(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663322
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】樹脂モールドコイル、及びそれを用いたモールド変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/32 20060101AFI20150115BHJP
H01F 30/00 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
H01F27/32 A
H01F31/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-10366(P2011-10366)
(22)【出願日】2011年1月21日
(65)【公開番号】特開2012-151374(P2012-151374A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2013年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】畔上 達人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義光
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−267147(JP,A)
【文献】
特開平04−278504(JP,A)
【文献】
特開2003−059731(JP,A)
【文献】
特開2010−239113(JP,A)
【文献】
特開昭56−062311(JP,A)
【文献】
特開昭60−059724(JP,A)
【文献】
特開昭60−053007(JP,A)
【文献】
特開昭55−015268(JP,A)
【文献】
特開昭56−081907(JP,A)
【文献】
特開昭58−202506(JP,A)
【文献】
実開昭56−110637(JP,U)
【文献】
特開平02−256211(JP,A)
【文献】
特開平09−213540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/32
H01F 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線の径方向の内周側と外周側に樹脂層を有する樹脂モールドコイルにおいて、
前記巻線の径方向の内周側から外周側に向かって、第1のプリプレグ層、第1のガラス基材層、第2のプリプレグ層、第2のガラス基材層、巻線、第3のガラス基材層、第3のプリプレグ層、第4のガラス基材層、第4のプリプレグ層が積層された積層部を備え、
該積層部の巻線の軸方向における上側、下側の端面部位が繊維質のガラス基材層で覆われており、
該繊維質のガラス基材層の、巻線の軸方向における上側と下側とが、樹脂層で覆われている
ことを特徴とする樹脂モールドコイル。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂モールドコイルにおいて、
前記ガラス基材が繊維質であることを特徴とする樹脂モールドコイル。
【請求項3】
請求項1記載の樹脂モールドコイルと、
前記樹脂モールドコイルが設けられる鉄心と、
前記樹脂モールドコイルが接続される接続端子と、
前記樹脂モールドコイルが締め付けられる金具とを有することを特徴とする受配電用モールド変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受配電用等のモールド変圧器を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2000−12343号公報(特許文献1)と特開平11−214237号公報(特許文献2)がある。
【0003】
前記特許文献1、及び特許文献2には、従来技術に比べ簡便なる方法で樹脂モールド層を形成し、絶縁特性の良好なる樹脂モールドコイルの製造方法を提供する旨の記載がある。
【0004】
また、電気絶縁物で被覆した導体を巻回して得た巻線をエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂組成物でモールドした樹脂モールドコイルは、絶縁性能及び難燃性に優れているために、主に高圧受配電用モールド変圧器に適用されている。
【0005】
従来の樹脂モールドコイルの製造方法において、コイルの同心円半径方向の内外周構成は樹脂層のみ、または繊維質のガラス基材の層に樹脂を含浸させた層と樹脂層の各一層のみを設けた構成で、前述のように、絶縁特性について配慮されているものがある。
【0006】
なお、樹脂モールドコイルについては、前記絶縁特性の改善だけでなく、耐クラック性についても、更に改善されることが望ましいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−12343号公報
