(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663088
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】鉗子及び鉗子ユニット
(51)【国際特許分類】
A61B 17/28 20060101AFI20150115BHJP
【FI】
A61B17/28
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-516162(P2013-516162)
(86)(22)【出願日】2011年8月12日
(86)【国際出願番号】JP2011068478
(87)【国際公開番号】WO2012160715
(87)【国際公開日】20121129
【審査請求日】2013年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-118534(P2011-118534)
(32)【優先日】2011年5月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511128594
【氏名又は名称】石井 正紀
(73)【特許権者】
【識別番号】592226730
【氏名又は名称】株式会社平田精機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】石井 正紀
(72)【発明者】
【氏名】平田 稔
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0298774(US,A1)
【文献】
特開2006−341111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織を把持する鉗子であって、
軸線方向に貫通孔が形成された棒状の管状シャフトと、
該管状シャフト内に挿通され、前記管状シャフト内を軸線方向に動作可能な棒状のインサート部材と、
前記インサート部材の先端に設けられ、組織につかむための力を与える先端部及び前記インサート部材の動作により開閉させるための力が与えられる牽引部をそれぞれ有する開閉可能な一対の把持用部材を有する把持部と、
前記インサート部材の末端に連結されるハンドルと、
前記ハンドルを前記インサート部材に連結させた状態で、前記ハンドルを前記管状シャフトに着脱可能に固定する固定部と、
を備え、
前記管状シャフトの先端は、前記管状シャフトの末端及び本体の径よりも大きな径を有し、前記把持部の末端に連結され、
前記把持部の前記管状シャフトとの接続箇所の断面と、前記管状シャフトの先端の径とは同一であり、
前記インサート部材の末端には、前記管状シャフトの本体の径よりも小さい径を有するジョイント部が形成され、
前記固定部は、挿通孔が形成され、前記管状シャフトの末端を軸線方向に係止するためチャック部材と、挿通孔が形成され、前記ハンドルに設けられた連結部と連結する固定リングと、を有し、
前記ハンドルには、前記ジョイント部を収容するとともにハンドル操作によって進退するジョイント受け口が設けられ、
前記インサート部材を挿入した前記管状シャフトの末端が前記チャック部材及び前記固定リングに挿入され、前記ハンドルの前記ジョイント受け口と前記インサート部材の前記ジョイント部とが連結され、前記チャック部材が前記固定リングと前記ハンドルとの間に挟み込まれ、前記固定リングにより前記チャック部材が前記ハンドルに固定される鉗子。
【請求項2】
前記管状シャフトは、径の大きさが除々に変化するように形成される請求項1に記載の鉗子。
【請求項3】
前記管状シャフトは、単一の部材で構成される請求項1又は2に記載の鉗子。
【請求項4】
前記チャック部材には、前記管状シャフトの末端を軸線方向に係止するための凸状段差部が挿通孔の内周に沿って設けられ、
前記管状シャフトの末端が前記チャック部材の凸状段差部に突き当てられた状態で、前記固定リングにより前記チャック部材が前記ハンドルに固定される請求項1〜3の何れか一項に記載の鉗子。
【請求項5】
組織を把持する鉗子を備える鉗子ユニットであって、
腹腔内への挿入部となるトロカールと、
管状シャフトと、該管状シャフト内に挿通され、前記管状シャフト内を軸線方向に動作可能な棒状のインサート部材と、前記インサート部材の先端に設けられ、組織につかむための力を与える先端部及び前記インサート部材の動作により開閉させるための力が与えられる牽引部をそれぞれ有する開閉可能な一対の把持用部材を有する把持部と、前記インサート部材の末端に連結されるハンドルと、前記ハンドルを前記インサート部材に連結させた状態で、前記ハンドルを前記管状シャフトに着脱可能に固定する固定部とを備える鉗子と、
