわかった。つまり、金属板同士の間に隙間があっても、塑性流動によって金属が供給されて、接合部の中央部の厚さが、ショルダ間距離と同等の5.8mm未満にならなければ健全に接合されることがわかった。以上のことから、接合部の厚さがショルダ間距離以上となるように接合条件を設定する必要がある。
【0058】
図11は、第一実施例において、接合品質に及ぼす金属板の厚さと隙間の関係を示す表であって、Ad側の厚さ=Re側の厚さの場合を示す。図中、「○」は接合状況が良好、「×」は接合状況が不良である場合を示す。
【0059】
図11によれば、隙間が大きくなったとしても、金属板の厚さが大きくなれば、接合状況が良好になる場合があることがわかった。ただし、金属板の厚さとショルダ間距離との差が0.8mmを越える(本実施例では金属板の厚さを6.6mmより大きくする)と、ショルダ間に発生する内圧が大きくなり、ツール寿命が著しく低下することがわかった。
【0060】
また、
図11によれば、ショルダ間距離5.8mmであり、金属板同士の隙間が0〜0.75mm以下である場合、金属板の厚さが5.8〜6.6mmであれば接合状況は良好であることがわかった。つまり、金属板の厚さTとショルダ間距離Zとを0≦T−Z≦0.8mmとなるように設定すれば接合状況は良好であることがわかった。
【0061】
T−Zの値が0よりも小さくなる、つまり、板状端部102の厚さTよりもショルダ間距離Zが大きくなると、塑性流動化された金属が第一ショルダ11及び第二ショルダ12から溢れやすくなるため、接合部(塑性化領域W)の密度が低下する。これにより接合欠陥が生じる可能性が高くなる。金属板同士の隙間が0〜0.75mm以下であると、摩擦攪拌接合の摩擦熱によって金属板の温度が上昇し、金属板が膨張することによって隙間が無くなるため、接合状況が概ね良好であると考えられる。
【0062】
また、
図11によれば、ショルダ間距離5.8mmであり、金属板同士の隙間が0〜1.0mm以下である場合、金属板の厚さが6.0〜6.6mmであれば接合状況は良好であることがわかった。つまり、金属板の厚さTとショルダ間距離Zとを0.2≦T−Z≦0.8mmとなるように設定すれば接合状況は良好であることがわかった。T−Zの値が0.2mmよりも小さくなると、塑性流動化された金属が第一ショルダ11及び第二ショルダ12から溢れやすくなるため、接合部の密度が低下する。これにより接合欠陥が生じる可能性が高くなる。
【0063】
また、
図11によれば、ショルダ間距離5.8mmであり、金属板同士の隙間が1.0mmより大きく1.75mm以下である場合、金属板の厚さが6.2mm〜6.6mmであれば接合状況は良好であることがわかった。つまり、金属板の厚さTとショルダ間距離Zとを0.4≦T−Z≦0.8mmとなるように設定すれば接合状況は良好であることがわかった。T−Zの値が0.4mmよりも小さくなると、塑性流動化された金属が第一ショルダ11及び第二ショルダ12から溢れやすくなるため、接合部の密度が低下する。これにより接合欠陥が生じる可能性が高くなる。
【0064】
また、
図11によれば、ショルダ間距離5.8mmであり、金属板同士の隙間が1.75mmより大きく2.00mm以下である場合、金属板の厚さが6.6mmであれば接合状況は良好であることがわかった。つまり、金属板の厚さTとショルダ間距離ZとをT−Z=0.8mmとなるように設定すれば接合状況は良好であることがわかった。T−Zの値が0.8mmよりも小さくなると、塑性流動化された金属が第一ショルダ11及び第二ショルダ12から溢れやすくなるため、接合部の密度が低下する。これにより接合欠陥が生じる可能性が高くなる。
【0065】
図12は、接合品質に及ぼす金属板の厚さと隙間の関係を示す表であって、Ad側の厚さを変化させ、Re側の厚さを固定した場合を示す。
