(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ドライバがブレーキペダルを踏むことなくエンジンブレーキを作用させて降坂走行することを検出し、該降坂走行で予め設定する一定速で走行することを選択する降坂時定速走行選択手段と、
上記降坂走行の際に、少なくとも上記エンジンブレーキに基づいて車輪に作用する総制動力を算出する総制動力算出手段と、
上記降坂走行の際に、少なくとも路面の勾配に基づいて車両が上記予め設定する一定速で走行するのに必要な要求制動力を算出する要求制動力算出手段と、
上記総制動力算出手段で算出した上記総制動力と上記要求制動力算出手段で算出した上記要求制動力に基づいて上記降坂走行を上記予め設定した一定速で走行するのに制動力が不足するか否かを判定する制御判定手段と、
上記制御判定手段で制動力が不足すると判定した場合には、該不足する制動力を制動手段に発生させる制動力制御手段と、
前後軸間の締結トルクを可変制御して該前後軸間の駆動力配分を制御する前後駆動力配分制御手段と、
上記制御判定手段で上記総制動力では制動力が不足すると判定した場合には、上記前後駆動力配分制御手段による上記前後軸間の締結トルクを略0に設定し、上記制動力制御手段は上記不足する制動力を車輪の接地荷重配分に応じて上記制動手段で発生させる一方、上記制御判定手段で上記総制動力で制動力が十分と判定した場合には、上記前後駆動力配分制御手段による上記前後軸間の駆動力配分を上記車輪の接地荷重配分に応じて設定し、上記不足する制動力を上記制動手段で発生させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の運転支援制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は車両前部に配置されたエンジンを示し、このエンジン1による駆動力は、エンジン1後方の動力伝達手段としての自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)2からトランスミッション出力軸2aを経てトランスファ3に伝達される。
【0010】
更に、このトランスファ3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、リダクションドライブギヤ8、リダクションドリブンギヤ9、ドライブピニオン軸部となっているフロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。ここで、自動変速装置2、トランスファ3および前輪終減速装置11等は、一体にケース12内に設けられている。
【0011】
また、後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13rlを経て左後輪14rlに、後輪右ドライブ軸13rrを経て右後輪14rrに伝達される。前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13flを経て左前輪14flに、前輪右ドライブ軸13frを経て右前輪14frに伝達される。
【0012】
トランスファ3は、リダクションドライブギヤ8側に設けたドライブプレート15aとリヤドライブ軸4側に設けたドリブンプレート15bとを交互に重ねて構成したトルク伝達容量可変型クラッチとしての湿式多板クラッチ(トランスファクラッチ)15と、このトランスファクラッチ15の締結力(後軸駆動トルク)を可変自在に付与するトランスファピストン16とにより構成されている。従って、本車両は、トランスファピストン16による押圧力を制御し、トランスファクラッチ15の締結力を制御することで、トルク配分比が前輪と後輪で、例えば100:0から50:50の間で可変できるフロントエンジン・フロントドライブ車ベース(FFベース)の4輪駆動車となっている。
【0013】
トランスファピストン16の押圧力は、複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成するトランスファクラッチ駆動部31aで与えられる。このトランスファクラッチ駆動部31aを駆動させる制御信号(トランスファクラッチトルク:前後軸間の締結トルク)Tlsdは、前後駆動力配分制御手段としての前後駆動力配分制御部31から出力される。
【0014】
