(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、反射型光電スイッチの1つとして、光電スイッチから物体までの距離が所定の基準距離より遠いか近いかを検知する距離設定反射型(Background Suppression、以下、BGSと略する)光電スイッチが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。このようなBGS光電スイッチによれば、背景を検出せずに物体のみを検出することができる。
【0003】
一方、レーザによる光の干渉を利用した距離計として、レーザの出力光と測定対象からの戻り光との半導体レーザ内部での干渉(自己結合効果)を利用したレーザ計測器が提案されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。FP型(ファブリペロー型)半導体レーザの複合共振器モデルを
図14に示す。
図14において、101は半導体レーザ、102は半導体結晶の壁開面、103はフォトダイオード、104は測定対象である。
【0004】
レーザの発振波長をλ、測定対象104に近い方の壁開面102から測定対象104までの距離をLとすると、以下の共振条件を満足するとき、測定対象104からの戻り光と共振器101内のレーザ光は強め合い、レーザ出力がわずかに増加する。
L=qλ/2 ・・・(1)
式(1)において、qは整数である。この現象は、測定対象104からの散乱光が極めて微弱であっても、半導体レーザの共振器101内の見かけの反射率が増加することにより、増幅作用が生じ、十分観測できる。
【0005】
半導体レーザは、注入電流の大きさに応じて周波数の異なるレーザ光を放射するので、発振周波数を変調する際に、外部変調器を必要とせず、注入電流によって直接変調が可能である。
図15は、半導体レーザの発振波長をある一定の割合で変化させたときの発振波長とフォトダイオード103の出力波形との関係を示す図である。式(1)に示したL=qλ/2を満足したときに、戻り光と共振器101内のレーザ光の位相差が0°(同位相)になって、戻り光と共振器101内のレーザ光とが最も強め合い、L=qλ/2+λ/4のときに、位相差が180°(逆位相)になって、戻り光と共振器101内のレーザ光とが最も弱め合う。そのため、半導体レーザの発振波長を変化させていくと、レーザ出力が強くなるところと弱くなるところとが交互に繰り返し現れ、このときのレーザ出力を共振器101に設けられたフォトダイオード103で検出すると、
図15に示すように一定周期の階段状の波形が得られる。このような波形は一般的には干渉縞と呼ばれる。
【0006】
この階段状の波形、すなわち干渉縞の1つ1つをモード
ホップパルス(以下、MHP)と呼ぶ。MHPはモードホッピング現象とは異なる現象である。例えば、測定対象104までの距離がL1のとき、MHPの数が10個であったとすれば、半分の距離L2では、MHPの数は5個になる。すなわち、ある一定時間において半導体レーザの発振波長を変化させた場合、測定距離に比例してMHPの数は変わる。したがって、MHPをフォトダイオード103で検出し、MHPの周波数を測定すれば、容易に距離計測が可能となる。
【0007】
以上のような自己結合型のレーザ計測器を利用すれば、BGS光電スイッチを実現することができる。BGS光電スイッチは、所定の基準距離と比較して物体が近距離にあるか遠距離にあるかでオン/オフ判定すればよい。そこで、自己結合型のレーザ計測器をBGS光電スイッチとして用いる場合には、物体が基準距離の位置にあるときのMHPの既知の基準周期に対して、測定したMHPの平均周期が長いか短いかを判断すればよい。物体が基準距離の位置にあるときのMHPの既知の周期に対して、測定したMHPの平均周期が長い場合には、物体が基準距離よりも近距離に存在するとしてオン判定とし、また測定したMHPの周期が短い場合には、物体が基準距離よりも遠距離に存在するとしてオフ判定とする。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−102135号公報
【特許文献2】特開昭63−187237号公報
【非特許文献1】上田正,山田諄,紫藤進,「半導体レーザの自己結合効果を利用した距離計」,1994年度電気関係学会東海支部連合大会講演論文集,1994年
【非特許文献2】山田諄,紫藤進,津田紀生,上田正,「半導体レーザの自己結合効果を利用した小型距離計に関する研究」,愛知工業大学研究報告,第31号B,p.35−42,1996年
【非特許文献3】Guido Giuliani,Michele Norgia,Silvano Donati and Thierry Bosch,「Laser diode self-mixing technique for sensing applications」,JOURNAL OF OPTICS A:PURE AND APPLIED OPTICS,p.283−294,2002年
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係るBGS光電スイッチの構成を示すブロック図である。
図1のBGS光電スイッチは、レーザ光を放射する半導体レーザ1と、半導体レーザ1の光出力を電気信号に変換するフォトダイオード2と、半導体レーザ1からの光を集光して放射すると共に、物体10からの戻り光を集光して半導体レーザ1に入射させるレンズ3と、半導体レーザ1を駆動するレーザドライバ4と、フォトダイオード2の出力電流を電圧に変換して増幅する電流−電圧変換増幅部5と、電流−電圧変換増幅部5の出力電圧から搬送波を除去するフィルタ部6と、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの数を数える計数部7と、計数部7の計数結果から物体10が所定の基準距離よりも近距離にあるか遠距離にあるかを判定する判定部8と、判定部8の判定結果を表示する表示部9とを有する。
