(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筐体側取付部材(3)と、この筐体側取付部材(3)に一端部が回転可能に連結された第1及び第2リンク(4,5)と、この第1及び第2リンク(4,5)の他端部に回転可能に連結された扉側取付部材(6)と、上記第1リンク(4)の上記筐体側取付部材(3)に対する回転速度を低速に抑える回転ダンパ(8)とを備え、上記回転ダンパ(8)が、収容部(81A)を有するダンパ本体(81)、及び上記ダンパ本体(81)の収容部(81A)に回転軸線を中心として回転可能に挿入されたロータ(82)を有するダンパ付きヒンジ装置において、
上記収容部(81A)の内周面と上記ロータ(82)の外周面との間の空間が複数の圧力室(83A,83B)に区分され、
上記ロータ(82)の回転軸線方向において対向する上記収容部(81A)と上記ロータ(82)との対向面間に上記複数の圧力室(83A,83B)を連通する隙間(S1,S2)が形成され、
上記ロータ(82)が一方向に回転する場合には上記複数の圧力室(83A,83B)に圧力差が生じ、高圧側の上記圧力室(83A)に充填された流体が上記隙間(S1,S2)を通って低圧側の上記圧力室(83B)に流入し、
上記ダンパ本体(81)と上記ロータ(82)とが上記回転軸線方向へ相対移動可能とされ、
上記ダンパ本体(81)と上記ロータ(82)のいずれか一方を上記回転軸線方向へ移動させて、当該一方の他方に対する位置を調節する位置調節手段をさらに備え、
上記位置調節手段が上記一方を上記回転軸線方向に移動させることにより、上記隙間(S1,S2)の大きさを調節して、上記ロータ(82)の回転速度を調節することを特徴とするダンパ付きヒンジ装置。
上記筐体側取付部材(3)が、上記回転軸線方向における両側部に上記回転軸線と交差する第1及び第2側板部(32,31)が形成されることによって断面「コ」字状をなし、
上記第1リンク(4)の一端部、上記第2リンク(5)の一端部、上記回転ダンパ(8)及び上記カム部材(95)が上記筐体側取付部材(3)の内部に収容され、
上記筐体側取付部材(3)の第1側板部(32)には、これを上記回転軸線方向に貫通する操作窓孔(32a)が上記回転軸線を中心とする円弧に沿って延びる長孔状に形成され、
上記カム部材(95)には、操作片部(95b)が設けられ、
上記操作片部(95b)を上記筐体側取付部材(3)の外部から操作して上記カム部材(95)を回転させることができるよう、上記操作片部(95b)が上記操作窓孔(32a)にその長手方向へ位置調節可能に挿入されていることを特徴とする請求項7に記載のダンパ付きヒンジ装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
図1〜
図29は、この発明に係るダンパ付きヒンジ装置の第1実施の形態を示す。この実施の形態のダンパ付きヒンジ装置1は、
図1〜
図8に示すように、基部2、ヒンジ本体(筐体側取付部材)3、内側リンク(第1リンク)4、外側リンク(第2リンク)5、カップ部材(扉側取付部材)6、捩りコイルばね7並びに回転ダンパ8を主な構成要素としている。
【0010】
基部2は、ヒンジ本体3を前面が開口した筐体(図示せず)の側壁部内面に着脱可能に取り付けるためのものであり、ベースプレート21及び可動プレート22を有している。ベースプレート21は、筐体の左側壁部の内面の前端部、つまり開口部側の端部に取り付けられている。ベースプレート21は、筐体の右側壁部の内面の前端部に取り付けてもよい。なお、以下においては、説明の便宜上、筐体の前後左右及び上下を用いてヒンジ装置1の構成を説明するものとする。筐体の前後左右及び上下は、
図6及び
図7に示すとおりである。勿論、ヒンジ装置1は、そのような前後左右及び上下に限定されるものではない。
【0011】
可動プレート22は、ベースプレート21に対し前後方向及び上下方向へ位置調節可能に取り付けられている。そして、調節軸23を回転させると、可動プレート22が前後方向へ位置調節され、調節軸24を回転させると、可動プレート22が上下方向へ位置調節される。また、調節ボルト25を回転させると、可動プレート22の前端部が左右方向へ位置調節される。
【0012】
可動プレート22の前端部には、係合凹部22aが形成されている。係合凹部22aは、前方に向かって開放されている。可動プレート22の後端部には、係合軸22bがその長手方向を上下方向に向けて固定されている。
【0013】
ヒンジ本体3は、
図6〜
図8に示すように、一対の側板部(第2、第1側板部)31,32及び連結板部33を有している。一対の側板部31,32は、その長手方向を前後方向に向け、かつ上下方向に対向して配置されている。連結板部33は、一対の側板部31,32の長辺部の右側部(
図6において上側の側部)に一体に設けられている。これにより、ヒンジ本体3が断面「コ」字状に形成されている。ヒンジ本体3は、その開放部を基部2側に向けて配置されている。
【0014】
ヒンジ本体3の内部には、可動プレート22が挿入されている。
図7及び
図8に示すように、ヒンジ本体3の側板部31,32の前端部には、長手方向を上下方向に向けた係合軸34の両端部がそれぞれ固定されている。この係合軸34は、可動プレート22の係合凹部22aに係脱可能に挿入されている。一方、ヒンジ本体3の側板部31,32の後端部には、
図8に示すように、長手方向を上下方向に向けた支持軸35の両端部が固定されている。支持軸35には、係合部材36が回転可能に設けられている、この係合部材36は、コイルばね37によって
図8の時計方向へ回転付勢されている。係合部材36には、係合凹部36aが形成されており、この係合凹部36aには、可動プレート22の後端部に設けられた係合軸22bが係脱可能に挿入されている。係合軸34が係合凹部22aに係脱可能に挿入されるとともに、係合部材36の係合凹部36aに係合軸22bが係脱可能に挿入されることにより、ヒンジ本体3が基部2に着脱可能に取り付けられ、ひいては筐体に着脱可能に取り付けられている。ヒンジ本体3の筐体への取付構造は、上記の構造に限定されるものでなく、公知の他の構造を採用することができる。また、ヒンジ本体3は、筐体に直接固定してもよい。これは、例えば側板部31,32に上方又は下方に突出する垂直板部を形成し、この垂直板部を筐体の左右いずれかの側板部内面に固定することによって行うことができる。
【0015】
ヒンジ本体3の側板部31,32の前端部には、内側及び外側リンク4,5の一端部が回転可能に連結されている。すなわち、側板部31,32の前端部には、長手方向を上下方向に向けた枢軸J1,J2の両端部がそれぞれ固定されている。一方、内側リンク4は、上下方向に対向した一対の側板部41,42と、この一対の側板部41,42の長辺部どうしを連結する連結板部43とによって構成されている。側板部41,42の一端部は、側板部31,32間に挿入されており、側板部31,32に枢軸J1を中心として水平方向へ回転可能に連結されている。これにより、内側リンク4の一端部がヒンジ本体3の前端部に水平方向へ回転可能に連結されている。