腹腔内からの前記管状シャフトの引出し部となる細径の細径ポートと、
を有し、
前記管状シャフトの先端は、前記管状シャフトの本体の径及び前記細径ポートの挿通孔の径よりも大きな径を有し、前記把持部の末端に連結され、
前記把持部の前記管状シャフトとの接続箇所の断面と、前記管状シャフトの先端の径とは同一であり、
前記管状シャフトの本体及び末端は、前記細径ポートの挿通孔の径よりも小さい径を有し、
前記インサート部材の末端には、前記管状シャフトの本体及び末端の径よりも小さい径を有するジョイント部が形成され、
前記固定部は、挿通孔が形成され、前記管状シャフトの末端を軸線方向に係止するためチャック部材と、挿通孔が形成され、前記ハンドルに設けられた連結部と連結する固定リングと、を有し、
前記ハンドルには、前記ジョイント部を収容するとともにハンドル操作によって進退するジョイント受け口が設けられ、
前記インサート部材を挿入した前記管状シャフトの末端が前記チャック部材及び前記固定リングに挿入され、前記ハンドルの前記ジョイント受け口と前記インサート部材の前記ジョイント部とが連結され、前記チャック部材が前記固定リングと前記ハンドルとの間に挟み込まれ、前記固定リングにより前記チャック部材が前記ハンドルに固定される鉗子ユニット。
【請求項6】
前記インサート部材の末端に接続可能であり、前記細径ポートの挿通孔の径よりも小さい径を有する管状のシャフトガイド部材をさらに備える請求項5に記載の鉗子ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、腹腔内において内視鏡下で外科手術する際に使用される鉗子又は鉗子ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外科手術に用いられる鉗子として、細い径の管状シャフト1の先端部に設けられた開閉可能な把持構造を、手元部となる反対端において遠隔的に開閉操作するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。本明細書では、この鉗子先端部の把持構造を「把持部」といい、特に鰐の口のような形状を有する把持部を「鰐口部」という。
図17に示すように、鰐口部2は、一対の把持用部材A,Bが、支点部3の回転軸を中心に互いに回転可能に結合される。より詳しくは、把持用部材A,Bは各々、目的物につかむための力を与える作用点部4と、操作側よりつかむための力が与えられる力点部5とを有する。また、作用点部4のなかでも目的物に直接接触する対物面4a,4bには、目的物を好適に保持するための溝が必要に応じて設けられる。このような構成において、手元部となる反対端からハンドル6と連結したワイヤ(インサート部材)7等を用いて力点部5に開閉のための力を伝えると、例えば支点部3の回転軸を中心に把持用部材A、Bが回転して閉じ、目的物をつかむことができる。
【0003】
上述した鉗子は、微細な間隙内の奥深くの目的物をつかむ必要のある種々の作業に用いられる。例えば、腹腔内の外科手術の分野において有用である(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に記載の腹腔鏡下手術においては、複数本のトロカールと呼ばれる連通管を腹壁を貫通して腹腔内に挿入し、一本のトロカールから挿入した小型カメラ(内視鏡)によって腹腔内をモニター画像で観察しつつ、他のトロカールから挿入された鉗子、鋏、メス、持針器等の器具によって、前記モニター画像を見ながら腹腔内で種々の外科的処置を行う。
【0004】
このような腹腔鏡手術で用いられる鉗子として、管状シャフトの径が約5mm程度の一般的な鉗子と、管状シャフトの径が約2mm程度の細径鉗子とが知られている。通常の鉗子は、例えば約5mmの径のトロカールに挿入される。細径鉗子は、例えば約2mm(より詳しくは2.4mm)の径の細径ポート(商品名:MINI−PORT)に挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−299075号公報