【0021】
フォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5とは、検出手段を構成し、フィルタ部6と計数部7と判定部8とは、距離判定処理手段を構成している。
以下、説明容易にするために、半導体レーザ1には、モードホッピング現象を持たない型(VCSEL型、DFBレーザ型)のものが用いられているものと想定する。
【0022】
レーザドライバ4は、時間に関して一定の変化率で増減を繰り返す三角波駆動電流を注入電流として半導体レーザ1に供給する。これにより、半導体レーザ1は、注入電流の大きさに比例して発振波長が一定の変化率で連続的に増加する第1の発振期間と発振波長が一定の変化率で連続的に減少する第2の発振期間とを交互に繰り返すように駆動される。
図2は、半導体レーザ1の発振波長の時間変化を示す図である。
図2において、P1は第1の発振期間、P2は第2の発振期間、λaは各期間における発振波長の最小値、λbは各期間における発振波長の最大値、Ttは三角波の周期である。本実施の形態では、発振波長の最大値λbおよび発振波長の最小値λaはそれぞれ常に一定になされており、それらの差λb−λaも常に一定になされている。
【0023】
半導体レーザ1から出射したレーザ光は、レンズ3によって集光され、物体10に入射する。物体10で反射された光は、レンズ3によって集光され、半導体レーザ1に入射する。ただし、レンズ3による集光は必須ではない。フォトダイオード2は、半導体レーザ1の内部又はその近傍に配置され、半導体レーザ1の光出力を電流に変換する。電流−電圧変換増幅部5は、フォトダイオード2の出力電流を電圧に変換して増幅する。
【0024】
フィルタ部6は、変調波から重畳信号を抽出する機能を有するものである。
図3(A)は電流−電圧変換増幅部5の出力電圧波形を模式的に示す図、
図3(B)はフィルタ部6の出力電圧波形を模式的に示す図である。これらの図は、フォトダイオード2の出力に相当する
図3(A)の波形(変調波)から、
図2の半導体レーザ1の発振波形(搬送波)を除去して、
図3(B)のMHP波形(干渉波形)を抽出する過程を表している。
【0025】
計数部7は、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの数、特に物体10が所定の基準距離の位置にあるときのMHPの既知の周期(以下、基準周期Thと呼ぶ)よりも周期が長いMHPの数Nlongおよび基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortを、第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々について数える。
【0026】
MHP1つあたりの距離が0.5mm、基準距離が200mm、三角波の周波数が1kHzの場合、測定されるMHPの数は、物体10との距離[mm]/0.5[mm]となる。したがって、物体10がBGS光電スイッチから基準距離だけ離れた位置にある場合、MHPの数は、200[mm]/0.5[mm]=400[個]となる。このとき、MHPの基準周期Thは、1/(1000×2)/400=1.25[μ秒]となる。物体10までの距離が基準距離よりも長いと、MHPの周期は基準周期Th=1.25[μ秒]よりも短くなり、物体10までの距離が基準距離よりも短いと、MHPの周期は基準周期Th=1.25[μ秒]よりも長くなる。
【0027】
基準距離よりも近いところに物体10が存在する場合、MHPの周期の分布は
図4の分布40のように、基準周期Thよりも長い方にシフトする。反対に、基準距離よりも遠いところに物体10が存在する場合、MHPの周期の分布は
図4の分布41のように、基準周期Thよりも短い方にシフトする。
【0028】
判定部8は、計数部7の計数結果から物体10が基準距離よりも近距離にあるか遠距離にあるかを判定する。すなわち、判定部8は、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongと基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortとを比較し、Nlong>Nshortが成立する場合、物体10が基準距離よりも近距離に存在すると判定し、Nlong<Nshortが成立する場合、物体10が基準距離よりも遠距離に存在すると判定する。
【0029】
判定部8は、以上のような判定を、計数部7がMHPの数を数える計数期間(本実施の形態では第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々)ごとに行う。
表示部9は、判定部8の判定結果を表示する。
【0030】
以上のように、本実施の形態では、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongと基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortとを比較することにより、BGS光電スイッチから物体10までの距離(より正確には半導体レーザ1から物体10までの距離)が基準距離より遠いか近いかを判定することができるので、簡単かつ安価な構成で精度の良いBGS光電スイッチを実現することができる。