【0016】
外側リンク5は、上下に対向した一対の側板部51,52と、この一対の側板部51,52の長辺部どうしを連結する連結板部53とによって構成されている。側板部51,52の一端部は、側板部31,32間に挿入されており、側板部31,32に枢軸J2を中心として水平方向へ回転可能に連結されている。これにより、外側リンク5の一端部がヒンジ本体3の前端部に水平方向へ回転可能に連結されている。
【0017】
カップ部材6は、扉(図示せず)の背面、つまり扉が閉位置に位置したときに筐体の前面と対向する面に固定されている。カップ部材6には、略「U」字状をなす連結部材61が固定されている。連結部材61は、互いに平行な一対の軸部62,63を有している。一対の軸部62,63は、長手方向を上下方向に向けた状態で配置されている。つまり、軸部62,63は、枢軸J1,J2と平行に配置されている。
【0018】
内側リンク4の側板部41,42の他端部は、カップ部材6に軸部62を中心として水平方向へ回転可能に連結されている。外側リンク5の側板部51,52の他端部は、カップ部材6に軸部63を中心として水平方向へ回転可能に連結されている。これにより、カップ部材6がヒンジ本体3に内側及び外側リンク4,5を介して水平方向へ回転可能に連結され、ひいては扉が筐体にヒンジ装置1を介して水平方向へ回転可能に連結されている。
【0019】
カップ部材6は、ヒンジ本体3に
図10及び
図13に示す閉位置と、
図8及び
図11に示す開位置との間を回転可能である。カップ部材6の閉位置は、
図10に示すように、外側リンク5の連結板部53がカップ部材6の底部6aに突き当たることによって定められている。ただし、カップ部材6は、ヒンジ装置1が筐体に取り付けられた状態では閉位置に達することがない。これは、外側リンク5がカップ部材6に突き当たる前に、扉が筐体の前面に突き当たるからである。そこで、以下においては、扉が筐体の前面に突き当たったときのカップ部材6及び扉の位置を閉位置と称するものとする。カップ部材6の開位置は、内側リンク4の側板部41,42がカップ部材6に突き当たることによって定められている。
【0020】
図7及び
図8に示すように、ヒンジ本体3の側板部31,32には、長手方向を上下方向に向けた支持軸J3の両端部が支持されている。支持軸J3は、枢軸J1、J2より若干後方、かつ右側に配置されている。支持軸J3には、断面四角形の線材を巻回することによって構成された捩りコイルばね(回転付勢手段)7のコイル部71が外挿されている。
【0021】
捩りコイルばね7のコイル部71の両端部には、突出部72,73が設けられている。突出部72,73は、コイル部71を構成する線材の一端部と他端部とであり、コイル部71から径方向外側へ突出させられている。
【0022】
捩りコイルばね7の一方の突出部(一端部)72は、
図11〜
図13に示すように、カム部材91を介して内側リンク4の一方の側板部41に突き当たっている。カム部材91は、平板状をなしており、ヒンジ本体3の側板部31とコイルばね7のコイル部71との間に配置されている。カム部材91には、支持軸J3が回転可能に挿通されている。つまり、カム部材91は、支持軸J3に回転可能に支持されている。カム部材91と突出部72との対向面には、一対の突出部91c,91dが互いに離間して配置されている。この一対の突出部91c,91d間には、捩りコイルばね7の突出部72がコイル部71の周方向へ移動不能に挿入されている。この結果、カム部材91は、捩りコイルばね7により支持軸J3を中心として回転付勢されている。
【0023】
カム部材91の前端部のうちの側板部41と対向する部位には、カム面91aが形成されている。このカム面91aと対向する側板部41には、カム面41aが形成されている。カム面91a,41aは、捩りコイルばね7によって互いに突き当てられている。したがって、ねじりコイルばね7の回転付勢力は、カム面91a,41aを介して内側リンク4に作用する。この場合、内側リンク4に作用するコイルばね7の回転付勢力は、カップ部材6が開位置に位置しているときには作用せず(回転付勢力が零)、カップ部材6が開位置から閉位置側へ離間すると、カップ部材6を閉位置側へ回転させるように作用する。しかも、内側リンク4に対する回転付勢力は、カップ部材が閉位置に接近するにしたがって増大する。内側リンク4にこのような回転付勢力が作用するように、カム面91a,41aが形成されている。勿論、カム面91a,41aは、内側リンク4に作用する回転付勢力の作用態様が上記と異なる態様になるように形成することも可能である。このように、突出部72を内側リンク4にカム部材91を介して接触させた場合には、突出部72を内側リンク4に直接接触させる場合に比して、内側リンク4に作用する回転付勢力の作用態様の自由度を大幅に広げることができる。
【0024】
上記のように、捩りコイルばね7は、カップ部材6が開位置に位置しているときを除き、内側リンク4を枢軸J1を中心として
図11〜
図13の反時計方向へ回転付勢し、ひいてはカップ部材6を開位置から閉位置へ向かう方向(以下、閉方向という。)に回転付勢している。したがって、カップ部材6を開位置から閉位置側へ若干の角度、例えば5〜10°だけ回転させると、その後はカップ部材6が捩りコイルばね7によって閉位置まで回転させられるとともに、閉位置に維持される。なお、カップ部材6が開位置に位置しているときには、カム面91a,41aの接触部に立てた法線(捩りコイルバネ7の回転付勢力の内側リンク4に対する作用線)が枢軸J1の軸線と直交する。したがって、捩りコイルばね7の回転付勢力によって内側リンク4が回転付勢されることがないのである。捩りコイルばね7の内側リンク4に対する付勢態様は、必ずしもこのようにする必要がない。例えば、カップ部材6が開位置と閉位置との間のほぼ中央の位置と閉位置との間に位置しているときのみ捩りコイルばね7の回転付勢力が内側リンク4に作用し、カップ部材6が中央の位置と開位置との間に位置しているときには捩りコイルばね7の回転付勢力が内側リンク4に作用しないようにしてもよい。また、周知のヒンジ装置のように、カップ部材6が閉位置と所定の中立位置(思案位置)との間に位置しているときには、捩りコイルばね7がカップ部材6を閉方向へ回転するように内側リンク4を回転付勢し、カップ部材6が中立位置と開位置との間に位置しているときには、捩りコイルばね7がカップ部材6を閉位置から開位置へ向かう方向(以下、開方向という。)へ回転するように内側リンク4を回転付勢してもよい。
【0025】
捩りコイルばね7の他方の突出部(他端部)73は、
図14〜
図16に示すように、外側リンク5に直接突き当たっている。これにより、捩りコイルばね7は、カップ部材6が開位置に位置しているときを除き、外側リンク5を枢軸J2を中心として
図14〜
