(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663013
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】貴金属微粒子、貴金属微粒子の回収方法、および回収した貴金属微粒子を用いる貴金属微粒子分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/02 20060101AFI20150115BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20150115BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20150115BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20150115BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20150115BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20150115BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20150115BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20150115BHJP
C09C 1/62 20060101ALI20150115BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
B22F1/02 B
B22F1/00 K
B22F9/24 F
B22F9/24 E
C22B11/00 101
H01B5/00 E
H01B1/22 Z
H01B1/22 A
H01B1/00 E
H01B13/00 501Z
H01B13/00 Z
C09C1/62
C09D17/00
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-519225(P2012-519225)
(86)(22)【出願日】2011年5月19日
(86)【国際出願番号】JP2011002793
(87)【国際公開番号】WO2011155134
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2013年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2010-133571(P2010-133571)
(32)【優先日】2010年6月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】小川 良平
(72)【発明者】
【氏名】宮下 聖
(72)【発明者】
【氏名】毛塚 昌道
【審査官】
米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007-039765(JP,A)
【文献】
特開2010-513718(JP,A)
【文献】
特開2006-307330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属微粒子と、前記貴金属微粒子の表面に吸着したタンパク質とを含み、
前記タンパク質の等電点がpH4.0〜7.5の範囲にあり、前記タンパク質の吸着量が前記貴金属微粒子および前記タンパク質の合計重量に対して3〜55.1重量%の範囲にある、タンパク質が吸着した貴金属微粒子。
【請求項2】
前記タンパク質がカゼインである、請求項1に記載のタンパク質が吸着した貴金属微粒子。
【請求項3】
前記貴金属微粒子がPt、Pd、Au、Ag、RuおよびRhから選ばれる少なくとも一種の貴金属からなる、請求項1に記載のタンパク質が吸着した貴金属微粒子。
【請求項4】
前記タンパク質が吸着した貴金属微粒子の平均粒径が1nm〜100nmの範囲にある、請求項1に記載のタンパク質が吸着した貴金属微粒子。
【請求項5】
前記タンパク質が吸着した貴金属微粒子の平均粒径が1nm〜50nmの範囲にある、請求項4に記載のタンパク質が吸着した貴金属微粒子。
【請求項6】
請求項1に記載のタンパク質が吸着した貴金属微粒子と液体である分散媒体とを含む、貴金属微粒子分散液。
【請求項7】
請求項1に記載のタンパク質が吸着した貴金属微粒子とペーストである分散媒体とを含む、貴金属微粒子分散ペースト。
【請求項8】
