(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。本実施形態では、検査装置がMRI装置である場合を説明するが、本発明はトンネル状の検査空間を持つ検査装置、例えばCT装置やPET装置でも同様に適用できる。
【0015】
図1は、本実施形態のMRI装置の全体を示す外観図、
図2は正面図、
図3は側面図である。図示するように、このMRI装置は、ガントリー部100とベッド部200とを備えている。
【0016】
ベッド部200は、被検体を寝かせるための天板部210と、天板部210を昇降させる昇降機構220と、台車230とを備え、台車230の四隅には走行車輪231が取り付けられており、ガンドリー部100から独立して移動することができる。ベッド部200は、台車230の端部及びガントリー部100の前面に形成された連結部300によりガンドリー部100に連結される。連結時には、天板部210の下面の高さが、後述する検査空間の高さとほぼ同じ高さになるように、昇降機構220によって調整される。
【0017】
ガントリー部100は、大きく逆U字型に湾曲した側面カバー120と、正面パネル110と、裏面パネル(不図示)と、側面カバー120と正面パネル110及び裏面パネルとをそれぞれ連結する曲面カバー130と、正面パネル110及び裏面パネルのほぼ中央に形成された開口部111を連結する内カバー140とを備えている。側面カバー120は、床面に接する端部から上側に向かって垂直に延び、その高さ方向の中央で半円形に湾曲し、ガントリー部100の上面を形成している。
【0018】
正面パネル110及び裏面パネルは、ほぼ同じ形状を有しているので、以下、代表して正面パネル110の形状について説明する。正面パネル110の外周の形状は、側面カバー120の端面を正面側から見た形状と相似形で大きさは小さく、中央に略円形の開口部111が形成されている。正面パネル110の外周は、曲面カバー130によって側面カバー120に連結されている。ガントリー100を
図3に示すように側面から見た場合、正面パネル110と曲面カバー130との連結部113が最も外側に位置し、正面パネル110は、連結部113から開口部111に向かって凹んだ形状になっている。この凹面形状によって、操作者の作業空間を広げている。
【0019】
正面パネル110は、開口部111の周囲に、検査空間の長手方向に平行な断面で見たとき丸み111a(
図2)が形成されており、内カバー140に連続している。内カバー140は、断面が円形或いは楕円等の変形した円形の円筒状であり、円筒で囲まれる空間が、被検体が挿入される検査空間(ボア)となる。検査空間の、開口部111側の端部を挿入口或いは入口と呼ぶ。また検査空間の、挿入口から内部に向かう方向を奥行き方向或いは長手方向と呼ぶ。
【0020】
以上説明した、正面パネル110及び裏面パネル、側面カバー120、曲面カバー130及び内カバー140によって構成されるガントリー部の内部の機構は、従来のMRI装置と同様である。MRI装置の概略構成を
図4に示す。
【0021】
このMRI装置は、ガントリー部100に収納される要素として、超電導磁石等の検査空間に均一な磁場を形成する静磁場発生磁石2と、静磁場発生磁石2が形成する磁場内に配置される傾斜磁場コイル9と、被検体1に対し高周波磁場を照射するためのRF送信コイル14aと、被検体1から発生するNMR信号を受信するRF受信コイル14bとを備えている。RF受信コイル14bは、通常は被検体の検査部位に近接するように配置される。RF送信コイル14aがRF受信コイル14aを兼ねる場合もある。
【0022】
これらコイル類を駆動するための駆動系と信号処理系7は、ガントリー部100の外側に設置される。具体的には、RF送信コイル14aは、高周波発振器11、変調器12、高周波増幅器13などの送信系5に接続されている。傾斜磁場コイル9は、X、Y、Zの3軸方向の傾斜磁場コイルからなり、それぞれ、傾斜磁場電源10に接続されている。RF受信コイル14bは、増幅器15、直交位相検波器16、A/D変換器17などからなる受信系6に接続されている。これら送信系5、傾斜磁場発生系3及び受信系6の動作は、シーケンサ4によって制御され、撮影方法によって決まる所定のパルスシーケンスに従い、RFパルスや傾斜磁場パルスの照射、NMR信号の受信が行われる。