図16の反時計方向へ回転付勢し、ひいてはカップ部材6を閉方向へ回転付勢している。カップ部材6が開位置に位置しているときには、突出部73と外側リンク5との接触部に立てた法線(捩りコイルバネ7の回転付勢力の外側リンク5に対する作用線)が枢軸J2の軸線と直交するので、捩りコイルばね7の回転付勢力によって外側リンク5が回転付勢されることはない。
【0026】
ここで、一方の突出部72がカム部材91を介して内側リンク4を付勢する付勢力の大きさと他方の突出部73が外側リンク5を付勢する付勢力の大きさとは、互いに同一である。しかし、内側リンク4に作用する回転付勢力(回転モーメント)の大きさと外側リンク5に作用する回転付勢力の大きさとは、各リンク4,5の回転位置によっては同一になることもあるが、ほとんどの回転位置において互いに異なる大きさである。そして、各リンク4,5に作用する回転付勢力によってカップ部材6が回転付勢される。したがって、カップ部材6に作用する回転付勢力をその回転位置に応じて所望の大きさにするためには、各リンク4,5に作用する回転付勢力を適宜に調整する必要がある。しかしながら、各突出部72,73がいずれも直線状に形成されている場合には、各リンク4,5に作用する回転付勢力を適宜に調整して、カップ部材6に作用する回転付勢力を所望の大きさにすることが困難である。この点、このヒンジ装置1では、突出部72を内側リンク4にカム部材91を介して接触させているので、外側リンク5に作用する回転付勢力を考慮してカム部材91のカム面91aの形状を設計することにより、カップ部材6に作用する回転付勢力をその回転位置に応じて所望の大きさにすることができる。
【0027】
なお、捩りコイルばね7の一方の突出部72をカム部材91を介して内側リンク4の側板部41に突き当てているが、突出部72は、側板部41に直接突き当ててもよい。また、突出部72は、連結板部43の側板部41に隣接する箇所に直接に又はカム部材を介して突き当ててもよい。他方の突出部73については、外側リンク5の側板部52にカム部材を介して突き当ててもよい。また、突出部73は、連結板部53の側板部52に隣接する箇所に突き当ててもよい。さらに、突出部73は、ヒンジ本体3の連結板部33に突き当ててもよい。
【0028】
カム部材91のコイル部71との対向面には、
図7及び
図11〜
図13に示すように、筒部91bが形成されている。この筒部91bには、支持軸J3が回転可能に挿通されている。筒部91bの外径は、コイル部71の内径より若干小径に設定されており、筒部91bは、コイル部71の一端部に若干の隙間をもって相対回転可能に嵌合されている。この結果、コイル部71の一端部は、捩りコイルばね7の捩りに伴う拡縮径が阻害されることなく、筒部91bによって安定して支持されている。
【0029】
ヒンジ本体3の側板部32と捩りコイルばね7との間には、
図7及び
図14〜
図16に示すように、スペーサ92が配置されている。スペーサ92は、支持軸J3によって回転可能に貫通されている。スペーサ92の突出部73との対向面には、一対の突出部92a,92aが互いに離間して配置形成されている。一対の突出部92a,92a間には、突出部73がコイル部71の周方向へ移動不能に挿入されている。したがって、スペーサ92は、捩りコイルばね7の軸線を中心として突出部73と一緒に回転する。また、スペーサ92のコイル部71との対向面には、筒部92bが形成されている。この筒部92bには、支持軸J3が回転可能に挿通されている。筒部92bの外径は、コイル部71の内径より若干小径であり、筒部92bはコイル部71の他端部に若干の隙間をもって相対回転可能に嵌合されている。この結果、コイル部71の他端部は、捩りコイルばね7の捩りに伴う拡縮径が阻害されることなく、筒部92bによって安定して支持されている。
【0030】
捩りコイルばね7の一方の突出部72は、内側リンク4に対しその一方の側板部41においてのみ接触し、他方の突出部73は、外側リンク5に対しその一方の側板部52においてのみ接触している。つまり、内側リンク4は、捩りコイルばね7により一方の側板部41だけが付勢され、外側リンク5は、他方の側板部52だけが付勢されている。したがって、内側及び外側リンク4,5は、一定の姿勢に維持される。よって、扉(カップ部材6)の開閉回転時に内側及び外側リンク4,5がガタつくことを防止することができる。
【0031】
すなわち、捩りコイルばね7の突出部72,73を内側リンク4の側板部41,42にそれぞれ接触させて内側リンク4だけを回転付勢し、あるいは外側リンク5の側板部51,52にそれぞれ接触させて外側リンク5だけを回転付勢し、それによってカップ部材6を回転付勢することも可能である。また、周知のヒンジ装置(特開平6−323055号公報参照)のように、二つの捩りコイルばねをその軸線方向に並べて配置し、両捩りコイルばねの長手方向へ互いに離間した各一端部を、一方のリンクの両側部にそれぞれ接触させるとともに、両捩りコイルばねの互いに隣接する各他端部を他方のリンクの中央部に接触させることにより、各リンクをそれぞれ回転付勢することも可能である。
【0032】
しかしながら、このような従来の付勢態様を採用すると、捩りコイルばねの各リンクに対する付勢力が各リンクの一側部と他側部(各リンクの回転軸線方向における一側部と他側部)とで均衡するため、カップ部材に対する負荷の作用状況によっては、各リンクの一側部と他側部とが、ヒンジ本体の両側板部と枢軸との間の寸法誤差に基づく隙間、及び各リンクの両側板部と枢軸との間の寸法誤差に基づく隙間の分だけ移動し、各リンクが揺動するようにガタつく。その結果、扉の開閉回転時に騒音が発生するおそれがある。
【0033】
この点、このヒンジ装置1においては、内側リンク4が捩りコイルばね7によって付勢されるのは、枢軸J1の軸線方向における一側部たる側板部41だけであり、他方の側板部42が付勢されることがない。したがって、内側リンク4は、一定の姿勢に維持され、揺動するようにガタつくことがない。同様に、外側リンク5は、枢軸J2の軸線方向における他側部たる側板部52が捩りコイルばね7によって付勢されるだけであり、側板部51が付勢されていない。したがって、外側リンク5も、一定の姿勢に維持され、揺動するようにガタつくことがない。よって、扉の開閉回転時に騒音が発生することを防止することができる。
【0034】
図17及び
図18に示すように、内側リンク4の側板部41,42間には、回転ダンパ8が配置されている。回転ダンパ8は、扉及びカップ部材6の閉方向への回転時に、内側リンク4及び外側リンク5の回転速度を低速に抑え、ひいては扉及びカップ部材6の回転速度を低速に抑えるためのものであり、
図7及び
図17〜
図28に示すように、ダンパ本体81及びロータ82を有している。
【0035】
ダンパ本体81は、
図24〜
