(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は通常、Li
xCを含有する負極、金属酸化物又は金属リン酸塩を含有する正極、負極と正極を分離するためのポリマーセパレータ、及びリチウム塩を含有する有機電解質溶液を含む。従来の正極材料には、Li
xMO
2(M=Co又はNi)の層状酸化物、スピネル構造のLi
xMn
2O
4又はオリビン構造のLi
xFePO
xが含まれる。しかし、Li
xMO
2の層状酸化物の場合、正極材料の構造安定性を鑑みると、xは0.5以上が必要であり、Li
xMO
2の層状酸化物の比容量(specific capacity)は通常140mAh/gより小さい。
【0003】
米国特許出願公開第2008/0280205号に相当する国際公開第2008/137241A2号には、リチウムイオン電池用の層構造正極組成物が開示されている。該正極組成物は、式Li[Li
xMn
aNi
bCo
cM
1dM
2e]O
2を有し、式中、M
1及びM
2は異なる金属であり、Mn、Ni又はCoではなく、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2、0≦a≦0.80、0≦b≦0.75、0≦c≦0.88、0≦d+e≦0.30であり、d及びeの少なくとも一方は0より大きい。該正極組成物は空間群R−3mを有し、また、層状のO
3結晶構造を有する単一相の形態をしている。該正極組成物は、安定な層間構造を有し、該層構造正極組成物に対するリチウムイオンの出入り移動のために、崩壊する傾向はない。したがって、構造安定性及び比容量を向上させることができる。しかし、該層構造正極組成物の比容量は、通常180mAh/gを超えない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記のように、本発明のリチウムイオン電池用のC2/m構造の正極材料は、次式によって表されるリチウム遷移金属酸化物
Li(Li
wNi
xCo
yMn
z)O
2
(式中、
w+x+y+z=1であり、
0.42≦z≦0.60、好ましくは0.48≦z≦0.60、より好ましくは0.48≦z≦0.54であり、
0.30≦x+y≦0.55であり、
w、x及びyのいずれも0より大きく、好ましくは0.02≦w≦0.20、0.26≦x≦0.44及び0.02≦y≦0.12、より好ましくは0.02≦w≦0.14である)
を含み、且つ
該正極材料は空間群C2/mの単一相構造を有する。
【0011】
Zが0.42以下の場合、格子はO
3構造をとることができる。Zが0.60より大きい場合、空間群C2/mの単一相構造を維持し得ない。x+y<0.30又はx+y>0.55の場合、空間群C2/mの単一相構造を維持し得ない。
【0012】
本発明の正極材料中の酸素原子層の配置は、以下に示される形態のように、空間群C2/mの単一相構造を介して、「ABAB」の形態となるように制御され得る。C2/m構造の正極材料における構造安定性及び酸素原子層の安定性に悪影響を及ぼすことなく、充電/放電期間に、格子中のリチウムイオンを実質的に完全に放出することができる。したがって、酸素原子層間でのリチウムイオンの移動性を向上させることができる。
【化1】
【0013】
図1を参照すると、本発明によるリチウムイオン電池用のC2/m構造の正極材料を製造する方法は、以下のステップを含む。
A)金属塩混合物の溶液を調製するステップ:
硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2)、硝酸コバルト(Co(NO
3)
2)及び硝酸マンガン(Mn(NO
3)
2)を水中で混合して、金属硝酸塩混合物の溶液を調製する。
B)沈殿ステップ:
該金属硝酸塩混合物の溶液をアルカリ性水酸化物溶液に滴下して加えて、沈殿前駆体を形成する。
C)乾燥ステップ:
該沈殿前駆体を乾燥する。好ましくは、該沈殿前駆体を水で5回から6回洗浄し、次にろ過した後、乾燥する。
D)金属酸化物混合物を調製するステップ:
該乾燥前駆体を炭酸リチウム(Li
2CO
3)と混合して、金属酸化物混合物を形成する。
E)焼成ステップ:
該金属酸化物混合物を800℃から950℃の温度で焼成して、空間群C2/mの単一相構造を有する、本発明の正極材料を得る。
【0014】
