【実施例】
【0050】
以下、本発明をより具体的に説明するための実施例を提供する。なお、本発明は、その目的及び主旨を逸脱しない範囲で以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1−1)
<合成例1:縮合多環芳香族化合物(5)の合成>
【0052】
【0053】
縮合多環芳香族化合物(5)(N,N,N’,N’’’−テトラメチル−2,3,9,10−ペンタセンテトロンテトライミン)を、以下の4工程からなる合成ルートによって、市販されている1,2,4,5−テトラブロモベンゼン(1)から合成した。
【0054】
(工程1)
1,4:5,8−ジエポキシ−1,4,5,8−テトラヒドロアントラセン(2)の合成
1,4:5,8−ジエポキシ−1,4,5,8−テトラヒドロアントラセン(2)を、非特許文献(JOC 1983,48,4358)に記載の方法にしたがって、テトラブロモベンゼン(1)とフランとから合成した。収率;52%、スペクトルデータ;
1H NMR(270MHz,CDCl
3)δ7.19(s,2H),7.03(s,4H),5.63(s,4H)であった。
【0055】
(工程2)
1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)の合成
1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)を、非特許文献(JACS 1992,114,6330)に記載の方法にしたがって、1,4:5,8−ジエポキシ−1,4,5,8−テトラヒドロアントラセン(2)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノンとから合成した。収率;62%、スペクトルデータ;
1H NMR(270MHz,CDCl
3)δ7.58(s,2H),7.46−7.30(m,20H),7.01−6.88(m,20H),5.84(s,4H),3.07(s,4H)であった。
【0056】
(工程3)
2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロン(4)の合成
2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノンの合成
2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノンを、非特許文献(J.Heterocyclic Chem.2002,39,1093.)に記載の方法にしたがって、2,3−ジメチルヒドロキノンを酸化することによって合成した。収率;65%であった。
【0057】
2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロン(4)の合成
2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロン(4)を、非特許文献(JACS 1992,114,1388)に記載の方法にしたがって、1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)から合成した。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。デカリン(30ml)に溶解した、1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)(0.960g、0.98mmol)と2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノン(1.18g、8.67mmol)との混合物を、3.5時間200℃で攪拌をした。その反応混合物を室温まで冷却した後、その沈殿を、ろ過することによって集めてヘキサン及びCHCl
3で洗浄して真空内で乾燥をした。得られた灰色の固体に濃縮したH
2SO
4(15ml)を添加した。その反応混合物を室温で攪拌した。2時間後、その反応混合物を氷水に注いだ。その沈殿物をろ過することによって集めてH
2O及びメタノールで洗浄して粗生成物(0.3055g)を得た。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。
【0058】
(工程4)
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)の合成
クロロベンゼン(25ml)に溶解した、粗ペンタセンテトロン(4)(0.126g)、アニリン(0.100g、0.11mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(1.3g、11.1mmol)の混合物に、クロロベンゼン(5ml)に溶解したTiCl
4(0.25ml、2.3mmol)の溶液を80℃でゆっくり添加した。その反応混合物を3.5時間130℃で攪拌をした。その沈殿物を、セライトろ過し、そのろ液を濃縮した。その残渣物をCHCl
3中で再溶解して大量のアセトニトリル中で再沈殿した。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl
3:ヘキサン=3:1)によって更に精製して、1,4:8,11−ジカルボキシ−5,14:7,12−ジエポキシ−4a,5,7,7a,11a,12,14,14a−オクタヒドロ−1,2,3,4,8,9,10,11−オクタフェニルペンタセン(3)に対して25%の収率でN,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)を得た(0.0716g、0.103mmol)。
【0059】