図28に示すように、一端が開口し、他端部が底部81aによって閉じられた有底円筒状をなしており、その内部が収容部81Aとされている。ダンパ本体81は、その開口部を内側リンク4の側板部41と対向させた状態で側板部41,42間に配置されている。しかも、ダンパ本体81は、その軸線を枢軸J1の軸線と一致させて配置されている。底部81aの中央部には、貫通孔81bが形成されている。貫通孔81bは、その軸線を枢軸J1の軸線と一致させて配置されている。
【0036】
ロータ82は、互いの軸線を一致させて形成された大径部82aと小径部82bとを有している。大径部82aは、ダンパ本体81の内周面の開口部側の端部に回転可能に嵌合されている。一方、小径部82bは、貫通孔81bに回転可能に嵌合されている。これにより、ダンパ本体81とロータ82とがそれらの軸線(枢軸J1の軸線)を中心として相互に回転可能になっている。
【0037】
ロータ82の中央部には、その軸線上をロータ82の一端面から他端面まで貫通する支持孔82dが形成されている。この支持孔82dには、枢軸J1が回転可能に挿通されている。これにより、ロータ82がヒンジ本体3に枢軸J1を介して回転可能に支持され、ひいては回転ダンパ8がヒンジ本体3に回転可能に支持されている。なお、回転ダンパ8は、枢軸J2に回転可能に支持させてもよい。その場合には、回転ダンパ8が外側リンク5の側板部51,52間に配置される。回転ダンパ8は、枢軸J1,J2と平行でそれと異なる軸に回転可能に支持させてもよい。その場合には、回転ダンパ8が内側リンク4及び外側リンク5に対してその外側に配置される。
【0038】
図7、
図8及び
図19〜
図23に示すように、ダンパ本体81の外周面には、二つの歯(外歯車部)81c,81dが周方向へ互いに離間して配置形成されている。この二つの歯81c,81dは、ダンパ本体81の軸線を中心とする歯車の一部を構成するものである。
【0039】
図7〜
図10に示すように、枢軸J2には、歯車部材93が回転可能に外挿されている。歯車部材93は、外側リンク5の側板部51,
52の間に配置されており、外側リンク5に回転不能に連結されている。したがって、歯車部材93は、枢軸J2を中心として外側リンク5と一緒に回転する。
【0040】
歯車部材93には、一つの歯93aが形成されている。この歯93aは、ダンパ本体81に形成された歯81c,81dと噛み合い可能であり、カップ部材6が閉位置と、閉位置から開位置側へ向かって所定角度だけ離間した噛み合い開始位置との間の噛み合い範囲内に位置しているときには、
図10に示すように、歯81c,81d間に入り込んでいる。したがって、カップ部材6が噛み合い範囲内に位置しているときには、歯93aが歯81c、81dと噛み合い、ダンパ本体81を外側リンク5の回転に伴って回転させる。この場合、カップ部材6が開方向へ回転するときには、歯93aが歯81cと噛み合い、ダンパ本体81を
図10において反時計方向へ回転させる。一方、カップ部材6が閉方向へ回転するときには、歯93aが歯81dと噛み合い、ダンパ本体81を
図10において時計方向へ回転させる。これから明らかなように、歯車部材93及びその歯93aと噛み合う歯81c,81dにより、外側リンク5の回転をダンパ本体81に伝達するための第2回転伝達機構が構成されている。なお、回転ダンパ8が枢軸J2に設けられる場合には、歯車部材93が枢軸J1に設けられ、内側リンク4と一体に回転させられる。
【0041】
歯車部材93の歯93aは、カップ部材6が噛み合い開始位置と開位置との間に位置しているとき、つまり噛み合い範囲外に位置しているときには、歯81c,81d間から抜け出ており、それらと噛み合うことがない。したがって、そのときには、ダンパ本体81が歯車部材93ひいては外側リンク5に対して自由に回転することができる。ただし、その場合においてもダンパ本体81は、単独で自由に回転することはなく、後述するように、ロータ82と一体に回転する。
【0042】
図19〜
図21に示すように、ロータ82の大径部82aの側板部41と対向する端面には、複数(この実施の形態では3つ)の突起82cが形成されている。この複数の突起82cは、ロータ82の軸線を中心とする一つの円周上に配置されている。各突起82cは、直径が異なる円周上に配置してもよい。また、突起82cは、一つだけ形成してもよい。
【0043】
図7に示すように、内側リンク4の側板部41の大径部82aと対向する部分には、突起82cと同数の孔41bが形成されている。各41bには、突起82cがそれぞれ挿入されている。これにより、ロータ82が内側リンク4と一体に回転するようになっている。したがって、ロータ82は、カップ部材6が閉方向へ回転するときには、
図22及び
図23において反時計方向へ回転し、カップ部材6が開方向へ回転するときには、
図22及び
図23において時計方向へ回転する。これから明らかなように、孔41bと突起82cとにより、ロータ82を枢軸J1を中心として内側リンク4の一端部と一体に回転させるための係止機構(第1回転伝達機構)が構成されている。
【0044】
ここで、カップ部材6が噛み合い範囲内に位置しているときには、内側リンク4の一端部の枢軸J1を中心とする回転方向と、外側リンク5の一端部の枢軸J2を中心とする回転方向とは同一方向であるが、外側リンク5の回転がダンパ本体81に歯車部材93を介して伝達されるため、ダンパ本体81とロータ82との回転方向は互いに逆方向になる。したがって、ダンパ本体81とロータ82と間の相対回転速度は、例えばそれらのいずれか一方をヒンジ本体3に回転不能に設け、他方だけを回転させた場合に比して高速になる。
【0045】
なお、ダンパ本体81及びロータ82と内側及び外側リンク4,5との各間の回転伝達機構は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、各種に変更することができる。例えば、ダンパ本体81の底部81aの外側の端面、つまり側板部42と対向する端面に上記突起82cに相当する突起を形成するとともに、側板部42に孔41bに相当する孔を形成する。そして、孔に突起を挿入することにより、ダンパ本体81を内側リンク4と一体に回転させてもよい。この場合には、ロータ82のダンパ本体81から外部に突出した部分の外周面に歯81c,81dに対応する歯を形成し、その歯に歯車部材93の歯93aを噛み合わせる。このような変形は、回転ダンパ8を枢軸J2に設ける場合も可能である。
【0046】
上記のように、ダンパ本体81の内周面の開口部側の端部にロータ82の大径部82aが嵌合し、底部81aの貫通孔81bに小径部82bが嵌合しているので、
図18に示すように、ダンパ本体81の内周面と小径部82bの外周面との間には、ダンパ本体81の底部81aとロータ82の大径部82aとによって両端部が閉じられた環状の空間83が形成されている。この空間83は、ダンパ本体81の内周面と大径部82aの外周面との間がOリング等のシール部材84によって封止されるとともに、貫通孔81bの内周面と小径部82bの外周面との間がOリング等のシール部材85によって封止されることにより、外部に対して密封されている。空間83には、流体が充填されている。この流体としては、粘性流体等の周知の回転ダンパにおいて用いられる各種の流体を採用することができる。
