特許第5663011号(P5663011)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5663011縮合多環芳香族化合物及びその製造方法、並びにそれを含有するリチウムイオン二次電池用の正極活物質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663011
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】縮合多環芳香族化合物及びその製造方法、並びにそれを含有するリチウムイオン二次電池用の正極活物質
(51)【国際特許分類】
   C07C 251/22 20060101AFI20150115BHJP
   C07C 249/02 20060101ALI20150115BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20150115BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150115BHJP
【FI】
   C07C251/22CSP
   C07C249/02
   H01M4/60
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2012-518442(P2012-518442)
(86)(22)【出願日】2011年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2011062641
(87)【国際公開番号】WO2011152476
(87)【国際公開日】20111208
【審査請求日】2013年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-126029(P2010-126029)
(32)【優先日】2010年6月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100147142
【弁理士】
【氏名又は名称】石森 昭慶
(72)【発明者】
【氏名】大森 修
(72)【発明者】
【氏名】島 晃子
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 仁俊
(72)【発明者】
【氏名】仲西 正孝
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳一
(72)【発明者】
【氏名】山元 公寿
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−247257(JP,A)
【文献】 特開平05−310675(JP,A)
【文献】 特開平06−100522(JP,A)
【文献】 特開平11−354277(JP,A)
【文献】 特開2005−263721(JP,A)
【文献】 「MIXED VALENCE IN CONJUGATED ANION RADICALS, SOLUTION AND SOLID STATE STUDIES」,Synthetic Metals,1991年,Vol.42, No.3,p.2365-2375,化合物3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 251/22
C07C 249/02
H01M 4/60
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの分子内に少なくとも4つのイミノ基を有する、縮合多環芳香族化合物であって、
下記一般式(1):
【化1】
(該一般式(1)中、R、R、R3、は、アリール基であり、R、R及びRは、各々独立に、水素、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表し、nは1〜の整数である。)、または
下記一般式(2):
【化2】
(該一般式(2)中、R、R、R3、は、アリール基であり、R、R及びRは、各々独立に、水素、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表し、nは1〜の整数である。)で示されることを特徴とする、縮合多環芳香族化合物。
【請求項2】
四塩化チタンと塩基の存在下で、一つの分子内に少なくとも四つのオキソ基を有する化合物とアニリン系化合物とを反応させることを特徴とする、請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物の生産方法。
【請求項3】
四塩化チタンと塩基の存在下で、一般式(1)の化合物について、下記一般式(3)で示される化合物とアニリンとを反応させることを特徴とする、請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物の生産方法。
【化3】
(該一般式(3)中、R、R、R及びRは、前記一般式(1)中のR、R、R及びR各々と同義であり、nは1〜の整数である。)
【請求項4】
四塩化チタンと塩基の存在下で、一般式(2)の化合物について、下記一般式(4)で示される化合物とアニリンとを反応させることを特徴とする、請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物の生産方法。
【化4】
(該一般式(4)中、R、R、R及びRは、前記一般式(2)中のR、R、R及びR各々と同義であり、nは1〜の整数である。)
【請求項5】
請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物を含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池用の正極活物質。
【請求項6】
請求項5に記載の正極活物質が集電体の少なくとも表面に備えられることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用の正極。
【請求項7】
正極と、負極と、電解質とを少なくとも構成要素とするリチウムイオン二次電池において、該正極が請求項6に記載の正極であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合多環芳香族化合物及びその製造方法、並びにその縮合多環芳香族化合物を含有するリチウムイオン二次電池用の正極活物質に関し、さらにはその正極活物質を備える正極、その正極を構成要素とするリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器類の小型化及び高機能化に伴い、これらに用いられるリチウムイオン二次電池の軽量化、高容量化及び長寿命化(サイクル適性)に対する要求が高まっている。しかし、現在、主に用いられているリチウムイオン二次電池の正極活物質は、比重の大きなコバルトやマンガンの酸化物が用いられているため、リチウムイオン二次電池全体の重量は大きい。そこで、リチウムイオン二次電池全体の重量を小さくするために、リチウムイオン二次電池全体に占める正極活物質の割合を小さくすることが考えられるが、その場合、軽量化は達成できても高容量化及び長寿命化(サイクル適性)は望むことができない可能性が大きい。
【0003】
近年、軽量な元素からなる有機化合物等を電極活物質として適用できないかどうかについて盛んに検討がされている。特に、π電子共役系の導電性高分子は電極活物質として有望である。例えば、特許文献1には、一段階二電子移動が可能である導電性高分子の新規ポリアニリン誘導体化合物及びその化合物をプロトン化したものを正極に用いた二次電池について記載されている。特許文献1によると、その新規ポリアニリン誘導体の化合物を用いた電極材料は高エネルギー密度を有するので、その電極材料を正極とすることは、亜鉛板を負極とし、硫酸亜鉛水溶液を電解液とする二次電池において有用であると述べられている。しかし、高容量化及び長寿命化(サイクル適性)の点については、更なる改良が望まれているのが現状であり、そして新規有機化合物等をリチウム二次電池用の電極活物質に応用できないかどうかについて盛んに研究がされているのが現状である。
【0004】
特許文献2には、ペンタセン誘導体の酸素付加体に紫外線照射を行うことにより、ペンタセンを発生する製造方法について記載されている。特許文献2によると、その製造方法は有害ガスの発生も無いために環境にクリーンであり、またリサイクルが簡単にできるという高い優位性があり、同時に光パターン化が可能であるという機能を備え、環境・省資源的に負荷が少ない方法であると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−2278号公報