そして、前後駆動力配分制御部31は、通常時においては、例えば、公知の如く、エンジントルクや車両に発生するヨーレート等に応じてトランスファクラッチトルクTlsdを設定して、トランスファクラッチ駆動部31aに出力するが、後述する制御ユニット30からトランスファクラッチトルクTlsdの出力がある場合には、この制御ユニット30から出力されたトランスファクラッチトルクTlsdをトランスファクラッチ駆動部31aに対して出力する。
【0015】
一方、符号32aは、車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部32aには、ドライバにより操作されるブレーキペダルと接続されたマスターシリンダ(図示せず)が接続されている。そして、ドライバがブレーキペダルを操作するとマスターシリンダにより、ブレーキ駆動部32aを通じて、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ17fl,右前輪ホイールシリンダ17fr,左後輪ホイールシリンダ17rl,右後輪ホイールシリンダ17rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪が制動される。
【0016】
ブレーキ駆動部32aは、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、上述のドライバによるブレーキ操作以外にも、制動手段としてのブレーキ制御部32からの信号に応じて、各ホイールシリンダ17fl,17fr,17rl,17rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に構成されている。
【0017】
ブレーキ制御部32は、公知のABS(Antilock Brake System)制御や、横すべり防止制御を行って、所定の車輪を独立して選択し、ブレーキ力を付加するようにブレーキ駆動部32aに信号出力する。この際、ブレーキ制御部32は、後述する制御ユニット30から、前後輪のブレーキ力Fbrkf、Fbrkrの出力信号が入力された場合は、該当するブレーキ力Fbrkf、Fbrkrをブレーキ駆動部32aに出力させる。
【0018】
車両には、ドライバがブレーキペダルを踏むことなくエンジンブレーキを作用させて所望の一定速度(低速)で降坂走行する降坂時定速走行制御の機能が設けられており、車内のインスツルメントパネル等に設けられた降坂時定速走行選択手段としての降坂時定速走行スイッチ41をONにして、降坂車速選択ダイヤル42を操作することにより降坂時おける車両速度が設定されて、制御ユニット30に入力されるようになっている。
【0019】
また、制御ユニット30には、4輪の車輪速センサ43から4輪の車輪速度(左前輪車輪速度Vfl、右前輪車輪速度Vfr、左後輪車輪速度Vrl、右後輪車輪速度Vrr)が入力され、アクセル開度センサ44からアクセル開度θACCが入力され、横加速度センサ45から横加速度(d
2y/dt
2)が入力され、エンジン回転数センサ46からエンジン回転数Neが入力され、スロットル開度センサ47からスロットル開度TPSが入力され、タービン回転数センサ48からタービン回転数Ntが入力され、道路勾配センサ49から道路勾配θが入力され、トランスミッション制御部50から主変速ギヤ比itmが入力され、ブレーキペダルスイッチ51からブレーキペダルのON−OFF信号が、それぞれ入力される。
【0020】
そして、制御ユニット30は、これらの入力信号に基づいて、ドライバが降坂時定速走行スイッチ41をONにして降坂車速選択ダイヤル42により所望の速度Vhdcを設定して降板時定速走行を実行する際には、少なくともエンジンブレーキに基づいて車輪に作用する総制動力(タイヤ総制動力)Ftireを算出し、少なくとも路面の勾配θに基づいて車両が設定車速Vhdcで走行するのに必要な要求制動力Fdemandを算出し、タイヤ総制動力Ftireと要求制動力Fdemandに基づいて降板走行を設定車速Vhdcで走行するのに制動力が不足するか否かを判定し、制動力が不足すると判定した場合には、トランスミッション制御部50に信号出力して、自動変速装置2をニュートラルレンジ位置にさせてエンジン1と車輪14fl,14fr,14rl,14rrとの間の動力伝達を遮断すると共に、車輪の接地荷重配分に応じて不足する制動力(前輪側制動力Fbrkf、後輪側制動力Fbrkr)を設定してブレーキ制御部32に出力する。また、制御ユニット30は、タイヤ総制動力Ftireで制動力が不足すると判定した場合には、前後駆動力配分制御部31に対し、トランスファクラッチトルクTlsdをTlsd_brk_hdc(略0に近い値)に設定するように信号出力する一方、タイヤ総制動力Ftireで制動力が十分であると判定した場合には、トランスファクラッチトルクTlsdを車輪の接地荷重配分に応じて設定させる。