【0047】
ロータ82の大径部82a及び小径部82bは、それぞれダンパ本体81の内周面及び貫通孔81bの内周面にダンパ本体81の軸線方向へ移動可能に嵌合させられている。したがって、ダンパ本体81とロータ82とは、それらの軸線方向へ互いに移動可能である。この実施の形態では、ロータ82が位置固定され、ダンパ本体81がロータ82に対して移動するようになっている。勿論、ダンパ本体82を位置固定し、ロータ82をダンパ本体81に対して移動させてもよく、両者を互いに移動させてもよい。ダンパ本体81は、
図24図25及び
図27に示す第1位置と
図26及び
図28に示す第2位置との間を移動可能である。ただし、第1位置と第2位置との間の距離(以下、離間距離という。)は、微小であり、例えば0.1〜0.2mm程度に設定される。
【0048】
図22及び
図23に示すように、ダンパ本体81の内周面の空間83に臨む部分には、一対の隔壁部81e,81fが形成されている。隔壁部81e,81fは、ダンパ本体81の周方向へ互いに180°離れて配置されている。隔壁部81e,81fは、ダンパ本体81の軸線方向に延びている。隔壁部81e,81fの一端部は、底部81aに一体に形成されている。つまり、隔壁部81e,81fは、底部81aから開口部側へ向かって延びている。隔壁部81e,81fの長さは、
図27に示すように、ダンパ本体81が第1の位置に位置しているときの底部81aと大径部82aとの間の距離と等しくなっている。したがって、ダンパ本体81が第1位置に位置しているときには、隔壁部81e,81fの開口部側の端面(回転軸線方向においてロータ82の大径部82aの端面(外面)と対向する収容部81Aの内面;以下、先端面という。)が大径部82aに接触する。しかし、ダンパ本体81が第2位置に位置すると、
図28に示すように、隔壁部81e,81fの先端面が大径部82aから離間距離の分だけ離間する。
【0049】
図22〜
図26に示すように、ロータ82の小径部82bの空間83に臨む部分には、一対の突条82e,82fが形成されている。突条82e,82fは、ロータ82の周方向(ダンパ本体81の周方向)へ互いに180°離れて配置されている。しかも、突条82e,82fは、それぞれ隔壁部81e,81fの間に位置するように配置されている。突条82e,82fは、ロータ82の軸線方向(ダンパ本体81の軸線)方向へ延びている。突条82e,82fの一端部は、大径部82aに一体に形成されている。つまり、突条82e,82fは、大径部82aから底部81a側へ向かって延びている。突条82e,82fの長さは、隔壁部81e,81fの長さと同一に設定されている。したがって、ダンパ本体81が第1位置に位置しているときには、
図24及び
図25に示すように、突条82e,82fの底部81a側の端面(回転軸線方向において収容部81Aの底部81aの底面(内面)と対向する外面;以下、先端面という。)が、底部81aに接触する。しかし、ダンパ本体81が第2位置に位置すると、
図26に示すように、突条82e,82fの先端面が底部81aから離間距離だけ離間する。
【0050】
図22、
図24、
図27及び
図28に示すように、隔壁部81e,81fの内側の端面、つまりダンパ本体81の径方向において内側に位置する隔壁部81e,81fの端面は、小径部82bの外周面に回転可能に接触させられている。一方、突条82e,82fの外側の端面、つまりロータ82の径方向において最も外側に位置する突条82e,82fの端面は、
図24〜
図26に示すように、ダンパ本体81の内周面に回転可能に接触させられている。この結果、空間83が、隔壁部81e,81f及び突条82e,82fにより周方向に順次並んだ4つの空間に区分されている。4つの空間のうち、隔壁部81eと突条82eとによって区分される空間、及び隔壁部81fと突条82fとによって区分される空間を高圧室(圧力室)83Aと称し、隔壁部81eと突条82fとによって区分される空間、及び隔壁部81fと突条82eとによって区分される空間を低圧室(圧力室)83Bと称する。
【0051】
図22〜
図26に示すように、突条82e,82fには、凹部82g,82hがそれぞれ形成されている。
図22及び
図23に示すように、一方の高圧室83Aと低圧室83Bとは、凹部82gを介して連通させられ、他方の高圧室83Aと低圧室83Bとは、凹部82hを介して連通させられている。各凹部82g,82hは、弁体85A,85Bによって開閉される。
【0052】
すなわち、
図22及び
図23に示すように、空間83に臨むダンパ本体81の内周面には、ダンパ本体81の径方向における弁体85A,85Bの外側部分が所定の押圧力をもって摺動可能に、かつ封止状態で接触させられている。弁体85A,85Bの内側部分には、ロータ82の突条82e,82fがそれぞれ周方向へ所定範囲移動可能に設けられている。
図22及び
図24に示すように、カップ部材6が閉方向へ回転し、それに伴ってダンパ本体81が矢印A方向へ回転するとともに、ロータ82が矢印B方向へ回転するときには、凹部82g,82hが弁体85A,85Bによってそれぞれ閉じられる。この結果、高圧室83A内の流体は、凹部82g,82hを通ることができず、底部81aと突条82e,82fの先端面との間の僅かの隙間S1(
図26参照)、及び大径部82aと隔壁部81e,81fの先端面との間の僅かの隙間S2(
図28参照)を通って低圧室83Bに流入する。このとき、突条82e,82fの先端面との間の隙間S1、及び大径部82aと隔壁部81e,81fの先端面との間の隙間S2は、流体の流通に対して抵抗する一種のオリフィスとして作用する。したがって、ダンパ本体81の矢印A方向への回転及びロータ82の矢印B方向への回転が低速に抑えられ、ひいてはカップ部材6の閉方向への回転が低速に抑えられる。
【0053】
なお、カップ部材6が噛み合い範囲外において閉方向へ回転するときには、ダンパ本体81が外側リンク5の回転に追随して回転することがない。そのときには、ダンパ本体81が、隔壁部81e,81fと小径部82bとの間の摩擦抵抗、突条82e,82fとダンパ本体81の内周面との間の摩擦抵抗、及び弁体85A,85Bとダンパ本体81の内周面との間の摩擦抵抗により、ロータ82と一緒に回転する。したがって、回転ダンパ81は、ダンパとしての機能を果たすことがない。
【0054】
カップ部材6が開方向へ回転するときには、ダンパ本体81が
図22及び
図23の矢印B方向へ回転し、ロータ82が矢印A方向へ回転する。このときには、
図23及び
図25に示すように、弁体85A,85Bが凹部82g,82h全体を閉じることがなく、凹部82g,82hの一部を開放する。したがって、各低圧室83B,83B内の流体は、それぞれ開放された凹部82g,82hの一部を通って高圧室83A,83Aに流入する。ここで、開放された凹部82g,82hの一部は、低圧室83B内の流体を高圧室83A側へほとんど抵抗なく流すのに十分な流通面積を有している。したがって、ダンパ本体81及びロータ82はほとんど抵抗なく回転することができ、カップ部材6は開方向へ高速で回転することができる。