【特許文献2】特開平7−265321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外科手術にあっては、手術創をできるだけ小さくすることが望まれている。このため、細径ポートを通過できる細径鉗子を採用することが好ましい。細径鉗子を細径ポートへ通すためには、その先端部に取り付けられた把持部を含めて細径鉗子全体の径を細径ポートと合わせたサイズとする必要がある。しかしながら、把持部及び管状シャフトの先端部を小さくすると、強度が十分でない場合がある。また、患部をつまむ力が弱くなるため、把持できる組織が限定されるおそれがある。
【0007】
このため、当分野においては、手術創を小さくすることができるとともに、腹腔内で適切に組織を把持することが可能な鉗子及び鉗子ユニットが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る鉗子は、腹腔内で組織を把持する鉗子である。この鉗子は、管状シャフト、インサート部材、把持部、ハンドル及び固定部を備えている。インサート部材は、管状シャフト内に挿通され、管状シャフト内を軸線方向に動作可能な棒状の部材である。把持部は、インサート部材の先端に設けられ
、組織につかむための力を与える先端部及びインサート部材の動作により開閉させるための力が与えられる牽引部をそれぞれ有する開閉可能な一対の把持用部材を有する。ハンドルは、インサート部材の末端に連結される。固定部は、ハンドルをインサート部材に連結させた状態で、ハンドルを管状シャフトに着脱可能に固定する。管状シャフトの先端は、管状シャフトの本体の径よりも大きな径を有
し、把持部の末端に連結される。
把持部の管状シャフトとの接続箇所の断面と、管状シャフトの先端の径とは同一である。インサート部材の末端には、管状シャフトの本体の径よりも小さい径を有するジョイント部が形成される。
固定部は、挿通孔が形成され、管状シャフトの末端を軸線方向に係止するためチャック部材と、挿通孔が形成され、ハンドルに設けられた連結部と連結する固定リングと、を有する。ハンドルには、ジョイント部を収容するとともにハンドル操作によって進退するジョイント受け口が設けられる。
インサート部材を挿入した管状シャフトの末端がチャック部材及び固定リングに挿入され、ハンドルのジョイント受け口とインサート部材のジョイント部とが連結され、チャック部材が固定リングとハンドルとの間に挟み込まれ、固定リングによりチャック部材がハンドルに固定される。
【0009】
このように、鉗子は、管状シャフトの先端の径が本体の径よりも大きいため、本体と同一の径の先端を有する管状シャフトに把持部が取り付けられた場合に比べて強度を保つことができる。このため、装着される把持部の大きさを管状シャフトの先端の大きさに合わせて大きくすることが可能となる。従って、様々な組織の保持に対応可能となる。また、ハンドルが管状シャフトから着脱可能であること、及び、管状シャフトのジョイント部が管状シャフトの本体の径よりも小さい径となることによって、管状シャフトの先端から腹腔内へ鉗子を挿入するのではなく、ハンドルを取り外し、管状シャフトの末端から腹腔内へ鉗子(ハンドルを除く)を挿入するとともに、管状シャフトの末端を腹腔外へ引き出してハンドルを取り付けることができる。すなわち、鉗子を用いるための手術創の大きさを、管状シャフトの末端及び本体が挿通可能な孔程度の大きさとすることが可能となる。このように、鉗子の先端の大きさ又は把持部の大きさに捕らわれずに、手術創の大きさを小さくすることができる。
【0010】
また、ハンドルとインサート部材とは、インサート部材のジョイント部がハンドル部材のジョイント受け口に収容されることで連結される。そして、固定部によって、ハンドルと管状シャフトとが固定される。このような構成を有することで、手術創の大きさに影響するインサート部材及び管状シャフトの径の大きさを拡大することなく、着脱可能な連結構造を実現することができる。
【0011】
一実施形態においては、管状シャフトは、径の大きさが除々に変化するように形成されてもよい。このように構成することで、鉗子の強度を一層高めることができる。
【0012】
一実施形態においては、
チャック部材には、管状シャフトの末端を軸線方向に係止するための凸状段差部が挿通孔の内周に沿って設けられていてもよい
。管状シャフトの末端がチャック部材の凸状段差部に突き当てられた状態で、固定リングによりチャック部材がハンドルに固定されてもよい。このように構成することで、着脱可能な連結構造を実現することができる。
【0013】