貴金属微粒子と、前記貴金属微粒子の表面に吸着したタンパク質とを含み、前記タンパク質の等電点がpH4.0〜7.5の範囲にあり、前記タンパク質の吸着量が前記貴金属微粒子および前記タンパク質の合計重量に対して3〜55.1重量%の範囲にある、タンパク質が吸着した貴金属微粒子と、液体である第1分散媒体とを含み、前記タンパク質の分解酵素を含まない貴金属微粒子分散液のpHを前記タンパク質の等電点に調整することにより、前記第1分散媒体中において前記タンパク質が吸着した貴金属微粒子を凝集させる工程と、
固液分離操作により、前記凝集した貴金属微粒子を前記第1分散媒体から回収する工程と、を含む、タンパク質が吸着した貴金属微粒子の回収方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法によりタンパク質が吸着した貴金属微粒子を回収する工程と、
前記回収された貴金属微粒子を第2分散媒体に分散させる工程と、を含む、タンパク質が吸着した貴金属微粒子を含む貴金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項10】
貴金属微粒子と、前記貴金属微粒子の表面に吸着したタンパク質とを含み、前記タンパク質の等電点がpH4.0〜7.5の範囲にあり、前記タンパク質の吸着量が前記貴金属微粒子および前記タンパク質の合計重量に対して3〜55.1重量%の範囲にあり、平均粒径がRである、タンパク質が吸着した貴金属微粒子と、液体である第1分散媒体とを含み、前記タンパク質の分解酵素を含まない貴金属微粒子分散液のpHを前記タンパク質の等電点に調整することにより、前記第1分散媒体中において前記貴金属微粒子を凝集させる工程と、
固液分離操作により、前記凝集した貴金属微粒子を前記第1分散媒体から回収する工程と、
前記回収された貴金属微粒子を第2分散媒体に分散させることにより、平均粒径が0.9R以上1.1R以下である、タンパク質が吸着した貴金属微粒子が分散した貴金属微粒子分散体を調製する工程と、を含む、タンパク質が吸着した貴金属微粒子を含む貴金属微粒子分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属微粒子に関し、より詳しくは、溶媒などの分散媒体に安定して分散させるために保護コロイドを吸着させた貴金属微粒子、貴金属微粒子が分散した貴金属微粒子分散体から貴金属微粒子を回収する方法、さらには回収した貴金属微粒子を分散媒体に再分散させて貴金属微粒子分散体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
保護コロイドを用いて貴金属微粒子の分散状態を安定化させた貴金属微粒子分散液が知られている。貴金属微粒子分散液から貴金属微粒子を取り出して利用する場合、例えば導電性材料の製造などに利用する場合には、貴金属微粒子を効率よく回収する必要がある。一般に、保護コロイドを含む貴金属微粒子分散液から貴金属微粒子を効率よく回収するべき場合、この分散液に保護コロイド除去剤を添加して保護コロイドをある程度除去し、さらに凝集剤を添加して貴金属微粒子を凝集させることが行われる。保護コロイド、保護コロイド除去剤および凝集剤としては、以下の材料を例示できる。
【0003】
(保護コロイド)
(1)タンパク質系:ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン化合物
(2)天然高分子:デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ
(3)セルロース系:ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、変性セルロース
(4)合成高分子系、例えば、
ビニル系:ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン
アクリル系:ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム
その他:ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール
【0004】
(保護コロイド除去剤)
(1)タンパク質分解酵素(セリンプロテアーゼなど)
(2)天然高分子分解酵素(デンプン分解酵素であるアミラーゼなど)
(3)セルロース分解酵素(セルラーゼなど)
(4)有機溶媒(ホルムアミドなど)、酸、アルカリ
なお、上記保護コロイド除去剤は、除去するべき保護コロイドの番号に対応する番号の材料が用いられる(例えば、(4)に挙げた有機溶媒は、合成高分子系の保護コロイドの除去剤として用いられる)。
【0005】
(貴金属微粒子凝集剤)
