(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663092
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】車両の常用ブレーキまたは駐車ブレーキの故障を突き止める方法、方法を実施するための閉ループまたは開ループ制御器、および、このような閉ループまたは開ループ制御器を備える駐車ブレーキ
(51)【国際特許分類】
B60T 17/22 20060101AFI20150115BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
B60T17/22 Z
B60T7/12 A
【請求項の数】13
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-527509(P2013-527509)
(86)(22)【出願日】2011年7月14日
(65)【公表番号】特表2013-537130(P2013-537130A)
(43)【公表日】2013年9月30日
(86)【国際出願番号】EP2011062032
(87)【国際公開番号】WO2012031803
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2013年5月7日
(31)【優先権主張番号】102010040573.6
(32)【優先日】2010年9月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】ベールレ−ミラー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ブラッテルト,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】プツァー,トビアス
【審査官】
塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/024307(WO,A1)
【文献】
特開2010−052643(JP,A)
【文献】
特表2004−537021(JP,A)
【文献】
特表2007−519568(JP,A)
【文献】
特開2006−022959(JP,A)
【文献】
特開2007−008198(JP,A)
【文献】
特開平09−109876(JP,A)
【文献】
特開2008−174114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769、8/32−8/96、15/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動ブレーキモータを有する電動ブレーキ装置と、クランプ力(FN)を生成するための液圧ブレーキ装置とを備え、前記電動ブレーキ装置および前記液圧ブレーキ装置は同じブレーキピストンに作用する、常用ブレーキまたは駐車ブレーキの故障を突き止める方法であって、
前記電動ブレーキモータのモータパラメータまたはこれに相関する変数が、許容される値の範囲外にある場合に、液圧ブレーキ装置の故障を検出する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記電動ブレーキモータの前記モータパラメータとして、電流経過を検査する方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法であって、
前記電動ブレーキモータの前記モータパラメータとして、回転数を検査する方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の方法であって、
前記電動ブレーキモータによって負荷を加えられたブレーキピストンが進んだストロークを検査する方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の方法であって、
ブレーキピストンの前進速度を検査する方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の方法であって、
前記液圧ブレーキ装置の操作が行われた場合に、前記故障が生じたか否かの検査を行う方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記液圧ブレーキ装置のパラメータが、許容される値の範囲外にある場合に、前記液圧ブレーキ装置の操作を行う方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の方法であって、
先行するブレーキプロセスによる車両減速度が運転手要求に対応していない場合に、前記液圧ブレーキ装置の操作を行う方法。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の方法であって、