【特許文献2】特開2008−285442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リチウムイオン応答性に優れ、リチウムイオン二次電池用途に適した縮合多環芳香族化合物及びその製造方法を提供することを目的とし、並びに、その縮合多環芳香族化合物を含有することを特徴とする正極活物質、及びそれを備えたリチウムイオン二次電池用の正極を提供することを目的とする。さらに、その正極を構成要素として、高容量で、かつ、サイクル適性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、1つの分子内に少なくとも4つのイミノ基を有することを特徴とする縮合多環芳香族化合物が多電子移動性を有してリチウムイオン応答性に優れていること、さらに、その縮合多環芳香族化合物が電極材料との高密着性を有してリチウムイオン二次電池用途に好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記目的を達成するための具体的な手段は、以下のとおりである。
(1)1つの分子内に少なくとも4つのイミノ基を有することを特徴とする、縮合多環芳香族化合物。
(2)下記一般式(1)で示されることを特徴とする、(1)に記載の縮合多環芳香族化合物。
その一般式(1)中、R、R、R3、4、、R、R及びRは、各々独立に、水素、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を表し、nは1〜10の整数である。
(3)下記一般式(2)で示されることを特徴とする、(1)に記載の縮合多環芳香族化合物。
その一般式(2)中、R、R、R3、4、、R、R及びRは、各々独立に、水素、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を表し、nは1〜10の整数である。
(4)四塩化チタンと塩基の存在下で、1つの分子内に少なくとも4つのオキソ基を有する化合物とアニリン系化合物とを反応させることを特徴とする、(1)に記載の縮合多環芳香族化合物の生産方法。
(5)四塩化チタンと塩基の存在下で、下記一般式(3)で示される化合物とアニリン系化合物とを反応させることを特徴とする、(2)に記載の縮合多環芳香族化合物の生産方法。
その一般式(3)中、R、R、R及びRは、その一般式(1)中のR、R、R及びR各々と同義であり、nは1〜10の整数である。
(6)四塩化チタンと塩基の存在下で、下記一般式(4)で示される化合物とアニリン系化合物とを反応させることを特徴とする、(3)に記載の縮合多環芳香族化合物の生産方法。
その一般式(4)中、R、R、R及びRは、その一般式(2)中のR、R、R及びR各々と同義であり、nは1〜10の整数である。
(7)(1)から(3)のいずれかに記載の縮合多環芳香族化合物を含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池用の正極活物質。
(8)(7)に記載の正極活物質が集電体の少なくとも表面に備えられることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用の正極。
(9)正極と、負極と、電解質とを少なくとも構成要素とするリチウムイオン二次電池において、該正極が(8)に記載の正極であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リチウムイオン応答性に優れ、リチウムイオン二次電池用途に適した縮合多環芳香族化合物及びその製造方法が提供され、並びに、その縮合多環芳香族化合物を含有することを特徴とする正極活物質、それを備えた正極、及びその正極を構成要素としたリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例2で実施した電気化学的還元反応により生成した縮合多環芳香族化合物(5Red)及び電気化学的還元反応前の縮合多環芳香族化合物(5)の可視・紫外スペクトルを示す図である。
図2-1】図2−1は、実施例3及び比較例1で実施した多電子移動性評価の評価結果を示すグラフである。
図2-2】図2−2は、実施例3で実施した多電子移動性評価の評価結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例4−1で作製したコイン型リチウムイオン二次電池の10サイクル目の充放電曲線を示すグラフである。
図4図4は、実施例4−1で作製したコイン型リチウムイオン二次電池の100サイクルまでの放電容量を示すグラフである。
図5図5は、実施例4−1、4−2及び4−3で作製したコイン型リチウムイオン二次電池の10サイクル目の放電曲線を示すグラフである。
図6図6は、実施例4−1及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池の10サイクル目の放電曲線を示すグラフである。
図7-1】図7−1は、実施例5及び比較例3で実施した導電助剤(ケチェンブラック)に対する吸着性試験結果を示す図である。
図7-2】図7−2は、実施例5及び比較例3で実施した導電助剤(ケチェンブラック)に対する吸着性試験結果を示す図である。
図7-3】図7−3は、実施例5及び比較例3で実施した導電助剤(ケチェンブラック)に対する吸着性試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明をする。
【0012】
(1)縮合多環芳香族化合物
本発明による縮合多環芳香族化合物は、1つの分子内に少なくとも4つのイミノ基を有することを特徴とする。本発明による縮合多環芳香族化合物は、少なくとも4つのイミノ基を有すれば特に限定されることはないが、次の一般式(5)で示される化合物が好ましい。
【0013】
【0014】
その一般式(5)中、R、R、R3、4、、R、R及びRは、各々独立に、水素、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。
【0015】
、R、R3、4、、R、R及びRは、電子供与基であれば、特に限定されることはないが、例えば、各々独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。
【0016】
、R、R3、4、、R、R及びRが、置換基で置換される時の置換基としては、特に限定されることはないが、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
【0017】
〜Rは、アリール基であることがより好ましく、フェニル基であることが更に好ましい。R〜Rは、アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
【0018】
その一般式(5)中の多環芳香族基は、置換又は無置換の多環芳香族基を表す。置換多環芳香族基が置換基で置換される時の置換基としては、特に限定されることはなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。
【0019】
無置換の多環芳香族基の好ましい例示を以下に示すがこれらに限定されることはない。
【0020】
【0021】
また、本発明による縮合多環芳香族化合物は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする化合物であることが好ましい。
その一般式(1)中、R、R、R3、4、、R、R及びRは、各々独立に、水素、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を表し、nは1〜10の整数である。
【0022】
、R、R3、4、、R、R及びRは、電子供与基であれば、特に限定されることはないが、例えば、各々独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。
【0023】
、R、R3、4、、R、R及びRが、置換基で置換される時の置換基としては、特に限定されることはないが、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
【0024】
〜Rは、アリール基であることがより好ましく、フェニル基であることが更に好ましい。R〜Rは、アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
【0025】