【0023】
信号処理系7は、CPU8とディスプレイ20や光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置などからなり、CPU8はシーケンサ4を通して、上述した駆動系の動作を制御するとともに、受信系6が受信したNMR信号を処理し、被検体の画像やスペクトルを再構成し、ディスプレイ20に表示する。ディスプレイ20は、信号処理系の結果である画像等を表示するとともに、制御のGUIを表示する。なおディスプレイは、検査室外に置かれるほかに、ガントリー部100の表面カバーにも設置され、画像や操作者が検査に必要な情報を入出力するためのGUIとして機能する。
【0024】
本実施形態の検査装置は、ガンドリー部100の内カバー140に特殊な視覚効果を与える意匠が施されていることが特徴である。以下、意匠の各実施形態を説明する。
【0025】
<第一実施形態>
本実施形態は、内カバー140の表面に複数のドット状の模様(以下、ドットという)を形成したものであり、ドットの周方向の間隔及長手方向の間隔を、内カバーの長手方向(奥行き方向)に沿って変化させていることが特徴である。
【0026】
検査空間(内カバー140)の断面形状と、検査空間の上面側となる内カバーの部分を展開した図を
図5(a)、(b)に示す。
図5(a)に示すように、本実施形態の内カバー140の断面形状は、楕円形の一部を平坦にした形状を有している。平坦な部分141はベッド部200の天板210が走行する走行面であり、
図5(b)は、平坦部141を除く楕円形部分142を展開した図である。被検体(不図示)は、通常、天板210に仰向けに寝かせられた状態で、内カバー140で覆われた検査空間に挿入される。内カバー140の断面形状が楕円形であることにより、体格の異なる(横幅の異なる)種々の被検体に対応できるようになっている。
【0027】
天板に寝かせられた状態の被検体の視点の平均的な位置を、
図5(a)中、Eで示している。人の左右の視野角θはほぼ135度であり、天板210に仰向けに寝かせられた被検体は、内カバー140の上面のほぼ135度の範囲を見ることになる。上面の、視点Eから135度の位置の内側に、
図5(b)に示すように、2列のドット150が描画されている。ドットの形状は、図では四角形であるが、特に限定されず、円形、三角形、星型など任意の形状にすることができる。またドットの大きさは、描画されていることが明確に認識できる大きさであれば特に限定されるものではない。
【0028】
2列のドット150は、周方向(左右方向)のドット間の間隔Wが入口(正面パネルの開口側)で最も広く、裏面パネル側に向かって狭まるように配置されている。入口から挿入される被検体の目には、奥行き方向への移動に伴い、左右のドットの間隔が狭まっていくことにより、遠近感の錯覚が起り、あたかもドットが遠のいていく、つまり上側に向かっていくように感じられる。つまり、視点Eから内カバー上面までの物理的な距離は変化しないにも拘わらず、被検体には内カバー上面が高くなるような錯覚を被検体に与えることができる。これにより、閉塞感を緩和することができる。
【0029】
左右のドット150間の間隔Wは、視野の範囲内で変化すればよいが、本実施形態では入口付近で視野の角度θに近く、検査空間のほぼ中央付近で左右の眼の間隔に近づくように設計されている。検査空間の中央部より裏面パネル側は等間隔としてもよい。通常、被検体が最も奥深く挿入されるのは、頭部検査の場合であり、その場合、被検体の頭部がほぼ検査空間の中央付近に位置するようにするからである。また左右のドットの間隔の変化は直線的でもよいが、本実施形態では入口から検査空間の奥行き方向中央までを放物線に沿って変化させている。放物線に沿って変化させることにより、入口に近いほど変化の度合いが大きく、奥行き方向に進むに従い変化の度合いが小さくなる。これにより挿入時に最も効果的に遠近感の錯覚を与えることができ、被検体の安心感を高めることができる。