前記電動ブレーキ装置のみによっては前記駐車ブレーキにおける目標クランプ力(FN,Ziel)を提供することができない場合に、前記液圧ブレーキ装置の操作を行う方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の方法であって、
前記故障が突き止められた後に、前記駐車ブレーキを自動的に解除する方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の方法であって、
前記故障が突き止められた後に前記駐車ブレーキのロックを保持するが、しかしながら、運転手に解除のための要請を行う方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の方法を実施するための閉ループまたは開ループ制御器。
【請求項13】
請求項12に記載の閉ループまたは開ループ制御器を備える車両の駐車ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の常用ブレーキまたは駐車ブレーキの故障を突き止める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クランプ力を生成し、車両を静止状態で持続的に固定する役割を果たす駐車ブレーキすなわちパーキングブレーキが従来技術により既知である。駐車ブレーキは、クランプ力を生成するために液圧車両ブレーキのブレーキピストンに直接に作用する電動ブレーキモータを含んでいてもよい。電動ブレーキモータは、所定の傾斜度まで車両を確実に固定するクランプ力を生成することができるように寸法決めされている。電動機によるクランプ力に加えて、例えば、所定基準を超える傾斜度で液圧車両ブレーキによってクランプ力を生成することもできる。
【0003】
構成部品損傷の危険性のない持続的で完全な機能性のための前提は、例えば、先行するブレーキプロセスにおける車両ブレーキの集中的な操作によって、液圧ホイールブレーキが熱による負荷を過剰に加えられていないことである。フェーディングが生じた場合、または駐車ブレーキのブレーキ液が沸騰した場合、熱により高い負荷を加えられたブレーキパッドはさらに圧縮され、これにより絶え間なく損傷される場合がある。さらに、ブレーキパッドとブレーキディスクとが付着する危険性が生じ、これにより、引き続き車両を発進した場合にブレーキパッドの破壊につながる場合がある。熱いブレーキディスクに機械的に高い負荷が加えられた場合、局部的または全体的に損傷を受ける恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、電動ブレーキ装置および液圧ブレーキ装置を含む車両の常用または駐車ブレーキの故障を確実に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、請求項1の特徴により解決される。従属請求項は好適な他の実施形態を示す。
【0006】
本発明による方法は、電動ブレーキモータを有する電動ブレーキ装置と、液圧ブレーキ装置と、の両方を備える車両の常用または駐車ブレーキにおける故障の検出に関係しており、停止状態で車両を固定するために駐車ブレーキにおいてクランプ力の生成が可能であり、このクランプ力は、完全に電動ブレーキ装置または液圧ブレーキ装置のいずれかによって生成されるか、または、両方のブレーキ装置に配分されて生成される。電動ブレーキモータは、特に車両ブレーキの構成部品である液圧ホイールブレーキユニットのブレーキピストンに作用する。駐車ブレーキの液圧ブレーキ装置は、通常運転モードの車両を制動する車両ブレーキに属する。
【0007】
駐車ブレーキまたは液圧ブレーキ装置の構成部品を損傷する危険性をはらむような、液圧ブレーキ装置で起こり得る故障を検出することができるように、駐車ブレーキの操作時に、電動ブレーキモータの少なくとも1つのモータパラメータが、許容される値の範囲の超過に関して検査される。観察したモータパラメータが、許容される値の範囲外にある場合、液圧ブレーキ装置における故障を前提とする必要がある。この場合、適宜なエラー信号を生成することができ、この信号は運転手に対して表示されるか、またはその他の方法でさらに処理することができる。電動ブレーキ装置と液圧ブレーキ装置とは協働するので、モータパラメータを検査するだけで、液圧システムにおける故障を推定することができる。
【0008】
電動ブレーキモータの少なくとも1つのモータパラメータまたはこれに相関する変数が検査される。電動機パラメータとしては、電動ブレーキモータの電流消費の経過が考慮される。正常に機能している駐車ブレーキでは、電動ブレーキモータの電流は、目標クランプ力が達成された場合、所定の変動範囲内で少なくともほぼ一定となる。これに対して、液圧による支援の欠如により液圧ブレーキ装置が故障した場合には、電流はさらに上昇する。このことは、電流閾値の超過によって突き止めることができる。
【0009】
