【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の多色成形法のそり解析方法における問題点について鋭意研究し、以下の点を見出すに至った。
(1)多色成形においては、予め成形された成形品の熱収縮を考慮するだけでなく、さらに、予め成形された成形品に残留する成形収縮ひずみ(以下、「残留成形収縮ひずみ」という場合がある。)を考慮する必要があること。
(2)後から充填される溶融充填物が、予め成形された成形品を加熱することにより、予め成形された成形品に発生する成形収縮ひずみの分布(以下、「残留成形収縮ひずみ分布」という場合がある。)が変化すること。
(3)上記の予め成形された成形品の残留成形収縮ひずみ分布の変化として、加熱されることによって所定の残留成形収縮ひずみが緩和されるアニーリングがあること。
(4)また、上記の予め成形された成形品の残留成形収縮ひずみ分布の変化の別の形態として、加熱されることによって所定の残留成形収縮ひずみが存在する箇所が、加熱により溶融することがあること。
(5)上記のように溶融した場合は、溶融状態から収縮が起こること。
(6)上記した予め成形された成形品の残留成形収縮ひずみが、アニーリングにより緩和される領域、および/または、溶融される領域に分割して、それぞれの収縮を考慮することが好ましいこと。
【0009】
以上の認識を元に、本発明者らは、以下の発明を完成させた。
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0010】
第1の本発明は、多色成形品のそり変形を解析するためのそり解析方法であって、多色成形解析用形状データ、物性データ、および、成形条件データを入力する工程(700、701、702)、該入力した各データに基づいて前記多色成形品の各部における充填工程および保圧冷却工程を解析する工程(703、709)、を備え、
前記多色成形品のうち、予め成形された成形品に残留する残留成形収縮ひずみ分布を算出してそり変形を解析する際に、該残留成形収縮ひずみ分布として、後から充填される溶融充填物によって加熱されることによって変化した残留成形収縮ひずみ分布を算出する(714a、714b、715)、そり解析方法である。
【0011】
第1の本発明において、前記加熱されることによって変化した残留成形収縮ひずみ分布として、残留成形収縮ひずみが加熱されることによって緩和されるアニーリング領域を算出し(714a)、初期の残留成形収縮ひずみで収縮する領域とアニーリングによって緩和された残留成形収縮ひずみで収縮する領域に分割して残留成形収縮ひずみ分布を算出する(715)ことが好ましい。
【0012】
第1の本発明において、前記加熱されることによって変化した残留成形収縮ひずみ分布として、加熱されることによって溶融される領域を算出し(714b)、初期の残留成形収縮ひずみで収縮する領域と溶融状態から収縮する領域に分割して残留成形収縮ひずみ分布を算出する(715)ことが好ましい。
【0013】
第1の本発明において、前記加熱されることによって変化した残留成形収縮ひずみ分布として、残留成形収縮ひずみが加熱されることによって緩和されるアニーリング領域を算出し(714a)、さらに、加熱されることによって溶融される領域を算出し(714b)、初期の残留成形収縮ひずみで収縮する領域、アニーリングによって緩和された残留成形収縮ひずみで収縮する領域、および、溶融状態から収縮する領域に分割して残留成形収縮ひずみ分布を算出する(715)ことが好ましい。
【0014】
第2の本発明は、多色成形品のそり変形を解析するためのそり解析装置であって、多色成形解析用形状データ(606)、物性データ(607)、および、成形条件データ(608)を入力する手段(604、601、602、605)、該入力した各データに基づいて前記多色成形品の各部における充填工程および保圧冷却工程を解析する手段(610、611、612a、612b)、を備え、前記多色成形品のうち、予め成形された成形品に残留する残留成形収縮ひずみ分布を算出してそり変形を解析する際に、該残留成形収縮ひずみ分布として、後から充填される溶融充填物によって加熱されることによって変化した残留成形収縮ひずみ分布を算出する(613a、613b、614)、そり解析装置である。
【0015】
第2の本発明において、前記加熱されることによって変化した残留成形収縮ひずみ分布として、残留成形収縮ひずみ分布が加熱されることによって緩和されるアニーリング領域を算出し(613a)、初期の残留成形収縮ひずみで収縮する領域とアニーリングによって緩和された残留成形収縮ひずみで収縮する領域に分割して残留成形収縮ひずみ分布を算出する(614)ことが好ましい。
【0016】
第2の本発明において、前記加熱されることによって変化した残留成形収縮ひずみ分布として、加熱されることによって溶融される領域を算出し(613b)、初期の残留成形収縮ひずみで収縮する領域と溶融状態から収縮する領域に分割して残留成形収縮ひずみ分布を算出する(614)ことが好ましい。
【0017】
第2の本発明において、前記加熱されることによって変化した残留成形収縮ひずみ分布として、残留成形収縮ひずみが加熱されることによって緩和されるアニーリング領域を算出し(613a)、さらに、加熱されることによって溶融される領域を算出し(613b)、初期の残留成形収縮ひずみで収縮する領域、アニーリングによって緩和された残留成形収縮ひずみで収縮する領域、および、溶融状態から収縮する領域に分割して残留成形収縮ひずみ分布を算出する(614)ことが好ましい。
