(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。液体吐出装置であるインクジェットヘッドの全体的な構成を
図1に示し、そのインクジェットヘッドのノズルプレートが外された状態を
図2に示す。
【0010】
圧電部材で形成された基台1の上面の一側縁に沿う領域に、板状の圧電部材2が埋設される。この圧電部材2の端面は、基台1の側面と同一面を成す。基台1の下面の一側縁に沿う領域にも、板状の圧電部材2が埋設される。この圧電部材2の端面は、基台1の側面と同一面を成す。
【0011】
これら圧電部材2の端面および基台1の側面に、絶縁性の部材で形成されたノズルプレート(オリフィスプレートともいう)3が配置される。ノズルプレート3は、基台1の上面側の圧電部材2に沿って配列されたインク吐出用(液体吐出用)の複数のノズル4を有するとともに、基台1の下面側の圧電部材2に沿って配列された同じくインク吐出用の複数のノズル4を有する。
【0012】
基台1の上面側の圧電部材2の端面と基台1の側面とが重なり合う部分に、かつ上記各ノズル4と対応する位置に、かつ各ノズル4と連通する状態に、複数の切り欠き11が形成される。これら切り欠き11から圧電部材2の上面にかけて溝状の圧力室12が形成される。これら圧力室12の相互間に存する圧電部材2および基台1により、分極方向が互いに対向する状態に且つ各圧力室12の並び方向と直交する方向に重なり合う一対の圧電素子(静電容量性負荷)が形成される。この一対の圧電素子により、各圧力室12にインク導入用(液体導入用)およびインク吐出用(液体吐出用)の圧力を加える静電容量性アクチュエータ13が構成される。これら静電容量性アクチュエータ13は、各圧力室12を隔てる壁となる。
【0013】
図3に示すように、各圧力室12の内周面、つまり各静電容量性アクチュエータ13の側面部および各圧力室12の底部に、各静電容量性アクチュエータ13に駆動電圧を印加するための電極14が装着される。そして、これら電極14と各圧力室12内のインク(液体)とが接するのを防ぐため、各電極14の表面が絶縁膜15によって被覆される。
基台1の下縁側にも、同様に、複数の圧力室12、複数の静電容量性アクチュエータ13、複数の電極14、および絶縁膜15が設けられる。
【0014】
基台1の上面側における圧電部材2の各圧力室12がカバー5で閉塞される。このカバー5上にインク流入口6が設けられ、このインク流入口6に流入するインク(液体)が上記各圧力室12に導かれる。各圧力室12内の電極14から複数の導電部材7が導出され、これら導電部材7が回路基板8に接続される。回路基板8には、各静電容量性アクチュエータ13への駆動電圧を出力する駆動回路9が搭載される。
【0015】
ノズルプレート3の周縁部に、保護用のマスクプレート10が装着される。このマスクプレート10は、金属製で、内側に開口10aを有する。
図1ではマスクプレート10がノズルプレート3から離れているが、実際には、ノズルプレート3にマスクプレート10が面接触する状態で装着される。このマスクプレート10にリード線(アース線)21の一端が接続され、そのリード線21の他端が回路基板8上のグラウンドライン(導電パターン)8aに接続される。
【0016】
各静電容量性アクチュエータ13は、それぞれ静電容量C01,C12,…を有する。以下、説明を分かり易くするため、静電容量C01を有する静電容量性アクチュエータ13のことをアクチュエータC01、静電容量C12を有する静電容量性アクチュエータ13のことをアクチュエータC12という。これらアクチュエータC01,C12,…が上記駆動回路9によって充放電駆動されることにより、アクチュエータC01,C12,…が
図3〜
図5に示す変形と復帰を繰返す。
【0017】
図3はアクチュエータC01,C12に駆動電圧が印加されず、圧力室12が変形しない定常状態を示している。圧力室12の両側に位置するアクチュエータC01,C12が互いに逆方向に充電されると、
図4に示すように、アクチュエータC01,C12が互いに離れる方向に変形する。この変形に伴い、圧力室12が拡大方向に変形し(液体導入用の変形)、圧力室12にインクが導入される。この後、アクチュエータC01,C12が放電され且つ反対の方向に充電されることにより、アクチュエータC01,C12が互いに近づく方向に変形する。これに伴い、圧力室12が縮小変形し(液体吐出用の変形)、圧力の高まりによって圧力室12内のインクがノズル4から吐出されるとともに、その吐出後の圧力室12内のインクの振動が抑制される(ダンピング)。そして、アクチュエータC01,C12が放電されることにより、アクチュエータC01,C12が