また、本発明の他の側面に係る鉗子ユニットは、組織を把持する鉗子を備える鉗子ユニットである。この鉗子ユニットは、トロカール、鉗子及び細径ポートを備えている。トロカールは、腹腔内への挿入部となる。鉗子は、管状シャフト、インサート部材、把持部、ハンドル及び固定部を備えている。インサート部材は、管状シャフト内に挿通され、管状シャフト内を軸線方向に動作可能な棒状の部材である。把持部は、インサート部材の先端に設けられ
、組織につかむための力を与える先端部及びインサート部材の動作により開閉させるための力が与えられる牽引部をそれぞれ有する開閉可能な一対の把持用部材を有する。ハンドルは、インサート部材の末端に連結される。固定部は、ハンドルをインサート部材に連結させた状態で、ハンドルを管状シャフトに着脱可能に固定する。管状シャフトの先端は、管状シャフトの本体の径よりも大きな径を有
し、把持部の末端に連結される。
把持部の管状シャフトとの接続箇所の断面と、管状シャフトの先端の径とは同一である。インサート部材の末端には、管状シャフトの本体の径よりも小さい径を有するジョイント部が形成される。
固定部は、挿通孔が形成され、管状シャフトの末端を軸線方向に係止するためチャック部材と、挿通孔が形成され、ハンドルに設けられた連結部と連結する固定リングと、を有する。ハンドルには、ジョイント部を収容するとともにハンドル操作によって進退するジョイント受け口が設けられる。
インサート部材を挿入した管状シャフトの末端がチャック部材及び固定リングに挿入され、ハンドルのジョイント受け口とインサート部材のジョイント部とが連結され、チャック部材が固定リングとハンドルとの間に挟み込まれ、固定リングによりチャック部材がハンドルに固定される。
【0014】
このように、鉗子は、管状シャフトの先端の径が本体の径よりも大きいため、本体と同一の径の先端を有する管状シャフトに把持部が取り付けられた場合に比べて強度を保つことができる。このため、装着される把持部の大きさを管状シャフトの先端の大きさに合わせて大きくすることが可能となる。従って、様々な組織の保持に対応可能となるまた、ハンドルが管状シャフトから着脱可能であること、及び、管状シャフトのジョイント部が管状シャフトの本体の径よりも小さい径となることによって、管状シャフトの先端から腹腔内へ鉗子を挿入するのではなく、ハンドルを取り外し、管状シャフトの末端からトロカールを介して腹腔内へ鉗子(ハンドルを除く)を挿入するとともに、細径ポートを介して管状シャフトの末端を腹腔外へ引き出してハンドルを取り付けることができる。すなわち、鉗子を用いるための手術創の大きさを、管状シャフトの末端及び本体が挿通可能な孔程度の大きさとすることが可能となる。このように、鉗子の先端の大きさ又は把持部の大きさに捕らわれずに、手術創の大きさを小さくすることができる。
【0015】
一実施形態においては、インサート部材の末端に接続可能であり、細径ポートの挿通孔の径よりも小さい径を有する管状のシャフトガイド部材をさらに備えてもよい。シャフトガイド部材を備えることで、ハンドルを取り外した鉗子をトロカールへ挿入する前に、シャフトガイド部材の一端部を細径ポートへ挿入し、シャフトガイド部材の他端部を腹腔内へ挿入させない状態でトロカールを介してシャフトガイド部材の一端部を引き出してインサート部材の末端に接続することができる。そして、シャフトガイド部材の他端部を細径ポートから引き抜くことで、管状シャフトの末端を腹腔外へ容易に引き出すことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
手術創を小さくすることができるとともに、腹腔内で適切に組織を把持することが可能な鉗子及び鉗子ユニットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】一実施形態に係る鉗子の管状シャフトとハンドルとの連結機構の一例を示す拡大図である。
【
図3】一実施形態に係る鉗子の管状シャフトの側面図である。
【
図4】一実施形態に係る鉗子のインサート部材の側面図である。
【
図5】一実施形態に係る鉗子の把持部の側面図である。
【
図6】一実施形態に係る鉗子のチャック部材の断面図である。
【
図7】一実施形態に係る鉗子のチャック部材の上面図である。
【
図8】一実施形態に係る鉗子の固定リングの断面図である。
【
図10】一実施形態に係る鉗子ユニットの使用状態を模式的に示すものであり、トロカールおよび細径ポートを腹部に挿入した状態の概略図である。
【
図11】トロカールに細径鉗子を挿入しようとする状態の概略図である。
【
図12】トロカールに細径鉗子を挿入した状態の概略図である。
【
図13】細径ポートから細径鉗子の管状シャフトを引き出した状態の概略図である。
【