nは重合度を示す1〜10の整数である。nは、5以下の整数であることが好ましい。
【0026】
またさらに、本発明による縮合多環芳香族化合物は、下記一般式(2)で示されることを特徴とする化合物であることが好ましい。
その一般式(2)中、R、R、R3、4、、R、R及びRは、各々独立に、水素、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を表し、nは1〜10の整数である。
【0027】
、R、R3、4、、R、R及びRは、電子供与基であれば、特に限定されることはないが、例えば、各々独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。
【0028】
、R、R3、4、、R、R及びRが、置換基で置換される時の置換基としては、特に限定されることはないが、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
【0029】
〜Rは、アリール基であることがより好ましく、フェニル基であることが更に好ましい。R〜Rは、アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
【0030】
nは重合度を示す1〜10の整数である。nは、5以下の整数であることが好ましい。
【0031】
本発明による縮合多環芳香族化合物の好ましい具体的例示化合物を示すが、本発明による縮合多環芳香族化合物は、これらの化合物に限定されることはない。
【0032】
【0033】
次に、本発明による縮合多環芳香族化合物の生産方法について述べる。本発明による生産方法は四塩化チタンと塩基の存在下で、1つの分子内に少なくとも4つのオキソ基を有する化合物とアニリン系化合物とを反応させることを特徴とする。本発明による生産方法で用いられる1つの分子内に少なくとも4つのオキソ基を有する化合物は、1つの分子内に少なくとも4つのオキソ基を有すれば特に限定されることはない。さらに、本発明による生産方法で用いられるアニリン系化合物は、置換基を有するアニリン化合物でもよいし、無置換のアニリン化合物でもよい。塩基は、塩基性触媒であれば特に限定されることはないが、例えば1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)が挙げられる。
【0034】
本発明による縮合多環芳香族化合物の生産方法は、一般式(1)で示される本発明の縮合多環芳香族化合物の生産方法であって、四塩化チタンと塩基の存在下で、下記一般式(3)で示される化合物とアニリン系化合物とを反応させることを特徴とすることが好ましい。
その一般式(3)中、R、R、R及びRは、一般式(1)中のR、R、R及びRと同義である。
【0035】
本発明による縮合多環芳香族化合物の生産方法は、一般式(2)で示される本発明の縮合多環芳香族化合物の生産方法であって、四塩化チタンと塩基の存在下で、下記一般式(4)で示される化合物とアニリン系化合物とを反応させることを特徴とすることが好ましい。
その一般式(4)中、R、R、R及びRは、一般式(2)中のR、R、R及びRと同義である。
【0036】
本発明による生産方法で用いられる1つの分子内に少なくとも4つのオキソ基を有する化合物、一般式(3)で示される化合物、及び一般式(4)で示される化合物は、非特許文献(JOC 1983,48,4358)、非特許文献(JACS 1992,114,6330)、非特許文献(J.Heterocyclic Chem.2002,39,1093.)、及び非特許文献(JACS 1992,114,1388)の記載を参考にして合成することができる。
【0037】
例えば、2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンは、1,4:5,8−ジエポキシ−1,4,5,8−テトラヒドロアントラセンを、非特許文献(JOC 1983,48,4358)に記載の方法にしたがって、テトラブロモベンゼンとフランとから合成し、1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセンを、非特許文献(JACS 1992,114,6330)に記載の方法にしたがって、1,4:5,8−ジエポキシ−1,4,5,8−テトラヒドロアントラセンと1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノンとから合成し、そして、2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンを、非特許文献(JACS 1992,114,1388)に記載の方法にしたがって、1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセンから合成することができる。
【0038】
(2)リチウムイオン二次電池用の正極活物質
本発明によるリチウムイオン二次電池用の正極活物質は、1つの分子内に少なくとも4つのイミノ基を有する縮合多環芳香族化合物、一般式(1)で示される縮合多環芳香族化合物、及び一般式(2)で示される縮合多環芳香族化合物を含有することを特徴とする。ここで、リチウムイオン二次電池用の正極活物質とは、リチウムイオン二次電池の充電反応及び放電反応などの電極反応において、リチウムイオン二次電池の正極で直接寄与する物質のことをいう。
【0039】
(3)リチウムイオン二次電池用の正極
本発明によるリチウムイオン二次電池用の正極は、1つの分子内に少なくとも4つのイミノ基を有する縮合多環芳香族化合物、一般式(1)で示される縮合多環芳香族化合物、及び一般式(2)で示される縮合多環芳香族化合物を含有する正極活物質、すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用の正極活物質を集電体の少なくとも表面に備えることを特徴とする。
【0040】
集電体とはリチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体のことである。集電体はその電子高伝導体で形成された箔、板等の形状となる。目的に応じた形状であれば特に限定されないが、例えば、銅箔、アルミニウム箔、アルミメッシュが挙げられる。
【0041】
正極活物質を集電体の少なくとも表面に備えるための一つの方法としては、例えば、集電体の表面に正極活物質を塗布することが挙げられる。ここで、塗布するとは集電体に正極活物質を載せることである。塗布する方法としては、例えば、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法等が挙げられるが、リチウムイオン二次電池用電極を作製する際に一般的に用いられる塗布方法であれば、特に限定されることはない。
【0042】
本発明によるリチウムイオン二次電池用の正極は、本発明の正極活物質と合わせて導電助剤を、集電体の少なくとも表面に備えてよい。導電助剤は導電性を高めるために添加されるものである。導電助剤としては、例えば、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケチェンブラック、カーボンファイバが挙げられる。それらを単独で添加してもよいし、又はそれらを二種以上組み合わせて添加してもよい。添加量は、本発明の正極活物質100質量部当たり、10〜2000質量部であることが好ましく、100〜1000質量部であることがより好ましく、200〜800質量部であることが更に好ましい。
【0043】
(3)リチウムイオン二次電池
本発明によるリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解質とを少なくとも構成要素とし、正極が本発明の正極であることを特徴とする。
【0044】
本発明によるリチウムイオン二次電池の負極はリチウム系負極であることが好ましい。リチウム系負極は、金属リチウムやリチウム合金(例えば、Li−Al合金)のようなリチウム系金属材料、又はリチウムインターカレーション炭素材料により構成することができる。リチウム系金属材料は、箔の形態で使用することが電池の軽量化の点で好ましい。
【0045】