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)は、イミン結合のE/Z異性体のため、下記の7つの異性体を有する。それゆえに、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)のNMRスペクトルは複数のピークを示した。スペクトルデータ;
1H NMR(500MHz,CDCl
3)δ8.90−8.80(m,26H),2.38−1.48(m,12H);
13C NMR(125MHz,CDCl
3)δ158.8,151.6 141.7,130.4,129.6,129.1,127.4,125.0,123.5,120.0,119.8,15.8;IR(ATR,cm
−1)2920,2849,1586,1478,1373,1285,1261,1220,1026,922,898,835,763,693,686,663,567,505,465,429,409,402、元素分析;C
50H
38N
4に対する計算値(calcd):C,86.42;H,5.51;N,8.06.、実測値(Found):C,86.35;H,5.53;H,7.84、HRMS(ESI);C
50H
39N
4[M+H]に対する計算値(Calcd):695.3175.、実測値(Found):695.3163であった。
【0060】
【0061】
(実施例1−2)
<合成例2:縮合多環芳香族化合物(11)の合成>
【0062】
【0063】
縮合多環芳香族化合物(11)(N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロンテトライミン)を、以下の5工程からなる合成ルートによって、市販されている3,6−ジブロモ−2,7−ジヒドロキシナフタレン(6)から合成した。
【0064】
(工程1)
3,6−ジブロモ−2,7−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(7)の合成
3,6−ジブロモ−2,7−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(7)を、非特許文献(J.Org.Chem.1985,50,2934.)に記載の方法にしたがって、3,6−ジブロモ−2,7−ジヒドロキシナフタレン(6)のトシル化によって合成した。収率;75%、スペクトルデータ;
1H NMR(270MHz,CDCl
3)δ7.19(s,2H),7.82(d,J=8.3Hz,4H),7.74(s,2H),7.35(d,J=8.3Hz,4H),2.48(s,6H)であった。
【0065】
(工程2)
1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロテトラセン(8)の合成
1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロテトラセン(8)を、非特許文献(J.Org.Chem.1985,50,2934.)に記載の方法にしたがって、3,6−ジブロモ−2,7−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(7)及びフランから合成した。収率;58%.であった。
【0066】
(工程3)
1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)の合成
1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)を、非特許文献(JACS 1992,114,6330)に記載の方法にしたがって、1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロテトラセン(8)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノンとから合成した。ベンゼン(20ml)に溶解した、1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロテトラセン(8)(0.2600g、1.0mmol)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノン(0.7961g、2.0mmol)との混合物を、24時間還流しながら攪拌をした。メタノールを反応混合物に添加した後、その沈殿物をろ過することによって集めてメタノールで洗浄して真空内で乾燥して収率38%で1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)の生成物を得た(0.3926g、0.38mmol)。そのろ液を濃縮してその残渣物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl
3:ヘキサン=3:1)によって精製して、収率33%の1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)を得た。生成物である1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)の総収率は71%であった。スペクトルデータ;
1H NMR(500MHz,CDCl
3)δ7.84(s,4H),7.50−7.30(m,20H),7.04−6.92(m,20H),5.94(s,4H),3.24(s,4H);
13C NMR(125MHz,CDCl
3)δ196.7,144.7,138.7,135.3,132.6,130.1,129.8,128.5,127.7,127.6,127.0,81.2,64.6,47.4;IR(ATR,cm