【0030】
また本実施形態では、左右一対のドット150の奥行き方向の間隔(配列ピッチ)Pが、入口付近では狭く、奥行き方向に沿って広がっている。このドットの配置によって、検査空間を外側から見た場合に、ドットのピッチPが実際には内部に行くに従い広がっているにも拘わらず、ほぼ同ピッチに見えるので、検査空間の奥行き方向の長さが実際よりも短く見える視覚効果を与える。ドットの奥行き方向の配列ピッチPをほぼ同間隔に見せるためのピッチPの変化のさせ方は、被検体の目の高さ(天板からの垂直方向の高さ)、目の位置から検査空間の入口までの距離及び検査空間の長さによっても異なるが、奥行き方向の1列に並ぶドットの数をNとし、目の位置から検査空間の入口までの距離を100としたとき、入り口から1番目のドットまでの距離が10〜20%、N−1番目のドットからN番目のドットまでの距離が25%以上、具体的には25%〜40%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
ドットの配列ピッチP(奥行き方向)を検査対象(被検体)別に検討した結果を
図6に示す。
図6(a)〜(b)において、それぞれ、右側の図は、
図5(a)と同じ、検査空間の長手方向と直交する方向の断面であり、左側の図は検査空間の長手方向に沿った側断面である。
図6(a)は、被検体の視点Eが検査空間の中心と同じ高さにあり、視点Eから入口までの距離が600mmの場合、(b)は被検体の視点Eの高さが検査空間の中心の高さより低く、視点Eから入口までの距離が800mmの場合、(c)は被検体の視点Eの高さが検査空間の中心の高さより高く、視点Eから入口までの距離が1000mmの場合である。なお、ここで入口とは、内カバーの径が一定である円筒部の被検体挿入側の端部を指している。
図6に示す検査空間の側断面図上で、視点Eから検査空間(円筒)の上部両端をそれぞれ直線で結び、これら2本の直線の間に、等角度間隔で[ドット数−1]の直線を引き、これら直線と円筒が交わる点を奥行き方向のドットの位置とする。
図5に示すようにドットが周方向に一対形成される場合には、直線と円筒が交わる点を中心にして、その両側にドットを配置する。左右のドットの間隔Wは上述したとおり、奥行き方向の位置によって変化する、つまり内部に行くほど狭くする。
【0032】
図6(a)に示す例では、N−1番目(ここでは10番目)のドットとN番目(11番目)のドットとの間隔は、1番目のドットと2番目のドットとの間隔の約6.7倍である。
図6(b)に示す例では、N−1番目のドットとN番目のドットとの間隔は1番目のドットと2番目のドットの間隔の約4.8倍である。
図6(c)に示す例では、N−1番目のドットとN番目のドットとの間隔は、1番目のドットと2番目のドットの間隔の約4倍である。これらの結果からもわかるように、視点から入口までの距離が短いほど、変化の度合いを大きくすることにより、ドットの間隔を同じ間隔に見せる効果が得られる。従って、実際の適用に際しては、平均的な被検体の身長を考慮してドットを配置する、或いはドットの配置に応じて、検査空間に挿入する前の被検体位置(視点の位置)を決めるようにすることが好ましい。
【0033】
このようにドットの奥行き方向の位置を決定した場合、検査空間に挿入される前の被検体の視点Eから検査空間を見た場合、ドットはほぼ同じピッチで並んでいるように見え、実際の奥行きよりも短く見える。これにより長い検査空間に挿入されるという被検体の恐怖感を和らげることができる。
【0034】
以上説明したように本実施形態の検査装置は、ガントリー部の内カバーに、被検体に対し視覚的効果をもたらすドットを配置している。ドットの配置の一つの特徴は、ドットを被検体の左右方向に少なくとも一対配置し、その左右のドットの間隔を検査空間の奥行き方向に沿って狭めるというものである。これにより、検査空間に挿入されるときに、検査空間が上方に向かって広がるように感じる視覚効果を与えることができる。ドットの配置のもう一つの特徴は、ドットの奥行き方向の間隔(配列ピッチ)を奥行き方向に沿って広げるというものである。この配置によって、検査空間に入る前にベッド部200に寝かせられた被検体に対し、検査空間の奥行きが実際よりも短く感じる視覚効果を与えることができる。