図13は、接合品質に及ぼす金属板の厚さと隙間の関係を示す表であって、Ad側の厚さを固定し、Re側の厚さを変化させた場合を示す。
【0066】
図12に係る試験ではRe側の厚さを6.0mmに固定し、Ad側の厚さを適宜変化させて摩擦攪拌接合を行った。
図13に係る試験ではAd側の厚さを6.0mmに固定し、Re側の厚さを適宜変化させて摩擦攪拌接合を行った。つまり、
図12及び
図13に係る試験では、突き合わせる金属板の左右の厚さを変化させつつ、隙間ごとの接合品質について観察した。
【0067】
図12及び
図13を対比すると、
図12の方が良好である条件が多い。言い換えると、
図12に示すように、Re側の金属板を6.0mmに固定し、Ad側の金属板を6.2mm以上に変化させた場合に接合状況が良好になる場合が多い。これは、第一実施例ではボビンツールを右回転させているため、塑性流動化した金属は、進行方向左側(Ad側)から右側(Re側)に移動しやすくなり、金属板同士の間に隙間がある場合には、Ad側の金属でその隙間が埋められると考えられる。したがって、
図13の条件のように、進行方向左側の金属板の厚さが進行方向右側の金属板の厚さよりも小さいと、接合部の中央の金属が不足して接合不良となる可能性が高い。しかし、
図12の条件のように、進行方向左側の金属板の厚さが進行方向右側の金属板の厚さよりも大きいと、接合部の中央の金属不足を補うことができるため、接合状態を良好にすることができる。
【0068】
このことは、
図14,15のグラフからも確認できる。プロット点「◆」は、試験体H4(Ad側の厚さ=6.6mm、Re側の厚さ=6.6mm)を示している。プロット点「■」は試験体H10(Ad側の厚さ=6.0mm、Re側の厚さ=6.6mm)を示し、プロット点「●」は試験体H16(Ad側の厚さ=6.6mm、Re側の厚さ=6.0mm)を示している。
【0069】
図14の(a)に示すように、接合部の中央部の厚さにおいては、試験体H4,H16,H10の順に小さくなるころがわかる。つまり、Ad側の金属板がRe側よりも薄いと、接合部の中央部の厚さが小さくなることがわかった。
【0070】
図14の(b)に示すように、接合部のAd部の厚さにおいては、試験体H4,H10,H16とも5.8mm前後になっており、接合前の厚さよりも減少していることがわかった。特に、試験体H4,H16を見ると厚さがかなり減少していることがわかった。
【0071】
図15の(a)に示すように、接合部のRe部の厚さにおいては、試験体H10,H16の厚さはさほど相違ないが、H4の厚さは総じて大きいことがわかった。また、
図14の(b)と
図15の(a)を全体的に対比すると、Ad部よりもRe部の厚さの方が総じて大きいことがわかった。
【0072】
図15の(b)に示すように、接合部の平均厚さは、試験体H10,H16,H4の順に大きくなることがわかった。
【0073】
図14,15に示すように、試験体H4,H16によれば、試験体H10よりも中央部の厚さを大きくすることができる。ただし、試験体H4によると、接合部の厚さを大きくすることができるが、その分ショルダ間の内圧が大きくなってツールの寿命が低下する可能性が高い。したがって、試験体H16のように、Re側よりもAd側の金属板の厚さを大きくなるように設定することにより、ショルダ間の内圧を低下させつつ、接合部の中央部の厚さを大きくすることができる。
【0074】
<実施例2:基本厚さ3.0mmの試験>
