特許第5663035号(P5663035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダウ コーニング コーポレーションの特許一覧

<>
  • 特許5663035-エアバッグのシリコーンコーティング 図000012
  • 特許5663035-エアバッグのシリコーンコーティング 図000013
  • 特許5663035-エアバッグのシリコーンコーティング 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663035
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】エアバッグのシリコーンコーティング
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/12 20060101AFI20150115BHJP
   B60R 21/235 20060101ALI20150115BHJP
   C08G 77/20 20060101ALI20150115BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20150115BHJP
   D06M 13/50 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   C08G77/12
   B60R21/235
   C08G77/20
   D06M15/643
   D06M13/50
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-547185(P2012-547185)
(86)(22)【出願日】2010年12月27日
(65)【公表番号】特表2013-516521(P2013-516521A)
(43)【公表日】2013年5月13日
(86)【国際出願番号】US2010062152
(87)【国際公開番号】WO2011082136
(87)【国際公開日】20110707
【審査請求日】2013年12月19日
(31)【優先権主張番号】61/290,931
(32)【優先日】2009年12月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ コーニング コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100175606
【弁理士】
【氏名又は名称】上利 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ブラックウッド
(72)【発明者】
【氏名】ロバート アラン エケランド
(72)【発明者】
【氏名】ランドール ポール スイート
【審査官】 柳元 八大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−220675(JP,A)
【文献】 特開2001−164187(JP,A)
【文献】 特開2009−220384(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/132237(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/143090(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/132236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/12
B60R 21/235
C08G 77/20
D06M 13/50
D06M 15/643
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を有するオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合した水素原子を3つ以上有する有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒および補強材を含む、シリコーン組成物の硬化性生成物であるエラストマー性コーティングでコーティングされたエアバッグであって、前記オルガノポリシロキサン(A)は、
(i)式(SiO4/2)の1以上のQ単位、
(ii)式RSiO2/2の15〜8000のD単位、および
(iii)式RSiO1/2[式中、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、1〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキニル基からなる群から選択され、分岐鎖シロキサンの3つ以上のR置換基は、アルケニルまたはアルキニル単位であって、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アクリレート基およびメタクリレート基からなる群から選択される]のM単位からなり、
単位(i)および(ii)が適切な組み合わせで連結されている、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)を含む、被コーティングエアバッグ。
【請求項2】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、オルガノポリシロキサン(A)の0.2〜50重量%を占める、請求項1に記載の被コーティングエアバッグ。
【請求項3】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は一般式:
【化1】

[式中、nはそれぞれ独立して1〜1600であって、R置換基の50%以上はアルケニル基である]である、請求項1に記載の被コーティングエアバッグ。
【請求項4】
置換基は、それぞれビニル基およびヘキセニル基から選択されるアルケニル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被コーティングエアバッグ。
【請求項5】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、化学式(SiO4/2)(RSiO1/2、および環状ポリシロキサンの単位の重合生成物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被コーティングエアバッグ。
【請求項6】
ポリオルガノシロキサン(A)は、粘度が25℃で50〜70000mPa・Sのα,ω−ビニルジメチルシロキシポリジメチルシロキサンをも含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の被コーティングエアバッグ。
【請求項7】
前記補強材は疎水性シリカを含み、前記補強材は、シリコーン組成物中、ポリオルガノシロキサン(A)に対して10〜80重量%で存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の被コーティングエアバッグ。
【請求項8】
シリカは、Siに結合したメチル基、ビニル基およびシラノール末端基を含むオルガノポリシロキサンオリゴマーで表面処理される、請求項7に記載の被コーティングエアバッグ。
【請求項9】