【0021】
このため、制御ユニット30は、
図2に示すように、車速演算部30a、降坂車速設定部30b、タイヤ総制動力算出部30c、要求制動力算出部30d、後輪接地荷重配分比算出部30e、制御選択部30f、トランスファクラッチトルク算出部30g、ブレーキ力算出部30hから主要に構成されている。
【0022】
車速演算部30aは、4輪の車輪速センサ43から4輪の車輪速度Vfl、Vfr、Vrl、Vrrが入力される。そして、例えば、これら4輪の平均を算出することにより、車速V(=(Vfl+Vfr+Vrl+Vrr)/4)を算出し、タイヤ総制動力算出部30c、要求制動力算出部30d、後輪接地荷重配分比算出部30eに出力する。
【0023】
降坂車速設定部30bは、降坂車速選択ダイヤル42による出力信号が入力されて、降坂車速選択ダイヤル42の出力信号に基づいたドライバの希望する降坂時定速走行における設定車速Vhdcを設定して要求制動力算出部30dに出力する。
【0024】
タイヤ総制動力算出部30cは、エンジン回転数センサ46からエンジン回転数Neが入力され、スロットル開度センサ47からスロットル開度TPSが入力され、タービン回転数センサ48からタービン回転数Ntが入力され、トランスミッション制御部50から主変速ギヤ比itmが入力され、車速演算部30aから車速Vが入力される。そして、例えば、以下の(1)式により、エンジンブレーキ、走行抵抗Fresistに基づいて車輪に作用する総制動力(タイヤ総制動力)Ftireを算出して制御選択部30f、トランスファクラッチトルク算出部30g、ブレーキ力算出部30hに出力する。
Ftire=Te・Tr・itm・if/Rt・η−Fresist …(1)
ここで、Teは推定エンジントルクであり、例えば、予め実験等により設定しておいた、
図4に示すような、エンジン回転数Neとスロットル開度TPSに基づくエンジンの特性図から求められる。また、Trはトルコントルク比であり、例えば、予め実験等により設定しておいた、
図5に示すような、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの比に基づく特性図から求められる。また、ηはパワートレイン伝達効率であり、例えば、予め実験等により設定しておいた、
図6に示すような、主変速ギヤ比itmに基づく特性図から求められる。また、ifはファイナルギヤ比、Rtはタイヤ半径である。このように、(Te・Tr・itm・if/Rt・η)の演算項がエンジンブレーキにより発生する制動力の項となっている。また、走行抵抗Fresistは、例えば、予め実験等により設定しておいた、
図7に示すような、車速Vに基づく特性図から求められる。このように、タイヤ総制動力算出部30cは、総制動力算出手段として設けられている。
【0025】
要求制動力算出部30dは、道路勾配センサ49から道路勾配θ(登り側に「+」)が入力され、車速演算部30aから車速Vが入力され、降坂車速設定部30bから設定車速Vhdcが入力される。そして、例えば、以下の(2)式により、道路勾配θに基づいて車両が設定車速Vhdcで走行するのに必要な要求制動力Fdemandを算出し、制御選択部30f、ブレーキ力算出部30hに出力する。
Fdemand=Fkoubai+Fdelv …(2)
ここで、Fkoubaiは、koubaiによる車両加速度であり、例えば、以下の(3)式により、算出される。
Fkoubai=m・g・sinθ …(3)
ここで、mは車両質量、gは重力加速度である。
【0026】
また、Fdelvは、設定車速と現在の車速の偏差(V−Vhdc)に基づく減速度であり、例えば、予め実験等により設定しておいた、
図8に示すような、特性図を参照することに求められられる。このように、要求制動力算出部30dは、要求制動力算出手段として設けられている。
【0027】
後輪接地荷重配分比算出部30eは、横加速度センサ45から横加速度(d
2y/dt
2)が入力される。そして、例えば、以下の(4)式により、後輪接地荷重配分比Rfzrを算出し、制御選択部30f、トランスファクラッチトルク算出部30g、ブレーキ力算出部30hに出力する。
Rfzr=(Fzrl+Fzrr)/(Fzfl+Fzfr+Fzrl+Fzrr) …(4)
ここで、Fzfl、Fzfr、Fzrl、Fzrrは、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の接地荷重であり、以下のように算出される。
【0028】