【0035】
なお、
図5に示す実施例では、ドットを左右方向に2列配列した場合を示したが、ドットの列数は2列に限らず、3列或いはそれ以上であってもよい。また
図5に示す例では、ドットの大きさは全て同じにしているが、ドットの大きさを例えば検査空間の入口側では大きく、中側に向かって小さくするなど、異ならせてもよい。
【0036】
また、第一実施形態では、上述した二つの特徴をいずれも有するドットの配置例を説明したが、いずれか一方のみの特徴を備える場合も本発明に含まれる。即ち、ドットの奥行き方向の間隔は一定として、一対のドットの周方向の間隔を検査空間の奥行き方向に沿って狭めてもよいし、一対のドットの周方向の間隔は一定とし、奥行き方向の間隔を奥に行くに従って広げるようにしてもよい。いずれの場合にもそれぞれの特徴による視覚効果を得ることができる。
【0037】
<第二実施形態>
本実施形態は、内カバー140の表面に、検査空間を構成する円筒部の円周に沿って複数のライン状の模様(以下、ラインという)を形成したものであり、ライン間の間隔及びラインの太さを内カバーの長手方向に沿って変化させていること、及び、ラインの色調を周方向で変化させていることが特徴である。
【0038】
内カバー140の断面形状と上面側の部分を展開した図を
図7(a)、(b)に示す。
図7(a)は、
図5(a)と同様であるので説明を省略し、
図7(b)に示されたライン160について詳述する。ライン160の特徴の一つは、
図7(b)で示す両端から中央に向かって明度が高くなっている点である。
図7(b)の模様を検査空間の平坦部より上の曲面部分に施した場合、検査空間に寝かせられた被検体には、上記階調の変化は、両側では色が濃く上に行くに従って薄くなる色の変化として視認され、被検体に上側が広がっているような感覚を与える。ラインの色は、背景の色(淡色)よりも明度の低い色であれば、青、黒、緑、茶など適宜選択することができ、また複数の色を組み合わせてもよい。
【0039】
ライン160のもう一つの特徴は、その幅dが検査空間の奥行き方向に向かって細くなっている点である。被検体が仰向けに寝かせられた状態で検査空間内を移動させられるとき、ラインの幅dが徐々に狭まることによって、第一の実施形態においてドット間の間隔Wが奥行き方向に向かって狭まる場合と同様に、遠近感の錯覚が起り、被検体にはラインが遠のき、上昇していくような錯覚を覚え、検査空間の天井が高くなるように感じられる。これにより、閉塞感を緩和することができる。
【0040】
ラインの幅dを変化させる範囲は、検査空間の入口から、被検体の頭部が配置される最も深い部分即ち検査空間のほぼ中央付近まででよい。中央から裏面パネルの入口までは、ライン幅を同じにしてもよいし、同様の変化度合いで変化させてもよい。
【0041】
ライン幅の変化のさせ方は、特に限定されるものではないが、入口に最も近いライン(1番目のライン)の幅に対し、最も幅の狭いラインの幅を50%〜75%程度とする。
図7に示す例では、1番目のラインの幅30mmに対し、放物線状即ち二次関数(a−bx
2,xは入口からの距離)に従ってライン幅を変化させており、検査空間のほぼ中央で22mm(1番目のラインの73.3%)となっている。
【0042】
また本実施形態の内カバーにおいても、ラインとラインとの配列ピッチPが検査空間の奥行き方向に向かって広くなるように設計されている。これは、第一実施形態と同様に、検査空間を外側から見たときに、実際の奥行きよりも短く感じさせる視覚効果を与える。つまり、ベッド部に寝かせられた被検体が、検査空間の入口から数10cm離れたところから見たときに、ラインの間隔がほぼ同等に見えるように配列ピッチPが決められている。このような配列ピッチPの変化のさせ方は、第一実施形態のドットの配列ピッチPについて