エラストマー系の仕上がりまで硬化可能なシリコーン組成物でコーティングされたエアバッグ用布であって、前記シリコーン組成物は、脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を含むオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合した3つ以上の水素原子を有する有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒、および補強材を含み、前記オルガノポリシロキサン(A)は、
(i)式(SiO4/2)の1以上のQ単位、
(ii)式RSiO2/2の15〜6000のD単位、および
(iii)式RSiO1/2[式中、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、1〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキニル基からなる群から選択され、分岐鎖シロキサンの3つ以上のR置換基は、アルケニルまたはアルキニル単位であって、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アクリレート基およびメタクリレート基からなる群から選択される]のM単位
からなり、単位(i)および(ii)が適切な組み合わせで連結されている、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)を含む、エアバッグ用布。
【請求項10】
前記有機ケイ素架橋剤のSi−H基の前記オルガノポリシロキサン(A)の脂肪族不飽和基に対するモル比は5:1〜10:1である、請求項9に記載のエアバッグ用布。
【請求項11】
前記シリコーン組成物は、コーティング量15〜40g/mで存在する、請求項9または10に記載のエアバッグ用布。
【請求項12】
エラストマー系の仕上がりまで硬化可能なシリコーン組成物を用いてエアバッグ用布をコーティンする工程であって、前記シリコーン組成物は脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を含むオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合した3つ以上の水素原子を有する有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒、および補強材を含み、前記オルガノポリシロキサン(A)は、
(i)式(SiO4/2)の1以上のQ単位、
(ii)式RSiO2/2の15〜6000のD単位、および
(iii)式RSiO1/2[式中、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、1〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキニル基からなる群から選択され、分岐鎖シロキサンの3つ以上のR置換基は、アルケニルまたはアルキニル単位であって、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アクリレート基およびメタクリレート基からなる群から選択される]のM単位、からなり、
単位(i)および(ii)が適切な組み合わせで連結されている、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)を含む、工程。
【請求項13】
エラストマー系の仕上がりまで硬化可能なシリコーン組成物を用いてエアバッグをコーティンする工程であって、前記シリコーン組成物は脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を含むオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合した3つ以上の水素原子を含む有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒、および補強材を含み、前記オルガノポリシロキサン(A)は、
(i)式(SiO4/2)の1以上のQ単位、
(ii)式RSiO2/2の15〜6000のD単位、および
(iii)式RSiO1/2[式中、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、1〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキニル基からなる群から選択され、分岐鎖シロキサンの3つ以上のR置換基は、アルケニルまたはアルキニル単位であって、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アクリレート基およびメタクリレート基からなる群から選択される]のM単位、からなり、
単位(i)および(ii)が適切な組み合わせで連結されている、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)を含む、工程。
【請求項14】
前記シリコーン組成物でコーティングした布は、第2シリコーンゴムコーティング組成物で上塗りされる、請求項12または13に記載の工程。
【請求項15】
(i)式(SiO4/2)の1以上のQ単位、
(ii)式RSiO2/2の15〜6000のD単位、および
(iii)式RSiO1/2[式中、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、1〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキニル基からなる群から選択され、分岐鎖シロキサンの3つ以上のR置換基は、アルケニルまたはアルキニル単位であって、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アクリレート基およびメタクリレート基からなる群から選択される]のM単位であって、脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を含むオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合した3つ以上の水素原子を有する有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒、および補強材を含むエアバッグコーティング用のオルガノポリシロキサン(A)の全てまたは一部としてのM単位、
からなり、単位(i)および(ii)が適切な組み合わせで連結されている、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコーンゴム組成物でコーティングされたエアバッグに関する。エアバッグは安全性の目的のために使用され、自動車等の乗り物の乗員を保護する。また、本発明はエアバッグをシリコーンゴム組成物でコーティングする工程およびエアバッグ用布に関する。特に、本発明は、1つのポリオルガノシロキサンと、他のポリオルガノシロキサンのSiに結合した水素基との反応によって生じる、ヒドロシリル化によって硬化するシリコーンゴムコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エアバッグは、少なくともその1つの側面がエラストマー層で被覆された合成繊維からできている織布または編地、例えばナイロン6,6またはポリエステル等のポリアミドから形成されている。エアバッグは、コーティングされ、縫い合された平織物からできていて十分な機械的強度を提供するか、または継ぎ目のない状態に1枚に織ることができる。縫い合わされたエアバッグは、通常、エアバッグの内側に被コーティング布の表面があるように構成されている。1枚に織られたエアバッグは、エアバッグの外側がコーティングされている。