まず、前輪接地荷重Fzfと後輪接地荷重Fzrは、例えば、以下の(5)、(6)式により、算出できる。
【0029】
Fzf=Wf−((m・(d
2x/dt
2)・h)/L) …(5)
Fzr=W−Fzf …(6)
ここで、Wfは前輪静加重、(d
2x/dt
2)は前後加速度、hは重心高さ、Lはホイールベース、Wは車両重量(=m・g)である。
【0030】
また、左輪側の荷重比率WRlは、以下の(7)式により、算出できる。
WRl=0.5−((d
2y/dt
2)/g)・(h/Ltred) …(7)
ここで、Ltredは前輪と後輪のトレッド平均値である。
【0031】
これら、(5)、(6)、(7)式により、Fzfl、Fzfr、Fzrl、Fzrrは、以下の(8)、(9)、(10)、(11)式により、算出することができる。
Fzfl=Fzf・WRl …(8)
Fzfl=Fzf・(1−WRl) …(9)
Fzrl=Fzr・WRl …(10)
Fzrr=Fzr・(1−WRl) …(11)
【0032】
制御選択部30fは、降坂時定速走行スイッチ41からのON−OFF信号が入力され、アクセル開度センサ44からアクセル開度θACCが入力され、ブレーキペダルスイッチ51からブレーキペダルのON−OFF信号が入力され、タイヤ総制動力算出部30cからタイヤ総制動力Ftireが入力され、要求制動力算出部30dから要求制動力Fdemandが入力され、後輪接地荷重配分比算出部30eから後輪接地荷重配分比Rfzrが入力される。そして、降坂時定速走行スイッチ41がONされ、且つ、ブレーキペダルがOFF状態で、且つ、アクセル開度θACCが、アクセルペダルが操作されていないとみなせるθ1(例えば、5°〜8°)以下の場合に、降坂時定速走行制御を実行させる。尚、これら、降坂時定速走行スイッチ41、ブレーキペダル、アクセルペダルの何れかの条件が満足されていない場合には、降坂時定速走行制御へと移行することなく、前後駆動力配分制御部31に対しては、通常時における前後駆動力配分制御を実行させる。また、ブレーキ制御部32に対しても、制御ユニット30から信号出力することはしない。
【0033】
制御選択部30fは、降坂時定速走行制御に入ると、基本的には、要求制動力Fdemandとタイヤ総制動力Ftireとを比較して、降板走行を設定車速Vhdcで走行するのに制動力が不足するか否かを判定し、タイヤ総制動力Ftireが要求制動力Fdemand以下で、タイヤ総制動力Ftireで制動力が十分な場合は、制動力を補うことはしない。また、トランスファクラッチトルク算出部30gに対しては、制動力が不足する場合と制動力が十分な場合とで前後軸間の駆動力配分が略同一になるように、トランスファクラッチトルクTlsdを後輪接地荷重配分比Rfzrに応じて設定し、前後駆動力配分制御部31に出力して、トランスファクラッチ駆動部31aによりトランスファクラッチトルクTlsdを設定させる。
【0034】
また、タイヤ総制動力Ftireが要求制動力Fdemandを上回り、タイヤ総制動力Ftireのみでは制動力が不足すると判定した場合は、トランスミッション制御部50に信号出力して、自動変速装置2をニュートラルレンジ位置にさせてエンジン1と車輪14fl,14fr,14rl,14rrとの間の動力伝達を遮断すると共に、ブレーキ力算出部30hに信号を出力して、後輪接地荷重配分比Rfzrに応じて不足する制動力Fbrkf、Fbrkrを算出させ、ブレーキ制御部32に出力してブレーキ駆動部32aで発生させる。更に、トランスファクラッチトルク算出部30gに対しては、トランスファクラッチトルクTlsdをTlsd_brk_hdc(略0に近い値)に設定し、前後駆動力配分制御部31に出力して、トランスファクラッチ駆動部31aによりトランスファクラッチトルクTlsdを設定させる。尚、再び、自動変速装置2をニュートラルレンジ位置から通常の変速位置に戻してタイヤ総制動力Ftireのみで制御する場合に復帰するための所定のヒステリシスが、タイヤ総制動力Ftireと要求制動力Fdemandとの比較の際に設定されている。このように、制御選択部30fは、制御判定手段、制御手段として設けられている。
【0035】
トランスファクラッチトルク算出部30gは、タイヤ総制動力算出部30cからタイヤ総制動力Ftireが入力され、後輪接地荷重配分比算出部30eから後輪接地荷重配分比Rfzrが入力され、制御選択部30fから判定の結果の信号が入力される。そして、制御選択部30fから降坂時定速走行制御におけるトランスファクラッチトルクTlsdの出力指令信号が入力されると、以下の(12)式により、トランスファクラッチトルクTlsdを算出して前後駆動力配分制御部31に出力し、トランスファクラッチ駆動部31aによりトランスファクラッチトルクTlsdを設定させる。