図6を用いて説明した場合と同様である。ただし、本実施形態ではラインの幅dが変化していくので、ライン間の間隔は、全てのラインについて、ライン
幅の入口側の端部を基準に決定する。
【0043】
本実施形態においても、第一実施形態と同様に、検査空間内を移動させられるときに、検査空間が広がるように感じる視覚効果と、検査空間に入る前に検査空間の奥行きが実際よりも短く感じる視覚効果を与えることができる。
【0044】
なお本実施形態では、奥行き方向に配置されたラインに、周方向のグラデーションを与える、ラインの幅dを奥行き方向に向かって狭める、ラインのピッチを奥行き方向に向かって広げる、という3つの特徴を有する場合を説明したが、これら特徴の一つのみ或いは任意の二つの組合せのみを備える場合も本発明に含まれる。即ち、ラインの幅及びピッチの一方又は両方を一定として、周方向のグラデーションを与えてもよい。またグラデーションはないが、ラインの幅を奥行き方向に向かって狭める或いはラインのピッチを奥行き方向に向かって広げてもよいし、グラデーションはないが、ラインの幅及びピッチの両方を奥行き方向に向かって変化させてもよい。いずれの場合にもそれぞれの特徴による視覚効果を得ることができる。
【0045】
<第三実施形態>
第一実施形態及び第二実施形態では、被検体に視覚効果を与える模様として、内カバー140に幾何学的な模様を施した場合を説明したが、具象的な模様(オブジェクト)、例えば空(雲の配置、星空)や海(砂浜、海底等)や植物(木や花びら)、さらには小児を対象としてアニメーションのキャラクターなどの模様を設けることも可能である。これらの模様を、第一実施形態や第二実施形態と同様に遠近感を錯覚させる配置で配置することにより、同様の効果を得ることができる。
【0046】
雲の配置の一例を
図8に示す。
図8(a)は、
図5(a)及び
図7(a)と同じく検査空間の断面と被検体の視点Eとの関係を示す図であり説明を省略する。
【0047】
図8(b)に示すように、本実施形態のガンドリーは、内カバー140の表面に雲170を配置した空の模様が施されている。空の部分は青色を基調とし、検査空間に寝かせられた被検体が対面する上面が濃く、両側に向かって淡色になるように階調が設けられている。この色の変化は、第二実施形態のラインの階調の変化とは逆であるが、自然の空の色が地上に近くなるにつれて淡く白色に近づくのを模して、本実施形態では上述の構成とし、それによって被検体に上面が高いと感じさせる効果を得ている。
【0048】
雲170の配置の基本的な考え方は、第一実施形態と同じであるが、自然の空を模すために、大きさの異なる雲をある程度ランダムに配置し、しかも点在する雲の周方向
の間隔が入口では広く、検査空間の奥行き方向に沿って狭まるように、雲が配置されている。また雲は上面から両側に向かって鮮明度を低くしている。このような模様が施された検査空間内を移動させられる被検体は、空を見上げているような開放感を感じると共に、奥行き方向への移動に伴い上面(空)が高くなるような感覚を覚え、閉塞感が軽減される。また両側の雲の鮮明度が低くなっているため、視野の両側の領域(ぼんやりと見えている領域)の圧迫感が低減される。
【0049】
本実施形態では、雲の奥行き方向の間隔はランダムであり、第一実施形態及び第二実施形態で採用している奥行き方向の配列ピッチを変化させる構成は採用していないが、検査空間の手前に寝かせられた被検体には、検査空間内に空の模様が施されていることにより、無彩色或いは淡色の検査空間に挿入される場合に比べ、抵抗感を少なくすることができる。
【0050】
なお本実施形態では、背景となる色に自然を模したグラデーションを与える、背景に配置されるオブジェクトの密度を奥行き方向に向かって変化させる、オグジェクトの鮮明度を周方向で変化させる、という3つの特徴を備える場合を説明したが、これら特徴の一つのみ或いは任意の二つの組合せのみを備える場合にも本発明に含まれ、いずれの場合にもそれぞれの特徴による視覚効果を得ることができる。