本発明によるリチウムイオン二次電池の電解質は、正極と負極との間に配置されてよく、電解質の層として配置されてもよい。電解質は、電解質の溶液を含むポリマーゲルで構成すること(ポリマーゲル電解質)が好ましい。ポリマー電解質に含まれる電解質としては、例えば、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等のリチウム塩が挙げられる。電解質を溶解する溶媒は非水溶媒であることが好ましい。そのような非水溶媒には、鎖状カーボネート、環状カーボネート、環状エステル、ニトリル化合物、酸無水物、アミド化合物、ホスフェート化合物、アミン化合物等が含まれる。非水溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリジノン、N,N’−ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合物、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物、スルホランとテトラヒドロフランとの混合物が挙げられる。
【0046】
ポリマーゲルとしては、光重合開始剤(例えば、IRGACURE184が挙げられる。)で重合するプレポリマーTA210(ポリオキシアルキレン鎖を有する多官能アクリレートポリマー)を用いることが好ましく、また、アクリロニトリルと、アクリル酸メチル若しくはメタアクリル酸とのコポリマーを用いることも好ましい。ポリマーゲル電解質は、ポリマーを電解質溶液中に浸漬するか、又は電解質溶液の存在下でポリマーの構成単位(モノマー/化合物)を重合することよって得ることができる。さらに、特開2002−198095号公報に記載のポリオレフィン系ゲルも好適に用いられる。このゲルは、ポリエチレンのモル比で約10%がポリエチレングリコールなどのポリエチレンオキシドのオリゴマーを含有する化合物でグラフト化されている非架橋ポリマーのゲルである。このポリマーは、非グラフト化ポリエチレンと物性が全く異なり、大量の有機電解液を吸収してゲル化し、その吸収液を保持する能力を有する。したがって、そのポリマーを電解質溶液に浸漬することによってゲル電解質を得ることができる。また、前述の非架橋ポリマーを有機溶媒中の電解質溶液に溶解した溶液に架橋性モノマーを添加してなる反応混合物を基材に適用し、その架橋性モノマーを架橋重合させる反応条件に供することによって、その基材と一体化されたポリマーゲル電解質を得ることもできる。
【0047】
本発明によるリチウムイオン二次電池は、一つの構成要素としてセパレーターを含んでもよい。セパレーターは、リチウムイオン二次電池の正極及び負極が接触しないようにする目的で用いることができ、電解質を含んでもよい。そして、セパレーターとしては、例えば、ポリプロピレン多孔質フィルム、不織布が挙げられ、ポリプロピレン多孔質フィルムが好ましい。
【0048】
本発明によるリチウムイオン二次電池の構成形態(積層形態)は任意のものでよい。例えば、電解質溶液に本発明の正極を含浸させ、その正極上にセパレーター、ガラスフィルターを積層し、さらに負極を積層する形態が挙げられ、さらに、正極、電解質を含むセパレーター、負極を順に重ね合わせた形態が挙げられる。
【0049】
本発明によるリチウムイオン二次電池の形状は、公知の形状でよく、例えば、電極積層体、巻回体を金属ケース、樹脂ケース、又はアルミニウム箔などの金属箔と合成樹脂フィルムからなるラミネートフィルムによって封止したものが挙げられる。さらに、リチウムイオン二次電池の外観形状は、例えば、円筒型、角型、コイン型、シート型等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
以下、本発明をより具体的に説明するための実施例を提供する。なお、本発明は、その目的及び主旨を逸脱しない範囲で以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1−1)
<合成例1:縮合多環芳香族化合物(5)の合成>
【0052】
【0053】
縮合多環芳香族化合物(5)(N,N,N’,N’’’−テトラメチル−2,3,9,10−ペンタセンテトロンテトライミン)を、以下の4工程からなる合成ルートによって、市販されている1,2,4,5−テトラブロモベンゼン(1)から合成した。
【0054】
(工程1)1,4:5,8−ジエポキシ−1,4,5,8−テトラヒドロアントラセン(2)の合成
1,4:5,8−ジエポキシ−1,4,5,8−テトラヒドロアントラセン(2)を、非特許文献(JOC 1983,48,4358)に記載の方法にしたがって、テトラブロモベンゼン(1)とフランとから合成した。収率;52%、スペクトルデータ;H NMR(270MHz,CDCl)δ7.19(s,2H),7.03(s,4H),5.63(s,4H)であった。
【0055】
(工程2)1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)の合成
1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)を、非特許文献(JACS 1992,114,6330)に記載の方法にしたがって、1,4:5,8−ジエポキシ−1,4,5,8−テトラヒドロアントラセン(2)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノンとから合成した。収率;62%、スペクトルデータ;H NMR(270MHz,CDCl)δ7.58(s,2H),7.46−7.30(m,20H),7.01−6.88(m,20H),5.84(s,4H),3.07(s,4H)であった。
【0056】
(工程3)2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロン(4)の合成
2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノンの合成
2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノンを、非特許文献(J.Heterocyclic Chem.2002,39,1093.)に記載の方法にしたがって、2,3−ジメチルヒドロキノンを酸化することによって合成した。収率;65%であった。
【0057】
2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロン(4)の合成
2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロン(4)を、非特許文献(JACS 1992,114,1388)に記載の方法にしたがって、1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)から合成した。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。デカリン(30ml)に溶解した、1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)(0.960g、0.98mmol)と2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノン(1.18g、8.67mmol)との混合物を、3.5時間200℃で攪拌をした。その反応混合物を室温まで冷却した後、その沈殿を、ろ過することによって集めてヘキサン及びCHClで洗浄して真空内で乾燥をした。得られた灰色の固体に濃縮したHSO(15ml)を添加した。その反応混合物を室温で攪拌した。2時間後、その反応混合物を氷水に注いだ。その沈殿物をろ過することによって集めてHO及びメタノールで洗浄して粗生成物(0.3055g)を得た。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。
【0058】
(工程4)N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)の合成
クロロベンゼン(25ml)に溶解した、粗ペンタセンテトロン(4)(0.126g)、アニリン(0.100g、0.11mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(1.3g、11.1mmol)の混合物に、クロロベンゼン(5ml)に溶解したTiCl(0.25ml、2.3mmol)の溶液を80℃でゆっくり添加した。その反応混合物を3.5時間130℃で攪拌をした。その沈殿物を、セライトろ過し、そのろ液を濃縮した。その残渣物をCHCl中で再溶解して大量のアセトニトリル中で再沈殿した。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:ヘキサン=3:1)によって更に精製して、1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)に対して25%の収率でN,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)を得た(0.0716g、0.103mmol)。