(1)アニオン系凝集剤(例えば、ポリアクリルアミドの部分加水分解生成物)
(2)カチオン系凝集剤(例えば、ポリアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート)
(3)両性凝集剤(例えば、アルキルアミノ(メタ)アクリレート四級塩−アクリルアミド−アクリル酸の共重合物)
なお、凝集剤として酸を添加してそのpHを調整し、凝集を促進する方法も知られている。
【0006】
貴金属微粒子分散液から回収し、乾燥して粉末状態とした貴金属微粒子は、溶媒、ペーストなどの分散媒体に再分散させ、塗料、導電性ペーストなどとして利用することができる。
【0007】
しかし、保護コロイドをある程度除去してから回収された貴金属微粒子粉末は、溶媒などの分散媒体に再分散させる際の貴金属微粒子の分散性(再分散性)に劣るものとなる。また、貴金属微粒子分散液に保護コロイド除去剤を添加し、さらに凝集剤を添加する回収方法は、作業が煩雑である。
【0008】
また、貴金属微粒子分散液に錯化剤を添加する回収方法も知られているが、この方法により貴金属微粒子粉末を回収すると、吸着した保護コロイドが脱落し、保護コロイドによる再分散性向上の効果が低減するおそれがある。また、この方法を採用した場合、添加した錯化剤が再分散性を悪化させる不純物となる。
【0009】
保護コロイドを含む貴金属微粒子分散液から貴金属微粒子を回収する従来の方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−039765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、回収後の再分散性に優れた貴金属微粒子を提供することを目的とする。また、本発明は、簡単な作業で貴金属微粒子分散液から貴金属微粒子を回収する方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、回収した貴金属微粒子を用いて貴金属微粒子分散体を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、貴金属微粒子と、前記貴金属微粒子の表面に吸着したタンパク質とを含み、前記タンパク質の等電点がpH4.0〜7.5の範囲にあり、前記タンパク質の吸着量が前記貴金属微粒子および前記タンパク質の合計重量に対して3〜55.1重量%の範囲にある、タンパク質が吸着した貴金属微粒子を提供する。
【0013】
また、本発明は、
貴金属微粒子と、前記貴金属微粒子の表面に吸着したタンパク質とを含み、前記タンパク質の等電点がpH4.0〜7.5の範囲にあり、前記タンパク質の吸着量が前記貴金属微粒子および前記タンパク質の合計重量に対して3〜55.1重量%の範囲にある、タンパク質が吸着した貴金属微粒子と、液体である第1分散媒体とを含み、前記タンパク質の分解酵素を含まない貴金属微粒子分散液のpHを前記タンパク質の等電点に調整することにより、前記第1分散媒体中において前記タンパク質が吸着した貴金属微粒子を凝集させる工程と、
固液分離操作により、前記凝集した貴金属微粒子を前記第1分散媒体から回収する工程と、を含む、タンパク質が吸着した貴金属微粒子の回収方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、
上述の方法によりタンパク質が吸着した貴金属微粒子を回収する工程と、
前記回収した貴金属微粒子を第2分散媒体に分散させる工程と、を含む、タンパク質が吸着した貴金属微粒子を含む貴金属微粒子分散体の製造方法を提供する。
【0015】
またさらに、本発明は、
貴金属微粒子と、前記貴金属微粒子の表面に吸着したタンパク質とを含み、前記タンパク質の等電点がpH4.0〜7.5の範囲にあり、前記タンパク質の吸着量が前記貴金属微粒子および前記タンパク質の合計重量に対して3〜55.1重量%の範囲にあり、平均粒径がRである、タンパク質が吸着した貴金属微粒子と、液体である第1分散媒体とを含み、前記タンパク質の分解酵素を含まない貴金属微粒子分散液のpHを前記タンパク質の等電点に調整することにより、前記第1分散媒体中において前記貴金属微粒子を凝集させる工程と、
固液分離操作により、前記凝集した貴金属微粒子を前記第1分散媒体から回収する工程と、