【特許文献2】特開平11−214237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の樹脂モールドコイルの構成においては、樹脂硬化時や変圧器運転時に樹脂層で樹脂収縮量が大きくなり、許容応力を超えるとクラックが生じることが予想される。
【0009】
そして、例えば、クラックが生じたとした場合に、そのクラックから水分、塵埃などがコイル、巻線内に進入することで、絶縁破壊が引き起こされる可能性もあり、この点について、検討すべき課題と言える。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題を解決した樹脂モールドコイル、及びそれを用いたモールド変圧器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を以下に挙げる。
【0012】
樹脂モールドコイルの構成において、コイル、巻線の同心円半径方向の内外周の樹脂層に対して、プリプレグ層、繊維質のガラス基材の複数層、多層化による細分化により各層の樹脂収縮量を緩和し、耐クラック性を向上させるようにする。
【0013】
さらに、以下に、本発明の構成について、別の表現にて説明する。
【0014】
巻線の径方向の内周側と外周側に樹脂層を有する樹脂モールドコイルにおいて、前記内周側の樹脂層、または、外周側の樹脂層がガラス基材を複数層有するようにする。
【0015】
前記樹脂モールドコイルにおいて、前記内周側の樹脂層が、内周側にプリプレグ層を設けられ、前記プリプレグ層の外周側にガラス基材の層を設けられるようにする。
【0016】
前記樹脂モールドコイルにおいて、前記巻線の径方向の内周側から外周側に向かって、第1プリプレグ層、第1ガラス基材層、第2プリプレグ層、第2ガラス基材層、巻線、第3ガラス基材層、第3プリプレグ層、第4ガラス基材層、第4プリプレグ層が設けられるようにする。
【0017】
前記樹脂モールドコイルにおいて、前記ガラス基材層の巻線の軸方向の上側、下側に樹脂層を設けるようにする。
【0018】
前記樹脂モールドコイルにおいて、前記ガラス基材が繊維質であるようにする。
【0019】
前記樹脂モールドコイルにおいて、上側、下側に設けられた前記樹脂層が繊維質のガラス基材を有するようにする。
【0020】
前記樹脂モールドコイルと、前記樹脂モールドコイルが設けられる鉄心と、前記樹脂モールドコイルが接続される接続端子と、前記樹脂モールドコイルが締め付けられる金具とを有して、受配電用モールド変圧器を構成するようにする。
【発明の効果】
【0021】
本発明を実施することで、従来と比べて、樹脂層の耐クラック性と巻線作業性を向上でき、絶縁耐力や生産性に優れたモールド変圧器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1の樹脂モールドコイルの断面図の例である。
【
図2】実施例2の樹脂モールドコイルの断面図の例である。
【
図3】本発明の実施例の樹脂モールドコイルを上から見た場合の断面図の例である。
【
図4】本発明のモールドコイルを備えた樹脂モールド変圧器の概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて実施例を説明する。
【実施例1】
【0024】
本実施例では、樹脂モールドコイルについて、モールドコイルの巻線を巻く際に、その径方向の内周側、そして外周側の樹脂層の構成を説明する。
【0025】
図1は、本実施例の樹脂モールドコイルを横から見た場合の断面図の例である。
【0026】
本実施例の樹脂モールドコイルは、コイルとなる巻線1、モールド樹脂層2、ガラス基材層、プリプレグ層を有する。
【0027】
コイル内周側から外周側に向かって、第1プリプレグ層41、第1ガラス基材層31、第2プリプレグ層42、第2ガラス基材層32、巻線1、第3ガラス基材層33、第3プリプレグ層43、第4ガラス基材層34、第4プリプレグ層44が配置される構成となっている。
【0028】
モールド樹脂層2は、樹脂を第1プリプレグ層41、第1ガラス基材層31、第2プリプレグ層42、第2ガラス基材層32、巻線1、第3ガラス基材層33、第3プリプレグ層43、第4ガラス基材層34、第4プリプレグ層44などに対して、上下に、樹脂等を充填し硬化して形成する。
【0029】
従来の樹脂モールドコイルの構造は、耐クラック性の観点から内周側に設けるプリプレグ層の厚みを確保する為、プリプレグテープを複数回巻きつける必要が有り、この巻きつけ作業時間が多く掛かり生産性が悪くなる問題があった。
【0030】
一方、実施例1の
図1の樹脂モールドコイルでは、樹脂層の構成において、内周側に設けるプリプレグ層をプリプレグテープ一回巻きとし、第1プリプレグ層41としている。
【0031】