モータパラメータまたはこれと相関する変数としては、電動ブレーキモータの回転数を検査することができ、電動ブレーキモータの回転数は、正常時には目標クランプ力が達成された場合に許容される変動範囲で一定の値をとり、これに対して液圧ブレーキ装置の損傷時にはさらに降下する。このことは、回転数閾値を下回ったことにより検出することができる。
【0010】
さらに付加的または代替的に、ブレーキピストンが進んだストロークを検査することが可能である。ブレーキピストンは、液圧ホイールブレーキの通常の構成部品であり、電動ブレーキモータによって負荷を加えられる。適宜な閾値に達していないことによって突き止めることができるように、十分なピストンストロークが提供されていない場合には、液圧システムに損傷が生じている。これに対して、ピストン前進速度は最低速度を示している必要があり、さもなければ損傷を前提とすべきである。
【0011】
基本的には、電動機パラメータ、またはこれに相関する変数を検査し、これにより、液圧システムにおける損傷を推定するだけで十分である。しかしながら、例えば、故障の検出時にエラーの危険性を最小限にするために、複数の変数を検査することが好ましい場合もある。
【0012】
エラーすなわち故障が生じたか否かについての検査は、クランプ力を生成するために液圧ブレーキ装置が操作された場合に実施される。この場合、同じブレーキピストンに対する電動ブレーキ装置および液圧ブレーキ装置の両方の作用により、液圧システムによる電動機パラメータへの有意に確認可能な影響が生じる。これにより、故障を良好に突き止めることができる。
【0013】
基本的には電動ブレーキモータのみによって駐車ブレーキにおける目標クランプ力の達成を保障することができる場合にも、ロック要求が検出された場合にすぐに液圧クランプ力を生成するための液圧ブレーキ装置を試験目的で操作することが好ましい場合もある。試験目的の液圧クランプ力の生成は、例えば、液圧ブレーキ装置のパラメータが、許容される値の範囲外にある場合に実施される。例えば、割り当てられた閾値を超過したブレーキディスク温度またはブレーキ液温度が考慮される。ホイールブレーキのフェーディングにおいて車両減速度が運転手要求に対応していない場合にも液圧クランプ力を生成することができる。フェーディングは、先行するブレーキプロセスから検出される。
【0014】
試験目的の液圧クランプ力の操作とは無関係に適宜な作動条件が満たされた場合には、液圧ブレーキ装置は、駐車ブレーキの正常運転時にも操作される。例えば20%の閾値を超過した傾斜度における車両の停止が考慮される。一般に、電動機によるクランプ力のみでは目標クランプ力を達成するために不十分である場合に、液圧によるクランプ力が付加的に生成される。
【0015】
液圧ブレーキ装置が液圧によるクランプ力を生成するために操作された後に、上述のように電動機パラメータの評価によって液圧システムの故障を突き止めることができる。
【0016】
故障が検出された場合にはエラー信号が生成され、この信号は、様々な方式で処理することができる。好ましくは、運転手に故障を知らせるために、故障は、特に視覚的、聴覚的および/または触覚的な方式で運転手に表示される。さらに、または代替的に、故障が検出された場合、例えば過剰負荷が生じた場合に、まず運転手要求に対応して駐車ブレーキをロックするが、しかしながら、構成部品の損傷を防止するために、故障の検出後にはすぐに再び解除することも可能である。しかしながら、ロックを保持し、運転手に駐車ブレーキを手動で解除するよう要請することも可能である。さらに解除後に、液圧システムにおける危険値が再び安全な範囲に達した場合にすぐに駐車ブレーキを再び自動操作するか、または駐車ブレーキを操作するための適宜な要請を運転手に伝達することが好ましい場合もある。
【0017】
本発明による方法は、閉ループまたは開ループ制御器で実施される。閉ループまたは開ループ制御器は、車両の駐車ブレーキの構成部品であるか、または、駐車ブレーキもしくは駐車ブレーキの構成部品と通信する。閉ループまたは開ループ制御器は、ESP制御器(エレクトロニック・スタビリティプログラム)の構成部品であってもよいし、またはESP制御器の付加機能を形成していてもよい。
【0018】
さらなる利点および好適な実施形態がさらに請求項、図面の説明および図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】駐車ブレーキが正常な状態における電動機パラメータおよび駐車ブレーキの液圧の経時変化を示すグラフである。
【
図2】液圧システムにおける故障時の
図1に対応したグラフである。
【
図3】駐車ブレーキの故障を突き止める方法を実施するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1および
図2には、車両の駐車ブレーキの種々異なるパラメータの経過が示されている。液圧ブレーキ装置の液圧P
h、電動ブレーキモータの電流i、ブレーキモータのモータ速度ω、ブレーキモータの調節距離s、および、電動ブレーキモータの配分と液圧ブレーキ装置の配分とを含む総クランプ力F