前記回収された貴金属微粒子を第2分散媒体に分散させることにより、平均粒径が0.9R以上1.1R以下である、タンパク質が吸着した貴金属微粒子が分散した貴金属微粒子分散体を調製する工程と、を含む、タンパク質が吸着した貴金属微粒子を含む貴金属微粒子分散体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による貴金属微粒子は、分散液から回収されて別の分散媒体に分散させたときに良好な再分散性を示す。回収された本発明による貴金属微粒子は、塗料、導電性ペーストなどの原料として好適に使用できる。また、本発明による貴金属微粒子の回収方法は、保護コロイド除去剤を添加することなく貴金属微粒子を回収するものであって、簡易な作業により実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明ではタンパク質がカゼインであることが好ましい。カゼインを保護コロイドとすることにより、特に優れた再分散性を示すタンパク質が吸着した貴金属微粒子を得ることができる。
【0018】
貴金属は、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)の8つの元素を指す。本発明では、貴金属微粒子がPt、Pd、Au、Ag、RuおよびRhから選ばれる少なくとも一種の貴金属からなることが好ましく、特にAu、AgおよびPtから選ばれる少なくとも一種の貴金属からなることが好ましい。
【0019】
本発明では、タンパク質が吸着した貴金属微粒子の平均粒径が1nm〜100nmの範囲にあることが好ましい。平均粒径がこの範囲にあると、優れた再分散性を示す貴金属微粒子を得ることができる。
【0020】
タンパク質が吸着した貴金属微粒子の平均粒径は1nm〜50nmであることがより好ましい。
【0021】
本発明によるタンパク質が吸着した貴金属微粒子は、分散媒体に分散させた貴金属微粒子分散体として用いることができる。貴金属微粒子分散体は、例えば、本発明によるタンパク質が吸着した貴金属微粒子と液体である分散媒体とを含む貴金属微粒子分散液である。液体としては極性有機溶媒が好ましい。
【0022】
また、貴金属微粒子分散体の別の例は、本発明によるタンパク質が吸着した貴金属微粒子とペーストである分散媒体とを含む貴金属微粒子ペーストである。ペーストは、流動性および粘性を有する固形材料を意味する用語である。
【0023】
等電点がpH4.0〜7.5の範囲であるタンパク質としては、ハプトグロブリン(4.1)、ゼラチン(4.0〜5.0)、カゼイン(4.6)、アルブミン(4.7〜4.9)、コラーゲン(4.9〜5.2)、アクチン(5.0)、インシュリン(5.4)、フィブリノーゲン(5.8)、γ1−グロブリン(5.8)、ヘモグロビン(7.2)、γ2−グロブリン(7.4)などを例示できる。
【0024】
通常は、貴金属微粒子の原料となる貴金属塩溶液(例えば塩化金酸溶液)は酸性であってそのpHは3.0程度である。貴金属塩溶液に、等電点がその溶液のpH近傍にあるタンパク質を添加して貴金属微粒子分散液を調製すると、貴金属微粒子が凝集することがある。また、等電点が貴金属塩溶液のpHよりも大幅に低いタンパク質(等電点を強酸性領域に有するタンパク質)を採用した場合、強酸領域での凝集処理の際に貴金属微粒子が劣化し、タンパク質の均一な吸着を妨げるおそれがある。すなわち、等電点が低すぎるタンパク質を採用した場合、タンパク質による貴金属微粒子の再分散性向上の効果が低減するおそれがある。一方、等電点が貴金属塩溶液の等電点よりも大幅に高いタンパク質(等電点をアルカリ領域に有するタンパク質)を採用した場合も、アルカリ領域での凝集処理の際に、貴金属微粒子からのタンパク質の部分的な脱離が発生するおそれがある。すなわち、等電点が高すぎるタンパク質を採用した場合も、タンパク質による貴金属微粒子の再分散性向上の効果が低減するおそれがある。したがって、タンパク質の等電点は、pH4.0〜7.5が適切である。
【0025】
タンパク質の貴金属微粒子への吸着量が、貴金属微粒子およびタンパク質の合計重量に対して3重量%未満の場合および55.1重量%を超える場合には、再分散後のタンパク質が吸着した貴金属微粒子の平均粒径が大きくなり、再分散性が悪くなる。吸着量が3重量%未満の場合には、保護コロイドとして作用するタンパク質の量が不十分であるために貴金属微粒子が凝集しやすくなると考えられる。一方、吸着量が55.1重量%を超える場合に、再分散性が低下する理由の詳細は不明であるが、製造時に過剰なタンパク質を貴金属微粒子に吸着させるような条件(タンパク質を過剰に添加するような条件)を採用した場合、タンパク質の影響により貴金属微粒子の粒径およびタンパク質の吸着量にばらつきが生じ、このことが原因で再分散性が低下している可能性がある(例えば、タンパク質を過剰に含む分散媒体中で貴金属微粒子の還元反応を実施すると、還元反応がタンパク質により阻害されたり、分散媒体の粘度の増加によりタンパク質の吸着が不均一となったりして、上記のようなばらつきが発生する可能性がある)。