−1)1771,1497,1444.71,1026,980,900,856,841,767,746,731,696,673,660,640,572,553,507,473,460、元素分析;C
76H
52O
4に対する計算値(calcd):C,88.69;H,5.09、実測値(Found):C,88.12;H,5.04であった。
【0067】
(工程4)
2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロン(10)の合成
2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロン(10)を、スキーム1と同様な方法で、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)から合成した。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。デカリン(30ml)に溶解した、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)(0.3080g、0.3mmol)と2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノン(0.3271g、2.4mmol)との混合物を、3.5時間200℃で攪拌をした。その反応混合物を室温まで冷却した後、その沈殿を、ろ過することによって集めてヘキサン及びCHCl
3で洗浄して真空内で乾燥をした。得られた灰色の固体に濃縮したH
2SO
4(15ml)を添加した。その反応混合物を室温で攪拌した。2時間後、その反応混合物を氷水に注いだ。その沈殿物をろ過することによって集めてH
2O及びメタノールで洗浄して粗生成物(0.1206g)を得た。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。
【0068】
(工程5)
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロン テトライミン(11)の合成
クロロベンゼン(20ml)に溶解した、粗ヘキサセンテトロン(10)(0.118g)、アニリン(0.15ml、1.6mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.900g、8.0mmol)の混合物に、クロロベンゼン(5ml)に溶解したTiCl
4(0.15ml、1.4mmol)の溶液を75℃でゆっくり添加した。その反応混合物を1.5時間125℃で攪拌をした。その反応混合物をシリカゲルカラム(CHCl
3)に通して濃縮した。その残渣物をCHCl
3中で再溶解して大量のアセトニトリル中で再沈殿した。セライトろ過し、アセトニトリルとMeOHで洗浄して真空内で乾燥して、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルヘキサセン(9)に対して25%の収率でN,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロンテトライミン(11)を得た(0.0560g、0.075mmol)。
【0069】
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)と同様に、イミン結合のE/Z異性体のため、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロンテトライミン(11)は、7つの異性体を有する。それゆえに、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ヘキサセンテトロンテトライミン(11)のNMRスペクトルは複数のピークを示した。スペクトルデータ;
1H NMR(500MHz,CDCl
3)δ8.74−6.91(m,28H),2.53−1.51(m,12H);
13C NMR(125MHz,CDCl
3)δ159.6,158.8,158.6,151.9,151.3,145.9,141.7,140,2,135.7,134.2,132.5,131.1,130.7,129.6,129.3,129.1,128.9,128.4,126.5,126.2,125.2,124.7,124.6,123.8,123.4,120.1,119.6,119.1,18.2,17.0,15.9,15.6;IR(ATR,cm
−1)1585,1496,1480,1446,1424,1375,1298,1259,1225,1169,1070,1026,918,895,763,749,692,502,473,458、元素分析;C
54H
40N
40.3H
2Oに対する計算値(calcd):C,86.44;H,5.45;N,7.47、実測値(Found):C,86.44;H,5.36;H,7.28、HRMS(ESI)C
54H
41N
4[M+H]に対する計算値(Calcd):745.3331、実測値(Found):745.3348であった。
【0070】
(実施例1−3)
<合成例3:縮合多環芳香族化合物(17)の合成>
【0071】
【0072】
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(17)を、以下の5工程からなる合成ルートによって、2,6−ジブロモ−1,5−ジジヒドロキシナフタレン(12)から合成した。
【0073】
(工程1)
2,6−ジブロモ−1,5−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(13)の合成