【0059】
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)は、イミン結合のE/Z異性体のため、下記の7つの異性体を有する。それゆえに、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)のNMRスペクトルは複数のピークを示した。スペクトルデータ;H NMR(500MHz,CDCl)δ8.90−8.80(m,26H),2.38−1.48(m,12H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ158.8,151.6 141.7,130.4,129.6,129.1,127.4,125.0,123.5,120.0,119.8,15.8;IR(ATR,cm−1)2920,2849,1586,1478,1373,1285,1261,1220,1026,922,898,835,763,693,686,663,567,505,465,429,409,402、元素分析;C5038に対する計算値(calcd):C,86.42;H,5.51;N,8.06.、実測値(Found):C,86.35;H,5.53;H,7.84、HRMS(ESI);C5039[M+H]に対する計算値(Calcd):695.3175.、実測値(Found):695.3163であった。
【0060】
【0061】
(実施例1−2)
<合成例2:縮合多環芳香族化合物(11)の合成>
【0062】
【0063】
縮合多環芳香族化合物(11)(N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロンテトライミン)を、以下の5工程からなる合成ルートによって、市販されている3,6−ジブロモ−2,7−ジヒドロキシナフタレン(6)から合成した。
【0064】
(工程1)3,6−ジブロモ−2,7−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(7)の合成
3,6−ジブロモ−2,7−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(7)を、非特許文献(J.Org.Chem.1985,50,2934.)に記載の方法にしたがって、3,6−ジブロモ−2,7−ジヒドロキシナフタレン(6)のトシル化によって合成した。収率;75%、スペクトルデータ;H NMR(270MHz,CDCl)δ7.19(s,2H),7.82(d,J=8.3Hz,4H),7.74(s,2H),7.35(d,J=8.3Hz,4H),2.48(s,6H)であった。
【0065】
(工程2)1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロテトラセン(8)の合成
1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロテトラセン(8)を、非特許文献(J.Org.Chem.1985,50,2934.)に記載の方法にしたがって、3,6−ジブロモ−2,7−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(7)及びフランから合成した。収率;58%.であった。
【0066】
(工程3)1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)の合成
1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)を、非特許文献(JACS 1992,114,6330)に記載の方法にしたがって、1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロテトラセン(8)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノンとから合成した。ベンゼン(20ml)に溶解した、1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロテトラセン(8)(0.2600g、1.0mmol)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノン(0.7961g、2.0mmol)との混合物を、24時間還流しながら攪拌をした。メタノールを反応混合物に添加した後、その沈殿物をろ過することによって集めてメタノールで洗浄して真空内で乾燥して収率38%で1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)の生成物を得た(0.3926g、0.38mmol)。そのろ液を濃縮してその残渣物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:ヘキサン=3:1)によって精製して、収率33%の1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)を得た。生成物である1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)の総収率は71%であった。スペクトルデータ;H NMR(500MHz,CDCl)δ7.84(s,4H),7.50−7.30(m,20H),7.04−6.92(m,20H),5.94(s,4H),3.24(s,4H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ196.7,144.7,138.7,135.3,132.6,130.1,129.8,128.5,127.7,127.6,127.0,81.2,64.6,47.4;IR(ATR,cm−1)1771,1497,1444.71,1026,980,900,856,841,767,746,731,696,673,660,640,572,553,507,473,460、元素分析;C7652に対する計算値(calcd):C,88.69;H,5.09、実測値(Found):C,88.12;H,5.04であった。
【0067】
(工程4)2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロン(10)の合成
2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロン(10)を、スキーム1と同様な方法で、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)から合成した。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。デカリン(30ml)に溶解した、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)(0.3080g、0.3mmol)と2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノン(0.3271g、2.4mmol)との混合物を、3.5時間200℃で攪拌をした。その反応混合物を室温まで冷却した後、その沈殿を、ろ過することによって集めてヘキサン及びCHClで洗浄して真空内で乾燥をした。得られた灰色の固体に濃縮したHSO(15ml)を添加した。その反応混合物を室温で攪拌した。2時間後、その反応混合物を氷水に注いだ。その沈殿物をろ過することによって集めてHO及びメタノールで洗浄して粗生成物(0.1206g)を得た。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。
【0068】
(工程5)N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロン テトライミン(11)の合成
クロロベンゼン(20ml)に溶解した、粗ヘキサセンテトロン(10)(0.118g)、アニリン(0.15ml、1.6mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.900g、8.0mmol)の混合物に、クロロベンゼン(5ml)に溶解したTiCl(0.15ml、1.4mmol)の溶液を75℃でゆっくり添加した。その反応混合物を1.5時間125℃で攪拌をした。その反応混合物をシリカゲルカラム(CHCl)に通して濃縮した。その残渣物をCHCl中で再溶解して大量のアセトニトリル中で再沈殿した。セライトろ過し、アセトニトリルとMeOHで洗浄して真空内で乾燥して、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)に対して25%の収率でN,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロンテトライミン(11)を得た(0.0560g、0.075mmol)。