摩擦攪拌接合される金属板(板状端部)の厚さと金属板同士の隙間との関係を調査するための試験を行った。金属板同士の隙間は0〜2.0mmまで0.25mmずつ変化させた。試験に使用したボビンツールは、ショルダ外径10mm、ピン外径6mm、ショルダ間距離2.8mmに設定した。ボビンツールの回転数は2000rpm、移動速度は1000mm/min、回転方向は右回転に設定した。また、このボビンツールは、実施形態で記載したように、金属板の反りに追従してボビンツールの高さ位置が変化する形態である。摩擦攪拌接合後、X線透過試験と断面ミクロ組織から品質を判定した。
【0075】
摩擦攪拌接合される金属板の試験体(A6063−T5材)については、Ad側とRe側の金属板の厚さを同等とし、3.0mm、3.2mm、3.4mmで試験体を作成した。
【0076】
図16は、第二実施例において、接合品質に及ぼす金属板の厚さと隙間の関係を示す表であって、Ad側=Re側の場合を示す。図中、「○」は接合状況が良好、「×」は接合状況が不良である場合を示す。
【0077】
図16によれば、隙間が大きくなったとしても、ショルダ間距離Zに対する金属板の厚さが大きくなれば、接合状況が良好になる場合があることがわかった。ただし、金属板の厚さとショルダ間距離Zとの差が0.6mmを越える(本実施例では金属板の厚さを3.4mmより大きくする)と、ショルダ間に発生する内圧が大きくなり、ツール寿命が著しく低下することがわかった。
【0078】
また、
図16によれば、ショルダ間距離Zが2.8mmであり、金属板同士の隙間が0.75mm以下である場合、金属板の厚さが3.0mm〜3.4mmであれば接合状況は良好であることがわかった。つまり、金属板の厚さTとショルダ間距離Zとを0.2≦T−Z≦0.6mmとなるように設定すれば接合状況は良好であることがわかった。T−Zの値が0.2mmよりも小さくなると、塑性流動化された金属が第一ショルダ11及び第二ショルダ12から溢れやすくなるため、接合部の密度が低下する。これにより接合欠陥が生じる可能性が高くなる。金属板同士の隙間が0.75mm以下であると、摩擦攪拌接合の摩擦熱によって金属板の温度が上昇し、金属板が膨張することによって隙間が無くなるため、接合状況が概ね良好であると考えられる。
【0079】
また、
図16によれば、ショルダ間距離2.8mmであり、金属板同士の隙間が0.75mmより大きく1.50mm以下である場合、金属板の厚さが3.2〜3.4mmであれば接合状況は良好であることがわかった。つまり、金属板の厚さTとショルダ間距離Zとを0.4≦T−Z≦0.6mmとなるように設定すれば接合状況は良好であることがわかった。T−Zの値が0.4mmよりも小さくなると、塑性流動化された金属が第一ショルダ11及び第二ショルダ12から溢れやすくなるため、接合部の密度が低下する。これにより接合欠陥が生じる可能性が高くなる。
【0080】
また、
図16によれば、ショルダ間距離2.8mmであり、金属板同士の隙間が1.50mmより大きく1.75mm以下である場合、金属板の厚さが3.4mmであれば接合状況は良好であることがわかった。つまり、金属板の厚さTとショルダ間距離ZとをT−Z=0.6mmとなるように設定すれば接合状況は良好であることがわかった。
【0081】
また、
図16によれば、隙間が2.0mmであると、金属板の厚さを3.4mmとしても接合不良になることがわかった。
【0082】
<ツール形状>
図17は、第一実施例において、ショルダ間距離を5.8mmに固定した場合の各ボビンツールの寸法と接合状況を示した表である。
図18は、第二実施例において、ショルダ間距離を2.8mmに固定した場合の各ボビンツールの寸法と接合状況を示した表である。
図19は、ショルダ間距離を11.5mmに固定した場合の各ボビンツールの寸法と接合状況を示した表である。
図17,18,19には、抗張力/材料抵抗、抗折力/材料抵抗、材料保持傾向を示した。
【0083】
抗張力/材料抵抗は、Y
2/(X
2−Y