本発明のC2/m構造の正極材料は、他の適切な方法を用いて製造することができる。例えば、ニッケル、マンガン、コバルト及び/又はリチウムを含有する金属酸化物、金属水酸化物、及び/又は金属炭酸塩を所定の比で混合して混合物を調製し、次にこれを焼成(固体状態の焼成によって)して、空間群C2/mの単一相構造を有する、本発明の正極材料を製造する。別法として、ニッケル、マンガン、コバルト及びリチウムを含有する金属クエン酸塩をゾル−ゲル法又は水熱法で混合して前駆体を調製し、次に、これを焼成して本発明の正極材料を製造する。
【0015】
本発明のリチウムイオン電池は、負極、正極、電解質、及び負極と正極を分離するセパレータを含む。正極は、次式によって表されるリチウム遷移金属酸化物
Li(Li
wNi
xCo
yMn
z)O
2
(w+x+y+z=1であり、
0.42≦z≦0.60、好ましくは0.48≦z≦0.60、より好ましくは0.48≦z≦0.54であり、
0.30≦x+y≦0.55であり、
w、x及びyのいずれも0より大きく、好ましくは0.02≦w≦0.20、0.26≦x≦0.44及び0.02≦y≦0.12、より好ましくは0.02≦w≦0.14である)
を含むC2/m構造の正極材料を含有し、
該正極材料は、空間群C2/mの単一相構造を有する。
【0016】
空間群C2/mの単一相構造を有する正極材料を用いると、格子中のリチウムイオンは、実質的に完全に放出することができ、且つ負極及び正極間を安定に移動できる。したがって、従来技術より優れた比容量を得ることができる。
【0017】
負極用の適切な材料の例は、リチウム金属、炭化リチウム(Li
xC)、リチウム−シリコン合金(Li
xSi)、チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、酸化タングステン(WO
2)、酸化ケイ素(SiO
x)、酸化スズ(SnOx)及びそれらの組合せを含むが、これらには限定されない。電解質用材料は、固体状態、液体状態、ゲル状態、又はそれらの組合せの形態とすることができる。固体状態の電解質用材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと呼ぶ)、フッ素含有コポリマーポリアクリロニトリル及びそれらの組合せを含むが、これらには限定されない。液体状態の電解質用材料の例は、エチレンカーボネート(以下、ECと呼ぶ)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(以下、DECと呼ぶ)、エチル−メチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジフルオロ酢酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テトラヒドロフラン ジオキソラン、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)及びそれらの組合せを含むが、これらには限定されない。ゲル状態の電解質用材料の例は、米国特許第6,387,570号に開示されたコポリマーゲル、及び米国特許第6,780,544号に開示されたターポリマーゲルを含むが、これらには限定されない。
【0018】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を例示するために提供されるが、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0019】
リチウムイオン電池用の正極材料の調製
(例1−1)
硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2・6H
2O、109.268g)、硝酸コバルト(Co(NO
3)
2・6H
2O、25.119g)及び硝酸マンガン(Mn(NO
3)
2・5H
2O、199.058g)を、0.370:0.087:0.543のモル比で水中で混合して、金属硝酸塩混合物の溶液を調製した。該金属硝酸塩混合物溶液を水酸化ナトリウム溶液(2.5M)にゆっくり滴下して加えて、沈殿前駆体を形成した((Ni
0.370Co
0.087Mn
0.543(OH)
2)。
【0020】
前駆体を水で5回から6回洗浄し、ろ過及び乾燥することにより精製して、精製固体前駆体を得た。精製前駆体(83.419g)と炭酸リチウム(40.141g)を0.92:0.54のモル比で混合して金属酸化物混合物を得て、次にこれを900℃の温度で10時間焼成して、Li(Li
0.08Ni
0.34Co
0.08Mn
0.50)O