前記第1プリプレグ層41の上から第1ガラス基材層31を設けている。
【0032】
この第1ガラス基材層31を設けることで、耐クラック性を得るようにしている。
【0033】
前記のように、内周側の第1プリプレグ層41は、プリプレグテープ一回巻きとしているので、従来のように、プリプレグテープを複数回巻きつけるよりは、巻きつけの作業時間が少なくなり、生産性が従来よりも改善されることとなる。
【0034】
なお、
図1に例示するように、プリプレグテープ一回巻きとした第2プリプレグ層42を設けること、第2ガラス基材層32など、複数の層を設けることで耐クラック性を改善させることも可能である。この場合であっても、従来と比べると、プリプレグテープの巻き回数が少ない為、巻線作業性を向上させた樹脂モールドコイルを得ることができる。
【0035】
また、モールド樹脂層2は、巻線1と、第1プリプレグ層41、第2プリプレグ層42、第3プリプレグ層43、第4プリプレグ層44を有するプリプレグ層と、そして、第1ガラス基材層31、第2ガラス基材層32、第3ガラス基材層33、第4ガラス基材層34を有するガラス基材層に対して、上下に樹脂を充填し硬化して形成する。
【0036】
なお、前記において、プリプレグテープの巻数は、一回巻きに限定されるものではなく、従来よりも巻きつけ作業時間を低減出来る回数であれば、特に限定しない。従って、二回、三回等であっても良い。
【実施例2】
【0037】
本実施例では、樹脂モールドコイルの上下樹脂層の構成を説明する。
【0038】
図2は、実施例2における樹脂モールドコイルの断面図の例である。
【0039】
図2の樹脂モールドコイルの断面図のうち、既に説明した
図1に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0040】
実施例2では、モールド樹脂層2について、工夫している。
【0041】
図2に例示するように、ガラス基材層、プリプレグ層などの絶縁物の端面部位に於けるモールド樹脂層2に対し、繊維質のガラス基材5を配置し、ガラス基材層、プリプレグ層などの絶縁物の端面部位を覆うようにしている。
【0042】
このようにすることで、これらの絶縁物端面部位からのクラックを防止するようにするものである。モールド樹脂層2は、樹脂をガラス基材層、プリプレグ層の上下に樹脂を充填し硬化して形成する。
【0043】
なお、前記ガラス基材層、プリプレグ層の他にテオネックス(R)、ルミラーX10S(R)等の層間絶縁フィルムやガラスクロスなどの絶縁物を設けるものであっても良い。
【実施例3】
【0044】
図3は、前記
図1、
図2に例示の樹脂モールドコイルの樹脂層について、レジンを用いて形成する場合を例示したものである。
【0045】
図3に示すように、樹脂モールドコイルの内周側の第1プリプレグ層41、第1ガラス基材層31、第2プリプレグ層42、第2ガラス基材層32がレジンによって、レジン層40Aとされ、外周側の第3ガラス基材層33、第3プリプレグ層43、第4ガラス基材層34、第4プリプレグ層44がレジンによって、レジン層40Bとされている。
【0046】
前記によって、
図3に例示するように、樹脂モールドコイルは、樹脂層であるレジン層については、巻線1の内周側にレジン層40Aが位置し、外側にレジン層40Bが位置することとなる。
【実施例4】
【0047】
次に、前記樹脂モールドコイル100を設けた受配電用モールド変圧器の概観の斜視図を
図4に示す。
【0048】
図4に示す受配電用モールド変圧器は、鉄心10、鉄心10の周囲に配置されて交番磁界を発生する一次コイル、鉄心10と一次コイルとの間に配置される二次コイル、一次コイルの接続端子として変圧器の外側に引き出されている一次端子13、二次コイルの接続端子として変圧器の外側に引き出されている二次端子14、及び変圧器の金具11、12等より構成される。
【0049】
一次コイルと二次コイルとの間は、絶縁と冷却を兼ねる空気層となっている。金具11、12は、鉄心10とコイルとを上方と下方とから締め付けて支持する上締金具と下締金具とから成っている。
【0050】
また、一次コイルは分割コイルで構成されても良く、樹脂を注型し硬化して樹脂モールドコイルを構成する。二次コイルは、上記の分割コイルの巻線方法は取っておらず、金型にコイルを巻回して樹脂を注型して硬化させ、金型を外したモールドコイルを搭載しても良い。
【0051】
また、上記のボビンは樹脂製でガラスロービングクロス基材などを用いる。
【符号の説明】
【0052】
1‥巻線
2‥モールド樹脂層
3‥ガラス基材層
5‥繊維質のガラス基材
10‥鉄心
11、12‥変圧器の金具
13‥一次端子
14‥二次端子
31‥第1ガラス基材層
32‥第2ガラス基材層
33‥第3ガラス基材層
34‥ガラス基材層
41‥第1プリプレグ層
42‥第2プリプレグ層
43‥第3プリプレグ層
44‥第4プリプレグ層
100‥樹脂モールドコイル