図3の定常状態に復帰する。
【0018】
上記駆動回路9の具体的な構成を
図6に示す。
直流電圧Vaaたとえば10Vを出力する直流電源(第1直流電源)31と、同じく直流電圧Vaaを出力する直流電源(第2直流電源)32とが、互いに直列接続される。この直流電源31,32の相互接続点が、グラウンド接続される。直流電源31,32の直列回路の出力電圧±Vaa(=2・Vaa)が後述のアクチュエータに対する駆動電圧となる。この駆動電圧±Vaaは、グラウンド電位を挟む正電位と負電位の振幅(可変幅)を有し、各種インクに対応できるよう±7V〜±18V程度の範囲で任意に選定される。
【0019】
直流電圧Vccを出力する直流電源(第3直流電源)33の負側がグラウンド接続される。この直流電圧Vccは、後述するP型MOSトランジスタP00,P01,P02,…のバックゲートに対するバイアス電圧、および後述するドライバ42やバッファ43,44に対する駆動電圧となる。この直流電源Vccの値として、例えば直流電圧Vaaより高い値が選定される。上記のように、駆動電圧±Vaaが±7V〜±18V程度の可変幅で選定されるので、それに電極電位のオーバーシュートによるラッチアップの回避を見込んだ例えば24Vが適切値として選定される。
【0020】
直流電源31の正側(+Vaa)とグラウンド(±0)との間に、第1半導体素子たとえばP型MOSトランジスタP00のソース・ドレイン間と第2半導体素子たとえばN型MOSトランジスタN10のドレイン・ソース間との直列回路が接続される。このP型MOSトランジスタP00およびN型MOSトランジスタN10の相互接続点と直流電源32の負側(-Vaa)との間に、第3半導体素子たとえばN型MOSトランジスタN20のドレイン・ソース間が接続される。
【0021】
P型MOSトランジスタP00のバックゲートは、直流電源33の正側(+Vcc)に接続される。N型MOSトランジスタN10,N20のそれぞれバックゲートは、直流電源32の負側(−Vaa)に接続される。P型MOSトランジスタP00およびN型MOSトランジスタN10の相互接続点が出力端子Out0となる。この出力端子Out0がアクチュエータC01の一端に接続される。
【0022】
これらP型MOSトランジスタP00およびN型MOSトランジスタN10,N20により、アクチュエータC01の一端に対する充放電用の通電路を選択的に形成するスイッチ回路が構成される。P型MOSトランジスタP00がオンしてN型MOSトランジスタN10,N20がオフすると、アクチュエータC01の一端が+Vaa電位となる。P型MOSトランジスタP00およびN型MOSトランジスタN20がオフしてN型MOSトランジスタN10がオンすると、アクチュエータC01の一端がグラウンド電位(零)となる。P型MOSトランジスタP00およびN型MOSトランジスタN10がオフしてN型MOSトランジスタN20がオンすると、アクチュエータC01の一端が−Vaa電位となる。
【0023】
直流電源31の正側(+Vaa)とグラウンド(±0)との間に、第4半導体素子たとえばP型MOSトランジスタP01のソース・ドレイン間と第5半導体素子たとえばN型MOSトランジスタN11のドレイン・ソース間との直列回路が接続される。このP型MOSトランジスタP01およびN型MOSトランジスタN11の相互接続点と直流電源32の負側(-Vaa)との間に、第6半導体素子たとえばN型MOSトランジスタN21のドレイン・ソース間が接続される。
【0024】
P型MOSトランジスタP01のバックゲートは、直流電源33の正側(+Vcc)に接続される。N型MOSトランジスタN11,N21のそれぞれバックゲートは、直流電源32の負側(−Vaa)に接続される。P型MOSトランジスタP01およびN型MOSトランジスタN11の相互接続点が出力端子Out1となる。この出力端子Out1がアクチュエータC01の他端に接続される。
【0025】