【0003】
ある種のエアバッグの使用においては、加圧ガスを布のエンベロープに比較的長時間保持する必要がある。この要件は、例えば自動車産業のサイド・カーテン・エアバッグの場合に要求される。サイド・カーテン・エアバッグは、一般的なエアバッグと同様に、接触時に膨張するように設計されている。サイド・カーテンが広がることで、乗客と車体の側面、例えば窓の間でクッション性のあるカーテンとなる。従来の運転席用および乗客用エアバッグの場合のように、単に衝突そのものの衝撃に対するクッション性でなく、乗客を保護することを意図して設計され、例えば車の走行中、サイド・カーテン・エアバッグが十分に加圧されていることが重要である。従来の運転席用および乗客用エアバッグは、ほんの一瞬、圧力を維持する必要がある一方で、サイド・カーテン・エアバッグは数秒間、適度な圧力を保持することが望ましい。一定のガス圧力を比較的長期間保持するため、加圧された布構造が望ましい場合、例えば航空用の緊急避難用シュートまたはゴムボートに同様に応用される。したがって、シリコーンゴムコーティングによる低いコーティング量で、気密性が改良された、柔軟性および高温耐性を有する被コーティング布の要望がある。
【0004】
エアバッグ基布上にシリコーンゴムをエラストマーコーティングとして使用することで、基布を例えば15〜50g/mでシリコーンゴムの薄膜をコーティングでき、これにより軽量構造とすることができることに加え、優れた高温性能を付与することが可能である。しかしながら、低コーティング量で十分な気密性(即ち、被コーティング布のガス透過率が充分に低いこと)を確保することは困難である。特に、気密性は1枚の織布エアバッグを用いた際に問題となる。さらに、エアバッグ製造業者にとって、より軽量の繊維が用いられ、かつ、緩い織物構造を有する1枚の織布エアバッグについて、軽量コーティングで気密性を確保する、というさらなる挑戦に移行することが望まれる。
【0005】
シリコーンゴムエアバッグコーティングは、数々の特許で開示されている。例えば、米国特許第6709752号明細書には、ヒドロシリル化反応で硬化することができる、3種類のポリオルガノシロキサン、ケイ素に結合する水素原子を1分子あたり3つ以上有する有機ケイ素架橋剤、触媒及び補強材を含む、布をコーティングするための組成物が開示されている。3種類のポリオルガノシロキサンのうちの2つは互いに異なる特定の粘度を有するアルケニル末端ポリオルガノシロキサンであり、3つ目は分子末端および側鎖にアルケニル基を有する。
【0006】
米国特許第6425600号明細書には、ケイ素に結合するアルケニル基を2つ以上有するオルガノポリシロキサン、微粉化されたシリカ、接着成分、1分子当り1以上のアルケニル基を生じるシリコーン可溶性樹脂、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび白金族触媒を含むエアバッグをコーティングするためのシリコーンゴム組成物が記載されている。
【0007】
国際公開第08/020605号には、以下の成分を含む、布をコーティングするためのシリコーンゴム組成物が記載されている:2%以下のアルケニル基を含むオルガノポリシロキサン(A−1)および5%以上のアルケニル基を含むオルガノポリシロキサン(A−2)の混合物を含み、A−2はA−1に対して1重量%以下で存在するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A);1分子当り平均3つのケイ素結合性水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B−1)および1分子当り平均2つのケイ素結合性水素を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B−2)の混合物を含むオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B);ヒドロシリル化触媒(C);および補強微細シリカ粉末(D)。
【0008】
米国特許第6511754号明細書には、ケイ素に結合したC2−C6アルケニル基を1分子当たり2以上有する1以上のポリオルガノシロキサン、ケイ素に結合した水素原子を2以上有する1以上のポリオルガノシロキサン、白金族に属する金属系触媒、アルケニル官能化ポリオルガノシロキサンの存在下で相溶化剤でin situ処理したケイ酸補強材、ポリオルガノシロキサン末端、増粘剤、水素官能基を有する末端シロキシ単位および1以上のアルコキシル化されたオルガノシランを有するC3−C6アルケニル基を含む三元接着促進剤、1以上のエポキシ基を含む1以上の有機ケイ素化合物および金属キレート剤および/または金属アルコキシドを含むコーティング組成物が記載されている。
【0009】
国際公開第08/020635号には、アルケニル含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、ヒドロシリル化触媒、微粉化されたシリカ補強材、メタクリル含有アルコキシシラン、アクリル含有アルコキシシランおよびジルコニウムキレート化合物を含む布をコーティングするためのシリコーンゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6709752号明細書
【特許文献2】米国特許第6425600号明細書
【特許文献3】国際公開第08/020605号
【特許文献4】米国特許第6511754号明細書
【特許文献5】国際公開第08/020635号
【特許文献6】米国特許第6806339号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるエラストマー系の仕上がりまで硬化可能なシリコーン組成物を用いてエアバッグまたはエアバッグ用布をコーティングする工程であって、前記シリコーン組成物は、脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を有するオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合した3つ以上の水素原子を含む有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒および補強材を含み、前記オルガノポリシロキサン(A)は、
(i)式(SiO4/2)の1以上のQ単位、
(ii)式RSiO2/2の15〜6000のD単位および
(iii)式RSiO1/2[式中、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、1〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキニル基からなる群から選択され、分岐鎖シロキサンの3つ以上のR置換基は、アルケニルまたはアルキニル単位であって、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アクリレート基およびメタクリレート基からなる群から選択される]のM単位
からなり、
単位(i)および(ii)が適切な組み合わせで連結される、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)を含む。
【0012】