【0031】
なお、計数部7と判定部8とを、CPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータと、記憶装置に格納されたプログラムとによって実現してもよいし、ハードウェアで実現してもよい。
また、本実施の形態では、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongと基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortとを比較しているが、基準周期の半周期Th/2(以下、基準半周期Th/2とする)よりも半周期が長いMHPの数と基準半周期Th/2よりも半周期が短いMHPの数とを比較してもよい。基準半周期Th/2を用いる場合については後述する。
【0032】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態の計数部7をより具体的に説明するものである。
図5は本発明の第2の実施の形態に係るBGS光電スイッチの計数部の構成を示すブロック図である。
本実施の形態の計数部7は、立ち上がり検出部70と、立ち下がり検出部71と、時間測定部72,73と、比較部74とから構成される。
【0033】
図6は本実施の形態の計数部7の動作を説明するための図であり、フィルタ部6の出力電圧波形、すなわちMHPの波形を模式的に示す図である。
図6において、H1はMHPの立ち上がりを検出するためのしきい値、H2はMHPの立ち下がりを検出するためのしきい値である。
立ち上がり検出部70は、フィルタ部6の出力電圧をしきい値H1と比較することにより、MHPの立ち上がりを検出する。時間測定部72は、立ち上がり検出部70の検出結果に基づいて、MHPの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間tuuを測定する。時間測定部72は、このような測定をMHPの立ち上がりが検出される度に行う。
【0034】
一方、立ち下がり検出部71は、フィルタ部6の出力電圧をしきい値H2と比較することにより、MHPの立ち下がりを検出する。時間測定部73は、立ち下がり検出部71の検出結果に基づいて、MHPの立ち下がりから次の立ち下がりまでの時間tddを測定する。時間測定部73は、このような測定をMHPの立ち下がりが検出される度に行う。
【0035】
比較部74は、MHPの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間tuuを上記の基準周期Thと比較し、時間tuuが基準周期Thよりも長い場合は、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongを1増やし、時間tuuが基準周期Thよりも短い場合は、基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortを1増やす。比較部74は、このような計数を時間tuuが測定される度に行う。
【0036】
あるいは、比較部74は、MHPの立ち下がりから次の立ち下がりまでの時間tddを用いて、以下のように測定を行ってもよい。すなわち、比較部74は、MHPの立ち下がりから次の立ち下がりまでの時間tddを基準周期Thと比較し、時間tddが基準周期Thよりも長い場合は、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongを1増やし、時間tddが基準周期Thよりも短い場合は、基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortを1増やす。比較部74は、このような計数を時間tddが測定される度に行う。
【0037】
以上のようにして、本実施の形態の計数部7は、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongと基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortを数えることができる。第1の実施の形態で説明したとおり、計数部7は、計数期間(第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々)ごとにMHPを数える。
【0038】
なお、比較部74が時間tuuを用いる場合、立ち下がり検出部71と時間測定部73は必須の構成ではない。また、比較部74が時間tddを用いる場合、立ち上がり検出部70と時間測定部72は必須の構成ではない。
BGS光電スイッチのその他の構成は、第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0039】
本実施の形態では、MHPの立ち上がり(または立ち下がり)の検出と周期の長さの比較だけで済むので、計数部7を簡単な構成で実現することができる。
ただし、本実施の形態では、以下のような問題がある。その問題とは、BGS光電スイッチとして用いる自己結合型のレーザ計測器の場合、半導体レーザ1の発振波長を三角波状に変化させているため、三角波の頂点の過渡応答の影響を完全に除くことはできず、MHPの周期が実際よりも長めもしくは短めに計測される可能性があるので、計数結果に誤差が生じ、結果として物体10の遠近の判定に誤りが生じる可能性があることである。
【0040】
つまり、フィルタ部6は、電流−電圧変換増幅部5の出力電圧波形(変調波)から半導体レーザ1の発振波形(搬送波)を除去して、