【0055】
なお、この発明のヒンジ装置に用いられる回転ダンパとしては、上記構成の回転ダンパ8に限定されるものでなく、内側リンク4及び/又は外側リンク5の回転を低速に抑えることができるものであれば、周知の他の構造を有する回転ダンパを採用してもよい。ただし、上記隙間S1,S2のうちの少なくとも一方を有するものであることが必須である。
【0056】
回転ダンパ8のダンパ効果の大きさ、つまりカップ部材6が噛み合い範囲内において閉方向へ回転するときに、ダンパ本体81及びロータ82の回転を低速に抑えるダンパ効果の大きさは、ダンパ本体81をロータ82に対して第1位置と第2位置との間において適宜の位置に位置調節することによって調節することができる。そのために内側リンク4の側板部42とダンパ本体81の底部81aとの間には、次の構成からなる位置調節機構(位置調節手段)が設けられている。
【0057】
すなわち、
図7及び
図14〜
図18に示すように、内側リンク4の側板部(固定部材)42とダンパ本体81の底部81aとの間には、回転カム板(カム部材)95及び可動カム板(第2カム部材)96が側板部42側からダンパ本体81側へ向かって順次配置されている。
【0058】
回転カム板95は、特に
図18に示すように、側板部41と対向する側板部42の内面に回転可能に接触しており、枢軸J1によって回転可能に挿通されている。回転カム板95の外周部には、アーム部95aが形成されている。このアーム部95aは、枢軸J1の径方向外側へ向かって延びている。アーム部95aの先端部には、側板部42側に向かって突出する操作片部95bが形成されている。この操作片部95bは、側板部42を通過し、さらにヒンジ本体3の側板部32に形成された操作窓孔32a(
図2参照)を貫通して外部に突出している。したがって、操作片部95bは、ヒンジ装置1の外部から操作可能である。
【0059】
図29に示すように、操作窓孔32aは、枢軸J1を中心として円弧状に延びる長孔として形成されている。したがって、操作片部95bを操作窓孔32aに沿って移動させることにより、回転カム板95を回転させることができる。
【0060】
操作片部95bは、アーム部95aの弾性により、操作窓孔32aの内周面のうちの大径側の内周面に押圧接触させられている。操作窓孔32aの大径側の内周面には、複数の係合凹部32bが形成されている。一方、操作窓孔32aの内周面に接触する操作片部95bの外面には、係合凹部32bに係脱可能に係合する係合凸部95cが形成されている。この係合凸部95cが、アーム部95aの弾性力によって係合凹部32bに係合させられることにより、操作片部95bが所定の大きさの力で位置決めされ、ひいては回転カム板95の回転位置が定められている。勿論、操作片部95bをアーム部95aの弾性力に抗して操作窓孔32aの小径側へ移動させることにより、係合凸部95cの係合凹部32bに対する係合を解除することができる。そして、その状態を維持しつつ操作片部95bを操作窓孔32aの長手方向へ移動させることにより、回転カム板95を回転させることができる。その後、操作片部95bを自由に移動することができる状態にすると、操作片部95bがアーム部95aの弾性力によって操作窓孔32
aの大径側の内周面に押し付けられ、係合凸部95cが係合凹部32bに係合する。これによって、回転カム板95がその回転位置に維持される。
【0061】
可動カム板96は、
図18に示すように、その一方の面が回転カム板95と対向し、他方の面がダンパ本体81の底部81aに回転可能に接触させられている。可動カム板96には、枢軸J1が回転可能に挿通されている。ただし、可動カム板96は、係合軸34に係合させられている。これにより、可動カム板96は、枢軸J1を中心とする回転が阻止されている。可動カム板96は、枢軸J1及び係合軸34に対してそれらの長手方向へ移動可能になっている。したがって、可動カム板96は、回転カム板95に対して接近離間移動可能である。
【0062】
図7に示すように、回転カム板95の可動カム板96との対向面には、周方向に延びる複数のカム面(カム部)95dが形成されている。一方、可動カム板96の回転カム板95との対向面には、カム面95dと同数のカム面(当接部)96aが形成されている。各カム面95dと各カム面96aとは互いに接触しており、回転カム板95と可動カム板96とは、カム面95d及びカム面96a以外の箇所において接触することがない。
【0063】
互いに接触するカム面95d,96aは、回転カム板95が一方向へ回転させられると、可動カム板96を回転カム板95から離間するように移動させ、ダンパ本体81を第2位置側から第1位置側へ移動させる。すると、底部81aと突条82e,82fとの間の隙間S1、及び大径部82aと隔壁部81e,81fとの間の隙間S2が小さくなり、それらの隙間S1,S2を流れる流体に対する抵抗が大きくなる。したがって、回転ダンパ8のダンパ効果が大きくなる。
【0064】
逆に、回転カム面95が他方向へ回転させられると、カム面95d,96aは、可動カム板96が回転カム板95に接近移動することを許容する。すると、ダンパ本体81が空間83内の流体の圧力により、可動カム板96が第1の位置側から第2の位置側へ移動させられる。この結果、底部81aと突条82e,82fとの間の隙間S1、及び大径部82aと隔壁部81e,81fとの間の隙間S2が大きくなり、それらの隙間S1,S2を流れる流体に対する抵抗が小さくなる。したがって、回転ダンパ8のダンパ効果が小さくなる。
【0065】
上記の内容から明らかなように、このヒンジ装置1においては、回転カム板95、可動カム板96及び空間83内に充填された流体によって
ダンパ本体81をロータ82に対して移動させて位置調節するための位置調節機構(位置調節手段)が構成されている。位置調節機構は、上記の構成に限定されるものでなく、各種の変形例を採用することができる。例えば、回転カム板95と可動カム板96との間に、確動カム機構を設け、回転カム板95の回転によって可動カム板96を回転カム板95に対して接近離間移動させるようにしてもよい。その場合には、可動カム96を移動させるためのものとしては、空間83内の流体が不要である。また、カム面96aについては、これに代えてカム面95dに突き当たる突出部(当接部)を形成してもよい。
【0066】
回転ダンパ8、回転カム板95及び可動カム板96は、次のようにして
ヒンジ本体3に組み込むことができる。まず、
ヒンジ本体3の側板部31,32間に内側リンク4の側板部41,42を挿入する。次に、側板部41,42間に回転ダンパ8を挿入する。そして、回転ダンパ8を側板部42側から側板部41側へ移動させ、突起82cを孔41bに挿入する。次に、回転ダンパ8のダンパ本体81と側板部42との間に回転カム板95を挿入し、回転カム板95の操作片部95bを操作窓孔32aに挿入する。その後、回転カム板95とダンパ本体81との間に可動カム板96を挿入する。最後に、側板部31、側板部41、支持孔82d、可動カム板96、回転カム板95、側板部42、及び側板部32に枢軸J1を挿通する。