本発明は、脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を含むオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合した、3つ以上の水素原子を含む有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒および補強材を含むシリコーン組成物の硬化生成物であり、オルガノポリシロキサン(A)は、上記のような分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)を含む、エラストマー性コーティングでコーティングされたエアバッグを包含する。
【0013】
本発明は、さらにエラストマー系の仕上がりまで硬化可能なシリコーン組成物でコーティングされたエアバッグ用布を含み、前記シリコーン組成物は脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を有するオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合した、3つ以上の水素原子を有する有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒および補強材を含み、前記オルガノポリシロキサン(A)は、上記の様な分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)を含むシリコーン組成物でコーティングされたエアバッグ用布を包含する。
【0014】
本発明は、さらに、
(i)式(SiO4/2)の1以上のQ単位、
(ii)式RSiO2/2の15〜6000のD単位、および
(iii)式RSiO1/2[式中、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、1〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキニル基からなる群から選択され、分岐鎖シロキサンの3つ以上のR置換基は、アルケニルまたはアルキニル単位であって、R置換基はそれぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アクリレート基およびメタクリレート基からなる群から選択される]のM単位であって、脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を含むオルガノポリシロキサン(A)、ケイ素に結合する3つ以上の水素原子を有する有機ケイ素架橋剤、Si−H基と脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基の反応を促進する触媒および補強材を含むエアバッグコーティングの、オルガノポリシロキサン(A)の全てまたは一部とされるM単位、からなり、
単位(i)および(ii)が適切な組み合わせで連結されている、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)の使用を含む。
【0015】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は1以上のSiO4/2単位(Q単位)を有し、SiO4/2単位の全数または一部は、平均して1を超えていてもよく、例えば2〜4のSiO4/2単位を有していてもよい。
【0016】
なお、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、式RSiO2/2の15〜6000のD単位を包含する。R基は、それぞれ、好適には、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルまたはイソブチルのアルキル基である。最も好ましくは、全てのR基がメチル基である。
【0017】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、1を超えるSiO4/2単位のそれぞれに結合した、1以上のRSiO2/2単位を包含する。好ましくは、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、1つが、または各々がSiO4/2単位に結合した、4ブロックの(CHSiO2/2単位を有する。(CHSiO2/2単位のブロックは、20〜400の個別の(CHSiO2/2単位を含むが、この範囲に制限されるものではない。通常、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)では、120〜400の4ブロックの(CHSiO2/2単位が、各々SiO4/2単位に結合し、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、総計で480〜5,000の(CHSiO2/2単位を有する。単に記述的な目的から、SiO4/2に結合した(CHSiO2/2単位の鎖の化学構造を下記に示す。ここで、nは20〜400である(nはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい)。
【0018】
【化1】
【0019】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)はRSiO1/2単位も包含する(M単位)。Rは前記Rと同じであり、好ましくはメチルである。Rは、好ましくは、1〜6個の炭素原子を有するアルキル部分、1〜6個の炭素原子を有するアルケニル部分および1〜6個の炭素原子を有するアルキニル部分の群から選択される。好ましくは、50%以上のR置換基はアルケニル基である。最も好ましくは、R置換基がそれぞれアルケニル基である。アルケニル基は、それぞれ例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基およびヘキセニル基から選択されるが、好ましくはビニル基およびヘキセニル基から選択され、最も好ましくはビニル基である。RSiO1/2単位は、それぞれRSiO2/2単位に結合させて、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)を官能性末端基でキャッピングすることが好ましい。典型的なこの配列の化学構造を下記に示す:
【0020】
【化2】
【0021】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、主に分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)内のRSiO2/2単位に対する、アルケニルを含有するRSiO1/2単位の比率に依存して、0.025〜10重量%のアルケニル基、例えばビニル基を有することができる。
【0022】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、シロキサン樹脂と環状ポリシロキサンの重合生成物を含む。シロキサン樹脂は、好ましくは0.2:99.8〜4:96の重量比で環状ポリシロキサンと重合する。シロキサン樹脂は、実験式(SiO4/2)(RSiO1/2のMQ樹脂であり、xは1.05〜4であることが好ましい。環状ポリシロキサンは、一般的にRSiO2/2の3〜6の反復単位からなる環式ポリジアルキルシロキサン、好ましくはR置換基がそれぞれメチル基、例えばオクタメチルシクロテトラシロキサンおよび/またはデカメチルシクロペンタシロキサンである。シロキサン樹脂および環状ポリシロキサンは、シロキサン開環用の触媒、好ましくは米国特許第6806339号明細書に記載のホスファゼン塩基触媒の存在下で反応させる。
【0023】