Nが記録されている。
図1および
図2には、時間的に連続する2つの段階aおよびbが示されており、これらのうちの段階aは、目標クランプ力F
Nの達成までのもっぱら電気機械式の力の生成を示し、段階bは電気液圧式の力の生成を示す。
【0021】
図1に示した通常の場合には、段階bで目標クランプ力が達成された場合、電流経過iならびに電動ブレーキモータのモータ速度ωは比較的狭い許容される値の範囲内でほぼ一定レベルに位置する。これに対して、
図2に示した液圧ブレーキ装置が故障した場合には、電流経過iは段階bでもさらに上昇し、許容される電流閾値を超える最大値i
maxに到達する。これに対して、モータ速度ωは段階bでさらに降下し、下限許容閾値を下回る。
図2からは、液圧ブレーキ装置の圧力経過P
hが段階bで、
図1に示した通常の場合よりも低いレベルで変動することもわかる。すなわち、圧力生成は制限されている。
【0022】
図3および
図4には、駐車ブレーキにおける故障を検出することができる方法を実施するためのフロー図が示されている。方法ステップ1は、運転手のロック要求を示す。次の方法ステップ2〜6では、駐車ブレーキを操作するための運転手の要求が検出された後に、駐車ブレーキで液圧ブレーキ装置を操作することが望ましいか否かについてそれぞれ確認が行われる。これは、ステップ2〜6による確認のいずれかに当てはまる場合であり、「YES」の分岐にしたがって方法ステップ8に進み、ここで液圧ブレーキ装置が操作され、液圧クランプ力が生成される。さもなければ、確認2〜6でそれぞれ「NO」の分岐にしたがって方法ステップ7まで進み、電動機によるクランプ力のみが電動ブレーキ装置の操作により提供される。ステップ2〜6による確認に当てはまり、方法ステップ8に分岐した場合、電動機によるクランプ力に加えて、液圧クランプ力も生成される。
【0023】
方法ステップ2および3は、標準的な場合を示し、傾斜度が閾値を超過したか否か(ステップ2)または電動機によるクランプ力が目標クランプ力を達成するために十分ではないか否か(方法ステップ3)が検査される。いずれか1つの条件が満たされた場合、「YES」の分岐にしたがって方法ステップ8まで進み、電動機によるクランプ力に加えて液圧によるクランプ力も生成される。
【0024】
方法ステップ4〜6は、システムにおける故障を示すが、しかしながら、故障は必ずしも液圧ブレーキ装置における故障発生に起因するとはみなされない。方法ステップ4では、先行するブレーキプロセスによる車両減速が運転手要求に対応しないフェーディングが生じたか否かが確認される。これに当てはまる場合、すなわち、運転手ブレーキ要求を望みどおりに実現できなかった場合には、「YES」の分岐にしたがって方法ステップ8に進む。
【0025】
方法ステップ5では、ブレーキディスク温度が、割り当てられた閾値を超過したか否かについて確認が行われる。この場合にも故障が生じた場合、「YES」の分岐にしたがってステップ8に進む。
【0026】
方法ステップ6で、ブレーキ液温度が割り当てられた閾値を超過したか否かについて確認が行われる。これに当てはまる場合、「YES」の分岐にしたがって方法ステップ8に進む。
【0027】
図4は方法の続きを示し、電動機によるブレーキ力に加えて液圧によるブレーキ力が提供される方法ステップ8から始まる。ステップ9〜11による確認は、液圧ブレーキ装置に故障が生じたか否かについて検査する役割を果たす。これは、電動機パラメータに基づいて確認される。
【0028】
方法ステップ9では、ブレーキピストン前進速度が閾値を下回っているか否かが検査される。これに当てはまる場合、「YES」の分岐にしたがって方法ステップ12に進み、エラー信号が生成される。さもなければ、「NO」の分岐にしたがって方法ステップ13に進む。すなわち、少なくとも方法ステップ9にしたがった確認から、液圧ブレーキ装置の検出可能な故障が生じておらず、したがって、駐車ブレーキのロック機能を正常に実施することができる。
【0029】
方法ステップ11と同様に、方法ステップ9による確認に加えて、または並行して行われる方法ステップ10では、電動ブレーキモータの電流経過iが閾値を超過しているか否かの確認が行われる。これに当てはまる場合、故障が生じており、方法ステップ12に進み、さもなければ方法ステップ13に進む。
【0030】
方法ステップ11では、ブレーキピストンに提供されているストロークが十分ではないか否かが確認される。これにあてはまる場合、同様に故障が生じており、「YES」の分岐にしたがって方法ステップ12に進み、さもなければ方法ステップ13に進む。
【0031】
方法ステップ12では、エラー信号が生成され、運転手に表示される。付加的に、自動的に駐車ブレーキをかけることができ、例えば、既にロックされた駐車ブレーキは、故障の検出後に自動的に再び解除される。
【符号の説明】
【0032】
i…電流
ω…モータ速度
s…調節距離
Ph…液圧
FN…総クランプ力
a,b…段階