【0018】
第3の本発明は、第1の本発明のそり解析方法を用いて多色成形品のそり変形を解析し、該解析の結果に基づいて、多色成形品形状、成形品材料、および、成形条件から選ばれる少なくとも一つを決定し(718)、該決定に基づいて多色成形品を製造する(719)、多色成形品の製造方法である。
【0019】
第4の本発明は、第1の本発明のそり解析方法の各工程(700〜717)をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0020】
第5の本発明は、第4の本発明のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。
【0021】
以下、上記の本発明における用語を定義する。
第1の本発明において、「多色成形品」とは、2台以上の成形機、または2本以上のシリンダーを有する専用の多色成形機と、金型の一部が回転する特殊な金型を用いて成形される、多色または多種類の樹脂からなる一体の樹脂成形品である。
【0022】
「多色成形解析用形状データ」とは、コンピュータを使用して有限要素法、境界要素法、有限体積法、有限差分法、FAN法などの解析に使用される節点(座標データ)、要素(細分化されたメッシュ)、要素プロパティ(要素の名前、グループ、要素タイプ、肉厚など)、材料プロパティ(密度、熱伝導率、比熱など)などで記述されているデータをいう。
【0023】
「物性データ」としては、成形品材料の物性データおよび金型の物性データが挙げられ、成形品材料の粘度、PVT特性データ、弾性率、ポアソン比、線膨張係数、熱伝導率、金型の弾性率、ポアソン比、線膨張係数、熱伝導率などの物理的な特性を示すデータをいう。
【0024】
「成形品材料」とは、射出成形に用いる高分子材料や金属材料のことを言い、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテルケトン(m−PPE)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリアクリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリルニトリルスチレン(AS)、マグネシウム合金(Mg合金)などが挙げられる。
【0025】
「成形条件データ」とは、射出成形の工程における設定温度、設定圧力、設定時間など、成形の設定条件をいう。
データを「入力する」とは、オペレーターがキーボード(601)やマウス(602)などによりデータをコンピュータの所定のメモリーにロードすること、またはファイル等のデータを補助記憶装置(604)から読み出したりしてコンピュータ(600)の所定のメモリーにロードすることをいう。
【0026】
「充填工程」を解析するとは、成形品材料の充填解析(704、710)、配向解析(706、712)のことをいう。
「保圧冷却工程」を解析するとは、保圧冷却解析(705、711)、型開き時の予め成形された成形品の温度分布・物性分布算出(707)、型開き中の予め成形された成形品の冷却解析(708)、多色成形品における各成形品の圧力・温度・残留成形収縮ひずみ分布算出(713)のことをいう。
【0027】
「残留成形収縮ひずみ」とは、射出成形後の成形品に加熱による溶融やアニーリングを行わない場合に、離型後に除荷した状態で所定時間放置した後に発生するひずみをいう。なお、「初期の残留成形収縮ひずみ」とは、溶融充填物が充填される直前における予め成形された成形品に残留する残留成形収縮ひずみのことをいう。また、予め成形された成形品が加熱されれば、アニーリングによって該残留成形収縮ひずみがある程度緩和される。
「残留成形収縮ひずみ分布」とは、上記残留成形収縮ひずみが、成形品におけるどの位置にどの程度存在するかについての三次元的な分布を示したデータである。
【0028】
「溶融充填物」とは、予め成形された成形品が1色目成形品だとすると、2色目となる溶融した成形品材料のことをいう。
【0029】
本発明において「アニーリング」とは、射出成形中に溶融した成形品材料が温調された金型によって冷却され、成形品内部に発生した残留成形収縮ひずみが加熱によって緩和することをいう。
【0030】
「溶融」とは、流動停止温度、結晶性樹脂であれば溶解温度以上の温度となり、成形品材料が溶融状態となることをいい、「溶融状態から収縮する」とは、成形品材料が溶融した状態から、新たな成形収縮が起こることをいう。
【0031】
第3の本発明において、「多色成形品形状」、「成形品材料」、「成形条件」とは、多色成形品を製造する際の製造条件であり、これらのうち少なくとも1つを、本発明のそり解析方法により得られた解析結果に基づいて決定する(718)ことにより、そり変形が低減された多色成形品を製造することができる。「多色成形品形状」を決定するとは、そり解析の結果に基づいて多色成形品の形状を決定して多色成形機の金型のキャビティを切削加工することをいう。また、「成形品材料」を決定するとは、多色成形機のホッパーに導入する材料を、そり解析の結果に基づいて調整することをいう。また、「成形条件」を決定するとは、そり解析の結果に基づいて多色成形機に成形条件を入力することをいう。