分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基を有する、オルガノポリシロキサン(A)の全体または一部として使用することができる。好ましくは、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)が、オルガノポリシロキサン(A)の単なる一部として形成される。分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、例えばオルガノポリシロキサン(A)の0.2〜50重量%を占める。オルガノポリシロキサン(A)の主要部は主に直鎖分子構造を有することが好ましい。
【0024】
コーティング組成物の全オルガノポリシロキサン(A)は、通常、5重量%未満、好ましくは3重量%未満のアルケニル基を含む。全オルガノポリシロキサン(A)は、好ましくは0.02〜2重量%のアルケニル基を含む。
【0025】
主要な直鎖オルガノポリシロキサン(A)のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基およびヘプテニル基が例示され、この中でもビニル基が好ましい。オルガノポリシロキサン(A)に含まれるアルケニル基以外のケイ素に結合する有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基またはアルキル基の類似体を例示することができ、フェニル基、トリル基、キシリル基またはアリール基の類似体;または3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基またはハロゲン置換基の類似体が例示される。アルケニル基以外の基としてはメチル基、および任意にフェニル基を含むことが好ましい。
【0026】
主要な直鎖オルガノポリシロキサン(A)は、例えばα,ω−ビニルジメチルシロキシポリジメチルシロキサン、メチルビニルシロキサンとジメチルシロキサン単位のα,ω−ビニルジメチルシロキシ共重合体、および/またはメチルビニルシロキサンとジメチルシロキサン単位のα,ω−トリメチルシロキシ共重合体を含み得る。ポリオルガノシロキサン(A)の粘度は、好ましくは、25℃で100mPa・S以上、好ましくは300mPa・S以上であり、90000mPa・S以下、好ましくは70000mPa/S以下である。最も好ましくは、ポリオルガノシロキサン(A)は、25℃で粘度が100〜90000mPa・Sの1以上のα,ω−ビニルジメチルシロキシポリジメチルシロキサンを含む。ポリオルガノシロキサン(A)は、例えば、米国特許第6709752号明細書に記載されているように、25℃で粘度が50〜650mPa・Sの第1のα,ω−ビニルジメチルシロキシポリジメチルシロキサン、および25℃で粘度が10,000〜90000mPa・Sの第2のα,ω−ビニルジメチルシロキシポリジメチルシロキサンを含む(下記において他に粘度測定が記載されていない限り、全ての粘度は10rpm、スピンドル7のブルックフィールド(登録商標)粘度計を用いて25℃で測定される)。
【0027】
オルガノポリシロキサン(A)は、さらにSiに結合したメチル基およびビニル基を含むオルガノポリシロキサンオリゴマー、例えばシラノール末端基を含むオルガノポリシロキサンオリゴマーを包含する。このようなオルガノポリシロキサンオリゴマーは、特にオルガノポリシロキサンオリゴマーが組成物に存在する補強材を前処理するために使用される場合、本発明で形成されるコーティングの気密性を高めることができる。
【0028】
オルガノポリシロキサンオリゴマーは、例えば、両方の分子末端がジメチルヒドロキシシロキシ単位であるメチルビニルポリシロキサン、または両方の分子末端がジメチルヒドロキシシロキシ単位であるメチルビニルシロキサンとジメチルシロキサン単位の共重合体であってもよい。オルガノポリシロキサンオリゴマーは、オルガノポリシロキサン分子の混合物であってもよく、両方の分子末端にシラノール末端基があるものであってもよく、1つだけシラノール基、例えばジメチルヒドロキシシロキシ末端単位を有し、他方の末端基は、例えばジメチルメトキシシロキシ単位、トリメチルシロキシ単位またはジメチルビニルシロキシ単位を有するものであってもよい。好ましくは、オルガノポリシロキサンオリゴマーの50重量%超、より好ましくは60−100重量%を、両分子末端にシラノール末端基を有する分子が占める。
【0029】
オルガノポリシロキサンオリゴマーは、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上のビニル基を含み、35、または40重量%以下のビニル基を含有することができる。最も好ましくは、オルガノポリシロキサンオリゴマーは、5〜30重量%のビニル基を含有する。オルガノポリシロキサンオリゴマーの分子量は、好ましくは1000〜10000である。オルガノポリシロキサンオリゴマーの粘度は、好ましくは50mPa・S以下、より好ましくは0.1〜40mPa・S、最も好ましくは1〜40mPa・Sである(25℃で測定する)。オルガノポリシロキサンオリゴマーは、例えばコーティング組成物に全ポリオルガノシロキサン(A)0.1重量%〜10重量%を含んでいてもよい。
【0030】
本発明のエラストマー形成コーティング組成物に使用するための有機ケイ素架橋剤は、好ましくはシラン、低分子量の有機ケイ素樹脂および短鎖オルガノシロキサンポリマーから選択される。架橋化合物はケイ素に結合した水素を1分子当たり3つ以上有していて、前記分子はアルケニルまたは他の脂肪族不飽和基のポリオルガノシロキサン(A)と反応することができる。適切な短鎖オルガノシロキサンポリマーとしては、直鎖または環状のものを含む。好ましい有機ケイ素架橋剤は一般式
SiO(RSiO)(RHSiO)SiR または
【0031】
【化3】
【0032】
(式中、Rは最高10個の炭素原子を有するアルキル基またはアリール基、RはR基または水素原子、pは0〜20、qは1〜70であり、ケイ素に結合した水素原子が1分子当たり3つ以上存在する)で表される。Rは3個以下の炭素原子を有する低級アルキル基を示すことが好ましく、最も好ましくはメチル基である。RはR基と同一であることが好ましい。好ましくはp=0、qは2〜70、より好ましくは2〜30であるか、または環状有機ケイ素物質が使用される場合、3〜8である。有機ケイ素架橋剤は、25℃で粘度が1〜150mPa・Sのシロキサンポリマーであることが最も好ましく、より好ましくは2〜100mPa・S、最も好ましくは5〜60mPa・Sの粘度である。架橋有機ケイ素化合物は、前記のいくつかの物質を含むことができる。したがって、適切な有機ケイ素架橋剤の例としては、トリメチルシロキサン末端ブロック化されたポリメチルヒドロシロキサン、ジメチルヒドロシロキサン末端ブロック化されたメチルヒドロシロキサン、ジメチルシロキサンとメチルヒドロシロキサンの共重合体、およびテトラメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。
【0033】
有機ケイ素架橋剤のSi−H基のオルガノポリシロキサン(A)の脂肪族不飽和基に対するモル比は、好ましくは、1:1以上であり、8:1または10:1以下である。最も好ましいSi−H基の脂肪族不飽和基に対するモル比は、1.5:1〜5:1である。
【0034】