図14】細径鉗子の管状シャフトの端部にハンドルを装着し、腹腔内において内視鏡下で外科手術する際の使用状態を模式的に示す概略図である。
【
図15】シャフトガイドを用いてトロカールに細径鉗子を挿入しようとする状態の概略図である。
【
図16】シャフトガイドを用いてトロカールに細径鉗子を挿入した状態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、一実施形態に係る腹腔鏡手術用の鉗子及び鉗子ユニットを図面に基づいて詳細に説明する。
図1は鉗子の側面図、
図2は管状シャフトとハンドルとの連結機構の一例を示す拡大図、
図3は管状シャフトの側面図、
図4はインサート部材の側面図、
図5は把持部の側面図である。
【0019】
図1に示すように、一実施形態に係る細径鉗子(鉗子)15は、管状シャフト13、インサート部材14、把持部(鰐口部)16、固定リング(固定部)38及びハンドル18を有する。
【0020】
図1,3に示すように、管状シャフト13は、軸線方向に貫通孔が形成された部材である。管状シャフト13の内部には、インサート部材14及び把持部16の一部が収容される。管状シャフト13は、例えば、金属で形成される。また、管状シャフト13は、後述するトロカール12の内径よりも細径とされる。例えば、トロカール12の内径が5mmより大きい場合、管状シャフト13の径は5mm以下とされる。
【0021】
管状シャフト13は、末端13c及び本体13aの径に比べて先端13bの径が拡げられている。すなわち管状シャフト13の先端13bは、管状シャフト13の本体13aの径よりも大きな径を有する。管状シャフト13は、径の大きさが除々に変化するように形成される。例えば、先端13bの径となるまで、本体13aから先端13bに向かうに従って除々に径の大きさが大きくなる。言い換えると、管状シャフト13は、先端13bから末端13cへ向かう途中からなだらかに絞られ、本体13aの径となるまでテーパ状に細くされている。このような構造によって管状シャフト13の強度が充分に保たれる。
【0022】
図1,4に示すように、インサート部材14は、棒状部材であり、管状シャフト13内に挿通される。すなわち、インサート部材14は、管状シャフト13の内径よりも小さい径を有し、管状シャフト13内を動作可能に構成される。インサート部材14の末端14cには、ハンドル18と連結するためのジョイント部37が形成されている。ジョイント部37は、管状シャフト13の本体13aの径よりも小さい径を有する。ジョイント部37は、例えば、インサート部材14の外周を削り取って溝14dを形成することによって形成される。ジョイント部37は、後述するジョイント受け口の形状に合わせて加工されてもよい。例えば、ジョイント部37はボール形状に加工される。なお、ボール形状とすることで、後述する腹腔内への挿入時において腹腔内を傷つけることを回避することができる。インサート部材14は、後述するハンドル18のハンドル操作に応じて管状シャフト13内を軸線方向に動作する。なお、インサート部材14は、管状シャフト13の内径の大きさに沿った太さを有していてもよい。そして、インサート部材14は、それぞれの太さにかかわらず一体に形成されてもよい。インサート部材14は、例えば金属で形成される。
【0023】
図1,2に示すように、ハンドル18は、管状シャフト13の末端13cに連結される。ハンドル18は、筒状本体31aを備えた固定部材31と、固定部材31の所定位置に回転軸32を介して回転可能に軸着された可動部材33を備える。可動部材33の回転軸32の反対側の位置には、牽引レバー34が連結されている。また、固定部材31の筒状本体31aの前部には、連結部(固定部)35が取り付けられている。連結部35の前面には、ジョイント受け口36が配設される。このジョイント受け口36は、牽引レバー34によって進退可能に構成されている。ハンドル18は、インサート部材14に連結された状態で、管状シャフト13に着脱可能に固定されている。固定リング38は、ハンドル18及び管状シャフト13を着脱可能に固定して連結する構成要素である。なお、ハンドル18、インサート部材14及び管状シャフト13の連結構造については後述する。
【0024】
把持部16は、インサート部材14の先端に設けられ、管状シャフト13の先端13bに連結されている。これにより、ハンドル18の操作によってインサート部材14が動作し、インサート部材14の動作に応じて把持部16が動作する。また、把持部16が管状シャフト13の先端13bに連結されていることによって把持部16の強度が保たれる。