Tlsd=Ftire・Rt・Rfzr …(12)
また、制御選択部30fから判定の結果で、トランスファクラッチトルクTlsdを略0に設定する信号が入力された場合は、トランスファクラッチトルクTlsdを略0にするように前後駆動力配分制御部31に出力してトランスファクラッチ駆動部31aにより設定させる。
【0036】
ブレーキ力算出部30hは、タイヤ総制動力算出部30cからタイヤ総制動力Ftireが入力され、要求制動力算出部30dから要求制動力Fdemandが入力され、後輪接地荷重配分比算出部30eから後輪接地荷重配分比Rfzrが入力され、制御選択部30fから判定の結果の信号が入力される。そして、制御選択部30fから不足する制動力を出力する信号が入力されると、以下の(13)、(14)式により、前輪側に付加する制動力Fbrkfと後輪側に付加する制動力Fbrkrを算出してブレーキ制御部32に出力し、ブレーキ駆動部32aで発生させる。
Fbrkf=−(Fdemand−Ftire)・(1−Rfzr) …(13)
Fbrkr=−(Fdemand−Ftire)・Rfzr …(14)
【0037】
次に、上述の制御ユニット30で実行される降坂時定速走行制御プログラムを、
図3のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)S101で、制御選択部30fは、降坂時定速走行スイッチ41がONか否か判定し、降坂時定速走行スイッチ41がONされているのであれば、S102に進み、ブレーキペダルスイッチ51がONされているか否か判定する。このS102の判定の結果、ブレーキペダルスイッチ51がOFFであれば、S103に進み、制御選択部30fは、アクセル開度θACCが、θ1(例えば、5°〜8°)より大きく(θACC>θ1)、アクセルペダルがドライバにより踏まれている(誤操作も含む)か否か判定する。このS103の判定の結果、θACC≦θ1であって、アクセルペダルがドライバにより踏まれていないと判定された場合は、S104以降の処理(降坂時定速走行制御の処理)へと進む。
【0038】
また、S101で降坂時定速走行スイッチ41がOFFと判定された場合、或いは、S102でブレーキペダルスイッチ51がONされていると判定された場合、或いは、S103でθACC>θ1で、アクセルペダルがドライバにより操作されていると判定された場合は、S119へと進み、制御選択部30fは、トランスファクラッチトルク算出部30gに対して、トランスファクラッチトルクTlsdの出力を禁止させ、前後駆動力配分制御部31には通常の前後駆動力配分制御を実行させ、S113に進んで、後述するニュートラル位置設定フラグFlHDC_brkをクリア(FlHDC_brk=0)してプログラムを抜ける。
【0039】
すなわち、ニュートラル位置設定フラグFlHDC_brkは、降坂時定速走行制御において、タイヤ総制動力Ftireのみでは制動力が不足すると判定して、自動変速装置2をニュートラルレンジ位置にさせ、不足する制動力を自動ブレーキで補って、トランスファクラッチトルクTlsdを略0に設定させる際にセット(FlHDC_brk=1)されるフラグとなっており、それ以外の場合には、クリア(FlHDC_brk=0)されるフラグとなっている。
【0040】
S103からS104へと進むと、タイヤ総制動力算出部30cは、前述の(1)式により、タイヤ総制動力Ftireを算出する。
【0041】
次いで、S105に進み、要求制動力算出部30dは、前述の(2)式により、要求制動力Fdemandを算出する。
【0042】
次いで、S106に進み、後輪接地荷重配分比算出部30eは、前述の(4)式により、後輪接地荷重配分比Rfzrを算出する。
【0043】
次に、S107に進むと、ニュートラル位置設定フラグFlHDC_brkが参照されて、FlHDC_brkがセット(FlHDC_brk=1)されているか否か判定される。
【0044】
この判定の結果、FlHDC_brk=0の場合は、S108に進み、設定値Kを0に設定する(K=0)一方、FlHDC_brk=1の場合は、S109に進み、設定値KをA(制御切替時のチャタリングを抑制するためにヒステリシス特性を持たせるために経験的に予め決められた定数)に設定する(K=A)。
【0045】
そして、S108、或いは、S109で設定値Kを設定した後は、S110に進み、Fdemandと(Ftire−K)とを比較して、降坂時定速走行制御において設定車速Vhdcで定速走行するのに制動力が不足するか否か判定する。