有機ケイ素架橋剤のSi−H基とオルガノポリシロキサン(A)の脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換基との反応を促進する触媒は、好ましくは白金族金属(周期表のVIII族)またはその化合物である。白金および/または白金化合物、例えば微粉化した白金;塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液;塩化白金酸とアルケニルシロキサンの合成物;白金−ジケトンの合成物;シリカ、アルミナ、カルボンまたは同様のキャリアの白金金属;または白金化合物を含む熱可塑性樹脂が好ましい。他の白金族金属触媒としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウムまたはパラジウム化合物が例示される。例えばこれらの触媒は、以下の式で示される:RhCl(PPh、RhCl(CO)(PPh、Ru(CO)12、IrCl(CO)(PPhおよびPd(PPh(Phはフェニル基を示す)。
【0035】
触媒は、好ましくはポリオルガノシロキサン(A)に基づいて0.5〜100ppmw(parts per million weight)、より好ましくは1〜50ppmである。
【0036】
コーティング組成物には、追加の触媒、例えばテトラ(イソプロポキシ)チタン(TiPT)等のチタン化合物を含有させてもよい。
【0037】
コーティング組成物に存在する補強材は、好ましくはシリカ補強材、例えばCabotから商標Cab−O−Sil MS−75として販売されているヒュームド(焼成)シリカ、沈降シリカまたはゲル生成シリカである。このシリカ補強材の比表面積は、好適には50m/g以上である。
【0038】
一般的に、シリカ充填剤は全コーティング組成物の1重量%以上を占め、例えばコーティング組成物の40重量%以下を占めることができる。好ましくは、シリカ充填剤はコーティング組成物の2〜30重量%を占める。
【0039】
本発明のコーティング組成物を調製する際、充填剤を任意に脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換されたオルガノポリシロキサン(A)の一部と混合してマスターバッチを形成し、該マスターバッチは脂肪族不飽和炭化水素または炭化水素酸素置換されたオルガノポリシロキサン(A)をさらに含む他のコーティング組成物の成分と混合することができる。マスターバッチは、例えばエラストマー形成コーティング組成物に使用した全ポリオルガノシロキサン(A)5〜50重量%を含有していてもよい。分岐鎖オルガノポリシロキサン(A1)は、マスターバッチを形成するために用いられるオルガノポリシロキサン(A)および/または後にマスターバッチと混合されるオルガノポリシロキサン(A)に存在させてもよい。
【0040】
コーティング組成物がSiに結合したメチル基およびビニル基、並びにシラノール末端基を含有するオルガノポリシロキサンオリゴマーを含有する場合、好適には、充填剤をコーティング組成物の主要部と混合する前に、充填剤を、別途に、またはマスターバッチ形成時に、このオルガノポリシロキサンオリゴマーを用いて前処理する。シリカ充填剤は、例えば、他のオルガノポリシロキサンの不存在下で、Siに結合したメチル基およびビニル基、並びにシラノール末端基を含有するオルガと混合することができる。少量(通常、混合物全体の25重量%以下)の水、有機溶媒および/またはオルガノポリシロキサンオリゴマーのシリカ充填剤への接着性の改良に適合するカップリング剤を、混合工程の際に配合する。カップリング剤は、例えばヘキサメチルジシラザンまたはテトラメチルジシラザン等のシラザンであってもよい。処理された充填剤は、その後、コーティング組成物の他の成分と混合することができる。或いは、オルガノポリシロキサンオリゴマーでオルガノポリシロキサン(A)の一部を形成し、充填剤マスターバッチを形成することができる。
【0041】
エラストマーを形成するコーティング組成物は、単に所望の比率で原料を混合すれば調製することができる。しかしながら、保存安定性、および組成物を織布に塗布する前の、または塗布時の浴寿命の理由から、通常、触媒と有機ケイ素架橋剤とを分けて、組成物を2部に分けて保存することが好ましい。充填剤のマスターバッチまたは任意の処理済みシリカ充填剤を含む、組成物の他の成分は、どちらの組成物部にあってもよく、好ましくは均等に両方の部位に分散することで、2部を塗布する直前、容易に混合することができる。このように容易に混合できる比率は、例えば1/10または1/1の比率とできる。
【0042】
本発明のコーティング組成物に含有させることができる、他の追加の成分としては、例えば接着促進剤、他の充填剤、顔料、色素、粘度調整剤、浴寿命延長剤、阻害剤および/または軟化剤が挙げられる。
【0043】
接着促進剤の使用においては、布、例えばエアバッグ基布に一般的に使用されるナイロン織布またはポリエステル織布に優れた接着力を与え、長期間布を高温、且つ、高湿度にさらした後でも、コーティングの布への持続的な接着力が保たれることが望まれる。適切な接着促進剤としては、ジルコニウムキレート化合物およびエポキシ官能基またはアミノ官能化有機ケイ素化合物が挙げられる。従来技術において、既知の適切なジルコニウムキレート化合物としては、下記の例が挙げられる:ジルコニウム(IV)テトラアセチルアセトネート、ジルコニウム(IV)ヘキサフルオロアセチルアセトネート、ジルコニウム(IV)トリフルオロアセチルアセトネート、テトラキス(エチルトリフルオロアセチルアセトネート)ジルコニウム、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−ヘプタンエチオネート)ジルコニウム、ジルコニウム(IV)ジブトキシビス(エチルアセトネート)、ジイソプロポキシビス(2,2,6,6−テトラメチル−ヘプタンチオネート)ジルコニウムまたはβ−ジケトンを有する同様のリガンドとして使用されるジルコニウム複合体(そのアルキル置換型およびフルオロ置換型)が挙げられる。これらの化合物のうち最も好ましいのは、アセトアセテートのジルコニウム複合体である(アルキル置換型およびフルオロ置換型を含む)。このようなジルコニウムキレート化合物は、エポキシ含有アルコキシシラン、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、4−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランまたは2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランと共に使用することができる。
【0044】
他の充填剤を使用する場合、該充填剤としては、石英粉末、微粉化硬化シリコーンゴム粒子および炭酸カルシウムが挙げられる。このような他の充填剤は、好ましくはシリカ補強材より少量で配合する。好ましくはこれら他の充填剤は、その表面が疎水性となるように処理される。他の充填剤が使用される場合、それらをシリカ充填剤と共にオルガノポリシロキサンオリゴマーで処理することが有利である。
【0045】
適切な阻害剤の例としては、エチレン性または芳香族不飽和アミド、アセチレン化合物、エチレン性不飽和イソシアネート、オレフィン系シロキサン、不飽和炭化水素ジエステル、共役エン−イン、ヒドロペルオキシド、ニトリルおよびジアジリジンが挙げられる。具体例としては、メチルブチノール、ジメチルヘキシノール、エチニルシクロヘキサノール、トリメチル(3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オキシ)シラン、マレイン酸塩、例えばマレイン酸ビス(2−メトキシ−1−メチルエチル)またはマレイン酸ジアリル、フマル酸塩、例えばフマル酸ジエチルまたはフマル酸塩/アルコールの混合物が挙げられ、アルコールとしては、例えばベンジルアルコールまたは1−オクタノールおよびエテニルシクロヘキサン−1−オルが挙げられる。阻害剤が使用される場合は、例えば放出コーティング組成物の0.1〜3重量%で使用することができる。