【0026】
貴金属微粒子分散液は、還元法により貴金属微粒子をコロイドとして形成する場合には、分散媒体中に予め(即ち還元反応を実施する前に)タンパク質を添加することにより得ることができる。また、貴金属微粒子を還元法により形成した後に、分散液(分散媒体)にタンパク質を添加することにより得ることもできる。
【0027】
本発明による回収方法では、まず、貴金属微粒子分散液のpHがタンパク質の等電点に調整される。pHの調整は、典型的には酸であるpH調整剤を貴金属微粒子分散液に添加することにより実施するとよい。なお、貴金属微粒子分散液のpHがタンパク質の等電点と完全に一致しておらず多少相違していても貴金属微粒子を分散液中で凝集させることができる。
【0028】
凝集した貴金属微粒子は、固液分離操作により液体である分散媒体(第1分散媒体)から分離される。固液分離操作としては、特に限定されないが、遠心分離、濾過など公知の手法を用いればよいが、固液分離に要する時間および貴金属微粒子の回収率の観点からは遠心分離が好ましい。
【0029】
本発明による回収方法では、保護コロイド除去剤として機能するタンパク質の分解酵素が貴金属微粒子分散液に添加されることなく貴金属微粒子の凝集が行われる。このため、凝集し、回収された貴金属微粒子に吸着したタンパク質の吸着量は、回収前と実質的に同じである。
【0030】
回収された貴金属微粒子を新たな分散媒体(第2分散媒体)へと分散すると、回収した貴金属微粒子を用いた貴金属微粒子分散体が得られる。第2分散媒体は、使用目的に応じて選択すればよく、例えば液体またはペーストであり、液体である場合は第1分散媒体と同種の溶媒であっても異種の溶媒であっても構わない。
【0031】
本発明によれば、貴金属微粒子の優れた再分散性により、第2分散媒体中に分散した貴金属微粒子の平均粒径を第1分散媒体中に分散していたときの平均粒径に近似した値とすることが可能となる。具体的には、第1分散媒体中の貴金属微粒子の平均粒径Rに対し、第2分散媒体中の貴金属微粒子の平均粒径を0.9R〜1.1Rとすることができる。ここで、平均粒径は、タンパク質が吸着した状態で測定した値を採用するものとする。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
保護コロイドとするカゼイン(関東化学製)3.8mgを、5.52mol/lに希釈した3−アミノ−1−プロパノール(和光純薬工業製)5.2mlに加え、15分間撹拌し、カゼインを溶解させた。さらに、0.2mol/lの塩化金酸溶液(三津和化学製)0.8mlを添加し、15分間撹拌した。次に、ジメチルアミンボラン(和光純薬製)4.7mgとアスコルビン酸ナトリウム(和光純薬製)158mgを純水2mlに溶解させて調製した還元剤溶液を添加し、加熱して80℃に昇温した後にその温度を保ちつつ60分間撹拌し、金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.010である。
【0033】
(実施例2)
カゼインの添加量を6.4mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.017である。
【0034】
(実施例3)
カゼインの添加量を19.2mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.051である。
【0035】
(実施例4)
カゼインの添加量を38.4mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.102である。
【0036】
(実施例5)
カゼインの添加量を57.6mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.153である。
【0037】
(実施例6)
カゼインの添加量を96.0mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.254である。
【0038】
(実施例7)
炭酸ナトリウム(和光純薬工業製)を純水に溶解させ、0.0078mol/lの炭酸ナトリウム水溶液を11.7ml調製した。さらに、保護コロイドとするカゼイン(関東化学製)75mgを添加し、溶解させた。次に、ジメチルアミンボラン0.9mgを純水2mlに溶解させて調製した還元剤溶液を添加し、数分間撹拌した。次に、0.05mol/lの硝酸銀水溶液(関東化学製)15mlと3−アミノ−1−プロパノール1gを混合して調製した銀原料溶液を0.64ml添加した。加熱して80℃に昇温した後にその温度を保ちつつ60分間撹拌し、銀微粒子分散液を調製した。投入量から求めた銀に対するカゼインのモル比は0.010である。