【0067】
上記構成のダンパ付きヒンジ装置1において、カップ部材6及び扉が閉方向へ回転するときには、内側リンク4の回転速度が回転ダンパ8によって低速に抑えられる。ここで、操作片部95bを回転操作して回転カム板95を回転させると、ダンパ本体81がロータ82に対して回転軸線方向へ移動し、その分だけ隙間S1,S2の寸法が変化する。その結果、隙間S1,S2の流体に対する抵抗が変化し、回転ダンパ8のダンパ効果が変化する。これにより、内側リンク4の低速回転時における回転速度を適宜に調節することができる。
【0068】
図30〜
図33は、この発明の第2実施の形態を示す。この実施の形態のダンパ付きヒンジ装置1´においては、外側リンク5の回転をダンパ本体81に伝達するための第2回転伝達機構として上記の実施の形態と異なるものが採用されている。すなわち、ダンパ本体81の外周面には、その径方向外側に向かって突出する突出部81gが形成されている。この突出部81gには、その長手方向に延びるガイド孔(ガイド溝)81hが形成されている。突出部81gには、ガイド孔81hに代えて、それと同方向に延びるガイド溝を形成してもよい。一方、外側リンク5の一端部には、軸部54が形成されている。軸部54は、その長手方向を枢軸J2の軸線方向に向けて形成されており、枢軸J2の軸線から離間した箇所に配置されている。軸部54は、ガイド孔81hにその長手方向へ移動可能に、かつ回転可能に挿入されている。したがって、外側リンク5が枢軸J2を中心として回転すると、ダンパ本体81が枢軸J1を中心として回転する。ダンパ本体81は、ロータ82と逆方向へ回転するようになっており、そのようにガイド孔81h及び軸部54が配置されている。なお、ガイド孔81hは、外側リンク5の回転をダンパ本体81に軸部54と協働して伝達することができるものである限り、必ずしもその長手方向を突出部81gの長手方向、つまりダンパ本体81の中心を通る径方向と一致させる必要はなく、径方向と平行な方向に向けて、あるいは径方向と交差する方向に向けて形成してもよい。ヒンジ装置1´の他の構成は、上記第1実施の形態と同様であるので、同様な部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0069】
ガイド孔81hと軸部54とによって外側リンク5の回転をダンパ本体81に伝達する伝達方式は、ロータ82と外側リンク5との間にも採用可能である。その場合には、ロータ82のダンパ本体81から外部に突出した部分に突出部81gに対応する突出部が形成される。また、ダンパ本体81と内側リンク4の側板部42との間には、内側リンク4の回転をダンパ本体81に伝達するために、突起と孔との嵌合による回転伝達機構が設けられる。また、回転ダンパが枢軸J1,J2と異なる軸に設けられる場合には、ガイド孔81hと軸部54とによる回転伝達機構が、内側リンク4とダンパ本体81及びロータ82の一方との間、並びに外側リンク5とダンパ本体81及びロータ82の他方との間にそれぞれ設けてもよい。
【0070】
図34は、この発明に係るヒンジ装置において、上記捩りコイルばね7に代えて用いられる捩りばね7Aを示す。捩りばね7Aは、金属製の板材からなるものであり、当該板材を断面略C字状に巻回してなる筒部74と、この筒部74の軸線方向の一端部に設けられた突出部(一端部)75と、筒部74の他端部に設けられた突出部(他端部)76とによって構成されている。勿論、突出部75は、内側リンク4の側板部41に突き当てられ、突出部76は、外側リンク5の側板部52に突き当てられている。
【0071】
図35〜
図38は、この発明の第3実施の形態を示す。この実施の形態においては、係止機構(第1回転伝達機構)、第2回転伝達機構及び位置調節機構として上記の実施の形態と異なるものが採用されている。まず、係止機構について説明すると、内側リンク4の側板部41の後端部には、枢軸J1の径方向に突出する突起41cが形成されている。一方、ロータ82の側板部41と対向する端面には、二つの突起82i,82iが枢軸J1を中心とする周方向へ所定距離だけ離れて設けられている。そして、二つの突起82i,82i間に突起41cが枢軸J1の周方向へ移動不能に挿入されている。これにより、内側リンク4とロータ82とが相対回転不能に連結され、内側リンク4の回転がロータ82に伝達されるようになっている。
【0072】
次に、第2回転伝達機構について説明すると、外側リンク5の後端部には、係合軸(軸部)55が設けられている。係合軸55は、枢軸J2と平行に配置されており、その両端部が外側リンク5に支持されている。一方、ダンパ本体81の外周面には、二つの突出部81g,81gがダンパ本体81の周方向へ所定距離だけ離れて設けられている。そして、二つの突出部81g,81g間にガイド溝81iが形成されている。このガイド溝81iには、係合軸55の中央部がダンパ本体81の径方向へは移動可能に、周方向へはほとんど移動不能に挿入されている。したがって、外側リンク5が回転すると、その回転方向に応じて係合軸55が二つの突出部81g,81gの一方又は他方に突き当たる。これにより、外側リンク5の回転がダンパ本体81に伝達される。
【0073】
位置調節機構は、回転カム板95及び可動カム板96の配置が上記実施の形態と異なっている。すなわち、回転カム板95は、内側リンク4の側板部42の外側に配置されている。つまり、側板部42とヒンジ本体3の側板部(固定部材)32との間に配置されている。そして、回転カム板95は、側板部32に突き当たることによってダンパ本体81から離間する方向への移動が阻止されている。一方、可動カム板96は、側板部42とダンパ本体81の底部81aとの間に配置されている。したがって、回転カム板95と可動カム板96との間には、側板部42が介在している。回転カム板95及び可動カム板96の各一部は、側板部42から枢軸J1の径方向外側へ突出させられている。側板部42から突出した各一部には、カム面95d,96aに相当するカム面(図示せず)がそれぞれ形成されている。勿論、両カム面どうしは互いに接触させられている。したがって、回転カム板95が回転操作されると、可動カム板96が枢軸J1の軸線方向へ移動し、ダンパ本体81が同方向へ移動する。
【0074】