図3(B)のようなMHP波形を抽出するが、このとき、フィルタ部6の出力には、三角波の頂点のタイミングでスパイク状の過渡応答波形が現れる。この過渡応答波形のためにMHPの周期の計測に誤差が生じる。
【0041】
図7を用いてこの問題を説明する。
図7の例では、点PEが三角波の極大値のタイミングを示している。
図3(B)に示したとおり、三角波の極大値のタイミングでは、フィルタ部6の出力に下向きのスパイクノイズが発生するので、
図7に示すようにMHPは電圧の低い方へ引きずられた波形となる。このため、MHPの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間tuuは本来の値よりも短くなり、MHPの立ち下がりから次の立ち下がりまでの時間tddは本来の値よりも長くなる。このような問題は、計数部7と判定部8の動作を三角波の1周期分で行うようにすれば改善できるが、MHPにDCバイアスが存在する場合、三角波の極大値のタイミングの過渡応答と三角波の極小値のタイミングの過渡応答とで異なる応答になるために影響は残る。
【0042】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態のBGS光電スイッチにおいて基準半周期Th/2を用いる場合を説明するものである。
図8は本発明の第3の実施の形態に係るBGS光電スイッチの計数部の構成を示すブロック図である。
本実施の形態の計数部7は、立ち上がり検出部70と、立ち下がり検出部71と、時間測定部75,76と、比較部77とから構成される。
【0043】
図9は本実施の形態の計数部7の動作を説明するための図であり、フィルタ部6の出力電圧波形、すなわちMHPの波形を模式的に示す図である。
立ち上がり検出部70と立ち下がり検出部71の動作は、第2の実施の形態と同じである。
【0044】
時間測定部75は、立ち上がり検出部70と立ち下がり検出部71の検出結果に基づいて、MHPの立ち上がりから次の立ち下がりまでの時間tudを測定する。時間測定部75は、このような測定をMHPの立ち上がりと立ち下がりが検出される度に行う。
一方、時間測定部76は、立ち上がり検出部70と立ち下がり検出部71の検出結果に基づいて、MHPの立ち下がりから次の立ち上がりまでの時間tduを測定する。時間測定部76は、このような測定をMHPの立ち下がりと立ち上がりが検出される度に行う。
【0045】
比較部77は、MHPの立ち上がりから次の立ち下がりまでの時間tudおよびMHPの立ち下がりから次の立ち上がりまでの時間tduを基準半周期Th/2と比較し、時間tudが基準半周期Th/2よりも長い場合あるいは時間tduが基準半周期Th/2よりも長い場合は、基準半周期Th/2よりも半周期が長いMHPの数Nlongを1増やし、時間tudが基準半周期Th/2よりも短い場合あるいは時間tduが基準半周期Th/2よりも短い場合は、基準半周期Th/2よりも半周期が短いMHPの数Nshortを1増やす。比較部77は、このような計数を時間tudまたはtduのどちらかが測定される度に行う。
【0046】
以上のようにして、本実施の形態の計数部7は、基準半周期Th/2よりも半周期が長いMHPの数Nlongと基準半周期Th/2よりも半周期が短いMHPの数Nshortを数えることができる。第1の実施の形態で説明したとおり、計数部7は、計数期間(第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々)ごとにMHPを数える。
【0047】
本実施の形態の場合、判定部8は、基準半周期Th/2よりも半周期が長いMHPの数Nlongと基準半周期Th/2よりも半周期が短いMHPの数Nshortとを比較し、Nlong>Nshortが成立する場合、物体10が基準距離よりも近距離に存在すると判定し、Nlong<Nshortが成立する場合、物体10が基準距離よりも遠距離に存在すると判定すればよい。
BGS光電スイッチのその他の構成は、第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0048】
本実施の形態では、第2の実施の形態の効果に加えて、計数値が2倍になるので、計数精度を向上させることができ、結果として物体10の距離の判定精度を向上させることができる。
ただし、本実施の形態では、以下のような問題がある。その問題とは、MHPにDCバイアスが存在する場合、物体10の遠近の判定が困難になることである。
【0049】
図10、
図11を用いてこの問題を説明する。
図10の例は、DCバイアスのために、MHPの平均電圧が本来想定される値よりも高くなっている例を示している。
図10のように、MHPにDCバイアスが存在すると、立ち上がりと立ち下がりでMHPが正しく1/2に分割されないため、MHPの立ち上がりから次の立ち下がりまでの時間tudは本来の値よりも長くなり、MHPの立ち下がりから次の立ち上がりまでの時間tduは本来の値よりも
短くなる。
【0050】
このため、MHPの半周期の分布は、
図11に示すように基準半周期Th/2に対して線対称な2つの正規分布の重ね合わせになる。すなわち、基準半周期Th/2よりも半周期が長いMHPの数Nlongと基準半周期Th/2よりも半周期が短いMHPの数Nshortがほぼ同じになる。したがって、MHPの計数結果に誤差が生じるので、Nlong>Nshortと誤判定したり、場合によってはNlong<Nshortと誤判定したりして、物体10の遠近を正しく判定することが困難になる。
【0051】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態の計数部7をより具体的に説明するものである。本実施の形態の計数部7の構成は、第2の実施の形態と同様であるので、