【0046】
本発明は、布を本発明の組成物でコーティングするコーティング工程を包含する。前記布は好ましくは織布、特に平織布であるが、例えば編地または不織布であってもよい。布は合成繊維からできているか、天然繊維および合成繊維の混合物からできていて、例えばナイロン−6,6、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレンポリプロピレン、ポリエステル綿またはガラス繊維を使用できる。エアバッグ用布として使用するため、繊維は十分に柔軟性があり、比較的低い容積に畳むことができるが、十分に頑丈であり、高速での展開や、例えば炸薬の影響に耐えることができる必要がある。本発明のコーティング組成物は、通常は接着性を持たせるのが困難な、平織ナイロン布に良好な接着力を有する。本発明のコーティング組成物は、布に塗布した直後に特に良好な接着力を有し、フィルム形成特性を有するため、コーティングされる布の表面のフィルム形成は均一であり、このことから1枚の織布エアバッグコーティング、クッションと縫い目のフィルムはコーティング工程の際に維持される。また、本発明のコーティング組成物は、良好に繊維へ浸透する。本発明によるコーティング組成物により、ガス透過性を低減させることができる。本発明による被コーティングエアバッグ、特に本発明に従ってコーティングされた1枚の織布エアバッグ、および本発明に従ってコーティングされた裁ち縫い繊維からできているエアバッグは、気密性が改良される。
【0047】
本発明のコーティング組成物は、既知の技術に従って、基布に塗布することができる。既知の塗布方法としては、スプレー、グラビアコーティング、バーコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、パディング、ディッピングおよびスクリーンプリンティングが挙げられる。組成物は、エア式ナイフコーティング法またはロール式ナイフコーティング法によって塗布することが好ましい。コーティング組成物は、エアバッグ用布をバラバラに切断し、縫い合わせてエアバッグを組み立てたものにも、1枚の織布エアバッグにも塗布することができる。コーティング組成物は、一般的に10g/m以上、好ましくは15g/m以上のコーティング量で塗布され、100または150g/m以下で塗布することができる。本発明のコーティング組成物は、軽量のコーティング、即ち50g/m未満、例えば15〜40g/mで塗布した場合、エアバッグの十分な気密性を達成するのに特に有利である。
【0048】
好ましい形態ではないが、全コーティング量を上記のようにして、組成物を複数の層となるように塗布してもよい。コーティング組成物上に、さらにコーティング、例えば摩擦を低減する物質、または本発明のコーティングと同様の成分で、分岐鎖オルガノポリシロキサン(A)を含まないコーティングを塗布してもよい。
【0049】
本発明のコーティングは、長時間かけて環境温度で硬化させてもよいが、コーティングの好適な硬化条件は、例えば120〜200℃の高温において、実際に適用した温度に応じた時間、例えば5秒〜5分間硬化させることである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本明細書の図1のグラフに示すせん断回復に関して解釈することができるように、この改良はコーティング時のレオロジーの驚くべき改良によって生じると考えられる。せん断回復(しばしば“ストレススイープ”とも称される)は、せん断後、せん断ストレスが元の非せん断状態まで戻るのにかかる時間の測定であり、即ち、図1におけるG’は1Hzの、非せん断状態までの回復における、シリコーンの弾性係数を示す。
図2】本明細書の図2aは、コーティング量60gmでの、C6の組成物の布表面の被覆を示す。図2bは、Alaがコーティング量60gmで存在する以外、同じ組成物を示す。
【実施例】
【0051】
特に記載のない限り、本発明を示す以下の実施例において、部およびパーセントは重量で示され、粘度は25℃における測定結果を示す。特に記載のない限り、粘度の測定は、10rpm、スピンドル7のブルックフィールド(登録商標)粘度計を用いて測定される。標準の炭素二重結合ストレッチを用いた赤外線分光学によって、ビニル基含有量を測定した。ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて分子量を測定した。
【0052】
<実施例1>
0.08g(0.0005モル)トリフルオロメタンスルホン酸の存在下で、208.33g(1モル)のオルトケイ酸テトラエチルを186.40g(1mole)のジビニルテトラメチルジシロキサンと反応させ、36.93g(2.05mole)のHOを添加することで、分岐鎖ポリシロキサン(上記で(A1)として示されたもの)を形成した。トリメチルアミンヒドロキシフォスファゼン塩基触媒0.005部、10,000重量カリウム当量のカリウムシラノレート0.03部(0.03 parts potassium silanolate of equivalent weight per potassium of 10,000)、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート0.009部の存在下、前記分岐鎖ポリシロキサン2.73部をデカメチルシクロペンタシロキサン297.3部と反応させた。ビニル含有量が0.17%、粘度が21600mPa・S、平均分子量Mwが53,100の分岐鎖ポリシロキサンA1aを生成した。
【0053】
分岐鎖ポリシロキサンA1a 363gを、水15.0g、ジメチルビニルシロキシ基で両方の分子末端がキャッピングされた、粘度20mPa・Sのメチルビニルシロキサンおよびジメチルシロキサン単位のViO1共重合体81.0gと共に、ベーカーパーキンスミキサーに添加した。‘MS−75D’ヒュームド・シリカ100gを添加し、5分間混合した。ヘキサメチルジシラザン44.1gを添加し、5分間混合した。‘MS−75D’ヒュームド・シリカ159.35gを添加し、35分間、室温で混合した後、100℃で1時間処理して充填剤を形成した。
【0054】
式(MeSiO1/2(MeViSiO1/2(SiO4/2)[式中(n+m)/r=0.71]で表され、数平均分子量がMn=4300で且つビニル基含有量=1.9%であるオルガノポリシロキサン樹脂を、粘度が40,000mPa・Sで且つビニル基含有量が0.09%の、ジメチルビニルシロキシ末端がキャッピングされたジメチルポリシロキサンSP1と混合することによって、ビニル含有量%を有するシリコーン樹脂/ポリオルガノシロキサン混合物RP1を調製した。
【0055】
分岐鎖ポリシロキサンA1a 25.65gおよびシリコーン樹脂/ポリオルガノシロキサン混合物RP1 711.9gを、処理済み充填剤に添加し、冷却しながら混合し、2部式のシリコーンゴムコーティング組成物の両方の部に混合可能なマスターバッチMB1を形成した。
【0056】
2部式のコーティング組成物をMB1、RP1、ViO1および以下の原料から調製した:
INT:
白金触媒:Ptを0.40%含有する、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサンの白金複合体の溶液
TiPT触媒:
架橋剤:粘度が5.5mPa・Sの、トリメチルシロキシ基で両方の分子末端をキャッピングされたメチルハイドロジェンシロキサンおよびジメチルシロキサン単位の共重合体;ケイ素に結合した水素原子の含有量が約0.73質量%
シランS1:3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン
シランS2:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
阻害剤1:エチニルシクロヘキサノール
コーティング組成物のそれぞれの部の配合を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
パートA 48.6%、パートB 48.6%および赤色色素2.8%を、Hauschild歯科用ミキサーで20秒間混合した。生成されたコーティング組成物を、46×46平織布420デニールナイロン布に、エア式ナイフコーティング機を用いて様々なコーティング容量で塗布した。コーティング機は、強制空気加熱オーブンを有し、被コーティング布を130℃で停滞時間50秒間処理した。
【0059】
比較例C1においては、分岐鎖ポリシロキサンAlaをシリコーン樹脂/ポリオルガノシロキサン混合物RP1と置換して、実施例1と同様の試験を実施した。
【0060】
実施例1および比較例C1の、異なるコーティング量の各被コーティング布サンプルを、56mm直径の円形の開口を有する金属プレートの間に挟み、高圧力空気中の透過性の試験を行った。布のコーティング面を加圧したチャンバーに入れた;このチャンバーを空気圧200kPaまで加圧し、その後、空気供給口を閉めた。布の他方の面を大気圧にさらした。チャンバー内の圧力の低下率を電子的に観測した。30秒後の圧力を表2に示す。特定の面積を有するコーティングされていないサンプルの重量を測定してから、同じ面積を有する被コーティングサンプルの重量を測定し、2つのサンプルの重量の差異よりコーティング量を算出した。
【0061】
同じ布に、市販されているシリコーンゴムエアバッグをコーティングしたコントロールサンプルC2を、コーティング量を35g/mとして試験した。また、市販の被コーティングエアバッグ用布の比較例C3の試験結果についても、表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
低いコーティング量で、分岐鎖ビニル官能化ポリシロキサンA1aの配合により、低いコーティング量で気密性が実質的に減少するか、または空気圧が保持される、という効果を表2から考察することができる。効果は、特に20g/mで示され、26g/mでも見られる。
【0064】
実施例1および比較例C1の各コーティング組成物のサンプルを使用し、容量54リットルの1枚に織られたクッションエアバッグを、コーティング量75g/mでコーティングした。エアバッグを徐々に70kPaまで膨らませ、空気弁を閉じ、エアバッグの内圧を電子的に12秒間、圧力0〜300kPaの範囲で校正したRosemount Pressureトランスミッタモデル3051TGを用いて観測した。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
分岐鎖ビニル官能化ポリシロキサンA1aを含む実施例1の組成物でコーティングされたエアバッグは、実施例C1の組成物でコーティングされたエアバッグコーティングより圧力を保持することに優れていることが表3から考察できる。
【0067】
<実施例2>
2部式のコーティング組成物を、ポリシロキサンSP1、分岐鎖ポリシロキサンA1a、シラノール末端オリゴマーViO1、白金触媒、架橋剤、シラン1、シラン2、阻害剤1および表4に示す以下の原料から調製した。
充填剤2−ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ
TMTV−テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン
接着促進剤−ジルコニウムテトラキスアセチルアセトネート
TMDV−テトラメチルジビニルジシロキサン
阻害剤2−3,5−ジメチル−1−ヘキシノール
【0068】
【表4】
【0069】
パート1および2を別途包装し、エア式ナイフコーティング機を用いて、塗布直前に混合し、容量5.4リットルの1枚の織布サイド・カーテン・エアバッグに59g/mで塗布した。
【0070】
比較例C4において、同様の2つの部材のシリコーンゴムコーティング組成物を、分岐鎖オルガノポリシロキサンA1aを、ジメチルビニルシロキシ末端がキャッピングされたジメチルポリシロキサンSP1と置換して調製し、混合したものを、カーテン・エアバッグに58g/mで塗布した。
【0071】
カーテン・エアバッグに、市販のシリコーンゴムエアバッグコーティングC5を59g/mで塗布したものとも、さらに比較した。
【0072】
実施例2、C4およびC5でコーティングされたカーテン・エアバッグを、10リットルタンクを約165kPaまで加圧し、瞬時にバッグを開封する動圧保持試験において試験した。バッグ内の圧力は圧力を放出してから10秒観測された。結果を表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
実施例2でコーティングされたエアバッグは、C4およびC5でコーティングされたエアバッグよりも、著しく長時間圧力を保持したことが表5から考察できる。
【0075】
<実施例3>
実施例2の組成物用いて、分岐鎖ビニル官能化ポリシロキサンA1aの量のみを変更して一連の組成物を調製し、さらに分岐鎖ビニル官能化ポリシロキサンA1aが存在しない比較例C6を使用した(上記表4のパートAおよびパートBのそれぞれ1重量部を、表6の値と置き換えた、即ち実施例3において、1.2重量部は個別にパートAおよびパートBに存在する)。
【0076】
【表6】
【0077】
本明細書の図1のグラフに示すせん断回復に関して解釈できるように、この改良はコーティング時のレオロジーの驚くべき改良によって生じると考えられる。せん断回復(しばしば“ストレススイープ”とも称される)は、せん断後、せん断ストレスが元の非せん断状態まで戻るのにかかる時間の測定であり、即ち、図1におけるG’は1Hzの、非せん断状態までの回復における、シリコーンの弾性係数を示す。Ares 2000X装置を使用する平行プレート工程を用いて、全てのせん断ストレス測定を実施した。ブレードコーティング機を使用した場合、繊維の縫い目をコーティングした際、良好に被覆できるように、組成物そのものが十分に高い粘度を有していて、接合部分に亘って適切なフィルムを確立するため、本明細書に記載の組成物を用いることにより、良好な縫い目の被覆が達成できる。これは、組成物が、コーティング可能なずれ流動性を有する高粘度物質が用いられることで、良好な菲薄化特性を有するからである。実際、より重要なことは、せん断回復が十分に遅く、そのため一度組成物がずれ流動性を有すると、比較的安定して直ぐには元の粘度に戻らないことである。
【0078】
本明細書の図2aは、コーティング量60gmでの、C6の組成物の布表面の被覆を示す。コーティングの厚さは十分ではなく、所々、存在しない部分がある。出願人は、C6組成物の粘度が、良好な被覆を行うには高すぎると考察する。これに対して、図2bは、A1aが存在する以外同じ組成物を、コーティング量60gmでコーティングしたものを示す。より厚いコーティングが布の表面に残存することが観察され、これは、C6と比較して、塗布時に組成物のレオロジーが改良していることを示す。
図2a
図2b
図1