2の正極材料を得た。正極材料の配合を表1及び2にまとめる。
【0021】
(例1−2)
以下を除き、例1−1と同一の方法に従って正極材料を作製した。硝酸ニッケル(129.355g)、硝酸コバルト(12.036g)及び硝酸マンガン(190.764g)を、0.438:0.042:0.521のモル比で水中で混合した。こうして形成した前駆体は、Ni
0.438Co
0.042Mn
0.521(OH)
2である。精製前駆体(87.117g)と炭酸リチウム(38.655g)を0.96:0.52のモル比で混合した。得られた正極材料はLi(Li
0.04Ni
0.42Co
0.04Mn
0.50)O
2である。正極材料の配合を表1及び2にまとめる。
【0022】
(例1−3)
以下を除き、例1−1と同一の方法に従って正極材料を作製した。硝酸ニッケル(119.525g)、硝酸コバルト(18.439g)及び硝酸マンガン(194.823g)を、0.404:0.064:0.532のモル比で水中で混合した。こうして形成した前駆体は、Ni
0.404Co
0.064Mn
0.532(OH)
2である。精製前駆体(85.268g)と炭酸リチウム(39.398g)を0.94:0.53のモル比で混合した。得られた正極材料はLi(Li
0.06Ni
0.38Co
0.06Mn
0.50)O
2である。正極材料の配合を表1及び2にまとめる。
【0023】
(例1−4)
以下を除き、例1−1と同一の方法に従って正極材料を作製した。硝酸ニッケル(98.556g)、硝酸コバルト(32.097g)及び硝酸マンガン(203.481g)を、0.333:0.111:0.556のモル比で水中で混合した。こうして形成した前駆体は、Ni
0.333Co
0.111Mn
0.556(OH)
2である。精製前駆体(81.570g)と炭酸リチウム(40.885g)を0.90:0.55のモル比で混合した。得られた正極材料はLi(Li
0.10Ni
0.30Co
0.10Mn
0.50)O
2である。正極材料の配合を表1及び2にまとめる。
【0024】
(例1−5)
以下を除き、例1−1と同一の方法に従って正極材料を作製した。硝酸ニッケル(94.076g)、硝酸コバルト(26.261g)及び硝酸マンガン(216.430g)を、0.318:0.091:0.591のモル比で水中で混合した。こうして形成した前駆体は、Ni
0.318Co
0.091Mn
0.591(OH)
2である。精製前駆体(79.636g)と炭酸リチウム(41.628g)を0.88:0.56のモル比で混合した。得られた正極材料はLi(Li
0.12Ni
0.28Co
0.08Mn
0.52)O
2である。正極材料の配合を表1及び2にまとめる。
【表1】
【表2】
【0025】
リチウムイオン電池の製造
(例2−1)
ポリ二フッ化ビニリデン(PVDE)、スーパーPカーボンブラック及び例1−1の正極材料を、撹拌しながらN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に順次添加して均一なスラリーを形成した。本実施例に使用したNMPは、PVDF、スーパーPカーボンブラック及び正極材料の総重量と等重量であった。次に、スラリーを0.2mmのドクターブレードを使用して高純度のアルミニウム箔上に塗布した。次に、塗布した電極を120℃に設定した真空オーブン中で1時間乾燥し、次にローラーを使用して圧縮することにより正極を得た。
【0026】
高純度のリチウム金属を負極として使用した。電解質溶液は、モル比1:1のEC及びDECの混合物に溶解したヘキサフルオロリン酸リチウム溶液(1M)から構成されるTinci TC−1216であった。本実施例で使用したセパレータは、2層のPE(Celgard 2320)であった。
【0027】
(例2−2から2−5)
例2−2から2−5の正極を作製するために、例1−2から1−5で得られた正極材料をそれぞれ使用したこと以外、例2−1と同一の方法に従って、例2−2から2−5のリチウムイオン電池を作製した。
【0028】
(比較例)
正極を作製するための正極材料として、Li
1.05Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2(NM−3100、日本)を使用したこと以外、例2−1と同一の方法に従って、リチウムイオン電池を作製した。比較例で使用した正極材料は、空間群R−3mの単一相構造を有する。
【0029】
解析:
(1)シンクロトロン放射光X線回折の解析:
図2は例1−1において製造した正極材料を撮影した走査型電子顕微鏡画像を示す。
【0030】
図3を参照すると、シンクロトロン放射光X線回折から得られた例1−1の正極材料のスペクトルを曲線(a)で示しており、また、リートベルト計算法(The Rietveld Method、R.A.Young編集、Oxford University Press)から得られた例1−1の正極材料の適合曲線を曲線(b)で示している。曲線(a)は曲線(b)と実質的に一致する(Rwp%=9.8%)。例1−1の正極材料の算出格子パラメータは、a=4.9997Å、b=2.8602Å、c=5.8086Å、α=γ=90.000、β=125.0179である。したがって、例1−1で製造した正極材料は、空間群C2/mの単一相構造を有することが確認される。
【0031】
(2)粉末X線回折スペクトルの解析:
図4を参照すると、例1−1から1−5で製造した正極材料の粉末X線回折スペクトルが得られ、それぞれ曲線(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)で示す。この図で示されるように、30°から40°の範囲の回折角の特徴領域(fingerprint area)では、曲線(b)、(c)、(d)及び(e)は、曲線(a)と実質的に同じ回折ピーク分離を有する。したがって、例1−2から1−5で製造した正極材料も、空間群C2/mの単一相構造を有することが確認できる。
【0032】
例2−1及び比較例で製造したリチウムイオン電池の充電/放電曲線を、0.2Cの充電/放電レートを用いて記録した。0.2Cの充電/放電レートとは、電池セルを5時間で完全に充電/放電できることを意味する。
【0033】
図5を参照すると、比較例のリチウムイオン電池の第1の充電/放電曲線を、曲線(a1)で示し、比較例のリチウムイオン電池の第2の充電/放電曲線を曲線(a2)で示し、例2−1のリチウムイオン電池の第1の充電/放電曲線を、曲線(b1)で示し、例2−1のリチウムイオン電池の第2の充電/放電曲線を曲線(b2)で示す。この図で示されるように、比較例のリチウムイオン電池の第1及び第2の放電曲線と比較すると、例2−1のリチウムイオン電池の第1及び第2の放電曲線は、曲線の下側の端部分で互いに実質的に重なっており、これは例2−1のリチウムイオン電池の放電の再現性が、比較例のリチウムイオン電池の放電の再現性より優れていることを意味する。更に比較例のリチウムイオン電池の放電比容量は約150mAh/gであり、例2−1のリチウムイオン電池の放電比容量は200mAh/gを超える。したがって、例2−1のリチウムイオン電池の比容量が、比較例のリチウムイオン電池の比容量よりも向上している。
【0034】
例2−2、2−3、2−4及び2−5でそれぞれ作製したリチウムイオン電池の充電/放電曲線を図示した
図6、7、8及び9を参照すると、例2−2、2−3、2−4及び2−5で作製したリチウムイオン電池の放電比容量は、それぞれ196.7mAh/g、193.3mAh/g、193.2mAh/g及び204.4mAh/gである。
【0035】
例2−1、2−2、2−3、2−4及び2−5で作製したリチウムイオン電池の中で、例1−1で製造した正極材料(すなわちLi(Li
0.08Ni
0.34Co
0.08Mn
0.50)O
2)を含有している、例2−1で作製したリチウムイオン電池が比容量の点で最良の効率を有する。
【0036】
前述を鑑みると、本発明の正極材料、及びそれを含有するリチウムイオン電池は、以下の利点を有する。
(1)本発明の正極材料中の酸素原子層の配置は、空間群C2/mの単一相構造を介して、「ABAB」の形態になるように制御され得る。正極材料の容量に悪影響を及ぼすことなく、充電/放電期間に、格子中のリチウムイオンの約70%から90%を放出することができる。したがって、酸素原子層間でのリチウムイオンの移動性を向上させることができる。
(2)該正極材料を用いると、格子中のリチウムイオンの約70%から90%は、放出することができ、負極及び正極間を安定に移動できる。したがって、従来技術より優れた比容量を得ることができる。
【0037】
本発明は、最も実用的で好ましい実施形態と考えられるものに関連して記載されているが、本発明は、開示された実施形態に限定されず、このような改変及び等価な構成物のすべてを包含するように、最も広い解釈の趣旨及び範囲内に含まれる種々の構成に及ぶことを意図していることが理解される。