【0025】
図1,5に示すように、把持部16は、把持用部材A、Bを備えている。把持用部材A、Bは各々、目的物につかむための力を与える先端部22と、ハンドル18によって掴むための力が与えられる牽引部23とを有する。そして、先端部22のなかでも目的物に直接接触する対物面22a,22bには、目的物を好適に保持するための溝が必要に応じて設けられる。このような構成において、ハンドル18を操作し、インサート部材14等を用いて牽引部23に開閉のための力を伝えると、例えば支点の回転軸21を中心に先端部22が回転して閉じ、目的物をつかむことができる。なお、把持部16は、用途に応じて様々な大きさに変更してもよい。例えば、把持部16は、管状シャフト13の中央13a及び末端13cよりも大きな断面を有していてもよい。また、把持部16は、径が5mmの従来の鉗子と同様の構造であってもよい。すなわち、従来の鉗子の把持部を採用することができるため、汎用性に優れている。さらに、把持部16とインサート部材14との連結構造は、径が5mmの従来の鉗子と同様の構造とすることができるので、把持部16の耐久性は径が5mmの従来の鉗子と同様とすることが可能となる。また、細径鉗子15の管状シャフト13の先端に設けた把持部16は、該管状シャフト13と一体に形成されてもよい。
図1では管状シャフト13の先端13bそのものが太くなっていて把持部16を一体的に構成している例を示している。
【0026】
以下では、ハンドル18、インサート部材14及び管状シャフト13の連結構造について概説する。
【0027】
図2に示すように、ハンドル18とインサート部材14とは、管状シャフト13の末端13c部分に配置されたインサート部材14のジョイント部37が、ハンドル18のジョイント受け口36に取り付けられることで連結される。管状シャフト13の端部外周には、固定リング38が配置されている。ハンドル18と管状シャフト13とは、ハンドル18の筒状本体31a前部の連結部35に固定リング38が連結されることで連結される。該連結部35と固定リング38との連結手段としては、ネジ式、磁石式、クランプ式等の適宜手段を採用することができる。このように、ハンドル18は管状シャフト13の末端13cに着脱可能に取り付けられる。
【0028】
なお、ハンドル18、インサート部材14及び管状シャフト13の連結構造は、上述した連結構造に限られない。例えば、以下に示すようにチャック部材(固定部)を用いた連結構造を採用してもよい。
図6はチャック部材の断面図、
図7はチャック部材の上面図、
図8は固定リング38の断面図、
図9は鉗子の組み立て図である。
【0029】
チャック部材は、管状シャフト13の末端を軸線方向に係止するための部材である。
図6,7に示すように、チャック部材40は、円筒状の本体部40a及び管状のガイド部40bを有する。円筒状の本体部40aは、底部40cに小径40dが形成されている。小径40dの大きさは、管状シャフト13の径よりも小さく、かつ、インサート部材14の径よりも大きく形成される。ガイド部40bは、管状シャフト13及びインサート部材14を案内する部材である。ガイド部40bは、その軸線が本体部40aの小径40dの中心を通るように、本体部40aの底部40cに取り付けられている。すなわち、ガイド部40bの内部と本体部40aの小径40dとは連通されており、管状シャフト13及びインサート部材14を挿通するための挿通孔を形成している。ガイド部40bの内径は、小径40dの径及び管状シャフト13の径よりも大きく形成されている。このように構成することで、ガイド部40bの内部及び小径40dからなる挿通孔には、その内周に沿って凸状段差部40fが形成される。なお、ガイド部40bに軸線方向に沿ってスリット40gを形成することにより、チャック部材40の着脱が容易となる。
【0030】
図8に示すように、固定リング38は円筒状の本体部を有する。底部38aには、小径の挿通孔38bが形成されている。本体部内部は、例えばチャック部材40の本体部40aを収容可能な大きさとされる。挿通孔38bは、例えばチャック部材40のガイド部40bを収容可能な大きさとされる。すなわち、固定リング38は、チャック部材40を収容可能に構成されている。また、本体部の内面には、ハンドル18に設けられた雄ねじ部(連結部35)と連結するための雌ねじ部38cが形成されている。
【0031】