【0069】
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)と同様に、イミン結合のE/Z異性体のため、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロンテトライミン(11)は、7つの異性体を有する。それゆえに、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロンテトライミン(11)のNMRスペクトルは複数のピークを示した。スペクトルデータ;H NMR(500MHz,CDCl)δ8.74−6.91(m,28H),2.53−1.51(m,12H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ159.6,158.8,158.6,151.9,151.3,145.9,141.7,140,2,135.7,134.2,132.5,131.1,130.7,129.6,129.3,129.1,128.9,128.4,126.5,126.2,125.2,124.7,124.6,123.8,123.4,120.1,119.6,119.1,18.2,17.0,15.9,15.6;IR(ATR,cm−1)1585,1496,1480,1446,1424,1375,1298,1259,1225,1169,1070,1026,918,895,763,749,692,502,473,458、元素分析;C54400.3HOに対する計算値(calcd):C,86.44;H,5.45;N,7.47、実測値(Found):C,86.44;H,5.36;H,7.28、HRMS(ESI)C5441[M+H]に対する計算値(Calcd):745.3331、実測値(Found):745.3348であった。
【0070】
(実施例1−3)
<合成例3:縮合多環芳香族化合物(17)の合成>
【0071】
【0072】
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(17)を、以下の5工程からなる合成ルートによって、2,6−ジブロモ−1,5−ジジヒドロキシナフタレン(12)から合成した。
【0073】
(工程1)2,6−ジブロモ−1,5−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(13)の合成
2,6−ジブロモ−1,5−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(13)を、非特許文献(J.Org.Chem.1983,48,1682.)に記載の方法にしたがって、2,6−ジブロモ−1,5−ジヒドロキシナフタレン(12)のトシル化によって合成した。収率;96%。
【0074】
(工程2)1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロクリセン(14)
1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロクリセン(14)を、非特許文献(J.Org.Chem.1982,48,1683.)に記載の方法にしたがって、2,6−ジブロモ−1,5−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(13)及びフランから合成した。収率;43%であった。
【0075】
(工程3)1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)の合成
1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)を、非特許文献(JACS 1992,114,6330)に記載の方法にしたがって、1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロクリセン(14)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノンとから合成した。ベンゼン(45ml)に溶解した、1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロクリセン(14)(0.6336g、2.4mmol)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノン(1.872g、4.9mmol)との混合物を28時間還流しながら攪拌をした。メタノールを添加した後、その沈殿物をろ過することによって集めてメタノールで洗浄して真空内で乾燥して収率71%で1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)の生成物を得た(1.7882g、1.7mmol)。スペクトルデータ;H NMR(500MHz,CDCl)δ8.02(s,1H),8.01(s,1H),7.84(s,1H),7.82(s,1H),7.54−7.28(m,20H),7.04−6.93(m,20H),6.33(s,2H),6.03(s,2H),3.10(m,4H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ196.5,144.9,144.5,138.8,138.6,135.5,135.3,130.1,130.0,129.7,129.6,128.5,128.4,127.7,127.6,127.5,125.7,123.5,119.2,82.1,80.3,64.6,64.5,45.6,46.1;IR(ATR,cm−1)1773,1497,1444,1029,981,926,879,842,816,774,755,731,694,680,644,572,558,530,513,494、元素分析;C7652に対する計算値(calcd):C,88.69;H,5.09、実測値(Found):C,88.60;H,5.10であった。
【0076】
(工程4)2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロン(16)の合成
2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロン(16)を、スキーム1と同様な方法で、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)から合成した。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。デカリン(17ml)に溶解した、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)(0.750g、0.73mmol)と2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノン(0.800g、5.8mmol)との混合物を、3時間還流しながら攪拌をした。その反応混合物を室温まで冷却した後、その沈殿を、ろ過することによって集めてヘキサン及びCHClで洗浄して真空内で乾燥をした。得られた灰色の固体に濃縮したHSO(5ml)を添加した。その反応混合物を室温で攪拌した。1時間後、その反応混合物を氷水に注いだ。その沈殿物をろ過することによって集めてHO及びメタノールで洗浄して粗生成物(0.391g)を得た。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。
【0077】
(工程5)N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(16)の合成