これらP型MOSトランジスタP01およびN型MOSトランジスタN11,N21により、アクチュエータC01の他端に対する充放電用の通電路を選択的に形成するスイッチ回路が構成される。P型MOSトランジスタP01がオンしてN型MOSトランジスタN11,N21がオフすると、アクチュエータC01の他端が+Vaa電位となる。P型MOSトランジスタP01およびN型MOSトランジスタN21がオフしてN型MOSトランジスタN11がオンすると、アクチュエータC01の他端がグラウンド電位となる。P型MOSトランジスタP01およびN型MOSトランジスタN11がオフしてN型MOSトランジスタN21がオンすると、アクチュエータC01の他端が−Vaa電位となる。
【0026】
なお、P型MOSトランジスタP01は、隣りのアクチュエータC12に対する第1半導体素子としても機能する。N型MOSトランジスタN11,N21は、隣りのアクチュエータC12に対する第2半導体素子および第3半導体素子としても機能する。すなわち、P型MOSトランジスタP01およびN型MOSトランジスタN11,N21により構成されるスイッチ回路は、隣りのアクチュエータC12の一端に対する充放電用の通電路を選択的に形成するスイッチ回路としても機能する。
【0027】
直流電源31の正側(+Vaa)とグラウンド(±0)との間に、第4半導体素子たとえばP型MOSトランジスタP02のソース・ドレイン間と第5半導体素子たとえばN型MOSトランジスタN12のドレイン・ソース間との直列回路が接続される。このP型MOSトランジスタP02およびN型MOSトランジスタN12の相互接続点と直流電源31の負側(−Vaa)との間に、第6半導体素子たとえばN型MOSトランジスタN22のドレイン・ソース間が接続される。
【0028】
P型MOSトランジスタP02のバックゲートは、直流電源33の正側(+Vcc)に接続される。N型MOSトランジスタN12,N22のそれぞれバックゲートは、直流電源32の負側(−Vaa)に接続される。P型MOSトランジスタP02およびN型MOSトランジスタN12の相互接続点が出力端子Out2となる。この出力端子Out2がアクチュエータC12の他端に接続される。
【0029】
これらP型MOSトランジスタP02およびN型MOSトランジスタN12,N22により、アクチュエータC12の他端に対する充放電用の通電路を選択的に形成するスイッチ回路が構成される。
【0030】
なお、P型MOSトランジスタP02は、隣りのアクチュエータC23に対する第1半導体素子としても機能する。N型MOSトランジスタN12,N22は、隣りのアクチュエータC23に対する第2半導体素子および第3半導体素子としても機能する。すなわち、P型MOSトランジスタP02およびN型MOSトランジスタN12,N22により構成されるスイッチ回路は、隣りのアクチュエータC23の一端に対する充放電用の通電路を選択的に形成するスイッチ回路としても機能する。
残りのアクチュエータに対しても同様のスイッチ回路が構成される。
【0031】
一方、40は主制御部で、上記各スイッチ回路に共通の制御信号WVA,WVBを出力するとともに、各スイッチ回路に個別の制御信号EN1,EN2,EN3,…を出力する。これら駆動制御信号が各スイッチ回路に対応する複数のロジック制御回路41に供給される。主制御部40および各ロジック制御回路41は、直流電圧Vddにより動作する。
【0032】
各ロジック制御回路41のうち、上記MOSトランジスタP00,N10,N20のスイッチ回路に対応するロジック制御回路41は、制御信号WVA,WVB,EN1に応じて上記MOSトランジスタP00,N10,N20をオン,オフ駆動するための駆動制御信号DR1[0],DR1[1],DR1[2]を出力する。上記MOSトランジスタP01,N11,N21のスイッチ回路に対応するロジック制御回路41も、同様の構成により、駆動制御信号DR2[0],DR2[1],DR2[2]を出力する。上記MOSトランジスタP02,N12,N22のスイッチ回路に対応するロジック制御回路41も、同様の構成により、駆動制御信号DR3[0],DR3[1],DR3[2]を出力する。
【0033】
出力される駆動制御信号は、それぞれドライバ42およびバッファ43,44を介して、各MOSトランジスタのゲートに対するドライブ信号となる。
【0034】
この駆動回路9の動作を
図6および
図7〜
図9に示す。また、駆動回路9における各部の電圧波形をステップST0〜ST3として
図10に示す。全てのアクチュエータに対する動作を説明すると長くなるので、アクチュエータC01,C12の駆動を主として説明する。
【0035】
まず、ステップST0では、
図6のように、MOSトランジスタN10,N11,N12がオンし、グラウンドを通してアクチュエータC01,C12に対する閉回路(放電路)が形成される。出力端子Out0,Out1,Out2は、グラウンド電位となる。このとき、アクチュエータC01,C12は、