【0051】
以上、本発明の検査装置のガントリー表面に施される意匠の実施形態を説明したが、次にこれら意匠を施す手法について簡単に説明する。
【0052】
一般に内カバーを含むガントリーは、FRP等のプラスチック材料で形成されている。このような素材に上述した模様を施す方法としては、プラスチック材料の表面に公知の印刷方法を用いた印刷、転写材料を用いた転写、或いは印刷や転写等で模様を施した紙やフィルムを内カバーの外側に貼着或いは固定する方法などを採用することができる。特に、可撓性のあるプラスチック製の薄板を着脱可能に固定するようにした場合には、模様が異なる種々の薄板を用意しておき、被検体の年齢(子供か大人か)や体格などに応じて適宜選択した意匠を備えた薄板を内カバーに固定するようにしてもよい。
【0053】
<第四実施形態>
以上説明した第一〜第三実施形態は、内ガントリー140の表面即ち検査空間を構成する面に、平面的な(平滑な)意匠を施したものであるが、本実施形態では、光学フィルムを用いたことを特徴とする。一般に凸レンズの焦点の内側に物を置いた場合、その物より遠くに物の拡大された像(虚像)が見えることは良く知られている。本実施形態はその物理現象を利用する。このため光学フィルムとして、表面に非常に細かい凸レンズが多数形成された光学フィルムを用いる。内カバーの表面に細かいドット等の模様を形成し、それに密着して、この凸レンズが形成された光学フィルムを積層する。
【0054】
図9に、光学フィルム180と内カバーに形成された模様190との関係を示す。図示するように内カバー140の表面には、多数のドット状の模様190が形成されている。ドットの形状は、任意であるが、大きさは光学フィルムに形成されている凸レンズの幅よりも小さいほうがよい。一方、光学フィルム180の表面には、このドットの配置とほぼ対応する配置で凸レンズ181が形成されており、光学フィルムの厚みは、形成された凸レンズの表面から焦点Fまでの距離より薄い。即ち焦点位置は光学フィルムの外側にある。このような光学フィルム180の凸レンズ181が形成されている面と反対側の面を内カバー140の表面即ちドット模様190が形成された面に密着するように固定する。固定方法は接着剤を利用した貼着であってもよいし、単に密着するように端部を固定してもよい。
【0055】
内カバー140の表面側(検査空間の内壁側)からドット190を見た場合、ドット190と凸レンズ181中心との距離が焦点距離よりも短いため、その虚像195が実際のドット190の位置よりも凸レンズ181から離れた位置に見えることになる。内カバーに設けられたドット全体の虚像からなる模様が、内カバーよりも遠い位置に見えるので、被検体には検査空間が半径方向に大幅に広がって見えることになる。
【0056】
一例として、凸レンズの大きさを0.1mm(焦点距離5mm)、光学フィルムの厚み(凸レンズが形成されていない部分の厚み)を4mm、及びドットの大きさを0.05mmとした場合、虚像は実際のドットが形成されている位置から約20mm離れて見える。このことは検査空間が半径方向に約20mm広がって見えることを意味する。光学フィルムの厚みの分、検査空間の半径は4mm程度狭まるが、これは虚像によって広がって見える距離に対し十分に小さい。
【0057】
本実施形態によれば、実際の模様の位置よりも離れた位置に虚像を生じさせる光学フィルムを用いることにより、検査空間を大幅に広げて見せることができ、検査空間内に寝かせられた被検体の閉塞感を緩和することができる。
【0058】
以上、本発明のMRI装置のガントリーに設けられる意匠の各実施形態を説明したが、図面や説明で示した形状やサイズは一例であり、適宜変更することが可能である。またこれら実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0059】
以上の第一〜第四の実施形態では検査空間の断面が楕円状となっている例を示したが、これに限らず、円状であっても良いしその他形状であっても同様の効果を奏することは云うまでも無い。