クロロベンゼン(60ml)に溶解した、粗ジベンゾ[b,k]クリセンテトロン(16)(0.391g)、アニリン(0.5ml、4.56mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(3.000g、26.75mmol)の混合物に、クロロベンゼン(10ml)に溶解したTiCl(0.4ml、3.65mmol)の溶液を70℃でゆっくり添加した。その反応混合物を2.5時間125℃で攪拌をした。その反応混合物を、セライト及びシリカゲルカラムに通して濃縮した。その残渣物を、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl)によって精製して1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)に対して16%の収率でN,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(16)を得た(0.0869g、0.012mmol)。
【0078】
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)と同様に、イミン結合のE/Z異性体のため、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(16)は、7つの異性体を有する。それゆえに、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(16)のNMRスペクトルは複数のピークを示した。スペクトルデータ;H NMR(500MHz,CDCl)δ9.54−6.90(m,28H),2.43−1.52(m,12H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ158.6,158.2,152.3,151.8,141.3,141.1;130.7,129.8,129.6,129.1,128.2,127.9,127.7,125.4,123.6,123.5,122.5,120.2,119.7,119.4,118.8,15.7;IR(ATR,cm−1)1619,1589,1480,1448,1373,1296,1273,1221,1071,1031,908,896,875,815,766,730,717,694,560,506、元素分析;C5440に対する計算値(calcd):C,87.07;H,5.41;N,7.52、実測値(Found):C,86.73;H,5.39;H,7.23、HRMS(ESI)C5441[M+H]に対する計算値(Calcd):745.3331、実測値(Found):745.3361であった。
【0079】
(実施例2)
<縮合多環芳香族化合物(5)の電気化学的還元反応:縮合環(アセン)骨格の伸張)>
0.5M(mol/l)トリフルオロ酢酸(関東化学製)と、0.2M(mol/l)TBABF4(テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート)(Fluka製)とを含有するアセトニトリル溶液に縮合多環芳香族化合物(5)(1.40mg)を溶解させ10mlとした。作用電極を白金メッシュ電極にし、参照電極をAg/Ag+にし、対極を白金コイルにし、ポテンシオスタットで−0.1V(vs Ag/Ag+)の電位を印加して電気化学的に還元した。その結果、下記の反応により、縮合多環芳香族化合物(5)の還元体である縮合多環芳香族化合物(5Red)が系中で生成した。その生成過程を分光光度計(島津製)で確認した。可視・紫外スペクトルを図1に示す。図1から明らかなように、縮合多環芳香族化合物(5)が有するペンタセンの特徴的なスペクトルが発生し、縮合多環芳香族化合物(5)が生成されたことを確認した。縮合多環芳香族化合物(5)→縮合多環芳香族化合物(5Red)の電気化学的還元反応の結果を以下に示す。
【0080】
【0081】
(実施例3)
<多電子移動性評価>
1M(mol/l)トリフルオロ酢酸(関東化学製)と、0.2M(mol/l)TBABF4(テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート)(Fluka製)とを含有するアセトニトリル溶液に、縮合多環芳香族化合物(5)(1.39mg)、縮合多環芳香族化合物(11)(1.49mg)及び縮合多環芳香族化合物(17)(1.49mg)をそれぞれ溶解して、3つの縮合多環芳香族化合物の0.2mM溶液(10ml)を作成した。それらの溶液について、掃引速度:0.1V/s、作用極:グラッシ−カーボン、対極:白金電極、補助電極:Ptコイル及び参照極:Ag/Agの条件下で、電気化学測定装置(BAS製)を使用してサイクリックボルタンメトリーを測定した。電位補正をフェロセン/フェロセニウム酸化還元にて行った。
【0082】
(比較例1)
縮合多環芳香族化合物(5)、縮合多環芳香族化合物(11)及び縮合多環芳香族化合物(17)の替わりに、化合物a(1.29mg)を用いた以外は、実施例3と全く同じ方法で、化合物aの0.2mM溶液(25ml)を作製し、実施例3と全く同じ条件でサイクリックボルタンメトリーを測定した。化合物aは、非特許文献(C.−C.Han,R.Balakumar,D.Thirumalai,and M.−T.Chung,Org.Biomol.Chem.2006,4,3511−3516.)を参考に合成した(収率67%)。
【0083】
【0084】
<多電子移動性評価結果>
図2−1に縮合多環芳香族化合物(5)及び化合物aのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示す。化合物aは、2段階のピークを示し、それぞれ1電子移動であった。縮合多環芳香族化合物(5)は2段のピークを示した。それぞれのピーク電流値(Ipa及び、Ipc)が、化合物aのピーク電流値の約2倍の値を示すことから、1段のピークは2電子反応に相当することがわかった。また、それぞれのピーク電位差は、高電位側が40mV、低電位側が34mVを示した。それらの結果から、それぞれのピークは1段階2電子移動を示していることがわかった。縮合多環芳香族化合物(5)は、1分子で4電子移動可能であることが確認できた。図2−2に縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)のサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示す。図2−2から明らかなように、縮合多環芳香族化合物(11)及び(17)は、非常に狭い範囲である0.2ボルト(V)以内に縮合多環芳香族化合物(5)と同様な1段階2電子移動過程を2回含むことがわかり、縮合多環芳香族化合物(11)及び(17)も1分子で4電子移動可能であることが確認できた。
【0085】
(実施例4)
(実施例4−1)
<リチウムイオン二次電池用の正極用電極の作製>
上記で合成された縮合多環芳香族化合物(5)(2mg)と、ケチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製)(4mg)と、導電性バインダー(TAB−2)(宝泉製)(4mg)とを混合してシート化し、集電体であるアルミメッシュ(14φ)(ニラコ製)の表面上に圧着した。それを120℃6時間で真空乾燥し、縮合多環芳香族化合物(5)を備えた電極を作製した。
【0086】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
上記電極をコイン型リチウムイオン二次電池の正極とし、1M(mol/l)のLiPF(六フッ化リン酸リチウム)電解質塩を含むエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)(EC:DEC=1:1(体積比))の混合溶液である電解液(キシダ化学製)にその正極を含浸させた。そして、その正極上にポリプロピレン多孔質フィルムからなるセパレーター(セルガード製)、ガラスフィルター(アドバンテック製)を積層し、さらに負極となるリチウム箔(本城金属製)を積層した。その後、周囲に絶縁パッキンを配置した状態でコイン型電池のアルミ外装を重ね、しめ機によって加圧し、正極活物質として縮合多環芳香族化合物(5)、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0087】
(実施例4−2)
<リチウムイオン二次電池用の正極用電極の作製>
縮合多環芳香族化合物(5)の替わりに縮合多環芳香族化合物(11)を用いた以外は、実施例4−1と同様な方法で縮合多環芳香族化合物(11)を備えた電極を作製した。
【0088】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
実施例4−1と同様な方法で、上記電極をコイン型電池の正極とし、正極活物質として縮合多環芳香族化合物(11)及び負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0089】