図3に示す定常状態である。
【0036】
ステップST1では、
図7に示すように、MOSトランジスタP00,P02,N21がオンする。これにより、アクチュエータC01,C12にそれぞれ電圧2・Vaaが充電される。この充電により、
図4のように、圧力室12が拡大方向に変形し、圧力室12にインクが導入される。
【0037】
ステップST2では、
図8に示すように、MOSトランジスタP01,N20,N22がオンする。これにより、アクチュエータC01,C12の充電電圧が直流電源31,32を通して放電し、その放電の後でアクチュエータC01,C12にそれぞれ電圧2・Vaaが充電される。この放電および充電により、
図4のように、圧力室12が縮小方向に変形し、その際の圧力上昇により圧力室12内のインクがノズル4から吐出されるとともに、その吐出後の圧力室12内のインクの振動が抑制される(ダンピング)。
【0038】
ステップST3では、
図9に示すように、ステップST0と同じくMOSトランジスタN10,N11,N12がオンする。これにより、アクチュエータC01,C12が放電し、アクチュエータC01,C12が
図3に示す定常状態へと復帰する。
【0039】
アクチュエータC01,C12に対する充放電用の駆動電圧は、
図10に示すように、圧力室12にインク導入用の変形を加えるための負電位(第1電位)、圧力室12にインク吐出用(および振動抑制用)の変形を加えるための正電位(第2電位)が1周期内に含まれる波形を有する。
【0040】
主制御部40は、外部から入力されるモード設定信号に応じて、駆動電圧の負電位の期間T1および正電位の期間T2を複数のパターンに切換える機能を有する。
上記モード設定信号は、ノズル4からの液体吐出を受ける側の印字媒体が厚みのない用紙で、ノズル4と印字媒体との間の距離が所定値未満たとえば1mm未満に設定される場合に、印字モードAを設定する。また、モード設定信号は、印字媒体が厚みのない用紙および厚みのある封筒の両方で、ノズル4と印字媒体との間の距離が所定値未満たとえば1mm以上に設定される場合に、印字モードBを設定する。
【0041】
そして、主制御部40は、印字モードAの設定時、駆動電圧の負電位の期間T1および正電位の期間T3を、
図11に示す波形の第1パターンに切換える。この第1パターンは、周期Tにおける期間T1,T2に関し、“T=T1+T2”かつ“T1<T2”の条件を有する。なお、この条件を満たす期間T1,T2の最適な値として、T1=T/3、T2=2・(T/3)が選定される。
【0042】
また、主制御部40は、印字モードBの設定時、駆動電圧の負電位の期間T1および正電位の期間T2を、
図12に示す波形の第2パターンに切換える。この第2パターンは、周期Tにおける期間T1,T2に関し、“T=T1+T2”かつ“T1≪T2”の条件を有する。なお、この条件を満たす期間T1,T2の最適値として、“T1=第1パターンのT1”かつ“T2=(3.6〜4.2)・T1”が選定される。
【0043】
期間T1は固定で期間T2が少しずつ異なる駆動電圧をアクチュエータC01,C12に印加し、サテライトなしが保たれる駆動電圧の最大限界値(以下、サテライトフリー電圧という)がどのようになるかを実験により確かめた結果が
図13のデータである。実験項目として、単独のノズル4からインク滴を吐出する単ノズル駆動パターン、複数のノズル4から同時にインク滴を吐出する複ノズル駆動パターン、複数のノズル4から順次にインク滴を吐出する複ノズル連続駆動パターンを用意し、これら駆動パターンごとにサテライトフリー電圧を求めている。印字モードAが設定された場合の第1パターンの駆動電圧に関するデータを最上段に示し、印字モードBが設定された場合の第2パターンの駆動電圧に関するデータを2段目以降に示している。
【0044】
すなわち、T1=2.30μs、T2=4.60μsの第1パターンの駆動電圧を印加する際のサテライトフリー電圧は、単ノズル駆動パターンでは15.3V、複ノズル同時駆動パターンでは15.8V、複ノズル連続駆動パターンでは15.9Vとなる。最も低いサテライトフリー電圧は15.3Vである。第1パターンの駆動電圧については、このサテライトフリー電圧15.3V以下に抑えることにより、どの駆動パターンにおいてもサテライトが発生しない。
【0045】