図9に示すように、インサート部材14を挿入した管状シャフト13の末端が、固定リング38の挿通孔38b、及び、チャック部材40のガイド部40bに挿通される。そして、ハンドル18のジョイント受け口36とインサート部材14のジョイント部37とが連結される。さらに、チャック部材40が固定リング38とハンドル18との間に挟み込まれて管状シャフト13の末端がチャック部材40の凸状段差部40fに突き当てられた状態となる。この状態で、固定リング38がチャック部材40を収容するとともに、ハンドル18の連結部35と連結される。これにより、チャック部材40がハンドル18に固定される。すなわち、チャック部材40を嵌めた管状シャフト13がハンドル18に固定される。このように、インサート部材14の端部を大きくすることなく、着脱可能な接続機構を実現することができる。
【0032】
次に、腹腔鏡手術用の鉗子ユニットについて説明する。鉗子ユニット11は、少なくとも以下の部材によって構成されている。
1)腹腔内への挿入部となる所定サイズのトロカール12
2)腹腔内への挿入部となるトロカール12の内径よりも細径の管状シャフト13と、該管状シャフト13内に挿通されたインサート部材14と、管状シャフト13の先端に設けられ、トロカール12の内径にほぼ等しい把持部16と、管状シャフト13の末端部分に着脱可能に取り付けられたハンドル18とを有する細径鉗子15
3)腹腔内からの管状シャフト13の引出し部となる細径の細径ポート17
【0033】
図10ないし
図14に示すように、腹腔内への挿入部となる腹部に挿通した所定サイズのトロカール12は、約5mmの内径を備えたものであり、かつ細径鉗子15の管状シャフト13の先端13bを挿通することができる内径サイズとなっている。同様に、
図10ないし
図14に示すように、トロカール12とは別の位置の腹部に挿通した細径の細径ポート17は、約2mm(より詳しくは2.4mm)の内径を備えたものである。径が約2mm(より詳しくは2.1mm)である管状シャフト13の腹腔内からの引出し部となるため、該管状シャフト13とほぼ等しい内径サイズとなっている。
【0034】
腹腔鏡手術用の鉗子ユニット11の使用に際しては、
図10に示すように、腹腔内への挿入部となる径がほぼ5mmのトロカール12を腹部に挿通する。同様に、トロカール12から一定の間隔をおいて腹部の別の位置には、管状シャフト13の腹腔内からの引出し部となる細径の細径ポート17を挿通しておく。
【0035】
その状態で、
図11に示すように、ハンドル18を取り外した細径鉗子15を細径の管状シャフト13の末端から該トロカール12を介して腹腔内へ挿入する。そして、
図12に示すように、管状シャフト13の先端を細径ポート17に向けて矢印方向に腹腔内を移動させる。次いで、
図13に示すように、細径ポート17から細径鉗子15の管状シャフト13の先端を引き出し、チャック部材40を取り付け、インサート部材14のジョイント部37をハンドル18のジョイント受け口36に取り付けた上、筒状本体31a前部の連結部35に固定リング38を連結することにより、該管状シャフト13の末端部分にハンドル18を装着する。その状態においては、前記細径鉗子15の管状シャフト13の先端に設けた把持部16は腹腔内にある。
【0036】
このように組み付けた上でハンドル18を操作すれば、
図14に示すように、管状シャフト13の先端に設けられた把持部16を腹腔内で自在に操作することができる。このように
図14は、細径鉗子15の管状シャフト13の端部にハンドル18を装着し、腹腔内で細径鉗子15を用いて内視鏡下で外科手術する際の使用状態を模式的に示すものである。
【0037】
なお、鉗子ユニット11は、管状シャフト13の端部を細径ポート17から引き出す補助具として、管状のシャフトガイド部材50を備えてもよい。シャフトガイド部材50は、細径ポート17の挿通孔の径よりも小さい径を有する。例えば、管状シャフト13の末端13c及び本体部13aと同一の径を有する。そして、このシャフトガイド部材50は、インサート部材14の末端に接続可能である。例えば、シャフトガイド部材50の内部にインサート部材14を挿通させて嵌め合わされる。
【0038】
シャフトガイド部材50の使用例を説明する。ここではトロカール12に腹腔鏡が既に挿入されているものとする。まず、
図15に示すように、シャフトガイド部材50の一端部を、細径ポート17を介して腹腔内へ挿入する。そして、トロカール12へ挿入された腹腔鏡に向かってシャフトガイド部材50を移動させる。そして、トロカール12内へシャフトガイド部材50を挿入する。そして、トロカール12を介して腹腔外にシャフトガイド部材50の一端部を引き出し、シャフトガイド部材50の一端部とインサート部材14とを結合させる。このとき、シャフトガイド部材50の他端部は、細径ポート17を介して腹腔外に残ったままである。その後、