2,6−ジブロモ−1,5−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(13)を、非特許文献(J.Org.Chem.1983,48,1682.)に記載の方法にしたがって、2,6−ジブロモ−1,5−ジヒドロキシナフタレン(12)のトシル化によって合成した。収率;96%。
【0074】
(工程2)
1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロクリセン(14)
1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロクリセン(14)を、非特許文献(J.Org.Chem.1982,48,1683.)に記載の方法にしたがって、2,6−ジブロモ−1,5−ビス[(p−トリルスルホニル)オキシ]ナフタレン(13)及びフランから合成した。収率;43%であった。
【0075】
(工程3)
1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)の合成
1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)を、非特許文献(JACS 1992,114,6330)に記載の方法にしたがって、1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロクリセン(14)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノンとから合成した。ベンゼン(45ml)に溶解した、1,4:7,10−ジエポキシ−1,4,7,10−テトラヒドロクリセン(14)(0.6336g、2.4mmol)と1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエノン(1.872g、4.9mmol)との混合物を28時間還流しながら攪拌をした。メタノールを添加した後、その沈殿物をろ過することによって集めてメタノールで洗浄して真空内で乾燥して収率71%で1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)の生成物を得た(1.7882g、1.7mmol)。スペクトルデータ;
1H NMR(500MHz,CDCl
3)δ8.02(s,1H),8.01(s,1H),7.84(s,1H),7.82(s,1H),7.54−7.28(m,20H),7.04−6.93(m,20H),6.33(s,2H),6.03(s,2H),3.10(m,4H);
13C NMR(125MHz,CDCl
3)δ196.5,144.9,144.5,138.8,138.6,135.5,135.3,130.1,130.0,129.7,129.6,128.5,128.4,127.7,127.6,127.5,125.7,123.5,119.2,82.1,80.3,64.6,64.5,45.6,46.1;IR(ATR,cm
−1)1773,1497,1444,1029,981,926,879,842,816,774,755,731,694,680,644,572,558,530,513,494、元素分析;C
76H
52O
4に対する計算値(calcd):C,88.69;H,5.09、実測値(Found):C,88.60;H,5.10であった。
【0076】
(工程4)
2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロン(16)の合成
2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロン(16)を、スキーム1と同様な方法で、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)から合成した。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。デカリン(17ml)に溶解した、1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)(0.750g、0.73mmol)と2,3−ジメチル1,4−ベンゾキノン(0.800g、5.8mmol)との混合物を、3時間還流しながら攪拌をした。その反応混合物を室温まで冷却した後、その沈殿を、ろ過することによって集めてヘキサン及びCHCl
3で洗浄して真空内で乾燥をした。得られた灰色の固体に濃縮したH
2SO
4(5ml)を添加した。その反応混合物を室温で攪拌した。1時間後、その反応混合物を氷水に注いだ。その沈殿物をろ過することによって集めてH
2O及びメタノールで洗浄して粗生成物(0.391g)を得た。更に精製することなく次工程でその粗生成物を用いた。
【0077】
(工程5)
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(16)の合成
クロロベンゼン(60ml)に溶解した、粗ジベンゾ[b,k]クリセンテトロン(16)(0.391g)、アニリン(0.5ml、4.56mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(3.000g、26.75mmol)の混合物に、クロロベンゼン(10ml)に溶解したTiCl
4(0.4ml、3.65mmol)の溶液を70℃でゆっくり添加した。その反応混合物を2.5時間125℃で攪拌をした。その反応混合物を、セライト及びシリカゲルカラムに通して濃縮した。その残渣物を、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl
3)によって精製して1,4:9,12−ジカルボキシ−5,16:8,13−ジエポキシ−4a,5,8,8a,12a,13,16,16a−オクタヒドロ−1,2,3,4,9,10,11,12−オクタフェニルジベンゾ[b,k]クリセン(15)に対して16%の収率でN,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(16)を得た(0.0869g、0.012mmol)。
【0078】
N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,9,10−テトラメチル−1,4,8,11−ペンタセンテトロンテトライミン(5)と同様に、イミン結合のE/Z異性体のため、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(16)は、7つの異性体を有する。それゆえに、N,N’,N’’,N’’’−テトラフェニル−2,3,10,11−テトラメチル−1,4,9,12−ジベンゾ[b,k]クリセンテトロンテトライミン(16)のNMRスペクトルは複数のピークを示した。スペクトルデータ;
1H NMR(500MHz,CDCl
3)δ9.54−6.90(m,28H),2.43−1.52(m,12H);
13C NMR(125MHz,CDCl
3)δ158.6,158.2,152.3,151.8,141.3,141.1;130.7,129.8,129.6,129.1,128.2,127.9,127.7,125.4,123.6,123.5,122.5,120.2,119.7,119.4,118.8,15.7;IR(ATR,cm
−1)1619,1589,1480,1448,1373,1296,1273,1221,1071,1031,908,896,875,815,766,730,717,694,560,506、元素分析;C
54H
40N
4に対する計算値(calcd):C,87.07;H,5.41;N,7.52、実測値(Found):C,86.73;H,5.39;H,7.23、HRMS(ESI)C
54H
41N
4[M+H]に対する計算値(Calcd):745.3331、実測値(Found):745.3361であった。
【0079】
(実施例2)
<縮合多環芳香族化合物(5)の電気化学的還元反応:縮合環(アセン)骨格の伸張)>
0.5M(mol/l)トリフルオロ酢酸(関東化学製)と、0.2M(mol/l)TBABF4(テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート)(Fluka製)とを含有するアセトニトリル溶液に縮合多環芳香族化合物(5)(1.40mg)を溶解させ10mlとした。作用電極を白金メッシュ電極にし、参照電極をAg/Ag+にし、対極を白金コイルにし、ポテンシオスタットで−0.1V(vs Ag/Ag+)の電位を印加して電気化学的に還元した。その結果、下記の反応により、縮合多環芳香族化合物(5)の還元体である縮合多環芳香族化合物(5Red)が系中で生成した。その生成過程を分光光度計(島津製)で確認した。可視・紫外スペクトルを
図1に示す。
図1から明らかなように、縮合多環芳香族化合物(5)が有するペンタセンの特徴的なスペクトルが発生し、縮合多環芳香族化合物(5)が生成されたことを確認した。縮合多環芳香族化合物(5)→縮合多環芳香族化合物(5Red)の電気化学的還元反応の結果を以下に示す。
【0080】
【0081】
(実施例3)
<多電子移動性評価>
1M(mol/l)トリフルオロ酢酸(関東化学製)と、0.2M(mol/l)TBABF4(テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート)(Fluka製)とを含有するアセトニトリル溶液に、縮合多環芳香族化合物(5)(1.39mg)、縮合多環芳香族化合物(11)(1.49mg)及び縮合多環芳香族化合物(17)(1.49mg)をそれぞれ溶解して、3つの縮合多環芳香族化合物の0.2mM溶液(10ml)を作成した。それらの溶液について、掃引速度:0.1V/s、作用極:グラッシ−カーボン、対極:白金電極、補助電極:Ptコイル及び参照極:Ag/Ag
+の条件下で、電気化学測定装置(BAS製)を使用してサイクリックボルタンメトリーを測定した。電位補正をフェロセン/フェロセニウム酸化還元にて行った。
【0082】
(比較例1)
縮合多環芳香族化合物(5)、縮合多環芳香族化合物(11)及び縮合多環芳香族化合物(17)の替わりに、化合物a(1.29mg)を用いた以外は、実施例3と全く同じ方法で、化合物aの0.2mM溶液(25ml)を作製し、実施例3と全く同じ条件でサイクリックボルタンメトリーを測定した。化合物aは、非特許文献(C.−C.Han,R.Balakumar,D.Thirumalai,and M.−T.Chung,Org.Biomol.Chem.2006,4,3511−3516.)を参考に合成した(収率67%)。
【0083】
【0084】
<多電子移動性評価結果>
図2−1に縮合多環芳香族化合物(5)及び化合物aのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示す。化合物aは、2段階のピークを示し、それぞれ1電子移動であった。縮合多環芳香族化合物(5)は2段のピークを示した。それぞれのピーク電流値(I
pa及び、I
pc)が、化合物aのピーク電流値の約2倍の値を示すことから、1段のピークは2電子反応に相当することがわかった。また、それぞれのピーク電位差は、高電位側が40mV、低電位側が34mVを示した。それらの結果から、それぞれのピークは1段階2電子移動を示していることがわかった。縮合多環芳香族化合物(5)は、1分子で4電子移動可能であることが確認できた。