T1=2.30μs、T2=5.00μsの第2パターンの駆動電圧を印加する際のサテライトフリー電圧は、単ノズル駆動パターンでは15.5V、複ノズル同時駆動パターンでは16.2V、複ノズル連続駆動パターンでは16.0Vとなる。T1=2.30μs、T2=5.40μsの第2パターンの駆動電圧を印加する際のサテライトフリー電圧は、単ノズル駆動パターンでは16.1V、複ノズル同時駆動パターンでは16.5V、複ノズル連続駆動パターンでは16.4Vとなる。残りのデータの説明は省略する。これらサテライトフリー電圧のうち、最も低いのは15.5Vである。第2パターンの駆動電圧については、このサテライトフリー電圧15.5V以下に抑えることにより、どの駆動パターンにおいてもサテライトが発生しない。
【0046】
第1パターンおよび第2パターンにかかわらず最も低いサテライトフリー電圧は15.5Vであり、駆動電圧をこの15.5Vに設定した場合のインク吐出速度(以下、サテライトフリー速度という)が期間T1,T2に応じてどのように変わるかを実験により確かめた結果が
図14のデータである。すなわち、第1パターンの駆動電圧を印加する場合のインク吐出速度(m/s)と第2パターンの駆動電圧を印加する場合のインク吐出速度(m/s)とを比較すると、どの駆動パターンにおいても、第2パターンの駆動電圧を印加する場合のインク吐出速度(m/s)の方が高い。
【0047】
また、期間T1は固定で期間T2が少しずつ異なる駆動電圧をアクチュエータC01,C12に印加し、ノズル4から吐出されるインク滴の安定(吐出安定)が保たれる駆動電圧の最大限界値(以下、吐出安定限界電圧という)がどのようになるかを実験により確かめた結果が
図15のデータである。
図13と同じく、印字モードAが設定された場合の第1パターンの駆動電圧に関するデータを最上段に示し、印字モードBが設定された場合の第2パターンの駆動電圧に関するデータを2段目以降に示している。
【0048】
ノズル4のメニスカスは、駆動電圧を上げていくのに伴い、動きが大きくなっていく。この動きが大きくなり過ぎると、安定したインク吐出が困難となる。吐出安定限界電圧とは、ノズル4のメニスカスの動きが大きくなり過ぎずに安定したインク吐出が可能な上限値のことである。
【0049】
T1=2.30μs、T2=4.60μsの第1パターンの駆動電圧を印加する際の吐出安定限界電圧は、単ノズル駆動パターンでは28.2V、複ノズル同時駆動パターンでは26.2V、複ノズル連続駆動パターンでは24.4Vとなる。最も低い吐出安定限界電圧は24.4Vである。第1パターンの駆動電圧については、この吐出安定限界電圧24.4V以下に抑えることにより、どの駆動パターンにおいてもインク滴の吐出が安定する。
【0050】
T1=2.30μs、T2=5.00μsの第2パターンの駆動電圧を印加する際の吐出安定限界電圧は、単ノズル駆動パターンでは24.0V、複ノズル同時駆動パターンでは23.8V、複ノズル連続駆動パターンでは23.1Vとなる。T1=2.30μs、T2=5.40μsの第2パターンの駆動電圧を印加する際のサテライトフリー電圧は、単ノズル駆動パターンでは24.2V、複ノズル同時駆動パターンでは20.0V、複ノズル連続駆動パターンでは19.7Vとなる。残りのデータの説明は省略する。これら吐出安定限界電圧のうち、最も低いのは16.9Vである。第2パターンの駆動電圧については、この吐出安定限界電圧16.9V以下に抑えることにより、どの駆動パターンにおいてもインク滴の吐出が安定する。
【0051】
図13のサテライトフリー電圧、
図14のサテライトフリー速度、
図15の吐出安定限界電圧のうち、複ノズル連続駆動パターンにおけるデータを、期間T1,T2の比(=T2/T1)をパラメータとしてグラフにプロットしたのが
図16である。
【0052】
印字モードAにおいて印加する第1パターンの駆動電圧(T2/T1=2.0)に関しては、サテライトフリー速度は低くなるが、吐出安定限界電圧は大きくなる。この第1パターンの駆動電圧をサテライトフリー電圧より高い例えば17.0Vに設定すると、サテライトフリー速度が上がってサテライトが発生するが、ノズル4と印字媒体との距離が小さいので、インクのメイン液滴とサテライトの液滴が離れて飛翔していても、インクの着弾ずれはほとんど起こらず、印字品質の低下は生じない。吐出安定限界電圧とのマージンも十分に大きくとれるので、吐出安定性も良い。
【0053】