図5の符号を用いて説明する。
立ち上がり検出部70と立ち下がり検出部71と時間測定部72,73の動作は、第2の実施の形態と同じである。
【0052】
本実施の形態の比較部74は、MHPの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間tuuおよびMHPの立ち下がりから次の立ち下がりまでの時間tddを上記の基準周期Thと比較し、時間tuuが基準周期Thよりも長い場合あるいは時間tddが基準周期Thよりも長い場合は、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongを1増やし、時間tuuが基準周期Thよりも短い場合あるいは時間tddが基準周期Thよりも短い場合は、基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortを1増やす。比較部74は、このような計数を時間tuu,tddのどちらかが測定される度に行う。
【0053】
以上のようにして、本実施の形態の計数部7は、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongと基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortを数えることができる。第1の実施の形態で説明したとおり、計数部7は、計数期間(第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々)ごとにMHPを数える。
BGS光電スイッチのその他の構成は、第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0054】
本実施の形態では、第3の実施の形態の効果に加えて、計数結果に与える三角波の頂点の過渡応答の影響を小さくすることができ、第2の実施の形態で説明した問題を解消することができる。
【0055】
図7で説明したとおり、三角波の頂点のタイミングでは、MHPは電圧の低い方へ引きずられた波形となるので、MHPの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間tuuは本来の値よりも短くなり、MHPの立ち下がりから次の立ち下がりまでの時間tddは本来の値よりも長くなる。
【0056】
一方、
図12の例では、点PEが三角波の極小値のタイミングを示している。
図3(B)に示したとおり、三角波の極小値のタイミングでは、フィルタ部6の出力に上向きのスパイクノイズが発生するので、
図12に示すようにMHPは電圧の高い方へ引きずられた波形となる。このため、MHPの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間tuuは本来の値よりも長くなり、MHPの立ち下がりから次の立ち下がりまでの時間tddは本来の値よりも短くなる。
【0057】
図7、
図12のいずれの場合においても、過渡応答の影響で周期が本来の値よりも長い値となるMHPの数と周期が本来の値よりも短い値となるMHPの数とは等しい。したがって、基準周期Thよりも周期が長いMHPの数Nlongと基準周期Thよりも周期が短いMHPの数Nshortは、どちらも同じ数だけ増えたり、同じ数だけ減ったりするので、過渡応答による計数結果の変化を相殺することができ、計数結果に与える三角波の頂点の過渡応答の影響を小さくすることができる。
【0058】
また、本実施の形態の場合、MHPにDCバイアスが存在する場合でも、MHPの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間tuuおよびMHPの立ち下がりから次の立ち下がりまでの時間tddは変化しないので、MHPのDCバイアスの影響をなくすことができ、第3の実施の形態で説明した問題を解消することができる。
【0059】
[第5の実施の形態]
第1〜第4の実施の形態では、受光器であるフォトダイオードの出力信号からMHP波形を抽出していたが、フォトダイオードを使用することなくMHP波形を抽出することも可能である。
図13は本発明の第5の実施の形態に係るBGS光電スイッチの構成を示すブロック図であり、
図1と同様の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態のBGS光電スイッチは、第1〜第4の実施の形態のフォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5の代わりに、電圧検出部11を用いるものである。
【0060】
電圧検出部11は、半導体レーザ1の端子間電圧、すなわちアノード−カソード間電圧を検出して増幅する。半導体レーザ1から放射されたレーザ光と物体10からの戻り光とによって干渉が生じるとき、半導体レーザ1の端子間電圧には、MHP波形が現れる。したがって、半導体レーザ1の端子間電圧からMHP波形を抽出することが可能である。
【0061】
フィルタ部6は、第1〜第4の実施の形態と同様に、変調波から重畳信号を抽出する機能を有するものであり、電圧検出部11の出力電圧からMHP波形を抽出する。
半導体レーザ1、レーザドライバ4、計数部7、判定部8および表示部9の動作は、第1〜第4の実施の形態と同じである。
【0062】
こうして、本実施の形態では、フォトダイオードを使用することなくMHP波形を抽出することができ、第1〜第4の実施の形態と比較してBGS光電スイッチの部品を削減することができ、BGS光電スイッチのコストを低減することができる。