2)で表される。つまり、第一ショルダ11の下面及び第二ショルダ12の上面は、摩擦攪拌の際に塑性流動化された金属によって押圧さるため、ピン13には引張応力が作用する。そこで、抗張力/材料抵抗は、ピン13の外径Yを二乗した値を、第一ショルダ11の下面の面積(第二ショルダ12の上面)で除した値で表される。
【0084】
抗折力/材料抵抗は、Y
2/YZで表される。つまり、ボビンツール5が突き合せ部Nを移動する際には、ピン13の軸方向に対して垂直方向の力が作用する。そこで、抗折力/材料抵抗は、ピン13の外径Yを二乗した値を、ピン13の軸を含む断面の断面積で除した値で表される。
【0085】
材料保持傾向は、X
2/Y
2で表される。つまり、摩擦攪拌の際に塑性流動化された金属は第一ショルダ11の下面及び第二ショルダ12の上面によって保持される。そこで、材料保持傾向は、第一ショルダ11(第二ショルダ12)の外径Xを二乗した値を、ピン13の外径Yを二乗した値で除して表される。
【0086】
図17,18,19を勘案すると、材料保持傾向(X
2/Y
2)が2.0以下であると接合欠陥が発生し易く、2.0よりも大きくなると接合欠陥が発生しないことがわかった。材料保持傾向(X
2/Y
2)が2.0以下であると、第一ショルダ11(第二ショルダ12)の外径Xに対するピン13の外径Yが太いため、金属を押えるショルダの面積が小さくなり、摩擦攪拌された金属を十分に押えることができず、金属がバリとなってショルダの外部から溢れ出てしまうためであると考えられる。一方、材料保持傾向(X
2/Y
2)が2.0より大きいと、ピン13の外径Yに対して、第一ショルダ11(第二ショルダ12)の外径Xが大きいため、塑性流動化した金属を両ショルダで十分に押えることができる。これにより、接合欠陥が発生しにくいと考えられる。
【0087】
また、
図17,18,19を勘案すると、抗張力/材料抵抗(Y
2/(X
2−Y
2))が0.2以下であるとピンが破損し易いことがわかった。これは、抗張力/材料抵抗(Y
2/(X
2−Y
2))が0.2以下であると、ショルダ外径Xに対するピン外径Yが小さくなるため、接合時にツール軸方向に発生する材料抵抗に対するピンの抗張力が不十分となり、ピン13が折れ易くなると考えられる。抗張力/材料抵抗(Y
2/(X
2−Y
2))が0.2より大きいと、ショルダ外径Xに対するピン外径Yが大きくなるため、ピン13が折れにくくなると考えられる。
【0088】
また、
図17,18,19を勘案すると、抗折力/材料抵抗(Y
2/YZ)が1.2以下であるとピン13が破損し易いことがわかった。これは、抗折力/材料抵抗(Y
2/YZ)が1.2以下であると、ショルダ間距離(ピンの長さ)Zに対するピン外径Yが小さくなるため、接合時にツール進行方向とは逆向きに流れる材料の抵抗に対するピンの抗折力が不十分となり、ピン13が折れ易くなると考えられる。抗折力/材料抵抗(Y
2/YZ)が1.2より大きいと、ショルダ間距離(ピンの長さ)Zに対するピン外径Yが大きくなるため、ピン13が折れにくくなると考えられる。
【0089】
また、
図17,18,19を勘案すると、抗張力/材料抵抗(Y
2/(X
2−Y
2))が0.2以下であるか、又は抗折力/材料抵抗(Y
2/YZ)が1.2以下である場合、ピンの破損が起こった。しかしながら、抗張力/材料抵抗(Y
2/(X
2−Y
2))が0.2より大きく、かつ、抗折力/材料抵抗(Y
2/YZ)が1.2より大きい場合、ピンの破損は起こらなかった。よって、接合時のボビンツールのピンの破損を防止するためには、ショルダ外径X、ピン外径Y及びショルダ間距離(ピンの長さ)Zについて、以下の式(1)、(2)の両方を満たすようにボビンルーツの形状を設計することが好ましいと結論づけられる。
Y
2/(X
2−Y
2)>0.2・・・・(1)
Y
2/YZ>1.2・・・・・・・・(2)