図2−2に縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)のサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示す。
図2−2から明らかなように、縮合多環芳香族化合物(11)及び(17)は、非常に狭い範囲である0.2ボルト(V)以内に縮合多環芳香族化合物(5)と同様な1段階2電子移動過程を2回含むことがわかり、縮合多環芳香族化合物(11)及び(17)も1分子で4電子移動可能であることが確認できた。
【0085】
(実施例4)
(実施例4−1)
<リチウムイオン二次電池用の正極用電極の作製>
上記で合成された縮合多環芳香族化合物(5)(2mg)と、ケチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製)(4mg)と、導電性バインダー(TAB−2)(宝泉製)(4mg)とを混合してシート化し、集電体であるアルミメッシュ(14φ)(ニラコ製)の表面上に圧着した。それを120℃6時間で真空乾燥し、縮合多環芳香族化合物(5)を備えた電極を作製した。
【0086】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
上記電極をコイン型リチウムイオン二次電池の正極とし、1M(mol/l)のLiPF
6(六フッ化リン酸リチウム)電解質塩を含むエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)(EC:DEC=1:1(体積比))の混合溶液である電解液(キシダ化学製)にその正極を含浸させた。そして、その正極上にポリプロピレン多孔質フィルムからなるセパレーター(セルガード製)、ガラスフィルター(アドバンテック製)を積層し、さらに負極となるリチウム箔(本城金属製)を積層した。その後、周囲に絶縁パッキンを配置した状態でコイン型電池のアルミ外装を重ね、しめ機によって加圧し、正極活物質として縮合多環芳香族化合物(5)、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0087】
(実施例4−2)
<リチウムイオン二次電池用の正極用電極の作製>
縮合多環芳香族化合物(5)の替わりに縮合多環芳香族化合物(11)を用いた以外は、実施例4−1と同様な方法で縮合多環芳香族化合物(11)を備えた電極を作製した。
【0088】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
実施例4−1と同様な方法で、上記電極をコイン型電池の正極とし、正極活物質として縮合多環芳香族化合物(11)及び負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0089】
(実施例4−3)
<リチウムイオン二次電池用の正極用電極の作製>
縮合多環芳香族化合物(5)の替わりに縮合多環芳香族化合物(17)を用いた以外は、実施例4−1と全く同様な方法で縮合多環芳香族化合物(17)を備えた電極を作製した。
【0090】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
実施例4−1と全く同様な方法で、上記電極をコイン型電池の正極とし、正極活物質として縮合多環芳香族化合物(17)及び負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0091】
(比較例2)
<リチウムイオン二次電池用の正極用電極の作製>
縮合多環芳香族化合物(5)の替わりに、1分子内に2つのイミン結合を有する化合物b(2mg)を用いた以外は、実施例4−1と全く同様な方法で化合物bを備えた電極を作製した。化合物bは、非特許文献(H.K.Hall,Jr.,A.B.Padias,.P.A.Williams,J.−M.Gosau,H.W.Boone,D.−K.Park,Macromolecules 1995,28,1−8.)を参考に合成した(収率61%)。
【0092】
【0093】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
実施例1と全く同様な方法で、上記電極をコイン型電池の正極とし、正極活物質として化合物b及び負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
<実施例4−1〜4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を用いた充放電試験>
実施例4−1〜4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を用いて、次の方法にしたがって充放電試験を行った。
【0095】
温度25℃の環境下、実施例4−1〜4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を0.05ミリアンペア(mA)の定電流で2ボルト(V)に達するまで放電し、5分間の休止後、0.05ミリアンペア(mA)の定電流で4ボルト(V)に達するまで充電した。これを1サイクルとして、100サイクルまで充放電試験を行った。
【0096】
<実施例4−1〜4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池の充放電試験の結果>
実施例4−1で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を用いた充放電試験の結果を