図16に示すように、インサート部材14を押し込んでいき、トロカール12から引き出す。トロカール12からトロカール12より細い細径ポート17へ棒状部材を挿入するよりも、細径ポート17から細径ポート17より太いトロカール12へ棒状部材を挿入する方が容易である。シャフトガイド部材50を先に挿入することによって、トロカール12と細径ポート17との軸を合わせることができる。これにより、鉗子15の挿入が容易となる。
【0039】
以上、一実施形態に係る鉗子15及び鉗子ユニット11によれば、管状シャフト13の先端13bの径が本体13aの径よりも大きいため、本体13aと同一の径の先端13bを有する管状シャフト13に把持部16が取り付けられた場合に比べて強度を保つことができる。このため、装着される把持部16の大きさを管状シャフト13の先端13bの大きさに合わせて大きくすることが可能となる。従って、様々な組織の保持に対応可能となる。また、ハンドル18が管状シャフト13から着脱可能であること、及び、管状シャフト13のジョイント部37が管状シャフト13の本体13aの径よりも小さい径となることによって、管状シャフト13の先端13bから腹腔内へ鉗子15を挿入するのではなく、ハンドルを取り外し、管状シャフト13の末端13cから腹腔内へ鉗子(ハンドル18を除く)を挿入するとともに、管状シャフト13の末端13cを腹腔外へ引き出してハンドル18を取り付けることができる。すなわち、鉗子15を用いるための手術創の大きさを、管状シャフト13の末端13c及び本体13aが挿通可能な孔程度の大きさとすることが可能となる。近年、美容的な観点及び回復の早さの観点から、腹腔鏡手術では、できるだけポートの数を減らすことが重要となってきている。さらに、そのポートの大きさもできるだけ小さくすることが求められている。しかし、単孔式手術は、多孔式手術に比べて自由度が小さいことから補助鉗子が必要な場合がある。また、把持する対象の組織によっては、把持部を大きくすることが必要となるため、結果として補助鉗子のポートの大きさを小さくできない場合がある。一実施形態に係る鉗子15及び鉗子ユニット11によれば、鉗子15の先端の大きさ又は把持部16の大きさに捕らわれずに、手術創の大きさを小さくすることができる。このため、補助鉗子として特に有用である。
【0040】
また、一実施形態に係る鉗子15及び鉗子ユニット11によれば、チャック部材40及び固定リング38を用いて、ハンドル18と管状シャフト13とを着脱可能に固定することができる。よって、手術創の大きさに影響するインサート部材14及び管状シャフト13の径の大きさを拡大することなく、着脱可能な連結構造を実現することが可能となる。
【0041】
さらに、一実施形態に係る鉗子ユニット11によれば、シャフトガイド部材50を備えることで、ハンドル18を取り外した鉗子15をトロカール12へ挿入する前に、シャフトガイド部材50の一端部を細径ポート17へ挿入し、シャフトガイド部材50の他端部を腹腔内へ挿入させない状態でトロカール12を介してシャフトガイド部材50の一端部を引き出してインサート部材14の末端に接続することができる。そして、シャフトガイド部材50の他端部を細径ポート17から引き抜くことで、管状シャフト13の末端13cを腹腔外へ容易に引き出すことが可能となる。
【0042】
なお、一実施形態では、管状シャフト13のサイズとしては、約2mmの場合について種々説明してきたが、特にサイズに限定されるものではない。
【0043】
また、一実施形態の腹腔鏡手術用の鉗子15及び鉗子ユニット11の用途としては、腹腔内における目的部位の組織の止血や組織把持、縫合糸の把持、あるいは異物の除去等の適宜用途に使用される鉗子に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
11…鉗子ユニット、12…トロカール、13…管状シャフト、14…インサート部材、15…細径鉗子、16…把持部、A、B…把持用部材、17…細径ポート、18…ハンドル、21…回転軸、22…先端部、22a,22b…対物面、23…牽引部、31…固定部材、31a…筒状本体、32…回転軸、33…可動部材、34…牽引レバー、35…連結部(固定部)、36…ジョイント受け口(固定部)、37…ジョイント部(固定部)、38…固定リング(固定部)。