(実施例4−3)
<リチウムイオン二次電池用の正極用電極の作製>
縮合多環芳香族化合物(5)の替わりに縮合多環芳香族化合物(17)を用いた以外は、実施例4−1と全く同様な方法で縮合多環芳香族化合物(17)を備えた電極を作製した。
【0090】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
実施例4−1と全く同様な方法で、上記電極をコイン型電池の正極とし、正極活物質として縮合多環芳香族化合物(17)及び負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0091】
(比較例2)
<リチウムイオン二次電池用の正極用電極の作製>
縮合多環芳香族化合物(5)の替わりに、1分子内に2つのイミン結合を有する化合物b(2mg)を用いた以外は、実施例4−1と全く同様な方法で化合物bを備えた電極を作製した。化合物bは、非特許文献(H.K.Hall,Jr.,A.B.Padias,.P.A.Williams,J.−M.Gosau,H.W.Boone,D.−K.Park,Macromolecules 1995,28,1−8.)を参考に合成した(収率61%)。
【0092】
【0093】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
実施例1と全く同様な方法で、上記電極をコイン型電池の正極とし、正極活物質として化合物b及び負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
<実施例4−1〜4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を用いた充放電試験>
実施例4−1〜4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を用いて、次の方法にしたがって充放電試験を行った。
【0095】
温度25℃の環境下、実施例4−1〜4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を0.05ミリアンペア(mA)の定電流で2ボルト(V)に達するまで放電し、5分間の休止後、0.05ミリアンペア(mA)の定電流で4ボルト(V)に達するまで充電した。これを1サイクルとして、100サイクルまで充放電試験を行った。
【0096】
<実施例4−1〜4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池の充放電試験の結果>
実施例4−1で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を用いた充放電試験の結果を図3及び図4に示す。図3は、10サイクル目の充放電曲線(充放電容量値(mAh/g)及び電子移動数(n))vs.電圧(V))を表し、図4は、サイクル数(1サイクル〜100サイクル)vs.放電容量値(mAh/g)及び電子移動数(n)を表す。図3及び図4によると、縮合多環芳香族化合物(5)の質量当たりの10サイクル目の放電容量値は131.9(mAh/g)であった。この放電容量値(131.9(mAh/g))は、理論容量値(154.2(mAh/g))に近い値であるので、縮合多環芳香族化合物(5)は3電子以上の移動を有することが確認された。実施例4−1、4−2、4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を用いた放電試験の結果を図5及び図6に示す。図5及び図6は、10サイクル目の放電曲線(容量(mAh/g)vs.電圧(V))を表す。縮合多環芳香族化合物(5)の質量当たりの10サイクル目の放電容量値は、前述したように、131.9(mAh/g)(理論容量値:154.2mAh/g)であり、縮合多環芳香族化合物(11)の質量当たりの10サイクル目の放電容量値は、119.0(mAh/g)(理論容量値:143.9mAh/g)であり、縮合多環芳香族化合物(17)の質量当たりの10サイクル目の放電容量値は、123.9(mAh/g)(理論容量値:143.9mAh/g)であり、さらに、化合物bの質量当たりの10サイクル目の放電容量値は、56.25(mAh/g)(理論容量値:149.5mAh/g)であった。縮合多環芳香族化合物(5)と同様、縮合多環芳香族化合物(11)及び縮合多環芳香族化合物(17)の放電容量値は縮合多環芳香族化合物(11)及び縮合多環芳香族化合物(17)の理論容量値に近い値であるので、縮合多環芳香族化合物(11)及びは縮合多環芳香族化合物(17)も3電子以上の移動を有することが確認された。一方、化合物bの放電容量値は化合物bの理論容量値を大きく下回り、明確な充放電ピークを観測することができなかった。
【0097】
(実施例5)
<導電助剤(ケチェンブラック)への吸着性試験>
上記で合成した縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)(2mg)を10mlのクロロホルムにそれぞれ溶解した。それぞれのクロロホルム溶液から1mlを採取してケチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製)(5mg)をそれぞれに加え、サンプルA−1、A−2及びA−3(ケチェンブラック添加)とした。さらに、それぞれのクロロホルム溶液から1mlを更に採取してその採取したものには何も加えなかった。これをサンプルB−1、B−2及びB−3(ケチェンブラック添加なし)とした。それら6つのサンプルA−1、A−2及びA−3、並びにサンプルB−1、B−2及びB−3を5分間超音波を照射し30分間放置した。孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、それら6つのサンプルA−1、A−2及びA−3、並びにサンプルB−1、B−2及びB−3の上積み液をそれぞれ採取して、それらサンプルの上澄み液の可視・紫外スペクトルを分光光度計(日立社製)で測定した。
【0098】
(比較例3)
<導電助剤(ケチェンブラック)への吸着性試験>
上記で合成した縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)の替わりに上記の化合物b(2mg)を用いた以外は、実施例5と全く同一の方法でサンプルC(ケチェンブラック添加)及びサンプルD(ケチェンブラック添加なし)を作製して可視・紫外スペクトルを測定した。
【0099】
<導電助剤(ケチェンブラック)への吸着性試験結果>
導電助剤(ケチェンブラック)への吸着性試験結果を図7−1〜図7−3に示す。図7−1〜図7−3から明らかなように、ケチェンブラックを加えたサンプルA−1〜A−3は透明であったことから、吸光度の値はほぼ0の値を示したが、ケチェンブラックを加えてないサンプルB−1〜B−3は黄色であったことから、縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)に由来する吸光スペクトルを示した。この結果から、縮合多環芳香族化合(5)、(11)及び(17)はケチェンブラックに吸着していたことがわかった。一方、ケチェンブラックを加えたサンプルCとケチェンブラックを加えていないサンプルDは、ほぼ同じ黄色を示した。サンプルCの吸光度はサンプルDの吸光度よりはやや低かったものの、ほぼ同様な吸光スペクトルを示した。以上の結果から、化合物bのケチェンブラックに対する吸着能は、縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)のケチェンブラックに対する吸着能よりは劣ることがわかった。
【0100】
(リチウムイオン二次電池用途に関する縮合多環芳香族化合物の有効性)
導電助剤(ケチェンブラック)への縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)の吸着性試験、及び縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)を用いたリチウムイオン二次電池の充放電試験の結果から理解できるように、本発明の縮合多環芳香族化合物は、導電助剤であるケチェンブラックと親和性が強いので導電助剤(ケチェンブラック)近傍に存在することができる。本発明の縮合多環芳香族化合物を含有する正極活物質は円滑な電子の授受を可能とするため、その正極活物質を備えた正極はリチウムイオン二次電池用電極として有効である。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】