このような位置調節機構を有するヒンジ装置の内側リンク4、外側リンク5、回転ダンパ8、回転カム板95及び可動カム板96は、ヒンジ本体3の側板部31,32間に次のようにして組み込むことができる。まず、ヒンジ本体3の側板部31,32間に回転カム板95を挿入する。そして、回転カム板95を枢軸J1の軸線方向へ移動させ、側板部32に接触させるとともに、操作片部95bを操作窓孔32aに挿入する。次に、側板部31と回転カム板95との間に内側リンク4の側板部41,42の一端部を挿入する。その後、側板部41,42間に回転ダンパ8を挿入し、突起82i,82i間に突起41cを挿入する。この場合、突起82i,82iの間の間隙が、枢軸J1の径方向外側に向かって開放されているので、突起41cは、突起82i,82i間に枢軸J1の径方向外側から挿入することができる、よって、回転ダンパ8は、枢軸J1の径方向へ移動させるだけで、側板部41,42間に挿入することができる。その後、回転ダンパ8と側板部42との間に可動カム板96を挿入する。可動カム板96は、回転ダンパ8の側板部41,42間への挿入前に、あるいは回転ダンパ8と同時に側板部41,42間に挿入してもよい。また、回転ダンパ8及び可動カム板96は、側板部41,42を側板部31,32(回転カム板95)間に挿入前に、側板部41,42間に予め挿入しておいてもよい。その後、側板部31,32、側板部41,42、回転ダンパ8、回転カム板95及び可動カム板96に枢軸J1を挿通する。これによって、組み込みを完了する。なお、その後、外側リンク5を側板部31,32間に挿入し、係合軸55を突出部81g,81g間のガイド溝81iに挿入し、側板部31,32、及び外側リンク5に枢軸J2を挿通する。外側リンク5は、内側リンク4の側板部31,32間への挿入前に側板部31,32間に挿入しておいてもよい。その場合には、回転ダンパ8を側板部41,42間に挿入するときに、係合軸55を突出部81g,81g間のガイド溝81iに相対的に挿入する。
【0075】
また、この実施の形態においては、カム部材91の二つの突出部91c,91dの一端部どうしが互いに連結され、二つの突出部91c,91dが全体として略「U」字状に形成されている。突出部91c,91dの間隔は、捩りコイルばね7の突出部72より若干広くなっており、突出部72は、突出部91c,91d間にコイル部71の周方向へ若干の距離だけ移動可能になっている。勿論、突出部72は、突出部91c,91d間にコイル部71の周方向へ移動不能に挿入してもよい。
【0076】
さらに、この実施の形態においては、可動カム板96が係合軸34に代えてスペーサ92によって回り止めされている。そのために可動カム板96の外周面には、係合凹部96bが形成されている。この係合凹部96bの底面は、支持軸J3の軸線を中心とする円弧面によって構成されている。一方、スペーサ92の外周面は、支持軸J3の軸線を中心とする円弧面であり、その曲率半径は係合凹部96bを構成する円弧面の曲率半径と同一に設定されている。そして、スペーサ92の外周面の一部が係合凹部96bに挿入されている。これにより、可動カム板96の回転が阻止されている。しかも、スペーサ92は、可動カム板96によって回転が阻止されることがない。
【0077】
図39及び
図40は、この発明の第4実施の形態を示す。この実施の形態においては、内側リンク4に代えて、上内側リンク4Aと下内側リンク(第1リンク)4Bとの二つのリンクが用いられている。上下の内側リンク4A,4Bは、上記内側リンク4の連結板部43を省略して二つの側板部31,32を独立させた場合の側板部32,31にそれぞれ対応した形態を呈しており、互いに独立し、上下方向へ互いに離間して配置されている。したがって、上内側リンク4Aは、ヒンジ本体3の側板部32の内側を向く面に接するように配置されている。一方、下内側リンク4Bは、側板部31の内側を向く面に接するように配置されている。
【0078】
下内側リンク4Bの一端部(枢軸J1側の端部)には、カム面41aが形成されている。このカム面41aには、カム部材91のカム面91aが捩りコイルばね7によって押し付けられている。したがって、下内側リンク4Bは、捩りコイルばね7によって回転付勢されており、扉側取付部材6を回転させる。一方、上内側リンク4Aは、捩りコイルばね7によって回転付勢されることがなく、扉側取付部材6の回転に追随して回転するだけである。
【0079】
図40に示すように、操作窓孔32aの内周面のうちの大径側の部分には、係止凹部32cが形成されている。この係止凹部32cには、可動カム板96に形成された係止腕96eが係止されている。これにより、可動カム板96がヒンジ本体3の側板部31に回転不能に、かつ枢軸J1の軸線方向へ移動可能に設けられている。
【0080】
回転カム板95の外周面には、その径方向に突出する突出部95eが形成されている。この突出部95eの可動カム板96側を向く面には、可動カム板96側に向かって突出する係止突起95fが形成されている。一方、可動カム板96の外周面には、周方向に延びる突条96cが形成されている。この突条96cの回転カム板95側を向く面には、複数の係合凹部96dが形成されている。この係合凹部96dは、回転カム板95を適宜に回転させると、係止突起95fがいずれかの係合凹部96dに嵌り込むように配置されている。これにより、回転カム板95の回転位置が定められ、ひいては回転ダンパ8の軸線方向における可動カム板96の位置が定められている。なお、この実施の形態では、ダンパ本体81がヒンジ本体3に位置固定されており、可動カム板96が位置調節されると、ロータ82がダンパ本体81に対しその軸線方向へ位置調節され、それによって回転ダンパ8のダンパ力が調節されるようになっている。
【0081】
また、この実施の形態においても、突出部81gにガイド孔81hが形成されているが、ガイド孔81hは、ダンパ本体81の径方向と直線的に延びることなく、屈曲させられている。これにより、回転ダンパ装置8のダンパ力が扉側取付部材6の回転位置に応じて曲線的に変化するように構成されている。
【0082】
なお、この発明は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲において各種の変形例を採用することができる。
例えば、上記の実施の形態においては、カップ部材6がヒンジ本体3に内側及び外側の二つのリンク4,5によって回転可能に連結されているが、周知の他のヒンジ装置のように、カップ部材6とヒンジ本体3との間にさらに他のリンクを用いてもよい。
また、上記の実施の形態においては、内側リンク4を第1リンクとし、外側リンク5を第2リンクとしているが、内側リンク4を第2リンクとし、外側リンク5を第1リンクとしてもよい。その場合には、例えば回転ダンパ8が外側リンク5内に配置され、ロータ82が外側リンク5に回転不能に連結され、ダンパ本体81が内側リンク4の回転に伴って回転するように内側リンク4に連結される。また、突出部73がカム部材91を介して外側リンク5に接触させられる。
さらに、上記の実施の形態においては、回転ダンパとして、ダンパ本体81の収容部81Aの内周面とロータ82の外周面との間に環状の空間83が形成された回転ダンパ8が採用されているが、回転ダンパ8に代えて、例えば特開2006−242253号公報や特表2010−528938号公報に記載されているように、ダンパ本体の収容部の内周面とロータの外周面との間に扇状ないしは略半円状の空間が形成された回転ダンパを用いてもよい。