印字モードBにおいて印加する第2パターンの駆動電圧に関しては、期間T1,T2の最適値である“T1=第1パターンのT1”かつ“T2=(3.6〜4.2)・T1”の条件(
図16の2本の一点鎖線で囲まれる領域)を満たしながらサテライトフリー電圧16.2Vに設定することにより、たとえノズル4と印字媒体との間の距離が大きめであってもサテライトは発生せず、インク吐出速度も約7.5m/sに高めることができ、ひいてはインクの着弾ずれによる印字むらやゴースト等を防いで、良好な印字品質(液体吐出品質)を確保できる。吐出安定限界電圧とのマージンも十分に大きくとれるので、吐出安定性も良い。しかも、サテライトが発生しないので、印字媒体の搬送速度を下げてインクの着弾ずれを小さくするといった対策も不要となり、よって印字速度の低下を回避できる。
【0054】
なお、上記実施形態では、複数の半導体素子としてMOSトランジスタを用いたが、同様の機能を有するものであれば、MOSトランジスタに限らず他の素子を用いてもよい。
【0055】
その他、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。この実施形態は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、出願当初の特許請求の範囲の記載を付記する。
[1]
液体を吐出するノズルと、
このノズルに連通する圧力室と、
充放電により動作し前記圧力室に液体導入用の変形および液体吐出用の変形を加えるアクチュエータと、
前記液体導入用の変形を加えるための第1電位および前記液体吐出用の変形を加えるための第2電位が1周期内に含まれる波形の電圧を前記アクチュエータに対する充放電用の駆動電圧として出力する駆動回路と、
前記駆動回路から出力される駆動電圧の第1電位の期間および第2電位の期間を、前記ノズルとそのノズルからの液体吐出を受ける媒体との間の距離に応じて複数のパターンに切換える制御手段と、
を備えることを特徴とする液体吐出装置。
[2]
前記制御手段は、前記駆動回路から出力される駆動電圧の第1電位の期間および第2電位の期間を、前記ノズルとそのノズルからの液体吐出を受ける媒体との間の距離が所定値未満の場合に第1パターンに切換え所定値以上の場合に第2パターンに切換える、
ことを特徴とする[1]に記載の液体吐出装置。
[3]
前記第1パターンは、周期Tにおける第1電位の期間T1および第2電位の期間T2に関し“T=T1+T2”かつ“T1<T2”の条件を有し、
前記第2パターンは、周期Tにおける第1電位の期間T1および第2電位の期間T2に関し“T=T1+T2”かつ“T1≪T2”の関係を有する、
ことを特徴とする[2]に記載の液体吐出装置。
[4]
前記第1パターンは、周期Tにおける第1電位の期間T1および第2電位の期間T2に関し“T=T1+T2”“T1=T/3”かつ“T2=2・T1”の条件を有し、
前記第2パターンは、周期Tにおける第1電位の期間T1および第2電位の期間T2に関し“T=T1+T2”“T1=第1パターンのT1”かつ“T2=(3.6〜4.2)・T1”の条件を有する、
ことを特徴とする[2]に記載の液体吐出装置。
[5]
前記第1電位は負電位、前記第2電位は正電位である、
ことを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の液体吐出装置。
[6]
前記圧力室は、前記アクチュエータを挟んで並ぶ複数の圧力室であり、
前記アクチュエータは、分極方向が互いに対向する状態に且つ前記各圧力室の並び方向と直交する方向に重なり合う一対の圧電素子であり、前記各圧力室を隔てる、
ことを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の液体吐出装置。
[7]
液体吐出用のノズルと、
このノズルと連通する圧力室と、
充放電により動作し前記圧力室に液体導入用の変形、液体吐出用の変形、液体振動抑制用の変形を加えるアクチュエータと、
前記液体導入用の変形を加えるための第1電位および前記液体吐出用の変形を加えるための第2電位が1周期内に含まれる波形の電圧を前記アクチュエータに対する充放電用の駆動電圧として出力する駆動回路と、
を備えた液体吐出装置において、
前記駆動回路から出力される駆動電圧の第1電位の期間および第2電位の期間を、前記ノズルとそのノズルからの液体吐出を受ける媒体との間の距離に応じて複数のパターンに切換える、
ことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。