図3及び
図4に示す。
図3は、10サイクル目の充放電曲線(充放電容量値(mAh/g)及び電子移動数(n))vs.電圧(V))を表し、
図4は、サイクル数(1サイクル〜100サイクル)vs.放電容量値(mAh/g)及び電子移動数(n)を表す。
図3及び
図4によると、縮合多環芳香族化合物(5)の質量当たりの10サイクル目の放電容量値は131.9(mAh/g)であった。この放電容量値(131.9(mAh/g))は、理論容量値(154.2(mAh/g))に近い値であるので、縮合多環芳香族化合物(5)は3電子以上の移動を有することが確認された。実施例4−1、4−2、4−3、及び比較例2で作製したコイン型リチウムイオン二次電池を用いた放電試験の結果を
図5及び
図6に示す。
図5及び
図6は、10サイクル目の放電曲線(容量(mAh/g)vs.電圧(V))を表す。縮合多環芳香族化合物(5)の質量当たりの10サイクル目の放電容量値は、前述したように、131.9(mAh/g)(理論容量値:154.2mAh/g)であり、縮合多環芳香族化合物(11)の質量当たりの10サイクル目の放電容量値は、119.0(mAh/g)(理論容量値:143.9mAh/g)であり、縮合多環芳香族化合物(17)の質量当たりの10サイクル目の放電容量値は、123.9(mAh/g)(理論容量値:143.9mAh/g)であり、さらに、化合物bの質量当たりの10サイクル目の放電容量値は、56.25(mAh/g)(理論容量値:149.5mAh/g)であった。縮合多環芳香族化合物(5)と同様、縮合多環芳香族化合物(11)及び縮合多環芳香族化合物(17)の放電容量値は縮合多環芳香族化合物(11)及び縮合多環芳香族化合物(17)の理論容量値に近い値であるので、縮合多環芳香族化合物(11)及びは縮合多環芳香族化合物(17)も3電子以上の移動を有することが確認された。一方、化合物bの放電容量値は化合物bの理論容量値を大きく下回り、明確な充放電ピークを観測することができなかった。
【0097】
(実施例5)
<導電助剤(ケチェンブラック)への吸着性試験>
上記で合成した縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)(2mg)を10mlのクロロホルムにそれぞれ溶解した。それぞれのクロロホルム溶液から1mlを採取してケチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製)(5mg)をそれぞれに加え、サンプルA−1、A−2及びA−3(ケチェンブラック添加)とした。さらに、それぞれのクロロホルム溶液から1mlを更に採取してその採取したものには何も加えなかった。これをサンプルB−1、B−2及びB−3(ケチェンブラック添加なし)とした。それら6つのサンプルA−1、A−2及びA−3、並びにサンプルB−1、B−2及びB−3を5分間超音波を照射し30分間放置した。孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、それら6つのサンプルA−1、A−2及びA−3、並びにサンプルB−1、B−2及びB−3の上積み液をそれぞれ採取して、それらサンプルの上澄み液の可視・紫外スペクトルを分光光度計(日立社製)で測定した。
【0098】
(比較例3)
<導電助剤(ケチェンブラック)への吸着性試験>
上記で合成した縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)の替わりに上記の化合物b(2mg)を用いた以外は、実施例5と全く同一の方法でサンプルC(ケチェンブラック添加)及びサンプルD(ケチェンブラック添加なし)を作製して可視・紫外スペクトルを測定した。
【0099】
<導電助剤(ケチェンブラック)への吸着性試験結果>
導電助剤(ケチェンブラック)への吸着性試験結果を
図7−1〜
図7−3に示す。
図7−1〜
図7−3から明らかなように、ケチェンブラックを加えたサンプルA−1〜A−3は透明であったことから、吸光度の値はほぼ0の値を示したが、ケチェンブラックを加えてないサンプルB−1〜B−3は黄色であったことから、縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)に由来する吸光スペクトルを示した。この結果から、縮合多環芳香族化合(5)、(11)及び(17)はケチェンブラックに吸着していたことがわかった。一方、ケチェンブラックを加えたサンプルCとケチェンブラックを加えていないサンプルDは、ほぼ同じ黄色を示した。サンプルCの吸光度はサンプルDの吸光度よりはやや低かったものの、ほぼ同様な吸光スペクトルを示した。以上の結果から、化合物bのケチェンブラックに対する吸着能は、縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)のケチェンブラックに対する吸着能よりは劣ることがわかった。
【0100】
(リチウムイオン二次電池用途に関する縮合多環芳香族化合物の有効性)
導電助剤(ケチェンブラック)への縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)の吸着性試験、及び縮合多環芳香族化合物(5)、(11)及び(17)を用いたリチウムイオン二次電池の充放電試験の結果から理解できるように、本発明の縮合多環芳香族化合物は、導電助剤であるケチェンブラックと親和性が強いので導電助剤(ケチェンブラック)近傍に存在することができる。本発明の縮合多環芳香族化合物を含有する正極活物質は円滑な電子の授受を可能とするため、その正極活物質を備えた正極はリチウムイオン二次電池用電極として有効である。