【0039】
(実施例8)
塩化白金酸(三津和化学製)を純水に溶解させ、0.15mol/lの塩化白金酸水溶液を65ml調製し、加熱して80℃に昇温した。次に、その温度を保ったまま、溶液全体に対するアンモニアの濃度を2質量%に調整したアンモニア溶液(和光純薬工業製)10mlにカゼイン30mgを溶解した溶液を添加した。さらに、水素化ホウ素ナトリウム(キシダ化学製)30mgを純水5mlに溶解させた還元剤溶液を添加し、60分間撹拌し、白金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた白金に対するカゼインのモル比は0.130である。
【0040】
(比較例1)
カゼインの添加量を1.9mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.005である。
【0041】
(比較例2)
カゼインの添加量を3.2mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.008である。
【0042】
(比較例3)
カゼインの添加量を115.2mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.305である。
【0043】
(比較例4)
カゼインの添加量を153.6mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.407である。
【0044】
(比較例5)
カゼインの添加量を192.0mgに変更した以外は実施例1と同様に金微粒子分散液を調製した。投入量から求めた金に対するカゼインのモル比は0.509である。
【0045】
(再分散性の評価)
実施例および比較例の貴金属微粒子分散液について、以下の方法により貴金属微粒子の再分散性を評価した。
【0046】
はじめに、調製直後の貴金属微粒子分散液中における貴金属微粒子(カゼインが吸着した貴金属微粒子)の平均粒径を粒度分布評価装置(FPAR−1000、大塚電子製)を用いて評価した。次に、貴金属微粒子分散液に4.38mol/lの酢酸を所定量添加し、pHをカゼインの等電点(4.6)に調整し、撹拌を行って貴金属微粒子を凝集させた。
【0047】
次に、遠心分離装置(CN−1050、HSIANGTAI社製)を用いて、遠心分離法により貴金属微粒子を凝集させた貴金属微粒子分散液から貴金属微粒子凝集物を採取した。貴金属微粒子凝集物を純水で3回洗浄した後、3mol/lのアミノエタノール(和光純薬工業製)に溶解させ、30分間撹拌して、貴金属微粒子を再分散させた貴金属微粒子再分散液を調製した。再分散させた貴金属微粒子(カゼインが吸着した貴金属微粒子)の平均粒径を上記粒度分布評価装置で評価し、調製直後の貴金属微粒子分散液中における平均粒径に対する変化割合(再分散後の平均粒径/再分散前(調製直後)の平均粒径)を計算した。なお、上記粒度分布評価装置は、動的光散乱法により粒度分布を測定する装置である。上記平均粒径は、カゼインが吸着した貴金属微粒子の散乱光強度の揺らぎを観測し、上記装置内のソフトウェアにより、光子相関法で求めた上記の揺らぎに対応する自己相関関数よりContin法に基づいて算出されたものである。結果を表1に示す。
【0048】
(貴金属微粒子およびカゼインの合計重量に対するカゼインの吸着量の評価)
酢酸の添加により凝集した貴金属微粒子凝集物を110℃の大気雰囲気中に2時間保持して乾燥させ、溶媒分を除去した後、不活性雰囲気で熱重量分析を行い、重量変化よりカゼインの吸着量を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1〜8においては、再分散処理前後での平均粒径の比(変化割合)が0.9〜1.1の範囲にあり、平均粒径がほとんど変化していないことが見て取れる。すなわち、実施例1〜8の貴金属微粒子は、優れた再分散性を示すことが確認された。このコロイド(貴金属微粒子)へのカゼインの吸着量は、貴金属微粒子(凝集物)およびタンパク質(カゼイン)の合計重量に対して3〜55.1重量%の範囲にあり、貴金属微粒子に対するカゼインの吸着量がこの範囲内であれば、再分散性が優れていると考えられる。
【0051】
これに対し、比較例1〜5においては、再分散処理後の平均粒径が大きく増加していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、貴金属微粒子を回収し、塗料、導電性ペーストなどとして再利用する必要性が高い技術分野において利用価値を有する。