【0046】
この判定の結果、Fdemandが(Ftire−K)以上で、タイヤ総制動力Ftireで十分な制動力が得られると判定される場合は、S111に進んで、トランスファクラッチトルク算出部30gは、前述の(12)式により、トランスファクラッチトルクTlsdを算出し、S112に進んで、制御選択部30fは、トランスファクラッチトルクTlsdを前後駆動力配分制御部31に出力させて、トランスファクラッチ駆動部31aによりトランスファクラッチトルクTlsdを設定させる。
【0047】
その後、S113に進んで、ニュートラル位置設定フラグFlHDC_brkをクリア(FlHDC_brk=0)してプログラムを抜ける。
【0048】
一方、上述のS110の判定の結果、Fdemandが(Ftire−K)を下回って、タイヤ総制動力Ftireのみでは制動力が不足すると判定した場合は、S114に進み、ブレーキ力算出部30hは、前述の(13)、(14)式により、前輪側に付加する制動力Fbrkfと後輪側に付加する制動力Fbrkrを算出する。
【0049】
次いで、S115に進み、制御選択部30fは、ブレーキ力算出部30hに出力指令を出力して、前輪側に付加する制動力Fbrkfと後輪側に付加する制動力Fbrkrをブレーキ制御部32に出力し、ブレーキ駆動部32aで発生させる。
【0050】
次に、S116に進み、制御選択部30fは、トランスファクラッチトルク算出部30gに出力指令を出力して、トランスファクラッチトルクTlsdをTlsd_brk_hdc(略0に近い値)として前後駆動力配分制御部31に出力させて、トランスファクラッチ駆動部31aによりトランスファクラッチトルクTlsdを設定させる。
【0051】
次いで、S117に進み、制御選択部30fは、トランスミッション制御部50に信号出力して、自動変速装置2をニュートラルレンジ位置にさせてエンジン1と車輪14fl,14fr,14rl,14rrとの間の動力伝達を遮断する。
【0052】
そして、S118に進んで、ニュートラル位置設定フラグFlHDC_brkをセット(FlHDC_brk=1)してプログラムを抜ける。
【0053】
このように、本発明の実施の形態によれば、ドライバが降坂時定速走行スイッチ41をONにして降坂車速選択ダイヤル42により所望の速度Vhdcを設定して降板時定速走行を実行する際には、エンジンブレーキ、走行抵抗Fresistに基づいてタイヤ総制動力Ftireを算出し、道路勾配θに基づいて車両が設定車速Vhdcで走行するのに必要な要求制動力Fdemandを算出し、タイヤ総制動力Ftireと要求制動力Fdemandに基づいて降板走行を設定車速Vhdcで走行するのに制動力が不足するか否かを判定し、制動力が不足すると判定した場合には、トランスミッション制御部50に信号出力して、自動変速装置2をニュートラルレンジ位置にさせてエンジン1と車輪14fl,14fr,14rl,14rrとの間の動力伝達を遮断すると共に、車輪の接地荷重配分に応じて不足する制動力(前輪側制動力Fbrkf、後輪側制動力Fbrkr)を設定してブレーキ制御部32に出力する。また、制御ユニット30は、タイヤ総制動力Ftireで制動力が不足すると判定した場合には、前後駆動力配分制御部31に対し、トランスファクラッチトルクTlsdをTlsd_brk_hdc(略0に近い値)に設定するように信号出力する一方、タイヤ総制動力Ftireで制動力が十分であると判定した場合には、トランスファクラッチトルクTlsdを車輪の接地荷重配分に応じて設定させる。このため、エンジンブレーキのみでは制動力が不足する際に自動ブレーキを付加して制動力を補う際に、エンジンブレーキの変動や制御分解能の限界から生じる自動ブレーキの精度の悪化や不安定化を未然に防止することができ、降坂時定速走行制御による定速走行を、たとえエンジンブレーキでは制動力が不足するような領域でも精度良く安定して行うことができる。また、制動力が不足するとして補って設定される制動力Fbrkf、Fbrkrは車輪の接地荷重配分に応じて設定され、制動力が十分と判定されて設定されるトランスファクラッチトルクTlsdは車輪の接地荷重配分に応じて設定されるので、降板時定速走行を、エンジンブレーキのみを利用して行う場合とブレーキ力を付加して行う場合とで同じ前後制動力配分で行うことができ、ドライバに対して的確なロードインフォメーションを伝達しつつ、降坂時定速走行制御を変速ショックや振動等の不快感を与える
ことなくスムーズに行うことができる